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両親由来のゲノム配列を個別に決定する新手法 ゲノム多様化領域に起因した生命現象の解明へ

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要点

  • 両親由来のゲノム配列を高精度にかつ個別に決定する情報解析手法
  • 哺乳類、無脊椎動物、植物などを対象にしたテストで性能を確認
  • 従来は解析が困難だった両親間のゲノムが多様化した領域を解析

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の梶谷嶺助教、吉村大大学院生(博士後期課程3年・研究当時)、奥野未来研究員、伊藤武彦教授らの研究チームは、国立遺伝学研究所の豊田敦特任教授、小原雄治特任教授、東京大学の窪川かおる特任教授らと共同で、真核生物のゲノム配列決定において、両親由来の配列を区別し、高精度にそれぞれを決定する、新しい情報解析手法の開発に成功した。

ヒトなど真核生物のゲノム情報は、両親から受け継いだ情報を持ち合わせているが、今までは両親由来ゲノムの差異を無視して配列決定を行うことが一般的だった。しかしながら、この差異の大きな領域は、種々の昆虫の表現型(紋様)との関連や、ヒトでの免疫型の決定、さらには疾患との関連も報告されるようになっている。そのため、簡便に両親由来の配列を区別して解析できる手法が求められていた。

研究チームが開発した「Platanus-allee(プラタナス アリー)」と呼ばれる新しいプログラムは、特殊な装置や前処理を必要とせず、現在の主流になっている次世代シークエンサー[用語1]の大規模な断片配列データのみから、両親由来の配列を高精度に再構築できる画期的なものだ。

本成果は、2019年4月12日付けの「Nature Communications」に掲載された。

背景

2001年にヒトの全ゲノム配列が決定されてから、わずか20年足らずの間に、次世代シークエンサーの登場と解読システムの性能向上により、ゲノム配列を決定するコストは数万分の1になり、読み取り時間も劇的に短くなっている。

ヒトに代表される一般的な高等動植物のゲノムは、母親と父親の両親から受け継いだ両方の情報を持ち合わせている。しかしながら現状では、この差異を無視して、両親由来のゲノム情報全体をモザイク状につなぎ合わせることで、ゲノム配列を解読する手法が一般的に用いられている。

近年、両親由来のゲノム配列(相同染色体)間で差異が大きい領域が存在し、これが様々な表現型(例えば、昆虫の体の紋様や性決定、ヒトの免疫型決定や疾患など)とリンクしている事例が報告されている。そのため、両親由来のゲノム配列を“分けて”解析することの重要性が認識されるようになってきたが、その実現は技術・コストの面から多くの問題が存在していた。

研究の内容

本研究で開発された解析手法は、ショートリード[用語2]と呼ばれる次世代シークエンサーが産出するデータの精度の高さを活かして、まず、大量の断片配列内に存在する一塩基の違いをも区別できるグラフ構造[用語3]に変換する(図1-(a))。次に、そのグラフ構造をショートリード間のペア情報を用いて単純化することで、より長く繋がったゲノム配列を再構築する(図1-(b))。相同染色体との対応付けを配列の類似情報から行い(図1-(c))、エラー修正などを行った上で最終的な配列を導き出す。

研究チームでは、この手法を「Platanus-allee」というプログラムに実装し、ホームページouterで公開した。さらにこの手法を実際に、線虫、シロオビアゲハ、ナメクジウオ、サクラ、ヒトなどの各種生物に適用したところ、その実効性を証明できた。

新たな情報解析プログラム「Platanus-allee」のアルゴリズムの模式図

図1. 新たな情報解析プログラム「Platanus-allee」のアルゴリズムの模式図

今後の展開

研究開発された解析手法で、相同染色体間の複雑な変異情報が網羅的に収集可能となる。これにより変異が蓄積したゲノム領域との関連が疑われている種分化、多様性維持、免疫など重要な生命現象の解明が進むと考えられる。また、究極的には、本研究成果を用いて、我々ヒトを含む“2倍体生物が2セットの少し異なるゲノムを維持することで何を得たのか?”という根源的な問いに対する理解が深化すると期待される。

用語説明

[用語1] 次世代シークエンサー : 2004年頃から登場した新しいタイプの塩基配列解読装置(シークエンサー)。最大の特徴は、それまでの機器(第一世代)と比べて圧倒的に産出するデータ量が多い。その後も次々と新しいタイプのシークエンサーが登場している。

[用語2] ショートリード : 次世代シークエンサーの中で主流な機種が出力するタイプのデータのこと。具体的には、ある程度の長さのゲノム断片の両端が100~250文字程度ずつの断片ゲノム配列(ショートリード)としてペアで読まれる。最新の次世代シークエンサーからは、ショートリードが一度に数億本(ペア)のレベルで産出される。

[用語3] グラフ構造 : ノード(節)とエッジ(辺)で表現されるデータの集合体。ゲノムデータでは、あるゲノム部分配列(ノード)が他のゲノム部分配列(ノード)に繋がっているか(エッジ)の関係を記載したデータ集合体。

本研究は、文部科学省科研費「新学術領域研究『学術研究支援基盤形成』」先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム(16H06279)および、16H04719、15H0597などの支援を受けて行われました。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Platanus-allee is a de novo haplotype assembler enabling a comprehensive access to divergent heterozygous regions
著者 :
Rei Kajitani, Dai Yoshimura, Miki Okuno, Yohei Minakuchi, Hiroshi Kagoshima, Asao Fujiyama, Kaoru Kubokawa, Yuji Kohara, Atsushi Toyoda, and Takehiko Itoh
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

教授 伊藤武彦

E-mail : takehiko@bio.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3430 / Fax : 03-5734-3630

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
リサーチ・アドミニストレーター室 報道担当

E-mail : infokoho@nig.ac.jp
Tel : 055-981-5873 / Fax : 055-981-9418


東工大関係者6名が平成31年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞

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このたび、東工大関係者6名が、平成31年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において「科学技術賞」、「若手科学者賞」を受賞しました。

「科学技術賞」は科学技術分野で顕著な功績をあげた者を対象としたもので、「開発部門」「研究部門」「科学技術振興部門」「技術部門」「理解増進部門」に分かれて表彰されています。今年度の科学技術賞(研究部門)の応募件数は149件、授賞件数は43件(54名)です。

「若手科学者賞」は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者を対象としています。今年度の若手科学者賞の応募者数は304名、授賞者数は99名です。

日ごろの研究活動、研究成果を認められ、本学からは2名が科学技術賞を、4名が若手科学者賞を受賞しました。

今年度受賞した関係者は以下のとおりです。

科学技術賞(研究部門)

若手科学者賞

科学技術賞(研究部門)

西山伸宏 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授

受賞業績:高分子設計に基づくナノマシンの創製と医療応用に関する研究

西山教授
西山教授

超高齢化社会を迎え、医療分野においては、QOL(生活の質)を意識した診断・治療技術に対するニーズが高まっています。本研究では、精密合成高分子やその分子集合体からなるプラットフォームに標的指向性や環境応答性等の様々な機能を集積化することによって、体内において、必要な時に、必要な部位で、必要な診断および治療を最小限の副作用と最大限の効果で達成する医療用ナノマシンの創製を行いました。

本研究では、医療用ナノマシンによって、「がんの高感度検出や悪性度の可視化」、「膵臓がん等の難治がんに対して、薬剤のピンポイント送達に基づく効果に優れ、副作用の少ないがん治療」、「光、超音波、中性子線などの物理エネルギーの照射による患者への負担の少ない超低侵襲がん治療」が実現可能であることを実証してきました。これらの技術は、がん等の難病の早期発見や根治、患者の早期社会復帰をもたらし、核酸医薬等の画期的な医薬品の実用化を加速するものと考えられ、国民の健康寿命の延伸や医薬品開発分野における日本の産業競争力の強化に寄与することが期待されます。

今回受賞対象となった一連の研究は、多くの共同研究者の皆様の多大なるご尽力があって成し得たものであり、この場を借りて感謝の意を表するとともに、医療用ナノマシンによる未来医療の実現に向けて、より一層研究に邁進していく所存です。

医療用ナノマシンに関する研究概要

医療用ナノマシンに関する研究概要

萩原一郎 名誉教授

受賞業績:計算科学シミュレーション援用 折紙構造の産業化に関する研究

萩原名誉教授
萩原名誉教授

折紙構造には、軽くて剛い、展開収縮能があるなど優れた特性を有すものの、実際の産業化は、生産コストの制限が比較的緩やかな宇宙産業以外十分には見られない状況でした。この打開には、(1)従来の型紙を折紙ロボットに折らせようとすると機構ばかり複雑となる、(2)折紙構造は一般の構造より複雑でその通り造ろうとすれば高価となる、等の解決が期待されました。

本研究では、3次元に構築したものは同じでも山折り・谷折り程度の機能を持つロボットで折れる展開図が得られる設計システムを開発し、全自動でその画像から実物を折紙のように構築する折紙式プリンターのプロトタイプを得ました。型紙から閉じた3次元構造とする条件や折畳める条件は、折れ線の交わる角度が司ることから、角度を保存する等角写像を利用すれば、簡単な構造の展開図から複雑な構造の展開図が得られるという発想により折紙構造に初めて等角写像を持ち込みシステマティックに安価に造れエネルギー吸収特性も優れた折紙構造の近似化を得ました。以上の成果は多くの産業を創出する可能性があるとして評価されました。

「折紙工学」は時に芸術的なデザインから、機能創出、製造技術と多岐に亘る総合工学です。本学に在職時代、本学にあこがれた沢山の優秀な留学生に恵まれ色々な研究を行えたことが今回に繋がりました。当時の学生、先生方、また事務の方々に感謝します。どうもありがとうございました。

折紙工学 3つの柱からの成果の一例

折紙工学 3つの柱からの成果の一例

若手科学者賞

平原徹 理学院 物理学系 准教授

受賞業績:ビスマス系トポロジカル薄膜の物質開発と表面状態の研究

平原准教授
平原准教授

物質の表面では内部のバルクとは違った電子状態が実現されています。例えばバルクが非磁性体でも、表面だけスピン偏極したバンド構造を持つラシュバ・トポロジカル表面というものが存在し、理論を中心にスピントロニクス応用に向けて多くの研究が行われていました。この表面状態を利用したデバイス開発のためには高品質薄膜を作成し、強磁性体などと組み合わせる必要があったのですが、実験的に研究されていた多くの物質は、分厚いバルク物質の表面でした。そこで私はビスマスという元素に着目し、ビスマス化合物の高品質薄膜を作成する方法を考案しました。特にビスマス薄膜では表面状態が薄膜中の電気の流れを支配することを明らかにしました。さらに、トポロジカル絶縁体薄膜内部に磁性元素を埋め込み、不純物を導入せずにトポロジカル表面状態に強磁性を付与する新しい方法を発見しました。これらの成果はデバイス応用のみならず基礎科学として重要だと考えています。

この度、栄誉ある賞を賜り、大変光栄に思っております。ご指導いただいた先生方や共同研究者に厚く御礼申し上げます。また本学からのご支援にも感謝いたします。

岩﨑孝之 工学院 電気電子系 准教授

受賞業績:ワイドバンドギャップ半導体中の固体量子光源に関する研究

岩﨑准教授
岩﨑准教授

ワイドギャップ半導体中に取り込まれる不純物原子は、空孔(原子のない空の場所)と隣り合うことで発光を示す複合欠陥を形成します。ダイヤモンドは、大きなバンドギャップを有するワイドギャップ半導体であり、様々な複合欠陥を形成することができます。単一光子を放出する複合欠陥は量子光源として機能し、優れた光学特性およびスピン特性を有する光源は将来の量子ネットワークへの応用が期待されています。しかしながら、これまで優れた光学特性とスピン特性を両立する量子光源は見出されていませんでした。本研究では、ダイヤモンド中にこれまで導入されていなかった元素であるゲルマニウムおよびスズに注目することで新しい量子光源を創出しました。特に、スズと空孔からなるスズ-空孔センターは高い発光強度を示し、加えて安定した発光とケルビン温度領域において長いスピンコヒーレンス時間が期待できることから、これまでの量子光源の問題を解決できる可能性を有しています。

本研究の成果は、国内外の多くの共同研究者の方々との協力のもと得られたものです。この場をお借りして心より感謝申し上げます。今後、さらに研究を発展させるために尽力していきます。

本倉健 物質理工学院 応用化学系 准教授

受賞業績:機能集積型触媒の開発と高効率合成反応に関する研究

本倉准教授
本倉准教授

固定化触媒は液相合成反応において分離・回収・再使用の観点から注目されている反面、活性点構造の不均一性や固体表面との立体障害によって、均一系の分子触媒よりも活性が低下する問題点が指摘されていました。我々は、明確な構造をもつ複数の活性点を同一固体表面に集積固定することで、活性点間の協奏的触媒作用が発現し、固定化触媒でありながら高活性を示す触媒を開発することに成功しました。開発した触媒は求核剤アリル化反応、ヒドロシリル化反応、二酸化炭素変換反応等に既存の報告と比較して一桁以上高い活性を示します。活性点の種類や配置・配向を精密制御することで、さらなる高機能の発現や様々な触媒反応へ展開したいと考えています。

今回、このような栄えある賞をいただくにあたり、これまでご指導くださった先生方、共に研究を行った研究室スタッフ・学生の皆様、学内外のプロジェクトでお世話になった関係者の方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。

分子触媒と固体触媒の融合による機能集積型触媒の開発

分子触媒と固体触媒の融合による機能集積型触媒の開発

大上雅史 情報理工学院 情報工学系 助教

受賞業績:生体内のタンパク質等の相互作用の網羅的な予測研究

大上助教
大上助教

生体内のタンパク質をはじめとする分子間相互作用の理解は、生命現象の解明、疾病要因の特定、新規薬剤設計の開発促進など、生命科学・医学・薬学のさまざまな問題の解決に関係します。生物学的実験を介することなく計算機によって分子間相互作用を予測することができるようになると、これらの研究の大幅な加速が期待されます。

私はこれまで、タンパク質等の生体分子間の相互作用を計算機で網羅的に予測する技術を開発してきました。生体内にはきわめて多数の分子が存在しますが、多数の分子の網羅的な(多対多の)相互作用を現実的な時間内で扱うためには、方法論の抜本的な改良と、TSUBAMEに代表される世界最高規模のスーパーコンピューターの活用が不可欠です。分子の立体構造情報を網羅的に活用することに着眼し、またTSUBAMEを高効率に扱うための並列化実装に取り組み、百万件の分子間相互作用の予測をわずか半日で実行可能にすることに成功しました。今後、本研究成果の製薬産業等での利活用や、新たな薬剤標的探索技術の開発に結びつけていきたいと考えています。

本受賞は、秋山泰教授をはじめとするご指導いただいた先生方や共同研究者の方々、秋山研究室の皆様のご支援ご指導の賜物です。この場を借りて改めて感謝申し上げます。今回の受賞を励みに、より一層研究・教育活動に励んで参ります。また、本受賞業績の一部は「研究の種発掘」支援および「情報理工学院若手研究プロジェクト」支援により得られたものであり、この場を借りて感謝申し上げます。

大量の分子構造情報を活用した網羅的な分子間相互作用予測技術の開発

大量の分子構造情報を活用した網羅的な分子間相互作用予測技術の開発

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2019春」開催

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3月29日、東京工業大学大岡山キャンパスの緑が丘6号館で、サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?2019春」を開催しました。生命理工学院 生命理工学系の山田拓司研究室が毎年開き、子どもたちが学生から楽しく説明を聞き、科学を学ぶ催しです。

学生による腸内細菌の説明を聞く子どもたち

学生による腸内細菌の説明を聞く子どもたち

ヒトの腸内には、1,000種100兆個体の細菌が共生していると言われています。近年、腸内細菌の解析技術が飛躍的に向上し、これらの細菌を網羅的に調査することが可能になり、様々な発見が相次いでいます。 そうした目に見えない細菌たちの活動や仕組みを子どもたちに分かりやすく学んでもらおうと、サイエンスカフェでは学生たちが開発した腸内細菌ボードゲームを学習に取り入れて行いました。

小学1年生から中学生まで約40名が集まり、腸内細菌の不思議について学習しました。2014年から継続的に開催している企画ですが、毎回新しい発見や感動が生まれ、協力する学生パートナーにとっても刺激的な1日となっています。

参加した子どもたちは学生パートナーによる腸内細菌に関する説明を受けた後、実際にボードゲームで遊びながら腸内細菌の特性や動きを学びました。子どもたちや見守る保護者にとって腸内細菌の存在を身近に感じる良い機会となったようです。

ボードゲームで遊びながら学ぶ子どもたちと学生パートナー

ボードゲームで遊びながら学ぶ子どもたちと学生パートナー

サイエンスカフェとは、科学技術の分野で従来から行われている講演会やシンポジウムとは異なり、科学の専門家と一般の人々が、比較的小規模な場所で科学について気軽に語り合う場をつくろうという試みです。一般市民と研究者をつなぎ、科学の社会的な理解を深める新しいコミュニケーションの手法として、世界で注目されている活動です。

サイエンスカフェ「腸内細菌ってなんだ?」は今後も定期的に開催し、地域の方々に身近にサイエンスを楽しんでいただく機会を提供していきます。

今回のサイエンスカフェは東工大基金の「理科教育振興支援」のサポートを受けています。

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東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

生命理工学院 山田研究室

Email : info@jchm.jp
Tel : 03-5734-3629

博物館で小学生親子向けプログラミング教室を開催

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プログラミングのレクチャーを行うトラップの学生
プログラミングのレクチャーを行うトラップの学生

東京工業大学博物館は、3月2日、本学公認サークル「デジタル創作同好会traP(以下、トラップ)」のメンバー7名とともに、小学生親子向けプログラミング教室を開催しました。

レゴブロックを用いたロボットを作りながらプログラミングについて学ぶ内容となっていて、講師は教育革新センターの森秀樹准教授が担当しました。

眺望の良い4階ミーティングスペースにて

会場は百年記念館4階ミーティングスペースです。普段は国際会議や学会発表など、教育・学術に関する会合のために使用される場所を今回特別に開放しました。この日は天候に恵まれ、大岡山の地をはるか遠くまで眺望することができました。

レゴの部品を組み立てながら、プログラミングを学ぶ

制作に打ち込む参加者
制作に打ち込む参加者

はじめに森准教授がクリケット(Cricket)の使用方法について解説しました。クリケットとは、米国・マサチューセッツ工科大学のグループが開発したプログラムで制御できる電池式のコンピューターのことです。

音を鳴らせたり回転させたりする指示をパソコン上でプログラミングし、その後レゴの部品で組み立てた車などの造形物にクリケットをはめ込んで実際に動かすというワークを行いました。プログラミングの仕方によって、猫の鳴き声が鳴ったり灯りが点滅したりする変化に小学生はもちろん、保護者の方も興味津々の表情です。さて、いざ親子ごとに作業開始。トラップのメンバーがレゴの部品の組み立てやプログラミングを親身にサポートしました。1時間半にわたる作業の間、子どもが主導で作業しているうちに大人の方が夢中になっている姿もみられました。あれやこれやと親子でアイデアを出し合い試行錯誤しながらレゴロボットを完成させました。賑やかで楽しい時間はあっという間でした。

まとめの時間

成果物発表会の様子
成果物発表会の様子

レゴの部品のほかに、車輪や画用紙などを身近にあるさまざまな素材を自在に使って制作した、創意工夫に富んだオリジナルロボットをそれぞれ披露しました。スイッチを押すとくるくる回転したりまっすぐ走り出したりと、できあがったロボット作品の動きを楽しみました。参加した子どもたちの得意げな自信に満ちた表情が印象的でした。

おわりに

本学博物館主催で小学生親子を対象としたプログラミングイベントを開催するのは初の試みです。アンケートでは小学生82%、保護者93%の方から「面白かった」と好評をいただきました。博物館では、今後も大学と社会・地域をつなぐイベントを企画していきます。

お問い合わせ先

東京工業大学博物館

E-mail : centjim@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3340

学勢調査2018の提言書 学長へ提出

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3月18日、学生スタッフの代表5名が、昨年夏に実施した学勢調査2018の調査結果と、それに基づく大学への提言書を益一哉学長に提出しました。

提言書を受け取った益学長と学生スタッフ、教職員ワーキンググループメンバー

提言書を受け取った益学長と学生スタッフ、教職員ワーキンググループメンバー

益学長に提言書を手渡す学生スタッフ代表の児島さん
益学長に提言書を手渡す学生スタッフ代表の児島さん

学勢調査とは、本学の全学生を対象として2年に1回、学生スタッフが主体となって行うアンケート調査です。ほかに例を見ない本学独自の取り組みで、国勢調査になぞらえ「学勢調査」と名付けられました。生活、学習、キャンパスライフなどの現状を把握し、寄せられた意見を分析して、大学への提言を行うことを目的としています。

学生スタッフが質問を作り、2018年6月11日から7月11日までウェブでアンケート調査を行いました。7回目の今回は過去最高となる2,619名の学生から回答がありました。その後、11名の学生スタッフによってデータの集計と解析、キャンパスミーティング(各関係部局教職員との意見交換)が行われ、学生スタッフ間での熱心な討論を経て提言書としてまとめられました。

学長室を訪れた学生代表から今回の調査の概要と重要な提言の説明をした後、益学長と意見交換を行いました。益学長は「ご意見をいただいた教育の問題点や食生活の不満などを早期に解消すべく、前向きに検討します。東工大をよりよい大学へと進化させるため、これからも協力をお願いします」と述べました。

益学長に提言書について説明する学生スタッフ
益学長に提言書について説明する学生スタッフ

学生と意見交換する益学長
学生と意見交換する益学長

学勢調査2018代表 児島佑樹さん(理学院 物理学系 修士課程1年)のコメント

今回の学勢調査には、世の中の動向を意識した提言を数多く盛り込みました。大学は常に世の中の動きに目を向け、学生の声を取り入れやすくする環境を整えることが重要です。自ら進んでシステムを刷新し続け、東工大自身がリーダーシップを整えた大学であり続ければ、学生の志を育む格好の土壌となるでしょう。この期待を込め、さまざまな動向に対する学生の声をまとめた提言書を作成しました。

(学勢調査2018提言書「代表からの挨拶」より)

学勢調査2018の主な提言内容

  • 公欠制度の創設(学会出席や感染症のため授業に欠席することを認める)
  • 成績分布の公開と成績評価監査委員会の設置(学生が成績の相対的な位置づけを確認する)
  • キッチンカーを学外から誘致(昼食の新たな選択肢とする)
  • 喫煙場所の改善(煙が拡散しないよう密閉型にする)
  • トレーニングルームの時間外利用(授業終了後も有料で利用可能にする)
  • 礼拝所の確保(ムスリム留学生の増加に対応する)
  • 食堂メニューの改訂(ハラル、菜食主義(ヴィ―ガン)メニューを増やす)
  • 附属図書館の空調改善(ブランケットを貸し出す)
  • ペーパーレス化の推進(成績証明書、卒業証明書などをウェブで発行する)
  • キャンパス無線LANの環境改善(自動ログインを導入する)

この提言書でペーパーレス化の推進も提言したことを受け、今回は提言書の紙媒体での配付を極力控え、電子ファイルを以下のウェブサイトに掲載しました。ぜひご覧下さい。

お問い合わせ先

学生支援センター自律支援部門

E-mail : gakuseichousa1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7629

LG Japan Lab、JXTGエネルギーと「スマートマテリアル&デバイス共同研究講座」を設置

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東京工業大学(以下東工大)は、4月1日にLG Japan Lab(エルジー ジャパン ラボ)株式会社(以下LG)、JXTG(ジェー エックス ティー ジー)エネルギー株式会社(以下JXTG)と「LG×JXTGエネルギー スマートマテリアル&デバイス共同研究講座」を設置しました。

省エネルギーや高齢化等の課題を解決し、快適な生活の実現に寄与する材料・デバイス機器の技術開発を目的として取り組みます。

東工大、LG、JXTGの3者が研究レベルで一体となり、従来の共同研究の枠を越えた新たな研究開発体制を導入する事で、短期間で社会に貢献することを目指します。

発足記念式典を開催

発足記念式典を開催

概要・今後の展開

本講座では、東工大において、JXTGが誇る機能材分野の技術力と、高いグローバル競争力を有するデバイス・セットメーカーであるLGの開発力とを融合させた研究を実施していきます。産学、サプライチェーンおよび国際協調における隔たりを解消するために3者が研究レベルで一体となり、従来の共同研究の枠を越えた新たな研究開発体制を導入します。

省エネルギーや高齢化等の課題に焦点を当て、これらの課題解決による快適な生活の実現に寄与する材料・デバイス機器(ソフトアクチュエータ、スマートセンサーなど)の技術開発を目的として取り組みます。また、基礎研究の段階から3者が協力する事で、短期間で社会に貢献することを目指します。

本講座の概要

名称
LG×JXTGエネルギー スマートマテリアル&デバイス共同研究講座
設置部局等
科学技術創成研究院 未来産業技術研究所
場所
神奈川県横浜市緑区長津田町4259 東京工業大学すずかけ台キャンパスS1棟
設置期間
2019年4月1日(月) - 2021年3月31日(水)

大学側責任者 : 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 初澤毅所長

会社側責任者 : LG Japan Lab株式会社 佐藤治先端技術研究室長、JXTGエネルギー株式会社 機能材カンパニー 依田英二機能材研究開発部長

共同研究担当教員 : 科学技術創成研究院 曽根 正人教授、細田 秀樹教授

共同研究講座教員 : 渡辺 順次特任教授(東工大)、西村 涼特任教授(JXTG)、關 隆史特任教授(JXTG)、姜 聲敏特任准教授(LG)

講座のメンバーなど集合

講座のメンバーなど集合

お問い合わせ先

東京工業大学科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 教授 曽根正人

E-mail : sone.m.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5043

平成31年度 東京工業大学入学式 挙行 学士課程1,131名、大学院課程1,895名が入学

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東京工業大学の平成31年度入学式が4月2日、大岡山キャンパス体育館で行われました。入学者数は学士課程1,131名(うち留学生60名)、大学院課程1,895名(修士課程1,608名(うち留学生134名)、専門職学位課程32名(うち留学生2名)、博士後期課程255名(うち留学生78名))の計3,026名(うち留学生274名)です。

平成31年度 東京工業大学入学式 挙行

学士課程入学式は10時30分から、大学院課程入学式は14時から行われました。末永隆一氏が指揮する本学管弦楽団が演奏する中、アカデミックガウンを身にまとった益一哉学長を先頭に来賓の方々、役員、各学院長、リベラルアーツ研究教育院長、科学技術創成研究院長、大学院イノベーションマネジメント研究科長、附属図書館長の入場で始まりました。最初に、本学混声合唱団コール・クライネスとともに列席者一同で大学歌を斉唱しました。

入学式で式辞を述べる益学長
入学式で式辞を述べる益学長

益学長による式辞では、「おめでとうございます」というお祝いの言葉を日本語だけでなく中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語など11の言語で伝え、世界各国から集まった新入生を歓迎しました。続いて東工大の138年の歴史に触れ、「みなさんのポケットにはスマートフォンや携帯電話が入っているでしょう。そこに組み込まれている温度に依存しない水晶振動子は、本学の古賀逸策教授(1899~1982年)が発見したものです。みなさんが今日、ここに到着する前から東工大の技術がすでにポケットに入っていたのです」と紹介しました。また「昨年、社会を未来に導く唯一の理工系総合大学として、東工大は指定国立大学法人に指定されました。東工大は新しい挑戦に大胆に取り組みます」と述べ、学士課程新入生には「東工大の旅をはじめよう。気概を持ち、切り拓こう。挑戦し続けよう」、大学院課程入学者には「協調と挑戦でいこう」と激励しました。

続いて、来賓を代表し、本学同窓会である一般社団法人蔵前工業会理事長の石田義雄氏(1967年理工学部機械工学科卒、東日本旅客鉄道株式会社監査役)と株式会社安川電機代表取締役会長の津田純嗣氏(1976年工学部機械工学科卒)から祝辞をいただきました。

祝辞を述べる石田義雄・蔵前工業会理事長
祝辞を述べる石田義雄・蔵前工業会理事長

祝辞を述べる津田純嗣・安川電機会長
祝辞を述べる津田純嗣・安川電機会長

その後、新入生総代よりこれから始まる東工大生活での抱負が力強く宣誓されました。

新入生総代答辞(学士課程)
新入生総代答辞(学士課程)

新入生総代答辞(大学院課程)
新入生総代答辞(大学院課程)

入学記念ピアノ演奏会
入学記念ピアノ演奏会

学士課程入学式に続いて入学記念ピアノ演奏会も開かれました。毎年、新入生の門出を祝うため、ピアニストを招いています。今年のピアニスト中山瞳さんは、東京藝術大学を卒業後、ウィーン国立音楽大学室内楽科で研鑽を積み、東京藝術大学大学院修士課程を修了しました。アジア国際音楽コンクール大学生部門第1位、第29回飯塚新人音楽コンクールピアノ部門第1位、渡欧後は第21回ヨハネス・ブラームス国際音楽コンクールピアノ部門第2位、またオーストリア国内にて行われる国際夏季アカデミーでは2年連続となるピアニスト賞など多くの賞を受賞されています。

桜が満開の大岡山キャンパスでは、新入生やご家族の喜びであふれました。

入学おめでとうございます。

桜が満開の大岡山キャンパス
桜が満開の大岡山キャンパス

桜の下で記念撮影する新入生
桜の下で記念撮影する新入生

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : pr@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大学生サークルが附属図書館で第4回作品展を開催

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2018年11月から2019年2月にかけて、東工大附属図書館との協働により、本学の公認学生サークルである鉄道研究部、写真研究部、美術部の作品展が附属図書館大岡山本館にて行われました。作品展の日程と概要は以下のとおりです。

鉄道研究部の展示風景
鉄道研究部の展示風景

美術部「図展(とてん)」の展示風景
美術部「図展(とてん)」の展示風景

鉄道研究部写真展

展示期間:2018年11月16日~12月6日

鉄道研究部写真展ポスター
鉄道研究部写真展ポスター

部員が全国各地で撮影した鉄道の写真計98点を展示しました。「四季を駆けて。」というテーマで、満開の桜、海、紅葉、雪景色など、四季折々の風景と鉄道の写真が、撮影場所や解説を記載したキャプションとともに展示されました。「毎日乗る電車を別の切り口で味わえました」「鉄道そのものだけでなく、鉄道にまつわる様々なことへの愛を感じました」などの感想が寄せられました。

写真研究部作品展「一月展」

展示期間:2019年1月10日~1月22日

写真研究部「一月展」ポスター
写真研究部「一月展」ポスター

館内4ヵ所に展示スペースを設け、作品25点を展示しました。風景や人物、動物、建物など、被写体の選び方や構図にも個性があり、「物語が見えるような素敵な作品でした」「あらゆるジャンルの作品を見られてよかったです」などの感想が寄せられました。

美術部作品展「図展(とてん)」

展示期間:2019年1月31日~2月5日

美術部「図展(とてん)」ポスター
美術部「図展(とてん)」ポスター

油彩、アクリル、コラージュなど様々な手法による14点の作品が展示されました。描かれたモチーフだけでなく、キャンバスや額装にも工夫がみられ、それぞれの作品の世界観を表現していました。「意欲的な作品ばかりでとてもよかったです」「すがすがしいきれいな空が印象的で圧倒されました」といった感想が寄せられました。

作品展のポスターもそれぞれのサークルの学生が作成しています。附属図書館は、学生の学びを支えると共に、親しみや安らぎのある場の提供を目指し、今後も学生と共にさまざまな企画を実施していく予定です。

お問い合わせ先

研究推進部情報図書館課利用支援グループ

Tel : 03-5734-2097


フラストレート磁性体の量子相転移の圧力・磁場制御を実現 三角格子反強磁性体の新しい量子相の発見

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発表のポイント

  • 三角格子反強磁性体でスピンが最小のS = 1/2の系においては、量子揺らぎ[用語1]幾何学的フラストレーション[用語2]により、多数の安定状態をもつことが、理論的に予想されてきた。
  • この予想を検証するために、高圧力をモデル物質に加えて歪ませることで、安定状態を決定する磁気相互作用を精密に制御し、さらに強い磁場を加えることで量子ゆらぎを変調させたところ、複数の量子相転移[用語3]を発見した。
  • 2ギガパスカルの高圧と25テスラの強磁場、電子スピン共鳴[用語4]を組み合わせることにより、新量子相を研究する手法が確立し、様々な系への応用が期待される。

概要

東北大学 金属材料研究所 付属強磁場超伝導材料研究センターでは、ドイツHelmholtz-Zentrum Dresden-RossendorfのS. A. Zvyagin研究員、米国National High Magnetic Field LaboratoryのD. Graf研究員、神戸大学研究基盤センターの櫻井敬博助教、大阪府立大学 理学系研究科の小野俊雄准教授、東京工業大学 理学院 物理学系の田中秀数教授らとの国際共同研究において、圧力によってスピンS = 1/2三角格子反強磁性体Cs2CuCl4の結晶を歪ませることで、交換相互作用を精密にコントロールし、25テスラまでの強磁場下で電子スピン共鳴(ESR)という手法で調べることで、逐次的に現れる複数の新たな磁気相を発見しました。

三角格子反強磁性体では、全ての磁気相互作用を満足させる安定状態が存在しない幾何学的なフラストレーションと呼ばれる状態を持ち、多数の状態がせめぎ合っていることが知られており、小さな刺激で状態が劇的に変わることが予想されていました。特に、磁気の単位であるスピンが最小の1/2を取る場合は、量子揺らぎが大きく、この効果が増幅されます。しかし、これまで、その予想に対する系統的な実験による検証は殆ど行われていませんでした。本研究では高圧力と強磁場の2つの物質を制御するパラメータを組み合わせて変化させることで、三角格子反強磁性体に複数の逐次的な量子相転移を発現させることに成功しました。本研究成果は、2019年3月6日付けで英オンライン科学誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

三角格子に歪みを生じさせてフラストレーションを制御する高圧力と量子揺らぎを制御する強磁場を組み合わせて新たな量子相転移を発見し、電子スピン共鳴によって歪みによる交換相互作用の変化を精密に決定した。右は実験から得られた温度・圧力相図と交換相互作用の変化率。
図1.
三角格子に歪みを生じさせてフラストレーションを制御する高圧力と量子揺らぎを制御する強磁場を組み合わせて新たな量子相転移を発見し、電子スピン共鳴によって歪みによる交換相互作用の変化を精密に決定した。右は実験から得られた温度・圧力相図と交換相互作用の変化率。
(左)電子スピン共鳴(ESR)用圧力セル。試料に圧力を加えるためのピストンが電磁波を透過するジルコニアで作製されている。(右)330 GHzの電磁波を用いて観測された高圧下でのESRスペクトル。
図2.
(左)電子スピン共鳴(ESR)用圧力セル。試料に圧力を加えるためのピストンが電磁波を透過するジルコニアで作製されている。(右)330 GHzの電磁波を用いて観測された高圧下でのESRスペクトル。

背景

三角格子上に配置した電子スピンが互いに反強磁性的な交換相互作用を及ぼしあう三角格子反強磁性体は、幾何学的フラストレーションが働く典型的な系です。なかでもスピン量子数S = 1/2の場合、量子揺らぎの効果とフラストレーションが相俟って、多彩な量子相が現れることが期待されてきました。具体的には、正三角形の形から歪みを加えてずらすことにより、スピン間の交換相互作用の比を変えると、量子相転移が引き起こされると予言されています。さらに磁場を加えると量子ゆらぎの大きさも制御出来るため、出現する相はさらに多様になります。この予想を検証するためには、交換相互作用の制御とスピンの偏極の制御の2つを同時に行う必要がありますが、実験が難しいため研究が進んでいませんでした。

研究成果

今回、スピンが最小の値である1/2を有し、正三角形から歪んだ構造をもつ三角格子反強磁性体Cs2CuCl4に高圧を加え、同時に強磁場を加えることにより、ほぼ連続的な交換相互作用の比の変化と磁気偏極の大幅な制御に成功しました。さらに、この状態での磁気的な性質を決定するために、電子スピン共鳴測定という方法を利用して、逐次的な量子相転移を発見しました。この研究では、歪みにより交換相互作用がどの程度変わったかを決定する事が必要ですが、高圧と強磁場の複合極限下でこれが可能なのは、電子スピン共鳴だけになります。さらに、相境界の決定には共鳴トンネルダイオード測定も用いられました。

展望および意義

日本、ドイツ、米国における高圧、強磁場、試料合成の専門家が協力して初めて得られた成果です。25テスラの強磁場を液体ヘリウムなしに発生可能な無冷媒型超伝導磁石と高圧セルを用いた電子スピン共鳴実験が、この研究を成功させる上で重要な役割を担いました。高圧の印加によって相互作用を精密に制御し、これに強磁場を加えることで新たな磁気相を発見した今回の成果は、極限環境下でのフラストレート磁性体における量子相転移の研究に新しい可能性をもたらしました。

用語説明

[用語1] 量子揺らぎ : 量子力学的な不確定性関係に由来して、スピンが古典的なベクトルと考えた場合の安定構造から揺らぐ効果。フラストレーションを持つ系では量子揺らぎが特に大きくなることが知られています。

[用語2] 幾何学的フラストレーション : 三角形の各頂点に位置したスピン間に反強磁性的相互作用が働く場合、全ての最近接スピン対を反平行に配置することができないため、安定な状態に落ち着くことができません。これを幾何学的フラストレーションと呼びます。

[用語3] 量子相転移 : 固・液体間の相転移のような通常の温度変化によるものとは異なり、絶対零度で磁場、圧力、化学組成の変化などによって起こる相転移で量子揺らぎによって支配されます。

[用語4] 電子スピン共鳴(ESR) : 周波数一定の電磁波を物質に照射しながら静磁場を掃印すると、物質の磁気的なエネルギー準位の差と電磁波のエネルギーが等しくなる磁場で電磁波の共鳴吸収が生じる現象。この測定によって交換相互作用の精密な見積もりが可能になります。今回、ESR測定用に特別に開発された電磁波が透過できるジルコニアをピストンに用いた圧力セルを用い、これと25テスラ無冷媒型超伝導磁石を組み合わせることで、Cs2CuCl4の高圧強磁場下での交換相互作用の決定に成功しました。

共同研究機関および助成

本研究は、東北大学金属材料研究所の共同利用・共同研究拠点およびICC-IMR Visitor Programと科学研究費助成事業の支援を得て実施されました。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Pressure-tuning the quantum spin Hamiltonian of the triangular lattice antiferromagnet Cs2CuCl4
著者 :
S.A. Zvyagin, D. Graf, T. Sakurai, S. Kimura, H. Nojiri, J. Wosnitza, H. Ohta, T. Ono, and H. Tanaka
DOI :
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お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学金属材料研究所
付属強磁場超伝導材料研究センター

担当 : 木村尚次郎

E-mail : shkimura@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2154

取材申し込み先

東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班

担当 : 冨松美沙

E-mail : pro-adm@imr.tohoku.ac.jp
Tel : 022-215-2144

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

地球の深部炭素のゲートキーパーとなる微生物活動を発見 沈み込み帯から表層に放出される炭素量を再評価

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要点

  • コスタリカ全域の温泉水を調査し、地中での炭素循環とそのプロセスを分析
  • 沈み込み帯からの前弧域への炭素供給量はこれまでより2桁多いと推定
  • 微生物の活動を含めた新たな炭素循環モデルを提案

概要

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)のドナート・ジョヴァネッリ(Donato Giovannelli)・アフィリエイトサイエンティスト、中川麻悠子特任助教、オックスフォード大学のピーター・バリー(Peter Barry)博士らの国際共同研究チームは、沈み込み帯[用語1]から前弧域[用語2]へ供給される二酸化炭素の大部分は地殻では炭酸鉱物として捕捉され、表層では微生物の活動で捕捉されることを発見した。これまでの地表への炭酸ガス供給量が過小評価されていたことを明らかにした。

今回、コスタリカ全域の温泉水や地球深部とつながる吹き出し口(噴出口)から試料採取を行い、供給されるヘリウムや二酸化炭素の同位体比、溶存無機炭素及び溶存有機炭素の濃度及び同位体比[用語3]によって、それらの成分の由来を解析した。

これまで前弧域は、フィールド調査が可能な場所が限られていたため、炭素量やその収支情報を得ることが困難だったが、今回の研究により調査及び分析が実現した。本成果により、地球規模での炭素収支の再評価と、生物・非生物活動を含めた新たな炭素循環モデルが提案でき、過去・現在・未来の地球の気候変動についての理解が深まると考えられる。

本研究成果は、日本時間4月25日発行の英国の国際学術誌「Nature(ネイチャー)」に掲載された。

研究チームによる試料採取の様子

図1. 研究チームによる試料採取の様子

コスタリカの温泉湧出口で見られるスライム状の微生物生態系(バイオフィルム)

図2. コスタリカの温泉湧出口で見られるスライム状の微生物生態系(バイオフィルム)

研究成果

プレートの沈み込み帯から、表層へ供給される二酸化炭素について、表層への噴出量やプロセスを解析するため、南米コスタリカ全域の温泉・噴出口調査を実施し、地球規模の炭素循環に微生物活動が寄与することを初めて明らかにした。

コスタリカ全域から採取した噴出ガス中のヘリウムと二酸化炭素の同位体比データから、噴出するガスはマントル起源であり、火山弧から海溝に近づくにつれてその量は減少した。それでも全ての前弧域調査地点でマントルから供給されるガスの噴出があることが認められた。その減少する二酸化炭素放出量について、前弧域の温泉水中へ溶存する前に地殻中のカルシウムなどと結合し、炭酸塩として約90%が取り除かれていることが安定炭素同位体の変化から示された。さらに、溶存無機及び有機炭素の同位体比の差が一定であることから、無機炭素は炭酸塩として取り除かれた後、微生物が炭素固定を行って生合成した有機炭素として温泉水中に溶存していることが示唆された。

これまで沈み込み帯から表層へ炭素が供給される過程について、生物活動の影響は考慮されていなかった。しかし、今回の解析により、表層へ二酸化炭素として放出される最終段階で微生物による炭素固定の影響があることを初めて示すことができた。目に見えないほど小さな生物の活動が地質学的過程と同じスケールで検出されたことは驚くべきことだ。

さらに溶存無機及び有機炭素同位体比から示唆された微生物活動を含めた炭素循環モデルでは、前弧域へ供給される炭素量が、これまで推定されていた二酸化炭素放出量より2桁大きい値となった。そのため沈み込み帯でマントルへ戻る炭素量がこれまでの推定値より大幅に小さくなる。今回の成果で判明した二酸化炭素供給量の修正は、地球の気候変動要因解明や予測への応用が期待される。

沈み込み帯における炭素循環の概要

図3. 沈み込み帯における炭素循環の概要

背景

地球内部のコア、マントル、地殻などは、地球を構成する炭素の90%を占めており、残りは表層の海洋、大気圏、生物圏に分配されている。表層の炭素はプレートの沈み込み帯で地球内部へ運ばれていくが、その一部は沈み込みの途中で二酸化炭素となり、火山や熱水として放出され、再度地表に戻される。。

プレート沈み込み帯における地球表層と深部との相互作用から表層に供給される炭素量を知ることは、地球形成時からの炭素循環や将来の気候変動予測に重要なポイントになる。しかし、これまで地下から噴出するガスが実測できるフィールドや、沈み込み帯から表層に供給される過程で起こっている生成・消滅過程を推定するためのデータセットが限られ、地球内部での炭素の移行の実態はよくわかっていなかった。

研究の経緯

コスタリカは太平洋側の海洋プレートが沈み込んで形成された火山弧である。ここは沈み込み帯から供給される炭素を、前弧域、火山弧、背弧海盆の噴出口ガスや温泉から採取できる数少ないフィールドである。

本フィールドにおける炭素循環とそれに関わるプロセスを解明するため、2017年に生物学、地質学、地球化学など異分野の研究者25名が国際共同研究機関「深部炭素観測(ディープ・カーボン・オブザーバトリー、Deep Carbon Observatory、DCO)」のプロジェクト「Biology Meets Subduction」で、12日間にわたりコスタリカ全域の温泉調査・試料採取を実施。採取した水やガスは各国の分析チームに分配した。この6ヵ国27機関で実施された「Biology Meets Subduction」では、専門分野の垣根を超えて多様なデータの共有、議論を深めることができた。その結果が本研究の新たな発見につながった。

今後の展開

今後は他の前弧域でも調査・解析を行い、本研究のコスタリカ前弧域で得られた炭素収支モデルが全球へ適用できるかを確かめる必要がある。前弧域で地殻中及び微生物による炭素の捕捉が適用された場合、地表から沈み込み帯を経由してマントルへ戻る炭素量はこれまでより19%も少なくなることになる。

DCOプロジェクト「Biology Meets Subduction」では本研究後も全世界でフィールド調査を行い、より多くのデータセットを得ることを計画している。

用語説明

[用語1] 沈み込み帯 : 一方のプレート(地球表層を覆う、厚さ約100 kmの岩盤)がもう一方のプレートの下へ沈み込む地帯。冷たく密度が高い海洋プレートが密度の低い大陸プレートの下へ沈み込む。

[用語2] 前弧域 : プレートの沈み込む海溝から火山フロント(火山弧)までの間の領域のこと。

[用語3] 同位体比 : 同じ元素(原子の陽子数が同じ)だが、中性子数が異なるため、質量が異なる同位体の比率(例:炭素同位体比、質量12の炭素と質量13の炭素の比)。本研究で扱ったのは放射壊変をしない安定同位体で、物質の起源や生成・消滅過程の指標として利用される。

論文情報

掲載誌 :
Nature
論文タイトル :
Forearc carbon sink reduces long-term volatile recycling into the mantle
著者 :
P. H. Barry, J. M. de Moor, D. Giovannelli, M. Schrenk, D. Hummer, T. Lopez, C. A. Pratt, Y. Alpízar Segura, A. Battaglia, P. Beaudry, G. Bini, M. Cascante, G. d’Errico, M. di Carlo, D. Fattorini, K. Fullerton, E. Gazel, G. González, S. A. Halldórsson, K. Iacovino, J. T. Kulongoski, E. Manini, M. Martínez, H. Miller, M. Nakagawa, S. Ono, S. Patwardhan, C. J. Ramírez, F. Regoli, F. Smedile, S. Turner, C. Vetriani, M. Yücel, C. J. Ballentine, T. P. Fischer, D. R. Hilton & K. G. Lloyd
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)

特任助教 中川麻悠子

E-mail : nakagawa.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2664

ナポリ大学(The University of Naples Federico II Department of Biology)助教

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)アフィリエイトサイエンティスト

Donato Giovannelli(ドナート・ジョヴァネッリ)

※問い合わせは、英語あるいはイタリア語のみ

E-mail : donato.giovannelli@unina.it

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

愛媛の中学生と将来のビジョンを考えるワークショップ開催報告 東京の大学生と学びの世界をのぞいてみよう -自分の未来を考える-

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3月24日、本学グローバルリーダー教育院に所属する東工大生や、一橋大学、東京大学、お茶の水女子大学の学生などが主体となり、愛媛県北宇和郡松野町立松野中学校の生徒を対象にワークショップを同校にて実施しました。町内唯一の中学校である松野中学校の全校生徒およそ100人のうち、1年生から3年生までの生徒20人が参加しました。東工大からは学生4名、教員1名が参加しました。

集合写真

集合写真

愛媛県北宇和郡松野町は、県南部の中山間地域に位置し、その人口は4,000人に満たない小さな町です。町内に高等学校以上の学校はないため、松野町の中学生は、大学生がどのような生活をしているかを日常で目にする機会がほとんどありません。そこで、松野町に住む中学生を対象として、大学院生・大学生が実際の「大学での学び」がどのようなものかを紹介し、参加者が自身の将来について考えるという、キャリア教育としてのワークショップを実施しました。

午前の部:大学の学びを体験

まちづくりコース

地図を広げて自分たちの町の魅力を再発見
地図を広げて自分たちの町の魅力を再発見

大学院生が「まちづくりとは何か?」と題した講義を行った後、参加した中学生と大学院生が一緒に町内を散策しました。町内観光施設の運営者へインタビュー等を行い、街の観光資源や魅力、課題を見つけることができました。最後に、理想の観光ルートを考え、発表を行いました。

人工知能コース

製作した人工知能デバイスを使ってチョキを学習
製作した人工知能デバイスを使ってチョキを学習

じゃんけんのグー・チョキ・パーをコンピューターに学習させ、画像認識を行う人工知能デバイスを製作したり、人工知能を使ったサービスのアイデアを発表したりしました。このコースは、東工大生が代表を務める国際学生サークル「Robogals Tokyo(ロボギャルズ・トーキョー)」が担当しました。Robogals Tokyoは、2008年にオーストラリアで設立されたRobogalsの東京支部として、小~高校生に将来技術者を目指すきっかけを提供すべく、プログラミングのワークショップなどの活動を主に行っています。

午後の部:将来のビジョンを考える

大学院生・大学生との座談会
大学院生・大学生との座談会

大学院生・大学生がどのようにして、やりたいこと、学びたいことを見つけたのかについてパネルディスカッションを行った後グループ毎に分かれ、将来どのようなことをしたいかなどを話し合いました。松野町の中学生にとっては、東京の大学生と話す貴重な機会となり、将来について考えるきっかけとなりました。

参加者した中学生の声

参加した中学生からは「松野町は頑張っているなと知ることができた。田舎くさい感じが苦手だったけれど、まあまあ良い所だなと思った」「自分が繋げた回路で人工知能が動いて感動した」「自分の将来に自信がついた」などの声が聞かれました。

リーダーを務めた土屋泰樹さんと逢坂仁葵さん(グローバルリーダー教育院 修士課程2年)のコメント

昨年5月からこのワークショップの準備を進めました。私たちやメンバーの、まちづくりや電子機械、人工知能の研究の専門性を生かし、体験してもらうことで、中学生が学ぶことの楽しさ、面白さに気づき、そして、将来への視野が広がったと感じてくれて、とても嬉しかった。自分自身の本当に好きなことを見つけ、将来に向けて、楽しく頑張って欲しいです。

グローバルリーダー教育院とは

科学技術分野に強みを有する東工大ならではの持ち味を活かし、全学を挙げて設置した国際的リーダー人材を養成する学位プログラムを有する修士課程・博士後期課程を一貫した教育課程として2011年4月に設置されました。

全学院から学生を募り、個々の専攻分野における深い専門知識をベースに、そのスキルを他分野の科学技術の発展に活かすことのできる素養、日本や世界における文化の理解と国際性、技術経営に関する知識、コミュニケーション能力、俯瞰力や行動力を備えた「真のグローバルリーダー」を育成することを最大の目的としています。

グローバルリーダー教育院は、2019年3月末をもって文部科学省博士課程教育リーディングプログラム事業による支援期間が終了しましたが、2019年4月以降も「グローバルリーダー教育課程outer」として継続します。

また、本イベント開催にあたっては、東京工業大学基金事業「理科教育振興支援」による支援を受けました。その他、宇和島ケーブルテレビ、愛媛新聞には本ワークショップの様子が取り上げられました。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

グローバルリーダー教育課程事務室

E-mail : agl.jim@agl.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3116

Slush Tokyo 2019 エンジニアリングデザインプロジェクト出展報告

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2月22日~23日にかけて、東京ビッグサイトで「Slush Tokyo(スラッシュ トーキョー) 2019」が開催され、東工大エンジニアリングデザインコースの実践型科目「エンジニアリングデザインプロジェクト」から生まれた製品・サービスが出展されました。Slush Tokyoは、世界80ヵ国から投資家やスタートアップなど6,000名以上が参加し、400名のボランティアで運営する世界最大級のスタートアップイベントです。フィンランド発祥のイベントで、東京では5回目の開催です。東工大は、2017年に日本の大学として初めてSlush Tokyoにブースを出展し、今年で3回目の参加になります。

エンジニアリングデザインプロジェクトとは

本学大学院生が東京藝術大学・武蔵野美術大学の学生、社会人とともに5~6名のチームを組んで、半年間、協力企業から提供された課題にデザイン思考のフレームワークで取り組みます。ユーザーリサーチを通じて焦点を絞り、ユーザー像を特定して問題を再定義し、新たなユーザー体験を提供する製品・サービスの高度プロトタイプ実装までを行う授業です。 今年度は、9社の協力企業による課題提供があり、Slush Tokyoではその中の5チームが会場を訪れた投資家や企業の新規事業開発担当者などに製品・サービスを説明しました。

東工大の参加チーム

チーム「シャンシャンFC(エフシー)」は、パナソニック株式会社、東京藝術大学の学生と、ブラインドサッカーの観戦体験をデザインしました。東京2020のパラリンピック競技であるブラインドサッカーは、視覚に障がいのある選手らがアイマスクをつけてボールの音と声でコミュニケーションを取りながらプレーを行うため、その妨げにならないよう観戦者は声を出せません。そこで、観戦者同士が振動で感動を共有して盛り上がることを可能にする「にぎにぎブラボー」をデザインしました。にぎにぎブラボーは、試合中に観戦者1人1人が持って興奮したときに握ってもらうことで、他の人の持つにぎにぎブラボーが振動して感動を振動で共有できるようにしています。初めて観戦する人でも、このタイミングのこのプレーが魅力的であると知ることができ、ブラインドサッカーならではの魅力を感じながら試合を楽しむことができます。

チームシャンシャンFCがデザインしたにぎにぎブラボー
チームシャンシャンFCがデザインしたにぎにぎブラボー

シャンシャンFC PV

チーム「ぱんだ」は、株式会社オロ、武蔵野美術大学の学生と、発達障がい児のための「お金が見える」教育ツール「mirumiru(ミルミル)」をデザインしました。発達障がい児が自立を目指す上でお金の管理の問題があります。電子マネーはお金を使っている感覚がなく使いすぎてしまうことと、相場が分からず高すぎるものを買ってしまう恐れがあるためです。そこで、ICカード用のケース型デバイスに予め保護者が用途と金額を提示して、お金の使い方の目安を教えるプロダクトをデザインしました。

チームぱんだが開発したmirumiru
チームぱんだが開発したmirumiru

2018 東工大 EDP-BC Team-ぱんだ

また、チーム「nandarone(ナンダローネ)」は、エイベックス株式会社、武蔵野美術大学の学生と、ライブ終了後に気の合う友人を見つける体験をデザインした「Re:miX(リ:ミックス)」を展示しました。Re:miXは、ライブに参加する際に装着する腕輪で、心拍数を測定して一定以上の心拍数となった時間を記録し、2分間のライブ音源を録音します。心拍数を計測した時間によってLEDの発光色が変化し、自分の感性に近い同じ色の人を見つけやすくしたり、2つの腕輪を近づけると音源が再生される仕組みにより、1人で参加しても気の合う友人を増やしたり、周囲のファンと交流するきっかけを提供します。

チームnandaroneが製作したRe:miX
チームnandaroneが製作したRe:miX

Re:miX

会場では、手にとって体験できるハードウェアの展示が目立ったようです。

各チームが提案する新たな価値に対して、5チーム全ての説明を聞きに来た熱心な学生や、障がい者支援を行っている会社を紹介してくれた投資家、どのようなフレームワークで開発を行ったのかを質問する新規事業の開発担当者など数多くの来場者の関心を集めました。

今回は、授業終了が開催時期に近かったため、選抜されたメンバーがプレゼンテーションを行うピッチコンテストへの出場はかないませんでしたが、参加した東工大生からは、「スタートアップのホットな分野を実感できました」「起業に対する心理的ハードルが下がりました」「関係者ではない本当の意味での他人の意見を聞けて多くのことを学べました」といった感想が集まりました。

エンジニアリングデザインコースとは

大学院課程のエンジニアリングデザインコースは、既存の科学・工学体系を俯瞰的に理解しながらもその枠に囚われずに、人類が抱える様々な課題の解決に寄与し、社会で求められる新たな技術・価値・概念の創出に貢献できる能力、すなわち、エンジニアリングデザイン能力の涵養を目標としています。

異なる学問領域を融合し、新たな学問領域を確立した上で教育にあたる先駆的なコースとして複数の学院や系にまたがっている「複合系コース」の1つです。工学院の機械系、システム制御系、経営工学系、及び環境・社会理工学院の建築学系、土木・環境工学系、融合理工学系に設置されています。

東工大エンジニアリングデザインコースおよびCBEC(チーム志向越境型アントレプレナー育成)プログラムでは、2020年2月か3月に予定されているSlush Tokyo 2020に向けた学生ボランティア募集説明会の開催や、学生派遣を予定しています。また、東工大社会人アカデミーでは、社会人受講生を募集しています。興味を持った方は、下記までお問い合わせください。

お問い合わせ先

チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム事務局

E-mail : query@cbec.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3475

5月の学内イベント情報

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5月に本学が開催する、一般の方が参加可能な公開講座、シンポジウムなどをご案内いたします。

東工大留学フェア2019

東工大留学フェア2019

海外留学を考えているみなさんのための「東工大留学フェア2019」を開催します。

留学経験者による体験談、留学プログラムの説明、大使館担当者による各国の紹介の他、各ブースにて個別相談ができます。

「留学費用ってどれくらい?」「何のために留学する?研究?インターン?語学?」等々、ぜひ参加して、留学に対する疑問をこの機会に解消し、自身の留学のイメージをふくらませてください。

日時
5月8日(水) 12:15 - 17:30
会場
参加費
無料
対象
在学生、一般
申込
不要

東工大コンサートシリーズ2019年春「クラシックとジャズにおける即興の精神~北村英治&平塚太一」

東工大コンサートシリーズ2019年春「クラシックとジャズにおける即興の精神~北村英治&平塚太一」

2015年から当時の理工学研究科工学系(工学部)の企画・広報委員会の行事として始まった東工大コンサートシリーズは、科学者を触発し続けてきた芸術を愉しむ会です。

今回は、ベニー・グッドマンの以後のジャズ・クラリネットの世界的スターにして90歳のレジェンド北村英治さんをお迎えして、即興の精神と題した演奏会を企画しました。前半はクラシック音楽、後半がジャズという2部構成です。

北村英治さんの父、北村政治郎博士は、世界初の実用無線電話「TYK式無線電話機outer」の開発者の一人であり、NHKの前身であるラジオ局JOAKの初代技師長としても活躍した通信技術の権威です。今回、北村博士の活躍の後、テレビ開発に成功した高柳健次郎博士、大容量長距離光ファイバ通信の実現と発展に貢献した末松安晴博士を育んだ東工大に英治さんをお招きします。

日時
5月9日(木)
第1部18:00開演(17:45開場) 第2部19:00開演(入れ替えなし、20:00終演予定)
会場
参加費
無料
対象
どなたでも参加できますが、未就学児童はお断りしております。
申込
当日先着順(定員320名)

すずかけサイエンスデイ2019

すずかけサイエンスデイ2019

5月11日(土)、12日(日)の2日間にわたり、すずかけ台キャンパスにて「すずかけサイエンスデイ」を開催します。東工大のなかでも特に研究に力を注いでいる、すずかけ台キャンパスの最先端の研究成果を広く公開し、科学をより身近に感じていただくためのイベント、それが「すずかけサイエンスデイ」です。

50以上のさまざまな分野の研究室が参加する研究室公開をはじめ、博物館・附属図書館の公開、東工大同窓会(蔵前工業会)や学生サークルによる子ども向け実験教室が行われます。さらに、従来の「すずかけ祭」で親しまれてきた企画(学生によるイベント、模擬店、スタンプラリー、女子美術大学とのコラボレーション企画など)も引き続き実施します。

また、同日開催のオープンキャンパスでは、大学院全学説明会と学院・系の個別説明会を行います。東工大の受験を考えている方はもちろんのこと、東工大での学業や学生生活の雰囲気を知りたいという方にとっても、教員や学生から直接話を聴くことのできる絶好の機会です。

日時
5月11日(土)、12日(日)10:00 - 16:00
会場
参加費
無料
申込
不要(ただしくらりかと緑区企画は必要)

Institutional Research論(第1期2019年5月~8月、第2期2019年8月~12月開催)

Institutional Research論(第1期2019年5月~8月、第2期2019年8月~12月開催)

大学IR(Institutional Research)は教学分野で遂行され、近年、多くの大学において大学の運営に関わるIRも求められるようになってきています。本講座では、IR実務者のスキルアップのためにIRの背景、基礎、応用を最先端のIR実務者による講義も含めた内容から学びます。

日時
第1期:5月11日(土) - 8月17日(土)、第2期:8月31日(土) - 12月7日(土)(隔週土曜日)
会場
受講料
98,000円(税込)
対象
大学におけるIR実務者
申込
必要(第1期、第2期とも定員20名ずつ)

ベンチャー未来塾2019

ベンチャー未来塾2019

本講座は2014年度に開講し、新たなビジネスチャンス獲得の場として、高い評価をいただいてきました。国の政策・立案に関わる府省庁関係者や新興上場企業執行役員が集い、毎回、講義とディスカッションを行います。開講以来、課題解決力を模索し、共に新たなビジネスチャンスを得られる場としてご好評いただいております。

共に未来を構想し、今後の豊かなネットワークを得るための場として、皆様のご受講を心よりお待ちしております。

日時
5月21日(火)、5月28日(火)、6月4日(火)、6月11日(火)、6月18日(火)、6月25日(火)
会場
新丸の内ビルディング10F 東京21cクラブ
受講料
198,000円(税込)
対象
新興企業などで意思決定に関わる方
申込
必要(定員20名、5月8日(水)まで)

ホームカミングデイ2019

ホームカミングデイ2019

ホームカミングデイは、年に一度の交流イベントです。卒業生の方は、同窓生や先輩、後輩、恩師と旧交を深めていただき、在学生には、卒業生との貴重な交流の場として、地域の方々には、東工大について知っていただく場となればと思います。

イベントスケジュール等はホームカミングデイのウェブページでお知らせしていますのでご覧ください。

また、当日の夕方に開催いたします懇親会「ホームカミングデイ2019全体交流会」の申し込みも受付中です。

日時
5月25日(土)10:00 -
会場
東京工業大学 大岡山キャンパス
参加費
無料(全体交流会会費あり)
対象
本学の学生・教職員、一般
申込
不要(一部、事前または当日申込みが必要な企画があります)

2019年度おおた区民大学(第22回東工大提携講座)「宇宙(そら)は広いな、大きいな」

2019年度おおた区民大学(第22回東工大提携講座)「宇宙(そら)は広いな、大きいな」

本年度も、大田区と東工大が連携して、大田区主催の区民大学が開催されます。今年のテーマは、「 宇宙(そら)は広いな、大きいな」です。

宇宙は、人類が誕生したときから私たちを引きつけてきましが、技術の進歩でさらに新しい姿を見せつつあります。例えば「ハヤブサ2」が小惑星の観測データを送り始め、重力波観測ではアメリカやイタリアに続き日本のKAGURAがもうすぐ稼働し本格的な観測体制に入ります。また火星やいくつかの惑星で見つかる水の存在と生命誕生の可能性、そして太陽系以外に次々と発見される系外惑星など話題が尽きません。今年は、この「宇宙」に目を向けその最前線の研究内容を6回にわたり専門の先生方に紹介いただきます。

日時
5月29日(水)、6月5日(水)、6月12日(水)、6月19日(水)、6月26日(水)、7月3日(水)各日19:00 -
会場
参加費
無料(全体交流会会費あり)
対象
原則として区内在住・在勤・在学の16歳以上の方
申込
必要(定員80名、応募者多数の場合は抽選、5月15日必着)

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

細野秀雄特命教授に栄誉教授の称号を授与

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4月16日、すずかけ台キャンパスにおいて、元素戦略研究センターの細野秀雄特命教授(同センター長)に、益一哉学長から栄誉教授の称号が授与されました。

益学長(左)から細野特命教授(右)へ称号記を授与

益学長(左)から細野特命教授(右)へ称号記を授与

この称号は、本学教授、退職者、卒業・修了生のうち、ノーベル賞や文化勲章、文化功労者、日本学士院賞など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた者に対して付与されるものです。

細野特命教授は、常識を覆す鉄系超伝導物質の発見を始め、液晶ディスプレイや有機EL(イーエル)テレビに使用されているIGZO(イグゾー)半導体の創出や、エネルギー産業や新たな有用化学物質合成分野への波及効果が期待される電子化物を用いた低温・低圧でのアンモニア合成方法など、卓越した研究を行ってきました。

これらの業績により、2009年に藤原賞、2010年に朝日賞、2013年にトムソン・ロイター引用栄誉賞、2015年に恩賜賞・日本学士院賞、2016年に日本国際賞等を受賞するとともに、2017年には英国王立協会外国人会員にも選出されています。

今回、これまでの研究業績や受賞に対して、栄誉教授の称号が授与されました。

称号記授与式終了後、学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)等を交えて、細野特命教授を囲んで終始和やかな雰囲気のうちに閉会しました。

称号記を手に

称号記を手に

お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

世界初!DNAオリガミを融合した分子人工筋肉を開発 ナノからマクロスケールまで広範に適応する再生可能なソフトアクチュエーターとして期待

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ポイント

  • バイオテクノロジーとDNAナノテクノロジーの融合で自在にサイズ変更できる分子人工筋肉を開発
  • 再生可能な化学エネルギーを力学エネルギーへと高効率に変換可能
  • 医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンなどへの動力源として期待

概要

北海道大学 大学院理学研究院の角五 彰准教授、関西大学 化学生命工学部の葛谷明紀教授、東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の小長谷明彦教授らの研究グループは、モータータンパク質[用語1]DNA[用語2]からなるオリガミ[用語3]を組み合わせることで、化学エネルギーを力学エネルギーに直接変換する分子人工筋肉の開発に世界で初めて成功しました。

モータータンパク質は、化学エネルギーを力学的な仕事へと変換するナノメートルサイズの分子機械です。バイオテクノロジーの発展によりモータータンパク質の合成が可能となり、優れたエネルギー変換効率と高い比出力特性(一般的な電磁モーターの20倍)を有しているため、マイクロマシンや分子ロボットの動力源として期待されています。しかし、ナノメートルサイズのモータータンパク質を秩序立てて目に見える大きさにまで組み上げることはこれまで不可能でした。

本研究では、バイオテクノロジーにより合成されるモータータンパク質とDNAナノテクノロジーにより合成されるDNAナノ構造体(DNAオリガミ)を組み合わせることで、自在にサイズを制御可能な分子人工筋肉の開発に成功しました。これにより、化学エネルギーで駆動するミリメートルからセンチメートルサイズの動力システムが実現し、将来的には医療用マイクロロボットや昆虫型ドローンなどの動力源として期待されます。

なお、本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代人工知能・ロボット中核技術開発プロジェクトの一つとして行われ、北海道大学、関西大学、東京工業大学がDNAオリガミを融合した分子人工筋肉のグランドデザインを考案しました。DNAオリガミの設計と調製は関西大学が、モータータンパク質の合成とDNAオリガミとの複合化、化学エネルギーによる分子人工筋肉の動作発現は北海道大学が、プロジェクトの運営管理は東京工業大学が行いました。

また、本研究成果は、2019年4月30日(火)公開のアメリカ化学会刊行Nano Letters誌に掲載されました。

分子人工筋肉のイメージ図

分子人工筋肉のイメージ図

背景

現在、超スマート社会[用語4]に向け、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)により進化するサイバー空間(仮想空間)とマテリアルの革新によるフィジカル空間(現実社会)の融合が求められています。特に、仮想空間からの情報を現実世界に作用させるアクチュエーター[用語5]技術の開発が強く望まれています。

これまで、有機材料を用いたソフトアクチュエーター(人工筋肉)が数多く開発されてきましたが、比出力特性(重量当たり出力)や設計サイズの自由度の低さ、電気エネルギーへの依存などが課題でした。これらの課題を解決するキーマテリアルとして、再生可能な化学エネルギーを高効率で力学エネルギーに変換する生体由来の分子機械「モータータンパク質」などが、近年特に注目されています(発動分子科学outer)。しかし、ナノメートルサイズの分子機械を巨視的(マクロ)な構造にまで組み上げることは大変難しく、高いスケーラビリティやデザイン性、造型性を有する合理的な設計法の確立が望まれていました。

研究チームはこれまでに、ロボットの三要素であるアクチュエーター、センサー、プロセッサーをそれぞれモータータンパク質とDNAを化学的な手法で組み合わせることで、外部からの信号に応答して自発的に群れをつくる世界初の”分子群ロボット”を開発してきました(Nature Commun. 2018, 9, 453)。

本研究では、この分子群ロボットと同じ素材を用い、分子パーツから組み上げることで、数千倍までスケールアップし、実際に駆動可能であることを実証しました。

研究手法及び研究成果

研究チームは、DNA二重らせんを6本チューブ状に束ねたDNAオリガミ構造体を設計し、側面から39本のDNA鎖が生えた構造体を作製しました。さらに、化学的な手法を用い、相補的なDNA鎖を修飾した微小管を作製しました。このDNAオリガミ構造体とDNA修飾微小管を混合させると、微小管が放射状に集合化した「アスター構造」と呼ばれる集合体が形成されることがわかりました。ついで、ストレプトアビジンタンパクで四量化したキネシンを加えると、アスター構造がさらに集合化して、ミリメートルサイズの網目構造が形成されました。最後に、化学エネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)[用語6]を加えると、元の大きさの1/40にまでなる急激な収縮運動が観察されました(図)。DNAオリガミ構造体を加えない系でも同様の収縮が起こりますが、その速度を比べると、DNAオリガミ構造体を加えた系の方がおよそ18倍速いことがわかりました。

このことは、DNAオリガミ構造体を介して微小管の高次の階層構造が形成されていることを意味しています。本研究で得られた収縮系は、人のからだで心臓や内臓などを動かしている平滑筋という細胞を模倣した「分子人工筋肉」といえます。

なお、本研究はNEDOの委託研究開発、次世代人工知能・ロボット中核技術開発/(革新的ロボット要素技術分野)生体分子ロボット/分子人工筋肉の研究開発として行われています。

分子人工筋肉の概略図

図. 分子人工筋肉の概略図

DNA修飾微小管とDNAオリガミ構造体を混合させることでアスター構造が自発的に形成される。さらに、ストレプトアビジンタンパクで四量化したキネシンを加えると、アスター構造がさらに自発的に組織化し、ミリメートルサイズの網目構造が形成される。ここにアデノシン三リン酸(ATP)を加えると、アスター構造同士がキネシンにより引き寄せられ収縮が起こる。(右) ATPの導入により収縮する分子人工筋肉の蛍光顕微鏡写真。スケールバー:500マイクロメートル(=0.5ミリメートル)。

今後への期待

今回開発した分子人工筋肉は、電気を使わず、磁場にも影響されず、生体適合性の高い安心安全な医療用マイクロロボットのアクチュエーターとして、また、高い比出力特性・スケーラビリティを活かした昆虫型ドローンなどの動力源として期待されます(前者はNEDOプロジェクト、後者は新学術領域研究 発動分子科学分野で研究開発中)。

用語説明

[用語1] モータータンパク質 : アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解によって生じる化学エネルギーを 運動に変換するタンパク質。生物のほぼ全ての細胞に存在しており、物質の輸送や細胞分裂に関わっている。アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。本研究では微小管とキネシンを使用した。

[用語2] DNA : デオキシリボ核酸の略。ATGCの四種の塩基配列情報に基づく高度な分子認識能力をもち、 生体内で遺伝子情報の保存と伝達を担っている。近年、DNA の化学合成が容易になってきたことから、この分子認識能力を活用して、複雑なナノ構造体(DNA オリガミ)やデジタルデータの記録のほか、数学的問題を解くことのできるDNA コンピューター(計算機)などへも応用されるようになった。

[用語3] オリガミ : 非常に長い一本鎖のDNAを一筆書き状に折りたたんで、これを多数の短い相補的なDNAでかたちを固定化することにより、メゾスケール(サブミリメートル)の望みの構造体を作る技術。2006年の発明当初は平面構造しか作ることができなかったが、近年は複雑な立体構造を作ることもできるようになってきた。

[用語4] 超スマート社会 : 必要なもの・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供し、社会の様々なニーズにきめ細やかに対応でき、あらゆる人が質の高いサービスを受けられ、年齢、性別、地域、言語といった様々な制約を乗り越え、活き活きと快適に暮らすことのできる社会。

[用語5] アクチュエーター : さまざまなエネルギーを機械的な動きに変換し、メカトロニクス機器を正確に動かす駆動装置。

[用語6] アデノシン三リン酸(ATP) : 動物、植物、菌類からバクテリアまで全ての生き物が利用する 再生可能なエネルギー。筋収縮だけなく、細胞内物質輸送やイオンポンプ、発光などにも使われ、 生体のエネルギー通貨とも形容される。

論文情報

掲載誌 :
Nano Letters(アメリカ化学会刊行のナノテクノロジー専門誌)
論文タイトル :
Artificial Smooth Muscle Model Composed of Hierarchically Ordered Microtubule Asters Mediated by DNA Origami Nanostructures(DNAオリガミ構造体を介して高次組織化された微小管アスター構造に基づく人工平滑筋モデル)
著者 :

松田健人1、Arif Md. Rashedul Kabir2、赤松直秀4、齋藤あい1、石川竣平4、松山剛士4、 Oliver Ditzer5、Md. Sirajul Islam6、大矢裕一4,6、佐田和己3、小長谷明彦7、葛谷明紀4,6、 角五 彰3

(1 北海道大学 大学院理学院、2 北海道大学 大学院総合化学院、3 北海道大学 大学院理学研究院、4 関西大学 化学生命工学部、5 ドレスデン工科大学 化学及び食品化学部、6 関西大学 先端科学技術推進機構、7 東京工業大学 情報理工学院 情報工学系)

DOI :
公表日 :
2019年4月30日(火)(オンライン公開)
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お問い合わせ先

北海道大学 大学院理学研究院 准教授 角五彰

E-mail : kakugo@sci.hokudai.ac.jp

Tel : 011-706-3474 / Fax : 011-706-3474

関西大学 化学生命工学部 教授 葛谷明紀

E-mail : kuzuya@kansai-u.ac.jp

Tel : 06-6368-0829 / Fax : 06-6368-0829

東京工業大学 情報理工学院 教授 小長谷明彦

E-mail : kona@c.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5655 / Fax : 045-924-5655

配信元

北海道大学 総務企画部広報課

E-mail : kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

Tel : 011-706-2610 / Fax : 011-706-2092

関西大学 総合企画室広報課

E-mail : kouhou@ml.kandai.jp

Tel : 06-6368-0201 / Fax : 06-6368-1266

配信元 及び 取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


リコーと次世代デジタルプリンティング技術の共同研究講座を開設

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東京工業大学(以下「東工大」)と株式会社リコー(以下「リコー」)は4月1日、「リコー次世代デジタルプリンティング技術共同研究講座」を開設しました。次世代デジタルプリンティング技術の核となる要素技術研究を行い、技術の開発・設計を提示します。

東工大 工学院 機械系の武田行生教授とリコーは、学術指導「リコー東工大新技術研究会」を3年6ヵ月行っており、本講座の開設はこの学術指導を発展させたものです。商用・産業用インクジェット印刷のインク着弾からメディア浸透、乾燥までの熱流動・材料挙動の基礎現象を解明し、次世代製品の開発につなげて行くことを目指します。

講座開設にあたり、益一哉東工大学長と坂田誠二リコー専務執行役員CTO(最高技術責任者)が懇談し、本講座における研究の加速および東工大とリコーの連携強化について話し合いました。

益学長(左)と坂田リコー専務執行役員CTO

益学長(左)と坂田リコー専務執行役員CTO

本講座の概要

名称
リコー次世代デジタルプリンティング技術共同研究講座
研究実施場所
工学院および物質理工学院
設置期間
2019年4月1日(月) - 2022年3月31日(木)(3年間)
大学代表者
岩附信行 工学院長
共同研究担当教員
工学院 機械系 伏信一慶 准教授(代表)(熱流動、電子機器実装他)、花村克悟 教授(熱流動、ふく射伝熱他)、齊藤卓志 准教授(熱流動、材料加工他)、物質理工学院 材料系 鞠谷雄士 教授(材料、繊維他)、扇澤敏明 教授(材料、高分子他)、森川淳子 教授(材料、熱物性他)
共同研究講座教員
門永雅史 特任教授、加藤弘一 特任講師
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 伏信研究室

E-mail : fushinobu.k.aa@m.titech.ac.jp

生命理工学院 第6回生命理工オープンイノベーションハブ(LiHub)フォーラム ―光先進医療― のご案内

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国立大学法人東京工業大学生命理工学院は、生命科学と生命工学を広くカバーする国内最多の75研究室を擁する学術組織です。「生命理工オープンイノベーションハブ(LiHub)」は、各学術分野の最先端と社会・産業とを橋渡しする協創の場であり、社会 還元を想定した分野テーマごとに、現在、複数の研究室が集結した11研究グループから構成されています。 LiHubフォーラムは、LiHubの活動の一つとして、各研究グループが目指す産学連携のビジョンを企業の皆様と共有すると共に、 企業や社会の皆様からそのビジョンに対する率直なご意見をフィードバックして頂く協創のファーストステップと考えています。

第6回LiHiubフォーラムでは、光による生命現象の制御と医療応用を目指す「光生命制御グループ(LiPhoto)」が中心となり、産学の光先進医療の先端研究に携わる講師による医学、工学、生命科学の話題提供を通して、産官学のさらなる協力を促進する契機にしたいと考えています。

講演後は、ご参加の皆様と光生命制御グループを含む各LiHub研究グループの教員とが、自由に意見交換や研究相談などできる交流会を開催します。奮ってご参加ください。

概要

日時
2019年5月23日(木)
場所
大岡山キャンパス 西9号館 ディジタル多目的ホール
参加費
無料(講演会後の交流会ご参加の場合のみ参加費 2,000 円)
参加申込
参加申込フォームouterからお申込みください。
※事前申込締切は2019年5月16日(木)
第6回 生命理工オープンイノベーションハブ(LiHub)フォーラム
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

生命理工オープンイノベーションハブ(LiHub)事務局

E-mail : lihubforum@bio.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5942

量子磁性体でのトポロジカル準粒子の観測に成功 トポロジカルに保護された磁性準粒子端状態の予言

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発表のポイント

  • 量子反強磁性体Ba2CuSi2O6Cl2においてトポロジカル磁気準粒子状態を観測した。
  • 本物質においてトポロジカルに保護された端状態[用語1]が生じることを提案した。
  • 今後端状態の物性を実験的にとらえることができれば、省エネルギー情報伝達材料[用語2]の高度化にもつながることが期待される。

概要

東北大学 多元物質科学研究所 那波和宏助教、佐藤卓教授、東京工業大学 理学院 田中公彦大学院生(研究当時)、田中秀数教授、栗田伸之助教、杉山晴紀大学院生(現在 慶応義塾大学 文学部 助教)、植草秀裕准教授、日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター 中島健次研究主席らの研究グループは、化学式Ba2CuSi2O6Cl2で表される量子反強磁性体において、トリプロンと呼ばれる磁気準粒子がトポロジカルに非自明な状態を形成することを明らかにし、トポロジカルに保護された端状態の存在を提案しました。本物質はトポロジカル絶縁体の最も基礎的な電子模型であるSu-Schriffer-Heeger(SSH)模型を、磁気準粒子を用いて実現する初めての物質例です。本物質で実現する端状態の物性を実験的にとらえることができれば、将来的には省エネルギー情報伝達材料の高度化にもつながると期待されます。

本研究成果は、2019年5月8日(日本時間18時)「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。

詳細な説明

背景

近年、物質の性質をそのトポロジカルな(位相幾何学的な)特徴から理解しようという研究が急速に発展しています。代表的な研究対象であるトポロジカル絶縁体においては、物質の内部と外部の電子波動関数[用語3] の持つトポロジーの違いに起因して物質表面にトポロジカルに保護されたエネルギー散逸の無い電子流が生じることが知られています。無散逸な電子流は、画期的省エネルギー情報伝達材料を実現する可能性があり、現在精力的に研究されています。

トポロジカル絶縁体状態を実現する最も基礎的な電子模型として1次元格子上を電子が流れるSu-Schriffer-Heeger(SSH)模型が知られています[参考文献1]。模式図を図1に示します。この模型において、隣の原子への遷移確率が大小交互に並ぶ場合、電子は原子の対に束縛され絶縁体になります。遷移確率の配列には2種類が考えられますが、中段のように端原子を含む原子対間の遷移確率が大きな場合絶縁体状態は、トポロジカルな性質を持ちません。一方で、下段のように端原子を含む原子対間の遷移確率が小さな場合、端の電子が余り端状態を生じます。この端状態は2次元・3次元トポロジカル絶縁体における表面状態に対応し、トポロジカルに保護されていることが知られています。このようにSSH模型は、トポロジカル絶縁体を理解する非常に単純な模型として受け入れられていました。

磁性体においては、電子スピン(電子の自転)の変動が結晶中を伝播することで、マグノンやトリプロン[用語4]などの準粒子[用語5]の流れが生じることが知られています。これらの磁気準粒子は、電子とは量子力学的統計性[用語6]が異なるものの、同様のトポロジカルな性質を持つと期待されます。したがって、磁気準粒子を用いたSSH模型の実現の可能性が考えられますが、実際に観測された例はこれまでありませんでした。

Su-Schriffer-Heeger(SSH)模型の模式図。上から順に、隣の原子への遷移確率が一様な場合、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質なし)、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質あり)。赤色は余った電子の波動関数の広がりを表す。
図1.
Su-Schriffer-Heeger(SSH)模型の模式図。上から順に、隣の原子への遷移確率が一様な場合、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質なし)、大小交互に並ぶ場合(トポロジカルな性質あり)。赤色は余った電子の波動関数の広がりを表す。

研究手法・成果

今回、本研究グループは、Ba2CuSi2O6Cl2という反強磁性体[用語7]中のトリプロンの波動を中性子非弾性散乱[用語8]を用いて詳細に調べ、この物質においてトリプロン準粒子のSSH模型が実現していること、さらに、トリプロンの波動関数がトポロジカルな性質を持っており、端状態が存在することを突き止めました。

研究グループは、塩化ケイ酸バリウム銅(Ba2CuSi2O6Cl2 [参考文献2])の単結晶試料を育成し、中性子非弾性散乱を用いてトリプロンの分散関係[用語9]を精密に測定しました。実験には大強度陽子加速器施設(J-PARC[用語10])物質・生命科学実験施設に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERAS[用語11]を使用しました(図4)。中性子非弾性散乱によって観測された本物質のトリプロンの分散関係を図2に示します。詳細な解析を行うと、トリプロン準粒子の分散関係が2次元的に結合したSSH模型を用いて理解できることが明らかになりました。上側の1本の分散は2.6 meVにおいて小さなエネルギーギャップを伴う分裂を示しています。 このエネルギーギャップはトリプロンが隣のサイトへと動く確率が大小交互に並んでいることを示しています。ところで、SSH模型はXY成分のみをもつ仮想磁場中に置かれた1つのスピンの問題に置き換えられることが知られています。今回の実験で得られたSSH模型に対応する分散関係の計算結果とそれぞれの運動量における仮想磁場を図3に示します。運動量が左から右に変化するに伴い仮想磁場が1回転していることがわかります。この仮想磁場の回転はギャップ上下の準粒子に逆向きに回転する位相を与えます。この結果、準粒子の分散は非自明なトポロジーで特徴付けられることになり、試料端においてはギャップの中心に端状態が生じることになります。このように現実の磁性体においてSSH模型との対応を示した例は本物質が初めてです。以上の結果は本物質においてもトリプロンの端状態が存在しうることを示しています。

(上)非弾性中性子散乱実験によって観測されたトリプロンの分散関係。上側の1本の分散が2.6 meVにおいてエネルギーギャップを持っている。(下)遷移確率が大小交互に並ぶ場合に予想されるトリプロンの分散関係。実験結果とよく一致している。
図2.
(上)非弾性中性子散乱実験によって観測されたトリプロンの分散関係。上側の1本の分散が2.6 meVにおいてエネルギーギャップを持っている。(下)遷移確率が大小交互に並ぶ場合に予想されるトリプロンの分散関係。実験結果とよく一致している。
Ba2CuSi2O6Cl2でのトリプロンの分散関係を2次元的に結合するSSH模型を用いて再現したもの。三角錐はSSH模型における仮想磁場を表している。
図3.
Ba2CuSi2O6Cl2でのトリプロンの分散関係を2次元的に結合するSSH模型を用いて再現したもの。三角錐はSSH模型における仮想磁場を表している。
大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERASの模式図。
図4.
大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器AMATERASの模式図。

今後への期待

実際にSSH模型を実現する物質が発見されたことにより、今後端状態の織りなす物性が実験的に明らかになることが期待されます。例えば、トリプロンは熱を運ぶ性質があります。熱は電気伝導とは異なりジュール熱によるエネルギー損失がないことから、将来的には新しい省エネルギー情報伝達材料の開発につながることが期待されます。

参考文献

[1] W. P. Su, J. R. Schrieffer, and A. J. Heeger, Phys. Rev. Lett. 42, 1698 (1979).

[2] M. Okada, H. Tanaka, N. Kurita, K. Johmoto, H. Uekusa, A. Miyake, M. Tokunaga, S. Nishimoto, M. Nakamura, M. Jaime, G. Radtke, and A. Saúl. Phys. Rev. B 94, 094421 (2016).

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Triplon band splitting and topologically protected edge states in the dimerized antiferromagnet
著者 :
K. Nawa, K. Tanaka, N. Kurita, T. J. Sato, H. Sugiyama, H. Uekusa, S. Ohira-Kawamura, K. Nakajima, and H. Tanaka
DOI :

本研究は、科研費基盤研究(A)(JP17H01142)、基盤研究(C)(JP16K05414 及びJP17K05745)、新学術領域研究(JP18H04504)、挑戦的萌芽研究(JP17K18744)、国際共同研究強化(JP18KK0150)の研究費支援を受け、また、北海道大学・東北大学・東京工業大学・大阪大学・九州大学の共同研究ネットワークである「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」の助成を受けたものである。

用語説明

[用語1] 端状態 : トポロジカル物質とその外側(真空状態)との境界に現れる特別な状態のこと。ここでは、無散逸で流れ続けるスピン流など。

[用語2] 省エネルギー情報伝達材料 : 端状態では準粒子を無散逸で伝達できる。この性質を利用したスピン流の無散逸デバイス、すなわち無散逸スピントロニクスデバイスは、熱が発生しない、信号を確実に伝達するための電圧制御のための回路がいらない、等から計算機用素子の回路を小型化できるメリットがある。

[用語3] 波動関数 : あらゆる粒子は粒子の性質だけではなく波の性質も持っている。この波の性質を関数の形で表したものが波動関数である。

[用語4] マグノン・トリプロン : 電子はそれ自身の持つ自転運動によって磁石の性質を帯びている。これをスピンという。磁性体ではスピンの集団運動によってスピンの変動が波のように伝搬する。このようなスピンの波を量子化した準粒子をマグノンと呼び、原子やイオンの振動を量子化したフォノンに対応する。特にBa2CuSi2O6Cl2のように、2つのスピンが強く結合した磁性体では、量子力学的結合状態(トリプレット状態)の集団運動が波のように伝搬する。これをトリプロンと呼ぶ。

[用語5] 準粒子 : 固体中では電子をはじめとする粒子が様々な相互作用で絡み合っている。このとき粒子と相互作用をひとまとめにし、固有の運動量とエネルギーを持った仮想的粒子を定義すると、この粒子はほとんど相互作用していないと見なせる場合がある。こうして新しく定義した仮想的粒子を準粒子という。磁性体の磁気の強さは準粒子マグノンやトリプロンの数で決まる。また、エネルギーは個々の準粒子の持つエネルギーの総量で決まる。

[用語6] 統計性 : 量子力学においては粒子には固有の統計性がある。電子などのフェルミオンに分類される粒子は、同一の状態を2つの粒子が占有できない(パウリ排他律)というフェルミ統計に従う。一方、光子などのボソンに分類される粒子は複数占有が許されるボース統計に従う。マグノンやトリプロンは(低密度の範囲では)ボース統計に従う。

[用語7] 反強磁性体 : 磁石として広く知られている磁性体はおもに強磁性体であり、構成する磁性原子のスピンの方向が揃っている。一方、磁性体には構成する磁性原子のスピンが互い違いに配列し、合計として打ち消しあっているものもある。このような磁性体を反強磁性体と呼ぶ。

[用語8] 中性子非弾性散乱 : 原子炉や加速器で作られた中性子を物質に入射し、散乱される中性子のエネルギーや運動量を調べることにより物質中のスピンの運動を調べる手段。中性子はスピンを持つが電荷を持たないため、物質中の電子スピンを選択的に観測することができる。

[用語9] トリプロン分散関係 : トリプロンの生成エネルギーの波数依存性。分散関係を測定する最も代表的な手法が中性子非弾性散乱である。

[用語10] J-PARC : 大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。茨城県東海村で高エネルギー加速器研究機構と原子力機構が共同で運営している先端大型研究施設。その中にある物質・生命科学実験施設(MLF)では、世界最高クラスの強度の中性子およびミュオンビームを利用して、素粒子・原子核物理学、物質・生命科学などの基礎研究から産業分野への応用研究まで広範囲にわたる分野での研究が行われている。

[用語11] 中性子非弾性散乱分光器AMATERAS : 大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された中性子非弾性散乱分光器(図4)。新開発の機器や新しい測定手法を組み合わせることで原子・スピンの運動を極めて高精度、低バックグラウンドで測定することができる。

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お問い合わせ先

東北大学 多元物質科学研究所

助教 那波和宏

E-mail : knawa@tohoku.ac.jp
Tel : 022-217-5350

教授 佐藤卓

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取材申し込み先

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

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東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

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日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門

J-PARCセンター 広報セクション

E-mail : pr-section@j-parc.jp
Tel : 029-284-4578

サリドマイドの標的タンパク質セレブロンが脳の神経幹細胞の増殖を制御することを解明

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要点

  • サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンは、脳の神経幹細胞の増殖を制御して頭部を拡大・縮小させることをゼブラフィッシュのモデル系で明らかにしました。
  • 本成果により、サリドマイド類似薬が神経幹細胞に作用する可能性が示唆されました。本研究の知見を利用することで、神経幹細胞の増殖を促す新たな薬剤開発も期待されます。

概要

東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座の半田宏特任教授(東京工業大学名誉教授)および東京工業大学 生命理工学院の山口雄輝教授らのグループは、サリドマイドが結合する標的タンパク質であるセレブロンが、脳の神経幹細胞の増殖を制御することで、頭部を縮小・拡大させることを、ゼブラフィッシュのモデル系を用いて明らかにしました(図1)。

サリドマイド処理とセレブロンの発現抑制・発現増加が脳の発生に及ぼす作用

図1. サリドマイド処理とセレブロンの発現抑制・発現増加が脳の発生に及ぼす作用


サリドマイド処理もしくはセレブロンの発現抑制で頭部が縮小し、セレブロンの過剰発現で頭部が拡大する。これらの表現型は、セレブロンが神経幹細胞の増殖を制御していることで説明可能である。

セレブロンは、半世紀前、服用した妊婦の胎児に深刻な奇形を引き起こした薬剤サリドマイドの主要な細胞内標的因子として半田特任教授、東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座の伊藤 拓水准教授らによって同定され、2010年にScience誌に報告されました。セレブロンは、タンパク質の分解を司るE3ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子であり、分解すべき基質タンパク質を認識する役割を担っています。

今回、半田特任教授、山口教授らの国際共同研究グループは、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュを用いて、セレブロンが発生初期の脳において神経幹細胞の増殖を制御し、頭部の縮小や拡大をもたらすことを明らかにしました(図1)。今回の研究成果により、サリドマイドと類似した構造を持つ化合物(サリドマイド類似体)が、セレブロンと結合して、脳の神経幹細胞に増殖に作用する可能性が示唆されました。本研究で得られた知見から、脳の神経幹細胞の増殖を制御する新たな薬剤の開発も期待されます。本研究成果は、米科学誌「iScience」の電子版に4月9日に掲載されました。

研究の背景

サリドマイドは、1950年代に鎮静剤として開発されましたが、妊娠中の女性が服用すると新生児の手足や耳などに発生障害(奇形)をもたらすことから、世界的な薬害を引き起こし、1960年代前半に一度市場から撤退を余儀なくされました。新生児は、サリドマイドに暴露された時期により異なる奇形を示し、妊娠初期に暴露されると自閉症を引き起こします。しかし、サリドマイドが脳の発生にどのように作用するのかは全く明らかにされていませんでした。

本研究で得られた結果・知見

研究グループはまず、脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュは、サリドマイド処理により頭部が縮小することを示しました(図2)。次に、サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンの発現を抑制すると、頭部原基でp53依存的な細胞死が誘導され、頭部縮小をもたらすことを明らかにしました(図3)。反対に、セレブロンを過剰発現すると頭部が拡大し(図4)、脳の神経幹細胞が増加しました(図5)。セレブロンの過剰発現により、頭部原基が形成される発生初期からSOX2を発現する神経幹細胞が増加し、その結果、神経幹細胞から生み出される神経細胞やグリア細胞も増加していました(図1)。このことが、セレブロン過剰発現による頭部拡大をもたらしていると考えられます。

ゼブラフィッシュ胚の頭部に対するサリドマイドの影響

図2. ゼブラフィッシュ胚の頭部に対するサリドマイドの影響


200 µMもしくは400 µMのサリドマイド存在下で発生したゼブラフィッシュ胚は、より小さな頭部をもつ。

セレブロンの発現抑制は脳でp53依存的に細胞死を誘導する

図3. セレブロンの発現抑制は脳でp53依存的に細胞死を誘導する


(左)セレブロンの発現抑制により細胞死(赤い蛍光)が誘導されるが、p53の発現をあらかじめ抑制しておくと細胞死が誘導されない。
(右)細胞死のレベルを定量化したグラフ。

セレブロンの過剰発現による脳の拡大

図4. セレブロンの過剰発現による脳の拡大


野生型セレブロンを発現したときのみ、他のコントロールと比較してゼブラフィッシュ胚の頭部が拡大する。

サリドマイド処理とセレブロンの過剰発現が脳の神経幹細胞に及ぼす作用

図5. サリドマイド処理とセレブロンの過剰発現が脳の神経幹細胞に及ぼす作用

今後の研究展開および波及効果

本研究は、サリドマイドの標的タンパク質であるセレブロンの脳の発生過程における役割を、ゼブラフィッシュのモデル系を用いて初めて明らかにしました。特に、セレブロンの発現が増加すると、脳の神経幹細胞が増えることが分かりました。今回の発見は、セレブロンの活性を高めるサリドマイド類似体を同定すれば、脳の神経幹細胞を増やす作用を持つ新たな薬になる可能性を示唆します。サリドマイドはかつて胎児に深刻な奇形をもたらした薬として世界的に知られていますが、セレブロンの活性を高めるサリドマイド類似体は、今後拡大が予想される認知症や精神疾患等の治療薬となる可能性を秘めています。

論文情報

掲載誌 :
iScience
論文タイトル :
Cereblon Control of Zebrafish Brain Size by Regulation of Neural Stem Cell Proliferation
著者 :
Hideki Ando, Tomomi Sato, Takumi Ito, Junichi Yamamoto, Satoshi Sakamoto, Nobuhiro Nitta, Tomoko Asatsuma-Okumura, Nobuyuki Shimizu, Ryota Mizushima, Ichio Aoki, Takeshi Imai, Yuki Yamaguchi, Arnold J.Berk, and Hiroshi Handa
DOI :

主な競争的研究資金

日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(S)「脳神経幹細胞の増殖分化を制御するサリドマイド標的因子セレブロンの新規作動薬の探索」17H06112(半田宏、山口雄輝)

ナノ粒子先端医学応用講座

東京医科大学に発足した産学連携講座であり、米国Celgene社がスポンサーを務めています。

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お問い合わせ先

東京医科大学 ナノ粒子先端医学応用講座

特任教授 半田宏

E-mail : hhanda@tokyo-med.ac.jp
Tel : 03-5323-3250

東京工業大学 生命理工学院

教授 山口雄輝

E-mail : yyamaguc@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5798

取材申し込み先

東京医科大学 総務部広報・社会連携推進課

Tel : 03-3351-6141(代表)

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大CBECが東京藝大と「技藝フェス」開催

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3月14日、東工大チーム志向越境型アントレプレナー育成プログラム(CBEC、シーベック。以下「東工大CBEC」)が東京藝術大学 美術学部とタッグを組み、渋谷100BANCH(ヒャクバンチ)で「技藝フェス」(Tech×Art Festival)を開催しました。2019年秋に開業する渋谷駅直結の47階建て複合施設、渋谷スクランブルスクエアに誕生するSHIBUYA QWS(シブヤ キューズ)との共催です。

第1部は、展示とプレゼンテーションを行いました。東工大CBECの「エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)」受講生らが提案した作品と東京藝大 美術学部の卒業制作の一部を展示し、それぞれ取組み過程や作品への想いを紹介しました。

東工大CBECパートナー企業からの「ブラインドサッカー観戦体験をデザインせよ」というテーマに対し、感動の共感を提案する『にぎにぎブラボー』を製作。来場者に説明する東工大CBEC受講生
東工大CBECパートナー企業からの「ブラインドサッカー観戦体験
をデザインせよ」というテーマに対し、感動の共感を提案する『にぎ
にぎブラボー』を製作。来場者に説明する東工大CBEC受講生

遅延なく衝突に反応するV tuber(ブイ チューバー)アバターを紹介する科学技術創成研究院の長谷川晶一研究室(工学院 情報通信系)
遅延なく衝突に反応するV tuber(ブイ チューバー)アバターを
紹介する科学技術創成研究院の長谷川晶一研究室
(工学院 情報通信系)

第2部は、「技術と藝術とその先へ~交差する想像力~」をテーマにクロストークを行いました。登壇したのは、株式会社スマイルズの遠山正道代表取締役、パフォーミングアーツプロデューサーの中村茜氏、東京藝術大学 美術学部 先端芸術表現科の八谷和彦准教授と東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の長谷川晶一准教授の計4名です。モデレーターは東工大 環境・社会理工学院 建築学系の藤井晴行教授が務めました。

トークイベントで語り合う(左から)パフォーミングアーツプロデューサーの中村氏、東京藝大の八谷准教授と東工大の長谷川准教授
トークイベントで語り合う(左から)パフォーミングアーツ
プロデューサーの中村氏、東京藝大の八谷准教授と
東工大の長谷川准教授

小野澤峻さん(東京藝大生)の作品『Movement act(ムーブメント・アクト)』を囲む遠山正道代表取締役(株式会社スマイルズ、左から3番目)、藤井晴行教授(東工大 環境・社会理工学院、左から6番目)他
小野澤峻さん(東京藝大生)の作品『Movement act
(ムーブメント・アクト)』を囲む遠山正道代表取締役
(株式会社スマイルズ、左から3番目)、藤井晴行教授(東工大
環境・社会理工学院、左から6番目)他

技藝フェスには、総勢100名を超える方々が意見交流の場に参加しました。参加者からは、「展示もセッションも刺激的で面白く、多様性を感じた」「新しいこと・ものが生まれる可能性を感じた」などの感想をいただきました。東工大CBECは、今後も技と藝のコラボによる価値創出に取り組んでいきます。

東工大CBECとは

東工大の特別専門学修プログラムである東工大CBECは、文部科学省EDGE(エッジ)プログラムの一環として2014年に発足しました。英語名Cross Border Entrepreneur Cultivatingの頭文字を取って CBEC(シーベック)と呼ばれています。

東工大CBECは東工大を起点として、学士課程・大学院課程学生、社会人に対して、あらゆる境界を超えてチームとして世の中に新しい価値を生む力を育成し、その価値を実現する機会を持続的に提供します。起業家教育の拠点づくりという初期段階を卒業し、自立と成長の第2段階である「CBEC2.0」に突入しています。

あらゆる境界を超えてチームとして

このプログラムは、イノベーション創出人材の育成を目指しています。世の中に新しい価値を生み出すためには、様々なステークホルダーとの間の自律的な協力関係を保ちながら、専門の違い、文化の違い、性別の違いなどの境界を乗り越えなくてはなりません。プログラム受講者は、多様な価値観を許容し、互いに協力しながらチームとして活動する体験を通じて、アントレプレナー(起業家)の中核能力である「新しい価値を生む力」を育んでいくのです。

価値を実現する機会を持続的に提供する

新たに生み出された価値は、機会をとらえて大きく成長していきます。誰かの「夢」が、「ことば」や「かたち」を得て、そのアイデアが新技術と結びつき、従来のビジネスモデルを刷新し、世界を変えていくのです。このプログラムでは、起業体験イベント、海外派遣、創業支援などの価値実現につながる様々な機会を提供するために、国内外の諸組織との協力関係を結び、これを持続的にするためのイノベーション・エコシステムを構築しています。

お問い合わせ先

環境・社会理工学院CBEC事務室

E-mail : info@cbec.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3475

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