概要
東京工業大学元素戦略研究センターの細野秀雄教授らの研究グループは、鉄系超伝導体(用語1)物質群の中では唯一のモット絶縁体(用語2)である層状セレン化合物TlFe1.6Se2(Tl:タリウム、Fe:鉄、Se:セレン)に着目し、電気二重層トランジスタ(用語3, 4)構造を利用して、外部電界の印加によって、超伝導現象の予兆とも言える金属に近い状態まで相転移させることに成功した。
今回の結果は、鉄系層状物質で初めて観察された電界誘起相転移である。トランジスタ構造を利用したキャリア生成方法は、一般的な不純物の添加によるキャリア生成とは異なり、自由にかつ広範囲にキャリア濃度を制御できるという特徴がある。従って、元素置換によるキャリア添加が不可能な物質であっても適用が可能であることから、今後の鉄系層状物質のより高い超伝導転移温度を実現する有力な方法になるものと期待される。
この成果は、3月4日(米国時間3日)に「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America)」のオンライン速報版に掲載された。
用語説明
1.鉄系超伝導体
鉄を主成分として含む化合物の中で超伝導転移を示す層状化合物の総称で、超伝導を担う構造としてFeAsまたはFeSe層をもつ。
2.モット絶縁体
電子同士の静電反発が強いことが要因となって、絶縁体の状態(ギャップが開いた状態)になっている物質の総称。
3.トランジスタ
ゲート電極/ゲート絶縁体/半導体の3層構造に代表される電子デバイスで、ゲート電極に電圧を印加することによってゲート絶縁体の電気容量に依存した伝導変調を半導体中に誘起することができる。
4.電気二重層トランジスタ
通常のトランジスタは、ゲート絶縁体として非晶質酸化物などの無機固体化合物が利用されるのに対し、ゲート絶縁体としてイオン性の電解液を使うトランジスタ。1ナノメートル以下の厚さの非常に薄い絶縁層がゲート絶縁体として働くために、非常に大きな電気容量を得ることができる。具体的には、通常の固体無機化合物をゲート絶縁体とした場合よりも2桁高い、最大1015 cm-2に及ぶ伝導キャリアを蓄積できる。
論文名、掲載誌および著者
タイトル |
Electric double-layer transistor using layered iron selenide Mott insulator TlFe1.6Se2(和訳:層状鉄セレン化物モット絶縁体を使った電気二重層トランジスタ) |
掲載誌 |
Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America |
著者 |
Takayoshi Katase, Hidenori Hiramatsu, Toshio Kamiya, and Hideo Hosono |
DOI |
本研究で作製した電気二重層トランジスタの概略図
お問い合わせ先
応用セラミックス研究所/元素戦略研究センター
准教授 平松秀典
Tel: 045-924-5855
Email: h-hirama@lucid.msl.titech.ac.jp
フロンティア研究機構/元素戦略研究センター
教授 細野 秀雄
Email: hosono@msl.titech.ac.jp