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新機構を備えた複腕建設ロボット―ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジによる新しい災害対応重作業ロボットの開発―

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研究成果のポイント

  • 従来の油圧ショベルは災害現場で求められる多様な作業に対応することが困難という課題があった。
  • 2重旋回・複腕機構[用語1]の採用により、多様な作業へ適応性が高く、かつ、災害対応で必要な重作業が可能なロボットを開発。
  • 掘削モードや把持モードに形状変更が可能で、対象物を柔らく掴むこともできる建設ロボット用多指ハンドを開発。

概要

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ研究開発課題「災害対応建設ロボットの開発」(研究開発課題責任者:大阪大学 大学院工学研究科 大須賀公一(おおすか こういち)教授、プログラム・マネージャー:東北大学 大学院情報科学研究科 田所諭(たどころ さとし)教授)において、大阪大学 大学院工学研究科 吉灘裕(よしなだ ひろし)特任教授(常勤)、東京工業大学 工学院 鈴森康一(すずもり こういち)教授らは、2重旋回機構を用いた複腕の災害対応重作業ロボット(建設ロボット)を開発しました(図1)。

2重旋回・複腕ロボット

図1. 2重旋回・複腕ロボット

本ロボットは2本の腕を持っています。複数の腕を持つ重機械は、これまでにもいくつかの開発事例がありますが、本ロボットで採用した2重旋回・複腕機構は、従来の複腕重機の課題を解決し、また複腕の活用範囲を大幅に拡張することができます。

現在、プロトタイプを用いてフィールドでの実験を開始しており、また本研究開発で開発を進めている主な要素技術をロボットに搭載して、開発コンセプトに描いた建設ロボットの実現を目指しています。

研究の背景と経緯

土砂崩れや建物の倒壊などの災害対応作業には、多くの場合、建設機械が投入されています。中でも油圧ショベルは、クローラ[用語2]を用いた走行機構がもたらす走破性[用語3]と、多関節の作業機が可能とする多機能な作業性により、災害現場での中心的な役割を担っています。しかし、従来の油圧ショベルは、急勾配の斜面や大きな段差のある災害現場へのアクセスの能力が十分ではありませんでした。また瓦礫除去などの際に、再崩落を発生させないように、精密で微細なコントロールの対象物操作を行うことは油圧ショベルでは難しく、さらに災害現場で求められる多様な作業に対応することは困難でした。

また災害対応では、オペレータにも危険が及ぶ状況が予想されるため、遠隔で機械を操作できることが必要です。油圧ショベルには、ラジコンの遠隔操縦装置がオプションとして準備されていますが、多くは100 m以内の距離からの直視による遠隔操作であり、災害現場への対応としては十分ではありません。画像伝送を用いた長距離の遠隔操作には、雲仙普賢岳の砂防工事などに用いられた無人化施工システムがありますが、比較的定型的な作業に限定されること、作業性を高めるためには油圧ショベルの周囲に複数のカメラ車を配置する必要があることなど、使用できる状況は限定されています。また遠隔操作時は作業効率が搭乗操作時の60%程度に低下することが大きな課題となっています。

本研究開発チームは、ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジの共同研究開発の一つのテーマとして、これらの課題を解決した災害対応の重作業ロボットの開発を進めてきました。このたび本研究開発の最終コンセプトである2重旋回・複腕機構を採用したロボットのプロトタイプが完成し、災害現場を模擬した評価試験フィールドにて実証試験を開始しました。

研究内容(本研究成果の意義)

上述の課題を解決するため、以下の機構・機能を備えた新たな災害対応の建設ロボットを開発しました。

(1)重作業を器用に行え、急傾斜地・段差の移動に性能を発揮できる、2重旋回・複腕機構(大阪大・吉灘)

開発したロボットに適用した2重旋回・複腕機構は、左右の腕と、肩の旋回部を同軸上に重ねたもので、人間や動物のように、肩の関節が別々の軸上に配される機構に比べて、はるかに大きな直径のベアリング[用語4]を肩の旋回部に使うことができます。またロボットの重心付近で両腕を支持しているので、ロボットの安定性が高いという特長があります。この機構の採用により、本ロボットは大きな負荷への適応性が高く、重作業に適した構造となっています。さらに同軸上に配置されたそれぞれの腕が360°回転するため、右手、左手の区別はなく、両手のレイアウトを自由に変更することができます。

今回開発したロボットでは、油圧システムの応答性を従来の建設機械より一桁高めることにより、優れた運動特性を実現しています。また力覚や触覚をフィードバックすることにより、従来の建設機械では困難であった繊細かつ器用な作業性を実現しています。両腕はどちらも重負荷対応ですが、一方の腕は油圧ショベルのような重作業向け、もう一方の腕は、マニピュレータ[用語5]のような繊細かつ器用な作業用と異なる特性を与えています。このため多様で複雑な災害現場での作業に、柔軟に対応することができます。もちろん両腕を協調した作業も可能です。

また、本ロボットでは、自由にレイアウトできる腕で地面を支えながら、クローラで移動することが可能で、災害現場の厳しい環境への適応性も高くなっています。例えば、急傾斜地や凹凸の激しい現場でも、片腕で立木や地面の固定物を掴んでロボットを安定化させ、もう片方の腕でハンドリング作業を行うことができます。また腕とクローラを協調して動作させることで、段差を乗り越えたりすることも可能です(図2)。

2重旋回・複腕機構による両手のレイアウトと作業例

図2. 2重旋回・複腕機構による両手のレイアウトと作業例

2重旋回・複腕機構は、各旋回部への油圧配管や信号線の接続が難しい構造です。過去に開発したロボットでは、エンジンや油圧ポンプ、無線通信機器などがロボットの最上段に搭載されており、これらの油圧や信号を、中段、下段の旋回部に、360°エンドレスに旋回可能な状態で接続することは容易ではありません。本ロボットでは、油圧配管機構と信号伝達機能を一体化したコンポーネントを新たに開発し、これらを実現しています。

(2)建設ロボット用多指ハンド (東工大・鈴森)

本研究開発チームは、建設ロボット用の4本指ハンドを開発して、片方の腕に装着しています。このハンドは形状を変更することにより、バケット(ショベル)のような「掘削」と、ハンドの「把持」のモードを切り替えることができます。さらに、対象物の形状に応じたハンド形状の変更や、握力の幅広い制御も可能です。

従来の油圧ショベルでは、バケット(ショベル)あるいはグラップル(開閉ハンド)といった比較的簡単な構造のアタッチメントが使われてきました。しかし災害現場ではさまざまな形状の対象物を扱う必要があります。相手の形状に応じてアタッチメントの形状や機能を切り替えたり、状況に応じて大きな力でしっかり握ったり、逆に相手を壊さないように小さな力でやさしく握ったりする必要もあります。このような状況を踏まえて、4指のロボットハンドを開発しました。6個の油圧シリンダと2つの油圧モータで駆動され、主に砂利などを扱う「バケットモード」と、対象物の形に応じて4本の指で対象物を扱う「ハンドモード」に切り替えることができます。ハンドモードでは相手の形状に応じて握ることができ(図3、4)、また握力は最大約300キロから最小1.4キロまで、油圧の制御により自由に調整することができます。このハンドの開発における技術ポイントは、小型高性能の油圧シリンダと油圧モータの開発です。油圧シリンダや油圧モータは工場や建設機械において既に数多く使われていますが、既存のものは、サイズ、重さ、動きの繊細さの点で、ロボットの駆動には適していませんでした。

そこで本研究開発チームでは、小型油圧シリンダの専門メーカであるJPN株式会社(東京都大田区、日沖清弘代表取締役)の協力を得て、ロボット駆動に適した、小型、低摩擦、軽量、センサ内蔵の油圧シリンダと油圧モータを新規に開発しました。従来の油圧シリンダに比べ、約2~5倍の「力/自重比」、約1/3~1/5倍の低摩擦動作といった特徴を持ちます。これらの油圧シリンダや油圧モータにより、大きな力、なめらかな動作、器用な動作のハンドの実現に成功しました。

多指ハンドの作業例(左:多指モードによる物体把持 右:バケットモードによる砂利すくい)

図3. 多指ハンドの作業例(左:多指モードによる物体把持 右:バケットモードによる砂利すくい)

相手の形に応じて指が曲がるので複雑な形状の重量物も安定して把持できる

図4. 相手の形に応じて指が曲がるので複雑な形状の重量物も安定して把持できる

(3)遠隔操作高度化のための要素技術(神戸大・横小路、東北大・昆陽、東北大・永谷、東大・山下)

本ロボットでは、遠隔で操縦するオペレータが、まるで対象物を触っているかのような力覚と触覚を感じながら、精密で確実な作業ができる機能を搭載しています。

また、ロボットの外にカメラを置かなくとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができる、有線給電ドローンと任意視点の俯瞰映像合成システムを搭載しており、精密な作業や複雑な地形での移動を容易にしています。

遠隔操作高度化のための要素技術は、平成28年11月の建設ロボット実験機(単腕モデル)公開評価会の際にプレスリリース(平成28年11月「遠隔操作性と繊細な作業性を備えた建設ロボットを開発」)で発表したものですが、今回さらに機能・性能を向上させて搭載しています(図5)。

建設ロボット搭載要素技術

図5. 建設ロボット搭載要素技術

今後の展開

今回性能を確認した要素技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っています。今後、順次それらの要素技術を搭載していきます。また、操作する関節数の多い複腕ロボットを、容易に操縦できる遠隔操作システムの開発を進めており、これらの技術の導入により、より実現場に近い環境での作業実験に進む計画です。

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャーのコメント

田所諭 ImPACTプログラム・マネージャー

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創りだし、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

災害危険地域では、遠隔・自律で重作業を行うことが必要ですが、これまでの遠隔建設機械は、器用さが不足、重作業が不可能、斜面や段差での移動に限界がある、遠隔操作が困難で作業効率が低い、という問題があり、根本的な解決が望まれています。本研究開発は、2重旋回・複腕機構と高出力油圧ハンドにより、これらの問題の解決を図ろうとするものです。重量物のハンドリングが可能な複腕により、作業や移動の能力を飛躍的に向上させ、高出力ハンドにより様々な掘削や把持を可能にする、非連続イノベーションを目指しています。これは大規模災害や事故への対応能力を飛躍的に高めるだけでなく、従来型建機との代替によってこれまでの土木・建築工事の方法論を根本的に変革する可能性を秘めていると考えています。今後の改良、要素技術との統合、限界性能試験によって、数年後の現場適用、実用化を目指しています。

特記事項

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)outer

プログラム・マネージャー:
田所諭
研究開発プログラム:
タフ・ロボティクス・チャレンジ
研究開発課題:
災害対応建設ロボットの開発
研究開発課題責任者:
大須賀公一
研究期間:
平成26年度~平成30年度

本研究開発課題では、パワフルさと繊細かつ器用な作業性とを併せ持つ災害対応重作業建設ロボットの開発に取り組んでいます。

用語説明

[用語1] 2重旋回・複腕機構 : 左右の腕と、肩の旋回部を同軸上に重ねたもの。

[用語2] クローラ : 悪路や軟弱地での走行性能を向上させるために、前後輪を一帯に接続された履板で囲んだ走行機構。無限軌道、キャタピラとも呼ばれる。戦車やブルドーザなどの建設機械に用いられている。

[用語3] 走破性 : 悪路や軟弱地を走行できる性能のこと。

[用語4] ベアリング : 回転体や直動体を支え摩擦を減らす部材のこと。本プレスリリースでは回転式のころがり軸受けを指している。

[用語5] マニピュレータ : ロボットの腕や手に当たる部分のこと。人間の腕のような自在な動きができるものを指す場合が多い。

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E-mail : yoshinada@jrl.eng.osaka-u.ac.jp
Tel : 06-6875-1509

東京工業大学 工学院 機械系
教授 鈴森康一

E-mail : suzumori@mes.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3177

神戸大学 大学院工学研究科
教授 横小路泰義

E-mail : yokokohji@mech.kobe-u.ac.jp
Tel : 078-803-6341

東北大学 未来科学技術共同研究センター
准教授 永谷圭司

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東北大学 大学院情報科学研究科
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