6月9日、東工大スピントロニクスイノベーション研究推進体が主催する第2回研究会が大岡山キャンパス大岡山西8号館大会議室で開催されました。今回は「ポストスピントロニクスへの挑戦」と題して、スピントロニクス※1に関連した研究の最先端の成果について東工大の若手研究者を中心とした発表者による7件の講演が行われました。当日は学内外から31名の参加者が集いました。
最初に、工学院 波多野睦子研究室の岩崎孝之助教が「ダイヤモンド量子センサ」と題して、ダイヤモンドのNVセンター※2を利用した室温で高感度な電場や磁場の定量センシングについて講演を行いました。ダイヤモンド結晶の形成方法を工夫しN-V軸を意図的に配列することにより検出感度が大きく向上したと報告しました。
次に、工学院 ファム・ナム・ハイ研究室のN. H. D. Khangさん(博士後期課程学生)が発表しました。スピン注入型磁気抵抗メモリであるSTT-MRAMのエネルギー消費の課題を解消すべくトポロジカル絶縁体(BiSb)※3と垂直磁気異方性を示す強磁性体(MnGa)の接合について、主に結晶成長に関する最近の進展と問題点を語りました。
続いて、理学院 藤澤利正研究室の橋坂昌幸助教が、微小領域に形成された整数量子ホール系のダイナミクスに関する新知見について講演しました。大きなバイアス電圧が印加された非平衡領域で分数電荷(e/3)が現れると述べました。
休憩後は、科学技術創成研究院 宗片比呂夫研究室の西沢望特任助教による「室温純粋円偏光スピンLED」にかかる講演から始まりました。工夫をこらしたスピンLEDにおいて室温で純粋な円偏光発光が得られたこと、および、今後の医療応用に関する展望が語られました。
次いで、科学技術創成研究院 菅原聡研究室の北形大樹さん(博士後期課程学生)が、消費エネルギーの削減の観点から、集積回路に不揮発性SRAMを導入する意義とアーキテクチャに関する研究についての報告を行いました。
続いて、工学院の中川茂樹教授がSTT-MRAM材料として期待されるCo2FeSi/MgO系における垂直磁気異方性の発現と制御についての最近の進捗を語りました。
最後に、科学技術創成研究院の庄司雄哉准教授から「磁性材料を用いた光制御デバイス」と題して、磁性体を組み込んだ光導波路を基礎とする光アイソレータ、光スイッチ、光メモリの設計、ならびに、最近の実験状況について意欲的な発表がなされました。
講演は、スピンが絡む物理現象からデバイス作製、実装、応用展開まで多岐にわたっており、各研究テーマで新知見を切り拓こうとする東工大の若手研究者による熱い報告でした。今後の研究展開への期待の表れか、各講演の終わりには様々な質問が登壇者に投げかけられ、研究会終了後も遅くまで活発な意見交換がされ、会場を閉めた時には終了予定時刻を1時間以上超過していたほどでした。
- ※1
- スピントロニクスとは、固体中の電子が持つ電荷とスピン(量子力学上の概念で、粒子が持つ固有の角運動量)の両方を工学的に利用、応用する分野のこと。
- ※2
- ダイヤモンドの結晶において本来は炭素があるべきところに窒素(N)で置換され、隣接する位置に空孔(V)がある複合欠陥をダイヤモンドNVセンターと呼ぶ。NVセンターが電子1個を捕獲して負に帯電時にNV中心はスピン角運動量をもった磁気的な性質を示す。
- ※3
- トポロジカル絶縁体とは、物質の内部は絶縁体でありながら、表面は電気を通すという物質である。
- イノベーション研究推進体|東京工業大学 研究戦略室
- スピントロニクス研究推進体|宗片研究室|東京工業大学 像情報工学研究所
- スピントロニクス研究推進体研究会 2015年8月28日(金) 開催について|宗片研究室
- 波多野・小寺研究室
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