8月16日、大岡山キャンパスレクチャーシアターにおいて、平凡社共催でリベラルアーツ研究教育院主催のシンポジウム「現代の社会と宗教 1995~2017」が開催されました。開始時間の1時間前から会場前にはあいにくの雨の中、聴講希望者の行列が出来始めました。事前の予測をはるかに超え、その後も列は伸びる一方であったため、急遽、3つの教室にも映像中継を行うこととし、最終的には700名を超える聴衆を迎えて4会場を結ぶ形でシンポジウムの幕が開きました。
シンポジウムの内容は、上田紀行教授、池上彰特命教授、弓山達也教授、中島岳志教授の4名のリベラルアーツ研究教育院の教員が、編集者である渡邊直樹氏(大正大学客員教授)の司会のもと、1995年以降の地下鉄サリン事件、東日本大震災、過激派組織「イスラム国(IS)」などの事件や社会現象に重ね合わせて、宗教そのものと宗教に代わるものの変遷を語りあうものでした。それぞれの専門分野に基づく視点から縦横無尽に語られる内容は、東京工業大学と平凡社の共催ならではのものとなりました。
まず、2部構成の前半で話し合われたのは、1990年代から人々が感じている「生の実感の希薄さ」と、「自らを死に直面させることで生を実感する」心理です。ISの自爆テロとも関連づけて話が展開されました。また、宗教組織の外に求められるようになっていた宗教的要素が、東日本大震災を経てまた組織に求められようとしていることや、日本人が宗教以外に心の救いを求めた2000年前後の「日本的スピリチュアリティ」についても語られました。
そして、後半のキーワードは「生きづらさ」と、それを乗り越えていくための「超越性」です。宗教の内側だけではなく外側にも存在する「超越性」を、教育や社会、家庭の中で、個々人がいかに獲得していくかが話し合われました。また、ボランティアが、生きづらさからのある種の逃げ場となっていることも指摘されました。
一方、その「超越性」を体現し、宗教以外の世界でも積極的に活動しながら、常に人々の心に「平静」を与えるダライ・ラマについて交わされた会話も、強い印象を残しました。
今回のシンポジウムを通じて、参加者は、通常の生活の中では、俯瞰して考えることの少ない宗教とその周辺を広く捉え直し、新たな視点で社会を展望する機会を得たようです。今回、主催側としては想定外の聴講希望で参加者への対応が行き届かなかった点は次回以降の対応に反映することとし、引き続き参加者にとって実り多い企画を開催していきたいと考えています。
なお、このシンポジウムの内容は、いずれ平凡社から刊行される予定です。
リベラルアーツ研究教育院 ―理工系の知識を社会へつなぐ―
2016年4月に発足したリベラルアーツ研究教育院について紹介します。