8月3日~4日にすずかけ台キャンパスで「第25回高校生のための夏休み特別講習会」が開催され、48名の高校生が参加しました。
東京工業大学生命理工学院では、高校生に実験を通して現代の科学技術の柱の1つである生命理工学の最前線を体験してもらい、この分野の面白さを発見してもらうことを目的として、毎年、講習会を開催しています。
今回のテーマは、「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」と「生命を司る分子機械、“蛋白質”」の2つでした。
講習会は、生命理工学院 生命理工学系の山口雄輝教授と林宣宏准教授、その他研究室スタッフや大学院生・大学生のTA※多数の協力により無事に終了しました。
担当した教員の講演者レポートと、講習会についてのアンケートの結果(感想など)については以下をご覧ください。
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- TA:ティーチングアシスタントの略。大学などにおいて、担当教員の指示のもと、学生が授業の補助や運用支援を行うこと、あるいはそれを行っている学生のこと。
講演者レポート
生命理工学院 山口雄輝教授「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」
8月3~4日の2日間、本学すずかけ台キャンパスものつくり教育研究支援センターにおいて、高校生48名を対象に講習会を実施しました。担当者の1人として「犯人は誰だ!?科学捜査の最前線」と題して、指紋の検出、血痕の検出、DNA鑑定、コンピューター実習の4つを行いました。
指紋の検出にはニンヒドリン反応を用い、高校生それぞれが触ったコピー用紙に残された指紋や掌紋を可視化してみせました。また、血痕の検出にはルミノール反応を用い、DNA鑑定にはSTR法を用いました。なお、STR法とはマイクロサテライトを用いた多型解析の方法で、法医学の現場で広く用いられているものです。具体的には、まず布片に残された複数の赤いシミの中からルミノール反応によって血痕を特定し、次にその血痕からゲノムDNAを抽出し、さらにPCRによってSTR座位を増幅し(12種類の産物が得られる)、最終的にマイクロチップ電気泳動によってDNAの断片長を推定しました。単に手を動かすだけでなく、原理の説明や得られたデータの解析にも多くの時間を割きました。さらに、ものつくり教育研究支援センターのPCルームで1人1台端末を割り当て、ウェブベースのゲノムブラウザを操作してヒトゲノムの中を「探検」してもらい、情報量の膨大さを体感してもらいました。
科学捜査にしても、科学研究そのものにしても、”見えないものを明らかにしたい”という動機が元にあります。指紋の跡は肉眼ではほとんど見えませんが、化学反応を利用すればはっきりと可視化できます。赤インクと血痕は見た目では区別がつきかねますが、やはり化学反応を利用して区別することができるのです。各個人は固有なゲノム配列をもっていると言っても、DNA分子は微量しか存在しませんし、そもそも小さすぎて見えません。しかしゲノムDNAの一部をPCRで増幅し、蛍光色素で染色すれば、その特徴を捉えることができます。科学捜査という高校生も興味を持ちやすい題材を用いて、生命科学一般への関心を呼び起こすことができたのではないかと思います。
なお、バイオハザード等の観点から、本講習会では人間や動物の血液を含まない「偽血液」を使用したことを最後に付記しておきます。
生命理工学院 林宣宏准教授「生命を司る分子機械、“蛋白質”」
今回は、“生命とは?”という大命題を若い世代にいま改めて考えてもらうために、生命現象を担う実体である蛋白質を理解し、体感し、それによってさらに生命を不思議と思ってもらえるようなプログラムを企画しました。
「蛋白質」という言葉を知らない人はいないと思いますが、ほとんどの人にとって、蛋白質は三大栄養素の1つという位置付けです。しかし、なぜ蛋白質を食べないといけないのかを、ちゃんと本質的に理解している人はほとんどいません。そこで、まず、蛋白質こそが生命現象の担い手であることを理解してもらい、「自身の蛋白質を身体のなかで作るための材料として、蛋白質を食べないといけないのだ」ということを理解してもらうことを目論みました。そのために、我々にとって身近な生理現象(食べたものが身体の中で消化される、考える、視る、身体を動かす、等)をいくつか取り上げて、それらに関与する蛋白質の形と機能を紹介しました。さらに、我々の身体はそういった蛋白質が集まって出来ているが、本来あるべきところから別の場所に移してもちゃんと働くことを、オワンクラゲのGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子を導入した大腸菌が、オワンクラゲのように緑色に光るのを観察することで実感してもらいました。また、蛋白質は分子“機械”であり、生体から取り出してもその機能が維持されることを、GFPを発現している大腸菌からGFPを精製し、それが緑色に光る様子を観ることで理解してもらいました。
生命を本質的に理解するには、その現象に関わっている蛋白質が何かを暴くことが重要です。多くの研究では、着目している現象に関わる蛋白質を探し出すことが最も重要な課題の1つであるということを説いて、参加者には未知の蛋白質が入っているという想定のサンプルチューブを配布し、それが何かを最先端の技術(質量分析データに基づくデータベースサーチ)で解明することを実体験してもらいました。さらに、それがどの蛋白質かが判れば、パソコンから公共のデータベース(蛋白質構造データバンク:Protein Data Bank)にアクセスすることで、自宅でも簡単にその機能構造を眺めることが出来るということを実習を通じて伝えました。
今回は、研究室の学生が総出でTAを務めることで、参加者と学生がなるべくたくさん交流できる機会をつくりました。実験の待ち時間を利用して本学のバイオ研究基盤支援総合センター、水棲生物飼育室、共通機器室、顕微鏡室のツアーを行いましたが、その合間にも多くの色々な話が相互に出来たようです。
この体験を通じて参加者に生命を不思議だと思う気持ちが育まれ、さらにはその秘密を自身の手で解明したいと思ってもらいたいと願うとともに、今回の参加者のうちその気持ちが動機となって研究者となった方に、将来、研究の現場で出逢うことを楽しみにしています。
講習会スナップ写真
山口研究室
林研究室
アンケート(抜粋)
高校生たちに講習会の感想を聞きました。
アンケートの詳細は、第25回高校生のための夏休み特別講習会アンケート集計結果をご覧ください。
- 先生方は高校生の私たちにもわかりやすいように説明してくださり、またTAさんも気軽に話したり教えて下さったので楽しく2日間を過ごすことができました。またTAさんとお話して東工大ライフにより憧れが増し、もっと勉強に精進していこうという気持ちになりました。
- こちらが理解出来るまで、根気よく教えてくださいました。とてもわかりやすく、初めて触れたバイオの分野を知ることができました。
- 自分が思っていたよりも蛋白質というものはすごく大事な存在であり、まだ、未知なものであることを知り驚きました。
- 僕の学校では生物の授業がなく、今回は生物を使った工学がどのようなものなのかを知りたくて参加しました。全体を通して難しい部分もありましたが、生物工学に対して強く興味を持つことができました。
- 色々な研究室やオープンキャンパスでは入れないような部屋まで入れさせてもらえて、とてもうれしかったです。また機械や器具も初めて見るようなものがほとんどで、見ていてとても楽しかったです。