クリスマス・レクチャー日本公演2017を、9月23日、24日に大岡山キャンパス西講義棟1のレクチャーシアターで開催しました。東工大共催で、読売新聞社主催、駐日英国大使館と文部科学省後援のもと、トヨタ自動車株式会社、日本ガイシ株式会社、味の素株式会社の協賛で開催されました。各日午前と午後に1回ずつ計4回の開催で各回約200名、延べ約800名が参加しました。東工大の優先席が確保されていた1日目午前の部には、東工大生・教職員ら約60名の参加がありました。
「クリスマス・レクチャー」は、英国王立科学研究所(The Royal Institution of Great Britain。以下、Ri)が青少年向けに開催するイベントで、190年以上続く人気の科学実験講座です。このクリスマス・レクチャーを日本で再現するイベントは1990年から毎年開催されており、東工大では一昨年、昨年に続いて3回目の開催となりました。
東工大は、2016年度からスタートした教育改革の取り組みの一つとして、新入生を対象とした「科学・技術の最前線」や「科学・技術の創造プロセス」などの実演・実験付き授業を開講しています。これらの授業はこのクリスマス・レクチャーを手本としており、レクチャーシアターを最大限活用した臨場感あふれる個性的な授業を展開しています。
今回のクリスマス・レクチャーは2016年にロンドンで開催されたレクチャーを日本向けにアレンジしたもので、物質化学専門の英国バース大学サイフル・イスラム教授が講師を務めました。
「充電のいらない携帯電話(The phone that never dies)」と題し、リチウムイオン電池や水素電池のしくみ、その特性などを明らかにしつつ、次世代のエネルギー開発に向けた様々な取り組みが紹介されました。東工大からも物質理工学院 応用化学系の菅野了次教授が登壇し、今まさに最前線で研究が進められている「全固体リチウムイオン電池」についての講演を行うなど、約1時間半にわたる充実した内容のレクチャーとなりました。
9月20日にRiのスタッフ2名が来日して物品等を運び込み、公演に使われる機器、装置の準備・調整が始まりました。東工大の学生スタッフ13名が素早く準備を整え、昨年以上にスムーズなその動きはRiスタッフをはじめ主催である読売新聞社の担当の方々からもおおいに称賛されました。 公演を翌日に控えた9月22日には講師であるサイフル教授を迎え、打ち合わせおよび最終リハーサルを行いました。リハーサル終了後には、サイフル教授、Ri、本学、読売新聞社、英国大使館等からの関係者出席のもと歓迎レセプションが開かれ、参加者全員で親交を深めながら、翌日からの公演に備えました。
公演第1回目は、一般の参加者に加え、東工大関係者にも優先席が設けられました。各回の公演開始前には、司会の斎尾直子准教授(環境・社会理工学院)による注意事項やボランティア(講師の呼びかけによりステージで講師の実験に協力する参加者)への要望などの説明が行われました。公演に先立ち、第1回目は三島良直学長から、第2回目以降は大竹尚登副学長(研究企画担当)から、挨拶と講師の紹介がありました。
サイフル教授はスマートな立ち居振る舞いとチャーミングな笑顔で観客を魅了し、「携帯電話を1年間使用するのに必要なエネルギーはどれくらいだと思う?」、「ずっと充電しなくてもいい携帯電話があったらいいよね」などといった教授の観客への巧みな語りかけに魅かれ、大人から子どもまで誰もが熱心に公演に見入っていました。本公演はすべて英語で行われましたが、一人ひとりに同時通訳の機械が配られ、英語が分からない人でも安心して楽しめるよう配慮がなされました。この同時通訳の設備が整っていることはレクチャーシアターの特徴の一つです。また、登壇するボランティアには学生スタッフがすぐそばで通訳を行い、緊張気味の子どもたちを上手にリラックスさせていました。なかにはサイフル教授に直接英語で受け答えをする子どももいて、日本の若い世代の国際化を垣間見ることができ、頼もしい限りでした。
今回の公演では、化学電池には一度だけ使える「一次電池」と、充電・放電が可能な「二次電池」、エネルギー密度の高い水素や酸素などを使っている「燃料電池」があることが明らかにされていきました。一次電池の例としては単三電池と、世界で最初の化学電池である「ボルタ電池」、レモンに銅とマグネシウムの電極をつないで使用する「レモン電池」などが紹介されました。携帯電話を1年間使用するためには単三電池約800本分の電力が必要だとされ、実際に電池800本を透明の筒に入れ、どのくらいの高さになるのかを確かめる実験や、レモンを7つつないでライトを光らせる実験などが行われました。多くの子どもたちが積極的にボランティアとして実験に参加してくれました。
二次電池の例としては現在ほとんどの携帯電話に使われている「リチウムイオン電池」と日本ガイシ製の「NAS電池」等が紹介されました。NAS電池の説明では日本ガイシの方が登壇され、大容量かつ充放電を繰り返してもほとんど劣化せず、15年も働き続けることができるという紹介があり、観客はみな興味深く聞いていました。
3つ目の電池である「燃料電池」については、トヨタ自動車のエコカーである「MIRAI」に使われている水素と酸素を利用したものや、リチウムと酸素を反応させる「リチウム酸素電池」などが分かりやすい映像とともに紹介されました。
さらに、今最も注目を集めている電池として、東工大の菅野教授の「全固体電池」が取りあげられました。液体の状態では爆発などの危険があるリチウムイオン電池を固体にすることで、安全かつ高エネルギー・高出力、省スペースを実現するという、まさに夢のような電池です。研究をはじめた当初は「リチウムイオン電池を固体にすることなんてできるはずがない」などと言われていたのを、あきらめず30年にわたって研究を続けてきた成果が、今ようやく出ようとしていると菅野教授は話しました。子どもたちへは「夢をもって、あきらめずに自分の道を信じて研究に取り組む科学者になってほしい。」というメッセージが伝えられました。
公演の最後には、東工大学生スタッフらが全員登壇し、観客の大きな拍手に包まれました。公演終了後もサイフル教授は質問やサインの要望に喜んで応えてくれたので、子どもたちにとっては素晴らしい思い出となったことでしょう。このレクチャーから、将来科学者になることを目指して東工大で学ぶ子どもたちが生まれることを祈ります。
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