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新型の酸化物イオン伝導体である新物質SrYbInO4を発見 ―燃料電池や酸素分離膜等の開発を加速―

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要点

  • 新物質SrYbInO4を発見、結晶構造の決定に成功
  • SrYbInO4新構造型の純酸化物イオン伝導体[用語1]であることを発見
  • イオン伝導機構も解明
  • 関連材料の開発およびエネルギー・環境分野への応用研究を加速

概要

東京工業大学 理学院 化学系の八島正知教授らの研究グループは、新物質「ストロンチウム・イッテルビウム・インジウム酸化物(SrYbInO4)」を発見しました。そして、SrYbInO4が純酸化物イオン伝導体としては新しい結晶構造のグループ(新構造ファミリー)に属することを見出しました。そのため今後関連物質の開発や競争につながると期待されます。

今回、イオンの大きさと元素の組み合わせ、および構造の安定性に着目して発見に至ったものであり、同様な手法で新物質探索が盛んになると考えられます。この材料は、固形酸化物形燃料電池(SOFCまたはSOFCs)[用語2]、センサー、酸素分離膜等の発展につながると期待され、今後エネルギー・環境問題を解決する糸口になる可能性があります。また、YbとInが作る八面体が連結することによってイオン拡散経路が形成されて酸化物イオン伝導が発現することがわかりました。

本成果は、物理化学の国際誌J. Phys. Chem. Cに9月11日付で掲載されました。また12月6日の固体イオニクス討論会において発表予定です。

研究成果

電子伝導性が比較的発現しにくい構成元素を選択し、高温で比較的安定であるCaFe2O4型構造[用語3])に着目、CaFe2O4型構造をとると期待されるサイズの陽イオンを選択することで新物質の探索に成功しました(図1)。新物質SrYbInO4を実際に固相反応法[用語4]により初めて合成することに成功しました。中性子回折、放射光X線回折、実験室系X線回折、第一原理計算などでSrYbInO4の結晶構造を解析しました。その結果、SrYbInO4の結晶構造が、CaFe2O4型であることを見出しました。SrYbInO4の電気伝導度は、酸素分圧によらずほぼ一定であり、UV-Vis反射率測定から得たバンドギャップは4.34 eVと広いので、SrYbInO4がCaFe2O4型酸化物で初となる純酸化物イオン伝導体であることが強く示唆されました。CaFe2O4型構造を持つ物質群には、純酸化物イオン伝導を示す材料が過去に全く報告されておらず、今回、純酸化物イオン伝導を示す新構造ファミリーを発見したことになります。今回、イオンの大きさ(図1の構造マップ)と元素の組み合わせ、および構造の安定性に着目して新物質で新構造型の酸化物イオン伝導体であるSrYbInO4の発見に至ったものであり、同様な手法で新物質探索が盛んになると考えられます。過去に報告のあるCaFe2O4は電子伝導体ですが、わずかな酸化物イオン伝導を示すことが知られていました。CaFe2O4の電子伝導度が高いことに加えて酸化物イオン伝導度の活性化エネルギーが高いこと(3.3 eV)が問題でした。Caよりもサイズが大きなSrを選択、Feよりもサイズが大きなYbとInを選択することにより、酸化物イオン伝導の活性化エネルギーが小さい(1.76 eV)純酸化物イオン伝導体SrYbInO4を今回発見しました。

室温から1,000 ℃の高温環境下で測定したSrYbInO4の実験室系X線回折、放射光X線回折および中性子回折データを解析することにより、この新材料は、空間群がPnmaであるCaFe2O4型構造の単相であることがわかりました(図2)。CaFe2O4型構造には、3種類の陽イオン席(サイト:いわば原子の座席)があり、本研究ではa席、b席、c席と名付けます。各席におけるイオンの占有率を慎重に検討した結果、a席はSrで充填されており、b席とc席にはYbとInの両方が存在していることがわかりました。この占有状態の不規則性の原因は、b席とc席の配位環境が類似していることや、イッテルビウムイオン(Yb3+)とインジウムイオン(In3+)のサイズが似ていることに起因しています。また、Ybがc席よりはb席に若干存在しやすい理由は、b席の陽イオンと酸素の距離が、c席の陽イオンと酸素原子の間の距離より長いこと、Yb3+のイオン半径がIn3+より少し大きいことに起因すると考えられます。占有状態の不規則性の度合いによって、イオン伝導度を制御できる可能性もあり、今回分かった占有状態の不規則性は重要な発見であると考えられます。

M2M´O4化合物の構造マップ。MとM´は異なる陽イオンである。赤いハッチはCaFe2O4型構造の領域を示す。M=Yb0.5In0.5とM´=SrであるSrYbInO4はCaFe2O4型構造をとると期待されることがわかる。

図1. M2M´O4化合物の構造マップ。MM´は異なる陽イオンである。

赤いハッチはCaFe2O4型構造の領域を示す。M=Yb0.5In0.5M´=SrであるSrYbInO4はCaFe2O4型構造をとると期待されることがわかる。 ©American Chemical Society

今回発見した新物質SrYbInO4における1つのテスト的な酸化物イオンのエネルギー図:b軸に沿った1次元の酸化物イオン伝導を示す。b軸に沿った酸化物イオン伝導の臨界イオン半径(陽イオンが作る隙間)の方が、a軸およびc軸に沿ったそれより大きいため、酸化物イオン伝導のエネルギー障壁が低くなり、b軸に沿って酸化物イオン伝導が起こると考えられる。この酸化物イオン伝導の構造的要因は、b軸に沿った無限の二重八面体の面または陵に沿って、酸化物イオンが移動することにあると考えられる。

図2. 今回発見した新物質SrYbInO4における1つのテスト的な酸化物イオンのエネルギー図:b軸に沿った1次元の酸化物イオン伝導を示す。b軸に沿った酸化物イオン伝導の臨界イオン半径(陽イオンが作る隙間)の方が、a軸およびc軸に沿ったそれより大きいため、酸化物イオン伝導のエネルギー障壁が低くなり、b軸に沿って酸化物イオン伝導が起こると考えられる。この酸化物イオン伝導の構造的要因は、b軸に沿った無限の二重八面体の面または陵に沿って、酸化物イオンが移動することにあると考えられる。 ©American Chemical Society

背景

エネルギー・環境問題を解決するためには、高効率、低コストで安全性の高い次世代のエネルギー源の開発が求められています。特に固体酸化物形燃料電池は、その中核を担うと期待されています。より良い固体酸化物形燃料電池、センサー、酸素透過膜の開発には、より高い酸化物イオン伝導度をもつ酸化物イオン伝導体や酸化物イオン―電子混合伝導体が必要です。

イオン伝導度は、その材料を構成する結晶構造と密接な関係があります。従来のイオン伝導体は、既存のイオン伝導体の組成を改良することで開発が進められてきました。しかし、より革新的なイオン伝導体を開発するためには、新構造の材料の開発が必要不可欠です。従来の手法では、新構造ファミリーの酸化物イオン伝導体は経験や勘、偶然により発見されることが多かったのですが、研究グループは、過去に報告されている無機物質の結晶構造から計算したイオン伝導経路と、これまでに報告されている酸化物イオン伝導体の結晶構造の詳細な検討により、BaNdInO4 (2014年発表)、Nd0.9Sr0.1BaInO3.95(2015年発表)、LaSr2Ga11O20、 La1.02Sr1.98Ga11O20.01(2015年発表)などの新構造ファミリーの酸化物イオン伝導体を開発することに成功してきました。今回は、BaNdInO4など従来の元素の組み合わせとは異なる材料を探索する中で、イオンサイズと元素の組み合わせ、および結晶構造の安定性を考慮することで、新物質SrYbInO4の発見に至りました。

今後の展望

酸化物イオン伝導性を示す材料は、燃料電池、酸素分離膜、ガスセンサー、触媒などへの応用が可能です。したがって、エネルギー・環境・エレクトロニクス分野への波及効果が期待されます。本研究で開発した材料は、これまでに報告のない全く新しい構造型を持つ純酸化物イオン伝導体であり、今後、この材料を基盤とし、材料開発を進めることで、固体酸化物形燃料電池の効率向上や使用範囲の拡大が見込まれます。

用語説明

[用語1] 新構造型の純酸化物イオン伝導体 : 外部電場を印加したとき酸化物イオンが伝導する材料を酸化物イオン伝導体(酸化物イオン伝導性材料)という。酸化物イオン伝導度に比べて他のイオン種や電子の伝導度が小さく、酸化物イオンが支配的なキャリア(電荷担体)である酸化物イオン伝導体を、純酸化物イオン伝導体という。酸化物イオン伝導性は、特定の結晶構造型(結晶構造のグループ)でのみ発現することが知られている。今回発見した新物質SrYbInO4は、CaFe2O4型構造(用語3)を持つ物質としては初めての純酸化物イオン伝導体である。したがって、新物質SrYbInO4は、新構造型の純酸化物イオン伝導体であるといえる。

[用語2] 固形酸化物形燃料電池(SOFCまたはSOFCs) : 電解質に固体酸化物を用いた燃料電池。電池の作動温度が400~1,000 ℃と高いため、固体高分子形燃料電池(PEFC)と比べて高い発電効率を実現できる。

[用語3] CaFe2O4型構造 : CaFe2O4など、空間群がPnmaであり、一般式ABCO4をとる化合物がとる結晶構造である。3種類の陽イオン席a, b, c席の陽イオンをそれぞれA, B, Cとする。図2に示すように今回発見した新物質SrYbInO4では、A=Sr, B=Yb0.574(2)In0.426(2), C=In0.574(2)Yb0.426(2)である(括弧内の数字は標準偏差を示す。)。 A, B, Cの配位数はそれぞれ8, 6, 6であり、二つのBO6八面体が稜共有してできた二重八面体B2O10と、二つのCO6八面体が稜共有してできた二重八面体C2O10が形成する三角形状のカラムの中にAイオンが存在する。二重八面体B2O10b軸に沿って稜共有により連結して無限のカラムを形成する。同様に、二重八面体C2O10b軸に沿って稜共有により連結して無限のカラムを形成する。3次元の結晶は、その対称性により230種類の群(空間群)に分類される。Pnmaは230種類の空間群のうち62番目の空間群であり、その結晶系は直方晶系、ブラベー格子は単純直方(斜方)格子である。

[用語4] 固相反応法 : 固相間の化学反応を利用して試料を合成する手法。

論文情報

掲載誌 :
J. Phys. Chem. C, 2017年,121巻,39号,ページ21272-21280.
論文タイトル :
New Oxide-Ion Conductor SrYbInO4 with Partially Cation-Disordered CaFe2O4-type Structure
著者 :
Ayaka Fujimoto, Masatomo Yashima, Kotaro Fujii, James R. Hester
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

八島正知 教授

E-mail : yashima@cms.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2225

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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