東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、2018年9月に発足した新しい組織です。大学が設置した組織としては珍しく社会への貢献を第1の目的として掲げ、「豊かな未来社会像を学内外の多様な人材と共にデザインし、描いた未来へ至る道筋を提示、共有することで、広く社会に貢献すること」を活動目標としています。
まだ誰も見たことのない未来を、その実現に向けた道筋を示しつつわかりやすく提示するという課題は、予想よりはるかに困難なものでしたが、2018年度の活動により、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、2019年度の取組を開始しました
DLab最新動向
DLabは9月26日、東工大大岡山キャンパス西9号館において「未来のシナリオ」が実現したときの社会について考えるワークショップを開催しました。
今回のワークショップは、学内外の有識者で構成されるDLabの「Team Imagine」(チーム・イマジン)のメンバーと、DLabの活動に賛同する企業の方々を中心に行われました。
「未来の社会において、ある技術が実現した際にどのような商品やサービスが提供できるか?」をテーマとしたグループワークでは、日ごろから商品・サービスを企画している方々ならではのユニークな提案がありました。
ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。
DLabイベント情報
2020年1月20日(月)17:00から渋谷スクランブルスクエア15階 渋谷キューズにて、DLabとして最初の「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」を発表します。
DLabメンバーによるトークセッションと、参加者のみなさんと未来を考えるワークショップも行いますので、ぜひご体験ください。
2020年3月7日(土)に共創ワークショップを開催します。詳細は後日、Twitter、Facebookなどでお知らせします。
メディア専門家3氏に聞く「DLabってどう見える?」
人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。これまで、構成員へのインタビューを通して、なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかなど、構成員自身の考え方や構成員から見たDLab像をご紹介してきました。今回は趣向を変えて、メディアで活躍している3氏に「DLabってどう見える?」を伺いました。3氏は昨年10月のキックオフイベントへの参加以来、DLabの活動に注目しているとのことです。メディア専門家の目にDLabの活動はどのように映っているのか、語っていただきました。
東工大生にはリアルな未来に向き合う覚悟がある
モバイルクルーズ代表取締役/De-Tales Ltd. ディレクター ビジネスプランナー 安西洋之氏
東京工業大学で開催されたDLabキックオフのイベントに参加した際、それまでにぼくが抱いていた理系の学生のイメージが心地よく崩された。学生たちが次のように発言していたのだ。
「この科学技術が世の中に出ることが、本当に良いことなのか?」「社会で問題になった科学技術をひくにひけないからと進めてしまうのではなく、ひきやすくする(やめることができる)システムを考えるのが必要では?」
イベントには大学生・教職員・高校生・一般社会人など100人以上が集まり、「ボーダーを、超えよう」をテーマに話し合った。学生たちから「浮ついた」アイデアばかり出ると思っていたぼくには、意外な展開だった。
この日の全体のプログラムは、ある技術的課題をベースにして未来社会像を「ボーダーなく」考え、討議するよう設計されていたように見えたが、実は学生はそういった思惑とは別の方向を眺めていたのだ。
倫理や意味の問いかけに視線が注がれている。そして目の前にある問題解決のための科学技術の適用といった、マイナスをゼロにするタイプの取り組みもさることながら、ゼロからプラスを生むことに関心が強い、とぼくの目には映った。
文系の学生は社会とのかかわりに敏感であり、理系の学生は「オタク」的でやや社会との距離をもつタイプが多い。ぼくのこれまでの人との付き合いから、そう思い描いていた。しかしながら、少なくとも東工大の学生については、思い違いであった。前述のセリフに見るように、リアルな社会に向き合う覚悟がある。
そして科学技術のネタありきでビジョンを描くのではない。できるだけゼロのところからビジョンを描き科学技術を「のせる」姿勢が垣間見られた。
最後にテーマについて触れると、「ボーダー自体を積極的に消し去る」という言葉は称賛をもって迎えられやすい。偏見や先入観からの脱却である。しかし「ボーダーとはネガティブな存在である」と一方的に思い込むのも、ボーダーの穴に嵌りこんだ証である。
若い世代に「ボーダーを自由に使いこなす人」が増えることを期待したい。
ボーダーを超え、多様性を実現するプロジェクトに期待
東洋経済記者 長瀧菜摘氏
世代や専門の違うメンバーでさまざまなテーマについて議論するのは非常に刺激的でした。
丸くカットされた段ボール「えんたくん」を使って、文字通りひざを突き合わせて話をすると、心の距離も近づき、「こんなことを言ったら変かしら?」といつもなら躊躇してしまうようなことや、自分の頭の中で整理し切れていないことも、とりあえず発してみようと思えるのが不思議です。そして何より、直接がしがし書き込めるのが楽しい!
大きなテーマとして掲げられた「ボーダーを、超えよう」は、普段の執筆活動の中でも常に考えさせられるものです。技術的には超えられるボーダーでも、政治的、倫理的、社内論理的(!)に超えられないなんてことはよくあり、もどかしい思いを抱える人々は多くいます。
今回のイベントの中では「通信」「環境」「医療(創薬)」の“ボ-ダー超え”をテクノロジーの見地からご解説いただき、個々の理想の世界を話し合いましたが、それぞれのテーマ設定・意見・反応の中にも、当たり前に「差」や潜在的「べき論」が存在することを感じ、多様性にわくわくすると同時に、ボーダーを超えることの難しさも突きつけられたように感じました。
とはいえ、東工大生の皆さんの、各テーマに真摯に向き合い、懸命に伝えよう・聞こうとする姿にはとても感銘を受けました。
「理系学生はコミュ力低い変人」みたいなイメージを拡散するテレビ番組などもありますが(私も少なからずそんなイメージを持ってしまっていました、恥ずかしい)、それはまったく違う。少なくともあの場で交流した皆さんについてはそう痛感しました。こういった外部を巻き込んだ取り組みも通じて、偏見というボーダーも軽々超えていってほしいと思います。
東工大生よ、殻を破ってベンチャーを目指そう
スマートニュースメディア研究所 所長 瀬尾傑氏
「ボーダーを、超えよう」というテーマに惹かれて、参加しました。
メディアの世界で30年仕事をしてきた私自身にとっても「ボーダーを超える」ことは大きなテーマであり、このイベントに参加した意義はとても大きなものでした。私は、出版社での雑誌記者、ウェブメディアの立ち上げ、メディアのビジネスモデル構築といった仕事を経て、テックベンチャーで新しいメディアと社会のあり方について考えていますが、インターネットにより、メディアビジネスの環境は激変しました。
消費者や社会のニーズに応えるため、マスメディアにはこれまでの枠組みを超えた挑戦が求められています。かつて、雑誌と新聞とテレビとラジオは別々のプラットフォームに載ったメディアでしたが、今やほとんどのコンテンツがデジタルで流通できます。誰もがスマホであらゆるメディアコンテンツを消費しています。ボーダーを超えるどころか、ボーダーがなくなっています。紙とデジタル、リアルとバーチャルは混在しているのが当たり前になりました。
この大変革の先にある未来に、若者はどう向き合っているのかを知りたい。そう思って、東工大生や先生方、高校生たちに混じって、未来社会を考えるグループワークに加わりました。
「えんたくん」を使ったグループワークは実に楽しく、実りのあるものでした。興味深かったのは、同じチームに、社会人、大学生、高校生がいると、一番具体的なイメージで未来を語ろうとするのは、もっとも若い高校生なんですね。良い意味で、色がついていないから、自分の意見や理想を臆せず思い切って口にすることができる。大学生になるとちょっと照れが出ちゃうのか、ストレートな意見が出にくくなる。あの殻は、ぜひ破ってほしいなあ、と思いましたね。
最後に、それぞれが自分の作りたい未来社会を「絵」にする作業に取り組んだのも、有意義でした。未来がどうなるか、という受け身の姿勢ではなく、未来をどう創るか、という当事者性を、高校生も大学生も先生も社会人もみんなが持って挑戦していく。これこそが、ボーダーを超えて、より良い社会を実現する第一歩だと感じました。
スマートニュースの共同創業者は東工大出身のエンジニアです。東工大は理工系のトップであるだけではなく、ベンチャーをつくる人たちが生まれる大学になりつつある。今回のイベントで、東工大の学生たちの優秀さの一端に直に触れることができました。だからこそ、もっともっと冒険してほしい。次にイベントがあるときは、そんな話を学生たちともしてみたいですね。
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