東京工業大学は「科学・技術の力で世界に貢献する人材」を育成する教育プログラム「グローバル理工人育成コース」を、文部科学省の支援により2013年度に開設しました。モビリティ(移動)の制限により、大学での国際教育が転換期を迎える中でも、本コースは場所を選ばない、質を維持した教育活動を続けており、現在、学士課程・修士課程をあわせて約2,200名が所属しています。
コースの所属生と修了生が、コースを通して得た国際的な経験を後輩の所属生たちに伝えるシンポジウム「理工人の未来設計—コース所属生たちのグローバルな活躍」を、1月12日(水)にオンラインにて開催しました。
シンポジウムには、東工大学士課程1年次の学生を中心に、教職員と合わせて180名ほどが参加しました。グローバル理工人育成コースでの科目履修や英語学習、海外での経験がどのように将来計画に繋がっているのか、また現在の活躍にどう生かされたのかについて、コース所属生・修了生の3名が発表しました。
講演に先立ち、水本哲弥理事・副学長(教育担当)が開会のあいさつをし、参加学生を歓迎するとともに、本シンポジウムを通じて、具体的な目標設定のヒントを得て、将来国際的に活躍したいという意欲を持ち続けて欲しいというメッセージを送りました。
講演1:梶江佳乃さん(工学院 機械系 修士課程1年)
「やりたいと思ったことは今のうちに!」
梶江さんは、アメリカ西海岸超短期派遣プログラム、東工大/MIT語学交換プログラム等を経てグローバル理工人育成コース中級を修了しました。現在上級に所属しながら韓国ソウル大学にて派遣交換留学中です。
講演では、学士課程に入学してから韓国に留学するに至ったきっかけや経緯を紹介し、それらを項目別に詳しく説明しました。留学のきっかけの1つである英語学習では、コースが提供する英語学習支援の活用やMIT語学交換プログラムへの参加、語学パートナー、友人との出会いを通して英語力向上に対するモチベーションを維持したと述べました。
実際に留学を決断したときに新型コロナウイルスが流行し、計画通りにはいかない中でも続けた学習、さらに韓国に到着してからの隔離生活等、苦労したエピソードも交えながら、現在の充実した留学生活について話しました。
英語力等、自分に自信がなくても、とにかく「やってみる」「話してみる」ことで、貴重な機会をたくさん得ることができ、克服すべき課題が発見できた経験から、比較的時間のある学士課程のうちに、やりたいことをやってみてほしいという参加学生へのメッセージで締めくくりました。
講演2:井上暁人さん (生命理工学院 生命理工学系 博士後期課程1年)
「やりたいことはあとからついてくる」
井上さんは、オーストラリア超短期派遣プログラムへの参加などを経てグローバル理工人育成コース上級を修了し、現在は東工大博士後期課程で研究を続けています。
井上さんの講演は参加者に向けて「今、やりたいことはありますか」という問いかけで始まりました。学士課程1年生からの自身の気持ちの変化を振り返りながら、英語学習、留学、国内での国際教育について、博士後期課程という観点から自身の経験を話しました。
オーストラリアの超短期派遣でのラボツアーや、授業、滞在中自主的に参加したクラブ活動等の経験から、短期留学の意義について見解を述べました。一方で、移動が制限されてからも、コースでの授業や海外とのオンラインプログラム参加を通して、留学経験にも劣らない新しい学びを発見し、無事コース上級を終了できたことを、プログラムの詳細とともに説明しました。
井上さんはまた、博士後期課程のやりがいや、常に研究成果を求められる厳しさについても言及し、英語をただ話すだけでなく合理性をもって「発信」することや、専門性に加えリーダーシップも、研究者に求められる「国際性」であることを強調しました。コースで履修した科目はそうしたスキルを養うものであったと振り返りました。
コースに所属した当初は特にやりたいことがなかったが、興味や偶然を見過ごさず、新しい価値観に触れてきたことで、具体的な興味や専門性が定まり、現在の研究生活や、これからの研究留学の計画につながっていると述べました。最後に、冒頭の問いかけへの答えとして、やりたいことがあるよりも「やりたいことを探す」こと、「興味や偶然に出会ったら即行動する」ことが重要であるというメッセージを参加学生に送りました。
講演3:朝倉めぐみさん(環境・社会理工学院 融合理工学系 2021年3月修士課程修了)
「人生を見つける一歩」
朝倉さんはグローバル人材のためのサイエンスコミュニケーション/科学技術デザイン―海外研修プログラム(イギリス)、フランス派遣交換留学等を経験し、修士課程修了時にグローバル理工人育成コース上級を修了しました。東工大修士課程修了後、メーカーでUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーとして活躍しています。
新型コロナウイルスが流行する以前に、コースが実施する超短期派遣や、語学留学、派遣交換プログラム等含め、在学中に5回もの留学経験を積みました。順調に見える学生生活ですが、在学中にたくさんの迷いがあったこと、人と話すことが得意ではないこと、留学中は苦戦続きであったこと等を色々なエピソードを交えて紹介しました。また、中学生時代に抱いた工業デザインへの興味や、企業で働く講師の授業から受けた刺激、フランス留学中に気付いた「工学と美」のつながり、その他出来事を「点」とみなし「connecting the dots(点と点をつなぐ)」の結果が、現在の自分であると説明しました。
留学について、オンラインはコロナ禍以前には思いもしなかったメリットがたくさんあるが、現地での暮らしや何気ない体験は貴重な学びをもたらすものであり、世界を知ることは自分や日本を多角的に知る機会であるという見解を示しました。最後に、「選択肢を知らなければ存在しないのと同じこと」であり、たとえ失敗しても挑戦することが人生を豊かにするという心に響くメッセージを残しました。
講演後、国際教育推進機構 太田絵里特任教授の司会で活発な質疑応答が行われました。海外での日常生活から、留学におすすめのタイミング、留学先での講義の具体的な内容まで、たくさんの質問が寄せられ、講演者がそれぞれ自身の体験をもとに回答しました。
最後に、グローバル人材育成推進支援室長である野原佳代子 環境・社会理工学院 教授が、講演者や協力者への謝辞と「オンラインでできる国際経験とさらに次の未来」を意識して、全ての機会を自分のものにして可能性を広げてほしいという、参加学生への期待の言葉を述べ、シンポジウムは閉会しました。
参加者の声(アンケートより一部抜粋)
英語力の中でも特にスピーキング能力に自信がないので留学に少し後ろめたい気持ちがあったが、先輩方も最初は同じような状態でそこから努力して話せるようになったということを実体験として聞けたのは、今後の自分のモチベーションになりそうだと思った。また外国語の中でまだ英語しか触れたことがないため留学先も英語圏を考えがちだったが、お話にあったようにアジア圏でも英語で会話できる場所があり、さらに現地の言葉も学べると知って興味がわいた。
印象的だったのは講演者の方は情報を多く持っているということだ。わからないことが多いがそれで止まることなく自分から動いてどんどん情報を得て、その情報を持ってして行動に移すことが大切なのだろうと感じた。講演された方の『知らなければ存在しないのと同じ』という言葉に表されるように積極性が必要だと思った。
自分がしたいことは何かを探すときに、どうしても自分の内のことを考えてしまいがちであり、あまり外界の環境がどうかは考えてこなかった。しかし、今回の講演を聞いて自分の内にある限られたものだけでは自分のしたいことが見つかるわけではなく、自分を様々な環境に置き外から刺激を受けて無限の可能性を感じることが必要だと思った。
3人の体験談を聞いて、留学に行きたいという気持ちがますます強くなりました。1番印象に残ったのは、「やりたいことがある」ではなく「やりたいことがついてくる」という表現です。私は明確には将来の夢が決まっておらず、興味のある分野がたくさんあってどれにしようか決めかねているところです。これからより専門分野を学ぶようになっても、できるだけたくさんの機会を持ち、色々なものに触れてやりたいことがついてくるような生活をしたいです。
グローバル理工人育成コースとは
東工大の学士課程・修士課程において「国際基礎力」「国際実践力」「国際協働力」を段階的に発展させる国際性涵養に特化した教育カリキュラムです。専門性を基礎としたアイデンティティー・知識・経験・技術力を基軸とし、多様性を理解し、倫理観を持って、グローバル社会の未知な課題に対応できる「科学・技術の力で世界に貢献する人材」を育成することを目的とします。
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