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植物の生長調節物質KODAの生化学的な新規生産手法を開発 植物由来の肥料・農薬の低価格での安定生産に期待

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要点

  • 植物葉を用いた安定的で高効率なKODA生産手法の開発に成功
  • KODA研究の推進と将来的な肥料・農薬としての利用促進に期待
  • α-リノレン酸を出発物質とする他の生理活性物質生産への応用も可能

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の井原雄太研究員、若松孝幸大学院生(研究当時)、太田啓之教授、下嶋美恵准教授と東京農工大学 大学院農学研究院 横山峰幸客員教授、癸巳化成株式会社 前澤大介代表取締役らの研究グループは、植物の生長調節に関わる低分子化合物9,10-α-ケトールリノレン酸(KODA)の新規合成手法の開発に成功した。

KODAは植物の開花、発根やストレス回復に寄与する植物由来の生理活性物質として知られており、農業上の利用価値が高いと期待されてきたが、安定的で高効率なKODA生産方法は確立されていなかった。今回、KODA生合成の基質であるα-リノレン酸を豊富に含む植物葉に着目し、KODA生合成に関わる2つの酵素タンパク質が細胞内で葉緑体に局在するように過剰発現させた形質転換植物体[用語1]を作出した。さらに、新たに見出したKODA生成を促進する葉の処理方法を組み合わせることで、植物葉を用いたKODAの高生産が可能となった。この植物を用いたKODAの安定的な生産法は、植物体そのものの肥料利用だけでなく、KODAの作用機序の完全解明を目指した研究進展と将来的な農薬としての利用普及へとつながることが期待される。

研究成果は2月14日発行の英国科学雑誌「ジャーナル オブ エクスペリメンタル ボタニー(Journal of Experimental Botany)」に掲載された。

背景

植物の生長調節作用を持つKODAは、植物由来の生理活性物質であり、約20年前に日本で初めて発見された。これまでに、植物の開花や発根の促進、病原体への抵抗力増大といったさまざまな生理作用を持つことが明らかになっており、小麦の収量増加に寄与することも報告されている。アオウキクサという植物にKODAが比較的多く含まれることが知られており、この植物の粗抽出液をもとにした肥料が現在市販され、実際に利用されている。KODAを用いた農薬の普及や、作用機序などに関する研究がさらに進められることに期待が寄せられている一方、生産効率の低さと生産コストの高さが課題となっている。特に、試薬として市販されている純度の高いKODAは原料であるα-リノレン酸の価格の高さ、化学合成プロセスの複雑さが高価格の要因となっている。

そこで本研究では、より低コストでのKODAの安定生産を目指し、α-リノレン酸を多量に含む植物の葉を活用して生化学的にKODAを生成させる新手法の開発を試みた。

研究成果

本研究グループは今回、形質転換によって植物のKODA生成能を人為的に高め、もともと葉に含まれるα-リノレン酸からKODAを高効率で生成させることに成功した。また、各種条件の違いが生成量に与える影響を検討した(図1)。

図1 今回の研究フローの概要
図1
今回の研究フローの概要

植物内でKODAが生合成される際は、α-リノレン酸を出発物質として、2つの酵素9-リポキシゲナーゼ(9-LOX)とアレンオキシドシンターゼ(AOS)による反応が必須である(図2左)。しかし、α-リノレン酸は他のオキシリピン[用語2]生合成の共通基質でもあることから、通常ではKODA生成量は非常に低い。そこで、これまでに特に活性が高いことが報告されているアオウキクサ由来の9-LOXとAOSが過剰に発現するように形質転換を行い、α-リノレン酸をKODA生成に消費しやすい植物体を作出することで、KODAの生産量が高まるのではないかと考えた。

植物形質転換体として、(ベンサミアナ)タバコの一過的発現系[用語3]ならびにシロイヌナズナの形質転換植物体を作出し用いた。形質転換においては、9-LOXおよびAOS発現に関するDNAを導入する際に、DNA配列を4パターン作成した。配列の違いは、酵素タンパク質が働く細胞内の場所や、タンパク質同士の複合体形成の有無に影響し、それらによるKODA生成量の変化についても検討した。

その結果、タバコ葉の一過的発現系においては、2つの酵素タンパク質が高発現していればKODAは生成され、細胞内局在や複合体形成はその生成量に大きな影響を与えないことがわかった。一方、シロイヌナズナの形質転換植物体を作出してKODA生産を行う場合は、2つの酵素タンパク質を葉緑体に局在させることが必要であることがわかった(図2右)。

ただし、上記いずれの場合も、多量のKODAを生成させるには、葉の破砕液を1時間以上室温処理する必要があることがわかった。以上の結果から、植物で安定的にKODAを生産するには、高活性型9-LOXとAOSを葉緑体において恒常的に高発現するような形質転換植物体をまず作出し、その葉を破砕して1時間以上室温処理を加える方法が有効であることが示された。

図2 植物におけるKODA生合成経路(左)と葉緑体局在化配列および複合体化配列を付加した9-LOXおよびAOSを発現させたシロイヌナズナ形質転換体の細胞内におけるKODA生成の模式図。(ただし、複合体の形成が必須であるかどうかについては、今後詳細な検討が必要。)
図2
植物におけるKODA生合成経路(左)と葉緑体局在化配列および複合体化配列を付加した9-LOXおよびAOSを発現させたシロイヌナズナ形質転換体の細胞内におけるKODA生成の模式図。(ただし、複合体の形成が必須であるかどうかについては、今後詳細な検討が必要。)

今後の展開

植物由来の生理活性物質を、植物で生産し、それを植物の生育促進に活用することで、将来的には循環的な植物生育が可能となることが期待できる。今回はモデル植物であるシロイヌナズナ形質転換植物体でのKODA高生産を達成したが、一過的発現系ではあるが同じ方法でタバコ葉でもKODAが生産されたことから、本研究で開発したKODA生産法は他の植物にも適用できる可能性が高い。将来的には、レタスなどの植物工場で生育可能な実用植物に適用して、大規模なKODA生産系の構築を目指したいと考えている。また、本方法は、α-リノレン酸を出発物質として生成される他の生理活性物質の生産にも適用可能な知見を含んでおり、天然由来の肥料や農薬の開発への応用に期待がかかる。

付記

この研究は、主に科学技術振興機構 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「ゲノム編集による革新的な有用細胞・生物作成技術の創出」研究領域(研究総括:山本卓(広島大学教授))における研究の一環として行われた。

用語説明

[用語1] 形質転換 : 遺伝子工学における基本技術のひとつで、DNA分子を細胞に導入することで起こる遺伝現象を指す。今回は、アオウキクサが遺伝的に持つ機能を、異なる植物に遺伝させることを試みた。

[用語2] オキシリピン : 脂肪酸の過酸化を介して作られる脂質の総称。植物ではプロスタグランジン類似の植物ホルモンであるジャスモン酸などが含まれる。

[用語3] 一過的発現系 : 形質転換で導入された遺伝情報が次の世代には受け継がれず、形質転換が行われた生体の細胞内で一定期間のみ発現する系を指す。

論文情報

掲載誌 :
Journal of Experimental Botany
論文タイトル :
Developing a platform for production of the oxylipin KODA in plants
著者 :
Yuta Ihara, Takayuki Wakamatsu, Mineyuki Yokoyama, Daisuke Maezawa, Hiroyuki Ohta, Mie Shimojima
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 下嶋美恵

E-mail : shimojima.m.aa@m.titech.ac.jp
Tel / Fax : 045-924-5527

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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