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しば漬の成分変化に関与する微生物群集の相互作用を発酵モデルで再現 発酵漬物が美味しく仕上がるまでの舞台裏を科学的に解明する

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要点

  • しば漬の発酵において微生物群集の組成が経時的にどのように変化し、それが最終的な風味にどう影響するかを解明した。
  • 特定の微生物群集を用いて新しい発酵モデルを構築し、それが発酵過程に与える影響を詳細に分析できるようになった。
  • この研究は、発酵過程の詳細な理解と発酵食品の品質・安全性の向上に貢献する技術的な基盤を提示した。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と株式会社ぐるなびとの共同研究チームは、京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬の発酵プロセスにおける、野菜などの原料に由来する微生物群集の変遷とその役割について解明した。自発的発酵[用語1]を利用した発酵漬物は、商業的に生産されているものでも、発酵に影響を及ぼす外的要因を完全に制御することは困難である。これにより、発酵に関わる微生物の組成は一定ではなく、その詳細な役割や変化のタイミングを把握することも困難であった。そこで、本共同研究チームは、しば漬の主要原料であるナスから絞り汁を取り出し無菌処理を施した後、人工的に構築した微生物群集[用語2]を用いて発酵を行った。これにより、微生物群集が変化する要因や、発酵によって生まれる代謝物の変化を詳細に解析することに成功した。また、この発酵モデルにおいて微生物群集の変化に高い再現性があることが分かった。

この研究アプローチを他の自発的発酵にも適用して発酵プロセスの理解を深めることで、望ましくない微生物の増殖を抑制する詳細なメカニズムが解明できれば、食品の安全性を一層強化できる。引き続きの研究が、消費者が「いつもの味」を安定して楽しめるようになる、一貫性のある高品質・高機能な発酵食品の開発・製造を可能にするものと期待される。

本研究成果は、東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授、株式会社ぐるなびの澤田和典博士によって行われ、7月17日付の「Microbiology Spectrum」に掲載された。

背景

日本で伝統的に作られてきた発酵漬物は、特定の微生物を人為的に添加せず、原料などに自然に付着している微生物を利用した自発的発酵によって作られている。この自発的発酵プロセスでは、使用される原料の種類や漬け込み環境によって増殖する微生物の種類が変わるため、再現性高く品質を保つことは技術的な困難が伴う。さらに、どの環境因子が微生物の増殖や代謝にどの程度影響するかを明確にすることも困難である。そのため、これまでの研究では、自発的発酵を利用した発酵漬物に関わる微生物群集をケーススタディーとして取り上げることが多く、漬物の複雑な生態系内での微生物間相互作用や影響因子の詳細な解明は限られていた。しかし、発酵漬物の味や香りは発酵プロセスによって形成されるため、発酵漬物の微生物生態系を理解することは製品の品質向上にとって非常に重要である。

研究成果

本研究では、自発的発酵を利用して作られる京都の伝統的な発酵漬物であるしば漬を研究対象とした。この研究で開発された再現可能なモデルを通じて、原料などに由来する微生物群集がどのように変化し、漬物の成分にどのような影響を与えるのかを明らかにした。初めに、商業生産されているしば漬の微生物群集の変化を解析した結果、生産ロットによって微生物群集の変化に違いがあることが確認された。そこで、しば漬の発酵初期に観察された微生物群集の平均値を基に人工的な微生物群集を構築し、ナスから得た絞り汁を無菌処理したものを発酵させた。この過程で、微生物群集の変化と環境因子の影響、および代謝産物の変化を詳細に分析した。その結果、微生物群集の変化には高い再現性があることが分かったが、発酵漬物と人工菌叢を使ったモデル間での一致は完全ではなかった。この原因については原料が固体の野菜か液体の野菜汁かの違いによるものであると推定したが、結論づけるためにはさらなる研究が必要と考えている。また、本研究結果から耐塩性を持つ乳酸菌「ラクチプランチバシラス・プランタラム」が特にグルタミン酸とアラニンの増加に関与していることが示唆され、これまでの知見をさらに深めるものとなった。

図1. 本研究はこれまで経験的に観察されてきた現象に対して、より高解像度のメカニズムを示した。 【上段】自発的発酵を利用するしば漬は同じ微生物群集が毎回発酵しているとは限らないため、どのように発酵が進むのか、メカニズムを詳細に理解することが難しい。実際に分析してみるとメーカーごと、製造ロットごとにばらつきがあることを確認した。 【下段】この問題を解決するため、無菌のナスジュースを使って人工的に構築した微生物群集を使って発酵させ、微生物群集と発酵産物の関係や、微生物群集を変化させる要因を明らかにすることができた。
図1.
本研究はこれまで経験的に観察されてきた現象に対して、より高解像度のメカニズムを示した。
【上段】自発的発酵を利用するしば漬は同じ微生物群集が毎回発酵しているとは限らないため、どのように発酵が進むのか、メカニズムを詳細に理解することが難しい。実際に分析してみるとメーカーごと、製造ロットごとにばらつきがあることを確認した。
【下段】この問題を解決するため、無菌のナスジュースを使って人工的に構築した微生物群集を使って発酵させ、微生物群集と発酵産物の関係や、微生物群集を変化させる要因を明らかにすることができた。

社会的インパクト

本研究は、自発的発酵を利用した発酵プロセスの理解を深め、食品の安全性と品質向上のための新たな基盤となる研究アプローチを提示している。研究により開発されたモデルは、発酵漬物の生態系がどのように変化し、それが製品の品質にどのように影響するかを示している。これにより、自発的発酵を用いた漬物の製造プロセスをより高い再現性のあるものにすることが可能になると考えられる。

今後の展開

今回の研究方法は他の自発的発酵を利用して作られる発酵食品にも応用が可能であり、伝統的な発酵を利用した食品の商業生産においても品質管理の基準を高めることができると考えられる。具体的には発酵過程における微生物の動態を正確に把握し、望ましくない微生物の増殖を抑制することで食品の安全性を一層強化することが可能となる。また、さまざまな菌の集合体から起きる自発的発酵を現象として理解し、応用することで新しい発酵食品の開発につながる可能性がある。自発的発酵を利用した発酵食品では毎回同じ味を再現することは困難を伴うことがあるが、この研究により、消費者が「いつもの味」を安定して楽しめるようになる可能性が高まると考えられる。

また、本研究で題材としたしば漬から、多糖の生成能力が高く発酵物に粘性を与える乳酸菌を単離している。本乳酸菌を使った発酵物の応用に対する展開については、2024年7月30日から8月1日に東京ビッグサイトで行われる「国際発酵・醸造食品産業展」にて紹介する。

付記

本研究成果は、株式会社ぐるなびとの共同研究「ぐるなび食の価値創成共同研究」によって得られた。

用語説明

[用語1] 自発的発酵 : 原料などに付着している微生物をそのまま利用して行う発酵のこと。伝統的な製法で作られている乳酸発酵の漬物(しば漬、広島菜漬、高菜漬、野沢菜漬など)やぬか漬けは自発的発酵を利用している。

[用語2] 微生物群集 : さまざまな種類の微生物の集まりのこと。

論文情報

掲載誌 :
Microbiology Spectrum
論文タイトル :
Influence of the initial microbiota on eggplant shibazuke pickle and eggplant juice fermentation
著者 :
Kazunori Sawada and Takuji Yamada
DOI :

生命理工学院

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生命理工学院

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お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

准教授 山田拓司

Email info@jchm.jp
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取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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