用語説明
[用語1]
酸化物イオン伝導度 : 外部電場を印加したとき酸化物イオン(O2−)が伝導する物質を酸化物イオン伝導体(あるいは酸素イオン伝導体)という。この酸化物イオンが伝導することによる電気伝導度を酸化物イオン伝導度という。酸化物イオン伝導体には、純酸化物イオン伝導体や酸化物イオン-電子混合伝導体などがある。
[用語2]
Bi1.9Te0.1LuO4.05Clオキシクロライドなどのオキシハライド : オキシクロライドとは酸素および塩素を含む物質。オキシハライドとは酸素およびハロゲンを含む物質。ビスマス、テルル、ルテチウム、酸素および塩素から構成されるBi1.9Te0.1LuO4.05Clは、本研究で初めて報告された新物質で、Sillénオキシクロライドの一つであり、Sillénオキシハライドの一つでもある。
[用語3]
固体酸化物形燃料電池(SOFCs; Solid Oxide Fuel Cells) : 電解質に固体を用いた燃料電池。電極や電解質を含め発電素子中に液体を使用せず、全て固体で構成される。高温で動作するため、白金などの高価な触媒が不要である。現在知られている燃料電池の形態では最も高い温度で稼働し、単独の発電装置としては最も発電効率が高い。SOFCsの固体電解質には、酸化物イオン伝導体が用いられている。
[用語4]
三重蛍石類似層 : 層状化合物の結晶構造に含まれる、3つの陽イオン層を含む蛍石類似層(蛍石型化合物に原子配列が類似した層)。図6bに示すように、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clにおける三重蛍石類似層は3つの陽イオン層、Bi/Te層、Lu層、Bi/Te層を持つ。
[用語5]
第一原理分子動力学シミュレーション : 実験データなどの経験パラメータを用いずに、計算対象となる原子の種類と数と初期配置を用いて、量子力学に基づいて電子状態を計算することで、原子間に働く力を見積もり、物質における原子の運動や物質の性質を調べるシミュレーション。
[用語6]
格子間酸素席と格子酸素席 : イオン結晶では正規の格子位置(格子席)に存在するイオンが充填しているが、充填した格子イオンの空隙位置(席)の一部にイオンが存在する物質がある。この空隙位置を格子間席と呼ぶ。格子間席に存在する酸素原子を格子間酸素と呼ぶ。
[用語7]
準格子間機構 : イオンが格子席を経由せずに、格子間席から格子間席に直接移動して拡散する機構を格子間機構と呼ぶ。一方、格子席のイオンが格子間席に移動するのと同時に、その格子間席に存在したイオンが別の格子席に移動するという、2個のイオンの協調的な移動による拡散機構を準格子間機構と呼ぶ。格子間機構ではイオンが格子席を介さずに移動するのに対し、準格子間機構では格子間席と格子席を介してイオンが移動する。(準格子間機構はプッシュプル(push-pull)機構またはキックオフ(kick-off)機構ともいう)
[用語8]
酸素空孔 : 結晶において、酸素原子が存在すべきであるのに原子が存在しない位置。
[用語9]
化学的・電気的安定性 : ある物質の電気伝導度が酸素分圧に依存せず一定であることを化学的・電気的安定性を示すという。電子伝導と電子のホール伝導の寄与が小さく、イオン伝導の寄与が大きいことを示唆している。
[用語10]
直流分極測定 : サンプルに一定の電圧(または電流)を印加したときの電流(電圧)の時間変化を測定すること。本研究の酸化物イオン伝導体では、電気抵抗値が時間に依存しなかったので、外部から供給されない陽イオンや塩化物イオン伝導ではなく、外部から供給できる酸化物イオン伝導であると考えられる。
[用語11]
中性子回折実験 : 数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、X線や中性子によって回折現象を起こす。得られる回折データは結晶構造の情報を含んでおり、解析することで結晶内の原子配列などを明らかにすることができる。X線は電子により散乱されるので、重元素のコントラストが高い。一方、中性子では重元素と酸素などの軽元素の両方を含む物質における軽元素のコントラストが相対的に高いことが多いので、軽元素の原子の原子座標、占有率と原子変位パラメータを正確に決めることができる。
[用語12]
リートベルト法 : 粉末回折データを用いて、結晶学パラメータ(格子定数、原子座標、占有率、原子変位パラメータ等)を求める手法。
[用語13]
Sillén相 : [M2O2]などの蛍石型構造に類似した構造を有する蛍石類似層と、ハロゲン層または陽イオンMを含むハロゲン層が積層した結晶構造を持つオキシハライドをSillén相という。
[用語14]
最大エントロピー法(Maximum-Entropy Method; MEM) : MEMは情報理論の一つで、計測データの不確かさ(情報エントロピー)が統計的に尤もらしく(最大に)なるように推定する方法である。MEMを使うと、信号のノイズを低減させ、より鮮明な信号にすることができる。
[用語15]
中性子散乱長密度分布 : 中性子散乱長密度分布とは、原子核の密度分布に中性子の原子散乱能(中性子散乱長)を掛けたものである。リートベルト解析により得られた構造因子に対してMEMを適用すると、より正確な中性子散乱長密度分布が得られる。