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東工大公認サークルiGEM TokyoTechがクラウドファンディングを開始 2024 iGEMで最優秀賞獲得へ!

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東京工業大学の公認サークルiGEM TokyoTechが、クラウドファンディングを利用した学生活動プロジェクト「国際的合成生物学コンペティション『iGEM』で最優秀賞獲得へ!」の支援募集を開始しました。

東工大公認サークルiGEM TokyoTechがクラウドファンディングを開始

iGEM(The International Genetically Engineered Machine Competition)とは国際的な合成生物学の大会で、学士課程の学生主体のチームが「合成生物学を応用して社会課題を解決する」というマインドを基に行った活動の成果を競い合います。

iGEM TokyoTechは、その成果を10月に開催される2024 iGEMで発表して「Grand Prize(最優秀賞)」を獲得することを目標に掲げています。ご興味のある方は、本プロジェクトサイトをぜひご覧ください。

プロジェクトページ

国際的合成生物学コンペティション「iGEM」で最優秀賞獲得へ!|READYFOR

募集期間

2024年2月29日(木)12:00 - 2024年3月29日(金)23:00

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お問い合わせ先

学生支援センター未来人材育成部門
クラウドファンディング窓口

Email crowdfunding@jim.titech.ac.jp


熱電効果により超伝導の前兆現象の全容を解明 超伝導体の示す熱電効果の標準データを提示

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要点

  • 超伝導の前兆現象である微弱な「ゆらぎ」を、熱電効果により検出することに成功
  • 2次元超伝導体の異常な金属状態の起源が、量子的なゆらぎが最大となる量子臨界点の存在によることを実証
  • 温度と磁場に対する超伝導のゆらぎの全貌を明らかにし、超伝導体の示す熱電効果の標準データを提示

概要

東京工業大学 理学院 物理学系の家永紘一郎助教、大熊哲教授の研究グループは、超伝導体の熱電効果[用語1]を超伝導転移温度よりはるかに高温から絶対零度付近の極低温までの広い温度範囲で、広い磁場にわたって測定することにより、超伝導の前兆現象である微弱な超伝導のゆらぎ[用語2]を検出することに成功した。

原子レベルに薄い2次元超伝導[用語3]の性質は、超伝導のゆらぎから大きな影響を受けている。特に量子的なゆらぎはさまざまな興味深い現象を引き起こすが、従来の電気抵抗測定では、ゆらぎの信号と電子の散乱の信号を区別することができなかった。

熱電効果測定を用いた今回の研究は、超伝導のゆらぎを選択的に検出することで、温度と磁場に対する超伝導のゆらぎの全貌を明らかにした。さらに、2次元超伝導の分野で30年来未解決の問題となっていた磁場中の異常な金属状態が、量子的なゆらぎが最も強くなる量子臨界点[用語4]の存在に起因することを実証した。本研究の結果は、超伝導体が示す熱電効果の標準データともなる。

本研究成果は2024年3月16日に「Nature Communications」(ネイチャー コミュニケーションズ)オンライン版で公開された。

背景

超伝導体とは、低温で電子がペアを組むことで電気抵抗がゼロになる物質であり、強力な電磁石の材料として医療用のMRIなどに用いられている。また、極低温で動作する量子計算機の微小な演算素子としても重要視されており、超伝導体を微小化した際の極低温での特性の解明が求められている。

原子レベルに薄い2次元超伝導体は超伝導のゆらぎの影響を強く受けるため、厚い超伝導体とは大きく異なる性質を示す。超伝導のゆらぎには、高温で顕著になる熱的(古典的)なゆらぎと、極低温で重要となる量子的なゆらぎがあり、後者はさまざまな興味深い現象を引き起こす。例えば、絶対零度で2次元超伝導体に垂直に印加した磁場を増加させると、抵抗ゼロの超伝導から電子が局在した絶縁体へと転移する。この現象は磁場誘起による超伝導-絶縁体転移と呼ばれ、量子的ゆらぎによって引き起こされる量子相転移[用語4]の代表例である。

ところが、局在効果が比較的弱い試料では、中間の磁場領域において、電気抵抗が常伝導状態よりも数桁も低い異常な金属状態が現れることが1990年代から知られている。この異常な金属状態の起源として、超伝導体中に侵入した磁束線 (図1左)が、量子的なゆらぎによって液体のように動き回る状態が予想されている。しかし、これまでの2次元超伝導体の実験の大半では、電流に対する電圧応答を調べる電気抵抗測定が用いられてきたため、磁束線の運動に由来する電圧信号と、常伝導電子の散乱に由来する電圧信号とを区別することは困難であり、この予想は実証されてこなかった。

そこで本グループの先行研究では、電流ではなく、熱流(温度勾配)に対して電圧が発生する熱電効果を用いることにより、異常な金属状態で磁束線の量子的運動が起こっていることを明確に検証した[参考文献1]。しかし、異常な金属状態の起源を明らかにするためには、超伝導状態が量子的ゆらぎによって壊されて常伝導(絶縁体)状態へ移り変わっていく機構を解明する必要がある。そこで本研究では、常伝導状態の中に存在すると考えられている、超伝導の前兆状態である超伝導ゆらぎ状態(図1中央)の検出を目指した測定を行った。

図1. (左)適度な大きさの磁場中では、磁束線が、超伝導電流の渦を伴った欠陥として侵入する。(中央)超伝導の前兆である「超伝導ゆらぎ」状態の概念図。時間的に変動し、空間的に不均一な泡のような超伝導領域が形成される。(右)熱電効果測定の模式図。磁束線や超伝導ゆらぎは熱流(温度勾配)と垂直方向に電圧を発生させる。
図1.
(左)適度な大きさの磁場中では、磁束線が、超伝導電流の渦を伴った欠陥として侵入する。(中央)超伝導の前兆である「超伝導ゆらぎ」状態の概念図。時間的に変動し、空間的に不均一な泡のような超伝導領域が形成される。(右)熱電効果測定の模式図。磁束線や超伝導ゆらぎは熱流(温度勾配)と垂直方向に電圧を発生させる。

研究成果

本研究では、一様な構造と乱れを持つ2次元超伝導体として、アモルファス構造[用語5]のモリブデンゲルマニウム(MoxGe1-x)薄膜を用いた。厚さは10 ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で、2次元系に特有のゆらぎの効果が期待できる。電気抵抗測定では、ゆらぎの信号は常伝導電子の散乱の信号に埋もれて検出できない。そのため本研究では(1)超伝導ゆらぎ(超伝導の振幅のゆらぎ)と(2)磁束線の運動(超伝導の位相のゆらぎ)という2種類のゆらぎを検出できる熱電効果測定を行った。試料の長さ方向(縦方向)に温度差をつけると、超伝導ゆらぎと磁束線の運動は横方向に電圧を発生させる。これに対し、通常の電子の運動は主に縦方向に電圧を発生させる。特にアモルファスのような電子が動きにくい試料では、電子が横方向に発生させる電圧は無視できるため、横方向の電圧を測定することにより、ゆらぎの寄与だけを選択的に検出できる(図1右)。

このアモルファス試料を用いて、超伝導転移温度である2.4 K(ケルビン)よりはるかに高温から、絶対零度に近い0.1 K(室温である300 Kの3,000分の1)という極低温までの範囲において、さまざまな磁場中で熱電効果測定を行った。その結果、超伝導の位相のゆらぎが顕著に現れる磁束の液体領域(図2の濃い赤色の領域)だけでなく、それより外側に位置する、超伝導が壊れた常伝導領域と考えられている広い温度-磁場領域にわたっても超伝導ゆらぎが生き残ることが明らかになった(図2の上凸の実線で示した臨界磁場曲線より高温-高磁場領域)。

この測定結果で特筆すべきことは、熱的(古典的)なゆらぎと量子的なゆらぎの間のクロスオーバー線の検出に初めて成功したことである(図2の太い実線)。このクロスオーバー線が絶対零度に到達する点の磁場の値は、量子的なゆらぎが最も強くなる量子臨界点に相当すると考えられるが、その点(図2の白丸)は明らかに、電気抵抗測定によって異常な金属状態が観測された磁場範囲の内部に位置することが分かった。この量子臨界点の存在は、これまでの電気抵抗測定からは捉えることができなかったものである。この結果により、30年来未解決となっていた、2次元超伝導体の絶対零度における磁場中の異常な金属状態が、量子臨界点の存在に起因すること、すなわち、この異常な金属状態は、超伝導-絶縁体転移の臨界点が磁場軸上で広がった量子臨界基底状態であることが明らかになった。

図2. 超伝導のゆらぎを捉えた熱電信号のカラーマップ。超伝導転移温度よりもはるかに高温から0.1 Kの極低温までの範囲において、広い磁場範囲にわたって超伝導のゆらぎの全貌が明らかになった。熱ゆらぎ-量子ゆらぎクロスオーバー線の存在が初めて実証され、この線が絶対零度に到達する量子臨界点は、異常金属領域の内部に存在することが分かった。
図2.
超伝導のゆらぎを捉えた熱電信号のカラーマップ。超伝導転移温度よりもはるかに高温から0.1 Kの極低温までの範囲において、広い磁場範囲にわたって超伝導のゆらぎの全貌が明らかになった。熱ゆらぎ-量子ゆらぎクロスオーバー線の存在が初めて実証され、この線が絶対零度に到達する量子臨界点は、異常金属領域の内部に存在することが分かった。

社会的インパクト

アモルファスの従来型超伝導体で得られた熱電効果の測定結果は、常伝導電子の寄与を含まない、純粋に超伝導のゆらぎの効果だけを捉えたものであることから、超伝導体に対する熱電効果の標準データとみなすことができる。熱電効果は電気式冷却装置などへの応用面からも重要であり、冷却温度の限界を更新するために低温で大きな熱電効果を示す物質の開発が求められている。ある種の超伝導体では低温で異常に大きな熱電効果が報告されているが、本データとの比較はその起源を解明する手がかりになると考えられる。

今後の展開

本研究を発展させた学術的興味としては、今回の試料よりも局在効果が強い2次元超伝導体においては、磁束線が量子凝縮状態[用語6]になるという理論予想がある。今後はその状態の検出を目指して、本研究の手法を用いた実験を展開する予定である。

付記

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(22H01165)、若手研究(20K14413)、挑戦的研究(萌芽)(21K18598, 23K17667)と、東京工業大学 大隅良典基礎研究支援、あすなろ研究奨励金の助成を受けて行われた

用語説明

[用語1] 熱電効果 : 熱エネルギーと電気エネルギーを交換する効果。温度差を与えると電圧が発生し、反対に電圧を与えると温度差が生じる。前者は発電装置として、後者は冷却装置としての応用が研究されている。本研究では超伝導のゆらぎの検出方法として用いている。

[用語2] 超伝導のゆらぎ : 超伝導の強さが均一ではなく、時間・空間的にゆらいでいること。通常は熱によるゆらぎが生じるが、絶対零度付近では量子力学的な不確定性原理に基づいた量子的なゆらぎが生じる。

[用語3] 2次元超伝導 : 非常に薄い超伝導体。厚さが超伝導を担う電子のペアの距離よりも薄くなると、超伝導のゆらぎの効果が強くなり、厚い超伝導体とは大きく異なる性質を示す。

[用語4] 量子臨界点量子相転移 : 絶対零度において磁場などのパラメータを変化させたときに起こる相転移は量子相転移と呼ばれ、温度変化によって起こる相転移とは区別される。量子臨界点とは量子相転移が生じる相転移点のことであり、そこでは量子的なゆらぎが最も強くなる。

[用語5] アモルファス構造 : 原子が不規則に配列し、結晶構造を持たない物質の状態。

[用語6] 量子凝縮状態 : 多数の粒子が最低エネルギー状態に落ち込み、ひとかたまりの巨視的な波として振る舞う状態。超伝導状態では多数の電子のペアが凝縮している。液体ヘリウムも2.17 Kまで冷やせば凝縮し、粘性がゼロとなる超流動が生じる。

参考文献

[1] K. Ienaga, T. Hayashi, Y. Tamoto, S. Kaneko, and S. Okuma, Physical Review Letters, 125, 257001 (2020).

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Broadened quantum critical ground state in a disordered superconducting thin film
著者 :
Koichiro Ienaga, Yutaka Tamoto, Masahiro Yoda, Yuki Yoshimura, Takahiro Ishigami, and Satoshi Okuma
DOI :

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Tel 03-5734-2732 / Fax 03-5734-2749

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Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

留学生(日本語研修コース・GSEP)の2023年度日本語研修合同最終発表会を開催

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1月18日、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院は、日本語研修コースを受講する留学生と、日本語初級クラスを受講する融合理工学系国際人材育成プログラム(GSEP)学士課程1年の留学生の合同最終発表会を、大岡山キャンパス西9号館ディジタル多目的ホールとメディアホールにてポスター発表の形式で開催しました。

小学生に自分のポスター内容を説明する留学生

小学生に自分のポスター内容を説明する留学生

日本語研修コースの国費研究生2人と特別受講生(修士課程1年生)2人は週5日で約4ヵ月間、GSEPの学士課程1年生6人は週2日で1年間、日本語および日本文化を学び、合同最終発表会に参加しました。今回の留学生10人の出身国は、タイ(3人)、インド(2人)、韓国・トーゴ・フランス・ボリビア・ベトナム(各1人)の計7ヵ国です。

発表会では、各自が製作したポスターの内容を日本語で説明し、研修成果を披露しました。内容は留学生が自由に選んだもので、母国・故郷の言語・歴史・文化、伝統行事の紹介、日本と母国の食文化や学校制度の比較など多岐にわたりました。益一哉学長をはじめ、受け入れ教員、研究室の友人、前年度に発表を行った先輩留学生など、東工大の多くの教職員・学生が発表を聴きました。

日本語研修生の発表会(ディジタル多目的ホール)
日本語研修生の発表会(ディジタル多目的ホール)

GSEP生の発表会(メディアホール)
GSEP生の発表会(メディアホール)

また、留学生がこの発表会に先駆けて訪問した大田区立洗足池小学校から5・6年生と先生合わせて約130人、日本語研修コースの鎌倉フィールドツアーでガイドを担当された神奈川県のボランティアガイド団体KSGG(Kanagawa Systematized Goodwill Guide Club:神奈川善意通訳者の会)の会員4人が発表会を訪れ、留学生との交流を深めました。

発表を聴く益学長、KSGGのメンバー
発表を聴く益学長、KSGGのメンバー

留学生と小学生にメッセージを送る益学長
留学生と小学生にメッセージを送る益学長

発表会の終わりに益学長が小学生を歓迎する言葉を述べ、洗足池小学校の伊藤聡校長と小学生の代表者からは、発表会への招待に感謝する言葉がありました。

留学生のコメント

  • とても楽しかったです。発表の準備を通して、日本語の語彙や文作りの勉強になりました。発表は非常に良いチャレンジでした。
  • 発表の準備は日本の小学生や日本人について理解する機会になりました。
  • 小学生が関心を持って聴いてくれて、リラックスして発表ができました。質問も面白かったです。
  • 小学生のみなさんと会えて楽しかったです。
  • 子どもたちはかわいくてやさしかったです。

日本語研修コースとは

年に2回開講する国費外国人留学生を対象とする日本語の集中講座です。定員に余裕がある場合は、学内から特別受講生を募集します。本コースは、来日直後の学生に対する日本語初級レベルの能力養成を目的としており、コース終了までにやさしい日本語で口頭発表ができる程度の語学力が身につきます。また、異なる文化背景を持った留学生同士が、日本の生活についての情報交換や、心の寄りどころとなる「集いの場」や「学び合いの場」の機能を果たしています。
授業の中では、鎌倉ツアー、防災体験学習施設「そなエリア東京」での災害シミュレーション体験、洗足池小学校・清水窪小学校(両校共大田区)の児童との交流など、留学生が地域の人々や日本文化に触れる機会や留学生活を安心して送るためのサポートを提供しています。

GSEPとは

GSEP(The Global Scientists and Engineers Program:融合理工学系国際人材育成プログラム)は、英語で学位が取得できる融合理工学系の学士課程教育プログラムです。GSEP留学生(学士課程1年生)向けの日本語科目(日本語第一 GSEP)では、日本語を初めて学ぶ学生や日本語初級レベルの学生を対象に、日本語運用能力の育成を目指しています。話す・聞くを中心とした学習で日本語のコミュニケーション能力を伸ばし、日本語が全く分からない学生が、日常生活で使う基本的な日本語を理解できるようにします。

関連リンク

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プロの芸人さんに学ぶ「日本のお笑いワークショップ」を開催 バイリンガル漫才講座で国際交流

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1月16日、Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ・アンド・ヒロコ・タキ・プラザ)地下2階のワークショップスペースにおいて、東京工業大学 学生支援センター 未来人材育成部門に所属する学生スタッフの学修コンシェルジュJr.(ジュニア)国際班が主催する「日本のお笑いワークショップ with 吉本興業」が開催されました。

自己紹介を練習する参加者

自己紹介を練習する参加者

このワークショップは、「お笑い」が円滑なコミュニケーションの助けとなり国際交流が生まれることを目的として企画されました。吉本興業ホールディングス株式会社所属のお笑い芸人 国際夫婦漫才フランポネさんを講師に迎えて、英語・日本語・その他の言語も交えて漫才作成講座を実施し、アメリカ・ドイツ・スイス・イタリア・スペイン・ウガンダ・インド・中国・インドネシア・台湾・日本といった11の国と地域から、留学生19人、日本人学生2人、教職員6人の計27人が参加しました。

講師紹介 国際夫婦漫才フランポネ

フランポネのマヌーさん(左)とシラちゃん(右)(写真提供:吉本興業)
フランポネのマヌーさん(左)とシラちゃん(右)(写真提供:吉本興業)

フランポネさんは日本人のマヌーさんとスイス出身のシラちゃんによる国際的な漫才デュオです。シラちゃんの母語がフランス語であることから、コンビ名は、「フランセ」と「ジャポネ」を組み合わせて作られました。マヌーさんは、ベルギー王立アントワープ大学大学院で海運経済学を学び修士号を持つ元商社マンで、フランス語の他、スペイン語、イタリア語、オランダ語など6ヵ国語を話すマルチリンガルです。フランポネさんは、国内外の教育機関などで漫才作成講座を数多く開催しています。

漫才作成講座

導入―自己紹介とコンビ名を決める

自己紹介では「〇〇が好きな誰々です」と名乗り、コンビ名は、二人の好きなもの・嫌いなもの、出身地、行きたい場所などを参考にして決めます。
例えば、
「温泉が好きな誰々です」「カピバラが好きな誰々です」「私たちは、温泉カピバラです」と自己紹介からコンビ名を披露する流れです。

参加者の中には中国からの留学生と組み、中国語で自己紹介したコンビもあり、漫才はどの言語でも成立する、とてもインターナショナルなコミュニケーション・ツールだということがわかりました。

3段落ち技法とボケ・ツッコミを習得

次に3段落ちの技法と、ボケ・ツッコミについて学びました。3段落ちとは、3回の発言のうち最初と2回目はまともなことを言い、3回目にボケる技法です。少し古い例になりますが、「じゅんです」「長作です」「三波春夫でございます」というのも、3段落ちの技法が用いられたものです。

本来の漫才は、最初に軽くボケたあと本題に入ります。しかし、今回は初心者向け漫才作成講座のため、3回目のボケに対して、『なんでやねん! (What's the deal?)』『もうええわ(That's enough)』『どうもありがとうございました(Thank you!)』とツッコミを入れて締めることにしました。

発表―完成したネタをステージ上で披露

ステージ上で漫才を披露
ステージ上で漫才を披露

講師による漫才作成方法の説明は、ところどころ日本語を交えた英語で行われました。コンビを組んだ参加者が自分たちでネタ作りを楽しめる構成となっていて、このワークショップで初めて会った人も、自己紹介やネタ作りを進めるうちに徐々に打ち解けました。発表では、学修コンシェルジュJr.国際班を含む全14組のコンビが、本物の芸人のようにステージ上でオリジナルの漫才を披露しました。

ワークショップ後の懇親会も終始笑いに包まれ、留学生、日本人学生、教職員が交流を深めることができた「あっという間」の3時間でした。

懇親会で和やかに談笑する参加者

懇親会で和やかに談笑する参加者

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お問い合わせ先

学生支援センター 未来人材育成部門

Email concierge.info@jim.titech.ac.jp

東京工業大学 社会人アカデミー オープンアカデミープログラム 2024 年度「コンフリクト解決のためのグラフモデル(GMCR)」 オンラインセミナー(前期および後期)

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GMCR(Graph Model for Conflict Resolution:コンフリクト解決のためのグラフモデル)は、現実の意思決定・紛争解決・合意形成の表現や分析に役立つ、数理的なフレームワークです。1987年に最初の論文が発表されて以来、30年以上の歴史があります。

東京工業大学社会人アカデミーでは、2020年度から開始したオープンアカデミープログラムの第一弾として「GMCR セミナー」を開講しており、受講生から好評価をいただいています。
引き続き、2024年度も 4月より「GMCR セミナー」前期、また 12月より「GMCR セミナー」後期の開講を予定しています。
皆さまのご参加をお待ちしております。

東京工業大学 社会人アカデミー オープンアカデミープログラム 2024 年度「コンフリクト解決のためのグラフモデル(GMCR)」 オンラインセミナー(前期および後期)のご案内

2024年度「コンフリクト解決のためのグラフモデル(GMCR)」セミナー(前期および後期)

前期と後期は、講義日は違いますが講義内容は同じです。後期(12月開始)の修了証書は新大学名「東京科学大学」での交付となります。

GMCR セミナーは、GMCR の研究を専門とする本学教員(猪原健弘教授)が担当します。
GMCR の全体像を体系的に学び修了証書が発行される「総合コース」に加え、何度でも受講可能な4つのクラス、5つの推奨コース、5つのアレンジ履修があり、柔軟な受講が可能です。

セミナー概要

開催日時

各日 18:30 - 19:30、19:40 - 20:40(2時間)

前期:2024年4月 - 2024年7月 水曜日

1.
基盤クラス 2024年4月10日、17日、24日
2.
展開クラス 2024年5月8日、15日、22日
3.
俯瞰クラス 2024年6月5日、12日、19日
4.
実践クラス 2024年7月3日、10日、17日

後期:2024年12月 - 2025年3月 木曜日

1.
基盤クラス 2024年12月12日、19日、2025年1月9日
2.
展開クラス 2025年1月16日、23日、30日
3.
俯瞰クラス 2025年2月6日、13日、20日
4.
実践クラス 2025年2月27日、2025年3月6日、13日

開講形式

オンライン開催(Zoomミーティングを用いたライブ型講義)

受講対象者

  • 論理的、数理的な記述力と思考力、意思決定状況の表現力と分析力を身につけたい社会人
  • 大学院(修士課程、博士後期課程)入学希望者
  • 参加者同士のネットワークを構築したい方

募集人数

33名(各コース、1.~4.各クラス)

最小開催人数:総合コース5名、それ以外6名

GMCRセミナーのコースとクラスの構成

  • 総合コース:1.基盤クラス、2.展開クラス、3.俯瞰クラス、4.実践クラスの4つのクラスで構成される。
  • クラス:1.基盤クラス、2.展開クラス、3.俯瞰クラス、4.実践クラス
  • その他5つのコース及び5つのアレンジ履修が、1.から4.のクラスの組み合わせにより構成される。

受講料

総合クラス

110,000円(税込み)

各クラス

33,000円(税込み)

講師

  • 猪原健弘 教授(東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院/環境・社会理工学院 社会・人間科学系 社会・人間科学コース)
  • 加藤有紀子 代表取締役社長(株式会社リンクス)

申込方法 および 詳細

申込締め切り

前期:2024年3月27日(水)12:00

3.俯瞰クラスのみ/4.実践クラスのみ
受講の場合は2024年5月15日(水)12:00

後期:2024年11月13日(水)12:00

3.俯瞰クラスのみ/4.実践クラスのみ
受講の場合は2025年1月15日(水)12:00

関連リンク

申込・受講に関する問い合わせ先

東京工業大学 社会人アカデミー 事務室

Email jim@academy.titech.ac.jp
Tel 03-3454-8867、03-3454-8722 / Fax 03-3454-8762

取材申し込み及び問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

明るい環境と高いコントラストを両立するプロジェクションマッピング 投影対象だけを照らさない照明の光線制御で明るい環境を実現

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要点

  • 明るい環境と高いコントラストの投影を両立するプロジェクションマッピングの実現
  • 投影対象だけを照らさない光線制御可能な照明と映像投影を組み合わせたシステムを開発
  • 明るい環境に、プロジェクションマッピングの対象が自然に共存する新たな拡張現実の創出

概要

東京工業大学 工学院 情報通信系の安井雅彦研究員(研究当時)、岩瀧良太大学院生、渡辺義浩准教授、東京理科大学の石川正俊教授らの研究チームは、周囲環境の明るさと高いコントラストの投影を両立するプロジェクションマッピング[用語1]を提案した。

これまでのプロジェクションマッピングは、環境を明るくする照明を併用することが難しかった。これは、環境を明るくする照明の光が投影対象にも照射されることで、マッピングのための投影像のコントラストが低下するためである。照明を使うことができないため、プロジェクタで投影される対象だけが明るく、周囲は暗い環境となる点が問題となっていた。

本研究では、投影対象だけを照らさない照明とプロジェクションマッピングを組み合わせる手法を新たに提案した。本手法では、環境を明るくする照明を、光線[用語2]レベルで調光制御することで、投影対象にだけ光が当たらず、周囲には光が届く状況を作り出す。これによって、高いコントラストのプロジェクションマッピングと、通常の物体が自然に見える明るい環境を両立することができる。これは、視覚強化の機器を装着することのない新たな拡張現実[用語3]の体験を提供するものであり、エンターテインメントや作業支援の分野で役立つ可能性が高い。

本研究成果は、3月6日に論文誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に掲載され、3月16日から開催される国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces 2024」で発表された。

本研究で開発した手法の概念図

本研究で開発した手法の概念図

背景

プロジェクションマッピングは、物体表面に映像を投影することで、その外観を変える技術である。特殊な機器を装着することなく、一瞬で目の前の外観を仮想的に塗り替える体験は強力であり、アトラクション、舞台演出、作業支援、教育、化粧の試着まで、さまざまな分野で活用されている。

一方、プロジェクションマッピングは照明で照らした明るい環境において、十分な性能を発揮することができなかった。これは照明の光が周囲の環境だけでなく、投影対象も照らすことで、マッピングのための映像のコントラストが低下するためである(図1)。

図1. (左)通常の照明下で、前面の2体はそれぞれ白とカラフルな模様の外観を持つ。(右)白い物体にのみ、カラフルな模様の外観を持つようにプロジェクションマッピングを適用。しかし、環境を明るくするための照明の光も同物体に当たるため、投影された映像が見えづらくなっている。
図1.
(左)通常の照明下で、前面の2体はそれぞれ白とカラフルな模様の外観を持つ。(右)白い物体にのみ、カラフルな模様の外観を持つようにプロジェクションマッピングを適用。しかし、環境を明るくするための照明の光も同物体に当たるため、投影された映像が見えづらくなっている。

このような事態を避けるため、プロジェクションマッピングでは照明を利用しない構成が一般的であった。結果として、投影された映像は綺麗に見えるが、暗い環境の下で、マッピング対象のみが明るい不自然な外観となっていた(図2)。また、マッピング対象以外の物体が暗闇で見えない点も、応用展開を制限する要因となっていた。このような背景の下、照明下の明るい環境に、プロジェクションマッピングによって外観操作された対象が共存する拡張現実の実現は、新たな目標として注目されている。

図2. 照明を利用しないプロジェクションマッピング。物体の配置や投影像は図1と同様。白い物体の外観を変えることができているが、周囲の環境が暗い点が問題。
図2.
照明を利用しないプロジェクションマッピング。物体の配置や投影像は図1と同様。白い物体の外観を変えることができているが、周囲の環境が暗い点が問題。

研究成果

本研究では、通常のプロジェクションマッピングと光線制御可能な照明を組み合わせる手法を提案した。通常の照明は、環境全体の明るさを調整する自由度しかないが、本照明はさまざまな方向に飛ぶ多数の光線を1本ずつ独立に調光することができる。本手法では、この照明を用いて、プロジェクションマッピングの対象に届く光線をその形に合わせて正確に消灯する。さらに、それ以外の光線を点灯させることで、投影対象だけに照明が当たらず、周囲の環境は自然で明るい状態を再現することができる(図3左)。

この構成下で、投影対象に通常のプロジェクションマッピングを適用すれば、明るい自然な環境を作り出しつつ、高いコントラストでマッピングによる外観操作を実現することができる(図3右)。また、マッピング対象以外の周囲の環境を照らす光は、光線分布を制御することで、プロジェクションマッピングの自在な外観操作に整合するように、さまざまな照明を再現する自由度を備えている。

図3. (左)光線制御可能な照明によって、プロジェクションマッピングの対象にだけ光が当たらない状況を作り出すことができる。同対象以外には、拡散光の照明を生成・照射している。(右)照明の光によって阻害されないため、明るい環境の下でコントラストが低下しないプロジェクションマッピングが実現されている。マッピング対象以外に対しては、照明の下、自然な陰影や影が再現されている。
図3.
(左)光線制御可能な照明によって、プロジェクションマッピングの対象にだけ光が当たらない状況を作り出すことができる。同対象以外には、拡散光の照明を生成・照射している。(右)照明の光によって阻害されないため、明るい環境の下でコントラストが低下しないプロジェクションマッピングが実現されている。マッピング対象以外に対しては、照明の下、自然な陰影や影が再現されている。

特に、このような照明において制御可能な光線の密度を上げるために、レンズアレイ[用語4]ミラーアレイ[用語5]を統合する照明光学系を提案した(図4)。これは、レンズアレイによって生成された光線分布の密度を、万華鏡のような合わせ鏡による複数回反射によって、さらに高める手法である。これによって、さまざまな姿勢や形の対象に対して、その表面に届く光だけを正確にカットすることができる(図5)。また、投影対象の表面全体ではなく、その一部だけに照明の光を当てない応用も可能である(図6)。さらに、光線制御可能な照明は、拡散光の照明から点光源の照明などさまざまな再現が可能であることを示した。これによって、プロジェクションマッピングによる仮想の外観変化と整合する形で、周囲の環境の照明も自由に変えることができる。

図4. (左)システムの全体構成。左から、投影対象、ミラー・レンズアレイ、プロジェクションマッピング用のプロジェクタ、照明用のプロジェクタの順で配置されている。(右)ミラー・レンズアレイの拡大図。
図4.
(左)システムの全体構成。左から、投影対象、ミラー・レンズアレイ、プロジェクションマッピング用のプロジェクタ、照明用のプロジェクタの順で配置されている。(右)ミラー・レンズアレイの拡大図。
図5. (上)通常の照明を照射した様子。(中央)さまざまな姿勢の箱型の対象に対して本手法を適用した結果。(下)中央結果においてプロジェクションマッピングの投影像を消灯した様子。姿勢や形に合わせて、対象表面に届く光だけが正確に除去できている。
図5.
(上)通常の照明を照射した様子。(中央)さまざまな姿勢の箱型の対象に対して本手法を適用した結果。(下)中央結果においてプロジェクションマッピングの投影像を消灯した様子。姿勢や形に合わせて、対象表面に届く光だけが正確に除去できている。
  • 投影対象の一部のみに照明を当てない実験の様子。水玉模様状に照明の光を除去した領域にのみプロジェクションマッピングを適用している。
  • 投影対象の一部のみに照明を当てない実験の様子。水玉模様状に照明の光を除去した領域にのみプロジェクションマッピングを適用している。
  • 投影対象の一部のみに照明を当てない実験の様子。水玉模様状に照明の光を除去した領域にのみプロジェクションマッピングを適用している。
図6.
投影対象の一部のみに照明を当てない実験の様子。水玉模様状に照明の光を除去した領域にのみプロジェクションマッピングを適用している。

社会的インパクト

これまでのプロジェクションマッピングは、暗闇の下で、投影された対象だけが見える特殊な環境の再現に留まっていたため、応用は限定的であった。これに対して、本提案技術は、プロジェクションマッピングされた対象と通常の物体を、明るい環境の下で、違和感なく自然に共存させることができる。これによって、日常的なシーンにプロジェクションマッピングが溶け込んだ世界を創り出すことができると考えられる。例えば、舞台制作やアトラクションの体験向上、衣服や製品のデザイン支援、情報提示による教育支援、化粧の試着、製造業や医療操作の作業支援など、さまざまな社会応用において、視覚的体験の質を高め、創造性や効率性の向上に貢献することが期待される。

今後の展開

本提案では、照明の正確な光線制御に時間を要するため、投影対象が静止している必要があった。今後は、光線制御を高速化する手法を開発することで、対象が運動する場合にも明るいプロジェクションマッピングを実現する予定である。また、システムを拡張し、照明やプロジェクタが投影できる範囲を部屋全体に広げることも視野に入れている。これによって、日常の生活の中で、目の前の物体が、その素材由来の外観なのか、マッピングによって変化した外観なのか、一見見分けがつかないレベルを目指す。

付記

本研究は科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) 20H05959の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] プロジェクションマッピング : 物体の立体形状に合わせて、プロジェクタで映像投影することで、その外観を仮想的に変える技術。広告、イベント、舞台演出などで活用されている。

[用語2] 光線 : 光が直線的に伝播する際の経路を指す。光源から出た光線は、物体表面で反射・屈折して進む。本研究では、照明を多数の光線の集合とみなして、各光線を制御している。

[用語3] 拡張現実 : 現実空間に仮想情報を重ね合わせて提示する技術。スマートフォン、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクションマッピングなどを利用して実現される。ナビゲーション、教育、エンターテイメント、広告など幅広い用途が期待されている。

[用語4] レンズアレイ : 多数のレンズを規則的なパターンで配置した光学系。複雑な光線の分布を生成することができる。撮影やディスプレイ技術において活用されている。

[用語5] ミラーアレイ : 本研究で提案する、向かい合わせに配置した鏡をアレイ状に並べた光学系。万華鏡のように合わせ鏡による光の反射を利用して、光線分布の密度を上げるために利用した。

論文情報

掲載誌 :
IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics
論文タイトル :
Projection Mapping with a Brightly Lit Surrounding Using a Mixed Light Field Approach
著者 :
Masahiko Yasui, Ryota Iwataki, Masatoshi Ishikawa, and Yoshihiro Watanabe
DOI :

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ウォータールー大学のヴィヴェク・ゴエル学長一行が東工大を訪問

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2月20日、全学協定校として交流があるカナダのウォータールー大学 ヴィヴェク・ゴエル学長一行が、東京工業大学を訪れました。2023年10月にイアン・ローランズ副学長が本学を訪問し意見交換をしたことに続き、今回はゴエル学長の来訪となりました。

益学長(前列中央)、ヴィヴェク・ゴエル学長(前列右)他による記念写真

益学長(前列中央)、ヴィヴェク・ゴエル学長(前列右)他による記念写真

東工大からは、益一哉学長、佐藤勲総括理事・副学長、林宣宏副学長(国際連携担当)、山田光太郎理学院長、井上光太郎工学院長、梶原将生命理工学院長、髙田潤一環境・社会理工学院長が一行を出迎えて懇談を行い、今後のさらなる国際連携について意見交換を行いました。

1957年に設立されたウォータールー大学はカナダで最大の工学部を持つ大学です。「東京職工学校」として設立された本学とは、職業教育・実学に重きをおいて誕生したこと、学際的な教育研究に力を入れていること、現代社会の地球規模課題解決のためにコンバージェンス・サイエンスを指向していることなどの共通点があります。懇談では、ウォータールー大学で非常に盛んな学生の企業でのインターンシップについてなど、有意義なディスカッションが行われました。

懇談後一行は、地球生命研究所の藤島皓介准教授の研究室と超スマート社会卓越研究院の小寺哲夫准教授・米田淳特任准教授の教育研究フィールドの2ヵ所を見学し、意見交換を行いました。

お問い合わせ先

企画・国際部 国際連携課

Email kokuren.kik.cho@jim.titech.ac.jp

令和5年度 東京工業大学学位記授与式挙行 学士課程1,041人、大学院修士課程1,653人、専門職学位課程25人、博士後期課程167人が卒業・修了

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東京工業大学は3月26日、大岡山キャンパス体育館にて、令和5(2023)年度学位記授与式を執り行いました。

令和5年度 東京工業大学学位記授与式挙行

学士課程は11時から、大学院課程は14時から挙行した式には、卒業生約1,000人、修了生約1,400人、および学長、理事・副学長、部局長、監事、来賓が出席し、4年ぶりに東工大管弦楽団と混声合唱団コール・クライネスが生演奏を行いました。

今回の式では、学士課程1,041人(うち留学生55人)が卒業し、大学院課程では修士課程1,653人(うち留学生219人)、専門職学位課程25人(うち留学生2人)、博士後期課程167人(うち留学生46人)の計1,845人が修了し、総計2,886人(うち留学生322人)の卒業生・修了生を送りました。

  • メッセージを贈る益学長

    メッセージを贈る益学長

  • 祝辞を述べる遠藤蔵前工業会執行理事

    祝辞を述べる遠藤蔵前工業会執行理事

  • インターステラテクノロジズの稲川氏

    インターステラテクノロジズの稲川氏

式では益一哉学長が英語を中心に式辞を述べ、学士課程の卒業生と大学院課程の修了生、またご家族へのお祝いの言葉とともに、門出のメッセージを贈りました。

次に、本学同窓会「一般社団法人蔵前工業会」の遠藤信博執行理事(昭和56年大学院理工学研究科 電子工学専攻修了)、インターステラテクノロジズ株式会社の稲川貴大代表取締役社長(平成25年大学院理工学研究科 機械物理工学専攻修了)が来賓として祝辞を述べました。

来賓祝辞に続き、学士課程・修士課程・専門職学位課程では各系・各コースの代表者に、博士後期課程では出席者全員に、益学長から学位記が授与されました。また、学士課程では学生の勉学意欲の向上を図ることを目的として、学業成績が優秀な学生(各系1人)を顕彰する令和5年度東京工業大学優秀学生賞の表彰も行われ、受賞者全員が益学長から記念品を授与されました。

謝辞を述べる学士課程卒業生総代の藤山さん
謝辞を述べる学士課程卒業生総代の藤山さん

謝辞を述べた博士後期課程修了生総代の長沼さん
謝辞を述べた博士後期課程修了生総代の長沼さん

続いて、卒業生を代表して工学院 システム制御系の藤山実紀さん(学士課程卒業)、修了生を代表して情報理工学院情報工学系の長沼一輝さん(博士後期課程修了)が謝辞を述べました。

式の最後は、在学生を代表して生命理工学院 生命理工学系の平野明日香さん(学士課程3年)、理学院 数学系の柳田幸輝さん(博士後期課程2年)が送辞を述べました。

  • 令和5年度 東京工業大学学位記授与式挙行
  • 令和5年度 東京工業大学学位記授与式挙行
  • 令和5年度 東京工業大学学位記授与式挙行

卒業生、修了生のみなさん、ならびにご家族のご健康とご活躍を心よりお祈りします。
なお、益学長が述べた式辞は下記のページからご覧いただけます。

お問い合わせ先

総務部総務課総務グループ

Email som.som@jim.titech.ac.jp


国立大学法人東京科学大学の長の選考に関する第1次候補適任者について

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医科歯科大学と東京工業大学の外観イメージ

国立大学法人東京科学大学の長の合同選考会議(以下「選考会議」という。)は、国立大学法人東京科学大学の長選考規程(令和6年2月22日選考会議議長決定)第4条の規定に基づき、2月26日から3月21日までの間、候補適任者の推薦を受け付けました。その結果、第1次候補適任者を確定しましたので、選考規程第5条第1項の規定に基づき、その氏名、所属及び職名を、下記のとおり公表します。

第1次候補適任者について

第1次候補適任者は、以下のとおりです(五十音順)。

大竹 尚登

所属・職名:東京工業大学 科学技術創成研究院 教授、同研究院長

田中 雄二郎

所属・職名:東京医科歯科大学 学長

益 一哉

所属・職名:東京工業大学 学長

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神経結合を適正化する、新たなタンパク質機序を解明 タンパク質複合体によって「不適切な」神経結合が抑制され、「適切な」神経結合を形成

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要点

  • 神経結合に働く新たな免疫グロブリン様ファミリータンパク質の発見。
  • シナプス形成開始因子の局在を適切に規定することで、特異的に「適切なパートナー」と結合する仕組みを解明。
  • 新たな神経回路形成モデルを提唱し、神経回路形成異常による疾患の治療にもつながる重要な成果。

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の鈴木崇之准教授と小坂二郎大学院生(現新潟大学特任助教)らの研究チームは、鍵-鍵穴分子として働く新たな免疫グロブリン様ファミリータンパク質[用語1]を発見し、それらによる神経結合の仕組みを解明した。

神経細胞は、生体内で適切な接続相手を選び出し、その相手とのみシナプス[用語2]を介して神経結合を行う。一方で、移植した細胞や培養された細胞などの特殊な環境下では、無差別的にシナプス形成[用語3]を行うという「二面性」を持っている。すなわち、生体内においては「不適切なパートナー」との誤接続を防ぎ、特異的に「適切なパートナー」と接続する仕組みがあると考えられるが、その詳細はよく分かっていなかった。

本研究では、神経結合に働く新しい免疫グロブリン様スーパーファミリーが共受容体[用語4]シナプス形成開始因子[用語5]との複合体により形成され、シナプス形成することを発見した。さらに、細胞内ドメインを介して、シナプス形成開始因子の局在を正確に規定することで適切な量・位置のシナプス形成を促進すると同時に、不適切なシナプスを形成しないように抑制していることが分かった。このことは、神経細胞はある程度誰とでも結合を形成する能力を有しているが、この複合体のような仕組みによって「順位付け」がなされており、通常状態では「適切なパートナー」のみと接続する仕組みになっていることを示唆する。本研究はショウジョウバエを用いて実施されたが、ここで明らかになった神経回路形成の新たなモデルは、高等生物でも広く保存されている可能性があり、神経回路形成異常による神経疾患に対する治療への応用も期待できる。

本研究は米国学術雑誌「Cell Reports」オンライン版に2024年2月19日に掲載された。

背景

適切な神経間で選択的に相互作用する分子(鍵-鍵穴分子、図1)の存在は、神経同士がつながる(神経結合)うえで重要だと考えられている。代表的な鍵-鍵穴分子は神経細胞に発現する膜タンパク質であり、相互作用ドメインを有する多くの膜タンパク質が神経結合に重要な役割を持つことが明らかになっている。神経細胞は膜タンパク質のような鍵-鍵穴分子の働きによって、適切な神経をパートナーとして選択的にシナプス形成を行い、適切な神経回路が形成されると考えられる。

しかし、神経細胞は移植した細胞や、培養した細胞などの特殊な環境下では、「無差別的に」さまざまな神経をパートナーとしてシナプス形成を行うという「二面性」を持っている。すなわち、生体内においては「不適切なパートナー」との誤接続を防ぎ、特異的に「適切なパートナー」と接続するしくみがあると考えられるが、その詳細はよく分かっていなかった。

図1 「鍵-鍵穴分子」による神経接続

図1. 「鍵-鍵穴分子」による神経接続

研究成果

鈴木准教授らのグループは、モデル生物であるショウジョウバエの視神経を用いて、適切な神経結合を誘導できる分子を探索した。そして、免疫グロブリン様ファミリータンパク質のひとつであるside-IVを視神経に強制発現させたところ、Side-IVのリガンド[用語6]であるBeat-IIbが集積し、シナプス形成を誘導できることを発見した(図2左)。このシナプス形成は、beat-IIbを欠損させたショウジョウバエでは起きない。このことから、Side-IVとBeat-IIbは、相互作用によって神経結合を誘導する新規の鍵-鍵穴分子であることが分かった。さらに、Side-IVは共受容体であるKirreとシナプス形成開始因子Dsyd-1と複合体形成することで、シグナル伝達をすることが分かった(図2右)。

図2 新規「鍵-鍵穴分子」のSide-IVとBeat-IIbは、分岐型シグナル伝達を行う。 野生型の視神経は、シナプスを神経末端にのみ形成し、上部には形成されない(黄色矢頭)。side-IVを強制発現させるとリガンドであるBeat-IIbが集積し、その近傍にシナプスを形成する(黄色矢印)。Side-IVは細胞外のドメインを介して、Beat-IIbおよびKirreと、細胞内のドメインを介してDsyd-1と相互作用することで、シグナル伝達を行う。

図2. 新規「鍵-鍵穴分子」のSide-IVとBeat-IIbは、分岐型シグナル伝達を行う。

野生型の視神経は、シナプスを神経末端にのみ形成し、上部には形成されない(黄色矢頭)。side-IVを強制発現させるとリガンドであるBeat-IIbが集積し、その近傍にシナプスを形成する(黄色矢印)。Side-IVは細胞外のドメインを介して、Beat-IIbおよびKirreと、細胞内のドメインを介してDsyd-1と相互作用することで、シグナル伝達を行う。

上記の実験から、Side-IVは視神経で強制発現することで、神経結合の誘導を十分に促す分子であることが分かった。次に、もともとSide-IVが発現している神経細胞で、Side-IVを無くしたときに神経結合にどのような影響を与えるのかを調べた。Side-IVは視神経では発現していないため、他の神経系で解析する必要があった。そのために、トランスクリプトーム[用語7]およびコネクトーム[用語8]データを利用し、Side-IVとBeat-IIbを発現している神経細胞ペアを探した。そして、視神経二次細胞であるラミナ神経のL2細胞でSide-IVが、L4細胞でBeat-IIbが発現していることが分かった(図3左)。

Side-IVが欠損した変異体では、ラミナ神経のDistal領域に異所性シナプス形成が観察され、不適切なパートナーとのシナプス形成が誘導された(図3中央)。このことから、Side-IVはL2神経が不適切な接続相手と誤接続しないように抑制していることが示唆された。正常な神経においては、Side-IVはL2神経のProximal領域に限定して局在し、細胞内ドメインを介してDsyd-1がDistal領域に漏出しないように制御することが分かった。Dsyd-1はシナプス形成開始因子としても知られる。局在解析と遺伝学的解析の結果、Side-IVはDsyd-1の局在を正確に規定することでシナプス形成を促進すると同時に、不適切なパートナーとシナプスを形成しないように抑制し、適切な神経回路形成に働くことが分かった(図3右)。

上述のように、神経細胞は決められたパートナーと接続することで適切な神経回路を形成する一方で、もともとは無差別に接続するという二面性を併せ持つと考えられる。本研究で明らかになった複合体形成のような仕組みによって神経結合を起こす細胞や場所に順位付けがなされており、通常状態では適切なパートナーとのみ接続する仕組みになっていることを示唆する。

図3 Side-IVはDsyd-1の局在を正確に規定することで適切な神経回路形成を行う。 L2神経とL4神経はProximal領域に相互シナプスを形成する。トランスクリプトーム解析より、L2神経でside-IVが、L4神経でbeat-IIbが発現していることが予想されていた。side-IV変異体(Side-IVを欠損させたもの)はDistal領域に異所性シナプスを誘導し、その結果不適切なシナプス結合が発生する。正常な神経においてはSide-IVはBeat-IIb依存的にProximal領域に限定した局在を示し、Dsyd-1をProximal領域に集積させ、Distal領域に漏出しないように制御する。これによって、L2神経は適切なパートナーであるL4神経とのシナプス接続を促進すると同時に、不適切なパートナーとの誤接続を抑制する。

図3. Side-IVはDsyd-1の局在を正確に規定することで適切な神経回路形成を行う。

L2神経とL4神経はProximal領域に相互シナプスを形成する。トランスクリプトーム解析より、L2神経でside-IVが、L4神経でbeat-IIbが発現していることが予想されていた。side-IV変異体(Side-IVを欠損させたもの)はDistal領域に異所性シナプスを誘導し、その結果不適切なシナプス結合が発生する。正常な神経においてはSide-IVはBeat-IIb依存的にProximal領域に限定した局在を示し、Dsyd-1をProximal領域に集積させ、Distal領域に漏出しないように制御する。これによって、L2神経は適切なパートナーであるL4神経とのシナプス接続を促進すると同時に、不適切なパートナーとの誤接続を抑制する。

社会的インパクト

本研究では、新規の鍵-鍵穴分子を発見したことに加え、シナプス形成開始因子の適切な局在が、不適切な神経との誤接続を抑制するために重要であることを発見した。神経接続は過剰であっても不足していても、神経回路が適切に働かず自閉症や統合失調症のような神経疾患の原因になることが知られている。そのため、このような疾患に関しては、シナプス形成開始因子の量や局在を正常化するといった治療戦略が、有効である可能性が示唆された。

今後の展開

Side-IVとBeat-IIbは22種類の免疫グロブリン様ファミリータンパク質から成るタンパク質群であるが、その他のファミリータンパク質の機能はほとんど分かっていない。そのため、本研究でSide-IVが共受容体とシナプス形成開始因子と相互作用するように、その他ファミリータンパク質も、固有の共受容体とシナプス形成開始因子を有すると考えられる。これによって、神経接続の多様性と正確性が担保されている可能性がある。

付記

本研究は、科学研究費助成事業(16H06457、21H05682、21H02483、21J12660、23H04220、23K19651)ならびに武田科学振興財団の支援のもとで行われたものである。

用語説明

[用語1] 免疫グロブリン様ファミリータンパク質 : 抗体分子(免疫グロブリン)のタンパク質ドメインに類似したドメイン構造を持つ膜タンパク質群の総称。

[用語2] シナプス : 神経同士がつながる結合部に形成される構造体。

[用語3] シナプス形成 : 神経細胞間で情報伝達を可能にするために、シナプスの構成要素を集積し、組み立てる一連の過程のこと。

[用語4] 共受容体 : 特定の膜タンパク質のリガンド結合やシグナル伝達を促進する作用を持つ受容体。

[用語5] シナプス形成開始因子 : シナプス形成を開始するシグナルを伝達する分子。

[用語6] リガンド : 受容体に相互作用する分子。多くは膜タンパク質や分泌タンパク質に分類される。

[用語7] トランスクリプトーム : 細胞内に存在する全転写産物。

[用語8] コネクトーム : 神経回路の神経接続関係の全体像。

論文情報

掲載誌 :
Cell Reports
論文タイトル :
Complex formation of immunoglobulin superfamily molecules Side-IV and Beat-IIb regulates synaptic specificity
著者 :
Jiro Osaka, Arisa Ishii, Xu Wang, Riku Iwanaga, Hinata Kawamura, Shogo Akino, Atsushi Sugie, Satoko Hakeda-Suzuki, and Takashi Suzuki
DOI :

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水素と触媒反応を利用して低接触抵抗IGZO-TFTを実現 界面の選択的還元による高安定性を持つ次世代メモリへの応用に期待

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要点

  • 触媒反応のアイディアを活用してIGZO-TFTと電極の接触抵抗を大幅に低減
  • 水素透過能と触媒作用を有する電極材料を用いて界面領域の選択的な還元を実証
  • ナノスケールのTFTを集積した安定な次世代メモリデバイスの実現を加速

概要

東京工業大学 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センターの辻昌武特任助教、Shi Yuhao(施宇豪)大学院生、細野秀雄特命教授らの研究チームは、IGZO-TFTの電極に触媒金属を用いることで電極界面が選択的に還元されることを見出し、IGZO-TFTの安定性を維持したまま接触抵抗を約3桁低減させることに成功した。

当研究グループが以前の研究で開発したアモルファス酸化物半導体InGaZnOxのトランジスタ(IGZO-TFT)は、室温で作製が可能で、アモルファスシリコンの数十倍の移動度を示すことから、フラットパネルディスプレイ(FPD)に広く使われている。さらに近年、オフ電流とプロセス温度の低さから、次世代のキャパシタが不要なメモリデバイス向けへの応用が有望視されている。しかし高密度に集積されたnmスケールのTFTには、金属・半導体界面の接触抵抗がデバイス駆動の大きな障壁となるという、FPD用TFTにない問題がある。一方で、従来のプラズマを用いた処理方法は表面にのみしか適用できないため、複雑に積層されたデバイスの内部界面の接触抵抗を改善する技術的なアプローチが求められている。

今回の研究では電極として、高い水素透過能を有し、かつ水素分子を解離する触媒金属であるパラジウム(Pd)を用いた。デバイス外部から内部界面へ高活性な原子状水素を輸送して界面を効率的に還元し、金属中間層を生成することで、低接触抵抗(6.1 Ω·cm) IGZO-TFTを実現した。また今回開発した手法は、界面近傍のみを選択的に反応させることが可能なため、チャネル層へのダメージを防ぐことができる。そのためデバイスの安定性を維持したまま、低接触抵抗に加えて、副次的に材料本来の高電界効果移動度が得られることも特徴である。

本研究成果は、3月22日(現地時間)に米国科学誌「ACS Nano」にオンライン掲載された。

背景

5Gや次世代の6Gが普及したIOT社会では、人工知能(AI)やクラウドコンピューティング、大規模シミュレーションなどで膨大なデータを同時に取り扱うメモリデバイスが重要な役割を果たすことが期待されている。しかしプロセッサ(CPU)の開発速度はムーアの法則に従うため、半導体チップの集積度が向上しているのに対して、データを読み書きする外部のメモリの性能の伸びは緩やかである。そのため、「フォンノイマンボトルネック」や「メモリウォール問題」と呼ばれる、CPUとメモリ間の性能の不一致が年々拡大しており、高速で大容量のデータを低消費電力で読み書き可能な高性能メモリデバイスが必要とされている。

このような背景のもと、FPD用途で広く用いられてきたアモルファス酸化物半導体InGaZnOx(IGZO)[参考文献1]を基調とした薄膜トランジスタ(IGZO-TFT)は、高速化と大容量化を実現できる次世代2T0Cメモリ用材料として有望視されている。これは移動度が高いため、高速での読み書きが可能であることと、オフ電流とプロセス温度が低いため、長いデータ保持時間(tret)とキャパシタフリーデバイスのSi半導体回路上への直接三次元集積が実現できることによる[参考文献2]。しかしながらIGZOをメモリに応用するには、FPDでは数十μmオーダーであったTFTのチャネル長を、数nmスケールまで微細化することが要求される。このような微細なTFTでは、直列抵抗成分に対する接触抵抗の寄与が非常に大きくなり、移動度向上と低消費電力化の大きな妨げとなっている。そのため、次世代メモリ用には低接触抵抗のIGZO-TFTが必須である。

研究成果

戦略

従来の接触抵抗問題の解決方法は、高導電性中間層の導入や、高温アニールによる接触面への高濃度酸素欠陥[用語1]の導入、酸化物半導体層へのプラズマ処理による表面処理が主であった。しかし高エネルギーで多段階プロセスを伴うこれらの手法は、露出された上面に対しては効果的ではあるものの、nmスケールの複雑な構造内の内部界面に対して適応することはほとんど不可能であった。

そこで本研究では水素化触媒からアイディアを得て、酸化物半導体中のキャリア生成で重要な役割を果たす水素を、電極を介して外部から内部界面へと導入することで、電極–半導体界面のみを選択的に還元し、高導電性金属中間層を生成する手法を着想した。この手法を用いて、内部の接触界面問題を解決するための戦略を立てた(図1)。内部に埋もれた界面に対して効果的に水素を作用させるためには、以下の条件を満たす水素化触媒金属電極と保護膜材料を選択することが鍵となる。

1.
低温プロセスで反応を促進させるために、H2分子を活性な原子状水素へと解離させる触媒能を有する金属電極
2.
速やかに活性な水素を界面へと輸送するための水素の高速拡散と、水素の容易な吸収・放出に有利な適度な溶解度を有する水素透過性金属電極
3.
実効チャネル部を水素と隔離するための、電子構造的に水素耐性のある緻密な酸化物保護膜

本研究ではこの戦略に最適な電極として、柔軟な格子を持ち、水素に対して脆性を示さずに水素透過能を有するユニークな特性を示すPd[参考文献3]を選択した。また保護膜としては、直流のスパッターリング法[用語2]で容易に成膜が可能なアモルファスZnSiOx(ZSOx[参考文献4]を用いた。

図1 内部接触界面の問題を解決する戦略。 (a)水素輸送電極の水素解離触媒能を用いた、高活性原子状水素と酸化物の反応の模式図。(b, c)金属中の水素の拡散係数および水素溶解度の実験値。Pdの高い水素拡散能と適度な溶解度が活性水素の高速輸送を可能とする。

図1. 内部接触界面の問題を解決する戦略。

(a)水素輸送電極の水素解離触媒能を用いた、高活性原子状水素と酸化物の反応の模式図。(b, c)金属中の水素の拡散係数および水素溶解度の実験値。Pdの高い水素拡散能と適度な溶解度が活性水素の高速輸送を可能とする。

IGZO-TFTの特性評価

本研究ではこの手法に基づいてボトムコンタクト型IGZO-TFTを作製し、その接触抵抗と実効チャネル長の偏差の水素アニール処理依存性を評価した(図2)。保護膜を含むボトムコンタクト型の素子構造は、電極–半導体界面が埋もれているために、通常の方法では界面への後処理が難しい。しかしながら今回新たに提案した手法では、埋もれた界面に対しても効果的に処理を行うことができ、接触抵抗は、未処理時に3 kΩ·cmであったのが処理後には6 Ω·cmへと劇的に改善された。また、最適な温度(150 ℃)と時間(10分)で水素処理を行うことで、パターニングされたチャネル長に対する実効チャネル長の偏差は44 nmに抑えられており、界面近傍のみを選択的に変質させることができた。

図2 作製したIGZO-TFTの構造と接触特性。 (a)ボトムコンタクト型TFTの構造。電極にはPd金属を用い、Arで希釈した5%H2ガス雰囲気化でアニールを行うことで、デバイス外部から埋もれた界面へと水素を輸送した。(b)伝送長法(transmission line measurement, TLM)によって測定した接触抵抗(実線)と実効チャネル長の偏差(点線)の水素処理依存性。

図2. 作製したIGZO-TFTの構造と接触特性。

(a)ボトムコンタクト型TFTの構造。電極にはPd金属を用い、Arで希釈した5%H2ガス雰囲気化でアニールを行うことで、デバイス外部から埋もれた界面へと水素を輸送した。(b)伝送長法(transmission line measurement, TLM)によって測定した接触抵抗(実線)と実効チャネル長の偏差(点線)の水素処理依存性。

また、TFTがON時(VG = 20 V)に約80%あった抵抗成分中の接触抵抗の寄与が、水素処理によって無視できるほど小さくなり、結果としてTFTの電界効果移動度は20 cm2/Vsまで向上した(図3 (a–c))。一方、デバイスの安定性は水素処理前後で大きな変化は見られず、チャネルとして働く半導体内部へのダメージが少ない温和な処理であることも実証された(図3 (d))。さらにボトムコンタクト型TFTとトップコンタクト型TFTで同等の性能を示したことから、本手法は埋もれた電極–半導体界面を有する多様なデバイス構造に対して応用が可能であることが示唆された。

本研究では30 μmのチャネル長のデバイスを用いたが、メモリ用途のnmスケールの微細なTFTデバイスでは、この接触抵抗を低くするなどの効果はより顕著に表れることが想定される。

図3 作製したIGZO-TFTの特性評価。 (a)全抵抗のうち接触抵抗の寄与率。(b, c)ボトムコンタクト、トップコンタクト構造における水素処理前後のTFT特性。(d)TFTの電圧、温度に対する閾値電圧の安定性。

図3. 作製したIGZO-TFTの特性評価。

(a)全抵抗のうち接触抵抗の寄与率。(b, c)ボトムコンタクト、トップコンタクト構造における水素処理前後のTFT特性。(d)TFTの電圧、温度に対する閾値電圧の安定性。

社会的インパクト

現在、IGZO研究のメインフォーカスは、ディスプレイから次世代メモリへと移り始めている。本研究で開発した手法は、デバイス構造を選ばずに、温和な後処理によって金属–半導体界面のみを選択的に変質させることができるため、酸化物メモリの実現に向けて産業的に重要な技術であると考えられる。

今後の展開

本研究のベースとなったアイディアは、触媒と半導体デバイスを結びつける視点から着想した。水素化触媒のアイディアを電子デバイスへと応用することで、超小型TFT中の埋もれた界面の接触抵抗を劇的に改善する手法を実証した。今回の研究では、金属–半導体界面の触媒反応を用いることで、チャネルとして機能する箇所にはダメージを与えずに、選択的な領域のみを還元することに成功した。これはTFTの良質な接触界面の作製に向けて、大きなインパクトを与える結果であるといえる。今後は、nmスケールのIGZO-TFTを集積したメモリデバイスの創製に向けて、産学のデバイス研究がさらに加速されると期待できる。

付記

本成果は、主に文部科学省 データ抽出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト(JPMXP1122683430)の支援によって得られた。放射光実験はSPring-8一般研究課題(2023A1720, 2023A1917, 2023B1051, and 2023B1851)として行われた。

参考文献

[1] K. Nomura, H. Ohta, A. Takagi, T. Kamiya, M. Hirano, H. Hosono, Nature 432 (2004) 488–492.

[2] A. Belmonte, H. Oh, N. Rassoul, G. L. Donadio, J. Mitard, H. Dekkers, R. Delhougne, S. Subhechha, A. Chasin, M. J. van Setten, L. Kljucar, M. Mao, H. Puliyalil, M. Pak, L. Teugels, D. Tsvetanova, K. Banerjee, L. Souriau, Z. Tokei, L. Goux, G. S. Kar, 2020 IEEE International Electron Devices Meeting (IEDM), 28.2.1–28.2.4.

[3] H. Mizoguchi, S. W. Park, H. Hosono, J. Am. Chem. Soc. 143 (2021) 11345–11348.

[4] N. Nakamura, J. Kim, H. Hosono, Adv. Electron. Mater. 4 (2018) 1700352.

用語説明

[用語1] 酸素欠陥 : 化合物を構成している原子のうち、酸素が欠乏している状態。酸化物中のO2−が中性分子として脱離する過程で、電子が2個ドーピングされる。一般的に酸化物半導体の電子キャリアは酸素欠陥によって生成し、導電性を示すようになる。

[用語2] スパッターリング法 : 薄膜化したい物質に真空下・高電圧でイオン化したアルゴンなどを衝突させることで製膜する汎用の技術。量産性に優れていることから、工業的に最も使われている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
Approach to Low Contact Resistance Formation on Buried Interface in Oxide TFTs: Utilization of Palladium-Mediated Hydrogen Pathway
(酸化物TFTの埋もれた界面における低接触抵抗形成へのアプローチ:パラジウムを介した水素経路の利用)
著者 :
Yuhao Shi(施宇豪)1 、Masatake Tsuji*(辻昌武)1、Hanjun Cho(趙漢埈)1、Shigenori Ueda(上田茂典)2、Junghwan Kim*(金正煥)1, 3、Hideo Hosono*(細野秀雄)1, 2
(1: 東京工業大学、2: 物質・材料研究機構、3: 蔚山科学技術院)
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 栄誉教授/同 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センター 特命教授

細野秀雄

Email hosono@mces.titech.ac.jp
Tel / Fax 045-924-5009

東京工業大学 国際先駆研究機構 元素戦略MDX研究センター 特任助教

辻昌武

Email ma-tsuji@mces.titech.ac.jp
Tel / Fax 045-924-5197

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

トヨタ・モビリティ基金と「交通安全高度化協働研究拠点」を設置 交通事故死傷者ゼロを目指す

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東京工業大学(以下、東工大)と一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(Toyota Mobility Foundation、以下TMF)は、交通事故死傷者ゼロを目指し、クルマ・人・交通インフラの三側面(「三位一体」)における実効性ある交通安全施策の実現に向けて、交通環境における人の行動などに関する研究を行う「交通安全高度化協働研究拠点」を設置しました。

本協働研究拠点の設置は、TMFの交通安全の取り組みに関してアドバイザーを務める東工大 工学院 機械系の小竹元基教授を中心に、東工大 オープンイノベーション機構の支援により実現し、4月4日には協定締結の調印式を行いました。

(左から)TMFの早川茂理事長代行と東工大の益一哉学長

(左から)TMFの早川茂理事長代行と東工大の益一哉学長

TMFが事務局を務める「タテシナ会議(※1)」の分科会では、「交通事故死傷者ゼロの実現時期を少しでも早めること」を目標に、35の企業から約140名が参画し、政府・自治体や関係機関とも連携を図り、クルマ・人・交通インフラの三位一体での活動を推進しています。一例として、企業が保有するデータ、地域住民からの情報などと事故情報を組み合わせた事故リスク予測モデルの構築や、高齢者や児童、自転車ユーザーに向けた新たな啓発や支援手法の実証を進めています。

図1 本協働研究拠点設置の狙い

図1. 本協働研究拠点設置の狙い

この活動の中で、効果が高い対策の実現には、事故リスクにつながる要因を明らかにするだけでなく、さまざまな交通環境においてその要因に至る人の行動への理解と人が安全な行動をとるための効果的な働きかけが不可欠であるという課題が見えてきました。そのためには学術的な知見に加えて、単一の専門領域にとどまらない学際的な研究が必要と考え、産学連携の在り方を模索してきました。

今後、本協働研究拠点は、分科会と連携した、東工大およびさまざまな機関との共創の場として、交通事故死傷者ゼロの実現に向けた研究開発を進めていく予定です。まずは分科会活動との相乗効果を生み出すテーマとして、ドライバーおよび交通弱者(歩行者や自転車ユーザー)それぞれを対象に、「事故に至る人の行動を測り、評価する仕組み」と「安全な行動を促す仕掛け」づくりに取り組んでいきます。

「交通安全高度化協働研究拠点」の概要

名称

トヨタ・モビリティ基金 交通安全高度化 協働研究拠点

設置場所

東京都目黒区大岡山2-12-1 東京工業大学大岡山キャンパス 石川台6号館

設置期間

2024年4月1日~2027年3月31日

研究題目

以下に掲げる交通事故数低減を目指した仕組みと仕掛けに資する基盤技術とその高度化に関する研究

1.
ドライバーの運転行動評価に関する研究
2.
交通弱者の行動計測・行動評価に関する研究
3.
交通弱者の行動変容に関する研究

拠点長

小竹元基(東京工業大学 工学院 機械系 教授)

副拠点長

八木健一(トヨタ・モビリティ基金 プログラム企画グループ プログラム・ディレクター)

協働研究拠点とは

企業と東工大協働の研究企画チームを設置し、組織対組織で新しい研究テーマの企画や共同研究を行うものです。協働研究拠点の活動は東工大のオープンイノベーション機構が支援します。

※1 タテシナ会議

毎年、トヨタ自動車が主催する交通安全に祈りをささげる蓼科山(たてしなさん)聖光寺夏季大祭において自動車など関係業界の役員が一堂に会すことを受け、2019年に、交通事故死傷者ゼロの実現に向けて思いを共有し、協働するための場として初開催。2023年7月の開催時には、交通安全への想いと交通事故死傷者ゼロに向けた取り組みをさらに実効性のある活動にしていくため、児童や高齢者など交通弱者への支援や自転車・二輪車が絡む事故、海外での事故などの課題に焦点を当てた5つの分科会が発足。

関連リンク

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東京工業大学 総務部 広報課

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Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

トヨタ・モビリティ基金 堀江

Email info@toyota-mf.org
Tel 080-9870-5535
(受付時間:8:30~17:30土・日・祝日除く)

大隅良典栄誉教授がノーベル賞メダルを寄贈

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東京工業大学の大隅良典栄誉教授(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究 前センター長)が、ノーベル生理学・医学賞のメダルを東工大に寄贈しました。

大隅栄誉教授は、「細胞の環境適応システム、オートファジーの分子機構と生理学的意義の解明」により2016年にノーベル賞を受賞しています。このたびのメダルの寄贈は、若手研究者や中高生に基礎研究の重要性や科学の面白さを実感してもらうことを目的とし、寄贈されたメダルは東工大の入学式、学位記授与式、学園祭、すずかけサイエンスデイやホームカミングデイなどの行事で一般の方にも広く公開する予定です。

3月15日、すずかけ台キャンパスにおいて、大隅栄誉教授から益一哉学長へのメダル寄贈セレモニーが開催されました。

大隅栄誉教授は、「東工大にメダルを寄贈することによって、未来を担う若手研究者の良い刺激となり、今後も若手研究者を支援し、日本の研究の発展に寄与していくことを期待します」と述べました。

益学長からは、「これからの将来を担う中高校生や若手研究者には是非“本物”に触れてほしい。貴重なメダルに込められた大隅先生のご意思を重く受け止め、今後も基礎研究を重視し、若手研究者の育成に真摯に取り組んでまいります。」との御礼がありました。

その後の懇談会では、大隅栄誉教授から「高校に講演に行くと『どうすれば失敗しないか』、『失敗したらどうすればよいか』という質問が多く大変驚いた。失敗しない研究などない。若い人たちには失敗を恐れずにどんどん挑戦してほしい。」などのコメントもあり、参加者一同、改めて失敗を恐れずに独創的な研究に挑戦することの大切さを若い人たちに伝えていかなくてはいけないことを実感しました。

なお、東工大の博物館には、ノーベル財団から3個のみ作成を許可されたレプリカの1つがあり、常設展示を行っています。すずかけ台図書館においては大隅良典栄誉教授展示コーナーを設置し、ガードナー国際賞、国際生物学賞、京都賞などの賞状、メダル、楯を多数展示し、一般の方にも広く公開しています。詳細は、大学のウェブサイトでご確認の上、ご来場ください。

メダル寄贈の様子(右から大隅栄誉教授、益学長)

メダル寄贈の様子(右から大隅栄誉教授、益学長)

関連リンク

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典栄誉教授が「オートファジーの仕組みの解明」により、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞決定後の動き、研究概要をまとめた特設ページをオープンしました。

ノーベル生理学・医学賞2016 大隅良典栄誉教授

大隅良典記念基金

「大隅良典記念基金」は、大隅栄誉教授がノーベル賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材の育成などを目的として設立されました。学生の修学支援や若手研究者の研究支援などに活用します。

大隅良典記念基金|東工大への寄附

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東京工業大学 学院等事務部 科学技術創成研究院業務推進課

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Tel 045-924-5991 / Fax 045-924-5973

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令和6年度 東京工業大学入学式挙行 学士課程1,163人、大学院課程1,966人が入学

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東京工業大学は、4月3日大岡山キャンパス体育館にて、令和6(2024)年度入学式を執り行いました。
本年10月に東京医科歯科大学と統合し東京科学大学となるため、「東京工業大学」として最後の入学式となりました。

令和6年度 東京工業大学入学式挙行

学士課程は11時から、大学院課程は14時から挙行した式には、学士課程約1,100人、大学院課程約1,300人の新入生とそのご家族等、および学長、理事・副学長、監事、各学院長、リベラルアーツ研究教育院長、科学技術創成研究院長、附属図書館長、来賓が出席しました。ご家族等には、体育館の他に別会場(70周年記念講堂・ディジタル多目的ホール)でも参列していただきました。

2024年度の4月入学者数は、学士課程(編入等含む)1,163人(うち留学生46人)、大学院課程では修士課程1,629人(うち留学生214人)、専門職学位課程24人(うち留学生2人)、博士後期課程313人(うち留学生100人)の計1,966人、総計3,129人(うち留学生362人)です。

最初に、東工大管弦楽団の演奏で、東工大混声合唱団コール・クライネスとともに列席者一同で大学歌を斉唱しました。次に、益一哉学長が式辞で、困難な状況の中で努力を続け、入学や進学を果たした新入生とご家族に対してお祝いの言葉を述べました。式辞の最後には、東工大のシンボルマークに触れ、「このツバメのマークは技術革新の拠点である東工大を象徴しており、東工大は新しい経験や知識、指導を求めている新入生にとって、それらを提供できると確信ししているので、今日からアクティブに活動し、目の前にあるチャンスを最大限に活用してほしい」と、力強いメッセージで激励しました。

学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長
学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長

続いて、本学同窓会「一般社団法人蔵前工業会」の井戸清人理事長(1973年理学部 数学科卒業)と東京ガスiネット株式会社の鴫谷あゆみ取締役会長(1988年大学院理工学研究科 経営工学専攻修了)が来賓の祝辞を述べました。

祝辞を述べる井戸理事長
祝辞を述べる井戸理事長

祝辞を述べる鴫谷取締役会長
祝辞を述べる鴫谷取締役会長

その後、学士課程新入生総代として情報理工学院の佐瀬修磨さん、大学院課程新入生総代として物質理工学院 応用科学系の長谷川花音さん(修士課程)が答辞を述べ、これから始まる東工大生活での抱負を語りました。

答辞を述べる学士課程新入生総代の佐瀬さん
答辞を述べる学士課程新入生総代の佐瀬さん

答辞を述べる大学院課程新入生総代の長谷川さん
答辞を述べる大学院課程新入生総代の長谷川さん

新入生のみなさん、ようこそ東工大へ。ご入学おめでとうございます。

令和6年度 東京工業大学入学式挙行

令和6年度 東京工業大学入学式挙行

なお、益学長の式辞は下記のページからご覧いただけます。

お問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

Email som.som@jim.titech.ac.jp

薬剤設計を支援する解釈性の高いAI予測手法を開発 持続可能な創薬を目指した合理的分子設計に向けて

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要点

  • 低分子医薬品開発のためのAI化合物設計技術MMGXを開発
  • 異なる分子グラフ表現の組み合わせにより、AI予測結果に高い解釈性を付与
  • 薬剤設計の効率化によって医薬品開発を加速させるAI創薬の進展に期待

概要

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の大上雅史准教授とKengkanna Apakorn(ケンカーンナー・アーパーコーン)大学院生は、創薬における低分子化合物の物性や活性を予測する、新たなAI予測手法を開発した。

医薬品開発の加速を目指して、既知の実験データを活用して未知の物質の性質を予測する、人工知能(AI)を利用した計算技術が数多く研究されてきた。特に、近年の深層学習技術[用語1]の発展により、こうしたAIによる予測の精度は格段に上がっている。しかしその予測に至った理由を考えるための情報は乏しく、予測結果の妥当性の判断は熟練した専門家の知識と経験に委ねられる傾向にあった。

大上准教授らは、化合物の構造式をグラフ[用語2]で表現して処理するグラフニューラルネットワーク[用語3]に着目した。そのうえで、原子と結合の関係を表現する一般的なグラフと、化合物の複数の原子や結合(部分構造)を1つのノードに縮約するグラフ表現を組み合わせて、グラフニューラルネットワークの一種であるグラフアテンションネットワーク構造[用語4]によって学習するMMGX(Multiple Molecular Graph eXplainable discovery)という予測手法を提案した。この手法により、化合物の物性や活性を高精度に予測すると同時に、アテンション機構[用語5]を用いて部分構造表現から算出される値によって、「どの部分に着目してその予測結果としたのか」という情報を得ることができるようになった。MMGXによる化合物の予測と解釈は、AIによって医薬品開発を加速させるAI創薬の進展に大きく貢献する。この研究成果は2024年4月5日(現地時間)に英科学誌「Communications Chemistry」でオンライン公開される。

MMGX法によって化合物の重要な部分構造を予測・提示するAIのイメージ図

MMGX法によって化合物の重要な部分構造を予測・提示するAIのイメージ図

背景

医薬品開発においては、開発コストの削減や時間の短縮は喫緊の課題とされている。計算機を用いて所望の性質を持つ分子を設計する方法の確立は、医薬品開発プロセスを迅速に進めるための一助となる。

これまでに、既知の実験データを活用して未知の物質の性質を予測する教師あり学習[用語6]による機械学習・AI手法が数多く研究されてきた。特に近年の深層学習技術の発展により、こうしたAIによる予測の精度は格段に上がってきており、創薬支援を目的として活用されている。しかし、AIの予測は「なぜその予測結果となったのか?」という理由を考えるための情報に乏しく、予測結果の解釈は熟練した専門家の知識と経験に委ねられる傾向にあり、解釈性の向上が望まれていた。

研究成果

本研究では、低分子化合物の性質の予測と解釈を行う新たなAI手法を提案するにあたり、化合物の構造式をグラフで表現して処理するグラフニューラルネットワークに着目した。原子と結合の関係を表現したグラフ(原子グラフ)のほかに、化合物の複数の原子や結合(部分構造)を1つのノードに縮約するグラフ表現を用いた(図1)。化合物の性質は、化合物に含まれる部分構造によって決まるものが多く、部分構造の情報をうまく活用することで高度な予測が可能になると考えた。

図1. 化合物の構造式のグラフ表現。この図では化合物の例として、アスピリン(アセチルサリチル酸、C6H4(COOH)OCOCH3)の各グラフ表現を記載した。原子と結合の一般的なグラフ表現である原子グラフのほかに、一部の原子集団を縮約する複数のグラフ表現を用いている。
図1.
化合物の構造式のグラフ表現。この図では化合物の例として、アスピリン(アセチルサリチル酸、C6H4(COOH)OCOCH3)の各グラフ表現を記載した。原子と結合の一般的なグラフ表現である原子グラフのほかに、一部の原子集団を縮約する複数のグラフ表現を用いている。

次に、グラフ表現の入力から学習を行う、グラフニューラルネットワークによる教師あり機械学習手法「MMGX」の構築を行った。このとき、原子グラフと縮約されたグラフを組み合わせて情報抽出を行う仕組みを採用した(図2)。さらに、アテンション機構を取り入れたグラフアテンションネットワーク構造を用いることで、アテンションウェイト[用語7]の値から「どの部分構造に着目してその予測結果としたのか」という情報を得ることができるようになった(図3)。

図2. 提案手法であるMMGXの全体像。複数の分子グラフ表現を入力とし、グラフのノード情報を変換しながら情報抽出を行うグラフニューラルネットワークにより、化合物の部分構造に基づく性質の学習を行っていく。アテンション機構により抽出される重み(アテンションウェイト)は予測結果の解釈に用いられる。
図2.
提案手法であるMMGXの全体像。複数の分子グラフ表現を入力とし、グラフのノード情報を変換しながら情報抽出を行うグラフニューラルネットワークにより、化合物の部分構造に基づく性質の学習を行っていく。アテンション機構により抽出される重み(アテンションウェイト)は予測結果の解釈に用いられる。
図3. 提案手法であるMMGXのニューラルネットワーク構造。グラフニューラルネットワーク (GNN)とグラフアテンションネットワークによるアテンション機構を活用して、分子の部分構造の情報抽出が可能な予測モデルを構築した。
図3.
提案手法であるMMGXのニューラルネットワーク構造。グラフニューラルネットワーク (GNN)とグラフアテンションネットワークによるアテンション機構を活用して、分子の部分構造の情報抽出が可能な予測モデルを構築した。

このようにして構築したMMGXについて、20種類の異なる予測タスクからなるデータセットによって予測性能の検証を行ったところ、いずれのタスクでも現時点での最高精度に比肩する予測結果を示した。さらに、アテンション機構の重み値による可視化を行い、分子の性質を解釈する方法を提案した(図4)。実際に、変異原性[用語8]の情報を集めたデータセットから学習したMMGXの予測モデルでは、化合物グラフの入力情報を用いて変異原性毒性が示唆される部分構造を複数抽出することができ、その一部は実際に文献等で変異原性が報告されている部分構造であった(図5)。

図4 提案手法MMGXによる分子の解釈機能。

図4. 提案手法MMGXによる分子の解釈機能。

図5. MMGXによる予測例。変異原性毒性を予測するための学習を行い、予測結果を解釈するために可視化を行ったところ、既に毒性が知られている部分構造が複数抽出された。また、未報告だが毒性のある可能性が示唆される部分構造も提示された。
図5.
MMGXによる予測例。変異原性毒性を予測するための学習を行い、予測結果を解釈するために可視化を行ったところ、既に毒性が知られている部分構造が複数抽出された。また、未報告だが毒性のある可能性が示唆される部分構造も提示された。

社会的インパクト

今回発表したMMGXは、オープンソースソフトウェアとしてプログラム共有サイトGitHub|Ohue Lab/MMGXからダウンロード可能である。昨今、医薬品開発プロセスの効率化を目指して、各所でAIを活用した創薬手法(AI創薬)の実用化が叫ばれているが、本研究成果はAIと人間が協力して高度な成果を目指すヒューマン・イン・ザ・ループ[用語9]の考え方を加速するものと言える。

今後の展開

研究グループは既に、今回発表した手法を改善し、より大きな分子量(分子量500超)の化合物にも適用できるAI予測手法の構築を進めている。また、分子シミュレーションによる結合自由エネルギー計算手法と組み合わせて、訓練データによる学習にとらわれずに重要な部分構造を推定できる枠組みを検討している。医薬品開発コストが増大しつつある昨今において、本研究成果や今後の研究が持続可能な創薬への一助となることを期待している。

付記

本研究は以下の事業の支援を受けて実施された。

  • 科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業「マルチモダリティ創薬を拓くインフォマティクス基盤」(JPMJFR216J)
  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)計画研究「天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン」(JP23H04880)
  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)計画研究「bRO5化合物の潜在空間構築と応用のための情報科学」(JP23H04887)
  • 日本医療研究開発機構(AMED) 生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)(JP23ama121026)

用語説明

[用語1] 深層学習技術 : ニューラルネットワークに基づいた機械学習アルゴリズムの一種。ネットワークを多層化させることで高い予測性能を得ることが可能である。

[用語2] グラフ : 鉄道の路線図のような、点や丸で表された「ノード」と、それらの間に張られる「エッジ」によって表現される数学的な構造。化合物のグラフ表現においては、原子を「ノード」、原子間の結合を「エッジ」とした原子グラフが通常よく用いられる。

[用語3] グラフニューラルネットワーク : グラフ情報を扱うニューラルネットワークを指す。

[用語4] グラフアテンションネットワーク構造 : グラフニューラルネットワークの一種。アテンション機構と呼ばれる仕組みを採用している。

[用語5] アテンション機構 : ニューラルネットワークに入力されるデータの重要な部分を認識させるためのネットワーク構造。

[用語6] 教師あり学習 : 訓練データの正解を教えて学習させる、機械学習手法の枠組みの一種。

[用語7] アテンションウェイト : アテンション機構における、入力されたデータから学習された各注目部分についての重み(重要度)。

[用語8] 変異原性 : 生物の遺伝情報を変化させる性質。細胞のがん化の誘発要因となることがある。

[用語9] ヒューマン・イン・ザ・ループ : AIなどで自動化が行われているシステムなどで、一部の判断や制御に人間を介在させる仕組み。

論文情報

掲載誌 :
Communications Chemistry
論文タイトル :
Enhancing property and activity prediction and interpretation using multiple molecular graph representations with MMGX
著者 :
Kengkanna Apakorn, Masahito Ohue
DOI :

情報理工学院

情報理工学院 ―情報化社会の未来を創造する―
2016年4月に発足した情報理工学院について紹介します。

情報理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

東京工業大学 情報理工学院 情報工学系

准教授 大上雅史

Email info@li.c.titech.ac.jp
Tel 045-924-5530 / Fax 045-924-5523

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科学技術振興機構 創発的研究推進部

東出学信

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科学技術振興機構 広報課

Email jstkoho@jst.go.jp
Tel 03-5214-8404 / Fax 03-5214-8432


吉松公平准教授がアメリカ物理学会の卓越した査読者(Outstanding Referees)に選出

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吉松公平准教授

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の吉松公平准教授が、アメリカ物理学会から、2024年の卓越した査読者(終身称号)に選出されました。アメリカ物理学会が3月1日に発表しました。

受賞者

吉松公平 物質理工学院 応用化学系 准教授

授与団体

アメリカ物理学会(American Physical Society:APS)

受賞日

3月1日

物質理工学院

物質理工学院 ―理学系と工学系、2つの分野を包括―
2016年4月に発足した物質理工学院について紹介します。

物質理工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系

准教授 吉松公平

Email yoshimatsu.k.aa@m.titech.ac.jp

伊賀健一栄誉教授・元学長が2024年のアイヴス・クイン賞を受賞

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伊賀健一栄誉教授
伊賀健一栄誉教授

東京工業大学の伊賀健一栄誉教授・元学長が、2024年のアイヴス・クイン賞(Frederic Ives Medal / Jarus W. Quinn Prize)を受賞しました。Optica(旧OSA:アメリカ光学会)が2月21日に発表しました。

受賞者

伊賀健一栄誉教授・元学長

授与団体

Optica(旧OSA:アメリカ光学会)

賞名

Frederic Ives Medal / Jarus W. Quinn Prize(アイヴス・クイン賞)

研究業績

半導体レーザーと光エレクトロニクスの分野における先駆的な貢献と先見的なリーダーシップ、および後進の育成と教育への貢献

お問い合わせ先

総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp

打田准教授、土方准教授が2023年度「東工大の星」特別賞【STAR】に決定

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東京工業大学は、2023年度(第11回)「東工大の星」特別賞【STAR】(Special Award for Tokyo Tech Advanced Researchers)の受賞者として、理学院 物理学系の打田正輝准教授と工学院 機械系の土方亘准教授の2人を、学長および研究・産学連携本部長の協議により選考し、3月1日に発表しました。

授賞式での集合写真(後列左から)渡辺治研究・産学連携本部長、益一哉学長 (前列左から)土方准教授、打田准教授

授賞式での集合写真(後列左から)渡辺治研究・産学連携本部長、益一哉学長 (前列左から)土方准教授、打田准教授

「東工大の星」特別賞【STAR】とは、東工大基金を活用し、将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者や、基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者へ大型研究費の補助を行い、次世代を担う本学の輝く「星」を支援していくものです。

受賞者の研究概要とコメント

打田正輝 理学院 物理学系 准教授

研究概要 「トポロジカル半金属における異常磁気伝導現象の開拓」

打田正輝准教授

物質中の電子を量子力学的に記述するためにはバンド構造が用いられますが、近年そのトポロジカルな性質に焦点を当てた、トポロジカル物質と呼ばれる新しいクラスの物質の研究が非常に盛んになっています。トポロジカル物質の中でも、バンドギャップが一点で閉じたトポロジカル半金属と呼ばれる物質群では、もともと素粒子物理の分野で提唱されていた状態が低エネルギーのバンド構造として実現していることが明らかになりつつあります。私たちは、分子線エピタキシー成長と呼ばれる手法を用いて非常に高品質なトポロジカル半金属の薄膜を作製し、そこにおける電子の伝導現象を調べています。本研究では、この点に由来した変わった伝導現象を調べ、将来的なエレクトロニクス応用へとつなげたいと考えています。

受賞のコメント

このたびは「東工大の星」特別賞に採択されましたこと、大変光栄に存じます。東工大基金の寄附者の皆さま、ならびに選考委員の皆さまに心より御礼申しあげます。また、これまでご指導くださった先生方、共同研究者の皆さま、共に研究を進めている研究室メンバーにも、この場をお借りして心より感謝申しあげます。大学が行う支援としては他に類を見ないこのような大型支援のもと、研究により一層まい進したいと思います。

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

土方亘 工学院 機械系 准教授

研究概要「人と機械の融合を目指した人工心臓および生体組織の工学的応用に関する研究」

土方亘准教授

医療技術の発展に伴い、過去200年にわたって人類の平均寿命は大きく延伸し続けています。一方、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間とされる健康寿命は、平均寿命に対して短く、日本においては約10年もの乖離が見られます。このような背景から、単なる平均寿命の延伸のみならず、人々の豊かな人生の礎となるべく健康寿命の延伸や生活の質の向上を視野に入れた科学技術・医療技術の発展が求められていると考えています。私の研究では、人と機械を融合し、万一の疾病の際も健常者のように生活できる医療技術の実現をコンセプトに、重症心不全患者の治療に使われる人工心臓の研究を遂行しています。従来の人工心臓はあらかじめ設定したモータ回転数で定常流を発生していましたが、患者の運動状態に合わせた流量の増減が行えないので安静を強いられる、拍動が無くなることによる血栓症のリスク増加などが指摘されています。そこで、人工心臓に使われる電磁石等を利用して疾患心臓が発する拍動をリアルタイムで推定することで、拍動のタイミングに合わせた心拍同期制御が行える人工心臓を開発しています。また、人と機械の融合を目指した別のアプローチとして、骨格筋などの生体組織を利用することで、将来的に自己修復可能なパワーアシストスーツなどの新規医療・福祉デバイスの創出を目指しています。特に、生体組織の設計や制御を工学的手法で実現する技術を開発しています。

受賞のコメント

「東工大の星」特別賞に採択いただき、誠に光栄に存じます。東工大基金の寄附者の皆さま、ならびに選考委員の皆さまに厚く御礼申しあげます。本研究は私ひとりの力で遂行できるものではありません。日頃よりご指導いただいております先生方、共同研究者の皆さま、そして研究室のメンバーにもこの場を借りて御礼申しあげます。このご支援を生かして、今後とも挑戦的な研究を推進してまいりたいと考えております。

工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

「東工大の星」特別賞【STAR】の概要

目的

東工大基金を活用し、本学における優秀な若手研究者への大型支援を実施することにより、本学の中期目標である基礎的・基盤的領域の多様で独創的な研究成果に基づいた新しい価値の創造を促進し、もって、学長の方針に基づく本学の研究力強化に資することを目的とします。

対象者

公募によらず、さまざまな業績を勘案し、学長および研究・産学連携本部長の協議により決定します。

観点

  • 将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者
  • 基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者

役職等

准教授以下(原則40歳以下)とします。

2023年度から名称が「東工大の星」支援【STAR】から「東工大の星」特別賞【STAR】へ変更されました。

関連リンク

東工大基金

この支援事業は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究企画課総務グループ

Email ken.award@jim.titech.ac.jp

国立大学法人東京科学大学の長の選考に関する第2次候補適任者について

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医科歯科大学と東京工業大学の外観イメージ

国立大学法人東京科学大学の長の合同選考会議(以下「選考会議」という。)は、国立大学法人東京科学大学の長選考規程(令和6年2月22日選考会議議長決定)第5条第2項の規定に基づき、第1次候補適任者のうちから、所信等を踏まえ選考を行い、第2次候補適任者を決定しましたので、その氏名、所属、職名、所信等を、下記のとおり公表します。

第2次候補適任者について

第2次候補適任者は、以下のとおりです(五十音順)。

大竹 尚登

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授、同研究院長

大竹尚登 所信、履歴書等

田中 雄二郎

東京医科歯科大学 学長

田中雄二郎 所信、履歴書等

益 一哉

東京工業大学 学長

益一哉 所信、履歴書等

お問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

Email som.som@jim.titech.ac.jp

理論計算と機械学習により無機材料表面の性質を高精度かつ網羅的に予測 光触媒材料などの探索や電子・光電子デバイスの設計を支援

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要点

  • 最先端の理論計算と機械学習による新たな予測手法を開発
  • 材料探索やデバイス設計において不可欠な指針
  • マテリアルズインフォマティクスに立脚して材料開発を加速

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の清原慎JSPS特別研究員(研究開始時。現:東北大学 助教)、大場史康教授は、産業技術総合研究所 エネルギー・環境領域 電池技術研究部門の日沼洋陽主任研究員と共同で、高精度と高速を両立させた最先端の第一原理計算[用語1]により生成した大規模な理論計算データおよび機械学習を用いて、無機材料表面の基本的な電子構造を網羅的に予測することに成功した。

本研究により開発された手法は、光触媒や電子・光電子デバイスなどの設計において重要な指針を与える無機材料表面のバンドアライメント[用語2]を多種多様な物質・表面を対象に予測することを可能にするだけでなく、表面以外の特性の予測にも使える汎用的なものであり、近年注目されているマテリアルズインフォマティクス[用語3]に立脚した材料開発を加速することが期待される。

研究成果は3月28日(現地時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society(ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー)」のオンライン速報版で公開された。

ハイスループット理論計算と機械学習による無機材料表面のバンドアライメント。 (c) J. Am. Chem. Soc.

ハイスループット理論計算と機械学習による無機材料表面のバンドアライメント。 (c) J. Am. Chem. Soc.

背景

近年、大規模な材料データに対してデータ科学的手法を適用したアプローチであるマテリアルズインフォマティクスが注目を集めている。結晶構造などの比較的容易に入手できる情報から計測や理論計算に時間がかかる材料特性を予測することで、材料開発を加速することが可能である。本研究では、特に固体表面の性質の予測に着目している。

固体の表面では、内部とは異なる原子の配列や電子の状態により、バルク[用語4]とは大きく異なる性質が発現する。特にイオン化ポテンシャル(Ionization Potential: IP)[用語5]電子親和力(Electron Affinity: EA)[用語6]は半導体や絶縁体の電子状態に関する基本的な物理量であり、光触媒や電子・光電子デバイスなどを設計する際の重要な指針となる。しかしながら、固体表面には不純物が吸着しやすいため、実験により清浄な表面のIP・EAを精確に計測することは容易ではない。一方で、第一原理計算は、理想的な表面を考慮できることから、IP・EAを知るための強力なツールであるが、第一原理計算を用いて高精度にIP・EAを算出するには膨大な計算量を必要とする。さらに一つの物質においても表面はさまざまな面方位や原子配列を持ち、このような表面の多様性を考慮して網羅的に理論計算を実行することは現実的ではない。

以上のような背景をもとに、本研究では多様な固体表面を対象にIP・EAを高精度かつ高速に予測する手法の開発に取り組んだ。

研究成果

本研究では、第一原理に基づいた最先端のハイスループット計算手法を用いて、約3,000種類の酸化物表面の原子位置の緩和構造と表面エネルギーおよびIP・EAを計算した。さらに、機械学習による予測モデルを用いて、表面の方位と終端面の位置の情報のみからIP・EAを高精度に予測することを可能にした。その概略を図1に示す。

図1 第一原理計算および機械学習を用いたIP・EAの予測の概念図

図1. 第一原理計算および機械学習を用いたIP・EAの予測の概念図

第一原理計算を用いてIP・EAを算出する際の標準的な流れは次の通りである。まずバルクの結晶構造と面方位・終端面位置の情報から表面のモデルを作成し、表面エネルギーが低下するように原子位置を緩和させる。一方で、バルクのモデルから静電ポテンシャルの基準に対する価電子帯上端(Valence Band Maximum: VBM)と伝導帯下端(Conduction Band Minimum: CBM)[用語7]のエネルギーを計算し、表面モデルの結果と組み合わせることでIP・EAを求める。このような電子のエネルギーを高精度に算出するには、ハイブリッド汎関数[用語8]などの高いレベルの近似を用いる必要があり、また表面モデルが多くの原子を含むため、両面から非常に大きな計算コストを要する。

本研究では高精度と高速を両立した第一原理計算手法を用いて、まず約2,200種類の二元系酸化物無極性表面のデータベースを構築した(図2上)。IP・EAの実験値が報告されている酸化物表面を対象に理論計算値と実験値(文献値)を比較したところ、よく一致していることを確認した(図2下)。これほどの高精度かつ大規模な表面特性の第一原理計算データベースの構築は他に類を見ない。

図2. ハイスループット第一原理計算により得られた約2,200種類の二元系酸化物表面のIP・EA(上)と実験値(文献値)との比較(下)。薄オレンジ色のバーの上端・薄緑色のバーの下端がそれぞれ真空準位に対するVBM・CBMの第一原理計算値であり、IP・EAに対応する。
図2.
ハイスループット第一原理計算により得られた約2,200種類の二元系酸化物表面のIP・EA(上)と実験値(文献値)との比較(下)。薄オレンジ色のバーの上端・薄緑色のバーの下端がそれぞれ真空準位に対するVBM・CBMの第一原理計算値であり、IP・EAに対応する。

次に、上述の二元系酸化物表面データベースを用いて、構造緩和前の表面原子配列から構造緩和後のIP・EAを予測するニューラルネットワークを構築した。原子配列の記述子として、ニューラルネットワークに接続することで構成元素の数に対してスケーラブルになるように拡張したSmooth Overlap Atomic Positions(SOAP)[用語9]を開発し(Learnable SOAP: L-SOAP)、原子配列をベクトル化した。図3左に示すように、第一原理計算値とニューラルネットワークによる予測値を比較した際、訓練データ・テストデータ[用語10]の多くの点が対角線に近い位置にあり、IP・EAの第一原理計算値を高精度に予測可能なことが分かる。さらに本手法はアテンション層[用語11]を導入しているため、どの原子がIP・EAに大きな影響を与えるのかを推定可能である。例としてSb2O3の(001)表面における影響の大きさを図3右に示す。各原子のIPとEAへの影響は大きく異なることが分かる。

図3. ニューラルネットワークを用いた二元系酸化物のIP・EAの予測(左)。図中に二乗平均平方根誤差(Root-Mean-Square Error: RMSE)、平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)、決定係数(R2)(用語12)の値を示す。表面モデル内の各原子のIP・EAへの影響の大きさ(右)。Sb2O3の(001)表面の例であり、色が濃いほど影響が大きいことを表している。
図3.
ニューラルネットワークを用いた二元系酸化物のIP・EAの予測(左)。図中に二乗平均平方根誤差(Root-Mean-Square Error: RMSE)、平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)、決定係数(R2[用語12]の値を示す。表面モデル内の各原子のIP・EAへの影響の大きさ(右)。Sb2O3の(001)表面の例であり、色が濃いほど影響が大きいことを表している。

さらに、三元系酸化物表面への展開を行った。三元系酸化物は多くの場合、二元系酸化物より複雑な結晶構造を持つことから、その表面について大規模な理論計算データを生成することは困難である。このため、本研究では約700種類の三元系酸化物無極性表面の理論計算データを用意し、二元系酸化物表面について構築したニューラルネットワークをベースとして転移学習[用語13]を行った。その結果の一例として、EAの予測精度を図4に示す。訓練データの割合が増えるにつれて誤差が小さくなり、決定係数が1に近づいている。すなわち、予測精度が向上していくことが分かり、今後、三元系酸化物表面の理論計算データが増えることで、さらなる精度改善が期待できる。また、通常のSOAPを用いた場合と比べると、L-SOAPを用いて転移学習を行う方がはるかに予測精度が高く、本研究で開発したL-SOAPは転移学習に向いていると言える。

図4. EAに関する三元系酸化物表面への転移学習の精度。二乗平均平方根誤差(Root-Mean-Square Error: RMSE)と平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)は左の軸、決定係数(R2)は右の軸を参照している。
図4.
EAに関する三元系酸化物表面への転移学習の精度。二乗平均平方根誤差(Root-Mean-Square Error: RMSE)と平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)は左の軸、決定係数(R2)は右の軸を参照している。

社会的インパクト

無機材料のバンドアライメントは、光触媒や電子・光電子デバイスなどの設計において不可欠な指針を与えるが、多種多様な物質の表面を対象に系統的に評価することはこれまで困難であった。本研究は、近年注目されているマテリアルズインフォマティクス的アプローチにより、この状況を打開するものであり、今後の材料探索やデバイス設計を加速することが期待できる。

今後の展開

本研究において開発した手法をバンドアライメントの観点での酸化物材料のスクリーニングに応用していくとともに、硫化物・窒化物などの他の物質系の表面特性の予測へと展開する。さらに本手法の適用範囲は表面に限られないため、表面以外の特性の予測に応用する。

付記

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(20J00773、20H00302、23K13811)、神奈川県立産業技術総合研究所 脱炭素化対策事業、文部科学省 データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト事業(JPMXP1122683430)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR17J2)の助成を受けて行われた。また、京都大学 学術情報メディアセンターおよび九州大学 情報基盤研究開発センターの計算資源を使用した。

用語説明

[用語1] 第一原理計算 : 量子力学の基本原理に基づいた理論計算。物質の性質を支配する電子の状態だけでなく、安定性や構造を決定する際の指標となる全エネルギーが得られ、結晶・分子、表面・界面などの構造を予測できる。

[用語2] バンドアライメント : 複数の物質の電子のエネルギーバンドをある基準でそろえること。光触媒や電子・光電子デバイスなどの設計において重要な指標となる。

[用語3] マテリアルズインフォマティクス : 実験および理論計算の結果に対してデータ科学的手法を適用することで、膨大な種類の材料やその性質の予測・解析を行い、材料の最適化や新材料・新機能の開拓を行うアプローチ。

[用語4] バルク : ここでは格子欠陥が入っていない理想的な結晶のこと。

[用語5] イオン化ポテンシャル : 半導体・絶縁体(および原子・分子)から電子を1個取り去るのに要するエネルギー。電子が固体から出る際には必ず表面を通るため、その値は表面の原子配列や電子状態に依存する。

[用語6] 電子親和力 : 半導体・絶縁体(および原子・分子)に電子を1個与える際のエネルギーの利得。イオン化ポテンシャルと同様に固体表面の原子配列や電子状態に依存する。

[用語7] 価電子帯・伝導帯 : 半導体・絶縁体において、価電子が詰まっている・空いているエネルギーバンド。VBM・CBMはその最大・最小のエネルギーにそれぞれ対応する。

[用語8] ハイブリッド汎関数 : 密度汎関数理論をベースとした第一原理計算における交換相関項の近似の一つ。交換項をハートリー=フォック理論の厳密なものに部分的に置き換えることで計算精度を向上させる。

[用語9] Smooth Overlap Atomic Positions(SOAP) : 固体や分子の原子配列をベクトル化して表現する手法の一つ。

[用語10] 訓練データ・テストデータ : 訓練データは、機械学習モデルの係数を調整するためのデータ。構築したモデルの精度は、学習に使用しなかったテストデータにより評価する。

[用語11] アテンション層 : ニューラルネットワークに関する技術の一つ。目的の値に対して、入力情報の重要度を自動的に決定してくれる。

[用語12] 二乗平均平方根誤差(Root-Mean-Square Error: RMSE)・平均絶対誤差(Mean Absolute Error: MAE)・決定係数(R2 : 予測精度を測る代表的な指標。

[用語13] 転移学習 : 機械学習手法の一つ。あるデータで一度予測モデルを構築し、他のデータを用いて予測モデルの再学習を行うこと。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Band Alignment of Oxides by Learnable Structural-Descriptor-Aided Neural Network and Transfer Learning(学習可能な構造記述子を用いたニューラルネットワークと転移学習による酸化物のバンドアライメント)
著者 :
Shin Kiyohara, Yoyo Hinuma, and Fumiyasu Oba(清原慎、日沼洋陽、大場史康)
DOI :

お問い合わせ先

<理論計算に関すること>

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 大場史康

Email oba@msl.titech.ac.jp

<機械学習に関すること>

東北大学 金属材料研究所

助教 清原慎

Email sin@tohoku.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

量子光学で光バネの硬化に成功 次世代重力波望遠鏡での応用に期待

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要点

  • レーザー光が鏡を押す力を復元力とする光バネを、量子光学で扱う非線形光学効果を応用して硬くすることに世界で初めて成功。
  • レーザー光の光量を増やさずに、信号成分を増やして応答を向上させる信号増幅を導入。
  • 次世代重力波望遠鏡の高周波感度を向上させる技術への応用などに期待。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の小田部荘達特任助教と理学院 物理学系の宗宮健太郎准教授らの研究チームは、量子光学[用語1]の技術を応用して光バネを硬くすることに世界で初めて成功した。

光バネは、向かい合わせに配置した鏡の間の空間にレーザー光がため込まれる光共振器[用語2]において、レーザー光が鏡を押す力を復元力として用いる振動子である。機械振動子のような熱ゆらぎがほとんどないため、微小信号計測のための究極のプローブ(測定器を構成する要素のうち物理量を感知する部分)として注目されている。光バネを硬くすることができれば、鏡の振動の抑制や、高周波の測定が可能になり、プローブとしてのユーティリティもさらに向上する。しかし、従来の光バネの硬さには光量で決まる上限が存在していた。

本研究では、量子光学で扱う技術である非線形光学効果[用語3]を導入し、光量は変えずに信号成分を増やす方法によって、光バネを硬くすることに世界で初めて成功した。

研究チームはこの技術を、時空のさざ波である重力波[用語4]をとらえる次世代の重力波望遠鏡に応用することを提案している。特に現在の重力波望遠鏡では観測できない、中性子星[用語5]の連星合体後に放出される重力波をとらえるには、今回開発したような光バネを硬くする技術が有望である。

今回の研究は、東京工業大学 理学院 物理学系の臼倉航大学院生、鈴木海堂大学院生、東京大学 理学系研究科の小森健太郎助教、カリフォルニア工科大学の道村唯太研究員、早稲田大学 理工学術院の原田健一研究院講師らとの共同研究として行われた。本研究成果は、4月4日付(現地時間)のPhysical Review Letters誌に掲載され、その号のエディターズ・サジェスチョンに選ばれた。

背景

離れたところにある2つの鏡を、機械的につなぐ代わりにレーザーの圧力を介してつなぐことで、機械的な熱振動の影響を排除したのが、光バネと呼ばれる振動子である。光バネの生成には、鏡を向かい合わせに配置し、レーザー光が何度も反射するようにした光共振器という装置を用いる。光共振器における鏡の間の距離は、通常はレーザー波長の整数倍であるが、それよりも少しだけずらす(離調[用語6]する)と、光路長の増減に対してレーザーの圧力が変化する。この圧力が鏡を元の位置に戻そうとする復元力となって、光バネが生成される(図1)。光バネの振動周波数は、離調の大きさと光共振器内の光量で決まるため、振動周波数の2乗に比例する光バネの硬さも、この2つの量で決まる。しかし離調を大きくすることで可能なバネの硬さには上限があり、高い光量を使用できない場合や、すでに限界に近い光量を使用している場合は、光バネをそれ以上硬くすることはできない。

この問題を解決するために本研究チームが提案したのが、非線形光学効果を用いた信号増幅である。これは光共振器内の光量を増やすことなく、信号成分を増やして応答を向上し、光バネを硬くするという方法である。本研究では、非線形光学効果の1つである光カー効果を用いた信号増幅を導入した。光カー効果は、光強度に比例して媒質の屈折率が変化するという現象であり、3次の非線形感受率と結合して現れるものがよく知られているが、本研究では2次の非線形感受率と結合して現れるカスケード式の光カー効果を利用した。カスケード式の光カー効果は、非線形光学結晶の温度を変えることで調整することができる。

図1. 量子光学の技術を導入して光バネを硬くすることで揺らぎが小さく利便性の高いプローブを実現する
図1.
量子光学の技術を導入して光バネを硬くすることで揺らぎが小さく利便性の高いプローブを実現する

研究成果

本研究では、光共振器を構成する鏡のうち1枚を、共振周波数14 Hzの渦巻バネで懸架された280 mgの軽量鏡にした。使用するレーザー波長は1,064 nmで、光共振器内の光量は最大でおよそ40 Wである。非線形結晶を挿入しない状態で測定した光バネの周波数は53 Hzであった。この共振器に、非線形結晶として長さ10 mmの周期分極反転リン酸チタンカリウム結晶を挿入し、結晶の温度を倍波生成損失の少ない39.6 ℃と45.4 ℃という2つの温度に制御した状態で、光バネの測定実験を行った。この場合、屈折率の温度依存性に起因する光熱効果によって光共振器の応答が変化するため、懸架鏡を使わずに光熱効果を精密に測定し、光バネ観測実験の結果から光熱効果の寄与分を除去するという解析を行った。その結果、39.6 ℃のときには光バネ周波数が67 Hzに上昇し、光バネの硬さを表す光バネ定数がおよそ1.6倍上昇したことが分かった(図2)。一方、結晶温度が45.4 ℃のときの光バネ定数の増加は39.6 ℃のときより小さくなり、結晶温度を変えれば信号増幅の大きさを調整できることも分かった。光カー効果は入射光の強度に比例するため、光バネ定数の差は入射光強度が強いほど大きくなった。

図2 離調角と入射光強度を変えて光バネ定数を測定したもの。赤鎖線は入射光強度が最大かつ非線形結晶を挿入しない場合の光バネ定数を示しており、光カー効果によって光バネ定数が最大1.6倍上昇した
図2.
離調角と入射光強度を変えて光バネ定数を測定したもの。赤鎖線は入射光強度が最大かつ非線形結晶を挿入しない場合の光バネ定数を示しており、光カー効果によって光バネ定数が最大1.6倍上昇した

社会的インパクト

今回の研究成果によって、非線形光学効果で光バネを操作することが可能となり、さまざまな微小信号計測の分野での応用が期待できる。重力波望遠鏡の高周波感度を向上させるための切り札となる可能性があるほか、巨視的量子力学検証では熱雑音の希釈効果が改善できる。また薄膜振動を利用した核磁気共鳴観測装置にも応用できる。測定対象によっては光量を増やすと破損してしまうものも多く、信号増幅による光バネの硬化というアプローチは技術革新の元となると考えている。

今後の展開

本実験では光熱効果を解析的に除去しているが、光学的に除去することができれば光バネのユーティリティはさらに向上する。そのためには、光熱パラメタがリン酸チタンカリウムとは逆符号の結晶を光共振器に導入すればよい。本研究チームはこの試みをすでに開始しており、近い将来に検証実験の成果が出るものと期待している。

また、今回はレーザー光をため込むタイプの共振器に光カー効果を導入したが、重力波望遠鏡の暗縞側を利用するのであれば、光カー効果ではなく光パラメトリック増幅が有効である。この方法による光バネの硬化についてもすでに本研究チームで取り組んでおり、近い将来の実現を目指している。

付記

本研究は、科学技術振興機構(JST)とフランス国立研究機構(ANR)の日仏共同提案研究CREST(JPMJCR1873)、日本学術振興会(JSPS)特別研究員奨励費(20J22778)、住友財団助成によって支援されたものである。

用語説明

[用語1] 量子光学 : 量子力学の世界では、光は波としての性質だけでなく粒子としての性質も示す。光の量子的振る舞いを追求する学問が量子光学である。

[用語2] 光共振器 : 複数の鏡を向かい合わせに配置し、鏡を透過してきた光が多重反射するようにした装置のこと。反射率の高い鏡を用いることで、入射光量よりも大きな光量の光をため込むことができる。

[用語3] 非線形光学効果 : 非線形光学結晶に光が入射した際に、結晶の分極が入射する電磁場に影響されることにより、出射光が非線形な応答を示す効果。2次の非線形効果としては倍波生成や光パラメトリック増幅が、3次の非線形効果としては光カー効果がよく知られている。

[用語4] 重力波 : 時空のひずみが遠方に伝わる波のこと。ブラックホールや中性子星の運動で生じる。大きな質量の物体が高速に運動すると重力波の振幅も大きくなる。現在の技術で観測が可能なのは、ブラックホール連星などの大質量天体から生じる重力波で、長さが数キロメートルの大型干渉計で観測することができる。

[用語5] 中性子星 : 大質量星が進化の最終段階で爆発を起こした後に残る、極めて高密度な天体。2つの中性子星から成る連星系も存在し、重力波を放出しながら軌道半径を縮め、最終的には合体する。このとき、現在の重力波望遠鏡では捉えることのできない高周波重力波を放出すると考えられている。

[用語6] 離調 : 光共振器に光をため込むには、共振器を構成する鏡の間隔を光の波長の整数倍にする必要があるが、その間隔を波長よりも小さな距離だけずらすことを離調と呼ぶ。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Kerr-Enhanced Optical Spring
著者 :
S.Otabe, W.Usukura, K.Suzuki, K.Komori, Y.Michimura, K.Harada, and K.Somiya
DOI :

理学院

理学院 ―真理を探究し知を想像する―
2016年4月に発足した理学院について紹介します。

理学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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准教授 宗宮健太郎

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特任助教 小田部荘達

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安藤裕輔

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Tel 03-3512-3531 / Fax 03-3222-2066

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東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
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科学技術振興機構 広報課

Email jstkoho@jst.go.jp
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博士留学生を対象にキャリア支援セミナーを実施

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東京工業大学イノベーション人材養成機構(IIDP)は、博士後期課程に在籍する留学生を対象に「博士留学生向けキャリア支援セミナー(CAREER SUPPORT SEMINAR~Job-hunting and Job Interview in Japan for International Doctoral Students~)」を2月にオンラインで実施しました。

CAREER SUPPORT SEMINAR~Job-hunting and Job Interview in Japan for International Doctoral Students~

東工大では、博士後期課程修了後に日本で就職する留学生の割合は4割を超えており、これは出身国で就職する留学生の割合よりも大きく(2022年度実績)、例年多くの留学生が日本での就職活動を行っています。

その一方、日本独特の就職活動に関する知識不足や日本語の習得不足、日々の研究等に追われて就職活動の機会を失うなどの理由から、希望通りに日本で就職できない留学生もいます。

そのような状況を踏まえ、「日本で就職すること」「日本で就職するにあたり必要な能力や準備」「博士の就職活動の特徴」などに関する知識と技能の向上を目的として、博士留学生を対象としたセミナーを説明会と日本語就職面接講座の2部構成で実施しました。

セミナー第1部のプログラム

セミナー第1部のプログラム

キャリア支援セミナー 第1部 ― 英語による説明・講話(2月6日)

セミナー第1部は、日本における就職活動についての全体的な情報提供と東工大におけるキャリアパスの傾向についての説明、さらに東工大の先輩からの経験談がありました。

はじめに、東工大学生支援センター 未来人材育成部門の福岡和歌キャリアアドバイザーが「東工大博士の進路」と題して話しました。

東工大の博士後期課程を修了した先輩留学生たちはどのような進路(企業や組織)を選択しているか、日本語力と就職活動には関係があるか、いつ頃から・どのような手段で・誰に相談しながら就職活動を始めるべきかなどを、先輩たちの実際の声や、東工大の具体的なキャリア支援の話を交えながら説明しました。

東工大博士卒業生のキャリアについて説明する福岡キャリアアドバイザー

東工大博士卒業生のキャリアについて説明する福岡キャリアアドバイザー

続いて、株式会社エマージングテクノロジーズの深澤知憲氏から、「博士の就活」全般についての講話がありました。深澤氏は、博士人材に特化したキャリア支援事業を立ち上げ、産学官のあらゆる視点・立場で博士人材の育成・キャリア支援に取り組んでいることから、「博士の就活スケジュール」「企業が博士に求めているもの」「就職先でのキャリア設計」「留学生が企業等を探す方法」などについて詳しく説明しました。話題はアカデミアのキャリアパス、研究内容の説明方法、日本語能力の必要性などにおよび、参加した留学生は熱心に話を聴き、活発に質問しました。

アカデミアのキャリアについて説明する深澤氏

アカデミアのキャリアについて説明する深澤氏

最後は、東工大で博士後期課程を修了し日本で就職した留学生2人が、自身の就職活動、就職先に選んだ理由、就職活動や仕事での日本語の必要性などを話し、これから就職活動を行う後輩たちへエールを送りました。

参加した約100人の博士留学生は先輩の経験談に興味深く耳を傾け、先輩が話し終えると、「どうしてアカデミアの道を選んだのか」といったキャリアに関する質問に加え、「3年で博士後期課程を修了できるためのアドバイスはあるか」「国際学会での発表や論文の件数は就職活動に生きたか」など、幅広い質問があがりました。当日は全ての質問に回答する時間がなかったため、後日、回答をまとめて参加者全員に共有しました。

参加者からあがった主な質問

  • 2025年9月修了予定の留学生は、いつ就活を開始するのがよいでしょうか。そして働き始めるのはいつになるでしょうか。
  • 日本企業は博士後期課程学生よりも修士課程学生を雇用したがる傾向にあるため、博士後期課程留学生が日本企業で仕事を見つけるのは難しいと聞きましたが、本当ですか。
  • 私は、アカデミアのキャリアに興味を持っていますが、テニュア(※1)のポジションには教職経験が必要だと思います。私が母国でアカデミアの職での教職経験を持っている場合、日本の大学のテニュアトラックのポジションに就くことができますか。それとも私は再度ノンテニュアから始めなくてはいけませんか。
  • ポスドク(※2)の代わりに研究者として企業で働き、その後、より高いアカデミアのポジションに応募することは可能ですか。
※1

任期の定めのない教員としての資格のこと。

※2

博士の学位を修得したのちに、任期付きで大学等に採用されて研究業務に従事するポジションのこと。

参加者アンケート「特に役に立った内容」

参加者アンケートでは9割以上の留学生が「役に立った」と回答し、「特に役に立った内容」として、以下が挙げられました。

  • アカデミアポジションで働くための情報および将来の自分の仕事について改めて考えられたこと
  • エントリーシートや研究概要をどのように書けばよいか
  • 日本語能力の必要性と日本独特の雇用システムについて
  • 日本の就活の一般的なスケジュールを知ることができたことと、日本で働く修了生から経験談を聞くことができたこと

産業技術総合研究所の王建氏(2013年9月 大学院理工学研究科 材料工学専攻 博士後期課程修了)
産業技術総合研究所の王建氏(2013年9月 大学院理工学研究科 材料工学専攻 博士後期課程修了)

物質理工学院 応用化学系 劉浩男助教(2022年3月 同学院 同系 博士後期課程修了)
物質理工学院 応用化学系 劉浩男助教(2022年3月 同学院 同系 博士後期課程修了)

キャリア支援セミナー 第2部 ― 日本語での模擬面接・課題作成(2月15日・16日)

セミナー第2部は、博士留学生20人の希望者が模擬就職面接に日本語で臨みました。面接官役は、イノベーション人材養成機構などの教員、東工大キャリアアドバイザーが務めました。

留学生は、セミナー第1部の内容を踏まえ、事前に「自身の研究内容」「研究で特に工夫した点、それによりブレークスルーした経験」「研究活動で得られた成果や能力」「志望企業とその理由」などについて、日本語による「課題シート」の作成に挑戦しました。

模擬面接では、留学生が自身で作成した「課題シート」の内容を説明した後、面接官の質問に答える練習を行い、その場で面接官役から助言を受けました。さらに後日「面接評価シート」を一人一人に返し、今後の就職活動やキャリア開発に役立ててもらうようにしました。参加した留学生からは、「『評価面接シート』のフィードバックはとても参考になりました。これを基に今後、面接でうまく話せるように練習していきたいと思います」などの感想がありました。

東工大では、一般的な就職情報をガイダンス等で学生に提供するとともに、多様化するキャリアプランにきめ細かく対応し、学生自身が思い描いたキャリアを実現できるように支援しています。特に、「博士」「留学生」という支援が手薄になりがちな学生の可能性を広げるために、今後もさまざまな支援活動を続けていく予定です。

組織名称は開催当時のものです。

関連リンク

お問い合わせ先

アントレプレナーシップ教育機構 キャリア教育実施室(旧イノベーション人材養成機構)

Email iidpinfo@jim.titech.ac.jp


SARS-CoV-2の転写開始の鍵となるRNA構造を同定 汎コロナウイルス創薬の新規ターゲット開発に期待

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概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の石井佳誉教授(理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター先端NMR開発・応用研究チーム チームリーダー)、理研 生命機能科学研究センター先端NMR開発・応用研究チームの大山貴子研究員らの研究チームは、SARS-CoV-2のゲノム転写開始に関与する3′非翻訳領域[用語1]で実験的には存在が確認されていなかったユニークなRNA構造[用語2]が形成可能であることを示しました。

本研究成果は、ヒトやその他の動物のコロナウイルス感染症の予防薬や、感染後に症状を軽いものにとどめる薬の開発に貢献すると期待できます。

SARS-CoV-2やMERS[用語3]を含むベーターコロナウイルス[用語3a]のRNAゲノムには、タンパク質の遺伝情報を持たない非翻訳領域と呼ばれる部位が存在しています。この部位は、特定のRNA構造を形成して、RNAポリメラーゼ[用語4]などのタンパク質との結合の制御に関与していることが知られています。コロナウイルスの3′側の非翻訳領域は2種類の構造を形成し、構造がスイッチすることでRNAの複製が開始すると考えられている領域があります。

研究チームは今回、2種類のRNA構造のうち、実験的に存在が確認されていなかったシュードノット構造[用語5]といわれる特徴的な構造が形成可能であることを確認し、高磁場NMR[用語6]を用いて原子レベルでその2次構造を同定しました。

本研究は、科学雑誌『JACS au』オンライン版(3月20日付)に掲載されました。

SARS-CoV-2ウイルスRNAの転写開始モデルの模式図

SARS-CoV-2ウイルスRNAの転写開始モデルの模式図

背景

COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、1本鎖RNAのゲノムを持っています。このRNAゲノムの両端には、タンパク質の情報を持たない非翻訳領域と呼ばれる配列が存在します。非翻訳領域はRNAウイルスのゲノムだけでなく、一般的な生物のmRNAにも見られます。非翻訳領域はタンパク質の情報を持ちませんが、RNA構造の形成に必要な配列を含んでおり、転写、翻訳、エピジェネティック制御[用語7]などの生体中で起こるさまざまな反応に関与していることが近年明らかになりつつあります。

SARS-CoV-2を含むベータコロナウイルス属の3′側の非翻訳領域には、ウイルスゲノムの転写開始に必須である3′PKと呼ばれる領域があります。この領域は、極めて遺伝的変異が少なく、この領域のRNA構造が失われるとウイルスが複製不能になります。3′PKは特定の2種類のRNA構造を形成することで、RNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp)[用語4a]のゲノムRNAへの結合を制御していると考えられています。具体的には、このRNA領域はステムループ構造[用語8]をとっており、①そこにRdRpの補助因子(コファクターと呼ばれるタンパク質複合体)がまず結合してRNA転写の準備をします(図1-①)。そうすると、②RNAがシュードノット構造にスイッチし(図1-②)、③そこにRdRpの本体が結合する(図1-③)ことでRdRpが完成するという仮説が提案されています。

これまでの研究で、①のステムループ構造は形成可能であることが示されています。しかし、RNA複製の鍵になる②のシュードノット構造は、過去の研究から形成が予測されていましたが、実験的にその存在が確認されていませんでした。シュードノット構造はRdRpの構成タンパク質の一部と結合した時に形成されると考えられている構造です。言い換えると、通常はステムループ構造がシュードノット構造よりも安定で、RNA複製の準備ができた特別な条件でのみシュードノット構造がステムループ構造よりも安定化すると考えられます。研究チームは、高磁場NMRを用いて3′PKのRNA構造形成を詳しく解析しました。

図1 ベータコロナウイルスRNAの転写開始モデルの模式図 ベータコロナウイルス属のゲノム複製(RNAの転写)の模式図。ウイルスゲノムの転写開始に必須である3′側非翻訳領域の3′PK領域の2次構造を図示し、色分けした部分は塩基対を形成する配列の位置を示す。nsp7/nsp8はRNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp)のコファクター。nsp12はRdRpの本体。①〜③の転写開始の仕組みについては本文を参照。

図1. ベータコロナウイルスRNAの転写開始モデルの模式図

ベータコロナウイルス属のゲノム複製(RNAの転写)の模式図。ウイルスゲノムの転写開始に必須である3′側非翻訳領域の3′PK領域の2次構造を図示し、色分けした部分は塩基対を形成する配列の位置を示す。nsp7/nsp8はRNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp)のコファクター。nsp12はRdRpの本体。①〜③の転写開始の仕組みについては本文を参照。

研究手法と成果

コロナウイルスのゲノムRNAは、そのままでは大きすぎてNMRでの構造解析ができません。そこで研究チームは、部分的に切り出したゲノムRNA配列の中からシュードノット構造を形成できる領域を注意深く探し、溶液も細胞中の条件に似せることで、シュードノット構造を安定な形で観測することを試みました。まず、SARS-CoV-2の3′PK領域と同じ配列を持つRNAを合成し、この合成RNAを細胞中と似た溶液条件下に置くことでシュードノット構造が形成されるかを高磁場NMRを用いて確かめました。NMRでは、RNAが塩基対を形成しているかどうかを10~14 ppm[用語9]の領域に観測されるNMRシグナルの化学シフト[用語6a]から判別することが可能で、これによりRNAの構造が判定できます。3′PK領域の全体を含むPKP4と名付けたRNAと、PKP4の一部が欠けているSLP4と名付けたRNAの2次構造を調べました。その結果、PKP4と名付けたRNAはシュードノット構造を、SLP4と名付けたRNAはステムループ構造を形成していることが分かりました。SLP4が形成するステムループ構造は他の研究グループが過去に報告したSARS-CoV-2の同じ領域の2次構造とよく似ていましたが、3′PK領域でのシュードノット構造の形成は本研究が初めての実験的な報告例となります。

次にシュードノット構造をとるPKP4が、RdRpのコファクターと結合するかを調べ、今まで提唱されていたウイルスゲノムの転写開始の仮説と同じ反応が起こり得るかを確かめました。もし形成が確認されたシュードノット構造のRNAがRdRpと結合すれば、RNAだけあるいはタンパク質だけの時とは異なるNMRシグナルが検出されます。実際に測定すると、シュードノット構造のRNA(PKP4)はRdRpのコファクターと結合することが分かりました(図2左)。同様の実験をステムループ構造RNA(SLP4)でも行ったところ、ステムループ構造もRdRpのコファクターと結合することが分かりました(図2右)。さらにRdRpのコファクターはステムループ構造かシュードノット構造かで異なる構造をしている可能性が判明しました。

以上の結果から、コロナウイルスのゲノムRNAのRdRpが完成するという図1に示したモデルの①と②の反応が起こり得ると実験的に初めて示されました。

図2 SARS-CoV-2の3′PK領域の部分構造とRdRpコファクターの複合体形成 SARS-CoV-2の3′PK領域とRdRpのコファクターが結合すると、それぞれの構造に変化が起こる。この構造変化により、NMRスペクトルでシグナルが元の位置とは異なる位置に観測される。 左)上から、シュードノット構造をとるPKP4、コファクター(nsp7/nsp8)、およびPKP4とコファクター混合溶液のNMRスペクトル。★は、PKP4とコファクターの混合溶液でのみ観察されたコファクターのスペクトルのピークを示す。 右)上から、ステムループ構造をとるSLP4、コファクター(nsp7/nsp8)、SLP4とコファクターの混合溶液のNMRスペクトル。PKP4とSLP4では混合溶液のスペクトルにおけるコファクターのシグナルが異なったことから、コファクターの立体構造は、結合相手のRNAがシュードノット構造かステムループ構造かで異なることが示唆された。

図2. SARS-CoV-2の3′PK領域の部分構造とRdRpコファクターの複合体形成

SARS-CoV-2の3′PK領域とRdRpのコファクターが結合すると、それぞれの構造に変化が起こる。この構造変化により、NMRスペクトルでシグナルが元の位置とは異なる位置に観測される。
左)上から、シュードノット構造をとるPKP4、コファクター(nsp7/nsp8)、およびPKP4とコファクター混合溶液のNMRスペクトル。★は、PKP4とコファクターの混合溶液でのみ観察されたコファクターのスペクトルのピークを示す。
右)上から、ステムループ構造をとるSLP4、コファクター(nsp7/nsp8)、SLP4とコファクターの混合溶液のNMRスペクトル。PKP4とSLP4では混合溶液のスペクトルにおけるコファクターのシグナルが異なったことから、コファクターの立体構造は、結合相手のRNAがシュードノット構造かステムループ構造かで異なることが示唆された。

今後の期待

今回、SAS-CoV-2ゲノムRNAの3′側の非翻訳領域(3′PK領域)に形成が確認された2つのRNA構造は、RdRpのコファクターとの結合に関与することが示唆されました。従ってこの結合を阻害すれば、ウイルスゲノムの転写が開始できなくなり、ウイルス増殖を抑制することができると考えられます。この結合阻害は、今までの抗コロナウイルス薬のメカニズムとは異なった新しい抗コロナウイルス薬の創薬に応用できる可能性があります。また3′PK領域の配列はSAS-CoV-2ウイルス間でかなり変異が少ないものの、まれな変異が起こった場合でもRNA構造は保持したままであることが分かっており、このような変異株に対する創薬デザインにも役立つと考えられます。

本研究ではSAS-CoV-2を用いてRNAのシュードノット構造の形成を確認しましたが、同様のシュードノット構造はベータコロナウイルス属で共通に形成可能であることがRNA配列の比較から推測されます。このシュードノット構造は、COVID-19だけではなく、今後登場が予想されるコロナウイルスが原因の重篤な疾病や、ウシ、ブタ、ネコなどの動物に致死的なコロナウイルスが原因の疾病にも幅広く効果を示す「汎コロナウイルス薬剤」の開発につながる新たな創薬ターゲットとして期待できます。

研究チーム

理化学研究所 生命機能科学研究センター 先端NMR開発・応用研究チーム

  • チームリーダー 石井佳誉(東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 教授)
  • 研究員 大山貴子

理化学研究所 生命機能科学研究センター 転写制御構造生物学研究チーム

  • チームリーダー 関根俊一
  • 研究員 大澤拓生

研究支援

本研究は、理化学研究所運営費交付金(生命機能科学研究、戦略的研究展開事業)で実施し、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業大規模プロジェクト型「エネルギー損失の革新的な低減化につながる高温超電導線材接合技術」研究領域の研究課題「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装(研究代表者:小野通隆、JPMJMI17A2)」による助成を受けて行われました。

用語説明

[用語1] 非翻訳領域 : DNAから転写されたmRNAなど、タンパク質の翻訳に使われるRNAのうちタンパク質に翻訳されない領域。5′側と3′側の両方に存在し、それぞれ5′UTR、3′UTRと呼ぶ。

[用語2] RNA構造 : RNAはDNAと同様に塩基対によって構造が形成される。塩基対によって組まれた平面に書き下したRNA構造を2次構造、実際に塩基対で形成された立体的なRNA構造を3次構造と呼ぶ。

[用語3] MERS :
[用語3a] ベータコロナウイルス :
MERS(Middle East Respiratory Syndrome)は、2012年9月以降に中東地域で広く発生した重症呼吸器感染症。MERS-CoVウイルスを病原体とする。コロナウイルスはα、β、γ、δのグループに分類され、MERS-CoVやSARS-CoV2はベータコロナウイルスに含まれる。

[用語4] RNAポリメラーゼ :
[用語4a] RNA依存RNAポリメラーゼ(RdRp) :
RNAポリメラーゼはRNAを合成する酵素。一般的な生物はDNAを鋳型にRNAを合成するが、RNA依存RNAポリメラーゼはRNAを鋳型としてRNAを合成する酵素。RNAウイルスなどのごく一部のウイルスにのみ存在する特殊な酵素で、ヒトには存在していない。

[用語5] シュードノット構造 : RNAが形成する特殊な構造の一つ。下記 [用語8] で示すステムループと呼ばれる構造のループ部分にもう一つ別のステム構造が入れ子になった構造で、RNAの機能に重要であることが知られている。結び目ではないが結び目のように見えることからシュード(疑似)ノット(結び目)構造と名付けられた。

[用語6] 高磁場NMR :
[用語6a] 化学シフト :
強い磁場中に置かれた原子核に電磁波を照射すると、核スピンの共鳴により、原子核の性質や周囲の環境に応じた周波数(共鳴周波数)の電磁波の吸収や放出が起こるが、NMRは、その電磁波をNMR信号として捉えることで、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う手法。共鳴周波数は同じ核種であっても周辺の化学環境によって異なるため化学シフトと呼ばれ、ppmの単位で表される。NMRでは磁場が高いほど分解能が高くなり、本研究では最高で900 MHz(21.1テスラ)の高磁場NMR装置を用いた。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。

[用語7] エピジェネティック制御 : DNAの塩基配列に依存しない遺伝子発現の制御機構。

[用語8] ステムループ構造 : RNAが形成する普遍的な構造。1本のひも状のRNAの両端に塩基対が数個以上連続して形成されると、塩基対の部位をステムと呼び、ステムの間をつなぐ部分をループと呼ぶ。さらに両方合わせてステムループ構造と呼ぶ。

[用語9] ppm : 英語で百万分の1を意味する「parts per million」の頭文字をとって作られた単位。

論文情報

掲載誌 :
JACS au
論文タイトル :
NMR Studies of Genomic RNA in 3’ Untranslated Region Unveil Pseudoknot Structure that Initiates Viral RNA Replication in SARS-CoV-2
著者 :
Takako Ohyama, Takuo Osawa, Shun-ichi Sekine, Yoshitaka Ishii
DOI :

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(理化学研究所 生命機能科学研究センター 先端NMR開発・応用研究チーム チームリーダー)

Email ishii@bio.titech.ac.jp

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Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

本学教員2人が第56回市村賞 市村学術賞を受賞

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東京工業大学の教員2人が、第56回市村賞 市村学術賞(本賞・貢献賞)を受賞しました。公益財団法人市村清新技術財団が、3月8日に発表しました。

西森秀稔 国際先駆研究機構 特任教授(受賞当時)

賞名

市村賞 市村学術賞 本賞

受賞業績

量子アニーリングの創出と展開

西森秀稔 国際先駆研究機構 特任教授

安井隆雄 生命理工学院 生命理工学系 教授

賞名

市村賞 市村学術賞 貢献賞

受賞業績

ナノワイヤを用いたリキッドバイオプシー技術の開発

安井隆雄 生命理工学院 生命理工学系 教授

関連リンク

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研究推進部 研究企画課 総務グループ

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“生細胞での有機合成化学”による新しい乳がん術中迅速診断法(CTS法)の臨床試験を開始 病理医を必要としない、がん診断の新技術

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要点

  • 生細胞内での有機合成化学による新しい乳がんの術中迅速診断[用語1]法(CTS法)を開発。2024年3月から多施設臨床性能試験を開始。
  • CTS法では、手術中に迅速診断に提出する生組織を直接染色(生細胞内での有機合成化学)し、得られた捺印スライドを蛍光顕微鏡で撮影して、その蛍光画像を判定する。
  • 病理医を必要としない診断が可能になるとともに、手術の間の病理医の待機も不要に。
  • 今後実用化されることで、病理医が不在の病院での術中迅速診断か可能となることが期待される。
  • 将来、さまざまながんに対する迅速診断へ応用できる可能性がある。

概要

大阪大学 大学院医学系研究科 乳腺・内分泌外科の多根井智紀講師、島津研三教授らの研究グループは、理化学研究所が開発した化学プローブの試薬を用いて、乳がんの乳腺温存切除断端の生組織に直接染色を行う、生細胞を用いた新しい乳がん術中迅速診断法(Click-To-SENSE[用語2]、以下CTS法)を開発しました。また、2024年3月末よりKBCSG-TR[用語3]グループの関連施設にて乳がんの乳房温存手術に対して多施設臨床性能試験を開始しました(※1)

この化学プローブ(CTSプローブ)は、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の田中克典教授(理化学研究所 開拓研究本部 田中生体機能合成化学研究室 主任研究員)が開発した、がん細胞内で高濃度に発生するアクロレイン[用語4]に対して、複数の有機合成化学反応を選択的に行うことにより、がんの有無を特異的に蛍光染色できるものです(※2)

※1

乳がん術中迅速診断多施設臨床研究を行う共同研究を開始|東工大ニュース(2022年1月17日プレスリリース)

※2

有機合成反応で乳がん手術を改革|理化学研究所(2018年11月28日プレスリリース)

図1 陽性(乳がん)症例におけるCTS法による捺印細胞診の蛍光画像とパパニコロウ染色による細胞像

図1. 陽性(乳がん)症例におけるCTS法による捺印細胞診の蛍光画像とパパニコロウ染色による細胞像

現在、手術中の迅速診断を行う場合には、病理医が顕微鏡でがん細胞の有無を診断する必要があり、その手術の間、病理医は待機する必要があります。また1回の検査には数十分を要し、この間、全身麻酔の状況の患者と執刀医も結果を待つ必要があります。今回のCTS法は、病理医による診断を必要としない新技術であり、手術中に生組織を直接染色して得られた捺印スライドを蛍光顕微鏡にて撮影を行い、その蛍光画像を判定する診断法です。

また、今回の臨床試験と並行して、大阪大学 大学院情報科学研究科 瀬尾茂人准教授と共同研究を行い、人工知能(AI)を用いた画像診断の手法を開発することで、病理医を必要としない現状の乳がん手術手技を超える効率的な術中迅速診断法の確立を目指しています。これにより、今後、このCTS法が実用化されることになれば、病理医が不在の病院での術中迅速診断が可能となることが期待されます。また、CTS法は、さまざまながんに対する迅速診断へ応用できる可能性があると考えられています。

多施設臨床試験の詳細については、以下の臨床研究等提出・公開システム(JRCT)にて公開されています。

背景

現在のところ、手術中にがんの有無を診断する場合には、病理医が顕微鏡で診断する必要があります。この検査方法では、病理医は手術の間、待機する必要があります。また1回の検査には数十分程度を要してしまい、この結果が返ってくるまで、全身麻酔の状況の患者と執刀医も結果を待つ必要があります。

これまで、研究グループはがん細胞でアクロレインが異常に高濃度で発生することを発見しています。そこでがん細胞内でアクロレインと複数の有機合成化学反応を選択的に実施することにより、がん細胞のみを蛍光染色できる化学プローブ(Click-To-SENSE(CTS)プローブ(技術))を開発しました。このCTSプローブは、手術中に採取した患者の乳がん組織においても、直接振りかけるだけで生組織内のがん細胞のみを迅速に染色することが可能であり、病理診断と同様のがん細胞の形態を確認することに成功しています。

多施設臨床試験の内容

研究グループでは、2024年3月末よりKBCSG-TRの関連施設にてシスメックス株式会社の製造したCTSプローブを用いた乳がんの乳房温存手術の切除断端に対する捺印スライドによる診断に関する多施設共同臨床試験を開始しました。

今回の臨床試験では、130例の乳がん手術(術前薬物療法後手術30例を含む)を対象にCTS法の診断結果と、実臨床の病理診断結果(術後永久病理組織診断・術中迅速凍結組織診断)と比較することによってCTS法の診断精度を確認します。

さらに大阪大学大学院情報科学研究科の瀬尾准教授の下、CTS法の蛍光画像を用いて、AIを用いたDeep Learningでの解析を行いCTS法の蛍光画像診断システムの構築を目指します。

今後の期待

多施設臨床試験により、術中迅速診断に対してCTS法が高い診断精度を持つことが分かり、AIを用いたCTS法の蛍光画像診断システムを構築することができれば、今後、実臨床への導入の可能性が期待されます。またCTS法が実用化することにより、病理医を必要としない診断が可能になり、病理医が不在の病院での術中迅速診断が可能となることが期待されます。「生細胞内での有機合成化学」という画期的なコンセプトのもとに実現されたCTS法は、将来さまざまな他のがんに対する迅速診断へ応用できる可能性があります。

研究者のコメント

大阪大学 大学院医学系研究科 多根井智紀講師のコメント

現在のところ、手術中の乳腺断端の診断については、未だ確立された測定方法はなく、病理医の不足・病理部門の負担などの理由から、手術中に乳腺断端の診断を行っていない病院が多く存在しています。その場合、手術後の永久病理組織診断で断端陽性なら再手術が行われます。一度で手術が終わらないというこの問題は、長年解決できない乳がん診療の課題であり、病理医を必要としない、がんの迅速診断の新技術の開発が望まれています。我々のCTS法は、このような長年の課題に対する挑戦から生まれた研究です。

東京工業大学/理化学研究所 田中克典教授のコメント

我々が開発してきた細胞内、動物体内、あるいは患者様検体内での「有機合成化学医療」が、臨床性能試験に進んだことを大変嬉しく思っています。今回の御報告は「有機合成化学医療」が臨床現場へ展開できることを示した初めての事例です。この臨床性能試験によって成果を出し、がん患者様に我々の技術を届けられることを心から望んでいます。

特記事項

本研究は、革新的がん医療実用化事業の患者に優しい新規医療技術開発の研究、科学研究費助成事業の一環として行われています。また、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系 田中克典教授(理化学研究所 開拓研究本部 田中生体機能合成化学研究室 主任研究員)、アンバラ・プラディプタ助教、理化学研究所 開拓研究本部 田中生体機能合成化学研究室 盛本浩二研究員、大阪大学 大学院情報科学研究科 バイオ情報工学専攻瀬尾茂人准教授、シスメックス株式会社の協力を得て行われています。

令和4年度 「革新的がん医療実用化研究事業」(二次公募)の採択課題について|日本医療研究開発機構

生細胞染色法を用いた乳癌の乳房温存手術の切除断端に対する術中迅速診断の確立|KAKEN

用語説明

[用語1] 術中迅速診断 : 手術中の限られた時間内に、身体の病変が腫瘍であるかどうか、腫瘍であればそれが良性か悪性か等を調べたり、がんの病変の取り残しがないか等について「病理組織学」という学問に基づいた調査を行うことを指す。

[用語2] Click-To-SENSE : 3つの窒素が直線に並んだ構造をアジドというが、このアジドが細胞内でアクロレインと複数の有機合成化学反応を起こし、最終的に細胞内に共有結合を起こす。これを利用して、蛍光基や放射線をがん細胞に留めてがんを染色する報告者らの化学技術。

有機合成反応で乳がん手術を改革~迅速・簡易・安価な手術中がん診断技術を世界基準へ~|大阪大学医学系研究科・医学部

Click-To-SENSE

[用語3] KBCSG-TR : Kinki Breast Cancer Study Group-Translational Research。関連施設および参加者:大阪府立病院機構大阪国際がんセンター 中山貴寛 乳腺外科主任部長、大阪警察病院 吉留克英 乳腺内分泌外科部長。

[用語4] アクロレイン : アルデヒド基が二重結合(または三重結合)と炭素―炭素結合を介してつながった構造を持つ化合物を不飽和アルデヒドといい、アルデヒド基につながる二重結合が、全て水素に置換されている分子がアクロレインである。2016年に報告者らは、患者様の検体を含め、さまざまながんでアクロレインが高濃度で普遍的に発生していることを世界に先駆けて発見した。

アクロレインの可視化に成功|理化学研究所

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多根井智紀

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Tel 06-6879-3772 / Fax 06-6879-3779

東京工業大学 物質理工学院応用化学系 教授/
理化学研究所 開拓研究本部 田中生体機能合成化学研究室 主任研究員

田中克典

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Tel 06-6879-3387

理化学研究所 広報室 報道担当

Email ex-press@ml.riken.jp
Tel 050-3495-0247

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

欠陥を並べることで有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物の新たな派生構造を発見 新しい物質探索アプローチとして期待

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要点

  • 有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物への分子イオン添加で、欠陥が整列した新たな一連の派生構造の生成を発見。
  • 分子イオンの添加量によって欠陥量を制御し、光学特性を制御可能。
  • 柱状欠陥の整列に基づく、これまでにない物質探索アプローチとして期待。

概要

東京工業大学 物質理工学院 材料系の大見拓也大学院生、同 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所(自律システム材料学研究センターResearch Center for Autonomous Systems Materialogy(ASMat)兼任)の東正樹教授、山本隆文准教授、同 化学生命科学研究所(ASMat兼任)の福井智也助教、福島孝典教授らの研究グループは、太陽電池材料として注目される有機-無機ハイブリッドペロブスカイト[用語1]に分子イオンを添加することによって新規化合物を合成し、これまで知られていなかった一連の派生構造が形成されることを明らかにした。

FAPbI3(FA = CH(NH2)2)などの有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物は、太陽電池、蛍光体などさまざまな分野で応用が期待されている半導体材料である。本研究では、ペロブスカイトFAPbI3のヨウ化物イオン(I)の一部を分子性のイオンであるチオシアン酸イオン(SCN[用語2]に置き換えることで、柱状欠陥が整列した新規化合物FA4Pb2I7.5(SCN)0.5の合成に成功した。この化合物は、同グループが過去に報告した柱状欠陥を持つFA6Pb4I13.5(SCN)0.5[用語3]と合わせて、欠陥量に対応する1/nnは整数)を使ってFAn+1Pbn−1I3n−1.5(SCN)0.5として系統的に記述できる。さらに、nの値を変えることで光学特性が制御できる。有機-無機ハイブリッドペロブスカイトにおいて、欠陥の整列に基づく化合物系列が示された例はこれまでなく、この法則に基づいたさらなる新規物質の発見が期待される。

本研究には、コロラド州立大学のJames R. Neilson(ジェームス・ネイルソン)准教授、東京工業大学の谷口航大学院生、長瀬鉄平大学院生、ビクトリア大学の春田優貴博士研究員、Makhsud I. Saidaminov(マクスード・サイダミノフ)助教らが参画した。本研究成果は、4月17日付(日本時間)「ACS Materials Letters」誌のオンライン版にオープンアクセスで掲載された。

新しい有機-無機ハイブリッドペロブスカイト派生構造FAn+1Pbn−1I3n−1.5(SCN)0.5

新しい有機-無機ハイブリッドペロブスカイト派生構造FAn+1Pbn−1I3n−1.5(SCN)0.5

背景

ABX3の組成式で表されるペロブスカイト型構造[用語4]を有する酸化物(ペロブスカイト酸化物; X = O)は、その優れた特性から盛んに物質開拓が進められてきた。この構造は、BX6八面体が頂点共有で3次元的につながったネットワークと、その間隙を占めるAからなる。ペロブスカイト酸化物では、酸素欠陥(δ)が規則的に配列した多様なペロブスカイト派生構造(ABO3−δ)が発見されており、イオン伝導、固体触媒、超伝導など幅広い分野で応用されている。

このペロブスカイト構造を有する有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物は、ペロブスカイト太陽電池[用語5]や発光材料、X線検出器などの光学材料への応用で近年大きな注目を集めている。Aの部分を多様な有機分子が占められることから、これまで数多くのペロブスカイト派生構造が発見されている。こうした派生構造では、BX6八面体のつながりを変えることで光学特性を制御可能である。一方で、ペロブスカイト酸化物で盛んに研究されてきた、欠陥が規則的に整列する化合物系列は、有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物ではこれまで報告がなかった。

研究成果

本研究では、ペロブスカイトFAPbI3に含まれているヨウ化物イオン(I)の一部を、分子性のイオンであるチオシアン酸イオン(SCN)に置き換えることで、新しい層状ペロブスカイトFA4Pb2I7.5(SCN)0.5(図1 c)の合成に成功した。単結晶を用いたX線結晶構造解析の結果から、この新規化合物では、ペロブスカイト構造の基本骨格を維持したまま、チオシアン酸イオンがペロブスカイト構造に柱状の穴を開け、その穴(欠陥)が層状に整列していることが明らかになった。これは、ペロブスカイト構造中の三次元に連なったPb-I結合に対して、チオシアン酸イオンがキャッピング剤として機能することで、柱状欠陥の形成に寄与したと考えられる。

本化合物は、研究グループが昨年報告したFA6Pb4I13.5(SCN)0.5(図1 b)と合わせて、新しいペロブスカイト派生構造FAn+1Pbn−1I3n−1.5(SCN)0.5として統一的に記述することができる。ペロブスカイトFAPbI3、FA6Pb4I13.5(SCN)0.5、FA4Pb2I7.5(SCN)0.5はそれぞれn = ∞、n = 5、n = 3に対応する(図1 a-c)。ここで1/nが柱状欠陥の存在量に対応することから、チオシアン酸イオンの導入量により構造を制御できることが今回明らかとなった。

加えて、この新しいペロブスカイト派生構造を持つ化合物系列では、欠陥量が増加する(nが小さくなる)と光学特性に寄与するPbI6八面体のつながりが途切れ、光学バンドギャップが大きくなることが分かった。またFA4Pb2I7.5(SCN)0.5 (n = 3)は、PbI6八面体の二次元的なつながりに対応して、UV照射下で高輝度の赤色発光を示した。このことから、欠陥工学に基づくペロブスカイト探索をさらに推進することで、光機能材料としての発展が期待できるといえる。

図1. 本研究で開拓した新しいペロブスカイト派生化合物系列の結晶構造、単結晶の外観、光学バンドギャップ。結晶構造ではPbI6八面体のつながりを模式的に表している。
図1.
本研究で開拓した新しいペロブスカイト派生化合物系列の結晶構造、単結晶の外観、光学バンドギャップ。結晶構造ではPbI6八面体のつながりを模式的に表している。

社会的インパクトと今後の展開

欠陥の整列に基づいた構造設計はこれまで、ペロブスカイト酸化物において盛んになされていたが、有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物で系統的に欠陥の整列を制御した例はなかった。今回報告した化合物系列では、1/nが柱状欠陥の存在量に対応するという法則が見られ、実際にn = 3とn = 5の化合物が発見された。今後は他の整数でも新規構造が見つかることが期待されるとともに、他の元素や分子の組み合わせでもこの法則に基づいて次々に新規物質が見つかると期待できる。本研究成果は、全く異なるものと考えられていた酸化物と有機-無機ハイブリッド化合物の間に共通点を見出したという意味で、学術的に意義深い。同時に、実用面ではまだまだ改良の余地の大きな有機-無機ハイブリッドペロブスカイト化合物に対して、新しい物質探索のアプローチを示した点で重要であるといえる。

付記

本研究の一部は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費「擬ハロゲンに着目した新規有機-無機ハイブリッドペロブスカイトの探索と機能開拓(課題番号:22KJ1328、代表:大見拓也 東京工業大学 大学院生)」、学術変革領域研究(A)「超セラミックス:分子が拓く無機材料のフロンティア(課題番号:22H05147、分担:山本隆文 東京工業大学 准教授)(課題番号:23H04617、代表:福井智也 東京工業大学)」、国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクト等の助成を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 有機-無機ハイブリッドペロブスカイト : ここでは無機イオンから構成される結晶骨格と、分子性の有機イオンが共存する化合物を指す。FAPbI3(FA = CH(NH2)2)などのハイブリッドペロブスカイト化合物が典型例である。

[用語2] チオシアン酸イオン : イオン式SCNで表される、一価の分子性の陰イオン。3つのS, C, N原子が直線的に並んだ形状をしている。有効イオン半径は約2.2 Åであり、ヨウ化物イオン(I)と同等であるが、直線型の形状に起因した異方性を持つ。

[用語3] FA6Pb4I13.5(SCN)0.5 : 本研究グループによって2023年に報告された新規化合物(一次元の欠陥が整列した新しい有機−無機ハイブリッド化合物|東工大ニュース)。

[用語4] ペロブスカイト型構造 : ABX3(一般的にAおよびBは陽イオン、Xは陰イオンが占める)の組成を持つ化合物に現れる結晶構造。鉱石である灰チタン石CaTiO3がその名の由来である。

[用語5] ペロブスカイト太陽電池 : 色素増感型太陽電池の一種で、光吸収層にペロブスカイト材料を用いたもの。製造が簡便であり、また軽量かつ柔軟な薄膜にできることから、太陽電池材料として大きな注目を集めている。近年、盛んな研究開発により急速に発電効率を向上させている一方で、安定性の低さや毒性などの問題点の解決が望まれている。

論文情報

掲載誌 :
ACS Materials Letters
論文タイトル :
FA4Pb2I7.5(SCN)0.5: n = 3 Member of Perovskite Homologous Series FAn+1Pbn−1I3n−1.5(SCN)0.5 with Columnar Defects
著者 :
Takuya Ohmi, James R. Neilson, Wataru Taniguchi, Tomoya Fukui, Teppei Nagase, Yuki Haruta, Makhsud I. Saidaminov, Takanori Fukushima, Masaki Azuma, and Takafumi Yamamoto
DOI :

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酸化物イオンO2−伝導度が高い安定な オキシハライドを発見 中温で動作する固体酸化物形燃料電池の開発に期待

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要点

  • 酸化物イオン伝導度が非常に高く、安定なオキシハライドの新物質群を発見。
  • 高い酸化物イオン伝導度を示す温度を従来材料より大幅に低くすることに成功。
  • 固体酸化物形燃料電池の動作温度の低温化とコスト削減につながると期待。

概要

東京工業大学 理学院 化学系の八島正知教授、上野那智大学院生(研究当時修士課程2年次)、矢口寛大学院生(研究当時博士課程3年次、現 理化学研究所)、藤井孝太郎助教の研究グループは、従来の材料を超える非常に高い酸化物イオン伝導度[用語1]と高い安定性を示すBi1.9Te0.1LuO4.05Clオキシクロライドなどのオキシハライド[用語2]の新物質群を発見した。

酸化物イオン伝導体は固体酸化物形燃料電池[用語3]などへの応用が期待されている。しかし現在用いられている伝導体は動作温度が高く、製造コストや安定性の問題があるため、中温(400~500℃)で高い伝導度と高い安定性を示す酸化物イオン伝導体が求められていた。

本研究で発見した新しい酸化物イオン伝導体は、燃料電池での実用化の目安とされる酸化物イオン伝導度10 mS/cm (= 0.01Ω−1cm−1)を、従来の実用材料(644℃)よりも大幅に低い温度(431℃)で示した。また10−4~10−18気圧の酸素分圧範囲で電気伝導度が一定で、発電効率を落とすような電子伝導を示さないうえに、化学的に非常に安定であるという特徴も持つ。

また本研究では、酸化物イオン伝導度が高い高温条件での結晶構造と、三重蛍石類似層[用語4]における酸化物イオンの拡散経路を解明した。さらに第一原理分子動力学シミュレーション[用語5]を行うことで、この新材料の酸化物イオン伝導機構を明らかにした。その結果、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの高いイオン伝導度の原因は、酸化物イオンが格子間酸素席と格子酸素席[用語6]を介して協調的に移動する、準格子間機構[用語7]による、酸化物イオンの二次元的な拡散であることが分かった。

本研究で実現した「オキシハライドの三重蛍石類似層における高酸化物イオン伝導」は、酸化物イオン伝導体の新しい設計指針となり、さまざまな新材料開発への応用が期待される。また、500℃以下の中温での高イオン伝導と高安定性の実現により、中温で動作する固体酸化物形燃料電池など、高性能電気化学デバイスの開発につながると考えられる。

本研究成果は、2024年4月9日(現地時間)に国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」電子版に掲載された。

図1. (a) 本研究で発見したBi1.9Te0.1LuO4.05Clは、高い酸化物イオン伝導度10mS/cmを従来材料YSZより213℃低い温度で示した。(b) 実験と (c) 理論計算により解明された三重蛍石類似層における酸化物イオンの準格子間拡散。これが高い酸化物イオン伝導度の原因である。©著者ら(2024)
図1.
(a) 本研究で発見したBi1.9Te0.1LuO4.05Clは、高い酸化物イオン伝導度10mS/cmを従来材料YSZより213℃低い温度で示した。(b) 実験と (c) 理論計算により解明された三重蛍石類似層における酸化物イオンの準格子間拡散。これが高い酸化物イオン伝導度の原因である。©著者ら(2024)

背景

酸化物イオン伝導体は、酸化物イオン(O2−)伝導を示す物質であり、固体酸化物形燃料電池(SOFCs)、酸素分離膜、触媒およびガスセンサーなどに幅広く応用できる材料として期待されている。現在SOFCs で使用されているイットリア安定化ジルコニア(YSZ)電解質は動作温度が高いため(700~1,000℃)、製作コストが高いうえに、高温での劣化のため長期にわたって使用できないという欠点があった。そのため、中温(400~500℃)で高い伝導度を示す酸化物イオン伝導体を探索する必要がある。

一般的に酸化物イオンは、固体の中で酸素空孔[用語8]を介して拡散することが従来の研究から分かっているが(図2a)、近年、格子間席に存在するイオンが隣接する格子席にあるイオンを押し出しながら協調的に拡散する、準格子間機構に注目が集まっている(図2b)。一方で、ビスマス(Bi)を含む材料は高い酸化物イオン伝導度を示すことが知られている。こうしたことから、Bi を含み、かつ酸化物イオンが準格子間機構で拡散する材料は高い酸化物イオン伝導度を示すことが期待されるが、そのような材料は非常にまれである。

図2 酸化物イオンの拡散機構。(a)空孔機構。(b)準格子間機構。©著者ら(2023)

図2. 酸化物イオンの拡散機構。(a)空孔機構。(b)準格子間機構。©著者ら(2023)

研究成果

酸化物イオン伝導体Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの高い電気伝導度と安定性

本研究では、新たなオキシクロライドBi2−xTexLuO4+x/2Cl (x = 0.1, 0.2)を合成するとともに、既知物質Bi2LuO4Cl (x = 0)も合成した。また、組成Bi2−xTexLuO4+x/2Cl (x = 0, 0.1, 0.2)の酸化物イオン伝導度と結晶構造を調べた。これらの化合物には、過剰酸素が入り込む空間(図2bの格子間席の空孔)が存在するので、準格子間機構による高酸化物イオン伝導が期待できる。

Bi2−xTexLuO4+x/2Cl (x = 0, 0.1, 0.2)の中では、x=0.1の組成Bi1.9Te0.1LuO4.05Clのイオン伝導度が最も高いことが分かった。そこで、イオン伝導体Bi1.9Te0.1LuO4.05Clにおける輸送特性を検討したところ、次の結果が得られた。

1.
Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの電気伝導度は、広い酸素分圧の領域(例えば431℃では酸素分圧が10−18~10−4気圧の領域)で一定であり、高い化学的・電気的安定性[用語9]を示した(図3a)。有意な電子伝導と電子のホール伝導は観察されず、イオン伝導が示唆された。一般的にBiを含む化合物は、低い酸素分圧下で化合物中のBiイオンが還元されて分解してしまう可能性や、電子伝導を示して伝導度が高くなる可能性があるが、多くのBiを含む化合物に比べてBi1.9Te0.1LuO4.05Clは安定であった。
2.
直流分極測定[用語10]において抵抗値が時間に依存しなかった(図3b)。
3.
プロトン(H+)伝導が湿潤雰囲気でも無視できた(図3c)。

以上の実験結果から、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clでは、酸化物イオンが支配的なキャリア(電荷担体)であることが示唆された。

図3. Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの (a) 直流四端子法で測定した直流電気伝導度σDCの酸素分圧依存性。電解質領域を示す。(b) 600℃における直流分極測定の結果。時間経過とともに抵抗が変化しないので、塩化物イオンと陽イオンによる電気伝導度の寄与は無視できる。(c) 乾燥窒素と湿潤窒素における直流電気伝導度σDC。両者の伝導度がほぼ同じなので、有意なプロトン伝導はないと考えられる。©著者ら (2024)
図3.
Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの (a) 直流四端子法で測定した直流電気伝導度σDCの酸素分圧依存性。電解質領域を示す。(b) 600℃における直流分極測定の結果。時間経過とともに抵抗が変化しないので、塩化物イオンと陽イオンによる電気伝導度の寄与は無視できる。(c) 乾燥窒素と湿潤窒素における直流電気伝導度σDC。両者の伝導度がほぼ同じなので、有意なプロトン伝導はないと考えられる。©著者ら(2024)

また、このBi1.9Te0.1LuO4.05Clの酸化物イオン伝導度を他の物質と比較したところ、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clは非常に高い酸化物イオン伝導度を示すことが分かった(図4)。燃料電池の固体電解質においては、実用化の目安となるイオン伝導度は10 mS/cm以上である。ここで注目すべき点は、10mS/cm以上のイオン伝導度を示す温度が、従来の実用材料であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)では644℃以上であるのに対して、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clでは431℃以上である点である。したがって、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clは、YSZに比べて213℃もの低温化に成功したことになる。

同時に、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clは高い化学的安定性も示した。例えばCO2中で400℃、あるいは大気中で600℃, 400℃で100時間のアニールを実施しても、X線回折図形はアニール前と同じであり、分解や劣化は全く起こらなかった(図5)。この高い化学的安定性は、前述の高い化学的・電気的安定性と高い酸化物イオン伝導度とともに、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clが優れた酸化物イオン伝導体であることを示している。

図4 Bi1.9Te0.1LuO4.05Clと既知の高酸化物イオン伝導体の酸化物イオン伝導度の比較 ©著者ら(2024)

図4. Bi1.9Te0.1LuO4.05Clと既知の高酸化物イオン伝導体の酸化物イオン伝導度の比較 ©著者ら(2024)

図5. (a) 作製したままの(as-prepared)Bi1.9Te0.1LuO4.05Cl試料と(b) CO2中で400℃、100時間アニールした試料、(c) 大気中で100時間、(c) 400℃と (d) 600℃でアニールした試料のX線回折図形。 ©著者ら(2024)
図5.
(a) 作製したままの(as-prepared)Bi1.9Te0.1LuO4.05Cl試料と (b) CO2中で400℃、100時間アニールした試料、(c) 大気中で100時間、(c) 400℃と (d) 600℃でアニールした試料のX線回折図形。©著者ら(2024)

高い酸化物イオン伝導度の原因の解明

Bi1.9Te0.1LuO4.05Clが高い酸化物イオン伝導度を示す原因を解明するため、25℃から700℃の温度範囲で中性子回折実験[用語11]を行い、リートベルト法[用語12]により結晶構造を解析した。その結果、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clは三重蛍石類似層とCl 層が交互に積層した結晶構造を有しており、25℃から700℃の温度範囲ではBi1.9Te0.1LuO4.05Clは正方のSillén相[用語13]であることが分かった(図6)。格子間 O2席を持つ三重蛍石類似層は、準格子間機構によるイオンの拡散が可能であり、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの高い酸化物イオン伝導度にとって重要である。

Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの酸化物イオン拡散経路を可視化するために、最大エントロピー法(MEM)[用語14]により中性子散乱長密度分布[用語15]を解析した。その結果、酸化物イオンは400℃で三重蛍石類似層中を2次元的に拡散することが示された(酸化物イオンの拡散経路:図6(c,i)の−O1−O2−)。このMEM解析により可視化された−O1−O2−の拡散経路は、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの酸化物イオンが準格子間機構により拡散する直接的な実験的証拠だといえる。

図6 Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの三重蛍石類似層(triple fluorite-like layer)における酸化物イオン拡散の実験的証拠。(a,b) 400℃における結晶構造。(c) 400℃におけるc軸方向から見た三重蛍石類似層の構造と中性子散乱長密度の等値面。(d-f) Lu-O2層上の、(d) 400℃における原子配列(矢印は酸化物イオンが移動する方向を示す)、(e) 25℃と (f) 400℃における中性子散乱長密度分布。(g-i) <i>x</i>=1/2における<i>bc</i>面上の (g) 400℃における原子配列(矢印は酸化物イオンが移動する方向を示す)、(h) 25℃と (i) 400℃における中性子散乱長密度分布。©著者ら (2024)
図6.
Bi1.9Te0.1LuO4.05Clの三重蛍石類似層(triple fluorite-like layer)における酸化物イオン拡散の実験的証拠。(a,b) 400℃における結晶構造。(c) 400℃におけるc軸方向から見た三重蛍石類似層の構造と中性子散乱長密度の等値面。(d-f) Lu-O2層上の、(d) 400℃における原子配列(矢印は酸化物イオンが移動する方向を示す)、(e) 25℃と (f) 400℃における中性子散乱長密度分布。(g-i) x=1/2におけるbc面上の (g) 400℃における原子配列(矢印は酸化物イオンが移動する方向を示す)、(h) 25℃と (i) 400℃における中性子散乱長密度分布。©著者ら(2024)

次に、第一原理分子動力学(AIMD)シミュレーションにより酸化物イオンの拡散と局所的なダイナミクスを調べた。その結果、O2席の格子間酸化物イオンOB(図7赤い球)は最近接の格子O1席に存在する別の酸化物イオンOA(図7青い球)を、隣接する空の格子間O2席に向かって押し出すことが分かった。これは、OAとOBの2個の酸化物イオンが協調的に移動する、準格子間機構による拡散を明確に示している。

図7. 第一原理分子動力学(AIMD)シミュレーションにより調べた酸化物イオンの拡散と局所的なダイナミクスを示すスナップショット。経過時間: (i) 0 fs, (ii) 80 fs, (iii) 280 fs。©著者ら(2024)
図7.
第一原理分子動力学(AIMD)シミュレーションにより調べた酸化物イオンの拡散と局所的なダイナミクスを示すスナップショット。経過時間: (i) 0 fs, (ii) 80 fs, (iii) 280 fs。©著者ら(2024)

こうしたことから、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clは極めて高い酸化物イオン伝導度、および高い化学的安定性と化学的・電気的安定性を示すことが分かった。またその高い酸化物イオン伝導度の原因は、酸化物イオンが三重蛍石類似層内を、格子間O2席と格子O1席を介した準格子間機構によって二次元的に拡散するためであることを解明した。そこで、三重蛍石類似層を持つさまざまな新規オキシハライドを合成し、乾燥窒素中で電気伝導度を測定したところ、いずれも高い電気伝導度を示した(図8)。このことは、一連の三重蛍石類似層を持つさまざまなオキシハライドが高酸化物イオン伝導体であることを示唆している。

図8 乾燥窒素中におけるさまざまなオキシハライドの直流電気伝導度σDC。©著者ら(2024)

図8. 乾燥窒素中におけるさまざまなオキシハライドの直流電気伝導度σDC。©著者ら(2024)

社会的インパクト

今回開発したBi1.9Te0.1LuO4.05Clでは、燃料電池の固体電解質を実用化するための目安とされるイオン伝導度10mS/cmを示す温度を、従来の実用材料であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)と比べて213℃も低温化することに成功した。したがって、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clを電解質に用いたSOFCsを開発すれば、動作温度を大幅に低下させてコストを削減できると期待される。このことから今回開発したBi1.9Te0.1LuO4.05Cl材料は高性能燃料電池への道を切り開くことで、今後の脱炭素社会の取り組みに大きく貢献できると期待される。

今後の展開

本研究グループでは今後、創製・発見した新しいオキシハライドについて元素置換を行い、酸化物イオン伝導度と安定性をさらに向上させることを検討している。また、オキシハライドを利用したSOFCsを実用化するためには、燃料電池の作製と評価を行う必要がある。そのためには、オキシハライドに適した電極材料の開発を行うことが重要である。

付記

本研究の一部は、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(A)「新構造型イオン伝導体の創製と構造物性」(19H00821)、JSPS科学研究費助成事業挑戦的研究(開拓)「本質的な酸素空孔層による新型プロトン・イオン伝導体の探索」(JP21K18182)、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(C)「金属酸ハロゲン化物の新規酸化物イオン伝導体創出と構造科学」(JP23K04887)、JSPS科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「構造解析による超セラミックスの機能発現メカニズム解明」(JP23H04618)、JSPS科学研究費助成事業基盤研究(S)「Norbyギャップ内の高イオン伝導体の創製」(JP24H00041)、JST 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)JPMJAP2308、JST研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同(JPMJTR22TC)、JSPS研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)「エネルギー変換を目指した複合アニオン国際研究拠点」等の助成を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 酸化物イオン伝導度 : 外部電場を印加したとき酸化物イオン(O2−)が伝導する物質を酸化物イオン伝導体(あるいは酸素イオン伝導体)という。この酸化物イオンが伝導することによる電気伝導度を酸化物イオン伝導度という。酸化物イオン伝導体には、純酸化物イオン伝導体や酸化物イオン-電子混合伝導体などがある。

[用語2] Bi1.9Te0.1LuO4.05Clオキシクロライドなどのオキシハライド : オキシクロライドとは酸素および塩素を含む物質。オキシハライドとは酸素およびハロゲンを含む物質。ビスマス、テルル、ルテチウム、酸素および塩素から構成されるBi1.9Te0.1LuO4.05Clは、本研究で初めて報告された新物質で、Sillénオキシクロライドの一つであり、Sillénオキシハライドの一つでもある。

[用語3] 固体酸化物形燃料電池(SOFCs; Solid Oxide Fuel Cells) : 電解質に固体を用いた燃料電池。電極や電解質を含め発電素子中に液体を使用せず、全て固体で構成される。高温で動作するため、白金などの高価な触媒が不要である。現在知られている燃料電池の形態では最も高い温度で稼働し、単独の発電装置としては最も発電効率が高い。SOFCsの固体電解質には、酸化物イオン伝導体が用いられている。

[用語4] 三重蛍石類似層 : 層状化合物の結晶構造に含まれる、3つの陽イオン層を含む蛍石類似層(蛍石型化合物に原子配列が類似した層)。図6bに示すように、Bi1.9Te0.1LuO4.05Clにおける三重蛍石類似層は3つの陽イオン層、Bi/Te層、Lu層、Bi/Te層を持つ。

[用語5] 第一原理分子動力学シミュレーション : 実験データなどの経験パラメータを用いずに、計算対象となる原子の種類と数と初期配置を用いて、量子力学に基づいて電子状態を計算することで、原子間に働く力を見積もり、物質における原子の運動や物質の性質を調べるシミュレーション。

[用語6] 格子間酸素席と格子酸素席 : イオン結晶では正規の格子位置(格子席)に存在するイオンが充填しているが、充填した格子イオンの空隙位置(席)の一部にイオンが存在する物質がある。この空隙位置を格子間席と呼ぶ。格子間席に存在する酸素原子を格子間酸素と呼ぶ。

[用語7] 準格子間機構 : イオンが格子席を経由せずに、格子間席から格子間席に直接移動して拡散する機構を格子間機構と呼ぶ。一方、格子席のイオンが格子間席に移動するのと同時に、その格子間席に存在したイオンが別の格子席に移動するという、2個のイオンの協調的な移動による拡散機構を準格子間機構と呼ぶ。格子間機構ではイオンが格子席を介さずに移動するのに対し、準格子間機構では格子間席と格子席を介してイオンが移動する。(準格子間機構はプッシュプル(push-pull)機構またはキックオフ(kick-off)機構ともいう)

[用語8] 酸素空孔 : 結晶において、酸素原子が存在すべきであるのに原子が存在しない位置。

[用語9] 化学的・電気的安定性 : ある物質の電気伝導度が酸素分圧に依存せず一定であることを化学的・電気的安定性を示すという。電子伝導と電子のホール伝導の寄与が小さく、イオン伝導の寄与が大きいことを示唆している。

[用語10] 直流分極測定 : サンプルに一定の電圧(または電流)を印加したときの電流(電圧)の時間変化を測定すること。本研究の酸化物イオン伝導体では、電気抵抗値が時間に依存しなかったので、外部から供給されない陽イオンや塩化物イオン伝導ではなく、外部から供給できる酸化物イオン伝導であると考えられる。

[用語11] 中性子回折実験 : 数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、X線や中性子によって回折現象を起こす。得られる回折データは結晶構造の情報を含んでおり、解析することで結晶内の原子配列などを明らかにすることができる。X線は電子により散乱されるので、重元素のコントラストが高い。一方、中性子では重元素と酸素などの軽元素の両方を含む物質における軽元素のコントラストが相対的に高いことが多いので、軽元素の原子の原子座標、占有率と原子変位パラメータを正確に決めることができる。

[用語12] リートベルト法 : 粉末回折データを用いて、結晶学パラメータ(格子定数、原子座標、占有率、原子変位パラメータ等)を求める手法。

[用語13] Sillén相 : [M2O2]などの蛍石型構造に類似した構造を有する蛍石類似層と、ハロゲン層または陽イオンMを含むハロゲン層が積層した結晶構造を持つオキシハライドをSillén相という。

[用語14] 最大エントロピー法(Maximum-Entropy Method; MEM) : MEMは情報理論の一つで、計測データの不確かさ(情報エントロピー)が統計的に尤もらしく(最大に)なるように推定する方法である。MEMを使うと、信号のノイズを低減させ、より鮮明な信号にすることができる。

[用語15] 中性子散乱長密度分布 : 中性子散乱長密度分布とは、原子核の密度分布に中性子の原子散乱能(中性子散乱長)を掛けたものである。リートベルト解析により得られた構造因子に対してMEMを適用すると、より正確な中性子散乱長密度分布が得られる。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
High Conductivity and Diffusion Mechanism of Oxide Ions in Triple Fluorite-like Layers of Oxyhalides(オキシハライドの三重蛍石類似層の酸化物イオンの高い伝導度と拡散機構)
著者 :
Nachi Ueno (上野那智)、Hiroshi Yaguchi (矢口寛)、 Kotaro Fujii (藤井孝太郎)、 Masatomo Yashima* (八島正知、*責任著者)
DOI :

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優れた円偏光発光特性を有するらせん状分子の合成に成功 高ゆがみらせん状化合物の新規合成法を開発

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要点

  • 多層構造を有するらせん状芳香族分子の触媒的不斉合成に成功。
  • 2種の環化反応によって高ゆがみならせん構造を段階的に不斉構築する合成手法を開発。
  • 3次元状にπ共役系を広げることで円偏光特性の大幅な向上を達成。

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の森田楓人大学院生、佐藤悠大学院生、野上純太郎大学院生、永島佑貴助教、田中健教授、同大学 理学院 化学系の岸田裕子大学院生、阿部倉優人大学院生、植草秀裕准教授、木下智和大学院生、福原学准教授、総合科学研究機構の杉山晴紀博士、東京大学 大学院薬学系研究科の鳥海尚之講師、内山真伸教授の共同研究グループは、優れた円偏光発光特性を示す、3次元状に共役系の広がったヘリセンの不斉合成[用語1]を達成した。

らせん状の発光である円偏光発光[用語2]は、3Dディスプレイなどの次世代エレクトロニクス材料への応用が期待されており、高輝度円偏光発光を示すキラル有機分子の開発が望まれている。その中でも芳香環がらせん状に縮環した化合物であるヘリセン[用語3]に注目が集まっている。しかし、ヘリセンはキラル有機分子の中でも比較的高い円偏光度(非対称性因子g[用語4]を示す一方、発光輝度(モル吸光係数ε、蛍光量子収率Φ[用語5]は低く、円偏光発光材料への応用の課題となっていた。

そこで研究グループは、優れた円偏光度と発光輝度を両立させる分子群として、3次元状にπ共役系を拡張したヘリセン(3Dπ拡張ヘリセン)に着目し、その高度にゆがんだπ共役系を構築するための新たな合成法として、(1)らせん構築に有利な遷移金属触媒を用いた付加環化反応、(2)高ゆがみ構造の構築に有利な酸化的環化反応、の2種類を段階的に組み合わせる合成手法をデザインした。そして、らせん構築に不斉ニッケル触媒[用語6]反応を用い、高ゆがみ構造の構築にScholl反応[用語7]を用いることで、多層構造を有する3Dπ拡張ヘリセンの不斉合成を達成した。さらに、合成した分子は、キラル有機分子の中でも格段に優れた円偏光特性を示すことを見出した。本成果では、3Dπ拡張ヘリセンの優れた円偏光特性を実証するとともに、3Dπ拡張ヘリセンの汎用的な合成手法を開発することで、高輝度円偏光発光材料の開発のスピードアップに貢献すると期待される。

研究成果は、英国科学雑誌「Nature Synthesis」4月19日(現地時間)にオンライン掲載された。

背景

芳香環がらせん状に縮環した化合物であるヘリセンは、らせん構造に由来する特異なキラル特性を示すことから注目されている化合物である。その中でも、らせん状の発光である円偏光発光特性について、ヘリセンは他のキラル有機分子に比べて比較的高く、3Dディスプレイをはじめとした次世代エレクトロニクス材料への応用が期待されている。優れた円偏光発光の発現にあたっては、(1)円偏光度(非対称性因子g)、(2)発光輝度(モル吸光係数ε、蛍光量子収率Φ)が重要であり、これらを両立するキラル有機分子の合成が求められている。しかし、ヘリセンの発光輝度は低く、また円偏光度も向上の余地があることから、円偏光発光材料への応用の課題となっていた。

これに対し、3次元状に共役系を拡張したヘリセンである3Dπ拡張ヘリセンは、高い発光輝度と円偏光度を兼ね備えた分子群として近年注目が集まっている(図1)。しかし、このような高度に広がったらせん状共役系をもつ分子は、その大きくゆがんだ構造のため合成難易度が高く、報告例はいまだ限定的であった。そのため、このような高ゆがみらせん状分子の汎用的な不斉合成手法の開発およびキラル光学特性の解明が求められている。

図1 3Dπ拡張ヘリセンの構造

図1. 3Dπ拡張ヘリセンの構造

研究成果

合成戦略

研究グループは過去に、不斉遷移金属触媒を用いた付加環化反応[用語8]によるヘリセン骨格の不斉構築と、続くScholl反応によりπ拡張された巻き数の小さいヘリセンの不斉合成を報告している(Eur. J. Org. Chem. 2022, 2022, e20220069.)。この合成設計は、「らせん骨格を作る」反応と、「π共役系を広げる」反応を段階的に行うものであり、遷移金属触媒による付加環化反応が有する「複雑な構造を構築するのが困難」という欠点を克服する合成手法である。しかし、多層構造を有する、より巻き数の大きいヘリセンについては、追加される大きな立体的ゆがみによりこの合成手法を適応できなかった。

そこで研究グループは、線形縮環を含む低ゆがみなヘリセン様分子を経由する3Dπ拡張ヘリセンの新規合成手法を考案した(図2)。本合成手法では、1段階目である付加環化反応において、3か所の反応点をもつ分岐状アルキンに対し、不斉ニッケル触媒を用いることで、直線状の縮環を含むヘリセン様分子を不斉構築する。このヘリセン様分子は拡大されたらせん径に由来する立体ゆがみの緩和により、付加環化反応の進行を可能にする。また、部分骨格のアントラセン部位の高い反応性を活用し、2段階目である酸化的環化反応において、この位置(図2のピンク色の部分)での結合形成によりらせん径を縮小することでヘリセンに変換しつつ、周辺のアリール基(図2の赤色の部分)での結合形成を同時に行えば、3次元的に共役系が拡張された3Dπ拡張ヘリセンの不斉合成を達成できるのではないかと考えた。

図2 3Dπ拡張ヘリセンの合成戦略

図2. 3Dπ拡張ヘリセンの合成戦略

3Dπ拡張ヘリセンの合成と円偏光発光特性評価

合成した2種の分岐状アルキンに対し、不斉ニッケル触媒を用いたところ、ヘリセン骨格に2つの線形縮環を含む13個および15個のベンゼン環からなるヘリセン様分子が得られた。そして、種々の酸化剤を作用させることで、線形縮環部位および周辺のアリール基で酸化的環化反応が進行し、ヘリセン骨格に11個および13個のベンゼン環を含むπ拡張ヘリセンを最大でe.r. = 87:13の鏡像体比率[用語9]で得ることに成功した(図3)。また、単結晶X線構造解析により、広範な領域でオーバーラップした2層のナノグラフェン層が確認された。特に13個のベンゼン環を含むπ拡張ヘリセンは部分的に3層構造を有しており、高ゆがみかつ高密度ならせん状構造が確認された。

また、合成したヘリセンの発光輝度および円偏光度は、キラル有機分子の中でも優れた値を示し(Φ = 0.17~0.31、glum = 0.004~0.04)、なかでも3Dπ拡張ヘリセンについては、円偏光発光特性の評価指標である円偏光発光輝度(BCPL)は最大で513とヘリセン誘導体における最高値を示すことが分かった。さらに、時間依存密度汎関数法(TDDFT)[用語10]を用いた解析により、ヘリセンのらせん方向および側面方向への構造拡張により円偏光度が向上することが確認された。このことから、円偏光発光特性向上のための新たな分子設計指針を得ることに成功したと言える。

図3 3Dπ拡張ヘリセンの不斉合成と円偏光発光特性

図3. 3Dπ拡張ヘリセンの不斉合成と円偏光発光特性

社会的インパクト

3Dπ拡張ヘリセンは円偏光発光特性などの光学特性だけでなく、カーボンナノコイルとしての電磁気学的特性、分子スプリングとしての機械的特性など、多様な機能が期待されている分子群である。しかし、汎用的な合成手法の欠如により、機能探索は未だ限定的であった。本研究で開発した、段階的に高度にゆがんだ共役系を構築する合成手法は、キラルナノカーボンの新機能開拓のスピードアップに貢献するものであると考えられる。

今後の展開

今回の研究では、高ゆがみ化合物である3Dπ拡張ヘリセンの新たな不斉合成手法を開発し、これによりヘリセン誘導体の中で最高の円偏光発光輝度を示す分子の合成を達成した。今後は、本合成手法をもとに、さらに優れた高輝度円偏光発光を示す3Dπ拡張ヘリセンをデザインし、3Dディスプレイなどの次世代エレクトロニクス材料への応用を実現したいと考えている。

付記

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(24H00005、21K18949、19H00893、22K05032、20H04661、23H04020、22H00320)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)(JPMJCR19R2)の支援を受けて行われた。

用語説明

[用語1] 不斉合成 : 鏡像異性体のうち、いずれか片方のみを選択的に作り分ける化学合成法。

[用語2] 円偏光発光 : 自然光には右回転と左回転の偏光が同じ割合で含まれている。そのうち一方に偏った円偏光を分子などを利用して発光させる現象のこと。

[用語3] ヘリセン : 複数の芳香環がらせん状に連結した分子。左巻きと右巻きの2種類の鏡像異性体が存在する。

[用語4] 円偏光度(非対称性因子g : 円偏光において、右回り円偏光と左回り円偏光の存在割合のこと。左回りの円偏光の強度(IL)と右回りの円偏光の強度(IR)から算出される非対称性因子g = 2 (IL-IR) / (IL+IR) という指標で評価される。

[用語5] 発光輝度(モル吸光係数ε、蛍光量子収率Φ : 光源の明るさを表す物理量のこと。モル吸光係数ε、蛍光量子収率Φの積から算出される。

[用語6] 不斉ニッケル触媒 : 中性のニッケル金属中心に、中心不斉や軸不斉配位子が配位した錯体。

[用語7] Scholl反応 : 芳香族分子のC-H結合同士を、酸化剤を用いることで脱水素を伴いながらカップリングさせ、新たな炭素炭素結合を形成させる反応。

[用語8] 付加環化反応 : π電子系どうしの反応によって環状化合物を与える反応。

[用語9] 鏡像体比率 : 鏡像異性体の比率。ここでは右巻きらせんと左巻きらせんの割合を表す。

[用語10] 時間依存密度汎関数法(TDDFT) : 電子状態をシミュレーションする手法のひとつ。電子の基底状態を非経験的に記述した一般的な密度汎関数法(DFT)では、光励起された電子のような時間とともに変化する電子のダイナミクスを計算することはできないが、TDDFTでは電子の軌道関数の時間発展を記述することで時間に依存するようにDFTを拡張している。

論文情報

掲載誌 :
Nature Synthesis
論文タイトル :
Design and enantioselective synthesis of 3D π-extended carbohelicenes for circularly polarized luminescence
著者 :
Futo Morita, Yuko Kishida, Yu Sato, Haruki Sugiyama, Masato Abekura, Juntaro Nogami, Naoyuki Toriumi, Yuki Nagashima, Tomokazu Kinoshita, Gaku Fukuhara, Masanobu Uchiyama, Hidehiro Uekusa, and Ken Tanaka*
DOI :

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効果的なA/Bテストのためのオフライン評価性能検証指標の新規提案 学習・評価・検証を行うオープンソースソフトウェアを無償公開

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要点

  • データを用いて意思決定アルゴリズムを評価するオフライン評価における新たな検証指標を提案。
  • 従来の性能検証指標では、方策を選択する際のリスクが評価できていないことを解明。
  • 提案指標の実装の公開に加え、オフラインでの方策学習や評価、さらには評価手法の性能検証までを一貫したプラットフォーム上で実装するためのオープンソースソフトウェア「SCOPE-RL」を無償で公開。

概要

東京工業大学 工学院 経営工学系 中田和秀教授、小林健助教、同 清原明加大学生(研究当時)、岸本廉大学生、川上孝介大学院生(兼株式会社博報堂テクノロジーズ勤務)、コーネル大学の齋藤優太大学院生(兼半熟仮想株式会社所属)らの研究チームは、データを用いて意思決定アルゴリズムの性能を評価するオフライン評価[用語1]の研究において、新たな性能検証指標を開発した。既存の性能検証指標が正確性のみに注目していたがために、実運用時のリスクを適切に評価できていないことを発見し、新たにリスクとリターンのトレードオフを評価する性能検証指標を提案した。また、実運用に即した手順でオフラインでの方策学習や評価、さらには評価手法の性能検証までを一貫したプラットフォーム上で実装するためのオープンソースソフトウェア「SCOPE-RL」をGitHub上で無償公開した。

「SCOPE-RL」では、提案した性能検証指標を容易に用いることができるだけでなく、オフラインの方策学習から評価まで一貫して行える実装パイプラインを提供している。これにより、オフライン評価のより実務に即した運用や性能検証が可能になると期待される。

本研究成果は、2024年5月7日から5月11日に行われる国際会議International Conference on Learning Representations(ICLR)に2024年1月16日付で採択された。同国際会議ICLRはICMLやNeurIPSと並び機械学習分野での世界最高峰の国際会議のひとつとして認知され、本年度は投稿論文7,262本のうち約31%の論文が採択されている。

背景

広告の入札額調整や日次予算運用をはじめとしたマーケティング業務や、バイナリデータを元にした医療での治療方針決定など、連続的な意思決定が顧客の満足度や安全性に寄与する場面が実用上では数多く存在する。こうした意思決定システムにおいて、過去の運用データを用いて、新たに運用する候補方策を評価し選択することは、サービスの品質の維持・向上において必要不可欠である。実際に、図1に示すように、まずはデータを用いてオフライン評価により数多くの候補方策の中から少数の有望な方策を選定し、次にそれらの選択された方策の性能A/Bテスト[用語2]においてオンライン検証し、最後に運用方策をサービスに展開する流れが多くのサービスで採られている。

図1. 実運用における意思決定方策(policy)のオフライン評価から方策選択までの流れ
図1.
実運用における意思決定方策(policy)のオフライン評価から方策選択までの流れ

A/Bテストでは実環境での方策の試運用やユーザーとの関わりが発生するため、事前のオフライン評価において信頼性の高いスクリーニングを行うことは非常に重要である。これまでに正確なオフライン評価を行うための研究が多く行われてきたが、従来の研究では正確性に注目するばかり、A/Bテスト時に性能の悪い方策が採られるリスクが見逃されていた。そこで、本研究では方策選択のリスクに初めて注目し、A/Bテスト時のリスクとリターンのトレードオフを評価するための性能検証指標を新たに開発した。

さらに、オフラインでの方策の学習から評価までを一貫して実装できる研究・実運用のための実装パイプラインが存在しなかった現状を踏まえ、オフライン方策学習・評価のためのオープンソースソフトウェア「SCOPE-RL」を無償公開した。

研究成果

本研究では、図1の左側に示す、複数(m個)の候補方策集合の中から上位 k (< m) 個の方策をオフライン評価に基づいて選択するオフライン方策選択において、オフライン評価手法の性能検証を行う際の指標について再考した。まず、従来の「正確さ※1」に基づく性能検証指標では、 (1) オフライン評価の際の過大評価と過小評価、(2) 保守的な方策選択とハイリスク・ハイリターンである方策の選択、の区別が全くできず、性能の悪い方策を選択してしまうリスク※2の比較ができていなかったことを初めて指摘した。そして、方策選択におけるリスクとリターンのトレードオフを定量的に評価するため、「SharpeRatio」という新たな性能検証指標を提案した。提案指標である「SharpeRatio」は経済学分野で株投資におけるポートフォリオのリスク評価に使われる「Sharpe ratio(シャープレシオ)」から着想を得ており、発生する性能のばらつき(リスク)に対して得られる性能の上昇(リターン)がどの程度大きいかを比率として評価するものである。具体的には、すでに実運用されている方策に対して、選択された k 個の方策によるA/Bテストに基づき選ばれる次期の運用方策がどの程度性能を向上させるかをリターンとして見ており、これによりオフライン評価に基づき方策を刷新する際の利益を測る。また、リスクとしては、オフライン評価によって選ばれた k 個の方策の性能のばらつきをみることで、A/Bテスト時に性能の悪い方策をユーザーに提示してしまう可能性の高さを検証している。最後に、既存のオフライン評価手法・指標とのベンチマーク実験を行い、提案指標は既存指標に比べて、(1) A/Bテストで用いることのできる方策の数 (k) に応じたリスクとリターンのトレードオフを評価することができること、(2) 既存手法が見逃していたリスクを適切に考慮してオフライン評価手法の性能検証が行うことができることを確認した。

また、今回独自に開発・公開したオープンソースソフトウェア「SCOPE-RL」により、オフラインでの方策学習・評価からオフライン評価手法の性能検証までが、一貫したプラットフォーム上で実装可能となる。これにより、より多くのエンジニアがオフライン強化学習の手順を容易かつ正確に実装できるようになり、オフライン強化学習の実応用の敷居が大幅に下がることが期待される。また本ソフトウェアには、オフライン強化学習やそのオフライン評価に関する最先端のアルゴリズムが多数実装されており、それらを一から実装することなく実務で利用することが可能になる。さらに、「SCOPE-RL」はオフライン強化学習に関する学習・評価のためのアルゴリズム自体の有効性を比較検証する機能を兼ね備えており、オフライン強化学習の新たな手法を開発する学術研究を行う際にも非常に有用である。

図2. 「SCOPE-RL」を利用したオフライン方策学習・評価の実装手順。方策の学習から評価、さらにはオフライン評価手法の性能検証までを一貫したプラットフォーム上で実装できる。ORL(offline reinforcement learning)はオフラインでの方策学習、OPE/OPSはオフライン評価とそれに基づく方策選択(off-policy evaluation/selection)を指す。evaluation-of-OPEが今回主に議論しているオフライン評価手法の性能検証部分である。
図2.
「SCOPE-RL」を利用したオフライン方策学習・評価の実装手順。方策の学習から評価、さらにはオフライン評価手法の性能検証までを一貫したプラットフォーム上で実装できる。ORL(offline reinforcement learning)はオフラインでの方策学習、OPE/OPSはオフライン評価とそれに基づく方策選択(off-policy evaluation/selection)を指す。evaluation-of-OPEが今回主に議論しているオフライン評価手法の性能検証部分である。
※1

従来の「正確さ」を比較する性能検証手法には、(1) 方策の性能推定自体の正確さ、(2) 最上位方策の選択の正確さ、(3) 方策の並び替えの正確さ、の3つがあるが、いずれも「リスク」を考慮した性能評価は行えていなかった。

※2

k個の方策の中に性能が低い方策を含んでしまうことを指す。特に、k個の方策の中での性能のばらつきを見ることで、上記のリスクを評価している。

社会的インパクト、今後の展開

今回の性能検証指標の開発およびオープンソースソフトウェアの公開により、新たな方策をA/Bテストで評価および選択する際に、売上へ与える悪影響や消費者にとって好ましくない商品推薦や広告が届くリスクを軽減できるようになる。また、蓄積データをもとにして判断できるようになるため、専門家が長年の経験に基づいて判断していた意思決定の良し悪しを定量化し、再現性ある形で最適化できる可能性がある。さらに、オフライン評価の枠組みは、医療における治療選択やロボティクス、自動運転等に広く応用可能であり、これらの広範な技術分野に貢献する可能性も持つ。

用語説明

[用語1] オフライン評価 : 過去に集めたデータを用いて意思決定方策の性能評価(性能推定)を行うこと。

[用語2] A/Bテスト : 意思決定方策をオンライン環境に一定期間展開し、その方策の性能を評価すること。オフライン評価に比べ、実環境上で実験できる点でより正確な評価を行えるが、実環境上で実験を行うため顧客満足度を毀損してしまうリスクもある。

論文情報

会議名 :
発表タイトル :
Towards Assessing and Benchmarking Risk-Return Tradeoff of Off-Policy Evaluation
発表者・著者 :
Haruka Kiyohara, Ren Kishimoto, Kosuke Kawakami, Ken Kobayashi, Kazuhide Nakata, Yuta Saito
発表日時 :
2024年5月8日(水)16:30(現地時間、日本時間23:30)開始
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工学院

工学院 ―新たな産業と文明を拓く学問―
2016年4月に発足した工学院について紹介します。

工学院

学院・系及びリベラルアーツ研究教育院outer

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東京工業大学 工学院 経営工学系

教授 中田和秀

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東京科学大学の理念とロゴマークが誕生 Science Tokyo 特設サイト公開

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東京科学大学の理念とロゴマークが誕生

2024年10月1日に、東京工業大学と東京医科歯科大学が統合し、東京科学大学が誕生します。グローバルに活躍していく新大学、Science Tokyo 特設サイトを公開しました。

特設サイトでは、東京科学大学についてみんなが関わり、みんなで考えるブランディングプロジェクト「東京科学大学Brand Action! (ブランド・アクション)」を通して誕生した、東京科学大学の理念とロゴマークを紹介しています。

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