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葉緑体増殖の基礎的しくみを解明―葉緑体分裂・増殖時にDNA分配を制御する酵素の発見―

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概要

植物は光合成により二酸化炭素を固定し酸素を放出するとともに、有機物を合成し地球上のほとんど全ての生命活動を支えています。光合成はDNAの複製と分配を伴いながら分裂・増殖する葉緑体で行われます。小林優介 京都大学 博士課程学生、西村芳樹 京都大学 大学院理学研究科 助教を中心とするグループは、山口大、東工大(岩﨑博史 科学技術創成研究院 教授)、法政大、立教大、日本女子大グループと共に、葉緑体がもつ“葉緑体DNA(葉緑体核様体)”の分配(遺伝)を制御する遺伝子MOC1と、この遺伝子がコードする葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素を発見しました。ホリデイジャンクションとはDNA損傷の修復、複製、減数分裂の際にみられる、DNA配列がよく似た部分同士で組み換え(相同組み換え)が進む過程であらわれる構造ですが(図1)、葉緑体核様体ではこの構造がどのように切断されているかわかっていませんでした。今回の基礎的な発見から、葉緑体における相同組換え機構の解明、さらには新たな物質生産に向けた応用研究への展開も期待されます。論文は5月12日午前3時(日本時間)、Scienceに掲載されました。

DNA相同組換えとホリデイジャンクション形成過程の模式図

図1. DNA相同組換えとホリデイジャンクション形成過程の模式図。
今回はじめて葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素が発見された。

背景

光合成の場である葉緑体には、シアノバクテリアを起源とする独自の葉緑体DNAがあり、それが多様なタンパク質によって折りたたまれて“核様体”を構築します。葉緑体核様体は、いわば葉緑体にとっての「核」であり、細胞核の場合と同様に、その複製・分配は葉緑体の分裂に先立って行われます。核様体の複製や分裂・分配(遺伝)は光合成の維持や植物の生存上必須な要素ですが、これがどのようなしくみで制御されているのかは不明でした。

野生株(左)とmoc変異体(右)の葉緑体(黄)

図2. 野生株(左)とmoc変異体(右)の葉緑体(黄)。赤は葉緑体の自家蛍光。野生株ではひとつの葉緑体あたり5~10個に分散している葉緑体核様体が、moc変異体では一つの塊になってしまう(矢印)。

研究手法・成果

葉緑体(赤)の分裂に際し、moc変異体の葉緑体核様体(黄)が不均等に分配される様子(矢印)

図3. 葉緑体(赤)の分裂に際し、moc変異体の葉緑体核様体(黄)が不均等に分配される様子(矢印)。本来は4つ全ての葉緑体に均等に分配されるはずが、一つの葉緑体のみに分配されている。

今回の研究では、葉緑体核様体の観察や遺伝学的解析が容易な単細胞緑藻クラミドモナスを対象としました。葉緑体核様体の形が異常なmoc変異体を単離し、その原因遺伝子を突き止めることが最初の課題でした。moc変異体では、通常1つの葉緑体あたり5~10個ある葉緑体核様体が1つの大きな塊になってしまい(図2)、葉緑体分裂の際にも均等に分配されません(図3)。原因遺伝子同定の過程で、MOC1という未知の遺伝子に辿り着きました。この遺伝子は緑藻だけでなく陸上植物においても広く保存されています。MOC1 がコードするタンパク質の構造予測を元にした生化学的解析をおこなったところ、このタンパク質がホリデイジャンクションの中央に結合して、構造を正確に切断する葉緑体型ホリデイジャンクション解離酵素であることが明らかになりました(図1)。

更にDNAオリガミと原子間力顕微鏡技術を組み合わせ、ホリデイジャンクションが切断される様子の観察に挑戦しました。その結果、MOC1タンパク質がホリデイジャンクションの中央部に結合し、切断する様子をはっきりと捉えることに成功しました(図4)。

葉緑体DNAは、相同組換えによって生じたホリデイジャンクションなどによって複雑に絡み合った構造をとっていると考えられています。それを今回発見された酵素が正確に切断することによって、正常な葉緑体核様体の形や遺伝が厳密に制御されているということが分かりました。葉緑体のホリデイジャンクション解離酵素はこれまで見つかっておらず、今回が世界初の報告となりました。この発見により、葉緑体における相同組換え機構の解明にむけた重要な手がかりを得ることができました。

MOC1タンパク質がDNAオリガミ技術によってつくられたホリデイジャンクション(左)の中央部に結合し(中央)、切断する(右)過程を高速原子間力顕微鏡で捉えた

図4. MOC1タンパク質がDNAオリガミ技術によってつくられたホリデイジャンクション(左)の中央部に結合し(中央)、切断する(右)過程を高速原子間力顕微鏡で捉えた。

波及効果・今後の予定

今回の研究の結果、ホリデイジャンクション解離酵素が葉緑体において初めて同定されました。そしてMOC1遺伝子は葉緑体分裂に伴って葉緑体核様体を正確に分配(遺伝)させる上で欠かせないものであることが分かりました。今回発見したホリデイジャンクション解離酵素がどのようにしてホリデイジャンクションを正確に認識し、結合し、切断するのか、加えてどのような因子と相互作用して相同組換えを実現しているのかを調べていくことで、葉緑体における相同組換え機構の理解が進むはずです。それにより、葉緑体自身のDNA修復能力を高め、変異を引き起こすような環境に適応する能力の高い植物の創出につながるかもしれません。また葉緑体形質転換技術の向上、さらには葉緑体を利用した新たなものづくりにも貢献できるかもしれません。

研究プロジェクトについて

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(課題: 16K14768, 17H05840, 特別研究員制度(DC1: 26・786))の支援を受けました。

論文情報

掲載誌 :
Science
論文タイトル :
Holliday junction resolvases mediate chloroplast nucleoid segregation
著者 :
Yusuke Kobayashi, Osami Misumi, Masaki Odahara, Kota Ishibashi, Masafumi Hirono,
Kumi Hidaka, Masayuki Endo, Hiroshi Sugiyama, Hiroshi Iwasaki, Tsuneyoshi Kuroiwa, Toshiharu Shikanai, Yoshiki Nishimura
DOI :

問い合わせ先

京都大学理学研究科植物遺伝学教室

西村芳樹 助教
Email : yoshiki@pmg.bot.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-4147

東京工業大学に所属する研究者への取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


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