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アルミニウム「超原子」の液相合成に成功 ―貴金属やレアメタル代替の新たな可能性拓く―

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要点

  • ほかの原子に似た性質を示す「超原子(Al13)」を液相で合成
  • Al13がハロゲンのようにアニオン状態をとれることを実証
  • 今後、様々な元素を代替する超原子の利用に期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の山元公寿教授と神戸徹也助教らは、13個のアルミニウム原子で構成される「超原子[用語1]」(Al13)の溶液中での合成に成功した。デンドリマー[用語2]を鋳型として13原子のアルミニウムを集積させることにより、アルミニウム超原子の液相中での合成を実現した。

この成果は、超原子の大量合成が可能な液相法を用いる新たな手法の有効性を実証したもので、超原子の実用化に向けた大きな進展である。将来的には、貴金属やレアメタルを代替できる超原子の合成への展開が期待できる。

このAl13クラスターは最も有名な超原子の例であり、理論計算や気相での合成は行われていたが、溶液中で扱える液相法による合成はできていなかった。

この成果は12月11日発行の英科学雑誌Nature Publishing Groupの「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」オンライン版に掲載された。

研究成果

東工大の山元教授らは、デンドリマーとよばれる精密樹状高分子を用いて原子数を規定することにより、アルミニウムからなる超原子(Al13)の溶液中での合成に成功した。このデンドリマーにはアルミニウム塩が配位できるイミン部位[用語3]を配置しており、これが13個のアルミニウム原子の精密な集積を可能にした。この精密集積を利用することでアルミニウム超原子(Al13)の液相合成を達成した(図1)。

アルミニウム超原子(Al13)は他の個数のクラスターとは異なった特異な電子状態を有しており、その高い安定性が予測されていた。今回の研究で合成した超原子(Al13)は実際に酸素に対する高い安定性を示し、その超原子特性を確認した。

ピリジンコアデンドリマーを鋳型としたアルミニウム塩の精密集積と超原子の合成。マススペクトル[用語4]とXPS[用語5]測定による結合エネルギー[用語6]
図1.
ピリジンコアデンドリマーを鋳型としたアルミニウム塩の精密集積と超原子の合成。マススペクトル[用語4]XPS[用語5]測定による結合エネルギー[用語6]

研究の背景

元素を代替できる次世代の手法として「超原子」が注目されている。この超原子は構成する元素とは異なる別の元素に相当する電子状態を有するクラスターである。この超原子は構成する元素の種類や組成により変化できるため、構造をデザインすることで周期律に従った元素の性質を模倣できる。こうした超原子はレアメタルなどの代替のみならず、これまでの周期表では表せない新元素の特性も発現できる可能性を秘めている。

中でもAl13は最も有名な超原子であり、ハロゲン[用語7]類似の性質が発現されるとされてきた(図2)。しかし、Al13を初めとする「超原子」はこれまで、理論計算や気相での極微量合成が主であった。これらを利用可能な物質として合成することが期待されていたが、これまでは構成する原子数を精密に規定する方法がなく困難とされてきた。今回の研究では、デンドリマーを鋳型として構成原子数を規定することで、アルミニウム13原子からなる超原子の合成に成功した。

アルミニウム超原子(Al13)の電子状態は2P軌道に5つの電子を有しており、この電子状態がハロゲンの電子状態と同様になる。このことからAl13はハロゲンの超原子とされる
図2.
アルミニウム超原子(Al13)の電子状態は2P軌道に5つの電子を有しており、この電子状態がハロゲンの電子状態と同様になる。このことからAl13はハロゲンの超原子とされる

今後の展開

今回の成果はこれまで気相中でしか得ることのできなかった超原子が、液相で大量に合成できることを示したことである。この超原子の液相構築は今後の新たな超原子を合成するうえで重要な成果であり、様々な超原子の液相による大量の合成に利用できる。特に、機能発現が予測されている超原子に展開することで、希土類や貴金属など希少元素の代替が期待できる。

用語説明

[用語1] 超原子 : 原子軌道と類似した電子軌道を持つクラスター。この超原子特性の発現にはクラスターの高い対称性が必要。ハロゲンの電子配置を有するAl13は正二十面体構造をとる最も有名な超原子である。

[用語2] デンドリマー : 規則的に分岐した樹状構造の高分子。コア (core) と呼ばれる中心分子と、デンドロン (dendron) と呼ばれる側鎖部分から構成され、分子量分布の無い単一分子量という特徴がある。本研究では側鎖部位に金属を集積できるように工夫しており、13個のアルミニウム原子をデンドリマー内部に集めることができた。また、デンドロンは内部のアルミニウムクラスターの外部環境からの保護に役立っている。

[用語3] イミン部位 : 炭素と窒素の二重結合からなる化学結合部位。窒素上の電子が塩基として働き、金属イオンと結合することが出来る。

[用語4] マススペクトル : 分子や原子をイオン化し、その質量を分析したグラフ。質量分析器または質量分析計を用いて測定され、目的物の同定に利用される。

[用語5] XPS : X線光電子分光法。X線を照射した試料表面から放出される光電子のエネルギーを計測することで、物質の結合状態や電子状態を分析する手法。

[用語6] 結合エネルギー : ここでは、電子が物質に束縛されているエネルギーを意味する。この結合エネルギーを見ることで電子の状態についての情報が得られる。

[用語7] ハロゲン : 周期表の第17族に属する元素。1電子還元されたアニオンになると安定な希ガスの電子配置となる。フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが知られている。

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォームおよびダイナミックアライアンスの支援を受けて行なわれました。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)
論文タイトル :
Solution-phase synthesis of Al13 using a dendrimer template
(和訳:デンドリマーを用いたAl13 の液相合成)
著者 :
T. Kambe, N. Haruta, T. Imaoka, K. Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 教授

山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

12月13日14:00 本文中に誤りがあったため、修正しました。

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