2017年12月14日に大岡山キャンパス 大岡山西9号館ディジタル多目的ホールで創造性育成フォーラムが開催されました。
本学では、学生の発想力や創造力を育て、学生が主体的に学修に取り組むよう、毎年、本学の創造性育成科目の登録・選定を行い、創造性育成教育を積極的に推進しています。
教育・国際連携本部 (旧教育推進室)では、本学の創造性育成教育を発展させることを目的に、毎年、創造性育成科目の事例発表会を開催しています。
今年度は、従前からの本学における取り組み事例の発表に加え、岡山大学の大橋一仁教授を招き、岡山大学での取り組み事例を紹介いただきました。
創造性育成科目事例発表
フォーラム前半は、系・コース・学科での良い講義事例を共有することを目的とし、「学生プロデュース科目」、「システム創造設計」、「化学工学実験第一・第二」、「建築空間設計特別演習」の4科目の担当教員及び実際に受講している学生による講義内容や学修の成果についての事例発表の後、創造性教育について活発な質疑応答が行われました。
学生プロデュース科目(博士後期課程 文系教養科目)
発表者:猪原健弘教授(リベラルアーツ研究教育院)
「知の交流」を促進する場を創造
世界最高水準の研究を行うには、専門分野に限定されない幅広い知識、異分野研究の意義を理解し吸収・活用する応用力や創造性、多様な人材と交流し「知」のネットワークを広げる柔軟性や学際性が必要です。本科目は「教養先端科目」と対になっており、履修者は、「教養先端科目」の内容を自ら設計していくことで、これから必要とされる「教養」を身に付けます。具体的には、「教養先端科目」の包括的なテーマを決定後、異分野の学生と協力しながら、専門家への講演の依頼、授業の運営法および発表会の運営・広報の方法についての検討と体験を通して、博士後期課程全体の「知の交流」を促進する場を主体的に創造できる人材になることを目的としています。2016年度はポスター発表会・ミニシンポジウムを計3回実施しました。専門分野の異なる学生間でのグループワークの成果が求められますので、自領域の専門用語が通じない中でコミュニケーションをとる難しさを知る良いきっかけになっていると感じます。
システム創造設計(学士課程 システム制御系)
発表者:塚越秀行准教授(工学院 システム制御系)
ロボット製作・競技会を通じた創造性の育成
本講義は、条件制約された環境下で、受講者の自由な発想により対戦型ロボット(マシン)の設計・製作を行う問題解決型の授業です。競技テーマやルールは毎年変わり、受講者には「作業時間」「使用可能なキット」「競技時間」の3つの制約が課せられます。これにより、アイデアを創出する楽しさやモノを動かす感動を自発的に体感させ、与えられた条件の中で最適なシステムを設計するための創造性を育むことを目的としています。マシンを作る上での基礎的な内容(知識)を把握する旨の授業は別途行われ、教員が進捗状況をチェックしながらサポートします。競技会での勝敗は授業での評価にはそれほど重要ではなく、競技会を振り返っての反省点を記述したレポート内容が重視されます。競技会で選出された学生は国際ロボコンに出場する権利が与えられ(2017年度は6名)、各国の代表者と一緒にチームを組んで競技に臨むという形式のため、モノづくりを通して世界各国の大学生と国際交流することができました。
化学工学実験第一・第二(学士課程 応用化学系)
発表者:森伸介准教授(物質理工学院 応用化学系)、三塩竜平さん(学士課程3年)、高井陽平さん(学士課程3年)
問題解決の方法を設計していく能力
本講義では、一定の制約が与えられた化学プロセスに関する重要な 4つのテーマ(流動操作、蒸留操作、計測と制御、プロセス概念設計)に係わる問題を、少人数のチームに分かれてコンテスト形式で取り組みます。これまでの実験では、講義で学んだことを再確認し、データをもとに講義で学んだ知識を用いて考察する力を養いました。本実験では、テキストに決められた実験手順や理論的な説明はなく、自分たちで必要な理論を見つけ、設計方法を考え、結果の検証に必要なデータを決定し、結果の検証と設計修正をします。グループ内で設計方法やデータの検証方法について意見を出し合い、意見を比較しながら話し合いを行うことで、理論を踏まえて自分の意見を説明する力や理論をもとに他人の意見を理解する力を養うことができました。与えられた制約を満たしているかを検証しながら課題を解くことで、問題解決のための設計能力の重要さを知ることができ、社会に出てからもこの経験を活かしていける実践的な学びを修得しました。
建築空間設計特別演習(修士課程 建築学コース)
発表者:塚本由晴教授(環境・社会理工学院 建築学系)、キム・ヒヨンスさん(博士後期課程3年)、フロレンディア・エコノモーさん(修士課程2年)
都市空間におけるコモンズの構築
現代社会や都市空間における建築のデザインを検討することを通して、建築の批評言語を構築し実践する力を養うことを目的として、2016年10月、デルフト工科大学のトム・アヴァーマテ教授を迎え『Constructing the Commons(コモンズの構築)』と題した二週間の集中講義を行いました。そこでは、都市空間の生態系(エコロジー)の理解に基づき、その生態を育てながら如何に都市にコモンズを構築していくかといった新たなデザイン方法を模索しました。コモンズは人々が共同性を実践するための資源(Common-Pool Resources)で、次の3つの次元― Lex Communis(建造環境)、Praxis Communis(人々の実践)、Res Communis(自然環境)― で捉えることができます。都市空間の中でのコモンズの調査・検討を通して、新橋の高架下を活用する案、吉祥寺の住宅街の空き地を共同庭園に活用する案、渋谷の水資源のアクセシビリティ(利便性)を高める案などが出ました。
皇居と隣接する北の丸公園を結ぶランナーと歩行者のための橋の再構築プロジェクトでは、実際に現地を訪れ、周辺の自然環境、建造環境や人々の行動を観察し、周辺エリアの調査・分析を行いました。公共の場所をデザインするにあたっては、想像力だけでデザインするのではなく、人々の行動を理解する必要があります。街のことをよく知るために、実際に現地を訪れ調査したことは興味深く良い経験となりました。
ポスター展示
事例発表後の休憩時間には、メディアホールにて創造性育成科目として登録されている43科目のポスターセッションを実施し、リラックスした雰囲気の中、各科目の講義の実施状況や特色について情報共有を行うとともに、さまざまな分野の教員および学生が本学の教育について意見交換を行いました。今回展示された創造性育成科目のポスターは、今後1年間、ものつくり教育研究支援センター(大岡山キャンパス 大岡山南2号館1階)に展示されます。
講演
フォーラム後半は、岡山大学の大橋教授から、「工学部機械系学生への創造力育成の取組み」と題して、岡山大学で行われている先端的な事例が紹介されました。
講演「工学部機械系学生への創造力育成の取組み」
講演者:大橋一仁教授(岡山大学大学院 自然科学研究科)
工学部機械系学生への創造力育成の取組み
大学では講義を行い、筆記試験で評価するという形式がほとんどですので、学生はすぐに正解を求めるようになります。しかし、社会に出ると正解(唯一解)が存在する問題ばかりではなく、むしろ正解の無い問題が多く、自分で考え創造することができなければ成果はあげられません。本講義では、まず自分の発想力の初期値を認識してもらうために、ある問題に対していくつアイデアを出すことができるかということを試します。例えば、「ある惑星では月が1日の内に新月→満月→新月へと満ち欠けしていく。このメカニズムを思いつく限り発想してください。」というような問題です。最初は正解のない不慣れな状況に戸惑いを見せる学生もいましたが、段階的に創造力を養っていくことで、既成概念に捉われない発想ができるようになっていきます。さらに、からくりの茶運び人形をデフォルメしたメカニズムの製作コンテストを通して、発想とその実現について訓練を実施しています。大学院生向けには企業レベルに近づけるべく、授業の一環としてビジネスプランやアイデアのコンテストに参加しています。学内からの評価だけでなく学外からの評価を得られることで刺激を受け、学生のモチベーションを高く保つことができています。
パネルディスカッション
講演に引き続き、教育革新センターの田中岳教授の進行により、「創造性を育成する授業」について、ものつくり教育研究支援センター長 山田明教授及び今回事例発表を行った塚本教授、森准教授、講演者の大橋教授を交え、パネルディスカッションが行われました。
パネルディスカッションでは、事例発表と講演の内容を交錯させることで「創造性を育成する授業」のあり方が検討されました。討論では、「創造性とは?」といった出口の見えない迷路へ入り込まないことに留意しつつ、授業の効果を高める工夫、発想力の評価、創造性と制約などを論点とし、活発に意見交換が行われました。
議論していく中で出されたユニークな発言には、次のようなものがありました。
- 歴史を振り返るような講義(例えば技術史)が、創造性教育の準備になる。
- 過去と現在の状況を相対的に捉え直すことで、歴史に自身を位置づけられる。
- 学生個々の感性を引き出すのが、教員の役割である。
- 例えばブレーンストーミングなどでは、出されたアイデアの数(量)を評価する時もあり、発想の数が質を担保するような場面もある。
- そこで課題となる質については、面白さや親しみやすさ、美しさなど、質の意味するところを具体化する。
- プロトタイプ開発など試作後には、省察の時間をもつ。
- 発想の幅を広げるために、あえて制約を加える。
議論を終えてのラップアップでは、「創造力を伸ばすというよりも批評性を身につけることで創造力が培われるのでは?」「創造性育成と言いながらも講義内容の応用を教えているのでは?」といった現行の大学教育に対する課題も示されました。
短い時間という“制約”のおかげで、パネルディスカッション自体が密度ある意見交換の場となりました。
フォーラム後のアンケートでは、
- 他の系・コースの事例を知ることができ、参考になった。
- 座学と創造性育成科目の間をいかに上手に繋げていくのか、他の事例を聞いて考えさせられた。
- 各科目の担当の先生が手をかけ、時間をかけて、工夫している取組みが伝わってきた。伝統を感じた。
といった意見があり、今後の創造性教育の発展へと繋がるフォーラムとなりました。
創造性育成科目は毎年、系、コース、学科、専攻から申請を受け、登録・選定を行っております。創造性育成科目については、下記のページをご覧下さい。
関連リンク
- 「平成28年度 創造性育成科目 事例発表会」開催報告|東工大ニュース
- 「平成27年度 創造性育成科目 事例発表会」開催報告|東工大ニュース
- 事例発表「学生プロデュース科目」(博士課程)
- 事例発表「システム創造設計」
- 事例発表「化学工学実験第一・第二」
- 事例発表「大学院建築空間設計特別演習」
- 講演「工学部機械系学生への創造力育成の取組み」