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磁場中の高温超伝導現象、全貌を解明

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ポイント

  • 絶対零度でのみ抵抗ゼロになる超伝導状態を磁場中の幅広い領域に発見
  • 予想に反して量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点)が2つ存在
  • メカニズムの理解や応用の進展に重要な指針を提示

概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の笹川崇男准教授と米フロリダ州立大学との日米研究チームは、これまで謎とされてきた、高温超伝導体(用語1)において磁場が起こす状態変化について、絶対零度まで包括する全体像を明らかにした。

磁場を強めていくと電気抵抗ゼロの超伝導状態になる温度は低下してゆく。これまでは、超伝導になる温度が絶対零度まで低下する磁場が唯一の量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点、用語2)で、それ以上の磁場中には超伝導状態は存在しないと考えられていた。ところが、約4倍の高磁場まで、絶対零度でのみ超伝導状態になる領域が広く存在していることを実験で突き止めた。この予想を覆す今回の発見により、高温超伝導メカニズムの理解に弾みがつくとともに、応用に関しても重要な指針が得られるものと期待される。

この成果は英国の科学誌「Nature Physics (ネイチャー・フィジックス)」オンライン先行版(現地時間5月4日発行)に掲載された。

研究の背景

電気抵抗がゼロになる超伝導体は、消費電力なしに電流を流せる究極のエコ材料として、様々な分野での利用が期待されている。特に、高い温度から超伝導状態になる層状の結晶構造をもつ銅酸化物について、発現機構の解明や応用への展開に向けた研究が世界中で活発に行われている。

強力な磁場中では、超伝導状態は壊れてしまう。一方で、消費電力ゼロを利用して大電流を流せば、強い磁場が発生してしまう。そのため、磁場中における超伝導体の振る舞いを詳細に理解することは、応用に向けた大切な課題になっている。また、積極的に磁場を使って超伝導状態を壊し、その時に現れる状態を詳しく調べることにより、高温超伝導のメカニズムを探る研究も盛んに行われている。

このように、「高温超伝導体の磁場中における振る舞い」は基礎と応用の両方から重要となるが、最も根本的なデータである熱で状態が乱されなくなる絶対零度(0ケルビン、摂氏マイナス273.15度)も含めて、その全貌は謎であった。

研究成果

笹川准教授らはランタン-ストロンチウム-銅の酸化物からなる高温超伝導体を、4~6ケルビンという非常に低い超伝導転移温度になるように組成調整した試料を用いて実験した。18テスラ(地球がもつ磁場の約36万倍)の高磁場までと、0.09ケルビンの極低温まで環境を変化させて電気抵抗を測定することにより、高温超伝導体が示す状態変化の絶対零度までを含む全体像を観測することに成功した。

様々な温度と磁場における電気抵抗率の測定結果(図1左)を、抵抗率と温度について特性値を求めて規格化すると、全てのデータが2つの曲線のいずれかに重なることが分かった(図1右)。このような臨界スケーリングと呼ばれる解析を行うことにより、ある磁場中で絶対零度になった時に超伝導と絶縁体のどちらかの状態になるかが判別でき、その境界の磁場として量子臨界点(絶対零度で状態変化を起こす点、用語2)を突き止めることもできた。

今回得た実験データを臨界スケーリングと呼ばれる手法で解析した結果

図1. 今回得た実験データを臨界スケーリングと呼ばれる手法で解析した結果。様々な温度と磁場における抵抗率の測定結果(左図)は、2つの曲線のいずれかにスケールし(右図)、その境界磁場として量子臨界点が求まった。

その結果、これまでの予想とは異なって、高温超伝導体は、磁場誘起の量子臨界点を2つ持つことを発見した。有限の温度から電気抵抗ゼロの超伝導状態になる低磁場領域と、絶対零度で抵抗が無限大の絶縁体状態になる高磁場領域との間に、絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることがわかった(図2)。従来は、1つ目の量子臨界点の磁場(図中H1 *)によって完全に超伝導状態が破壊されると考えられていたが、それよりも約4倍の高磁場(図中H2 *)まで絶対零度のもとでは超伝導状態になる領域が続いているという発見は、驚くべき結果であった。

今回明らかにすることに成功した高温超伝導体の磁場中における絶対零度を含む振る舞いの全体像

図2. 今回明らかにすることに成功した高温超伝導体の磁場中における絶対零度を含む振る舞いの全体像。予想に反して量子臨界点が2つ存在し、絶対零度でのみ超伝導になる領域が広く存在していることを発見した。

成果の意義と今後の展開

今回明らかにした高温超伝導体についての磁場中における振る舞いの全体像は、メカニズム理解に向けた欠かすことのできない手がかりになるものと期待される。温度の影響のない絶対零度において2段階の状態変化が存在することは、2次元性の強い高温超伝導状態において、量子的なゆらぎ(用語2)の効果が大きな役割をもっていることを示している。

臨界スケーリングに従う抵抗率の振る舞いが予想以上に広範な温度と磁場領域において成り立ったことは、高温超伝導体の磁場下の重要な領域の大半を量子的なゆらぎの効果が占めていることの証拠である。量子的なゆらぎを抑制することができれば、超伝導状態を利用できる磁場領域を約4倍まで拡張できる可能性を示すものとして、応用に向けても重要な指針を与える結果である。

用語説明

(1) 高温超伝導体 :  単体元素や合金などの従来超伝導体に比べて高い超伝導転移温度をもつ物質で、層状銅酸化物系や層状鉄化合物系などが知られている。本研究で扱った物質は層状銅酸化物系であり、ベドノルツとミュラーが1986年に発見(1987年にノーベル賞を受賞)した物質の組成を少しだけ変化させた化合物である。

(2) 量子相転移・量子臨界点・量子ゆらぎ :  物質がある状態(相)から異なる状態へ変化することを相転移という。温度がある領域では通常、熱のゆらぎ(平均からのズレ)によって相転移が起るが、熱がまったくない絶対零度でも磁場の変化などによって物質の状態変化が起る。これは量子的なゆらぎによって起るもので、こうした相転移を起こす点を量子臨界点という。

論文情報

“Two-stage Magnetic-field-tuned Superconductor-insulator Transition in Underdoped La2-xSrxCuO4 (不足ドープLa2-xSrxCuO4における磁場による2段階の超伝導-絶縁体転移)”

Xiaoyan Shi, Ping V. Lin, T. Sasagawa, V. Dobrosavljevič, Dragana Popovič,

Nature Physics, Published Online (4 May 2014); doi:10.1038/nphys2961outer

お問い合わせ先
東京工業大学
応用セラミックス研究所/大学院総合理工学研究科物質科学創造専攻 准教授
笹川崇男
〒226-8503 神奈川県横浜市緑区長津田町4259, R3-37
TEL & FAX: 045-924-5366
Email: sasagawa@msl.titech.ac.jp


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