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ナノグラフェンを水に溶かして分子膜作製に成功 次世代材料ナノグラフェン研究に新たな扉

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要点

  • 溶媒に溶けにくいナノグラフェンの水溶化に成功
  • 水中でナノグラフェン分子膜作製を可能とする「分子コンテナ」を利用した環境にやさしい新手法を開発
  • 次世代の機能性ナノ材料の作製や分析に期待

概要説明

熊本大学 大学院先端科学研究部の吉本惣一郎准教授と東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の吉沢道人准教授らの研究グループは、ミセル[用語1]型カプセルを利用した難溶性のナノグラフェン分子の水溶化と、基板上へ高配向組織化膜の作製を可能にする「分子コンテナ法」を見出しました。ナノグラフェンは有機半導体や分子デバイスの材料として期待されていますが、あらゆる溶媒に不溶であるため基礎物性の十分な理解が進んでいませんでした。この手法は、親水性と疎水性の両方の分子構造を有するミセル型カプセルを分子コンテナとして利用するもので、分子間にはたらく相互作用を利用して不溶な分子をカプセル内に取り込み、その分子を基板上に輸送し基板上で高配向に組織化させる(規則正しく並ぶ)ことで分子膜の作製を可能にしました。さらに、電気化学走査型トンネル顕微鏡を用いることにより、本手法で金電極表面に作製したナノグラフェン分子膜の分子スケール撮像に世界で初めて成功しました。

本研究で見出した「分子コンテナ法」はさらに巨大な構造を有する分子群にも適用が可能であり、物性の解明をはじめ分子の精密設計により分子サイズの導電性配線、新しい電池材料や有機半導体への展開が期待されます。さらに本手法は生体や環境への影響が懸念される有機溶媒を用いる必要がなく、実験者のみならず地球環境へも優しい新技術としても注目されます。

この研究成果は、2018年10月23日に科学雑誌『Angewandte Chemie International Edition』にオンライン公開されました。

これらの成果は、2016年に発生した熊本地震により困難に直面した熊本大学の学部4年生を東京工業大学が特別聴講生として受け入れ、そこからスタートした共同研究であり、非常事態における東京工業大学の迅速な対応・連携により結実した成果です。

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、加藤科学振興会研究助成、「東工大の星」(STAR)プロジェクトなどの支援を受けて実施されました。

ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセルの作製方法

図1. ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセルの作製方法


ナノグラフェンとV字型(両親媒性)アントラセン分子を室温で粉砕・混合するだけで、「ナノグラフェンを取り込んだミセル型カプセル」が容易に作製可能

説明

炭素原子がシート状に配列したグラフェンは金属よりも軽く優れた電気特性を有しているため、次世代の電子材料として注目されています。中でも長さや幅がナノサイズで規定された「ナノグラフェン(多環芳香族炭化水素)」は、その構造が無限に広がるグラフェンとは違った物性を示す可能性があります。ナノグラフェンは有機半導体や分子デバイスの材料として期待されていますが、ナノグラフェン分子群はあらゆる溶媒に溶けにくい性質のため基礎物性の十分な理解が進んでいませんでした。一方、共同研究者である東京工業大学の吉沢准教授が開発した親水性と疎水性両方の性質を有する分子から構成されるミセル型カプセルは、機能性分子の構造や形状を高精度で認識可能です。そこで、本研究ではミセル型カプセルを溶解度の限界に直面していたナノグラフェン化合物群へ展開しました。

この手法は、特定の化学構造(アントラセン構造)から成るミセル型カプセルを分子コンテナとして利用するもので、分子間にはたらく相互作用を巧みに利用して不溶な分子を効率よくカプセル内に取り込みます。ミセル型カプセルは卵の殻のような役割を果たしており、卵の黄身に相当する疎水性の高いナノグラフェン分子はカプセルに包まれた状態で基板表面近傍まで輸送されます。ミセル型カプセルは酸性水溶液中で分子集合状態の変化(平衡関係)が起こっており、これに伴い内部に取り込まれているナノグラフェンがカプセル内部から飛び出し、水には溶けきれず基板へ吸着・組織化することで安定化します(図2)。

分子膜作製のしくみ

図2. 分子膜作製のしくみ


分子コンテナの内部に取り込まれているナノグラフェンがカプセル内部から飛び出し、水には溶けきれず基板へ吸着・組織化することで安定化し、分子膜を作製する。

また、今回、電気化学走査型トンネル顕微鏡[用語2]を用いることにより金電極表面における3種類のナノグラフェン分子(オバレン、サーコビフェニル、ジコロニレン)の2次元組織化の分子スケール解像に世界で初めて成功しました(図3)。画像から、基板へ吸着した分子が規則正しく並び、高配向な分子膜が形成されている様子がわかります。

電気化学走査型トンネル顕微鏡による分子スケール解像

図3. 電気化学走査型トンネル顕微鏡による分子スケール解像


作製した分子膜のイメージ。基板へ吸着したジコロニレン分子は規則正しく並びかつ各分子が分子構造を反映した形状で解像され、高配向な分子膜が形成されている様子がわかる。

本研究で見出した「分子コンテナ法」により、これまで溶解が困難であったナノグラフェンの水溶化とその2次元組織化に成功し、限界に直面していた分子膜作製に留まらず、ナノグラフェン科学の新たな扉を開きました。この手法は、ナノグラフェンを水溶化できるため生体や環境への影響が懸念される有機溶媒を用いる必要がなく、実験者のみならず地球環境へも優しい技術としても注目されます。

この手法はさらに巨大な構造を有する分子群にも適用が可能であり、基礎物性の更なる解明をはじめ分子の精密設計により分子ワイヤ、新しい電池材料や薄膜結晶成長への展開が期待されます。

用語説明

[用語1] ミセル : 石鹸の場合、親水性と疎水性(両親媒性)の両方の性質を持つ分子が主成分となっている。この分子は水中で凝集して内側が疎水(親油)部、外側が親水部となった球状の構造体となって油性の汚れを内側に包んで水に流れていく。この両親媒性の構造体のことをミセルという。

[用語2] 電気化学走査型トンネル顕微鏡 : 探針で表面を走査し基板と探針の間に流れる「トンネル電流」の変化を表面の凹凸として捉えることで、物質表面を原子レベルで解像する顕微鏡。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
A Supramolecular Approach to the Preparation of Nanographene Adlayers Using Water‐Soluble Molecular Capsules
著者 :
Sakura Origuchi, Mai Kishimoto, Michito Yoshizawa, Soichiro Yoshimoto
DOI :

お問い合わせ先

熊本大学 大学院先端科学研究部

吉本惣一郎(准教授)

Email : so-yoshi@kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3948

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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