東工大は、本学学生が強みを持つ理工系の専門知識を社会につなぐための知性と人間性を養うべく、リベラルアーツ教育を重視しています。2016年の教育改革によって設立されたリベラルアーツ研究教育院では、年齢や専門分野の異なる学生たちに議論の場を与え、それぞれの気付きを共有し、思考の質を高める授業が数多く生まれました。そうした授業を受けた学生たちが学内各所で生き生きと議論する姿を見かけるようになりました。
「理系なのに文系を学ぶ」から「理系だから文系を学ぶ」へ。東工大ならではの画期的な大学教育が育っています。
今回はそんな魅力的な文系教養科目の授業を、受験生向け広報誌『Tech Tech-テクテク-』の学生企画メンバーが、東工大を目指す後輩たちのために取材しました。
学生企画メンバーから見たそれぞれの授業の様子や、担当の教員にインタビューし、授業の狙いや進め方の工夫、さらに「理想の授業は何か」を聞きました。
教養特論:現代社会論
この講義では、現代に生きる学生たちに、憲法や安保、日米関係、アジアや中東の国際関係、宗教の歴史や慣習など社会に出てから必要とされる現代社会の認識力を身につけることを目標としています。新聞、雑誌、テレビ、ネットで流れる様々なニュースを理解し、基本的な知識を習得してから、その意味や背景を独自に判断・評価して学生自身の見解を発表するという講義の流れになっています。
池上彰特命教授インタビュー
教えるとき気を付けていることはありますか?
歴史などの社会科目を苦手にする学生が多く、それは社会科目を暗記と思い込んでいることが原因だと思うので、裏話を話しつつ因果関係を教えて興味を持ってもらうよう気を付けています。
池上先生の考える理想の授業とは?
一方的に教えるのではなく、授業をきっかけに1つ1つを自分の問題としてとらえ、自分で考えるようになってほしいです。
先生から見た東工大生とは?
ザ・理系といった感じで視野が狭かったり服装がダサかったりするイメージもありますが、頭の回転は速く真面目だと感じます。
未来の東工大生へ
東工大に入ることが現時点の目標だと思いますが、大学に入ってから何を学ぶか・どうやって生きていくかを学んでほしいです。また、世界に目を向け、将来は世界で活躍してほしいです!
東工大立志プロジェクト
この授業は様々な分野の第一線で活躍するゲスト講師による大人数講義と、少人数クラスで行うグループワークの2つのパートに分かれています。グループワークでは講義の内容について学生が自由に話し合いますが、その雰囲気は和気あいあいとしていて個性的な意見がたくさん出ます。
三ツ堀広一郎准教授からのメッセージ
東工大立志プロジェクトはリベラルアーツ研究教育院の教員が総力を挙げて取り組んでいる授業です。目的の一つに「学生同士のコミュニケーションの促進」があり、このような対話形式の授業を必修にしている大学は日本では少ないと思います。そしてもう一つ、最大の目的は、与えられた問いに対して効率よく適切な解を出すという「受験マインド」をリセットすることです。大学においては「問いを立てる」ことが非常に重要であり、それこそが勉強の目的です。入学直後に受講するこの授業を通してそのことを少しでも知ってもらいたいです。
リーダーシップ道場
大学院生向けの授業であるリーダーシップ道場では、支援型リーダーシップについて学生同士がディスカッションしながら学んでいます。高校までの授業とは大きく違い、この授業では先生が学生に一方的に教えることはほとんどありません。学生は積極的に意見を出し合ってリーダーシップについての考えを深めています。
林直亨教授からのメッセージ
この授業では、いかにわかりやすく教えるかというよりも、いかに学生が答えのない問いに対して考えて話し合えるよう促せるかに注力しています。「これが最善のリーダーシップだ」という解はありません。このような答えのない問題を考えてもらいたいと思っています。
意思決定論B
この授業では、ゲーム理論の基礎と、そこから派生した意思決定に関わる様々な数理的理論を扱います。複数の意思決定者による競争の中で、意思決定者が自分にとってより良い結果を達成しようとする「個人の合理性」と、社会全体にとって望ましい「社会の効率性」を両立させるためのアイデアを学ぶことができます。
猪原健弘教授からのメッセージ
競争の状況を数理的に表現し、分析していくことを楽しんでもらいたいと思います。自分の利益を追求したはずなのに、社会全体で見ると実は無駄が多い結果になっていた、ということは、実生活でも実社会でもよく起こります。この授業で学んだことを生かして、本当の意味で賢く意思決定しましょう。
人文学系ゼミ(現代宗教/スピリチュアリティ論)
現代宗教に関する様々なテーマに基づいて議論をしていく授業です。毎週、学士課程から大学院まで様々な学年・専門分野の学生が集まって、少人数で議論やグループワークをしながら授業を行います。時には、他大学の学生や、神職の方を招いてディスカッションを行ったり、フィールドワークを行うこともあります。今年度の始めには、映画『永遠の0』を鑑賞し、特攻は自爆テロなのか?などについて議論を進めていきました。通常の文系授業とは異なり、ゼミでは各々が自分の意見を発言していくので、自分の意見を他人に伝える力も身につきます。
弓山達也教授からのメッセージ
通常の講義とは違い、ゼミではその時の学生のニーズにあったテーマを提供していて、これまでテーマが被ったことはありません。東工大生はコミュニケーションが苦手だと言われがちですが、顔を上げて授業を受けていて、皆明るいと思います。笑いがあり最後にホロリとさせる授業が理想の授業だと思います。
コミュニケーション論A
コミュニケーション論は、東工大立志プロジェクトの少人数グループワークの精神を受け継いで、生身のコミュニーケーション能力の向上を目指した授業です。初対面の人と話すコツや、アイディアを引き出す方法、聞き方のスキルなどの紹介を挟みつつ、4人の少人数グループで対話をするのがメインになっています。お昼後すぐの授業でも眠そうな学生は一人もいなく、皆生き生きとこの授業で初めて知り合った学生同士が話しているのが印象的でした。
中野民夫教授からのメッセージ
教師が頑張って教えるより、学生同士が自発的に学びあって成長しあえる授業が理想だと思います。この授業は参加型の授業で、学生が能動的に学習できるように心がけています。将来は皆さんに、話しやすい場を気軽に作って協働共創を促すリーダーシップを発揮し、活躍して欲しいと思っています。
本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ~テクテク~ 34号(2018年9月)」に掲載されています。広報誌ページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。