国立科学博物館の「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」に、東京工業大学博物館が所蔵する「世界初の光ファイバ通信実験に用いられた変調素子(ADP結晶)」が登録されました(登録番号:第00272号)。9月10日には東京・上野の国立科学博物館講堂で登録証及び記念盾授与式が行われました。
国立科学博物館による「未来技術遺産」の登録制度は、2008年に始まり今年度で12回目を迎えました。日本の科学技術(産業技術を含む)の発展を示す貴重な歴史資料や、国民の生活や経済、社会、文化のあり方に顕著な影響を与えた科学技術に関する史資料を、国の「重要科学技術史資料台帳」に登録。定期的にアフターケアをしていくことで、それぞれの所蔵先(企業や博物館など)での保存を応援するとともに、WEBによる情報公開によって科学技術の開発を担ってきた先人たちの経験を広く伝え、次世代に継承することを目的に創設された制度です。
今回は、一眼レフカメラの完成形として世界的に評価の高い「ニコンF」(1959年製作)、国産初の使い捨てプラスチック製注射器「無菌注射器 ジンタンシリンジ 5 mL」(1963年製作)、カシオ計算機の耐衝撃腕時計「G-SHOCK」の一号機(1983年製作)など、新たに26件が未来技術遺産に登録されました。
そしてこれらと並び登録されたのが、東工大博物館2階の常設展示室に展示している光ファイバを用いた通信実験装置です。1963年5月の東工大全学祭において、末松安晴助教授(現 東京工業大学栄誉教授)の指導のもと、世界初の光ファイバ通信の公開実験が行われました。この実験では、マイクロフォンからの音声信号を、ADP(リン酸二水素アンモニウム、Ammonium Dihydrogen Phosphate)結晶を用いた光変調器でHe-Ne(ヘリウム-ネオン)レーザ光にのせガラスの光ファイバ束に通し、受信側では光電子増倍管の受光素子で電気信号に戻して(復調)、その音声信号をアンプで増幅しスピーカーを鳴らしました。
この通信実験が「基本原理は現代のインターネットを支える光ファイバ通信技術と同等であり、通信インフラを支える光通信の可能性を最初期に示したものとして重要である」と評価され、光ファイバ通信時代の幕開けを告げる技術として登録されました。
東京・上野の国立科学博物館講堂で行われた登録証授与式には、末松名誉教授と佐藤勲理事・副学長(企画担当)が出席し、登録証と記念盾が授与されました。
なお、常設展示室の実験装置は2008年7月に再現実験を行った際のものであり、今回の登録対象となった資料は当時使用されたADP結晶のみとなります。
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