東工大未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、2018年9月に発足した新しい組織です。大学が設置した組織としては珍しく社会への貢献を第1の目的として掲げ、「豊かな未来社会像を学内外の多様な人材と共にデザインし、描いた未来へ至る道筋を提示、共有することで、広く社会に貢献すること」を活動目標としています。
まだ誰も見たことのない未来を、その実現に向けた道筋を示しつつわかりやすく提示するという課題は、予想よりはるかに困難なものでしたが、2018年度の活動により、東工大ならではの「東工大未来年表(仮称)」を作成し、そこから未来社会像を創出するという計画を立て、2019年度の取組を開始しました。
DLab最新動向
DLabは7月18日、東工大大岡山キャンパス百年記念館において科学技術創成研究院基礎研究機構の広域基礎研究塾と共催で「未来社会と自身の研究との繋がりを考えるワークショップ」を開催しました。
今回のワークショップでは、広域基礎研究塾の塾生15人がDLabと同様の方法を用い、「未来要素」から「未来のシナリオ」を作成することで、自身の研究内容と未来社会との繋がりについて新たな気づきを得るとともに、チーム毎に分かれて共同作業を行うことで、俯瞰力、想像力、他者と協働する力を強めるのが狙いです。
ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。
DLab構成員に聞く「DLabってどんなところ?」
人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)
東工大千手観音で幸せな未来を
DLab Team Imagine(チーム イマジン)所属 上田紀行
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院長
1982年東京大学 教養学部 文化人類学科卒業、1989年東京大学 総合文化研究科 博士課程単位取得退学、2008年岡山大学 医歯薬総合研究科 博士課程修了、1993年愛媛大学 助教授、1996年東京工業大学 大学院社会理工学研究科 価値システム専攻 助教授、2007年同 准教授、2012年東京工業大学 リベラルアーツセンター 教授、2016年より現職
上田リベラルアーツ研究教育院長の専門分野は文化人類学です。2016年に設置されたリベラルアーツ研究教育院の初代院長を務め、東工大のリベラルアーツ教育を推進しています。東工大では学士課程から博士後期課程まで全ての課程でリベラルアーツ教育を行っています。少人数でのディスカッションやプロジェクトでの刺激的な交流の中で、世界を知り、自分自身の可能性を探求しながら、自ら問いを発し、感じ、考え、発言し、行動する力をダイナミックに養っていきます。これからの社会を牽引する真のリーダー育成を目指して、東工大のリベラルアーツ教育のチャレンジが続きます。このリベラルアーツ教育とDLabの活動には深いつながりがあると語る上田研究教育院長に、お話をうかがいました。
DLabでは、ワークショップなどで少人数でのグループワークを行い、人々が望む未来社会は何かを話し合い、「未来のシナリオ」を作成しました。2016年に始めた「東工大立志プロジェクト」は、学士課程入学直後から全学生が履修する必修科目で、大人数での講義とDLab同様の少人数でのグループワークを交互に行っています。そこでは自分が学ぶ技術や研究で「世界の貧困問題にチャレンジしたい」や「人々を救う医薬を創薬したい」など、大きな志を語る学生が増えてきました。これまでは、世の中のためになりたいと語ると、「変わっているね」と言われたり、「何を熱くなっているの」と冷笑されたりといった雰囲気がありました。しかし、講義やグループワークを通して本音を語り合うことで、自分の中にある志や将来の夢を自由に発言できる空気になりました。学生が、「こんなことを言っても良い大学なのか」と思えることが重要なのです。それが未来の社会をDESIGNすることにもつながると思います。
学士課程3年になると、これまでの教養教育で何を学んだか、それが今後どのように活きてくるかをレポートにまとめた「教養卒論」に取り組みますが、多くの学生が未来の社会について書いています。日頃から、「あなたがこれから学ぶ専門分野は社会にどのようなインパクトを与えるか」、「どのように社会に貢献できるのか」と問うているので、当然、未来社会のことを考えざるを得ないわけです。こういった学生達が進級をし、それぞれの専門とする研究室に入り、教養教育で学んだことを周囲に広げ、大学全体を巻き込んで欲しいと思います。
DLabの活動には学内の構成員だけでなく学外の方も参加しており、大学の中とは違った考えや感性をもたらしています。大学と社会が協働をし、刺激しあってお互いに変化し、自己発見を繰り返しながら潜在的な可能性を広げられればと思っています。
科学技術というものは千手観音だと思います。全ての衆生の苦しみを何としても救いたいという観音様の発願を、千手観音は千の手で救おうとする。千の技術が観音様の心を持って使われれば、人々のありたい未来が実現すると思います。DLabの活動がそのように発展していくことを期待しています。
社会との対話で未来を創っていく
DLab Buzz Session(バズ セッション)所属 中野民夫
東京工業大学 リーダーシップ教育院、リベラルアーツ研究教育院 教授
1982年東京大学 文学部 宗教学科卒業、株式会社博報堂勤務を経て、2012年同志社大学 大学院総合政策科学研究科 教授、2015年より現職
中野教授の専門分野はワークショップやファシリテーションです。2017年に発表した「東工大ステートメント(Tokyo Tech 2030)」(以下、東工大ステートメント)の策定にあたっては、大学執行部や中堅・若手の教職員を中心に数回のワークショップを開き、対話を繰り返しました。このワークショップは非常に好評でしたが、参加者を限っていたこともあり、教職員や学生がもっと幅広く一緒になって東工大の未来を考えようということで、総勢207人が一堂に会した大規模なワークショップを開催しました。それを更に発展したものとして、DLabのキックオフイベントでワークショップを行い、中野教授がメンバーに名を連ねることになりました。発足から約1年が経ち、DLabの今をどう思うか、そしてこれからのDLabの展望について、お話をうかがいました。
DLabの活動の柱の一つとして、社会との関わりがあります。これまで「東工大の未来を語り合う大ワークショップ」などで行ってきたことは、教員、職員、学生の壁を超えて一丸となって東工大の未来を語ろうということでした。年齢や職種などに違いはあっても、同じ東工大の一員として大学の未来を考えよう、というスタンスです。これに対してDLabでは、社会と対話をしながら未来を洞察し、それを実現する科学技術を考えるというスタンスであることが大事なのだと思います。大学の役割には、教育・研究のほかに、社会貢献や社会連携があります。私がかつて教授を務めていた大学では、地元の商店会と学生が一緒に七夕祭りを盛り上げたり、祇園祭のごみゼロ運動に取り組んだりと、地域社会の問題に学生が積極的に関わっていました。こういった地域社会と連携した活動は、日本全国の大学で取り組まれていると思います。ところが東工大では、地域社会への関わりが薄いと感じます。理工系の大学であり、多くの学生が修士や博士に進学する専門性の高い大学であることが、地域社会の身近な問題に結びつきづらいのかもしれません。しかし、これからの社会がどうなるか、どうしたいかを考えるためには、学生が社会性や人間性をもっと幅広く身につけた上で、社会と一緒に未来の科学技術を考えないといけません。SDGs(持続可能な開発目標)など、世界の今後を見据えてより視野を広げていくことが重要かと思います。
現時点のDLabは、創造的な活動には不可欠な「混沌」の時期に入っていると思います。何か大きなものを生み出す前には生みの苦しみの時代があって、新しいことをやろうとしても思い通りにはいかない。今後、ワークショップなどで社会との対話を繰り返し、クリエイティブカオス(創造的混沌)を経て少しずつ前に進んで行くのを楽しみにしています。
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