東京工業大学の未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、「人々が望む未来社会とは何か」を社会と共に考え、デザインしていくための組織です。DLabではこれまで学内外の有識者を中心に豊かな未来社会像を構想する「Team Imagine」(チーム・イマジン)、一般参加者も含む多彩な方と語りあう場を作る「Buzz Session」(バズ・セッション)、未来社会像の実現に強い説得力を持つように具現化に向けたシナリオを描く「Team Create」(チーム・クリエイト)の3チームを中心に、検討を進めてきました。9月26日には「Team Imagine」をはじめとするDLabのメンバーと日本を代表する企業各社の代表が東工大の大岡山キャンパスでワークショップを実施しました。その模様をレポートします。
「未来のシナリオ」が実現した時の社会について考える
DLabでは2018年10月の発足から、イベントやワークショップなどを重ね、学内外の有識者や学生、一般の方など幅広い視点から未来社会のあり方を検討してきました。その上で各所から出たアイデアをまとめ、「(将来、人間は)場所の束縛から解放される」など「起こりうる事象」として表現した「未来のシナリオ」をおよそ20点作成。その要素を時系列で整理した「東工大未来年表(仮称)」を、未来を俯瞰する最初のツールとして発表すべく、シナリオの充実化を進めています。
今回のワークショップでは、この「未来のシナリオ」の中から、「五感を自在に着脱することで、深い共感体験が可能になる」というシナリオを選択。それが実現した場合にどんな商品・サービスが生まれるかを検討する形で、社会や自分にどういった変化が起こるかを考えていきました。
当日は、学内外の有識者で構成されたDLabの「Team Imagine」をはじめとするDLabのメンバー14名と旭化成、ソニー、NEC、NTT東日本、日立製作所といった日本を代表する企業5社から13名の計27名が参加。DLab機構長を務める佐藤勲総括理事・副学長による「“将来の社会はこうあるべき”という『べき論』ではなく、こう“ありたい”という個人の自由な視点から、楽しく、真剣に未来社会像を考えていきましょう」という挨拶でワークショップが始まりました。
グループワークで未来の技術を活かした商品・サービスを検討
はじめに、東工大環境・社会理工学院の梶川裕矢教授が「科学技術、未来社会とイノベーション」というテーマでプレゼンテーションを行いました。未来社会をデザインする手段として、望む未来像を起点に必要な技術や現在すべきことを考える「Backcasting」(バックキャスティング)や、予測が本当になったらどんな社会が実現されるか思い描く「Envisioning」(エンビジョニング)などの方法を紹介しました。
その後は5~6人のグループに分かれた参加者が、「他者や静物・生物などの知覚や感覚を体験できるようになったら、どんな商品・サービスが実現できるか」というテーマに沿って、個人で3つのアイデアを考えました。
続いてグループ内で各自のアイデアを発表しました。さらに、各グループが企業の新商品開発チームという設定で、メンバーのアイデアを集約しながら意見を出し合い、どんな人に向け、どのような商品・サービスを開発して、どういった価値を提供するかを考えました。
完成した案は、グループの代表が全員に発表します。「自分と一緒に行動していた相手の立場から、ものの見え方、感じ方を追体験できるサービス」「素粒子、動物、人間、地球などさまざまな無機物・有機物の感覚を共有できるサービス」などユニークなアイデアが次々と紹介されました。
「ボーダーを、超えよう。」を体現するワークショップに
ワークショップ後半では、グループの組み替えを行い、内容をさらに洗練させていきます。前半との違いは、そのサービスや商品を実現するために必要な技術、社外連携の必要性、規制緩和の必要性、実現に向けた課題についても検討すること。加えて商品やサービスが実現した結果、社会にどんな変化が起こるかも考えます。
各チームでは、「目や耳がない植物の感覚を共有する場合、どう再現したらいいか」などと意見を交わしながら、商品・サービス案を完成させ、再度グループの代表が全員に発表をしました。最後に本日の議論全体を踏まえながら、参加者が改めて実現したいサービス・商品を個人で検討し、学びを深めました。
その後は同キャンパス百年記念館に場所を移して交流会を開催しました。交流会には益学長も出席し、参加者と意見交換を行いました。参加者からは「会社では、ここまで長いスパンの未来検討はなかなか行わないので刺激的だった」、「他の企業や研究者の方の意見が聞けて良いインプットができた」などの感想が寄せられました。今後、DLabは、来年1月の「東工大未来年表(仮称)」の公表に向け、さらに幅広い視点から未来社会像の検討を進めていきます。
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