東京工業大学は7月6日、第19回となる2020年度挑戦的研究賞の受賞者10名を発表しました。うち3名は、末松特別賞にも選ばれました。
授賞式は8月4日、オンラインのビデオ会議システムで行われました。
挑戦的研究賞は、本学の若手教員の挑戦的研究の奨励を目的として、世界最先端の研究推進、未踏の分野の開拓、萌芽的研究の革新的展開または解決が困難とされている重要課題の追求等に果敢に挑戦している独創性豊かな新進気鋭の研究者を表彰します。受賞者には、支援研究費を贈ります。40歳未満の准教授、講師又は助教が対象です。これまで本賞を受賞した研究者からは、多くの文部科学大臣表彰受賞者が生まれています。
挑戦的研究賞受賞者のうち特別に優れている研究者には「学長特別賞」を贈っていましたが、2019年度から「末松特別賞」を贈っています。
「末松特別賞」は、元学長の末松安晴栄誉教授による若手研究者支援への思いを継承し設けられた「末松基金」による顕彰です。「末松基金」は、末松栄誉教授が2014年、日本国際賞を受賞した際、賞金の一部を東工大に寄附し、東工大が若手の研究活動を奨励するため設立しました。多様な分野で、未開拓な科学・技術システムの発展を予知・研究し、隠れた未来を現実の社会に引き寄せる研究活動を奨励するため、若手研究者を中心に支援しています。
2020年度 東工大挑戦的研究賞 受賞者
受賞者 |
所属 主担当系または担当研究所 |
職名 |
研究課題名( * は末松特別賞受賞者) |
---|---|---|---|
理学院 物理学系 |
助教 |
革新的飛跡検出による高エネルギー物理階層を拓く新粒子探索 |
|
理学院 化学系 |
准教授 |
分子ジッパー触媒によるラダーポリマーの合成 |
|
物質理工学院 材料系 |
准教授 |
* 環状構造を持つ超分子メカノフォアの開発 |
|
情報理工学院 情報工学系 |
准教授 |
* 深層Plug-and-Play法-写像理論的解析と逆問題応用- |
|
情報理工学院 数理・計算科学系 |
講師 |
圏論化・リー理論・計算機を用いた対称群の表現論の研究 |
|
環境・社会理工学院 建築学系 |
准教授 |
多種多様なビッグデータを用いた深層学習による詳細な建物属性推定に関する研究 |
|
准教授 |
映画分析をテーマとした学術的英作文教育の研究 |
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准教授 |
* 物質中の点欠陥に関する統合的理解とその予測 |
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助教 |
アンチオーミック挙動を示す有機金属単分子ワイヤー開発への挑戦 |
||
助教 |
新規ハライド系発光層と酸化物半導体の輸送層を用いた高効率青色ELの開発 |
(敬称略)
末松特別賞受賞者のコメント
相良剛光 物質理工学院 材料系 准教授
一分子レベルで微細な力を検出・可視化できる「メカノフォア」と呼ばれる分子骨格が、近年盛んに研究されています。我々の研究グループでは、弱い分子間相互作用を巧みに利用した、共有結合の切断を伴わない「超分子メカノフォア」を開発しています。超分子メカノフォアは、良好な可逆性を持ち、極めて微小なpNオーダーの力も検知できるなど、様々な長所があります。
我々はこれまでの研究の中で、インターロック分子であるロタキサンの持つ特殊な構造に着目した「ロタキサン型超分子メカノフォア」を開発しました。しかしこの超分子メカノフォアは、合成が少し煩雑であるという欠点がありました。受賞対象となった研究では、ロタキサンより単純な分子構造を持つメカノフォアを開発することを目指しています。
本研究は、これまでに所属してきた研究室のスタッフの皆様、多くの共同研究者と共に成し遂げてきた研究結果が礎となり、現在進行しているものです。この場を借りて関係者の方々に厚く御礼申し上げます。
小野峻佑 情報理工学院 情報工学系 准教授
この度は、栄誉ある東工大挑戦的研究賞および末松特別賞まで頂き大変光栄に存じます。日頃から自分の研究生活を支えてくださっている共同研究者の方々や学生の皆さんのお陰であると実感しております。
本受賞に繋がった研究テーマは、深層ニューラルネットワークと数理最適化アルゴリズムの融合において生じる理論的未解決課題に挑戦するものです。今後、深層学習のような高度なブラックボックス技術を、信頼性・説明性を担保しながら様々な科学・産業分野へ応用していく上で、非常に重要な研究の方向性であると考えています。
本受賞を励みに、情報科学・工学の発展に微力ながらも貢献できるよう今後も研究活動に邁進していく所存です。
熊谷悠 科学技術創成院 フロンティア材料研究所 准教授
多くの先進材料において、内部に存在する点欠陥が、良い面・悪い面の双方で材料特性発現の起源となります。そこで、点欠陥の形成エネルギーと局所電子構造を正しく理解することが、優れた次世代材料創成における鍵となります。しかしながら、実際に行える実験の数と種類には限りがあるために、点欠陥の特性を実験結果のみから理解することは極めて困難です。そこで最近では、固体の電子構造を量子力学の基本方程式に基づき数値計算する方法により、点欠陥の性質を高精度に予測する研究が行われるようになりました。
私の研究では、この数値計算に基づく手法を、数千物質中の点欠陥に適用することで、点欠陥に関する広い視野での統合的な知見を得ることを目的としています。このような材料科学における普遍的な知見は、半導体材料、触媒材料、イオン伝導体など、材料研究において幅広い波及効果をもたらすと思われます。
最後に、この度、栄誉ある賞を賜りまして大変光栄に感じております。大場先生をはじめとした共同研究者の方々に厚く御礼申し上げますとともに、本学の多大なご支援に深く感謝いたします。
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