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同一の細胞から複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術開発に成功

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九州大学生体防御医学研究所(大川恭行教授、原田哲仁准教授、前原一満助教)、東京工業大学科学技術創成研究院細胞制御工学研究センター(木村宏教授、半田哲也特任助教ら)、東京大学定量生命科学研究所(胡桃坂仁志教授、佐藤祥子特任助教)の研究グループは、少数の細胞からエピゲノム情報[用語1]を取得できる「クロマチン挿入標識(Chromatin Integration Labeling: ChIL)法」に関する詳細な実験手法を発表しました。さらに、これまでの解析ではひとつのサンプルでは単一のエピゲノム情報しか取得できませんでしたが、今回、同一サンプルから複数のエピゲノム情報を同時に検出する技術(Multi-target ChIL: mtChIL)の開発にも成功しました。

人体は、多様な30兆個の細胞で構成されています。多様な細胞は、数万種類の同一の遺伝子群(ゲノム)から、選択的に遺伝子を使い分けることで固有の機能を獲得します。この遺伝子の使い分けには、ゲノムDNAに結合するヒストンの翻訳後修飾[用語2]や転写因子の結合により調節されています。このようなエピゲノム情報を解読することにより、種々の細胞内で使われる遺伝子と使われない遺伝子がどのように区別されるのかということを調べることができます。これらのエピゲノム情報は、発生や分化、がん化などの過程で変化するため、その全貌を明らかにし、調節機構を解明することで、人体の成り立ちや病態を遺伝子の選択性から理解することが可能になります。エピゲノム情報やその解析技術は、組織再生や幹細胞[用語3]を用いた再生医療などの応用にも必要となるため、これまでも多くの国際プロジェクトによりエピゲノム情報の解読が進められてきました。

しかしながら、少数の細胞を用いたエピゲノム解析は高度な技術が必要とされます。研究グループは、昨年、単一細胞レベルでエピゲノム情報を解読する世界初の高感度技術であるChIL法を発表しました。今回、この技術に関する詳細な実験手法を発表したことにより、広く研究者にこの技術が普及すると期待されます。さらに、研究グループは、様々なエピゲノム情報を同時に取得可能な発展型技術mtChILの開発に成功しました。従来の技術では1度の解析で単一のヒストン修飾あるいは転写因子の結合情報のみしか解析できないため、エピゲノム情報の本質である「組み合わせ」の解明には至っていませんでした。これまで個別にしか解析出来なかった因子の組み合わせの網羅的な解析が可能になることから、人為的な遺伝子操作技術の開発が期待され、遺伝子発現の破綻であるがん、特異的な遺伝子発現誘導が必要となる再生医療など多方面への応用が期待されます。

本研究の成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST「細胞ポテンシャル測定システムの開発」(研究代表者:大川恭行)、さきがけ「組織特異的ゲノム構造の再構築技術の開発」(研究代表者:原田哲仁)、文部科学省科学研究費新学術領域研究「遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル、JP18H05527(領域代表者:木村宏)」などの支援により得られたものです(詳細は以下「研究費情報」参照)。

本研究成果は、2020年8月18日(火)午前0時(日本時間)に英国科学雑誌「Nature Protocols」で公開されました。

従来は複数のエピゲノム情報を個別で解析していたが(上図)、本法mtChILでは、同時に複数のエピゲノム情報を解析できる。

図1. 従来は複数のエピゲノム情報を個別で解析していたが(上図)、
本法mtChILでは、同時に複数のエピゲノム情報を解析できる。

研究成果のポイント

  • ChIL法の詳細な実験手法を発表した。
  • 同一サンプル内から複数のエピゲノム情報を同時に取得する技術mtChILを開発した。
  • mtChILによる様々なエピゲノム情報の組み合わせ解析により、幹細胞をはじめとする遺伝子発現制御ネットワークの解明が期待される。

研究者からひとこと

(左)東京工業大学 半田哲也 特任助教 (中央)九州大学 原田哲仁 准教授 (右)九州大学 前原一満 助教
(左)東京工業大学 半田哲也 特任助教
(中央)九州大学 原田哲仁 准教授
(右)九州大学 前原一満 助教

これまでのエピゲノム解析は、1サンプル当たり1つの情報を得ることが一般的であったため、多数の因子を解析する場合の障壁となっていました。mtChIL法は、これまで解析ができなかった組み合わせ情報の解読が可能です。今後の国際プロジェクトでの活用等研究分野を劇的に発展させることを期待しています。

研究費情報

本研究の成果は、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)研究領域「統合 1 細胞解析のための革新的技術基盤」における研究課題「細胞ポテンシャル測定システムの開発JPMJCR16G1(研究代表者:大川恭行)」、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」における研究課題「組織特異的ゲノム構造の再構築技術の開発JPMJPR19K7(研究代表者:原田哲仁)」、文部科学省科学研究費新学術領域研究「クロマチン潜在能JP18H05527(領域代表者:木村宏)」、日本学術振興会科学研究費JP17K17719 JP18K19432、JP19H03211、JP19H05425、JP20H05368、JP18H04904、JP19H04970、JP19H03158、JP20H05393JP18H05534、JP18H04802、JP18H05527、JP19H05244、JP17H03608、JP20H00456、JP20H04846、JP20K21398、JP17H01417、日本医療研究開発機構研究費JP19am0101076、JP19am0101105、JP20ek0109489h0001、九州大学生体防御医学研究所共同利用・共同研究などの支援により得られたものです。

用語説明

[用語1] エピゲノム情報 : 後天的なゲノム制御情報。DNAの塩基配列に加えて、DNAそのものやDNAに強く結合するヒストンの修飾などにより、遺伝子の発現が制御される。

[用語2] ヒストン修飾 : DNAに強く結合するヒストンタンパク質の翻訳後修飾。メチル化やアセチル化など多様な修飾により遺伝子発現の抑制や活性化などが制御される。

[用語3] 幹細胞 : 組織や器官を構成する分化した細胞の元となる細胞。多能性を持つ胚性幹細胞やiPS細胞などがよく知られているが、特定の細胞にのみ分化するような成体幹細胞も存在する。これらの幹細胞は存在量が少なく、その解析が難しい。

論文情報

掲載誌 :
Nature Protocols, 2020
論文タイトル :
Chromatin integration labeling for mapping DNA-binding proteins and modifications with low input
著者 :
+Handa T, +Harada A, +Maehara K, Sato S, Nakao M, Goto N, Kurumizaka H, *Ohkawa Y, *Kimura H (+共筆頭著者、*共責任著者)
DOI :

お問い合わせ先

研究に関すること

九州大学 生体防御医学研究所
附属トランスオミクス医学研究センター
教授 大川恭行

E-mail : yohkawa@bioreg.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-642-4534 / Fax : 092-642-6526

東京工業大学 科学技術創成研究院
細胞制御工学研究センター
教授 木村宏

E-mail : hkimura@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5742

報道に関すること

九州大学 広報室

E-mail : koho@jimu.kyushu-u.ac.jp
Tel : 092-802-2130 / Fax : 092-802-2139

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東京大学 定量生命科学研究所 総務チーム

E-mail : soumu@iqb.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7813 / Fax : 03-5841-8465


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