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新鉱物発見、maruyamaite(丸山電気石)と命名 ―世界初、ダイヤモンドと共存し、カリウムを多量に含む特殊な電気石―

maruyamaite (丸山電気石)とは

  • カリウムを多量に含む、世界中でも非常にまれな電気石
  • ダイヤモンドと共存できるほどの高圧下でも安定な電気石(世界初の発見)

maruyamaiteの存在は岩石がかつて地球深部の高圧を経験していることを示唆し、一方、電気石の形成には地球表層に集まる元素が必須であり、地球表層と内部の物質循環を解明する手がかりになる

概要

早稲田大学・地球物質科学研究室の博士課程学生清水連太郎(創造理工学研究科D4)および小笠原義秀教授(教育・総合科学学術院)により発見されたカリウムを含む特殊な電気石(一般にはトルマリンとも呼ばれます)が、新鉱物「学名:maruyamaite(日本語名:丸山電気石)」として国際鉱物学連合(IMA)に承認されました。高圧条件下で形成されるダイヤモンドと共存する電気石は、世界で初めての発見です。

プレートがマントルに沈み込む際に起こる大陸衝突に伴って地球表層物質も深部に運び込まれ、コース石やダイヤモンドを含む超高圧変成岩となって再び地表に戻ります。電気石が形成されるためには地球表層に濃集しているホウ素が必須であり、この丸山電気石は地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていると考えられ、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。小笠原研究室では、超高圧変成岩等の地球深部に由来する岩石を研究することで、地球内部の物質の様子やその循環を解明していくことを目指しており、今回の発見はその目的に大きく貢献するものです。

丸山電気石の特徴

丸山電気石は、カザフスタン共和国北部のコクチェタフ(Kokchetav)超高圧変成帯から採取された、約5億年前に形成された岩石から発見されました。この岩石は花崗岩に似ている鉱物組み合わせを持ちますが、電気石が岩石全体の約20%程度含まれています。発見のきっかけとなったのは、電気石中に微小なダイヤモンドを発見したことです。ダイヤモンドを含む電気石を詳しく分析したところ、K2O含有量が最高で約2.7%という、電気石として他に類を見ない多量のカリウムを含んでいることが判明しましたShimizu & Ogasawara, 2005 [6])。電気石には通常ナトリウムやカルシウムが含まれますが、カリウムを主成分として含む電気石は世界中でも非常にまれです。本岩石中の電気石は、結晶の中心から外側に向かってカリウムの含有量が減少していく組成累帯構造を示し、ダイヤモンドを含んでいる中心部分ではカリウムがナトリウム・カルシウムより非常に多くなっています。このことが新鉱物と認定される決め手となり、電気石のうちカリウムの多い部分だけが丸山電気石ということになります。

今回新鉱物として認定された丸山電気石の理想化学組成は、K(MgAl2)(Al5Mg)(BO3)3(Si6O18)(OH)3Oという複雑な化学式で表されます。

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(A)丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。(B)電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。(C)丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経気と経験を必要とする。

  • (A)
    丸山電気石の顕微鏡写真。茶色の電気石のうち、赤色破線で囲まれた部分が丸山電気石。
  • (B)
    電気石(写真Aと同じ粒子)のカリウム元素マッピング結果。暖色系の部分ほどカリウムが多く含まれる。
  • (C)
    丸山電気石に含まれるダイヤモンドの顕微鏡写真。ダイヤモンドは10µm程度と非常に細粒であり、岩石の専門家でも見つけるのは至難の業で、研究には根気と経験を必要とする。
  • 新鉱物認定と命名の由来

    鉱物が新しい種として認定されるためには、化学組成、結晶構造、物理的特性など、必要な記載データを網羅した申請書を国際鉱物学連合(IMA)の新鉱物・命名法・分類委員会(The Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification: CNMNC)に提出し、承認される必要があります。小笠原教授らは、結晶学の第一人者であるF.C. Hawthorne教授(カナダ・マニトバ大学)らと共同で丸山電気石の申請を行いました。申請に際しては、発見者の所属する早稲田大が詳細な産状記載、化学組成分析、およびラマン分析を、マニトバ大が結晶構造解析、物性測定、および化学組成分析を分担しました。本申請は2014年2月に承認され、2014年6月にMineralogical Magazine誌に概要が発表されました(Lussier et al., 2014:IMA No. 2013-123 [2])。丸山電気石のタイプ標本は国立科学博物館に保管されています(登録番号:NSM-MF15696)。

    丸山電気石は、プルームテクトニクスを提唱するなど、変成岩岩石学・地質学に多大な功績を残され、またコクチェタフ超高圧変成帯研究プロジェクトのリーダーでもあった、丸山茂徳教授(東京工業大学地球生命研究所)にちなんで命名されました。

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    丸山茂徳教授

    丸山茂徳教授

    今回の新鉱物認定と命名を受けて、丸山教授は次のようにコメントしています。

    「コクチェタフの広域変成帯は、世界最高圧の広域変成作用を受けています。そこではダイヤモンドが広域的にできていることが明らかになり、さらに、地表の大陸が、その浮力にも拘わらず地下深部に沈み込むことがわかり、地下100kmよりも深いマントルに沈み込む直接的な証拠物体であることが示され、世界を驚かせました。東京工業大学と早稲田大学を中心とした日本のグループはこの変成帯の研究に着手し、地質調査に基づき、放射性年代学やミクロ鉱物学を駆使し、変成分帯、流体移動、広域変成帯の上昇プロセスのダイナミクスに至る総合科学を迅速に展開しました。研究は、二度に及ぶ大規模な地質調査と、約9000個に及ぶ試料収集に始まり、開始後約10年でその主体は収束し、約50の研究論文が書かれました。その後、興味はミクロ鉱物学が中心となり、早稲田大学の小笠原研究室が研究の中核部を推進し、これまでに書かれた論文数は100を超えました。これらの研究は日本のグループが世界を圧倒しましたが、ロシア科学アカデミー、米国スタンフォード大学、カーネギー研究所などが、この研究を一部補佐し、幾つかの共同研究も進みました。

    この研究を通して数多くの世界初の発見がなされ、プレート収束場の性質が明らかになりました。そのことに対する評価の一つとして新種鉱物に私の名前が付けられたことを光栄に思うと共に、この共同研究プロジェクトを開拓するまでの数多くの困難を克服できた同志の皆様(特に早稲田大学OB)に深く感謝したいと思います。」

    丸山 茂徳(まるやま しげのり)略歴

    東京工業大学地球生命研究所教授。1949年徳島県生まれ。理学博士・地質学者。1977年富山大学助手、1989年東京大学助教授、1993年東京工業大学理学部教授を経て、2013年より現職。2000年 AAAS(アメリカ科学技術振興学会)フェロー、2002年日本地質学会賞、2006年紫綬褒章、2012年トムソンロイターリサーチフロント。

    ダイヤモンドを含む電気石発見の意義:地球表層から深部への物質循環

    本岩石中のダイヤモンドはいろいろな場所に万遍なく存在しているわけではなく、電気石の中でも丸山電気石の部分、およびジルコンという鉱物のみに包有物として含まれています。ダイヤモンドと共存する電気石は世界で初めての発見です。ダイヤモンドは炭素からできている鉱物ですが、高圧条件下でのみ安定であり、約4GPa以上の圧力(地球では約120km以深)という条件下で形成されます。一方、電気石のカリウムが少ない部分や周囲には、同じ炭素の鉱物でも低圧条件で安定な石墨(グラファイト)が含まれています。このことは、丸山電気石はダイヤモンドが安定な高圧条件下、言い換えれば120km以上の深さで形成され、その後岩石が地表に向かって上昇してくる途中で、カリウムに乏しい電気石が丸山電気石の周囲に成長したことを示唆しています(Shimizu & Ogasawara, 2005 [6])。

    電気石はこれまでも、複数の異なる条件下での結晶成長過程を化学組成の変化として記録していることが多いことから、変成作用の連続変化を記録する指標鉱物だと捉えられてきました。ダイヤモンドと共存できるほど高圧で安定な丸山電気石の存在は、このような電気石の性質をより明瞭にしたといえます。また電気石が形成されるためにはホウ素(元素記号:B)が必須ですが、ホウ素は地球表層に濃集している元素です。従って、超高圧変成岩の形成過程で丸山電気石が地球表層からマントル深部へホウ素を運搬する役割の一端を担っていることになり、プレート運動に伴う物質循環の一面を解明する貴重な手がかりとなります。

    丸山電気石発見による波及効果・今後の展望など

    電気石は広範な生成条件の岩石に少量含まれる言わば名脇役であり、さらに未知のことが多く残されている非常に魅力的な鉱物です。

    最初にダイヤモンドを電気石中に発見した当時は、超高圧変成岩中の電気石についてはあまり研究が進んでおらず、また電気石の高圧下での安定性やカリウム電気石の生成条件はほとんど分かっていませんでした。しかし、小笠原教授らの発見報告が契機となり、いくつかの実験岩石学研究がそれらを解明しつつあります。例えば、高温高圧実験によって泥質変成岩中の電気石の安定領域が決定され(Ota et al., 2008a [4])、丸山電気石のホウ素同位体比測定により、地球深部での地殻の部分溶融が丸山電気石形成に重要な役割を果たした可能性が示されました(Ota et al., 2008b [5])。ダイヤモンドを含む電気石の成因についてはその後も活発な議論が続き、例えば Marschall et al. (2009) [3] は電気石は低圧条件で形成されダイヤモンドとは形成時期が別であるという、小笠原教授らの見解と全く異なる解釈を発表しました。しかし、小笠原教授らは詳細な顕微鏡観察に基づく系統的な記載と精密な化学分析から、コクチェタフ超高圧変成岩に含まれる電気石中のカリウムは形成圧力が下がるにしたがって減少することを示し、改めて丸山電気石が超高圧変成作用起源であることを明確にしました(Shimizu & Ogasawara, 2013 [7])。さらに、カリウムに富む電気石が最近になって初めて合成実験で確認され、カリウム電気石の形成には高圧だけでなくカリウムに異常に富んだ流体が必須であるという、超高圧変成岩全体の成因にも関係する興味深い結果が得られています(Berryman et al., 2014 [1])。

    これら一連の研究成果は、小笠原教授らの含ダイヤモンド電気石発見が引き金となって発展したものと言えます。また、電気石の新種は丸山電気石以外にも最近続々と発見されています。しかし丸山電気石の報告は今のところコクチェタフ超高圧変成帯からのみであり、今後どこかで見つかるのか、産出が限られるのならそれを制約している地質条件がどのようなものであるのか等、興味が持たれるところです。このように、電気石の研究は今まさに注目が集まっている鉱物学・岩石学の一分野であり、今後ますますの発展が期待されます。

    引用文献

    1. 1.Berryman, E., Wunder, B., Rhede, D. (2014) Synthesis of K-dominant tourmaline. American Mineralogist 99, 539-542.Image may be NSFW.
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    2. 2.Lussier, A., Ball, N.A., Hawthorne, F.C., Henry, D.J., Shimizu, R., Ogasawara, Y., Ota, T. (2014) Maruyamaite, IMA 2013-123. CNMNC Newsletter No. 20, June 2014, page 550; Mineralogical Magazine 78, 549-558.Image may be NSFW.
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    3. 3.Marschall, H.R., Korsakov, A.V., Luvizotto, G.L., Nasdala, L., Ludwig, T. (2009) On the occurrence and boron isotopic composition of tourmaline in (ultra) high- pressure metamorphic rocks. Journal of the Geological Society, London 166, 811-823.Image may be NSFW.
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    4. 4.Ota, T., Kobayashi, K., Katsura, T., Nakamura, E. (2008a) Tourmaline breakdown in a pelitic system: implications for boron cycling through subduction zones. Contributions to Mineralogy and Petrology 155, 19-32.Image may be NSFW.
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    5. 5.Ota, T., Kobayashi, K., Kunihiro, T., Nakamura, E., (2008b) Boron cycling by subducted lithosphere; insights from diamondiferous tourmaline from the Kokchetav ultrahigh-pressure metamorphic belt. Geochimica et Cosmochimica Acta 72, 3531-3541.Image may be NSFW.
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    6. 6.Shimizu, R., Ogasawara, Y., (2005) Discovery of K-tourmaline in diamond-bearing quartz-rich rock from the Kokchetav Massif, Kazakhstan. Mitteilungen der Österreichischen Mineralogischen Gesellschaft 150, 141.Image may be NSFW.
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    7. 7.Shimizu, R., Ogasawara, Y., (2013) Diversity of potassium-bearing tourmalines in diamondiferous Kokchetav UHP metamorphic rocks: A geochemical recorder from peak to retrograde metamorphic stages. Journal of Asian Earth Sciences 63, 39-55.Image may be NSFW.
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    お問い合わせ

    研究に関すること(午前8時~午後3時まで対応可能)

    早稲田大学教育・総合科学学術院 小笠原義秀教授
    研究室:03-5286-1514 Email:yoshi777@waseda.jp

    丸山茂徳教授に関すること

    東京工業大学広報センター
    電話:03-5734-2975 Email:media@jim.titech.ac.jp

    ※ 公開時、問い合わせ先に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(8月25日 15:30)


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