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高大連携サマーチャレンジ 2020 開催報告 大学レベルのオンライン講義に3高校52名が参加

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東京工業大学は、大学レベルの講義を高校生が体験する合宿「高大連携サマーチャレンジ」を毎年、夏休みに開いてきました。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で運営方法を変え、9月12、13日に、大岡山キャンパスに通って行いました。参加した高校生は東工大附属科学技術高校35名、お茶の水女子大学附属高校7名、東京学芸大学附属高校10名の計3高校52名です。9つのチームに分かれ、ビデオ会議システムを使って3つの講義を聞き、課題に取り組みました。2日間の記録を報告します。

17年目の夏

高大連携サマーチャレンジは、2020年で17回目を数えます。2004年に開始して以来、東日本大震災の年も含めて一度も休まずに着実に歴史を重ねてきました。

ところが今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、例年の武蔵嵐山(埼玉県比企郡嵐山町、国立女性教育会館)での2泊3日の合宿形式の開催が困難となってしまいました。不自由な環境でがんばっている今年の高校生のためにも、なんとしても開催したい、と関係者で工夫を重ね、本学の大岡山キャンパスに2日間通って、3つのチャレンジを実施するという形式に変更して開催しました。

参加者は3高校52名の高校3年生です。例年なら大ホールで班ごとのテーブルを囲んで賑やかに作業やディスカッションをするのですが、今年は密な状態を避けるため、各班6名に1つずつ講義室を割り当てました。講師は別建物のレクチャーシアターからビデオ会議システム(Zoom)でつないで、9つの講義室に同時配信、参加者の反応や挙手をモニター画面で確認しながらの進行でした。

初めての試みなので、念には念を入れて準備しました。トラブルに備えてレクチャーシアターにも講義室にもスタッフが待機し、画面を操作したり、ときどき止まってしまうZoomをつなぎ直したり、携帯電話で頻繁に連絡を取り合いながら講義進行をサポートしました。

画面を通してしか講師と会えないのは、ちょっともどかしいけれど、でも新方式で良かったこともありました。1つの班が1つの講義室をまるまる占有できると、他班のようすを気にせずに議論に集中できます。メンバーの結束が強まりやすく、チームビルドが例年よりも順調に行えました。大きな黒板も使い放題なので、自由に空間を動き回って、のびのびとグループワークができたようです。

そんな「ニューノーマル・サマーチャレンジ」のようすをリポートします。

Zoomでつないだ9つの講義室

Zoomでつないだ9つの講義室

2020実施記録

2020実施記録
サマーチャレンジ2020 タイムテーブルPDF

日時: 2020年9月12日 - 13日

場所: 東京工業大学 大岡山キャンパス

参加生徒: 52名(東京工業大学附属科学技術高等学校35名、お茶の水女子大学附属高等学校7名、東京学芸大学附属高等学校10名)

参加教員: 34名(東工大教員24名、引率高校教員3校10名)

事務職員: 10名(東工大)

合計: 96名

CO2の不思議な性質

物質理工学院 応用化学系 下山裕介教授

「物質の三態といったら、固体・液体・気体ですよね。CO2の場合、ドライアイスに、液化炭酸ガスに、そして炭酸飲料のあのぶくぶくの泡に、と変化します。ところが、この三態にあてはまらない「超臨界状態」っていうのが、あるんですよ。CO2で言うと、温度を40℃以上、圧力を72.8 atm以上というように臨界点を超えて高くすると、超臨界CO2ができます。では、このとき分子はどんなふうに動いているのか、図に描いてみてください」

三態といわれても、ふだん氷と水と水蒸気しか意識していなかった生徒たちは、いきなり「超」のつく謎のスーパースターの登場にテンションが上がります。

「この超臨界状態のCO2は、じわじわと他の固体を溶かす性質を持っているのです。超臨界CO2の不思議な性質を応用すると、たとえばコアラが食べているあのユーカリの葉っぱからシトラスオイル成分を抽出することができます」
「では、みなさんに出題です。この不思議なCO2を使って染色する方法を提案してみてください。あ、その前にだいじな確認をしておきます。世界は今、水不足です。灌漑(かんがい)に生活用水、発電、そして工業用水と水の用途はたくさんありますが、工業用水のなかでも染色はとりわけ水を大量に必要とします。この水を節約できたら、意義ありますよね」

ただ新しい物質に飛びつくのでなく、その技術が社会のなかでどんな意義を持つかにも目配りしてから、考察スタートです。みんなでプラントプランナー。黒板の前で図を描いて智恵を出し合います。ここに弁を付けたら逆流しないよ、染色する布を傷めないための保護策は?

各班の成果の発表とそこに飛ぶ他班からの鋭い質問。時間を大幅に延長し、全員が存分に意見を出し合ったCO2チャレンジでした。

超臨界流体図
超臨界流体図

みんなで考えた染色プラント
みんなで考えた染色プラント

地球を浮かそう

工学院 電気電子系 千葉明教授

「本日のテーマは磁気浮上。磁力を使って物体をふわっと浮かせます。代表例はもちろん、リニアモーターカーですね。車体に超伝導磁石、軌道上にコイルがあり、浮上して、しかもぐいぐいと高速で進みます。いったいどんなメカニズムが働いているのでしょうか」

視聴した教材は、本学が世界へ向けて発信しているオンライン講座MOOC(ムーク)のなかから、千葉教授が担当した動画で、新しい技術のポイントがコンパクトに紹介されます。動画の切れ目ごとに間違い探しクイズが出題され、みんなで議論して理解を深めます。
メカニズムを理解できたら、いよいよ実験タイムです。目の前に15センチくらいの地球、そして青く光る台。

「さあ、この地球をじょうずに操って台の上に浮かせてください。制限時間ひとり60秒、どの班が好成績かな?」

実験装置をつくるには手先の器用さも重要。その鍛錬でもあります。初めは難しくて、あちこちの班でごろんごろんと地球が派手に落下する音が聞こえましたが、だんだんコツが分かってきて、台の光り具合を見ながら、そうっと地球に添えた手を放すと、ふわっと浮きます。さらに軽く押すと、くるくると機嫌良く回り始めます。

「浮かせるのに成功したら、仕組みを図解してください。傾けたり、つついたりすると、どう動くかな。もっと簡単に浮かせるには、この装置をどう改造したら良いでしょう?」

ずしりと重たかった地球がふわっと浮いたときの感動とともに、磁力のおもしろさや将来性がリアルに体感できた地球チャレンジでした。

うまく浮くでしょうか
うまく浮くでしょうか

画面越しに届く他の班の意見
画面越しに届く他の班の意見

直角三角形の最先端

理学院 数学系 鈴木正俊准教授

2日目冒頭、まず本学の水本哲弥理事・副学長(教育担当)からの激励メッセージのあと、チャレンジに突入です。

「今日はこちらの山に登りましょう。」最初に鈴木准教授が山の頂上を指さします。
「『周の長さ同士が等しく、また面積同士も等しい有理直角三角形と有理二等辺三角形の組は相似を除いて一組しかない』これは定理です。しかも2019年に日本の若手数学者が最先端の現代数学を用いて証明したばかりなんです。さあ、この山に一緒に登ってみましょう」

用意された登山ステップは5段階。「この直線とこの円の交点を求めてみよう」「求める三角形の組とこの曲線の有理点が関係します。なぜでしょう」「この式で定まる曲線の有理点はぜんぶで8個あります。探してみて」など、先達の切り開いた道すじにそって、順に問題を解いていきます。

「これは10分で解けるでしょう」「これは頭をひねらなきゃだから20分あげます」と、みんなの理解力を見計らいながら進みます。初めははるかに高くて攻略の見当もつかなかった頂上が、一歩一歩近づいてきます。途中で2回、各講義室に鈴木准教授がひょっこり顔を出して「あ、いい線いってるね。そのままがんばって」「困っていますね。じゃあ、ヒントをあげよう」などと巡回実況中継もあったので、迷子になる心配もありませんでした。

数学って、こんなふうにみんなでわいわいディスカッションしながら、登っていけるんですね。緻密に組み立てられたエスコートに導かれて、とても新鮮な体験ができた三角形チャレンジでした。

チャレンジ3「直角三角形の最先端」
チャレンジ3「直角三角形の最先端」

三角形問題に挑戦中
三角形問題に挑戦中

生徒の声

  • グループごとに分かれていたため、チームとしての意識が高まった。(机の配置が)コの字型で話しやすかった。
  • ソーシャルディスタンスが確保されつつも、グループ全員の声が良く聞こえる環境で良かった。
  • 他の教室とZoomで繋がっており、空気感が感じられとても良かった。
  • 回線が切れやすかったり音が聞こえにくいときがあった。

高校教員の眼

  • CO2 の性質という理学的な出発点から染色法という実用的、工業的な内容まで幅広い切り口が示されていた。
  • リニアモーターカー計画や新しいモーター等、具体的なものにつながる内容で、生徒が非常に熱心に聴講していた。
  • 身近な三角形に関する意外な問題があることが興味深く、また生徒に考えさせるところがバランス良くできていた。

お問い合わせ先

学務部 入試課 大学入試グループ

E-mail : nyu.gak@jim.titech.ac.jp


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