東京工業大学科学技術創成研究院、リベラルアーツ研究教育院の磯﨑憲一郎教授著『日本蒙昧前史』(文藝春秋刊)が、第56回谷崎潤一郎賞を受賞し、10月14日、東京會館(東京都千代田区)において授賞式が行われました。
谷崎潤一郎賞は、1965年、中央公論社が創業80年を記念し、作家谷崎潤一郎の幅広い活躍にちなんで創立した文学賞で、それぞれの時代における優れた小説や戯曲に授与されています。
第46回からの選考委員は、池澤夏樹、川上弘美、桐野夏生、筒井康隆、堀江敏幸の各氏が務めており、授賞式当日には代表の川上弘美氏が講評を寄せました。
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- 写真提供:いずれも中央公論新社
磯﨑教授のコメント
「受賞の言葉」
賞を貰うということはもちろん小説を書く目的とはなり得ないし、いかなる賞にも定められた価値が伴っているわけではないと心得てはいても、自らが生を享(う)けたのと全く同じ日に、五十歳の誕生日を迎えたその敬愛すべき作家が代表作ともいえる作品で受賞した、その年に創設されたつまり自分と同じ年齢の文学賞ともなれば、どこか宿縁めいたものを感じたくなる誘惑に抗うことは難しい。作家としてデビューして以来、私にとって谷崎潤一郎賞は、遥かな憧れだった。
『抱擁家族』で第一回谷崎賞を受賞した小島信夫は、「受賞の言葉」の中で次のように述べている。「この賞の意味を、私はこうとる。『お前はなかなかよくやった。その調子で今後もやりなさい』と。」小島信夫が自らへ向けて記したこの短い言葉は、半世紀以上の時間の隔たりを超えて、今の私を鼓舞してくれているかのように響く。私の作品を選んで下さった選考委員の方々、本書の刊行に尽力してくれた編集者、家族、友人に深く感謝したい。
『日本蒙昧前史』について
帯の一節を紹介します。
“我々は滅びゆく国に生きている、
そしていつでも我々は、その渦中にあるときには
何が起こっているかを知らず、
過ぎ去った後になって
初めてその出来事の意味を知る――”
「大阪万博、三島由紀夫の自決、五つ子ちゃん誕生、ロッキード事件、グリコ・森永事件、密林に二十八年間身を潜めていた元日本兵――
もはや忘れ去られてしまった無数の「虚構ではない人生」を通じて、
あの「蒙昧」の時代の生々しい空気が浮かびあがる。
変幻自在の語りを駆使した芥川賞作家、会心の作。」
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