東京工業大学の博士後期課程学生7名が11月4日、洗足学園中学高等学校(川崎市高津区)を訪問し、高校1年生約240名に自分の研究について模擬講義を行い、グループディスカッションで交流を深めました。
この訪問は、イノベーション人材養成機構(IIDP)のキャリア科目「ALP研修 I(ティーチング)」※の一環で、今回初めて実現したものです。
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- 将来アカデミック分野で活躍することを希望する学生が、授業実施や教材作成などの教授法の基礎知識を学んだうえで、ティーチングの経験を積む授業です。
洗足学園中学高等学校は中高一貫の女子校であり、東工大への進学者を毎年輩出しています。昨年末、「高校生は、最先端の技術に興味を持っているので、東工大生が実際に進めている研究をわかりやすく説明してほしい」との要望があり、両者で検討を重ねた結果、万全の新型コロナウイルス感染症対策をとったうえで、対面方式で実施しました。
東工大にとっては、博士後期課程学生のティーチングスキル向上に加えて、より多くの高校生に東工大に興味を持ってもらう狙いもあります。
大学で何を学ぶか
当日は、まず、教育・国際連携本部 アドミッション部門の篠崎和夫特命教授(東工大名誉教授)が「理工系大学とは」「大学院生の生活」「東工大の歴史、特長」について説明を行いました。高校生にとっては未知の世界である研究室や論文研究、リベラルアーツ教育や留学経験の大切さに加えて「大学では何を学ぶべきか」についてのメッセージを伝え、高校生は真剣に聞き入っていました。
核融合からジェンダーまで 模擬講義
次に、博士後期課程学生が順番に自身の研究内容をわかりやすく講義しました。2名の留学生も日本語で行いました。学生の研究分野は「核融合」「情報システム」「植物の進化」「ジェンダーと科学技術」など様々です。
事前に学生間で意見交換を行い「どのように説明したら高校1年生に伝わるか」を考えて練習を重ねました。
また、「理工系の楽しさ」「研究することの醍醐味、大変さ」「博士後期課程に進学した動機」についても講義しました。これから自身の進路を選ぶ時期に進む1年生は、興味を持って聞いていました。
博士後期課程に進むと女性は大変? 高校生の質問に答える
続いて、7つのグループに分かれて、更に交流を深めました。
洗足学園では、高校2年時に1年間をかけて「研究論文」を仕上げる取り組みを行っており、そのテーマ設定やデータの取り方、論文のまとめ方について、学生が自身の経験に基づいてアドバイスをしました。また、東工大のキャリア科目担当教員の河内宣之名誉教授、篠崎名誉教授、赤木泰文名誉教授も加わり、豊富な経験や知識を基に高校生と交流しました。
高校生からは「どうして東工大を選んだのか」「どのような受験勉強を行ったのか」「東工大には女子学生がどのぐらいいるのか」といった質問から、「どうやったら大学の教員になることができるのか」「理工系に進むと研究はどのぐらい大変なのか。どんな生活が待っているのか」「女性が博士後期課程に進むと大変なことはあるか」「博士に進むと就職が難しいと聞いたが本当か」といった真剣な質問も多く挙がり、博士後期課程学生や担当教員は少し驚きながらも丁寧に答えました。
高校生に説明する難しさと楽しさ
今回の交流は、学生にとって普段接することのない高校生に研究内容を説明することの難しさや楽しさを学ぶ貴重な経験になりました。また、自信を持って東工大や理工系の素晴らしさを伝えることができ、各自の将来のキャリア形成にも大きな影響を与える機会となりました。
洗足学園の生徒達からは「大学で学ぶとはどういうことか少しわかった」「視野を広く持ち、自分のやりたいことをみつけて切り拓く大切さを学んだ」「自分も大学に入ったら、その分野の専門家になる気持ちで頑張りたい」「常に能動的に学ぶことの大切さがわかった」といった感想が寄せられました。
IIDPでは、今回のような東工大学生が中学生・高校生に対して模擬講義を行う取り組みも含め、多彩なカリキュラムにより、引き続き大学院学生のキャリア形成を支援していきます。
東工大の博士後期課程学生向けキャリア教育
東工大のキャリア科目には、博士後期課程学生自らのキャリアプランに応じた能力を養成するものが多く用意されています。
特に、大学や研究機関への就職を目指す学生には、英語論文執筆・プレゼンや日本学術振興会特別研究員の申請書作成を行う実習科目、学術の位置づけやティーチングスキルを学ぶ実践科目、国内外の大学や研究機関で研修を行う科目を提供しています。
また、企業の第一線で活躍している方にファシリテーターをお願いし、顧客や社会が抱える課題の発掘・設定・解決法を学ぶ科目、グローバルに事業を展開する企業やベンチャー企業の方々から産業界の実態や研究開発の最先端を学ぶ科目を提供しています。