東京工業大学は大学院の学生を主な参加者として、グローカルスクール・プログラムを2019年から始めました。学問分野を問わずに世界規模の課題について考える3日間の集中プログラムです。“グローカル”とは、ローカルでの優れた技術や発想をグローバルに展開していく発想を意味しています。
2020年のグローカルサマースクールは9月15日から17日まで各日3時間、オンラインで開催し、本学大学院生(博士後期課程、修士課程、専門職学位課程)、交流協定校、社会人の計10名が参加しました。「人によりそうを形にする―想い出を形にする」がプログラムのテーマです。
大切な想い出を形にすることに焦点をあて、アーティストのスプツニ子!さん、絵本作家のうささん、広島の原爆爆心地VR動画を作成した広島県立福山工業高校の教員と生徒を講演に招きました。スクール参加者はグループに分かれて話し合い、最終日にグループごとに成果を発表しました。
参加した東工大の博士後期課程学生には、文系教養科目の単位が1単位付与されます。
今回のプログラムは、海外からもオンラインで参加できるよう、日本時間で午後5時以降に開催しました。参加者(博士後期課程9名、修士課程1名)は、限られたオンライン接続時間を有効活用するため、「想い出を形にする科学技術」のアプリケーションを題材に複数の課題を事前に提出しました。
第1日目
プログラムの初めに、参加者全員は、事前に作成した自己紹介ポスターを使い、専門分野や好きな魚のペーパークラフトを示しながら交流しました。
環境・社会理工学院 社会・人間科学系(リベラルアーツ研究教育院)の金子宏直准教授による研究倫理についての簡単な講義の後、参加者は、各自事前に選択した調査課題について、ビデオ会議システムZoomのブレイクアウトルームを使い、グループディスカッションを行いました。3つのグループの代表者がグループディスカッションの内容を報告し、全員でヒューマニティと研究倫理について討論しました。
特別講演のセッションでは、幅広く活動するアーティストで東京芸術大学准教授スプツニ子!さんが講演しました。スプツニ子!さんは、現在の研究につながる、インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(同)、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ(アメリカ)での活動の紹介、アート、スペキュラティブデザイン、生命科学と倫理に関して話しました。MITでスプツニ子!さんの研究室の学生であったアーティスト、長谷川愛さんによる作品「(Im)possible Baby」を題材に、近い将来の人類の生命観について取り上げ、参加者に考えさせる内容でした。
講演終了後、オンラインキャンパスサービス(仮想空間オフィスVirBELA)内の「浜辺」に集合してバーチャル懇親会を開催しました。
第2日目
2日目は特別講演が2つ行われました。
まず、広島県立福山工業高校で爆心地のVR(仮想現実)動画プロジェクトに取り組んでいる計算技術研究部です。顧問教員の長谷川勝志教諭と同高3年生の平川聖央さん、柿原惟人さんの2名の報告を聞きました。このプロジェクトでは、史料や被爆者のインタビューに基づき体験を継承し、爆心地の街並みをVRにより再現する活動を続けてきました。爆心地だけでなく、特攻魚雷回天のCG画像も作成しています。長谷川教諭らはVRを作成するために必要な歴史資料の収集と整理についても説明しました。
講演後の質疑では、海外からの取材と海外への情報発信や、VR動画を体験する人の心理的負担を軽減するために、画像から人物を除き当時の建物だけを正確に再現する方法について説明がありました。
続いて、絵本作家で演出家のうささんが講演を行いました。東日本震災で失われた動物や飼い主の記憶を再現する活動である「災害で消えた小さな命展」が紹介されました。英語に翻訳されたうささん作の絵本の朗読と動物保護活動についても話しました。うささんは動物保護活動を行っている現地からオンラインで参加しました。
講演の後、グループごとに最終日のプレゼンテーションで扱う社会的課題について話し合い、テーマを決めました。
プレゼンテーションでは、説明のためにポスターと立体的なモデルを作成する共同作業が必要となります。
第3日目
3日目の最終プレゼンテーションには、井村順一副学長(教育運営担当)が表彰の審査員として参加しました。
最終プレゼンテーションは、各グループが10分間の時間を与えられ、メンバー全員が交代でアイデアを発表しました。
最も優れたプレゼンテーションを行ったグループとして「匂いの記憶を共有するためのアイデア」を提案したグループが表彰され、井村副学長からグローカル賞が授与されました。メンバーはSaiful Hadi MASRAN(サイフー・ハディ・マスラン)さん、小山浩司さん、Muhammad Al Atiqi(ムハッマド・アル・アティキ)さんです。
井村副学長は、オンラインプログラムではあったが、過去のプログラムに劣らない充実した研究発表であったと総評を述べました。
各グループの最終報告の概要は、グローカル・グローバル・スクールのwebサイトで公開する予定です。
このサマースクールは、金子准教授が運営し、国際プログラム経験の豊かな2名の博士後期課程学生がコーチアシスタントとして参加しました。ジェローム・シラさんはグループワークファシリテーションを行い、宮田智美さんは2日目の講演の英語通訳を担当しました。