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たくさんの小惑星の衝突が地球の大気と海水の量を決定づけた 地球の炭素・窒素・水の量を再現する形成モデルを構築

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要点

  • 多数の小惑星の衝突によって地球大気の大部分が宇宙空間へと失われたとする仮説を理論モデルで実証
  • 水や有機物の起源とされる小惑星と地球では、炭素・窒素・水の存在比が異なる謎を解明
  • 今後の小惑星リュウグウ試料の分析結果の価値をさらに高める研究成果

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の櫻庭遥大学院生(博士後期課程3年)、太田健二准教授、地球生命研究所(ELSI)の黒川宏之特任助教および玄田英典准教授らは、地球の炭素・窒素・水の量の起源を理論的に研究し、地球の大気と海を同時に再現する地球形成モデルを構築することに成功した。

地球の大気や海水は、はやぶさ2が探査した小惑星リュウグウ[用語1]のようなC型小惑星[用語2]によって供給されたと考えられている。しかし、地球とC型小惑星の炭素・窒素・水の存在比が異なることは大きな謎であった。そこで櫻庭遥大学院生らの研究チームは、天体衝突によって地球が誕生する過程で、これらの元素が大気から宇宙空間に失われる量と地球深部のコア[用語3]へと取り去られる量を詳細に調べた。その結果、地球サイズの惑星の誕生時に必然的に形成されるマグマオーシャン[用語4]への水の溶け込みに加えて、マグマオーシャンの固化後にたくさんの小惑星が衝突することで引き起こされる大気(窒素)の流出によって、現在の炭素・窒素・水の量が自然に再現されることを突き止めた。 

本研究成果は2021年10月22日(英国時間)、国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載された。

背景

地球の大気や海、そして生命の主要構成要素である炭素・窒素・水はどこからやってきたのか?これは太陽系科学・地球科学における最も大きな疑問の一つであり、世界中の太陽系探査や地球外物質の研究を突き動かしてきた。現在最も有力視されている起源は、小惑星帯に多数存在するC型小惑星と呼ばれるタイプの小惑星である。C型小惑星から飛来したとされる炭素質コンドライト隕石[用語5]の分析から、これらの小惑星は炭素・窒素・水を含むと考えられている。

C型小惑星が地球の大気や海の起源であるなら、両者の炭素・窒素・水の存在比は一致するはずである。しかし、実際には地球と炭素質コンドライト隕石の炭素・窒素・水の存在比には大きな違いがある。炭素質コンドライト隕石と比較すると、地球では窒素・炭素・水の順に欠乏の度合いが大きい。この元素存在度の不一致は、地球の大気と水のC型小惑星起源説に残された大きな謎であった。こうした不一致があることから、過去の研究では、炭素質コンドライト隕石と元素組成の異なる仮想的な天体が地球に衝突したとする対案も提案されていた。

研究成果

本研究チームは、地球の大気と海水の量の起源を理論的に研究し、大気と海水を同時に再現する地球形成モデルを構築することに成功した。たくさんの小惑星が衝突することで引き起こされる大気の宇宙空間への流出と、地球サイズの惑星の誕生時に必然的に形成されるマグマオーシャンへの水の溶け込みによって、現在の炭素・窒素・水の量が必然的に再現されることを突き止めた。

地球は多数の天体の衝突によって形成する(図1)。これらの天体衝突のエネルギーによって、形成期の地球はマグマオーシャンに覆われている(図2a)。この時期には、天体衝突によって大気の一部は宇宙空間に流出する。また、重い金属鉄はマグマから分離するが、炭素・窒素・水の一部は鉄とともにコアへと取り去られる。本研究チームは、これらの過程を網羅的に考慮したシミュレーションによって、マグマへ溶け込みやすい水が選択的に地球に残されることを突き止めた(図3a)。しかし、この段階では大気中に窒素が過剰に残ってしまう。

そこで次に、マグマオーシャンが固化し、海が形成された後の地球への天体集積(後期天体集積)に着目した。海が形成された初期の地球では炭素の大部分が炭酸塩鉱物となることで、大気には窒素のみが残される(図2b)。これらの過程を考慮したシミュレーションを行った結果、多数の小惑星の衝突によって大気の7割以上が失われる場合に、現在の地球の炭素・窒素・水の量と一致することを発見した(図3b)。この結果は後期天体集積期に地球に集積する天体サイズに依存し、多数の小さな天体が集積した場合のみ、地球の元素存在度が再現された。

図1. 多数の小天体の衝突によって形成する地球。(Credit: Alan Brandon/Nature)

図1. 多数の小天体の衝突によって形成する地球。(Credit: Alan Brandon/Nature

図1.
多数の小天体の衝突によって形成する地球。(Credit: Alan Brandon/Nature

図2. a: マグマオーシャンに覆われていた形成期の地球。 b: すでに海が存在していた後期天体集積期の地球。(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)

図2.
a: マグマオーシャンに覆われていた形成期の地球。 b: すでに海が存在していた後期天体集積期の地球。(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports

図3. シミュレーションによって得られた炭素・窒素・水(水素)量の時間進化。各線の凡例の数字は、地球が現在の質量の何%に達した時点かを示している。緑色の領域は現在の地球(コアを除く)の元素量である。(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)

図3.
シミュレーションによって得られた炭素・窒素・水(水素)量の時間進化。各線の凡例の数字は、地球が現在の質量の何%に達した時点かを示している。緑色の領域は現在の地球(コアを除く)の元素量である。(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports

今後の展開

本研究で前提とした地球の大気や水のC型小惑星起源説については、JAXAの小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料の分析が進むことで、さらなる検証が期待される。はやぶさ2はC型小惑星リュウグウから試料を採取することに成功し、2020年末に地球に持ち帰った。この小惑星リュウグウ試料の分析から、C型小惑星と炭素質コンドライト隕石のつながりが確認された場合、その結果は、多数の小惑星の衝突で地球大気の大部分が失われたとする本研究チームの仮説を支持することになる。

さらに本研究チームは、太陽系外の地球サイズの惑星も必然的に地球と似た環境となると予想している。その理由は、前述の水の取り込みに寄与するマグマオーシャンの形成、後期天体集積による窒素に富んだ大気の損失がいずれも、ハビタブルゾーン[用語6]に地球サイズの惑星が形成される過程で必然的に生じるためである。惑星の炭素・窒素・水の量が生命の誕生・維持に与える影響は未解明であるものの、太陽系外の地球型惑星が地球と似た環境になりやすいという傾向は、地球のような環境に生きる生命を探す試みを後押しする結果である。

用語説明

[用語1] 小惑星リュウグウ : C型に分類される小惑星。はやぶさ2が探査し、その試料を持ち帰った。

[用語2] C型小惑星 : 小惑星の分類の一つ。炭素質コンドライト隕石の母天体と考えられている。

[用語3] コア : 地球の最深部に存在する、金属鉄を主成分とする核。

[用語4] マグマオーシャン : 原始地球を覆っていた、溶融した岩石(マグマ)の層。

[用語5] 炭素質コンドライト隕石 : 隕石の分類の一つ。水や有機物を含んでいる。

[用語6] ハビタブルゾーン : 惑星表面に海(液体の水)が存在しうる軌道の範囲。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Numerous chondritic impactors and oxidized magma ocean set Earth’s volatile depletion
著者 :
Haruka Sakuraba, Hiroyuki Kurokawa, Hidenori Genda, Kenji Ohta
DOI :

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特任助教 黒川宏之

E-mail : hiro.kurokawa@elsi.jp
Tel : 03-5734-2854

東京工業大学 理学院 地球惑星科学

准教授 太田健二

E-mail : k-ohta@geo.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2334 / Fax : 03-5734-3537

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


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