東京工業大学が牽引する超スマート社会推進コンソーシアム(SSS推進コンソーシアム)は、3月10日「カーボンニュートラル時代の超スマート社会」と題した技術フォーラムをオンラインで開催し、学内外から280名が参加しました。
本フォーラムでは、超スマート社会への「気づき」を目的として、地球環境とサスティナビリティ、脱炭素社会、スマートシティと新しい社会システム、ゼロカーボンモビリティ、エネルギーマネジメントなど、カーボンニュートラル時代に必要とされる幅広い分野についての革新的技術や最新の知見を学びました。
東京工業大学の水本哲弥理事・副学長(教育担当)および文部科学省研究開発局環境エネルギー課の土居下充洋課長からのあいさつの後、6名の講演者が、カーボンニュートラル時代に向けた幅広いテーマについての革新的技術や最新の知見について講演しました。
講演
基調講演 :「カーボンニュートラルに向けた水素利活用拡大と超スマート社会への展開」
岡崎健氏
東京工業大学 エネルギー・情報卓越教育院 特命教授(名誉教授)/東工大InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアム 特別顧問
岡崎特命教授は、カーボンニュートラルの意義とその実現に向けた取組みと、特にその中で水素利活用が重要であることを述べた後、水素利活用拡大に向けての国内外の取組みを紹介しました。また、水素利活用の拡大には、一般の人々の「水素に対する関心と理解の促進」が必須であることを指摘しました。さらに、水素エネルギーシステムの超スマート社会への貢献において、ハード・ソフトを含むシステム全体の最適化が重要な課題となっていることについても言及しました。
講演1 :「GX by DX:デジタルグリッド技術を活用したカーボンニュートラルソリューション」
青木雅博氏
株式会社日立製作所 理事/未来投資本部 デジタルグリッドプロジェクト プロジェクトリーダ
青木氏は、企業各社のカーボンニュートラル実現への取組みを例示した後、日立製作所におけるカーボンニュートラル実現への取組みと展望を述べました。現在の取組みとして、デジタルグリッド技術(電力関連データを集約・解析・活用するデジタル技術)を用いて、利用者側が電源種を主体的にオーダーメイドできる仕組みや、製品・設備・サービスごとに脱炭素と再エネ利用の見える化を実現する仕組みなどを紹介しました。
講演2 :「モビリティとエネルギーの連携 Honda eMaaS ~CASEに加えるべき要素“e”~」
岩田和之氏
株式会社本田技術研究所 先進パワーユニット・エネルギー研究所 兼 ライフクリエーションセンター エネルギー商品統括 エグゼクティブチーフエンジニア
岩田氏は、ホンダの様々な製品をITと再生可能エネルギーを通して連結し、MaaS(マース:Mobility as a Service:さまざまな移動手段を統合し“移動”そのものを“サービス”として捉えたもの)においてCO2排出削減を目指すコンセプト「Honda eMaaS(ホンダイーマース)」について説明しました。また、複数製品で共通して使用でき、情報の収集も可能な着脱式の可搬バッテリー「Honda Mobile Power Pack(ホンダモバイルパワーパック)」と、それを用いて複数の電動バイクの再エネ電力活用を行なう実証実験、大型バスや「Honda Mobile Power Pack」を活用し、簡便な送配電インフラを実現する“Moving e(ムービングイー)”について紹介しました。
講演3 :「持続可能な脱炭素社会に向けたライフスタイル」
金森有子氏
国立研究開発法人 国立環境研究所 社会システム領域(脱炭素対策評価研究室)/東京工業大学 工学院 経営工学系 特定准教授
金森氏は、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量の推計を実現するAIM(Asia-pacific Integrated Model:アジア太平洋統合評価モデル)の開発チームの成果を紹介しました。さらに、「脱炭素社会の実現」と「人口分布の変容などに伴う社会課題の解決」を両立する視点が必要であることについて言及し、各家庭のライフスタイルがGHG排出量に大きな影響を与えることを踏まえ、望ましい社会を実現するための課題を“自分ごと”として捉えることの重要性について指摘しました。
講演4 :「農業・農村のスマート化とカーボンニュートラル」
白谷栄作氏
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 理事(戦略、組織、運営担当)
白谷氏は、農林水産省が掲げる「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を図る“みどりの食料システム戦略”」と、これに寄与する農研機構の取組みについて紹介しました。農研機構では、ゼロエミッションとともに化学肥料低減、化学農薬低減、有機農業拡大、フードロス削減を一体的に、技術開発から普及まで一貫して取組み、温室効果ガスの排出削減とともに、バイオ炭の活用などによる温室効果ガス吸入技術の開発を加速させていることが説明されました。
講演5 :「カーボンニュートラルに向けた系統協調/分散型エネルギーシステム“エネスワロー”の開発」
伊原学氏
東京工業大学 エネルギー・情報卓越教育院 院長/東工大InfoSyEnergy研究/教育コンソーシアム 代表/物質理工学院 応用化学系 教授
伊原教授は、カーボンニュートラルの実現に向けたエネルギーシステムの変革において、エネルギー技術開発と情報科学の融合分野が重要であることに触れた後、東工大で研究開発、実証している系統協調/分散型エネルギーシステム“エネスワロー”について、包括的に説明しました。特にエネスワローにおいて、東工大大岡山キャンパスのエネルギービックデータを取得し、産学連携研究や教育へ活用していることについて実例を交えながら紹介しました。
パネルディスカッション
プログラムの後半は、講演者の岡崎特命教授、青木氏、岩田氏、金森氏、白谷氏、伊原教授をパネリストに迎え、超スマート社会推進委員会委員長の福田英輔特任教授が司会となり、カーボンニュートラル実現へ向けたビジョン、および関連する人材育成についてのパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションの後、コンソーシアム運営委員長の岩附信行副学長(国際広報担当)から、超スマート社会推進コンソーシアムの説明があり、コンソーシアムのコーディネーターで、超スマート社会卓越教育院長を務める工学院 電気電子系の阪口啓教授が閉会のあいさつを行いました。
参加者からは、「東工大の研究体制と企業・研究所との強力な協力体制から、カーボンニュートラル時代の超スマート科学技術の始まりを感じ取ることができました」、「東工大が“学”の先頭に立ち、産や官を牽引すれば、産官も共に進めると思います」など、これからのカーボンニュートラル社会への期待が寄せられました。
引き続き、当コンソーシアムでは、最先端の技術テーマを扱う技術フォーラムを開催していく予定です。