東京工業大学グローバル理工人育成コースは、「2022年度 グローバルリーダーシップ実践(LAW.X425)」を6月14日から28日まで全9回の講義のうち前半をオンライン形式で、後半をハイフレックス形式(対面とオンラインの複合型)で行いました。協定校であるジョージア工科大学(米国ジョージア州アトランタ)の教員が教えるこの集中講義は、2018年度から開講され、5回目となる今年度は12名の学生が履修しました。アトランタと東京をオンラインで繋ぎ、ジョージア工科大教員のリードのもと、履修生はグループディスカッションを中心として、クラスメートと積極的な交流を展開しました。「グローバルリーダーシップ実践」は、ワークショップや事例研究、ディスカッション、自己分析などを通じて、グローバルな環境で自身の価値や目的を実現するためのリーダーシップに必要な要素を学ぶことを目的としています。本科目は、東工大グローバル理工人育成コース上級の選択必修科目ともなっています。
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グローバル理工人育成コースは、世界の様々な分野で活躍できる人材を育成するために2013年度に開設した教育カリキュラムです。現在2,055名(上級47名)が履修しています。
ハイフレックス形式での双方向型授業
2018、19年度はジョージア工科大学の教員を日本に招き対面形式で実施しましたが、2020、21年度は新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開講となりました。授業スタイルは双方向型で、テレビ会議システム「BlueJeans(ブルージーンズ)」や学習プラットフォーム「Pear Deck(ペアデック)」などのツールを活用しました。
今年度は、オンライン形式を前半4回、後半5回の講義をジョージア工科大から教員とティーチングアシスタント(TA)を本学へ招いて対面で行う予定でしたが、教員の来日が叶わず、後半の5回は急遽ハイフレックス形式での体制を整え講義を行いました。
ハイフレックス形式での講義はオンラインで繋いだジョージア工科大学の教員が中心となって進め、広角レンズを備えた会議用カメラLogicool MeetUp(ロジクール・ミートアップ)と拡張マイクを用いてクラスの様子をアトランタにいる教員が把握できるようにしました。
講義室では、来日したジョージア工科大学のTAと本学の留学生TAが履修生の質問に答え、講義の理解を深めるサポートしました。グループディスカッションの際は、アトランタから教員がZoomのブレークアウトルームに入り、グループごとに接続した1台のパソコンに向かって話をすることで、教員と履修生がスムーズに会話を進めることができました。複数のコンピューターでのZoomマイクの同時利用によるハウリング防止策として、Zoomのオーディオ接続のオン/オフの切り替えをすることで対応しました。
国際色豊かな履修生
12名の履修生の出身国は日本7名、中国2名、モンゴル、ベトナム、インドネシア各1名で、クラスの約半分が留学生です。3名のTAはチリ、メキシコとエジプト出身で、教員はアメリカ人、ゲストスピーカーはベトナム出身の本学卒業生です。日本人学生は留学経験者や将来留学を希望する人が多く、グループワークやディスカッションに活発に取り組みました。
参加型の授業・アクティブラーニング
この授業は、ジョージア工科大学で実践されているリーダーシップの授業を基に、過去4回の履修生からのフィードバックを反映し、内容を発展させたものです。
アメリカ型の授業では、予習と復習をこなして、授業では積極的な発言が求められます。本授業も、授業開始以前から、リーダーシップに関する本を1冊読み、リーダーシップやチームワークに関するブログを合計6回投稿する課題が課されました。また、履修生には授業に先んじてオンラインでオリエンテーションを行い、計9回の授業内容のポイントや課題をまとめたマニュアルを配布しました。マニュアルを事前に読んでおくことで、日本人学生もグループワークとディスカッションに率先して参加できました。
授業はすべて英語で行われました。前半のオンライン講義では、学生の参加を促す学習プラットフォーム「Pear Deck」で、今日の気分や教員の問いに対して履修生全員が意見を投稿し、クラス内で共有しました。休憩時間には出身国で人気のある曲をかけて紹介し合い、異文化交流を継続しました。また、対面での講義の前に多様な文化背景を持つ履修生同士が理解を深めるため、「100枚のカードを用いて自身が重要だと思う価値観を選択する自己分析ツール」をオンラインホワイトボードの「Miro(ミロ)」を用いて行いました。
異文化でのチームワークから学ぶ
後半の講義では、履修生が講義室に集まり、チームワークについて学習しました。このセッションでは目標実現のためにメンバーの長所や強みを生かし、協力して取り組むことが不可欠である、という前提を共有します。異文化および分野横断的な環境の中で協力し、課題を解決し調整する能力を身に付けます。段ボールやペットボトルなど様々な10の素材を使って、チームのアイデアをもとに「世界の問題を解決する画期的なシステム」を作ることに挑戦しました。高齢者などの孤立を防ぐための「喋ってちゃん」や、衛生・地球環境を保全するための「ゴミ分別スタンド」、最高の1日を始める気分になれる「オハヨーあじさい」などを協力して作り、共通のゴールを達成するために必要な方法を習得しました。
また、各国のリーダーシップのスタイル(平等主義、階級主義)について、その国の歴史、文化、習慣を前提とした違いについても学びました。組織内での意思決定の方法は国によって大きく異なっており、各国のリーダーシップスタイルの特徴と、その中で起こりうる意識的あるいは無意識の偏見への対処法についても学習しました。
チームビルディングのセッションでは、グーグル合同会社に勤務する本学卒業生のミン・グエン(Minh Nguyen)氏がゲストスピーカーとして参加しました。ミン氏の実体験に基づく日本企業とグローバル企業の比較や、様々な環境の中で自分の能力を活かし目標を実現するためのヒントを履修生は聞くことができました。
最終発表セッション
最終日には3グループが、それぞれ2名のリーダーについて事例研究を行い、リーダーシップに必要な要素を分析し、結果を発表しました。履修生の多様な国籍を活かし、ノーベル平和賞受賞者のマザーテレサ、多くのユダヤ人を救った外交官の杉原千畝、明治・大正期の実業家である渋沢栄一、アリババ創業者のジャック・マー氏、台湾の蔡英文総統、米大手IT企業メタのCOO(最高執行責任者)シェリル・サンドバーグ氏を事例として取り上げ、各人のリーダーシップの手法を比較し、最後に、自身がリーダーとなった際に、異文化の環境で実施する効果的な組織運営の方法を提案しました。
履修生は最後に、学んだことを今後どのように自分の将来に適用していくかを具体的に示し、メンバーと共有しました。教員はこの集中授業が終わった後も履修生の成長、学びについて個別に、フィードバックします。
履修生は「新型コロナウイルス感染防止対策が始まって以来、初めての対面講義です」とクラスメートと実際に顔をあわせることに少し緊張していましたが、お互いの日常の様子を話し合ったり、これから予定しているお互いの留学先が近隣であることが分かり「留学先で会おうね」と連絡先を交換したりと、直接会って話ができることを楽しみました。多様な文化に属する参加者と交流を深め、オンライン、対面講義の両形式を通して、場所を選ばない国際協働の方法を学ぶ集中講義となりました。
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