学術研究懇談会(RU11)は、日本における最先端の研究・人材育成を担う、国立・私立という設置形態を超えたコンソーシアムです。北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、東京工業大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の11大学で構成されています。
このたび、RU11の総長・塾長・学長は、ノーベル物理学賞受賞を祝して、日本の科学研究の未来のために提言をまとめました。
平成26年11月11日
提言:日本の科学研究の未来のために
―ノーベル物理学賞受賞を祝して―
学術研究懇談会(RU11)
北海道大学総長 |
山口 佳三 |
東北大学総長 |
里見 進 |
筑波大学学長 |
永田 恭介 |
東京大学総長 |
濱田 純一 |
早稲田大学総長 |
鎌田 薫 |
慶應義塾長 |
清家 篤 |
東京工業大学学長 |
三島 良直 |
名古屋大学総長 |
濵口 道成 |
京都大学総長 |
山極 壽一 |
大阪大学総長 |
平野 俊夫 |
九州大学総長 |
久保 千春 |
2014年度ノーベル物理学賞を赤﨑勇博士、天野浩博士、中村修二博士が受賞されること、私たち日本の研究の現場を支える学術研究懇談会(RU11)として心からお祝い申し上げます。3名の先生の卓抜な研究力とたゆまぬご努力と共に人類社会への大きな貢献が認められたものと敬意を表します。
光の3原色の赤・緑に続く青色発光ダイオード(LED)において窒化ガリウム(GaN)が最適であることを見抜き、研究をリードされた赤﨑博士と、その元で大学院生として二つの大きな技術的難関を突破された天野博士、そして革新的な手法で高輝度化、量産化を達成された中村博士が、20世紀中は難しいと言われた青色LEDを実用化まで導かれました。その結果、「インフラを持たない世界15億人を照らす」としてノーベル賞の授与が決定されたことを大変喜ばしく思います。この受賞にいたる研究の経緯、また受賞者のご発言の中には、研究推進のための三つの大きな鍵が示唆されています。
最初の点は、多くの研究者が見放したGaNの研究を継続させる支援が当時の大学では得られていたことです。基盤的経費(教官当積算校費)と科学研究費補助金(科研費)に支えられた研究により最初の重要な成果である高品質GaN結晶化が達成されました。赤﨑・天野両博士はこの成果が多くの基礎研究の中の一つから生まれたものであり、失敗に終わった試みにおいてもその結果をフィードバックして次の研究の方向が生まれる等、決して無駄ではなかったと指摘されています。そして、これまで文部科学省が広い分野で多くの研究者の様々な試みを支援して来たことが日本の大きな強みとなって来たと言う指摘も重要です。短期間に成果を求めるプロジェクト型研究ではGaNの研究も日の目を見る事はなかったかもしれないとも言われ、多様な基礎研究を幅広く支える運営費交付金や私立大学等経常費補助金および科研費を削減すると言う昨今の流れに危惧を示されています。
二つ目は、素晴らしいリーダーと突破力を持つ若い研究者が手を携えて難関を突破したことであります。高い見識から大学院生を指導し、若手研究者に方向性を示すことで自由な研究環境を与えるメンターの存在と、これに答える優秀な若手の組み合わせが存在しました。これは多くの日本のノーベル賞受賞研究に共通するものです。今回の受賞研究の中核が形作られた当時の赤﨑博士とほぼ同じ年齢となられた天野博士が、現在博士後期課程大学院生の必要性を強く指摘されていることは重要です。近年博士後期課程への進学者数が減少しており、その最大の原因は経済的負担と言われています。博士後期課程に安心して進学するために必要となる、給付型奨学金、日本学術振興会特別研究員(DC)の奨励費等やRA(リサーチアシスタント)給与はアカデミアだけでなく科学技術を求める社会全体のためにもその拡充が強く求められます。
三つ目は、科学技術振興事業団(現科学技術振興機構)が赤﨑・天野両博士の基礎的な研究成果を発掘し、実用化に向けて企業との連携を支援したことです。1989年以降に同事業団が豊田合成株式会社との共同研究を支援したことは実用化に向けて大きく寄与しました。現在、多くの大学で産学官連携の仕組みを構築しており、芽の出た成果を確実に実用化に推し進め、社会に実装していく努力を続ける所存です。また、この種の支援には国全体で比較的力が注がれておりますが、今後も重要な施策として一層の強化が求められます。
以上の様に、今回のノーベル賞への道筋を詳しく振り返ると、卓越した研究者が自らのアイディアや構想に基づいて博士課程の学生なども参画させながら安定的に研究活動に取り組む環境が不可欠だったことが分かります。今回のノーベル物理学賞受賞研究は、1970~80年代の名古屋大学を始めとする日本の大学における、このような基礎研究を持続的に支援することが大きな研究成果やイノベーションにつながるという確信とそれに対する中長期的研究投資の賜物だと言えます。現在の研究の最前線ではナノレベルから宇宙まで人間の認識範囲が質・量ともに急速に拡大し、エンドレスフロンティアである学術の新しい領域を誰が創成するかの国際競争は益々熾烈になっています。その中で優秀な研究者による独創的な研究こそが、我が国の未来を決すると言っても過言ではありません。それを育む今日の中長期的研究投資こそが将来のノーベル賞や非連続的なイノベーションにつながります。
そのためには、RU11は、科学技術・学術審議会が提言している科研費をはじめとする競争的資金改革と連携し、卓越性を追求する観点から大学としての研究力の抜本的な強化に取り組む覚悟です。2016年度にスタートする、第5期科学技術基本計画や第3期国立中期目標期間に向けて、現在予算や制度改革に関する議論が活発化しています。それらを踏まえて、各大学は機能強化の加速に着手しています。その中で、2015年度の予算編成において、ともすると短い時間で成果を求めがちな最近の風潮を再考し、真に革新的イノベーションのシーズを生み出すために以下の点に留意しなければならないと考えます。
- (1)
- 運営費交付金・私立大学等経常費補助金等の基盤的経費や科研費の増額による質の高い多様な基盤的研究の中長期的な支援の確保
- (2)
- 卓越した大学院の形成による大学院博士人材の育成・支援
- (3)
- 研究開発法人等を活用した産学官連携による基礎と応用の橋渡し機能の強化
RU11ではこれまでも基礎科学支援の重要性を訴えて来ており、これらの中長期的研究投資を確実に行い、国を上げて大学の研究者から創造的・独創的な研究を引き出し、新しい社会的な価値の創出へと展開する環境を整備することが将来の日本の発展のために必要だと考えます。今回の受賞を機に文部科学省に留まらず、大学政策や学術政策、産業政策との連携強化の観点から、今一度日本の科学技術・イノベーション政策全体の見直しを政府に強く求めるものです。
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