要点
- 東京工業大学に帝国データバンク先端データ解析共同研究講座が設置された。
- 東京工業大学と帝国データバンクは、日本企業100万社のビッグデータを用いた中小企業の経営診断システムの開発を行う。
概要
株式会社帝国データバンクが保有する全国の企業およそ100万社の財務データや取引データなどの「ビッグデータ」を解析し、中小企業の経営改善や地域経済の活性化に役立てるシステムの開発に、東京工業大学と株式会社帝国データバンクが共同で取り組むことになりました。経済物理学の視点から帝国データバンクが保有する企業活動のビッグデータを解析し、企業の設立から業績向上・合併・倒産などのライフサイクルを記述する基礎モデルを構築、天気予報のように企業、産業の将来を予測するシミュレーションの実現を目指した共同研究講座です。
経営状態を B to B の企業間取引、資本関係、株の持ち合い、銀行との取引などの多層ネットワークを利用して解析するこの研究により、個々の企業、地域産業、日本の企業全体がもつ脆弱性をあぶり出し、危機を回避して発展するためのシナリオ抽出や数理科学に基づく企業経営計画や産業政策の立案が可能となります。科学技術基本計画[用語1] や Basel III[用語2] などに基づくリスク管理の高度化が実現できるようになります。
図1. 企業多層ネットワーク概念図
研究の背景と意義
2011年より、帝国データバンクと東京工業大学高安研究室との共同研究が始まり、その中で、企業活動が複雑ネットワーク上での動的なモデルとして記述できるようになってきました。すでに成果は、2014年の中小企業白書、メガバンクでの連鎖倒産シミュレーションなどで利用されています。講座開設により、複雑ネットワークの数理科学として、さらに超多変数の中から因果関係を抽出する新しい手法を構築することにより、ビジネスへの応用として、経営診断システム構築へと発展させようと考えています。
今回の研究項目
- (1)
- 企業多層ネットワーク構造の時間的変化を記述するモデル構築
- (2)
- 企業多層ネットワーク上のお金・もの・サービスの輸送モデル構築
- (3)
- 企業多層ネットワークの時間発展シミュレーションの実施
- (4)
- 企業多層ネットワークのストレステストの実施
- (5)
- 企業活動の統計的特性に基づく分類手法の開発(大・中・小企業の分類、類似企業の抽出など)
- (6)
- 企業多層ネットワークの基礎方程式の大規模エージェントベースモデルによる理解
今後の展開
- 起こりうる災害時の産業への影響を推定できるようになります。
- 地域産業の衰退を回避するためのシナリオ、頑強で持続可能な産業の発展のシナリオをシミュレーションによって確認できます。
- 様々な環境の変化による経済活動への影響を推定できるようになります。
用語説明
[用語1] 科学技術基本計画 : 科学技術基本計画は、平成7年11月に公布・施行された科学技術基本法に基づき、科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な計画であり、今後10年程度を見通した5年間の科学技術政策を具体化するものとして、政府が策定するものです。(文部科学省Webサイト より引用)
[用語2] Basel III : バーゼル合意とは、バーゼル銀行監督委員会が公表している国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際統一基準のことです。日本を含む多くの国における銀行規制として採用されています。バーゼルIIIは、金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高める観点から、国際的な金融規制の見直しに向けた検討が行われた結果、合意が成立しました。(日本銀行Webサイト より引用)
問い合わせ先
大学院総合理工学研究科 知能システム科学専攻
准教授 高安美佐子
Email: takayasu@dis.titech.ac.jp
TEL: 045-924-5640
株式会社 帝国データバンク
(東京都港区・代表取締役社長 後藤信夫)
産業調査部産業調査第1課 北村・後藤
TEL: 03-5775-3161