東京工業大学の細野秀雄栄誉教授が2022年のエドワード・ライン テクノロジー賞を受賞しました。
この賞は発明家であり、数多くのノンフィクションの著者であった故エドワード・ライン氏にちなんで1972年に設立されたエドワード・ライン財団が授与する国際賞で、情報工学の基礎に関する研究や開発で大きなインパクトを有する卓越した業績を挙げた研究者を対象としています。1979年以来、毎年1件の授与があります。細野栄誉教授の受賞タイトルは「ディスプレイ用金属酸化物薄膜トランジスタの発明」です。授賞式と記念講演は、コロナのため1年延期され2023年6月にドイツで開催されます。この賞の過去の受賞者には磁気共鳴イメージングの基本原理を最初に提案したポール・クリスチャン・ラウターバー博士(2003年ノーベル医学・生理学賞)や、有機ELの発明者のチン・タン博士、DFBレーザを発明した本学元学長の末松安晴栄誉教授をはじめ情報科学と工学の分野で著名な人達が名を連ねています。
受賞タイトル「ディスプレイ用金属酸化物薄膜トランジスタの発明」
細野栄誉教授は、半導体としてほとんど注目されていなかった透明な酸化物を対象に、化合物半導体としての可能性を探索し、多くの物質が優れた可能性をもつことを報告してきました。特に透明なアモルファス酸化物の半導体(TAOS)の1つであるIn-Ga-Zn-O(IGZO、通称イグゾー)は、ディスプレイの駆動用薄膜トランジスタ(TFT)として独占的に使われてきた、水素化アモルファスシリコンよりも、数十倍も電子が動きやすく、しかも低温で容易に大面積のガラスやプラスチックの基板上に製膜できるなどの利点があります。そのため、2013年ごろからタブレットPC、スマートフォーンの高精細な液晶ディスプレイに、さらに2016年ごろからは大型有機TVに搭載・実用化されています。特に有機EL-TVはアモルファスIGZO-TFTを使うことで、初めて産業化が可能になりました。
1995年の国際会議で初めて発表されたTAOSは、透明なガラスでしかも結晶半導体のように大きな移動度を有し、化学結合に基づく考察から材料設計されたものです。IGZO-TFTは国立研究開発法人科学技術振興機構の創造科学技術推進事業(JST-ERATO)「細野透明電子活性プロジェクト」で作製され、その成果は結晶薄膜に関しては2003年に、アモルファス薄膜で作製されたTFTの成果は2004年に、それぞれサイエンス誌とネイチャー誌に掲載されました。この2つの論文の引用回数は既に10,000回を超えています。また、酸化物では困難であったp型半導体で動作するTFTは、2007年に酸化スズ薄膜を用いて、2011年にはp・nの両方で駆動するCMOS動作を初めて報告しています。IGZO-TFTはディスプレイの駆動用として今や主流になり、昨今ではメモリー用途として研究が盛んです。
細野秀雄栄誉教授のコメント
突然、受賞の知らせが届いて驚きました。海外の研究者からの推薦によるものと聞きました。酸化物半導体の研究を始めた1990年代は、「シリコン以外はまともな半導体にならない。酸化物なんて遊びの研究だ」といわれていました。それが今や酸化物TFT(特にIGZO)はディスプレイ応用ではもちろん、昨今ではメモリー応用でも流行のテーマになっており、隔世の感があります。物質に秘められた可能性を実感し、さらに精進しないといけないと感じる次第です。
この研究は、恩師の川副博司名誉教授、神谷利夫教授をはじめ研究室の元スタッフ、歴代の院生、それにJST-ERATO「透明電子活性PJ」の技術参事であった故平野正浩博士、関係ポストドクター(カリフォルニア大学サンディエゴ校の野村研二准教授、北海道大学の太田博道教授)らによって支えられたものです。また、知財の確保、係争でも多くの方々にお世話になりました。厚く御礼申し上げます。
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