東京工業大学は、科学・技術の力で世界に貢献する人材を育成する教育プログラム「グローバル理工人育成コース」の所属生と修了生が、コースを通して得た国際的な経験を後輩の所属生たちに伝えるシンポジウム「理工人の未来設計—コース所属生たちのグローバルな活躍」を、1月11日にオンラインで開催しました。
文部科学省の支援により2013年度に開設した本コースは、現在、学士課程・修士課程をあわせて約2,200人が所属し、大学での国際教育が転換期を迎える中でも場所を選ばず質を維持した教育活動を続けています。
開会~グローバル理工人育成コースの意義
シンポジウムには、東工大学士課程1年生を中心に、教職員と合わせて約270人が参加しました。林宣宏副学長(国際連携担当)・国際教育推進機構長が開会のあいさつをし、参加学生を歓迎するとともに、グローバル理工人育成コースの意義について述べました。東工大は現在、コース所属生だけでなく学生全員がさまざまな国際経験を積める仕組みを整え、その仕組みづくりの土台となっているコースの先駆的な取り組みやそれを最大限活用した所属生および修了生が社会的にも高い評価を得ていることを説明しました。また、本シンポジウムの参加者が、これから入学する東工大生のロールモデルにいずれなるように、国際的な経験を積み、将来のキャリアに発展させていくよう、誇りをもって引き続き学修に取り組んでほしい、と述べあいさつを締めくくりました。
続いて、グローバル理工人育成コースでの科目履修や英語学習、海外での経験と将来計画のつながり、現在の活躍にどう生かされたかについて、コース所属生・修了生の3人が発表しました。
講演~コース所属生・修了生3人の経験から学ぶ
堤香澄さん(工学院 機械系 修士課程2年)
日本をトビタって見えたワタシと世界
プロフィール:マサチューセッツ工科大学との語学パートナー制度への参加等を経てグローバル理工人育成コース中級を修了。現在上級に所属しながら、2022年1月より、スウェーデン王立工科大学に交換留学中。
高校1年生の時にイギリスのケンブリッジに語学留学をしたことをきっかけに、堤さんは自身の専門性が身についてから長期の留学に行きたいと考え、2017年に東工大の学士課程に入学と同時にグローバル理工人育成コースに所属しました。学士課程3年次に、超短期海外派遣プログラムの1つであるジョージア工科大学リーダーシッププログラムに参加する予定でしたが、渡航予定日3日前に、新型コロナウイルス感染症拡大のために同プログラムは中止となりました。落胆した堤さんは、コースが提供するオンラインプログラムや、伝統文化を留学生とともに学ぶクラスを履修し、自国の伝統文化をいろいろな視点から学び、より深い知識を身に付け留学に臨むことができたと述べました。また、専門分野の学習やコースの履修で得た知識や経験は、留学先でのグループワークなどで貢献する力を発揮するもととなり、自信につながったと強調しました。
修士課程1年次の冬にスウェーデン王立工科大学への派遣交換留学を実現し、勉強や研究にまい進したこと、現地での慣習なども紹介しました。留学する時には英語力に自信がなかった堤さんは、スウェーデンでの研究生活を通して、英語の「上手さ」そのものより「発言の内容」が何よりも重視されることに気づいたと語りました。
これから参加する学生に向けて、英語の勉強と同時に、自国の文化を説明できるようになることや留学を少しでも考える人は今すぐに準備を始めることが望ましいと述べました。留学に関する情報を得る手段として、堤さんも所属する留学促進団体FLAP(フラップ)や、語学パートナー制度を運営する東工大ACTION(アクション)を紹介しつつ講演を締めくくりました。
中筋勇人さん(生命理工学院 生命理工学系 修士課程1年)
国際経験に大きな挑戦は必要ない。ただ小さな挑戦を繰り返そう!
プロフィール:TASTE(Tokyo Tech Abroad Short-Term Education)短期語学留学、Nakatani RIES短期研究留学(アメリカのジョージア工科大学へ約2ヵ月滞在)等を経てグローバル理工人育成コース中級を修了。現在は上級に所属。
中筋さんは東工大に入学した当初、新しいことを始めたいという気持ちで、国際開発サークルIDAに所属し、先輩と一緒にスリランカに視察旅行に行ったことが留学への興味の始まりだったと振り返りました。
学士課程2年次に新型コロナウイルス感染症が流行し始めた中、中筋さんは積極的にオンラインのプログラムに参加していき、コースのスタッフから中谷医工計測技術振興財団のプログラムNakatani RIESを紹介されたことが、その後の米・独への2度の短期研究留学につながったと述べました。
中筋さんは、国際経験には大きな勇気や挑戦は必要がなく小さな挑戦を繰り返し、その都度失敗や反省点を生かし、次につなげるモチベーションを継続することが大事であることを伝えました。最後に、参加者に向けて、今ここにいることですでに留学への一歩を踏み出しているのでここで終わりにすることなく、自分なりのモチベーションをもって挑戦し続けて欲しいと応援しました。
星めぐみさん(日本電信電話株式会社(NTT)勤務/2021年3月東工大 工学院 機械系 修士課程修了)
人付き合いは広く、長く
プロフィール:タイ超短期海外派遣(Global Awareness and Technology Implementation2)、派遣交換プログラムによるスイス連邦工科大学ローザンヌ校留学等を経験し、2021年3月グローバル理工人育成コース上級を修了。
星さんはチュラーロンコーン大学と合同で行う課題解決型プログラム、タイ超短期海外派遣「Global Awareness and Technology Implementation: GATI」への参加を通して、タイの学生と衝突しながらも沢山の時間をかけて議論をしたことで、お互いの考え方の違いを学びながら1つのプロジェクトを完成させたことは高い達成感となったことを語りました。
このプログラムを経て、修士課程1年の時にスイス連邦工科大学ローザンヌ校の材料工学科の研究室に所属して授業の履修と研究活動を行いながら派遣留学を実現させました。現地では、専門的知識や英語で研究・議論する力を身に付けました。それに加え、世界中の国から勉強に来ている友人たちとの交流を通して、自分の先入観がなくなり国外のニュースが他人事でなくなるなど、価値観に影響を与えたと述べました。
またGATIでともに学んだタイ人の学生がドイツに留学をしていることを知り、ミュンヘンへ赴き会ったエピソードを紹介しました。チュラーロンコーン大学と合同で行ったプログラムは困難なことがたくさんありましたが、そこで1つのことを一緒に成し遂げて得た人づきあいは、現在の仕事においても大きな糧となっていると語りました。
星さんは最後に、1つの決まった目標を持っていなくてもさまざまな体験をすることで視野が広がり、思いもかけない方向に進み、進路が決まることがあると話しました。コロナ禍でリモートの優れている点もわかってきた一方で現地に行かないとわからないこともある、両方の経験を上手く活用してほしいと講演を締めくくりました。
質疑応答と閉会
講演後、国際教育推進機構の太田絵里特任教授の司会で活発な質疑応答が行われました。留学で大変だったことや、英語力の維持について、さらに長期留学のための単位履修等の具体的な内容までたくさんの質問が寄せられ、講演者がそれぞれ自身の体験をもとに回答しました。
最後に、閉会のあいさつをグローバル人材育成推進支援室長である環境・社会理工学院 融合理工学系の野原佳代子教授が述べました。野原教授は、現在は不確実性とともに生きる社会であり、不確実性や失敗は恐れるものではなく、いろいろなことに挑戦し、東工大で得られる機会を自分のものにし可能性を広げていってほしいと、参加学生への期待と応援の意を伝えました。
参加者の声(アンケートより一部抜粋)
今まで、留学や積極的な国際経験においては、新型コロナウイルス感染症の影響もあり留学は大学にいるうちにいつかできればいいなと思い、国際経験も英語スピーキング演習を履修するにとどまっており、まだシンポジウムのような場所でプレゼンをするようなグローバルな人材には程遠いと思っていました。しかし、このシンポジウムで発表をした先輩方の多くは、大学に入学するまで国際経験がほとんどない状態で、初めての国際経験として学士課程の英語スピーキング演習を挙げていて、自信が無かった自分はもうすでに一歩踏み出せているのだと感じさせてくれました。
シンポジウムを通じて、特に印象に残ったことは失敗を恐れないこと、そして大きい挑戦とは限らず、小さな挑戦もたくさん行っていくことでした。失敗を恐れないことで新しい挑戦に対して迷いなく進むことができ、失敗することがあっても成長できる。そういったところを3人の発表を通じて理解することが出来ました。あえて大きいことに挑戦し続けるよりも、小さい挑戦を積み重ねることで下地を作れば、大きい挑戦への不安をやわらげ、さらには失敗したときに対してもある程度対処できるような対応力が育めるのではないかと感じました。
個人的なイメージとして、留学は修士になってから長期間するものかなと思っていましたが、3人の話を聞いて学士課程のうちに短期で留学をするのも選択肢の1つとしてあることを新たに知りました。留学する人は明確にやりたいことが決まっていたり、将来設計ができていたりするのかなと思っていましたが、なんとなく行ってみたという方もいて、むしろ考え込んでしまうとためらってしまうと思うので、勢いで行った方がいいこともあるということを聞き、この機会に何か動いてみようかなと思いました。
多くの人は海外に行くことを挑戦と捉え、学術的向上を図ろうとしていると思います。しかし、今回の講演の中で直接的にではないが、海外留学の目的を英語能力の向上や研究経験以外にもさまざま挙げていました。その話を聞いて、留学について真剣になりすぎるのは良くなく、とりあえず行ってみようというような動機でもいいのだと思いました。自分は中筋さんと同じく、1年の冬に超短期派遣に行くので、そこで留学経験を終わらせるのではなく、海外大学院での研究や、海外での就職などを見越して留学経験を積み重ねていきたいと思いました。
グローバル理工人育成コースとは
東工大の学士課程・修士課程において「国際基礎力」「国際実践力」「国際協働力」を段階的に発展させる国際性涵養(かんよう)に特化した教育カリキュラムです。専門性を基礎としたアイデンティティー・知識・経験・技術力を基軸とし、多様性を理解し、倫理観を持って、グローバル社会の未知な課題に対応できる「科学・技術の力で世界に貢献する人材」を育成することを目的とします。
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