東京工業大学と住友化学株式会社(以下「住友化学」)は、環境に配慮したデバイスの社会実装に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の1つとして期待される「強相関電子材料」の実用化促進を目的とした「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」を東京工業大学オープンイノベーション機構の支援のもと設置し、4月10日に調印式を行いました。
電子同士が強く相互作用しあう物質群は「強相関電子材料」と呼ばれ、物質内で数多くの電子同士が、電荷、スピン、軌道などを通じて相互作用し合う結果、その多くの自由度を生かし、複雑かつ興味深い物性を示すことが数々の研究により示されています。
東工大と住友化学は、最初の取り組みとして、強相関電子の原理により磁気的性質と電気的性質が交差相関応答を示す「マルチフェロイックス材料※1」に着目し、共同研究を通じて材料・プロセス開発、信頼性評価ならびにデバイス実証に取り組むこととしました。その特徴を生かした産業利用への期待として、超低消費電力で駆動可能な磁気メモリなどの次世代メモリへの応用が挙げられます。東工大が神奈川県立産業技術総合研究所(以下「KISTEC」)と既に共同で研究を進めてきた成果にも基づき、KISTECも含めた三者で共同研究を推進します。
本協働研究拠点では、クロスアポイントメント※2も活用して、東工大がこれまで培ってきた、材料や薄膜加工プロセス、信頼性評価に関する幅広く高度な知見に基づき、低消費電力デバイスの早期実証および社会実装を目指します。加えて、強相関電子材料やトポロジカル材料※3などの量子マテリアルを次世代エレクトロニクスのプラットフォーム技術に醸成すべく、量子材料開発の人材育成およびイノベーション創出を図ります。
強誘電性、強磁性、強弾性などの「強的(ferroic)」な性質を複数併せ持つ物質。電場の印加によって物質の磁化が誘起される(電気磁気効果)など、従来材料とは異なる新奇な応答反応を示す。
研究者などの人材が、大学や公的研究機関、企業のうち2つ以上の組織・機関に雇用されつつ、それぞれの所属先における役割に応じて研究・開発および教育に従事すること。
物性物理学おいて、伝導状態に関して従来の金属と絶縁体という分類ができず、トポロジーという数学的な概念を適用することで伝導状態が理解される物質。物質の内部は絶縁体でありながら、表面は電気を通すなどの通常の物質には起こりえない物性を示す。
(左から)住友化学の上田博副社長と益一哉学長
「住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点」の概要
名称
住友化学次世代環境デバイス協働研究拠点
研究題目
マルチフェロイックス材料を用いた低消費電力デバイスの開発
場所
神奈川県横浜市緑区長津田町4259
東京工業大学 すずかけ台キャンパス J1棟511号室
設置期間
2023年4月1日 ~ 2026年3月31日
拠点長
曽根正人(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
副拠点長
岡本敏(住友化学 経営企画室 研究企画統括)