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面内分極を用いた2次元強誘電半導体メモリを開発 新記録方式による高密度次世代不揮発性メモリ

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要点

  • ナノチャネルにおける面内分極を用いた新記録方式の不揮発性メモリを実現。
  • 2次元強誘電半導体材料をメモリ材料として利用。
  • ナノレベルのボトムコンタクト構造を用いた新たな横型高密度メモリとして期待。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の真島豊教授の研究グループは、2次元強誘電半導体α-In2Se3をギャップ長100 nmのナノギャップ電極[用語1]上に転写したボトムコンタクト構造において、面内分極を用いた新記録方式による不揮発性メモリを開発した。

強誘電体メモリは電源を切ってもデータを保持できる不揮発性メモリとして、大きな注目を集めている。特に2次元(2D)ファンデルワールス(VdW)半導体材料のα相セレン化インジウム(α-In2Se3)は、原子スケールでの強誘電性や光電性、半導体性を有しているため、高速の不揮発性メモリ材料として理想的である。しかしこれまでのα-In2Se3メモリは、ギャップ長がマイクロメートルオーダーで、α-In2Se3上にソース/ドレイン電極を形成するトップコンタクト型であったため、チャネル部が面内分極反転[用語2]する不揮発性α-In2Se3メモリは実現していなかった。

本研究では、ギャップ長100 nmのナノギャップからなるソース/ドレイン電極上にα-In2Se3を転写する、ボトムコンタクト型強誘電体メモリ構造を採用した。これにより、ドレイン電圧で抗電界に匹敵する横方向電界をチャネル間に印加し、面内分極反転に基づく強誘電半導体不揮発性メモリを実現した。このメモリには、103に達するON/OFF比と、17時間以上のリテンション(データ保持時間)、1,200サイクル以上の耐久性があり、面内分極を利用した幅広い応用が可能であることが確かめられた。

このナノチャネルボトムコンタクト型強誘電半導体α-In2Se3メモリでは、面内分極が横方向電界によって再配列するため、次世代のマルチレベルセル(MLC)に相当する様々な記憶状態が得られる可能性がある。ギャップ長を微細化したナノチャネル強誘電半導体メモリは、高密度な次世代不揮発性メモリとして、産業用途への応用が期待される。

今回の成果は、ナノスケール材料科学技術分野で権威ある学術誌の1つであるAdvanced Science(Willey)のオンライン版へ8月11日(現地時間)に掲載された。

背景

強誘電体は、電界により分極を反転できるため、非破壊読み出しメモリ、ニューロモルフィックコンピューティングへの応用に加えて、不揮発性メモリとしての利用が期待されている。しかし、従来の強誘電体メモリ技術は、不揮発性や速度、拡張性、消費電力などの点で課題があり、高密度な不揮発性メモリの作製には適していなかった。

これに対して、2次元強誘電半導体であるα相セレン化インジウム(α-In2Se3)は、原子層レベルで強誘電性を示し、1.39 eVのバンドギャップを持つことから、高ON/OFF比や低消費エネルギーなどの特徴を有する強誘電半導体不揮発性メモリのチャネル材料としての利用が期待されている。これまでに報告されているα-In2Se3メモリでは、ギャップ長がマイクロメートルオーダーであり、α-In2Se3上にソース/ドレイン電極を形成するトップコンタクト型であったため、α-In2Se3部が面外分極反転しても、チャネル部は面内分極反転しなかった。そこで、ソース/ドレイン電極上にα-In2Se3を転写するボトムコンタクト型として、ギャップ長をナノメートルオーダーとすると、ドレイン電圧で抗電界に匹敵する横方向電界をチャネル間に印加できるため、面内分極反転に基づく不揮発性α-In2Se3メモリの構築が期待されていた。

研究成果

真島教授らはこれまでの研究で、電子線リソグラフィ[用語3]により20 nm以下のギャップ長を有する白金ナノギャップ電極を作製する技術を確立してきた。本研究ではそれと同じ手法を用いて、シリコン基板上に、電極間隔が100nmのナノギャップ電極を形成し、2次元強誘電半導体α-In2Se3をナノギャップ電極に転写したボトムコンタクト型のメモリ構造を作製した(図1)。

図1. ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの断面構造(左)と、メモリ素子 のSEM像(右)
図1.
ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの断面構造(左)と、メモリ素子 のSEM像(右)

ギャップ長100 nmのボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流−電圧特性は、明瞭な面内分極反転に基づく強誘電半導体の不揮発性メモリループ効果を示し、103に達するON/OFF比が得られた(図2左)。また、リテンション(データ保持時間)は17時間以上あり、1,200サイクル以上の耐久性がある(図2右)。このことは、開発したナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリが、面内分極を利用した新記録方式による不揮発性メモリとして幅広く応用可能であることを示唆している。

図2. ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流−電圧特性(左)と、 リテンション(データ保持時間)特性(右)
図2.
ボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリの電流−電圧特性(左)と、 リテンション(データ保持時間)特性(右)

研究の経緯

真島教授のグループでは、数nmスケールの超高速動作が期待される単分子架橋共鳴トンネルトランジスタの安定動作実現に向けた研究を展開しており、これまでに電子線リソグラフィとナノ無電解金メッキを用いるナノギャップ電極構築技術を確立してきた。今回報告した、面内分極を用いた2次元強誘電半導体メモリは、このナノギャップ電極構築作製手法の知見を元に発案され、横方向電界による面内分極反転に基づく新しい不揮発性メモリ技術を確立した。

社会的インパクト

今回開発したナノチャネルボトムコンタクト型2次元強誘電半導体α-In2Se3メモリでは、面内分極が横方向電界によって再配列する、次世代のマルチレベルセル(MLC)に相当する様々な記憶状態が得られる可能性がある。ギャップ長を微細化したナノチャネル強誘電半導体メモリは、高密度な次世代不揮発性メモリの開発につながることから、産業用途への応用が期待される。

今後の展開

今回開発した2次元強誘電半導体メモリは、一般的な半導体基板であるシリコン基板上に面内分極不揮発性メモリを直接構築するという簡便な方法で作製できるため、工業的な応用価値が高い。今後は、企業などと連携して実用化に向けた研究開発を展開する。

用語説明

[用語1] ナノギャップ電極 : 間隔がナノメートルオーダの電極対のこと。

[用語2] 面内分極反転 : 強磁性体における自発分極が、電界により基板面に平行な方向に反転する現象。

[用語3] 電子線リソグラフィ : 半導体集積回路の製造過程において、電子線を使い回路パターンを形成する方法。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Science
論文タイトル :
Bottom Contact 100 nm Channel-Length α-In2Se3 In-Plane Ferroelectric Memory
著者 :
Shurong Miao, Ryosuke Nitta, Seiichiro Izawa, and Yutaka Majima
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 真島豊

Email majima@msl.titech.ac.jp
Tel 045-924-5309 / Fax 045-924-5376

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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