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ロタキサン架橋高分子の新しい強靭化メカニズムを解明 持続可能な社会を担う高分子材料の設計指針を確立

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概要

千葉大学 大学院工学研究院の青木大輔准教授、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の大塚英幸教授、博士後期課程3年の横地浩義大学院生らの研究グループは、リヴァプール大学のロマン・ボラトフ教授、ロバート・T・オニール大学院生らと共同で、輪成分に軸成分が貫通したロタキサン構造[用語1]を有する架橋高分子[用語2]の新しい強靭化メカニズムを解明しました。

本研究では、分子が力を受けて変形する際にロタキサン構造が解離する(軸から輪が抜ける)ことによって、「架橋高分子の架橋点への応力集中」を分散でき、分子全体としては壊れにくくなること(強靭化)を証明しました(図1)。ロタキサン構造は化学結合を介さずに空間的に連結した超分子構造です。本研究によりこのような構造が犠牲結合[用語3]として働くことが明らかになったことで、今後機能性高分子材料の開発が加速することが期待されます。

本研究成果は2023年10月18日(現地時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

図1 研究概要図

図1. 研究概要図

背景

架橋高分子は、ゴムやプラスチック、液体を含んだゲルといったさまざまな形状で使用され、私たちの生活を支える材料となっています。高分子鎖同士を連結する点を架橋点といいますが、この架橋点にロタキサン構造を有するロタキサン架橋高分子(RCP)は、架橋点が強い結合で繋がっている従来の架橋高分子(CCP)と比較して(図2a)、力がかかっても柔軟に変形し壊れにくいことから、次世代型材料として医学・工学等広く注目を集めています。これまで多種多様な輪と軸成分で構成されたRCPが開発されてきました。

より壊れにくいRCPを開発するには、輪成分の十分な可動領域が重要な要素とされています。なぜなら、輪成分が軸上を滑り柔軟に動くことで、分子のネットワークにかかる応力が均一化され、材料全体を強靭にする「滑車効果」が生まれるからです(図2b)。

一方、極端に狭い可動領域を有するRCPにおいても、力をかけても壊れにくい例が報告されていました。可動領域が狭いため「滑車効果」はあまり見込めないはずなのになぜ壊れにくいのか、そのメカニズムは未解明でした(図2c)。

図2 先行研究

図2. 先行研究

研究成果

ロタキサン構造において、軸の末端(キャップ)構造は輪成分の脱離を防ぐ重要な役割を果たしています。研究チームは、首に引っ掛かっているピチピチのTシャツを力で無理やり脱ぐように、十分な大きさがあるキャップでも大きな力がかかれば抜けるのでは?と考え、これが材料を強靭化しているメカニズムではないかと仮定しました(図3)。本仮説を証明するために、図2cのように輪成分の可動領域が短いが壊れにくいことが分かっているRCP①と、それと比べてキャップ部分をより大きくしたRCP②を合成し、力学物性を比較して検証しました(図3左)。RCP②は、CCPと似た力学物性を示し材料を強靭化できなかった一方で、RCP①はRCP②やCCPと比べ著しく強靭であることが分かりました(図3右)。以上から、「ロタキサン構造を維持するのに十分な大きさがあるとされているキャップでも、力をかけるとロタキサン構造が解離する」という仮説を支持する結果が得られました。

図3 異なるキャップ構造を有するRCP(左)と引張試験による評価(右)

図3. 異なるキャップ構造を有するRCP(左)と引張試験による評価(右)

しかしながら、本構造が実際に力で抜けている確固たる証拠が必要です。そこで、力を受けると桃色に変色する性質をもつジフルオレニルスクシノニトリル(DFSN、図4左)骨格をロタキサン構造部分につなげたRCPを新たに合成し、大きな力をかけて変形させた際の色変化を比較しました。

輪成分が実際に力で抜ければDFSN骨格に応力は集中せず桃色への色変化は起こりませんが、キャップ部分が大きいと力をかけても輪成分は抜けることなくDFSN骨格に応力が集中して桃色着色が生じるので、ナノスケールの応力集中を可視化できます(図4)。実際に、キャップの大きさのみが異なる2種類のDFSN含有RCPを引っ張ったところ、RCP①のように力によって脱離が起こると予測された大きさのキャップをもつRCPでは着色が起こらず、より大きなキャップ構造を有するRCPでは顕著に着色が起こりました(図4右)。この比較によって、ロタキサン構造の輪成分がキャップをすり抜けたことによりDFSNへの応力集中が回避されたことが分かり、ロタキサン構造が犠牲結合のように振る舞うことで材料を強靭化していると裏付けることができました。

図4 DFSN骨格の性質(左)と本研究で行ったロタキサン解離挙動の可視化(右)

図4. DFSN骨格の性質(左)と本研究で行ったロタキサン解離挙動の可視化(右)

今後の展望

一般に可動領域が大きいロタキサン構造はポリマー鎖を軸成分とするため、RCPとして合成・利用する際には分子設計の制約や異種材料との親和性が課題となります。一方、本研究で主題とした極端に狭い可動領域を有するRCPは、低分子のロタキサン架橋剤をラジカル重合系に添付するだけで合成でき、架橋成分が低分子であるためマトリックスポリマー[用語4]との親和性も担保できます。ビニルモノマー[用語5]のラジカル重合は工業的に広く利用されており、低分子のロタキサン架橋剤を使用することで広範囲のビニルポリマーへ簡便にロタキサン構造を導入できる汎用性の高い合成経路を提供できます。今回解明した空間的な犠牲結合による架橋高分子の強靭化は、従来の犠牲結合による強靭化と比較して犠牲結合の解離の際に結合の切断を含まず、一切の化学構造破壊がない点も特徴的です。本研究成果により、RCPの設計指針として末端構造の重要性にスポットライトが当たり、本特性を利用した機能性高分子材料の開発が加速することが期待されます。

付記

本研究は、以下の事業・研究領域・研究課題の支援を受けて行われました。

日本学術振興会(JSPS)
二国間交流事業共同研究・セミナー(JPJSBP120205702)
研究課題名:応力の可視化によるロタキサン架橋高分子の物性発現メカニズムの解明
研究代表者:青木大輔(千葉大学 大学院工学研究院 准教授)

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「革新的力学機能材料の創出に向けたナノスケール動的挙動と力学特性機構の解明」
(研究総括:伊藤耕三 東京大学 教授)
研究課題名:「動的共有結合化学に基づく力学多機能高分子材料の創出」
研究代表者:大塚英幸(東京工業大学 物質理工学院応用化学系 教授)

用語説明

[用語1] ロタキサン : 棒状分子(軸成分)がリング状分子(輪成分)の輪の中を通り、棒状分子の両端が大きな分子(キャップ)で固定されている分子集合体。

[用語2] 架橋高分子 : 高分子鎖が互いに連結された三次元構造を有する高分子で、ゴムやプラスチック、液体を含んだゲルといったさまざまな形状で存在する。一般に溶媒に不溶であり、力を加えると架橋点に力が集中しやすいという特徴がある。

[用語3] 犠牲結合 : 通常の共有結合よりも弱い力で切断される結合。架橋高分子組み込むことで、力を加えた際に弱い犠牲結合が優先的に解離し、局所的なエネルギーを散逸することによって材料全体を強靭化できる。

[用語4] マトリックスポリマー : 繊維や粒子などの強化材料を支持するポリマーの基材で、ナノコンポジット、医療機器、細胞接着分子、多孔性材料などの分野に応用されている。

[用語5] ビニルモノマー、ビニルポリマー : ビニル基を持つ分子で、ビニルポリマーとは、ビニルモノマーが重合した高分子。プラスチックやゴムなどに使われている。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
A Sacrificial Mechanical Bond is as Effective as a Sacrificial Covalent Bond in Increasing Cross-Linked Polymers Toughness
著者 :
Hirogi Yokochi, Robert T. O’Neill, Takumi Abe, Daisuke Aoki, Roman Boulatov and Hideyuki Otsuka
DOI :

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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 大塚英幸

Email otsuka@mac.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2131

千葉大学 大学院工学研究院

准教授 青木大輔

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東京工業大学 総務部 広報課

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千葉大学 広報室

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