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令和6年能登半島地震における津波増大メカニズムを検証 能登半島・飯田湾における特異的な津波の要因を解明

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要点

  • 令和6年能登半島地震における津波の特徴を明らかにするため、数値解析を実施
  • 飯田湾沖の浅い海域に津波エネルギーが集中するとともに、散乱波的な津波が重なり合ったことで局所的に津波が増大
  • 甚大な被害は直接的には第一波ではなく、二次的に生じた短周期の津波に起因したと推測

概要

東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系の高木泰士教授、Nabiel Luthfi Siddiq(ナビエル・ルスフィ・シディク)大学院生、Feldy Tanako(フェルディ・タナコ)大学院生、Daryl Paul Balita De La Rosa(ダリル・ポール・バリタ・デラロサ)大学院生らの研究チームは、能登半島地震における津波の増大メカニズムに関する研究成果を発表した。

令和6年能登半島地震では日本海側の広い範囲で津波の到達が確認されているが、能登半島の先端に位置する飯田湾では特に高い津波が襲来し、石川県珠洲市や能登町の住宅地、飯田港や鵜飼漁港などインフラに甚大な被害をもたらした。本研究では、地震発生後の津波の伝わり方を詳しく調べるために数値解析を行い、飯田湾における津波増大メカニズムについて検討を行った。その結果、震源に近いという理由のほか、富山湾や飯田湾沖の海底地形の特性で津波エネルギーが著しく集中したことや、第一波が到達した後に湾の両端の岬で発生した二次的な津波が湾内で重なり合った結果、局所的に津波が増大したことを明らかにした。本研究成果は5月19日(現地時間)付けで国際学術専門誌「Ocean Engineering」に掲載された。

震源断層より飯田湾に伝播した津波による最大水位

震源断層より飯田湾に伝播した津波による最大水位

背景

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、震源に近い飯田湾で3 mを越える津波が発生し、住宅地や港に大きな被害をもたらした。珠洲市の鵜飼漁港周辺は、最も津波被害が大きかった地域であり、津波は海岸から内陸約500 mまで達したことが空中写真判読や現地調査により確認されている[参考リンク1]。また、同じく珠洲市の飯田港では防波堤の一部区間が倒壊し、津波による被害と考えられている[参考リンク2]

一方、能登半島の北端の珠洲市川浦町から西の輪島市にかけては、津波による大きな被害が確認されていない[参考リンク3]。また、気象庁や土木学会、英国バース大学など複数の調査チームの計測によると、飯田湾の津波は富山湾に比べると顕著に大きく(図1)、震源に近いという理由以外にも、何かしら特異的なメカニズムで津波が増大したことが疑われる。

図1. 能登半島や富山湾内で計測された津波の高さ。気象庁、土木学会、英国バース大学など各調査チームの計測記録および気象庁、国土交通省の各潮位観測所で観測された最大水位に基づき、東京工業大学研究チームが作成。
図1.
能登半島や富山湾内で計測された津波の高さ。気象庁、土木学会、英国バース大学など各調査チームの計測記録および気象庁、国土交通省の各潮位観測所で観測された最大水位に基づき、東京工業大学研究チームが作成。

研究成果

強い揺れを伴うマグニチュード7.6の地震が石川県能登地方で1月1日16時10分に発生した。そのとき生じた地殻変動に基づき、国土地理院により震源断層が推定されており[参考リンク4]、本研究ではその断層モデルを利用して、津波の発生や伝わり方、到達時間を調べるために能登半島を含む広域での数値解析を行った。

数値解析の結果によると、能登半島の北西岸に沿って長く延びた震源断層上で発生した津波は、地震直後に北西に向かう津波と南東に向かう津波に分裂したと考えられる。このうち南東に向かう津波は屈折作用により大きく回り込む形で富山湾方向に伝播し(図2a)、飯田湾の沖に舌状に広がる飯田海脚と呼ばれる水深300 mより浅い海域上においてエネルギーを保ちながら飯田湾に向かって進行した(図2b)。同時に、急勾配海底斜面での屈折作用により、富山深海長谷と呼ばれる水深900 m以上の海底谷から飯田海脚の浅海域に向かって津波エネルギーが集中した(図2c)。これら一群の津波は第一波として地震発生約20分後に飯田湾に到達した(図2d、図3a)。

さらに地震発生30分後頃、南北の岬の影響で散乱波が発生し、その一部が回折波として湾内に回り込んだことで、二次的な津波が発生した(図3b)。岬で発生したこの二次的な津波は、互いに干渉したり、先行する第一波の反射波と重なり合ったりしながら、湾内において非常に複雑な水位変動を励起したと考えられる。

図2. 数値解析による地震発生後の津波伝播の状況。白い部分は陸地を示している。
図2.
数値解析による地震発生後の津波伝播の状況。白い部分は陸地を示している。
図3. 飯田湾に到達した第一波と新たに発生した二次的な津波。
図3.
飯田湾に到達した第一波と新たに発生した二次的な津波。

次に、数値解析データの水位変動をウェーブレット解析という波の周期的・時間的な出現特性を調べられる方法で分析したところ、第一波の津波の周期は5~10分であったのに対して、遅れて発生した二次的な津波の周期は2分以下と短い波であった(図4)。

このように、第一波の津波の後に、多方向に進行する短周期の津波が新たに発生し、湾内の特定の場所で重なり合ったことで、局所的に津波の増大が引き起こされる状況が生じたと考えられる。津波が湾内で非一様な振る舞いをしたことは、数値解析結果の空間分布にも表れている(図5)。

図4. ウェーブレット解析による飯田湾内における津波の周期特性の分析
図4.
ウェーブレット解析による飯田湾内における津波の周期特性の分析
図5. 最大津波水位の空間分布 (a) 能登半島全てを含む領域、(b) 飯田湾を中心とした領域
図5.
最大津波水位の空間分布 (a) 能登半島全てを含む領域、(b) 飯田湾を中心とした領域

また、飯田港~鵜飼漁港の一帯で特に津波の被害が大きかった状況は、本研究チームによる被害調査においても確認されている(図6)。

珠洲市役所に設置されたモニタリングカメラの映像記録[参考リンク5]には、押し寄せる津波が記録されており、本研究でも津波の到達時間や進行方向を特定するのに役立った。この映像には地震発生約30分後、沖方向からの津波と岸に沿って進むボア状の津波(砕けた状態で進行する津波)が、飯田港辺りで交差するような状況が記録されている。その直後には津波が防波堤と激しく衝突し、スプラッシュ(水塊)が高く打ちあがる瞬間も記録されている。スプラッシュはその映像に映っている避難タワーの4階、少なくとも10 m以上の高さにまで達していた(図6d)。前述した飯田港の防波堤倒壊は、このときの衝撃によるものと推測される。なお、同映像には数値解析結果(図2d)と同じく、地震発生20分後に津波の第一波が到達する状況が映っている。この第一波の津波は30分後に発生する二次的な津波よりも明らかに小さく、この地域で生じた甚大な津波被害は、直接的には第一波ではなく後続する二次的な津波によるものと考えられる。

図6. 津波による珠洲市の被害状況。(a) (b) 鵜飼漁港、(c) (d) 飯田港。
図6.
津波による珠洲市の被害状況。(a) (b) 鵜飼漁港、(c) (d) 飯田港。

防災上における知見

飯田湾内で津波が増大した理由の一つは、飯田湾沖に舌状に広がる浅い海域(飯田海脚)に津波のエネルギーが著しく集中したことである。もう一つの大きな理由は、第一波の津波が湾内に伝わった後、2つの岬で散乱波が生じて回折や湾内での反射を引き起こし、特定の場所で2つ以上の津波が重なり合い、増大したことである。一般的に津波といえば周期の長い波をイメージするが、飯田湾に甚大な被害をもたらしたのはかなり短周期の津波であった。また、直接的な被害は第一波によるものではなく、それに続く二次的な津波によるものであった。この二次的な津波は散乱波的な性質を有し、個々のエネルギーは第一波よりも小さかったと推測されるが、短周期の津波がさまざまな方向から襲来し重なり合うことで、局所的に津波が増大したと考えられる。

このように、津波による被害は地震の規模や断層の位置・大きさといった地震自体の要素に加えて、津波が向かう先の局所的な条件に大きく左右されることが改めて浮き彫りになった。この局所的な条件の影響を受けて津波が特に増大したのが、飯田港~鵜飼漁港の一帯ということになろう。一方、局所的に大きくなる場所があるということは、局所的に小さくなる場所があることも示唆する。飯田湾内において津波被害が相対的に軽微な場所もあったが、そのような場所は津波の重なり合いが偶然にも生じなかった場所と考えるべきで、津波に対して安全な場所であったと考えるのは適切ではない。

論文情報

掲載誌 :
Ocean Engineering
論文タイトル :
Locally amplified tsunami in Iida Bay due to the 2024 Noto Peninsula Earthquake
著者 :
Hiroshi Takagi、Nabiel Luthfi Siddiq、Feldy Tanako、Daryl Paul Balita De La Rosa
所属 :
東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系
DOI :

環境・社会理工学院

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東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系

教授 高木泰士

Email takagi.h.ae@m.titech.ac.jp

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