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アンモニアを安定に吸脱着できる単分子結晶吸着材を開発 ⽔素キャリアであるアンモニアの貯蔵材料の新候補

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要点

  • アンモニアを高密度で吸着する、リング状有機分子の単分子結晶材料を開発
  • アンモニアを繰り返し吸脱着することができ、材料の再生も簡便に行うことが可能
  • 水素キャリアであるアンモニアの貯蔵/運搬材料の新候補として期待

概要

東京工業大学 理学院 化学系の小野公輔准教授、石川智貴大学院生(研究当時)、政野紫苑大学院生(修士課程)、後藤敬教授、東京理科大学 理学部 化学科の河合英敏教授らの研究チームは、アンモニアを高密度で吸着し、また回収も簡便に行え、繰り返し使用できる吸着材料を開発した。

アンモニアは環境汚染物質である一方、水素経済における水素キャリア[用語1]として注目され、アンモニアを安定に繰り返し吸脱着できる材料が社会的に求められている。しかしながら、アンモニアの高い反応性のために、従来の弱い相互作用を利用した自己集合性高分子材料では繰り返しの使用に問題があり、安定にアンモニアを吸脱着できる材料は限られていた。

同研究チームは、高い化学安定性を示すリング状有機分子の単分子結晶を吸着材に用いることで、既存の自己集合性高分子材料の安定性の問題を根本的に解決し、繰り返し安定にアンモニアを吸脱着できる材料の開発に成功した。さらに、吸着されたアンモニアが材料内部で高密度に貯蔵されること、また、減圧操作だけで簡単に材料を再生できることも明らかにし、実用面でのメリットも示された。リング状分子はその内部をさまざまな官能基で修飾できるため、アンモニアに対するさらなる吸着能や選択性の向上が見込まれ、液体アンモニア以上の密度でアンモニアを吸着できる材料の実現が期待される。

本成果は、2024年7月12日、米国化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」誌にオンライン掲載された。

背景

アンモニアは環境汚染物質である一方で、水素原子を高い重量密度・体積密度で含むため、水素経済における重要な水素キャリアとして注目されている。たとえば、液体水素に比べ、液体アンモニアは同じ体積で約1.7倍の水素を含むことができる。もし、アンモニアを液体アンモニア以上の密度で吸着材料に吸着させ、固体状態で貯蔵/運搬することができれば、水素貯蔵における大きなブレークスルーになると言える。このような背景から、アンモニアを高密度で貯蔵し、繰り返し安定に吸脱着できる材料が社会的に求められている。

現在、ガス吸着材料として自己集合性の高分子材料が盛んに研究されている(図1左)。これらの材料は、構成成分を弱い相互作用で連結することで合成されているため、反応性の高いアンモニアの吸着材料には適していない。そのため、安定してアンモニアを繰り返し吸脱着できる材料は限られているのが現状である。

研究チームはこれまでに、ナノメートルサイズの広い内部空間を有する有機分子であるオリゴフェニレンリング[用語2]を開発してきた[参考文献1]。このリング状分子は炭素—炭素結合に由来した高い化学安定性を有し、内部を2つの官能基で修飾できる特徴をもっている。そこで、アンモニアと相互作用する酸性官能基を有するリング状分子を合成し、固体中で積層させることができれば、酸性の細孔を有する細孔性単分子材料になるのではないかと着想した。そして本材料は、既存の自己集合性高分子材料が抱える安定性の問題を根本的に解決でき、繰り返しアンモニアを吸脱着できる材料になるのではないかと期待し研究を行った(図1右)。

図1 従来の自己集合性の高分子細孔性材料(左)とオリゴフェニレンリングの単分子結晶からなる細孔性材料(右)

図1. 従来の自己集合性の高分子細孔性材料(左)とオリゴフェニレンリングの単分子結晶からなる細孔性材料(右)

研究成果

本研究では、酸性官能基としてカルボキシ(CO2H)基を有するオリゴフェニレンリング1aを合成した(図2a)。このリング1aのクロロホルム溶液にメタノールを加え再沈殿させると、リング1aがカラム状に積層した構造をもつ結晶性固体が選択的に得られることが分かった(図2b)。この結晶性固体は340°Cまで加熱しても分解せず、また1 Mの塩酸や水酸化ナトリウム水溶液に1日間さらしても安定だった。この結晶性固体材料を用い、20°Cにおけるアンモニアガスの吸着実験を行ったところ、極低圧からアンモニアが吸着され、最終的には8.27 mmol/gのアンモニアを吸着した。この時の材料内でのアンモニア吸着密度は0.533 g/cm3と液体アンモニアの密度に近い値(–33°Cで0.681 g/cm3)になった。さらに、結晶性の劣化や吸着量の減少を伴うことなく、アンモニアを繰り返し安定に吸脱着できることも明らかになった。20°Cで9回連続で行ったアンモニアの吸着と脱着の等温線[用語3]を図2cに示しているが、9回分の吸脱着線がよく重なっていることからも吸脱着が安定して繰り返し行えていることが分かる。また、通常の吸着材では、再利用時に残留アンモニアを取り除くために、減圧しながら数時間から1日程度、100〜300°C程度で加熱する必要がある。それに対し、今回の材料では、室温下で1時間減圧するだけで完全にアンモニアを取り除き、再生することができた。

上記の通り、再沈殿だけで材料を調製できる点、簡便に材料を再生できる点、湿気がある環境下でも酸や塩基に対して安定である点は、本材料の実用面での大きな利点である。

図2  (a)CO2H基で修飾されたオリゴフェニレンリング1aの構造式とその結晶性固体の写真(b)1aの結晶性固体の構造。(c)リング1aの結晶性固体に対し、20°Cでアンモニアガスを9回連続で吸脱着させた際の吸脱着等温線

図2.

(a)CO2H基で修飾されたオリゴフェニレンリング1aの構造式とその結晶性固体の写真(b)1aの結晶性固体の構造。(c)リング1aの結晶性固体に対し、20°Cでアンモニアガスを9回連続で吸脱着させた際の吸脱着等温線

社会的インパクト

本研究では、これまで注目されてこなかった高い化学安定性をもつリング状有機分子からなる細孔性結晶が繰り返し安定にアンモニアを吸脱着できる材料になることを実証した。さらに、本材料が「調製」、「再生」、「安定性」の面において、実用的に優れていることを示した。これらの成果は、水素キャリアとして注目を集めているアンモニアの吸着材料の新候補を提示するものであり、水素社会の発展に寄与するアンモニア吸着材の開発につながる点で、社会的に大きなインパクトをもつといえる。

今後の展開

今後、リング状分子の内部を適切な官能基で修飾することで、アンモニアに対するさらなる吸着能や選択性を向上させ、液体アンモニア以上の密度でアンモニアを吸着できる材料の開発を目指す。

付記

本研究は科学研究費助成事業(18K05093、24H00005)、および近藤記念財団(2018-2)の支援を受けて実施した。

用語説明

[用語1] 水素キャリア : 気体のままでは貯蔵や長距離の輸送の効率が低い水素ガスを、液体水素やアンモニア、水素吸蔵合金、メチルシクロヘキサンなど別の形にして、効率的に貯蔵・運搬する技術が研究されている。この技術における、水素ガスの代替になっている液体水素やアンモニア、水素吸蔵合金、メチルシクロヘキサンのことを水素キャリアと呼ぶ。

[用語2] オリゴフェニレンリング : ベンゼン環が連結され、環構造を形成する化合物。ここでは本研究チームが開発した12個のベンゼン環からなる大環状化合物を指す。

[用語3] アンモニアの吸着と脱着の等温線 : アンモニアの圧力を変化させていった時に材料がアンモニアを吸着した量を表したグラフ。アンモニアの圧力を増加させていく場合が吸着、減少させていく場合が脱着。

参考文献

[1] K. Ono,* Y. Tanaka, K. Sugimoto, S. Kinubari, H. Kawai, ACS Omega, 2022, 7, 45347–45352.

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
Reversible Adsorption of Ammonia in the Crystalline Solid of a CO2H-Funcitonalized Cyclic Oligophenylene
著者 :
Kosuke Ono*, Tomoki Ishikawa, Shion Masano, Hidetoshi Kawai, Kei Goto
DOI :

関連リンク

お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

准教授 小野公輔

Email k.ono@chem.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3279

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661

東京理科大学 経営企画部広報課

Email koho@admin.tus.ac.jp
Tel 03-5228-8107


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