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アルミニウムのサーキュラーエコノミー実現に向け、アップグレードリサイクル量産技術の確立へ前進 世界初の量産を目指す「縦型高速双ロール鋳造実験機」がNEDO助成事業で完成

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東京工業大学 物質理工学院の熊井真次特任教授、同学院 材料系の村石信二教授ら、株式会社UACJはこのほど、かねてから取り組んでいる国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」)のアルミ素材高度資源循環システム構築事業である「資源循環型社会構築に向けたアルミニウム資源のアップグレードリサイクル[用語1]技術開発プロジェクト」(以下「本事業」)において、本事業の中核となる「縦型高速双ロール鋳造実験機」(以下「本鋳造実験機」)を開発・完成しましたので、お知らせします。アルミの量産化を目指した鋳造技術としては、世界で初めて(UACJ調べ)の取り組みとなります。

これまで、アルミ溶湯[用語2]に鉄(Fe)やシリコン(Si)などの不純物が混入すると、材料の特性が低下してしまうため、アルミニウム展伸材[用語3]の原料にリサイクル材を使用することには技術的な課題が多く困難とされてきましたが、今回開発した技術を用いることで、不純物の許容量を大幅に増やすことができ、大量のリサイクル材を使うことが可能になりました。

今回開発した本鋳造実験機は従来の横型双ロール鋳造機と比べ、溶湯とロールの接触面が長いことや、熱伝導性が高いロールを採用したことなどにより、アルミ溶湯の冷却速度と鋳造速度はほぼ数十倍に向上しました。これにより、急速な凝固プロセスが構築され、アルミ合金の溶湯に混入した不純物による晶出物[用語4]の微細化および分散化が可能になり、展伸材としてのアルミリサイクル品の製造が実現します。

今後は、アルミニウムのサーキュラーエコノミー実現に向けた中核となる本鋳造機の活用などで、2030年以降に高品質なアルミニウムリサイクル材の量産化と、大幅なCO2排出量削減を目指します。

アルミ素材高度資源循環システムの概念図

アルミ素材高度資源循環システムの概念図

背景

アルミニウムは、再生地金を使用することで、新地金を使用するよりも製造時のCO2排出量を97%削減できることから、循環型経済推進への取り組みが近年特に期待されています。

現在、アルミ展伸材は不純物の許容度が低いため、アルミ缶以外の分野では十分に水平リサイクル[用語1]が行われておらず、不純物許容度の高い鋳物やダイカスト[用語3]へのカスケードリサイクル[用語1]が主となっています。しかし今後、アルミ展伸材の生産量は増加する見通しの一方、EV化の影響などで、カスケードリサイクルの受け皿となる鋳物やダイカストの生産量の伸びは小さいと予想されています。このようなことから、アルミニウムのリサイクル率を上げるために、従来のカスケードリサイクルに加えて展伸材へのリサイクルが求められています。

このような背景のもと、3者は2021年度に開始した本事業で、循環型社会構築に向けたアルミニウム資源のアップグレードリサイクル技術開発に取り組んできました。今後は、アルミニウムのアップグレードリサイクル技術開発における量産技術の確立に向けて、3者で協力して取り組みを進めてまいります。

今回の成果

縦型高速双ロール鋳造について

縦型高速双ロール鋳造は、横に並べた一対の水冷銅製ロールにサイドダム[用語5]ノズル[用語5]を付け、上から溶湯を注ぎ、2~5 mm程度の厚さの薄板を20~80 m/分の高速で直接製造する連続鋳造法です。これは従来の横型双ロール鋳造圧延と比較すると、冷却速度と鋳造速度が数十倍に向上します。これは、本鋳造実験機が、溶湯とロールの接触面が長いこと、ロール上面に溶湯プール[用語5]を形成することによる押湯効果[用語6]、さらに、熱伝導性が高いロールを採用したことなどで実現しています。

このように縦型高速双ロール鋳造は多くの特長を持ちますが、溶湯の安定供給や表面品質制御などが難しく、これまで実用化されてきませんでした。本事業では、プロジェクトメンバーである学校法人常翔学園(所在地:大阪府大阪市、理事長:西村泰志)の大阪工業大学、学校法人東京電機大学(東京都足立区、理事長:石塚昌昭)が所有する小型ラボ実験機を使った基礎実験を行い、そのデータに基づいて、新たに設計・製造しました。本実験機では、200 kgのアルミ溶湯を用いて、幅200 mmの薄板を数分間で鋳造することが可能です。これにより、ロールの表面温度を早く安定させることができ、実機での量産を再現することができました。

縦型高速双ロール鋳造実験機の概略図

縦型高速双ロール鋳造実験機の概略図

縦型高速双ロール鋳造実験機の写真

縦型高速双ロール鋳造実験機の写真

縦型高速双ロール鋳造実験機の効果

本縦型高速双ロール鋳造実験機は、板幅は200 mmと狭いものの、溶湯供給や各種条件制御などは実操業を想定した仕様となっており、ロール幅を拡大することで量産機の設計に展開できると想定しています。縦型高速双ロール鋳造実験機は高速で生産性が高いため、板幅を2,000 mmとすれば、年間約20万トンの薄板製造能力があることになります。これは従来のDC鋳造[用語7]、熱間圧延であれば中規模以上のラインに相当します。従来のDC鋳造、熱間圧延プロセスで同等の薄板を製造するには、(1)溶解、(2)鋳造、(3)均質化処理、(4)面削、(5)圧延前加熱、(6)熱間圧延の6工程が必要であるのに対し、縦型高速双ロール鋳造では(1)溶解、(2)鋳造の2工程だけで済みます。そのため、従来のプロセスと比較して、製造時間や設備設置の面積のほか、費用や製造に必要なエネルギーをおよそ20%削減することができます。既存材においても、縦型高速双ロール鋳造実験機で製造することで、Scope1のCO2排出量削減が可能になります。さらに、急冷凝固はアルミリサイクル材の不純物の影響を軽減することができ、水平リサイクルの推進にも寄与できます。

今後の予定

NEDOとUACJと東京工業大学は、縦型高速双ロール鋳造実験機での高品質なアルミリサイクル材の量産化を目指し、量産化に必要な技術課題の解決を進めます。2030年以降に量産設備を実現し、2050年には業界全体で年間1,800万トン規模のCO2排出量削減を目指してまいります。

UACJについて

株式会社UACJ(ユーエーシージェー)は、グローバルに事業を展開するアルミニウム総合メーカーです。「アルミでかなえる、軽やかな世界」をスローガンに掲げ、素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献することを目指しています。
UACJは、2013年に古河スカイ株式会社と住友軽金属工業株式会社が経営統合し発足した会社で、アルミ圧延を開始してから125年以上の歴史を持ちます。グループ内に板、自動車部品、押出・加工品、鋳鍛、箔の5つの事業を持ち、飲料缶、自動車、IT機器、空調、航空宇宙産業などの幅広い分野にアルミ素材を供給し、人びとの暮らしや産業を支えています。
2024年3月期の連結売上高は8,928億円、グループ従業員は約10,500人です。

本事業の概要について

事業名:アルミ素材高度資源循環システム構築事業
「資源循環型社会構築に向けたアルミニウム資源のアップグレードリサイクル技術開発プロジェクト」
事業期間:2021~2025年度
アルミニウム素材高度資源循環システム構築事業|新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

用語説明

[用語1] 水平リサイクルカスケードリサイクルアップグレードリサイクル : 水平リサイクルは「展伸材から展伸材」「鋳物から鋳物」などの同一グレードへのリサイクル。カスケードリサイクルは「展伸材から鋳物」などの不純物許容度が高く低グレードの製品群へのリサイクル。アップグレードリサイクルは「鋳物から展伸材」などの不純物が多く低グレードの屑から高グレードの製品群へのリサイクルを指す

[用語2] 溶湯 : アルミニウムを溶解し、液体状にしたもの

[用語3] 展伸材鋳物・ダイカスト : 展伸材は、板材・押出材・鋳造材・鍛造材・箔材などの形状のもので、缶や自動車、空調、IT機器、航空宇宙分野などで使用されるアルミ材。鋳物やダイカストは、溶かしたアルミニウムを型に流し込み固める製造法で作られたもので、自動車のエンジンブロックなどに使用されるアルミ材。UACJグループでは、展伸材を製造している

[用語4] 晶出物 : 母相のアルミニウムとは異なる化合物

[用語5] サイドダムノズル溶湯プール : ロール側面にサイドダム、上面にノズルを設置することで、ロール上面を囲み、ここに溶湯を流し入れて溶湯プールを形成する

[用語6] 押湯効果 : 溶湯プールに溜まったアルミ溶湯の重さで、ロールとの密着性を高めることで、冷却機能を向上させること

[用語7] DC鋳造 : 半連続鋳造(Direct Chill) 。アルミニウムを溶解した後、スラブと呼ばれる塊を一度鋳造する方法。今回の鋳造では、溶湯から直接薄板を鋳造するCC法(Continuous Casting)が使用されている

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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院

特任教授 熊井真次

Email kumai.s.aa@m.titech.ac.jp
Tel 03-5734-3140

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報課

Email media@jim.titech.ac.jp
Tel 03-5734-2975 / Fax 03-5734-3661


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