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Art at Toyo Tech 12年の軌跡

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大学院社会理工学研究科主催の一般向けイベントArt at Tokyo Techは、東工大の芸術活動として2004年秋に開始されました。現在に至るまで12年間継続し、一区切りがつきましたので、Art at Tokyo Techの展開と教訓をご紹介します。

Art at Tokyo Techの展開

東工大と芸術の関係は非常に深く、1881年の設立当時から、主要輸出工業製品であった絹や陶器の製作にあたっては芸術性が重視されてきました。板谷波山(文化勲章受章者)、浜田庄司(同)から人間国宝 島岡達三などにいたる、そうそうたる人々が関わり、建築分野でも、谷口吉郎(文化勲章受章者)、篠原一男(ベネチアビエンナーレ特別賞受賞)につながる系譜が、この伝統を継承しています。さらに、これらの造形芸術ばかりでなく、時間芸術の音楽においても、すでに第2次世界大戦以前から、1920年代につくられた世界最高ピアノである、ドイツ、ベヒシュタイン社のフルコンサートグランドピアノを用いた授業がおこなわれていました。

Art at Tokyo Techはこれらの伝統に立脚し、東工大にArtを再興する為に企画された活動です。最初の行事は2004年秋に、大岡山キャンパスの西9号館の竣工記念として行なわれました。この活動の特色は、以下の点にあります。

  • 有名か無名か、年齢に関わらず、また東工大との関係があるかによらず、世界の真に実力のある芸術家を招聘
  • 西9号館を中心とした芸術空間の創造と連動
  • 学生教職員を巻き込んでいる

従って、学外有名タレントの公演を中心とする活動とは一線を画しています。

第1の特色は国際的に展開してきたことです。2004~2006年にかけては、女優の岸田今日子、一人芝居のイッセー尾形など、一般的に有名な方もお招きしました。しかし、それ以降は、国際的に活躍されているアメリカのロブ・フィシャー、英国のホアン・クルス、日本の鈴木昭男など芸術家、著名な美術史家であるドイツのアンジェラ・シュナイダー、あるいは学生などが中心となっています。

第2の特色は、西9号館のホールおよび建物の美的向上を目指していることです。オーストラリアのヨルク・シュマイサーが南極を訪れ、製作した氷山の芸術作品や、前述の東工大の宝の一つで有るベヒシュタインピアノが展示されています。また、矢萩 喜從郎のホール入り口付近に有る情報ボード、西9号館西の1階付近の石のベンチなど、一体になって芸術空間を作り上げています。

第3の特色は、東工大の正規授業(文明科目、専門科目)と連動していることです。オーディションによって選ばれた学生や教職員によるエントランスホールコンサート(西9号館入り口のエントランスホールで実施)が開催されています。また、ベヒシュタインピアノ友の会のメンバーによる、ピアノのメンテナンスも日常的に行われています。

Art at Tokyo Techの活動は2007年以降、年度ごとにテーマを決め、それにそった芸術家を招聘しています。これは、同じシーズンに行なわれる行事が連携し、全体として参加者の意識と感性を揺り動かすことを目指したためです。2007年から2013年までは、「異邦からのまなざし」の共通テーマのもとに、東工大の活動を世界的視点から見直すサブテーマを毎年決めて行なってきました。また、2014年は東工大ベヒシュタインピアノが製造されて90年周年を迎えたことを記念して実施されました。特に学外者に多くのリピータがあり、大きな成果をあげました。

Art at Tokyo Techの教訓

これまで延べ76回のメインイベント、18回のプロムナードコンサート、72回のエントランスホールコンサートが開催されました。参加人数はそれぞれ合計で、メインイベントが10,450名(平均140名)、プロムナードコンサートは1,700名(平均100名弱)、エントランスホールコンサートは3,520名(平均50名)です。これらは少なくない値だと言えるでしょう。

時系列的に参加者の推移を見ると、2004~2007年と比較してその後、参加者数は減少傾向にあります。これは学外の参加者が、比較的有名な講師や演奏家の行事に多いためと考えられます。また、2006年以降招聘した美術家は、現代芸術作家であるため、現代美術の難解さから、多くの学外者はこれを敬遠したのでしょう。一方、学生の直接参加があるエントランスコンサートや、東工大のラテンジャズビッグバンド ロスガラチェロスによる演奏会の参加人数は、現時点でもほとんど変化ありません。このことから、少なくとも参加者数という点では、学生の参加が行事の実施にとって不可欠だといえます。

Art at Tokyo Techのもたらす質的な効果

特別に才能の有る東工大学生の参加はすでに当初からなされていました。一般の学生が受講する講義との関係が明確になったのは、2007年以降です。世界的なハーピストであるフローレンス・シトラック氏(ジュネーブ・コンセルバトワール教授)による講義が始まりでした。ハープの演奏技術を学ぶのではなく、音楽の基本となる感性に関する内容でした。

その後、世界的なサウンドアーテストである鈴木昭男氏により音の創造、京都賞を受賞した現代ダンスの巨匠ピナ・バウッシュカンパニーのダンサーであるジャン・ローレン・サスポータス氏によりパーフォーマンスの講義がなされました。ジャン・ローレン・サスポータス氏の講義の成果発表会となった2008年の学生パーフォーマンスは、サスポータスの演技を超えるほどの素晴らしい出来となりました。

このような経験から、2013年のベヒシュタインピアノ90周年記念プログラムでは、学生の参加を大幅に取り入れました。具体的には、公開オーディションと、イヴ・アンリ氏(パリコンセルバトワール(国立パリ高等音楽院)ピアノ科教授)による公開レッスンが実施されました。これは、東工大という理工系大学で世界最高の音楽教育が受けられるという、歴史的な行事となりました。さらに2014年、劇場付舞踊団マドモアゼルシネマとそれを率いる伊藤直子氏が、学生と実施した合同公演「東京物語」は、ダンスシアターの地平を広げるものとなりました。

行事に参加した学生の感想

  • 貴重なベヒシュタインピアノが東工大で保管されていたというのが重要であり、あのピアノの存在なしでは語れないと思います。ピアノは、数多くの楽器の中で最も多くの技術が注入された技術の結晶ともいえる精密機械(メカ)です。特にそれも古いものとなれば、エンジニアの卵である東工大の学生は、音楽に興味がなくてもそれなりの興味を持って接するものかと思います。つい最近、音楽にそこまで縁が無い研究室の学生数人が、目の前にあるピアノについていろいろ話していたのが印象的でした。当時のエンジニアの知恵を結集した機械製品に対して特別な接し方をする文化がある東工大の土壌は、非常に重要かと思います。学業や研究を進める上では、精神的疲労からの解放というヒーリング効果ももちろんですが、特に研究においては、芸術に触れることで新たなアイデアや解決法を得ることも期待できます。
  • イヴ・アンリ先生の公開レッスンに参加し、先生の指導を受けて「こんな風な楽譜の捉え方があるのか」「こういう解釈ができるのか」と一気に視野が広がったと記憶しています。この時から身に付け始めた楽譜を精読・分析する習慣や、曲を大掴みに捉える力は、学業を修める上でも大変役立っているように感じます。Art at Tokyo Techの存在は、どれだけ学業が忙しくなっても、音楽にふれ、心を豊かに保つのを助けてくれています。Art at Tokyo Techに小学生の時に参加して「東工大には立派なグランドピアノがあるんだなぁ」という認識も、受験校を決めるに至った大きな理由の一つになっていたように思います。
  • 学業・研究を進める上での効果は、みんなで何かを作る達成感が得られ、グループワークの良さを知ることができることです。また、創造性や独創性に関して、伊藤直子先生の授業は、普段の何気ない生活や自分の中の気持ちからの気づきを学生から引出し、それを動きとすることが多いです。研究もひょっとした気づきから生まれるのかもしれません。一人で考えるのもいいけど、みんなで考えた方が良いものが創れる。でも、それは最初に他人任せにしないで、ひとりひとりが考えを練らなければならないというプロセスは、非常に重要だとおもいます。
  • 伊藤直子先生は、一見とても些細なことにでも着目をして、発想力豊かな振り付けを構成していきます。学業や研究、またそれ以外のことに対して(例えば人と話をするときなど)、自分の感受性を最大限に開くことが、物事への取り組みに独自の発想力を加えることに繋がり、より強い影響を人に与えると感じました。

このように、Art at Tokyo Techは学生への教育・研究推進およびセラピーなど、多方面で大きな効果があることが証明されています。

大学の社会貢献という観点から捉えたArt at Tokyo Tech

大学の社会貢献が、その本来の機能である教育・研究に基づいた独自の発信であるとすれば、Art at Tokyo Techにおける学生のパーフォーマンスはその最たるものでしょう。

「東京物語」を観劇した一般の方のアンケートからその一部を紹介します。

  • 信頼されるものづくりをしたいといって後ろに倒れ、仲間が支える。ピナ・バウッシュのシーンにもありますが、日本・アジアのものづくりの信頼を、アートの融合で表現する。本当に面白かったです。
  • 発想が自由なのでとても面白かったです。学生さんもとても素直にダンスしていて、新しい印象でした。せりふや歌も新鮮でした。

このようにArt at Tokyo Techは、東工大におけるArt の復興ばかりか、学生の教育、および社会への発信におおきく寄与したことがわかります。

今後さらにこれを定着させるために、世界で活躍する芸術家によるまとまった講義への、学生の創造的かつ真剣な参加が必要です。つまり、言語化された評論家によるリレー講義は適しません。また、世界に広がったパーフォーマンスアート(すなわち、音の演奏や身体的活動をふくむ芸術)を基軸とし、美術映像を含む総合芸術の推進を進めることが大切です。さらに、特定の才能に秀でた学生を対象にするのではなく、誰でも参加可能な芸術、モノの創作、パーフォーマンスを、一体化することが望ましいといえるでしょう。このためには、学内の講義科目の整備とともに展示スペースを含む音響に優れた、学外にも開かれたパーフォーマンスのおこなえる芸術空間の創設が不可欠です。

Art at Tokyo Tech 2014 東京物語
Art at Tokyo Tech 2014 東京物語

お問い合わせ先

肥田野 登
Email : nhidano@soc.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3185


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