リベラルアーツが動き出す シリーズ講演会 第5回 開催報告
「東工大発、世界を見据えたリベラルアーツとはなにか。」多彩なゲストを迎え、さまざまな視点から考えていく全7回の講演会シリーズです。東工大は現在教育改革を進めており、2016年4月から新しい教育がはじまります。この改革の取り組みのなかで、東工大の教養、語学、健康教育などを司る「リベラルアーツ研究教育院」が同じく2016年4月に発足します。この講演会シリーズは同研究教育院の発足に向け、準備を進めている同研究教育院ワーキンググループが、スーパーグローバル創成支援事業の支援を受け、実施しています。
このシリーズ講演会は主に東工大の大学院生、教職員を対象としていますが、今回の講演会は一般にも公開されました。
第5回 |
日時 |
3月16日(月)14:00~15:30 |
場所 |
西8号館10F大会議室 |
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タイトル |
「脳ブームの迷信、真実、教訓~学生とともに学ぶ」 |
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講師 |
藤田一郎(大阪大学教授) |
講演の前半では、藤田教授が大阪大学基礎工学部生物工学コースにておこなってきたPBL授業が、具体例を挙げつつ紹介されました。PBL(Problem-based learningもしくはProject-based learning)とは、「課題探求型」の教育手法で、受講生がみずから問題・プロジェクトを設定し、主体性をもってそれにとりくむことが大きな特徴です。たとえば数名の学生チームが錯視ビデオを作成し発表するなど、外への発信にも重点がおかれています。PBLを成功させるコツも伝授され、東工大のリベラルアーツ研究教育院における参加型授業の実施を考えるうえでも、数多くの示唆がありました。
講演後半で論じられたのは、藤田教授の学生がPBL授業の課題としてとりくみ、メディアでも大きな反響をよんだ「脳ブームの迷信、真実、教訓」というテーマです。1990年代より脳科学は急速に一般社会に浸透しはじめ、いわゆる脳ブーム現象が起きたわけですが、世間に氾濫する脳科学情報のなかには、真偽の怪しいものも少なくありません。藤田教授は某脳トレ本の実例を詳細に検証し、脳ブームの功罪を確認したうえで、看過できないその実態に警鐘を鳴らします。さらに講演の結びでは、科学と社会との健全な関係の実現に向けて、貴重な提言がなされました。
講演後、フロアからたくさんの質問が出され、活発な議論がおこなわれました。なかでも印象に残ったのは、クリティカルシンキングの重要性に関するものです。怪しげな科学情報が巷にあふれる時代にあって、とりわけ専門知識をもつ東工大生や卒業生になにができるのか。情報の発信はむろんのこと、受信をめぐる倫理の問題についても、大いに考えさせられる講演になりました。