2015年4月1日付で就任した、岡田哲男 理学系長・大学院理工学研究科理学系長からの挨拶をご紹介します。
理学系長・理学部長に就任にあたって
岡田哲男
2015年4月1日付けで理学系長を拝命しました。私は、当時“日本で一番楽”と言われていた京都大学理学部・大学院理学研究科の出身です。必修はなく、単位認定はあまく、良く言えば学生の自己管理・裁量に任されていました。しかし、私を含めて怠惰な学生にとっては"野放し"であったために無駄に過ごした時間が少なくはなく、もったいないことをしたと思うこともあります。現在、本学では来年度からの教育改革に向け、一部科目の必修化、単位の厳格化などが進められています。当時の京大の対極とも言うべき教育改革に少なからず関与することになり、皮肉な運命を感じています。
大学院修了後、静岡大学の教養部で9年半の間1,2年生の化学の教育を担当しました。多い年には半年の講義に換算して10コマ以上の授業を担当し、教育に多くの時間を割きました。その上、一緒に研究をしてくれる学生がいなかったため、重い教育負担の間を縫って実験するなど研究のための時間を捻出しました。当時の教養部は、低学年の学生に対する教育に特化しており、また卒業する学生の最終的な質に対してほとんど責任を負わないことになっていました。私はこのような組織の存在に強い疑義を持っていました。また、研究を軽視している教員が多く、機会がある度にこのような教養部は不要、解体すべしという意見を述べていました。偶然この時期に大綱化で教養部がなくなることになりました。1995年10月、当時の私の思いが現実のものになる直前に東工大に転任しました。これもまた皮肉な巡り合わせでした。
本学の理学系は多くの理工系基礎科目の責任部局と位置付けられています。理学系の教員は責任感だけで理工系基礎科目を担当しているわけではありません。この科目への熱い思いに触れることもしばしばです。優秀な学生と共に研究を進められる時間的、精神的なゆとりが、教育に向かう熱意を生むのだと思います。静岡大学時代にはつらかった1年生相手の授業ですが、私も本学で受け持つことに苦痛を感じることはなくなりました。試行錯誤することがおもしろく感じることも少なくありません。これが受講学生からの好評価につながるかどうかはともかくとして、教える側に過度の負担を強いないことが、教育システムとしてうまく機能するポイントだと思います。教える側だけでなく、(京大方式の是非はともかく)教わる側にも適度なゆとりは必要だと思います。
理学系は本学の中でも最も多様性に富んだ部局です。好奇心を駆動力とする研究推進、研究への国内外からの高い評価、そして教育に対する熱い思いは理学系教員に共通していますが、教育・研究における具体的な手法や考え方は様々です。これまではこの多様性が組織としての弱点になることが多かったように思います。今年度から法改正に伴い教授会の権限が縮小されました。また、部局長の役割も変わり、部局の独自性が薄れる方向に進んでいます。生物の進化や進歩は多様性によって支えられていますし、現代社会でも多様性が重視され、その重要性が認識されています。大学も例外ではありません。一定のガバナンスは必要ですが、画一化は組織としての弱体化につながります。本学の基本路線を尊重しつつ理学系の多様性を大学全体の発展に生かせるよう力を尽くす所存です。