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温度が上がると収縮する負の熱膨張の材料を発見

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概要

東京工業大学応用セラミックス研究所の岡研吾助教、東正樹教授らと京都大学の研究グループは、ビスマス・ランタノイド・ニッケル酸化物(Bi1-xLnxNiO3用語1)という材料が樹脂材料の熱膨張に匹敵するほどの巨大な負の熱膨張を示し、さらに、その動作温度範囲を室温付近の400-200K(Kは絶対温度、0Kはマイナス273.15℃)の間でコントロールできることを発見した。

研究の背景

電子部品や光通信などのナノスケールでの加工精度が必要とされる産業では、熱膨張によるほんのわずかな位置ずれですら致命的な問題となる。この問題を解決するアプローチとして、温度を上げると体積が収縮する負の熱膨張現象を応用し、構造材の熱膨張を抑制する手法が注目を集めている。

研究成果

Bi1-xLnxNiO3 (Ln = La, Nd, Eu, Dy) は6 GPa(ギガパスカル)、1000 ℃という高圧高温条件で合成される。 一連の試料の負の熱膨張挙動を、平均格子体積の温度変化を調べる粉末X線回折法 (XRD、用語2) と直接試料片長さの温度変化を調べる熱機械分析法 (TMA、用語3) を用いて評価し、組成依存性を明らかにすることを目的として研究を行った。

本研究により、Bi0.95Ln0.05NiO3 (Ln = La, Nd, Eu, Dy)というすべての組成で、線熱膨張係数αL = 70×10-6/Kを超える巨大な負の熱膨張が起こることを見いだした。この値は、熱膨張の大きな樹脂材料に匹敵する。Bi0.95La0.05NiO3では280-400Kという室温以上の実用性の高い温度領域で負の熱膨張を示す。これらの材料の負の熱膨張が起こる温度は、置換するランタノイドのイオンを小さくすることで高く、また置換量を増やすことで低くコントロールすることが可能であることを発見した。

今後の展開

Bi1-xLnxNiO3は樹脂材料に匹敵するほど大きな負の熱膨張を示し、さらにその特性はチューニングできる。よって、所望の温度範囲で構造材の正の熱膨張を抑制可能と期待できる材料である。

用語解説

用語1: Bi1-xLnxNiO3
ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、酸素(O)がペロブスカイトと呼ばれる結晶構造をとった酸化物。本研究では、ビスマスの一部をランタノイド元素(Ln)で置換した材料の研究を行った。Ln は ランタン=La、ネオジム=Nd、ユウロピウム=Eu、ジスプロシウム=Dy

用語2: X線回折法 (XRD):
X線回折法 (XRD): X線が結晶格子で回折を示す現象を利用し、物質の結晶構造(格子体積の大きさ)や内容物の割合などを調べる手法。

用語3: 熱機械分析法 (TMA):
圧縮、引張り、曲げなどの荷重を加えながら、試料の温度を変化させ、試料の変形を直接的に測定する方法。

図 a,b,c
(a) Bi1-xLnxNiO3における温度誘起電荷移動相転移。
(b) 粉末X線回折パターンから求めた平均格子体積の温度変化。
(c) 熱機械分析装置で測定した試料片長さの温度変化。

論文

著者:
岡 研吾, 奈部谷 光一郎, 坂口 智可, 関 隼人, Michal Czapski,
島川 祐一, 東 正樹
論文タイトル:
Tuning negative thermal expansion in Bi1-xLnxNiO3 (Ln = La, Nd, Eu, Dy).
掲載雑誌:
Applied Physics Letters 103, 061909 (2013)
Digital Object Identifier (DOI):
所属:
東京工業大学応用セラミックス研究所、京都大学化学研究所

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