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NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に理学院の山崎詩郎助教が出演

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東京工業大学 理学院 物理学系の山崎詩郎助教が、5月6日放送予定のNHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」に出演します。

物理学者と「コマ博士」の顔をもつ山崎助教

物理学者と「コマ博士」の顔をもつ山崎助教

山崎助教は、量子物性物理学の研究者である一方、世界コマ大戦の出場経験もある「コマ博士」としても活動しています。番組では、山崎助教の著書『独楽の科学』(講談社ブルーバックス)を足がかりに、お笑い芸人で作家の又吉直樹さんと一緒に、コマの奥深い魅力に迫ります。

「又吉直樹のヘウレーカ!」は、私たちの暮らしに潜むフシギを見つけ出しひも解く教養バラエティ番組です。

形も模様も多種多様なコマたち

形も模様も多種多様なコマたち

山崎助教のコメント

「全日本製造業コマ大戦」。町工場が超精密コマに社運をかけて挑む熱きコマの戦いです。私は町工場の技に物理学の知恵を融合し、この戦いで優勝して世界大戦に出場した過去があります。これを機に、コマを通して遊びながら科学を伝える「コマ博士」として活動しています。

番組では、又吉直樹さんと一緒に科学コマで遊んだり、大戦コマで戦いながら、コマはなぜ倒れない?最強のコマはどれ?などをテーマに語り合いました。そして、スポーツから地球まで身近にあふれるコマと回転の秘密に迫りました。

番組のテーマは「世界はコマでできている!?」。その答えを探してグルグルと頭を巡らせていただけたら嬉しいです。

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」
  • テーマ
    世界はコマでできている!?
  • 放送予定日
    2020年5月6日(水)22:00 - 22:45
  • 再放送予定日
    2020年5月8日(金)0:00 - 0:45(木曜深夜)

関連リンク

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お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


眞中雄一准教授が2019年度石油学会奨励賞を受賞

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公益社団法人石油学会は2月20日、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の眞中雄一特定准教授に2019年度の石油学会奨励賞を授与すると発表しました。石油学会によると、奨励賞は「大学等に所属する若手の研究者で、石油、天然ガス及び石油化学に関連する分野において、独創的な業績を発表したもの」に授与されます。40歳未満の研究者が対象です。表彰式は5月25日、石油学会総会で行う予定でしたが、コロナウイルス感染症の情勢を踏まえ延期されました。

受賞テーマ

二酸化炭素とギ酸の効率的相互変換におけるイリジウム錯体触媒の開発

受賞のコメント

今回の受賞について眞中准教授は次のようにコメントしています。

眞中雄一特定准教授

この度、石油学会奨励賞をいただき大変光栄に存じます。これまで研究を支えて下さった多くの関係者に心からお礼を申し上げるとともに、深く感謝致します。二酸化炭素の有効活用は、現代社会の喫緊の課題であり、その一助になればと思い、二酸化炭素の化学変換反応に携わってきました。二酸化炭素とギ酸の相互変換反応、ヒドロシリル化反応、尿素化反応などを加速させる触媒の開発を通し、物質循環型社会を触媒の力で構築する夢を描かせていただいたところ、受賞という栄誉にあずかれたことは誠に驚きであり、世の中の期待を感じ身が引き締まる思いです。私の研究は基礎研究の段階であり、社会へ還元するにはまだまだハードルが高いところが多々ありますが、今後も引き続き研究を進め、持続可能な社会を実現したいと思います。

受賞理由(石油学会のウェブサイトから)

眞中氏は、地球温暖化抑制に不可欠な二酸化炭素利用技術の開発に取り組み、特に二酸化炭素とギ酸の相互変換を可能とする高活性イリジウム錯体触媒の開発において優れた業績を挙げた。

二酸化炭素を炭素資源として利用し、効率的に有用基幹物質へと変換することが望まれているが、二酸化炭素は安定な分子であり、その変換には一般に高温、高圧等の厳しい反応条件が必要となることから、より温和な条件で高活性を示す触媒技術の開発が強く望まれている。眞中氏は、二酸化炭素を水素で還元する触媒の開発に取り組み、水溶性イリジウム錯体触媒を用いることで二酸化炭素からギ酸を高選択的に合成できることを見出した。さらに、配位子設計に基づく触媒の最適化を行い、アゾール系配位子を用いることで、既報の触媒系に比べてより温和な条件である常温、低水素圧下で高選択的かつ効率的にギ酸を得ることに成功した。また、当該触媒がギ酸合成の逆反応である二酸化炭素と水素への分解反応にも有効であることを示した。特に、これまでの配位子の官能基効果に加えて環員数を変えることで、触媒活性に大きく寄与する配位子のルイス塩基性を精密制御できることを見出し、これによりギ酸分解反応活性の大幅な向上を達成した。本触媒系では、副生成物である一酸化炭素の発生は見られず、極めて高い選択性を示している。これによって、ギ酸分解による水素発生では、従来困難であった外部動力なしに高圧水素を製造することにも成功している。これら一連のギ酸合成と分解を可能とする高活性イリジウム錯体触媒の開発により、本技術が水素社会の実現に不可欠なエネルギーキャリアへと展開できる可能性を示した。さらに同氏は、二酸化炭素利用技術のさらなる展開として、有用な合成中間体であるギ酸シリルエステルを二酸化炭素とケイ素工業の廃棄物であるシラン化合物から合成する新たな有機分子触媒の開発にも成功している。

以上のように、眞中氏は二酸化炭素とギ酸の相互変換技術において、高活性なイリジウム錯体触媒の開発により二酸化炭素の利用技術に新たな展望を与えており、本研究分野の発展に大きく貢献するものと期待される。

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お問い合わせ先

物質理工学院 応用化学系 准教授 眞中雄一

E-mail : manaka@mac.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5569

東工大保有の131件の特許を無償開放 COVID-19による深刻な影響を克服し、社会再起動に向けた事業を支援

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東京工業大学は、新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)に起因した社会の深刻な影響を克服し、社会に貢献するために「社会再起動技術推進事業(Social Rebooting Technology Initiative)」を立ち上げました。その第一弾の活動として、本学が保有する特許131件を一定期間、無償で開放する「お役に立てれば(Hope to This Helps : HTH )プロジェクト」を開始しました。

東工大保有の131件の特許を無償開放

同プロジェクトは、東工大の研究者が発明した様々な分野で活用し得る最先端技術の特許131件を、無償で開放しCOVID-19に起因した社会の深刻な影響を克服し、社会のさらなる発展に貢献する事業に利用していただくものです。

今回対象とした特許は、COVID-19感染拡大以前に取得されたものであり、直接COVID-19対策のために開発されたものではありませんが、例えば、プラズマを活用した包装容器の殺菌技術、膨大なプレゼンテーション資料に対して利用者に検索結果を効率的に提供するe-ラーニング(遠隔学習システム)技術、要介護者及び介護者を支援するためのロボット技術などを含んでいます。企業や個人の創造的な視点を加え、これらをオープンイノベーションで活用することにより、COVID-19対策に寄与する事業化の加速や新たな活用方法を通じ、社会の再起動への貢献を目指すものです。

COVID-19の感染拡大は、人々の生命を脅かし、さらには、広く産業界・経済界にも大変深刻な影響を与えています。また、COVID-19の影響は長期化が予想されているため、特許を利用される事業は、今後の回復直後やその過程においても有効性が期待できるものや、現在以上の社会的発展に貢献するものが多くあると考えられます。本学は、特許の無償開放により、COVID-19後の関連事業の基礎を提供し、幅広い分野で社会の再起動に貢献します。

社会再起動技術推進事業においては、今後、第二、第三のプロジェクトを立ち上げ、COVID-19による社会への影響の克服に役立つ活動を持続的に展開していきます。

COVID-19関連事業に対する特許の無償開放の概要

  • 申込期間:
    2020年5月1日 - 2021年2月28日まで
  • 申請方法:
    特許実施許諾申込書の提出(用紙等は以下ウェブサイト参照)
    ※審査の結果、ご要望に沿えない場合もございます。
  • 無償期間:
    最長で2022年12月31日まで
  • 対象(者):
    個人または法人
  • 費用:
    無償

お問い合わせ先

研究・産学連携本部社会再起動技術推進事業
HTH Project Task Force

E-mail : SocRb_TF1@sangaku.titech.ac.jp

取材申し込み先

総務部広報・社会連携課

Email : media@jim.titech.ac.jp

方位が重要:最高の実用透明電極の作り方

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ポイント

  • 実用透明電極※1材料である酸化スズ※2薄膜で本系における過去最高の移動度※3を達成し、その値がほぼ理論上限値である事を示しました。
  • 成長方位が移動度に大きな影響を与えている事を初めて明らかにしました。
  • 赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率向上に寄与すると期待されます。

概要

酸化スズは透明電極として半世紀以上実用に使われている酸化物半導体です。しかしながら、その移動度は10〜40 cm2V-1s-1と物質本来の値より遥かに低い値しか報告されていませんでした。今回、東京大学大学院理学系研究科化学専攻の長谷川哲也教授、廣瀬靖准教授、中尾祥一郎特任研究員(研究当時)、福本通孝大学院生らの研究グループは、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の重松圭助教、神奈川県立産業技術総合研究所(旧公益財団法人神奈川科学技術アカデミー)、東京都立産業技術研究センターと共同で、高品質な酸化スズ単結晶薄膜を系統的に合成しました。その結果、成長方位が移動度に大きな影響を与えている事を明らかにし、本系における過去最高の移動度130 cm2V-1s-1を達成する事に成功しました。更にこの値が、物質本来の上限値である事を示しました。一般的な透明電極は可視光を透過する一方で赤外線は反射してしまいますが、高移動度化によって赤外線に対しても透明な電極を作製出来る事が知られています。今回の発見は赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率向上に寄与すると期待されます。

背景

酸化スズはガスセンサーや透明電極として半世紀以上実用に使われている代表的な酸化物半導体です。特に透明電極としてはガラス基板上の多結晶薄膜として大量生産され、薄膜シリコン太陽電池などに使用されています。しかしながら、これらの実用薄膜の移動度(以下、移動度は全て室温の値)は10〜40 cm2V-1s-1程度と低い値となっています。更に基礎研究における高品質な単結晶薄膜においても移動度の報告例は100 cm2V-1s-1程度に限られていました(図1、灰および黒シンボル)。その一方、バルク単結晶における移動度の最大値は260 cm2V-1s-1であり(図1、青シンボル)、薄膜では材料本来のポテンシャルが発揮されていない状況でした。

図1.灰および黒シンボル
図1.
酸化スズの室温における移動度の比較。バルク単結晶(青シンボル)における報告例は最高で260 cm2V-1s-1に達する一方、薄膜における報告例(灰および黒シンボル)は100 cm2V-1s-1程度に限られている。本研究で作製した(001)配向薄膜(赤シンボル)は最高値130 cm2V-1s-1を示し、酸化スズ薄膜の中では過去最高の移動度を誇る。この値は、格子振動(黒破線)およびドーパントによるイオン化不純物(黒実線)という原理的に減らすことが不可能な因子を考慮した移動度の理論上限(緑実線)と電子濃度1×1020 cm-3以上でよく一致する。

今回、パルスレーザー蒸着法※4二酸化チタン(001)単結晶基板※5上に高品質な(001)配向の酸化スズ単結晶薄膜を作製し、その移動度を調べました。透明電極としては電子濃度も重要ですが、ドーパント※6としてタンタルを添加し電子濃度を系統的に変化させました。得られた薄膜の移動度(図1、赤シンボル)は電子濃度の上昇と共に急速に上昇し、電子濃度〜1×1020 cm-3において、最高値130 cm2V-1s-1を示しました。この移動度は過去の酸化スズ薄膜の報告例(図1、灰および黒シンボル)の中では最高の値であり、同程度の電子濃度のバルク単結晶にも比肩するものです。移動度を決める因子として格子振動、イオン化不純物、転位、粒界、中性不純物などが知られています。この中でも格子振動とドーパント由来のイオン化不純物による散乱は原理的に減らす事が出来ない因子であり、移動度の上限を決めます。この移動度の上限の計算値(図1、緑線)は、実験値の高電子濃度側(電子濃度1×1020 cm-3以上)でよく一致し、今回作製した酸化スズ薄膜が高電子濃度側で移動度の理論上限に到達している事が分かりました。すなわち薄膜でも材料本来のポテンシャルを最大限に引き出す事が可能である事を実証しました。

酸化スズ単結晶薄膜における移動度の抑制因子はこれまで不明でした。今回、(001)配向の薄膜において理論上限の高移動度が得られた事から、次のようなモデルを考案しました。酸化スズは単結晶基板と薄膜との格子不整合※7から{101}面欠陥※8が生成する事が知られています。この面欠陥が基板界面から薄膜表面まで伝搬し、粒界散乱として働いている可能性が(101)配向の薄膜の過去の研究において指摘されています。本研究で作製した(001)配向では{101}面欠陥が最も浅い角度(34°)で生成する事から、その伝播を抑制する事が期待出来ます。実際に透過型電子顕微鏡で観察すると、面欠陥は予想通り成長初期(基板界面から30 nm程度)で消失していました(図2)。更に、さまざまな種類の単結晶基板上でさまざまな方位の酸化スズ薄膜を合成しました(図3)。その結果、移動度は基板種類によらず成長方位によってほぼ決まっている事、また移動度は(001)、(101)、(110)、(100)配向の順番に低下する事が分かりました。この順番は{101}面欠陥が成長面となす角が増加する順番でもあり、{101}面欠陥が移動度を支配している事を強く示唆するものです。このモデルの検証にはさらなる薄膜構造の詳細な研究が必要ですが、少なくとも(001)配向が高移動度化に有利である事は実験的に明確になりました。

図2.(a)面欠陥が生成する{101}面と薄膜成長面とのなす角度θ

図2.(b)移動度130 cm2V-1s-1を示す薄膜の透過型電子顕微鏡像

図2.
(a)面欠陥が生成する{101}面と薄膜成長面とのなす角度θ。さまざまな低指数面の中でも(001)面がもっとも浅い角度となる。(b)移動度130 cm2V-1s-1を示す薄膜の透過型電子顕微鏡像。{101}面欠陥(矢印)の伝搬は基板から30 nm程度で停止し、消失している。
図3.さまざまな種類(赤:二酸化チタン基板、青:サファイア基板)および面方位の基板の上に作製した酸化スズ薄膜の移動度の膜厚依存性
図3.
さまざまな種類(赤:二酸化チタン基板、青:サファイア基板)および面方位の基板の上に作製した酸化スズ薄膜の移動度の膜厚依存性。酸化スズ薄膜の移動度は基板の種類にあまり依存せず、薄膜の面方位(図中に表示)に強く依存する。移動度は(001)、(101)、(110)、(100)配向の順番に低下するが、これは{101}面欠陥と成長面のなす角度の順番(図2(a))と対応し、{101}面欠陥が移動度に支配的な影響を与えている事を強く示唆する。

今回の研究は酸化スズ薄膜の作製に高価な単結晶基板を用いているため、そのままでは実用に用いる事は困難です。しかしながら、薄い結晶性に優れた層(シード層)を最初に堆積する事で安価なガラス基板上でも単結晶基板上と同等の特性が得られる事が分かっています。現在はガラス基板上において(100)および(110)配向が実現していますが、(001)配向を可能にするシード層を開発する事が今後の実用化への道筋となります。

現在、太陽電池の開発の一つの大きな流れは近赤外光の有効利用です。その際、透明電極にも赤外の透明性が要求されます。赤外透明性は低電子濃度化および高移動度化によってのみ実現可能であり、今回の発見は近赤外光を利用する次世代太陽電池の変換効率向上に寄与すると期待されます。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
High mobility approaching the intrinsic limit in Ta-doped SnO2 films epitaxially grown on TiO2 (001) substrates
著者 :
Michitaka Fukumoto, Shoichiro Nakao*, Kei Shigematsu, Daisuke Ogawa, Kazuo Morikawa, Yasushi Hirose, and Tetsuya Hasegawa*
DOI :

用語説明

[用語1] 透明電極 : 高い可視光透明性と電気導電性を併せ持つ材料である透明導電体を用いた電極。透明導電体としては縮退領域までドーピングした広ギャップ酸化物半導体がもっとも広く用いられている。典型的な材料はスズ添加酸化インジウム(ITO)やフッ素添加酸化スズ(FTO)などである。

[用語2] 酸化スズ : SnO2という化学組成とルチル構造の結晶構造を持つ広ギャップ酸化物半導体。アンチモンやタンタル、フッ素の添加により高い導電性を示す。薄膜の形で80 %以上の可視光透過率と10〜100 Ωsq-1程度の導電性を持つ。他の物質より化学的な耐久性、大気中高温での安定性に優れる事が特長であり、特に太陽電池 (色素増感、ペロブスカイト、薄膜シリコン)の透明電極として広く使われている。

[用語3] 移動度 : 電場によって電子や正孔が固体中を移動するときの移動のしやすさを表す値。半導体の性能を表す最も重要な値の一つである。透明電極応用においては、この値が高いほど導電性と透明性の両方を同時に向上する事が出来る。

[用語4] パルスレーザー蒸着法 : 短いパルス幅のレーザーを薄膜の材料に照射することで瞬間的に蒸発・昇華させて基板上に堆積させ薄膜を作製する手法。工業的な成膜方法であるスパッタ法に比べて効率的に最適条件の探索が可能である。その一方、スパッタ法と同じく物理気相成長法であり、薄膜の成長様式が近いことから、得られた知見をスパッタ法に展開する事が可能である。

[用語5] 二酸化チタン(001)単結晶基板 : 二酸化チタンはさまざまな面方位の単結晶基板が市販されており、酸化スズと同じルチル構造である事から、酸化スズ薄膜の作製に好適である。同じ結晶構造であるので酸化スズ薄膜は基板と同じ原子配列で成長し、基板の面方位と薄膜の面方位は等しくなる。

[用語6] ドーパント : 半導体の導電性は価数の異なる他元素を添加(置換)する事で制御することが出来る。この他元素をドーパントと呼ぶ。本研究の酸化スズにおいては4価のスズを5価のタンタルで置換する事で伝導電子を結晶中に導入している。ドーパントはキャリア濃度の増加による導電性の上昇をもたらす一方、イオン化不純物散乱の散乱中心としても働き移動度を減少させる。

[用語7] 格子不整合 : 結晶を構成する原子は固有の原子間隔で配列している。これを格子定数と呼び、組成元素が異なると格子定数も変化する。基板と薄膜が異なる物質の場合は通常この格子定数が一致せず、これを格子不整合と呼ぶ。

[用語8] {101}面欠陥 : 格子不整合はさまざまな乱れを結晶中に引き起こす。酸化スズにおいては、まず刃状転位が生成し、そこを起点に(101)面に面状欠陥(せん断面)が生成する事が知られている。正方晶である酸化スズにおいては(101)面には等価な面(例えば(011)面など)が存在するので、等価な面を全て含めて{101}面と表記する。

発表者

  • 福本通孝(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 博士課程3年生)
  • 中尾祥一郎 (東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 特任研究員/地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(旧公益財団法人神奈川科学技術アカデミー)常勤研究員(研究当時))
  • 廣瀬靖(東京大学 大学院理学系研究科化学専攻 准教授)
  • 長谷川哲也(東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授)
  • 森河和雄(地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター 主任研究員(研究当時))
  • 小川大輔(地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター 副主任研究員)
  • 重松圭(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 助教)

お問い合わせ先

研究に関すること

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻

教授 長谷川哲也

E-mail : hasegawa@chem.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4353

取材申し込み先

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室
特任専門職員 武田加奈子、教授・広報室長 飯野雄一

E-mail : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

100万気圧4000度の極限条件下で液体鉄の密度の精密測定に成功 ~地球コアの化学組成推定に向けた大きな一歩~

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要点

  • 本研究グループの世界をリードする超高圧高温発生技術と、大型放射光施設SPring-8の世界最高性能の放射光X線を用いて、100万気圧4,000度という極限条件下で液体鉄の密度の精密測定に世界で初めて成功しました。
  • 今回得られた液体鉄の密度は、地球の外核(液体金属コア)の密度と比べると約8 %大きいことがわかりました。このことは、外核が純鉄ではないこと、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差が説明できない(水素など別の軽元素が含まれている)ことを意味しています。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた重要な一歩です(コアの化学組成は地球誕生の謎を解く重要な鍵)。
  • 今回、X線回折データから液体の密度を精密に決定する汎用的な方法を開発しました。今後はこれを用いた密度決定により、外核の化学組成のさらなる制約、マントル中のマグマの移動・集積などを明らかにしていきたいと考えています。

概要

東京工業大学地球生命研究所所長で東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻の廣瀬敬教授らの研究チームは、東京大学の桑山靖弘特任助教、熊本大学の中島陽一助教らを中心に、大型放射光施設SPring-8[用語1](以下SPring-8)を利用して、地球の液体金属コア[用語2]の主成分である液体鉄の密度を、100万気圧4,000度という、コアの環境とほぼ同じ超高圧高温の極限条件下で決定することに成功しました。

地球の中心には固体金属の内核、その外側の液体金属の外核があり、ともに超高圧高温下にあります。従来より、液体鉄の密度は観測される外核のそれよりもおよそ10 %大きいとされてきました。しかし、過去に高圧下で行われた液体鉄の測定は衝撃圧縮実験[用語3]によるものであり、誤差が大きいとされてきました。

外核の密度が液体鉄よりもかなり小さいということは、外核には鉄に加えて軽い元素(水素や酸素など)が大量に含まれていることを意味しています。この軽元素の種類や量を特定することにより、地球の成り立ち、具体的には地球を作った材料物質や、コアがマントルから分離した時の状態を知ることができます。しかしそれには、純鉄との密度差を正確に理解する必要がありました。

本研究チームは、レーザー加熱式ダイヤモンドセル[用語5]を使った、静的圧縮実験[用語4]による超高圧高温実験により、地球深部の解明に大きな貢献をしてきました。今回、その開発をさらに進め、SPring-8のビームラインBL10XUにおいて高強度X線集光に取り組むことにより、超高圧高温下における液体鉄のX線回折データを測定しました。また、これまでとは全く異なるアプローチの分析手法を開発することにより、超高圧下における液体鉄の密度の精密決定に成功しました。さらに、ビームラインBL43LXUにおけるX線非弾性測定結果と合わせることにより液体金属コアの全領域にわたる温度圧力条件での液体鉄の密度を明らかにしました。

今回得られた超高圧下の液体鉄の密度は、地球の外核の密度に比べて約8 %大きいことがわかりました。内核の密度のことまで考えると、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差を説明することができないため、水素など他の軽元素の存在[注]が示唆されます。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた大きな一歩になります。

本研究成果は、日本時間4月23日(木)に米国物理学会誌『Physical Review Letters』に掲載されました。また、『Physical Review Letters』誌において、特に注目すべき論文(PRLエディターズ・サジェスチョン)として紹介されました。

背景

地球の液体コア(外核)の主成分は鉄であり、またその密度が純粋な鉄の密度よりもかなり小さいことから、軽い元素が大量に含まれているとされてきました。コアは、地球全体の質量の1/3を占める(外核はコア全体の95 %)ことから、その化学組成を特定することは極めて重要です。それによって初めて地球全体の化学組成が明らかになり、地球を作った材料や形成プロセスを理解することができます。コアの軽元素(不純物)を特定するには、まず鉄自体の密度を正確に知る必要があります。

しかしながら、地表から2,900 km下にある外核は135万気圧4,000度以上の超高圧高温下にあります。圧力が上昇すると鉄の融点も上昇するため、このような超高圧下で液体鉄の密度を調べる実験は、一瞬だけ高圧高温を発生する衝撃圧縮実験を除いて、不可能でした。また、圧力と温度をより正確に制御できる静的圧縮実験においては、液体からのX線回折シグナルを用いて液体の密度を高圧下で測定しようと試みられてきました。しかし、液体試料からのX線回折強度は固体試料に比較して極めて弱く、高圧下で十分な強度が得られないことが大きな問題とされてきました。さらに、液体の密度や構造を精密に決定するためには、現実的には不可能なほど広いX線散乱角度範囲にわたってデータを取得することが必要と従来考えられていました。これらの理由から、高圧下で液体金属鉄の密度は精密に測定されたことがありませんでした。

研究成果

本研究チームは、過去20年にわたり開発改良を続けてきたレーザー加熱式ダイヤモンドセルの開発をさらに進め、これまで1秒ほどしか維持できなかった100万気圧という超高圧下での鉄の溶融状態を、10秒から100秒の長時間安定して保持することに成功しました。この技術革新は、日本が誇る精密加工技術の賜物と言えます。さらに、SPring-8の高強度X線の高集光化に取り組み、液体からの弱いシグナルを観測可能にしました。また、実験データの解析手法についても、限られたX線散乱角度範囲のデータからでも密度を求めることのできる従来とは全く異なるアプローチの解析手法を見いだし、高圧下の液体金属の密度を精密に決定することができるようになりました。

地球の外核の密度は、地震波の観測データより見積もられています。今回得られたコアの超高圧高温条件下での液体鉄の密度は、外核の密度より約8 %大きいということが分かりました。このことは、外核がわずかなニッケルの他に多くの軽い不純物(軽元素)を含んでいることを意味します。さらに、従来有力な不純物とされてきた酸素ではこの密度差が説明できず、水素など他の軽元素が大量に含まれている可能性があることが分かりました。これは、地球科学で第一級の問題とされてきたコアの化学組成の見積もりに向けた大きな一歩です。

今後の展開

コアの化学組成を解明することは、地球がどのような原材料物質からどのようなプロセスで出来たのかを知る上での重要な鍵となります。今後、さまざまな液体鉄合金の密度を決定し、コアの化学組成を解明することにより、地球誕生の謎も明らかになっていくものと期待されます。

さらに、マントル最深部でも局所的に岩石が溶融しマグマ(液体)が存在していると考えられています。また初期の地球はマグマオーシャンに覆われていたとされます。液体は流動性と化学反応性に富むため、マントル内でのマグマの移動・集積を理解することはマントルの化学進化や化学組成異常の分布を解明する上で非常に重要です。レーザー加熱ダイヤモンドセルを用いて超高圧下の液体の密度や構造を決定するという試みは、世界中で30年以上にわたり取り組まれてきましたが、これまで成功していませんでした。本研究における技術革新により、今後高圧下での液体の研究が飛躍的に進み、外核やマントル深部のマグマについての理解が大きく進むと考えられます。

用語説明

[用語1] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。

[用語2] 液体金属コア : 地球中心核(コア)は、固体金属でできた内核(深さ6,370 km~5,150 km)と液体金属でできた外核(液体金属コア、深さ5,150 km~2,890 km)の2層構造になっています。その外側を岩石でできたマントルと地殻が取り囲んでいます(下図を参照)。外核は、圧力136万気圧以上、温度約4,000度以上の極限条件下にあり、この液体金属の対流によって地球磁場が生じていると考えられています。
コアには、主成分である鉄の他に少量のニッケルと軽元素(候補は水素、炭素、酸素、珪素、硫黄)が含まれていると考えられていますが、詳細な化学組成は未だはっきりしていません。地球の誕生時に多くの水が運ばれてきた可能性があり、水素や酸素は有力な候補と考えられます。

地球中心核(コア)

[用語3] 衝撃圧縮実験[用語4] 静的圧縮実験 : 実験室内で超高圧を発生させる方法には、衝撃圧縮によるものと静的圧縮によるものの2種類があります。衝撃圧縮とは、火薬やレーザーなどを用いて、試料に一瞬だけ(典型的に100万分の1秒またはそれ以下)高圧と高温を同時に発生させる方法です。衝撃圧縮は非常に高い圧力を発生させることができますが、1)発生させる圧力と温度を自由に選ぶことができない、2)非常に短時間だけ超高圧高温を発生させるため原子の移動が間に合わず、試料が熱的化学的平衡状態になっていない可能性がある、3)試料温度の誤差がかなり大きい、などの問題があります。一方、本研究で用いた静的圧縮実験は、ある一定時間(本研究では10秒から100秒)高圧高温状態を保つことができ、上記のような問題は生じません。

[用語5] ダイヤモンドセル : ダイヤモンドを用いた小型の高圧発生装置(下図左)。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(下図右)。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生させます。ダイヤモンドアンビルを通してレーザーを試料に照射することにより、試料を高圧高温にします。さらに、ダイヤモンドを通して試料にX線を照射することにより、高圧高温下の試料の測定を行うことができます。

ダイヤモンドを用いた小型の高圧発生装置(左図)。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられています(右図)。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters
論文タイトル :
Equation of State of Liquid Iron under Extreme Conditions
著者 :
Yasuhiro Kuwayama*, Guillaume Morard, Yoichi Nakajima*, Kei Hirose*, Alfred Q. R. Baron, Saori I. Kawaguchi, Taku Tsuchiya, Daisuke Ishikawa, Naohisa Hirao, Yasuo Ohishi
*Corresponding author
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所

所長・教授 廣瀬敬

E-mail : kei@elsi.jp
Tel : 03-5734-3528

東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻

特任助教 桑山靖弘

E-mail : kuwayama@eps.s.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-4301

熊本大学 大学院先導機構

助教 中島陽一

E-mail : yoichi@kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3359

理化学研究所 放射光科学研究センター 物質ダイナミクス研究室

グループディレクター Alfred Q.R. Baron(アルフレッド バロン)

E-mail : baron@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-2943(内線93-7377)

高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 回折・散乱推進室

研究員 河口沙織

E-mail : sao.kawaguchi@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3849)

愛媛大学 地球深部ダイナミクス研究センター

教授 土屋卓久

E-mail : tsuchiya.taku.mg@ehime-u.ac.jp
Tel : 089-927-8198

取材申し込み先

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室

特任専門職員 武田加奈子、教授・広報室長 飯野雄一

E-mail : kouhou.s@gs.mail.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-0654

熊本大学 総務部 総務課 広報戦略室

山下貴菜

E-mail : sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp
Tel : 096-342-3269

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp

SPring-8/SACLAに関するお問い合わせ

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

E-mail : kouhou@spring8.or.jp
Tel : 0791-57-2785

ニュートリノの「CP位相角」を大きく制限 粒子と反粒子の振る舞いの違いの検証に大きく前進する成果をネイチャー誌で発表

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要点

  • ニュートリノ振動現象において粒子と反粒子の対称性の破れの大きさを決める量であるCP位相角に大幅な制限を与えることに世界で初めて成功
  • ニュートリノに、粒子と反粒子の性質の違いがあるかどうかの問題に大きく迫る成果であり、今後の測定精度を高めた検証が期待される

概要

理学院物理学系の久世正弘教授の参加するT2K実験国際共同研究グループは、ニュートリノが空間を伝わるうちに別の種類のニュートリノに変化するニュートリノ振動という現象において「粒子と反粒子の振る舞いの違い」の大きさを決める量に、これまでで最も強い制限を与えることに成功しました。CP位相角と呼ばれるこの量は、ニュートリノの基本的性質を示す量の一つであり、理論的には-180度から180度の値を取り得ますが、これまで全く値がわかっていませんでした。今回の結果では、CP位相角の取り得る値の範囲の半分近くを99.7 %(3シグマ)の信頼度で排除することに成功しました(図1)。ニュートリノについての未解明の問題の一つである、粒子と反粒子が異なる振る舞いをするかどうかという問題に大きく迫る成果です。

この研究成果は、総合学術雑誌「ネイチャー」に4月16日掲載しました。
東工大の久世研究室は、約500名の研究者からなるT2K国際共同実験の遂行に大きく貢献しています。研究室の学生も携わっており、吉田朋世さん(研究当時・理学院物理学系博士後期課程3年)は、スーパーカミオカンデのデータからT2Kニュートリノ反応事象を選別する責任者を務めました。ベルンス・ルカスさん(理学院物理学系博士後期課程2年)はJ-PARC加速器で生成されるニュートリノビームの分布を精密に計算するチームの中核として活躍しています。

図1. 今回の観測結果と最も良く合うCP位相角の値(矢印)と99.7 %信頼度で値をとることが許された範囲(白抜き部分)。理論的に取り得る値の範囲の半分近くを排除しました。

図1. 今回の観測結果と最も良く合うCP位相角の値(矢印)と99.7 %信頼度で値をとることが許された範囲(白抜き部分)。理論的に取り得る値の範囲の半分近くを排除しました。

背景

物質を構成する素粒子には、電荷の正負が反対であるほかは全く同じ性質を持つ反粒子[用語1]が存在します。宇宙の始まりであるビッグバンでは、粒子と反粒子が同じ数だけ生成されたはずですが、我々の身の回りには粒子で構成された物質しか見当たりません。このように、現在の宇宙において物質と反物質の対称性は大きく破れています。宇宙に反物質が存在しないようになるためには、CP対称性[用語2]と呼ばれる電荷と空間に関わる基本的な対称性が破れている必要があります。CP対称性が成り立っていると、鏡の向こう側とこちら側の世界のように粒子と反粒子は同じように振る舞います。これまで、CP対称性の破れは陽子や中性子の構成要素であるクォークと呼ばれる素粒子で見つかっていましたが、その破れの大きさは現在の宇宙の物質の量を説明するには不十分です。そこで、電子の仲間であるニュートリノ[用語3]のCP対称性が大きく破れていることで宇宙の成り立ちの起源を説明できるという有力な仮説が提案され、ニュートリノのCP対称性の破れの測定が注目されています。T2K実験[用語4]は、ニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動[用語5]現象を測定して、それらを比較することで、クォークで見つかったものとは別のCP対称性の破れを探索しています。

T2K実験は2009年度に実験を開始し、2013年にミュー型ニュートリノがニュートリノ振動によって電子型ニュートリノに変化する「電子型ニュートリノ出現現象」の存在を世界で初めて発見しました。2014年からは反ミュー型ニュートリノの測定を開始し、CP対称性の破れの検証を開始しました。2016年夏には、90 %の信頼度でCP対称性が破れている可能性を示しました。2018年夏には、その可能性を95 %(2シグマ)の信頼度に高めた結果をKEKで行ったセミナーで公表しました。T2K実験では、CP対称性の破れの探索とともに、CP位相角[用語6]と呼ばれる量の測定を行っています。CP位相角は、ニュートリノの基本的な性質の一つで、ニュートリノが粒子と反粒子とで異なる振る舞いをするかどうかもこの値に拠りますが、これまでその値は全くわかっていませんでした。今回、T2K実験では2018年までに取得した実験データを用いて解析を進め、CP位相角を大きく制限する結果を総合学術雑誌「ネイチャー」で公表しました。

研究成果

T2K実験では、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCで大量のミュー型ニュートリノまたは反ミュー型ニュートリノを生成し、295キロメートル離れた岐阜県飛騨市神岡にあるスーパーカミオカンデ検出器で測定しています。ニュートリノの一部は、295キロメートルを飛行する間にニュートリノ振動現象によりミュー型から電子型に変化します。

ニュートリノ振動現象においてCP対称性が破れていると、ミュー型から電子型への変化確率に、ニュートリノと反ニュートリノで違いが生じます。破れの大きさを決める量はCP位相角と呼ばれ、-180度から180度の値を取り得ます。0度と180度であった場合はCP対称性が保存していることに、それ以外の角度であった場合にはCP対称性が破れていることになります。CP位相角が-90度の場合には、電子型ニュートリノへの変化確率が最大に、反電子型ニュートリノへの変化確率が最小になります。90度ではその逆です。

2018年までにT2K実験が取得したデータから、電子型のニュートリノが90個、反ニュートリノが15個観測されました。図2はスーパーカミオカンデで検出された電子型のニュートリノと反ニュートリノの例です。実際の測定では、測定器が物質でできていることなどから、ニュートリノの方が反ニュートリノよりも観測されやすいため、観測数から振動の確率を注意深く決める必要があります。観測された結果は、CP位相角が-90度である場合に予想される観測数(ニュートリノで82個、反ニュートリノで17個)に近く、CP位相角が90度の場合の予想観測数(ニュートリノで56個、反ニュートリノで22個)とは大きく異なりました(図3)。今回、CP位相角の値を推定するために必要な統計的手法を更新し、CP位相角の値として、-2度から165度の領域が99.7 %の信頼度で排除されることがわかりました。

図2. スーパーカミオカンデで検出された電子型のニュートリノ(左)と反ニュートリノ(右)の例。ニュートリノが水と反応してできた電子、または陽電子によるリング状の微弱光を、タンク内壁に設置された約11000本の光電子増倍管で観測しています。色のついた点は、その光電子増倍管で光を検出した時間を表しています。

図2. スーパーカミオカンデで検出された電子型のニュートリノ(左)と反ニュートリノ(右)の例。ニュートリノが水と反応してできた電子、または陽電子によるリング状の微弱光を、タンク内壁に設置された約11000本の光電子増倍管で観測しています。色のついた点は、その光電子増倍管で光を検出した時間を表しています。

図3. 今回得られたニュートリノのエネルギー分布。ニュートリノビームを用いて電子ニュートリノを測定した場合(左)の予想観測数は、CP位相角が-90度(赤破線)の方が90度(青破線)に比べて多くなります。反ニュートリノビームを用いて反電子ニュートリノを測定した場合(右)は、その逆です。CP対称性が保存する0度の場合の予想観測数は灰実線の分布になります。観測数の分布(黒点)は-90度での予想観測数の分布により近いことが分かります。下の表は、観測数とCP位相角が-90度または90度で予想される観測数をまとめたものです。

図3. 今回得られたニュートリノのエネルギー分布。ニュートリノビームを用いて電子ニュートリノを測定した場合(左)の予想観測数は、CP位相角が-90度(赤破線)の方が90度(青破線)に比べて多くなります。反ニュートリノビームを用いて反電子ニュートリノを測定した場合(右)は、その逆です。CP対称性が保存する0度の場合の予想観測数は灰実線の分布になります。観測数の分布(黒点)は-90度での予想観測数の分布により近いことが分かります。下の表は、観測数とCP位相角が-90度または90度で予想される観測数をまとめたものです。

本研究の意義、今後への期待

CP位相角は、小林-益川によってクォークにおけるCP対称性の破れを説明するために導入されたものです。素粒子の基本的な性質ですが、電子やニュートリノの仲間であるレプトンについては、その値は、全く未知でした。本研究により、世界で初めてニュートリノのCP位相角に強い制限がつけられました。また、得られた結果はCP対称性の破れを95 %の信頼度で示唆しています。さらに測定を続けることでCP位相角の取り得る範囲から0度と180度を99.7 %の信頼度で排除できると、CP対称性の破れを99.7 %の信頼度で示すことができます。今回の成果は、その目標にたどり着くための重要なステップとなりました。ニュートリノの未解明の性質のうちの一つであるCP位相角、そしてCP対称性が破れているか否かが明らかになりつつあると言えます。

T2K実験グループは、前置検出器を改良して測定精度を高めるとともに、さらにデータを蓄積することで、CP対称性の破れの検証を進めていきます。J-PARCでは、より大強度のニュートリノを生成するために、加速器およびニュートリノ実験施設の性能向上に着手しています。さらに次世代の実験として、スーパーカミオカンデの約10倍の有効体積を持つハイパーカミオカンデ実験が計画されています。ハイパーカミオカンデ実験では、増強されたJ-PARCニュートリノビームを測定することにより、CP対称性の破れの決定的証拠を捉えるとともにCP位相角の精密な測定が可能となります。これらの研究によって、素粒子の性質や、宇宙から反物質が消えた謎の理解が進むことが期待されます。

用語説明

[用語1] 反粒子 : 素粒子には、質量や寿命は同じだが、電気的に反対の性質を持つ反粒子とよばれるパートナーが存在します。例えば、電子の反粒子は陽電子、ニュートリノの反粒子は反ニュートリノと呼ばれます。宇宙の始まりであるビッグバンでは、粒子と反粒子が同じ数だけ生成されたはずです。粒子と反粒子が合わさると光子となって消滅しますが、現在の宇宙ではなぜか粒子で構成された物質だけが残り、反粒子で構成された反物質がほとんど存在しません。現在の宇宙の光子と物質を構成する粒子の割合から、宇宙初期に10億分の1だけ反粒子に比べて粒子を多くする何かがあったと考えられています。しかしながら、その理由はまだ解明されておらず、宇宙のなりたちの大きな謎の一つとなっています。

[用語2] CP対称性 : CP対称性の「C」とは、粒子と反粒子を入れ替える「C変換」のことです。CP対称性の「P」とは、鏡写しのように空間に対して上下左右の向きを入れ替える「P変換」のことです。この「C変換」と「P変換」をした場合に、同じ物理現象が同じ確率で起きることを「CP対称性」と呼びます。このCP対称性に従わない場合、「CP対称性が破れている」と言います。

[用語3] ニュートリノ : これ以上小さく分けることができないと考えられている素粒子の一つです。電子の100万分の1以下の重さしかもたないとても軽い粒子で、電気を帯びていません。そのため他の物質とほとんど反応せず、観測が非常に難しい粒子です。電子型、ミュー型、タウ型と呼ばれる3種類が存在するとわかっています。T2K実験では、J-PARCでミュー型のニュートリノを生成して、スーパーカミオカンデでミュー型と電子型のニュートリノを検出します。タウ型のニュートリノを検出するには高いエネルギーのニュートリノが必要なので、T2K実験の条件では検出されません。ミュー型からタウ型に変化するニュートリノ振動は、もともとあったミュー型のニュートリノの数の減少から測定できます。

[用語4] T2K実験 : 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構が共同で運営する大強度陽子加速器施設J-PARCで作り出したニュートリノビームを、295キロメートル離れた岐阜県飛騨市神岡町にある東京大学宇宙線研究所のニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」で検出する長基線ニュートリノ振動実験です(図4)。J-PARCがある茨城県東海村と神岡町(Tokai to Kamioka)の頭文字を取って「T2K実験」と名付けられました。T2K実験はニュートリノの研究において世界をリードする感度をもち、アメリカ・イギリス・イタリア・カナダ・スイス・スペイン・ドイツ・日本・フランス・ベトナム・ポーランド・ロシアの12ヶ国・69の研究機関から約500人の研究者が参加する国際共同実験です。日本からは、大阪市立大学・岡山大学・京都大学・慶應義塾大学・高エネルギー加速器研究機構・神戸大学・首都大学東京・東京工業大学・東京大学・東京大学宇宙線研究所・東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構・東京理科大学・宮城教育大学の総勢114名の研究者と大学院生が参加しています。

図4. T2K実験の概要

図4. T2K実験の概要

[用語5] ニュートリノ振動 : ニュートリノが空間を伝わるうちに別の種類のニュートリノに周期的に変化する現象です。ニュートリノは「観測できる」状態で3種類(電子型、ミュー型、タウ型)に分類されますが、これらの種類は、同じく3種類の「質量」という別の状態のニュートリノの混ざり合いで決まっています。ニュートリノの質量の状態は、その質量に応じた振動数を持つ存在確率の波として振る舞います。その波の干渉効果によって、空間を伝わるうちに混ざり合う割合が変化する「うなり」が起こり、結果として観測できる状態の存在確率が周期的に変化します。この現象がニュートリノ振動です。この現象の発見によってニュートリノが質量を持つことが示され、2015年に梶田隆章教授がノーベル物理学賞を受賞しました。

[用語6] CP位相角 : 3種類のニュートリノが振動現象を起こす場合には、粒子と反粒子でうなり現象の振る舞いが異なる、つまりCP対称性が破れている可能性があります。そのCP対称性の破れの大きさを決める値がCP位相角で、ニュートリノの基本的性質の一つです。CP位相角は-180度から180度の値を取り得ます。CP位相角が0度と180度の場合はCP対称性が保存され、それ以外の場合はCP対称性が破れていることになります。CP対称性の破れは、現在の宇宙で反物質がほとんど存在していないことを説明する条件の一つです。しかしながら、これまでに見つかっているクォークのCP対称性の破れはとても小さく、現在の宇宙の物質の量を説明することができていません。一方で、ニュートリノのCP対称性は大きく破れている可能性がT2K実験により示唆されており、CP位相角の測定は、宇宙の根源的な謎を解明する手がかりになると期待されています。

論文情報

掲載誌 :
Nature Vol.580, pp.339-344, on April 16, 2020
論文タイトル :
Constraint on the Matter-Antimatter Symmetry-Violating Phase in Neutrino Oscillations
著者 :
K.Abe et al. (T2K Collaboration)
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

理学院物理学系 教授 久世正弘

E-mail : kuze@phys.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

N-メチル化ペプチドを高収率・短時間で合成 安価な反応剤で生成した高活性中間体を活用

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要点

  • 医薬品候補として重要な「N-メチル化ペプチド」の高効率合成法を開発
  • 安価な反応剤で生成した高活性中間体でN-メチルアミノ酸の低反応性補完
  • 既存の手法と比べより短時間・高収率でN-メチル化ペプチド合成を達成

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の小竹佑磨大学院生(研究当時)、物質理工学院 応用化学系の川内進准教授(同)、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の中村浩之教授、布施新一郎特定教授(研究当時 准教授、現 名古屋大学教授)らの研究グループは、医薬品候補として重要なN-メチル化ペプチド[用語1]の新たな高効率合成法の開発に成功した。N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発の加速、低コスト生産につながる成果といえる。

同研究グループは安価な反応剤を用いて、高活性な中間体を生じさせることによりN-メチルアミノ酸[用語2]の反応性の低さを補完することに成功した。この開発手法を既存の手法と比較したところ、より短時間、高収率でN-メチル化ペプチドが得られることがわかった。また、開発した手法はマイクロフロー合成法[用語3]固相合成法[用語4]と組み合わせて実施することができる。

N-メチル化ペプチドは代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性が通常のペプチドより高まるとされるため、医薬品候補として重要だが、これまでは反応性の低いN-メチルアミノ酸の連結は高価な反応剤を大量に用い、長時間反応を実施しても低収率となることが珍しくなかった。

研究成果は4月9日に国際的学術誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション)」に掲載された。

研究成果

布施特定教授らの研究グループは安価な反応剤を用いて高活性な中間体を生成し、これをN-メチルアミノ酸との連結に用いることで反応性の低さを補完、短時間でも高収率でN-メチル化ペプチドを合成することに成功した。

多数のN-メチルアミノ酸を含むテトラペプチド[用語5]の合成において、開発した合成手法とN-メチル化ペプチド合成に有効とされる複数の既存の合成手法を比較した。既存の手法は反応時間24時間で収率が0~47 %だったが、今回の開発手法は反応時間2時間で収率は98 %に達した。

開発した合成手法は通常のフラスコを用いて実施できるだけでなく、マイクロフロー合成法と組み合わせて実施することで、さらに収率が高まる。さらに、固相合成法への適用も可能であることを確認している。

図1. N-メチル化ペプチドの短時間・高収率での合成

図1. N-メチル化ペプチドの短時間・高収率での合成

研究の背景

N-メチル化ペプチドは代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性が通常のペプチドより高まるとされるため医薬品候補として重要である。だが、反応性の低いN-メチルアミノ酸の連結は高価な反応剤を大量に用い、長時間反応を実施しても低収率となることが珍しくない。この問題が、N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発、低コスト生産の障害となっており、世界中の企業や大学においてこの問題を解決するための研究開発が進められている。

研究の経緯

布施特定教授らはこれまでマイクロフロー合成法を駆使した、安価で高活性な反応剤を用いるペプチド合成法の開発に過去10年ほどにわたって取り組んできた。今回の研究ではN-メチルアミノ酸の反応性の低さをいかに補完するかという点が反応開発のポイントになったが、通常は反応を阻害するリスクが高いとされる酸を添加することによりペプチド結合形成反応[用語6]を加速させられることがわかり、これがブレイクスルーとなった。

今後の展開

この手法は安価で入手容易な反応剤を用いているにも関わらず既存の反応剤と比較しても高成績を与える。また、固相・液相どちらの合成法にも対応でき、さらに、マイクロフロー合成法と組み合わせて実施できる。マイクロフロー合成法は連続・並列運転により容易にスケールアップが可能であるため、産業への展開も十分期待できる。

既に特許を出願しており、現在、産業利用を目指した研究を推進している。今後のさらなる研究開発により、N-メチル化ペプチドを基盤とする医薬品開発加速、低コスト生産につながると期待される。

図2. フロー合成セット

図2. フロー合成セット

付記

本研究は主にJST未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域研究開発課題「機能性ペプチドの超高効率フロー合成手法開発(研究開発代表者:布施新一郎)」の成果である。

用語説明

[用語1] N-メチル化ペプチド : ペプチドはアミノ酸とアミノ酸がペプチド結合(-CONH-)を介して、2個以上つながった構造のもの。N-メチル化ペプチドはペプチド鎖中の窒素原子上にメチル基をもつペプチドのことであり、代謝安定性や標的への親和性・選択性、さらに膜透過性がメチル基をもたない通常のペプチドより高まるとされるため医薬品候補として注目されている。

[用語2] N-メチルアミノ酸 : ペプチド結合を形成する窒素原子上にメチル基をもつアミノ酸。一般的にメチル基の存在により反応性が低下している。

[用語3] マイクロフロー合成法 : 微小な流路を反応場とするマイクロフローリアクターを駆使する合成法。旧来のフラスコ等を用いるバッチ合成法と比較して、反応時間(1秒未満も可)、反応温度の厳密な制御が可能である。

[用語4] 固相合成法 : 樹脂上に化合物を共有結合で担持して反応させる合成法。  固相に反応剤の溶液を作用させて、反応後に溶液を洗い流すだけで簡便に精製できる点が特長。ペプチド合成において、ペプチドの溶解性の低さを補完するために多用されている。

[用語5] テトラペプチド : 4つのアミノ酸が連結したペプチド。

[用語6] ペプチド結合形成反応 : アミノ酸もしくはペプチドとアミノ酸もしくはペプチドがペプチド結合を形成しつつ連結する反応。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
N-Methylated Peptide Synthesis via Acyl N-Methylimidazolium Cation Generation Accelerated by a Brønsted Acid
著者 :
Yuma Otake1,2, Yusuke Shibata3, Yoshihiro Hayashi3, Susumu Kawauchi3, Hiroyuki Nakamura1 and Shinichiro Fuse.4,*
所属 :

1 Laboratory for Chemistry and Life Science, Institute of Innovative Research, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan

2 School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta-cho, Midori-ku, Yokohama 226-8503, Japan

3 School of Materials and Chemical Technology, Tokyo Institute of Technology, 2-12-1 Ookayama, Meguro-ku, Tokyo 152-8552, Japan

4 Department of Basic Medicinal Sciences, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Nagoya University, Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya 464-8601, Japan

DOI :

お問い合わせ先

名古屋大学 創薬科学研究科 基盤創薬学専攻 プロセス化学分野

教授 布施新一郎

Email : fuse@ps.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-747-6927 / Fax : 052-747-6928

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

名古屋大学 管理部 総務課 広報室

Email : nu_research@adm.nagoya-u.ac.jp
Tel : 052-789-2699 / Fax : 052-789-2019

鈴木啓介特命教授に栄誉教授の称号を授与

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東京工業大学は科学技術創成研究院の鈴木啓介特命教授(3月31日まで理学院教授)に栄誉教授の称号を授与することを決め、3月31日、大岡山キャンパスで、益一哉学長が栄誉教授の称号記を鈴木特命教授に贈りました。

益学長(右)から栄誉教授の称号記を受け取る鈴木特命教授

益学長(右)から栄誉教授の称号記を受け取る鈴木特命教授

栄誉教授の称号は、本学教授、退職者、卒業・修了生のうち、ノーベル賞や文化勲章、文化功労者、日本学士院賞など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた者に対して授与されるものです。

鈴木特命教授は、生理活性天然有機化合物の全合成、および、基礎的な合成反応の開発研究を行いました。自然界の生理活性化合物の中には、入手源などの制約から稀少なものもあります。その場合、有機合成による供給が期待されますが、複雑な構造を持つ化合物の場合には容易ではありません。鈴木特命教授は、従来困難であった多くの不斉中心や官能基を持つ化合物の合成を、新たな合成反応の開発や合成経路の設計により実現してきました。反応開発では高反応性化学種を活用し、斬新で有用な分子構築法や立体制御法の開発につなげた一方、合成研究では糖質やテルペン、ポリケチドなどの生合成の異なる構造が複合化した標的に関し、数々の全合成を実現しました。

これらの業績により、鈴木特命教授は、2010年に紫綬褒章、2015年に日本学士院賞を受賞するとともに、2016年に日本化学会名誉会員、2018年には日本学士院会員にも選出されています。

今回、これまでの研究業績や受賞に対して、栄誉教授の称号が授与されました。
称号記授与式終了後、益学長、渡辺治理事・副学長(研究担当)らを交えて、鈴木特命教授を囲んで懇談し、和やかな雰囲気のうちに閉会しました。

授与記を手にする鈴木特命教授(右)と益学長

授与記を手にする鈴木特命教授(右)と益学長

お問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp


培養神経細胞の均一性を担保し、神経細胞の分化を安定的に促進させる手法を開発

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立体的な微細溝加工を施したナノシートを培養基材として利用。
薬剤開発時の実験の再現性向上や移植医療への応用に期待

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の藤枝俊宣講師、東海大学 医学部医学科基礎医学系分子生命科学の大友麻子助教、同中川草講師、上田真保子奨励研究員、工学部応用化学科の岡村陽介教授(共に東海大学マイクロ・ナノ研究開発センター兼任)、早稲田大学 理工学術院の武岡真司教授の共同研究グループでは、立体的な微細溝加工を施した高分子超薄膜(ナノシート)[用語1]培養基材[用語2]として用いることで、培養神経細胞[用語3] の均一性を担保するとともに、神経細胞の分化[用語4]が促進されることを見い出しました。

なお、本研究成果は2020年4月21日(火)、国際学術誌『Scientific Reports』(DOI: 10.1038/s41598-020-63537-z outer)に掲載されました。

要点

  • アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の罹患者が増加
  • 基礎研究や薬剤開発の過程において、培養神経細胞の不均一性が実験の再現性を阻害
  • 立体的な微細溝(溝幅: 50 μm)を加工した高分子超薄膜(ナノシート)(膜厚: 150 nm)を培養基材として用いることで、神経細胞の分化が促進され、培養神経細胞の均一性が保たれることを発見
  • 今後は、培養基材の立体的特性やナノシートの物性が神経細胞の分化や成熟に与える影響について、分子レベルで解析を展開
  • ナノシートの技術やマイクロデバイス技術を組み合わせた種々の立体的な培養基材を用いることによって、生体内に存在する神経細胞の立体的な環境の再現を目指す。

背景

超高齢社会を迎え、加齢に伴って発症リスクが増加するアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の罹患者が増加しています。これらの疾患に対する基礎研究や薬剤開発の過程では、必ず培養神経細胞が用いられます。しかし、培養神経細胞は実験ごとにその分化状態にばらつきが出やすいため、均一な条件下での研究および薬剤スクリーニングなどの実施を担保できない場合があります。そのような培養神経細胞の不均一性を改善し、実験の再現性を高めることが課題となっていました。

概要

本研究では、ポリ乳酸(PLA)を用いて作製した平滑なナノシートと、立体的な微細溝加工(溝幅: 50 μm)を施したナノシートを、それぞれ培養基材として用いてマウスの大脳皮質由来の神経細胞を培養しました。1ナノメートルは一万分の一ミリメートルです。今回は膜厚150 nmのナノシートを用いました。(図1)

図1. ナノシート培養基材上の神経細胞の分布(模式図)

図1. ナノシート培養基材上の神経細胞の分布(模式図)

平滑および立体的溝加工ナノシート基材上の神経細胞の分布を示す。平滑ナノシート上では細胞がランダムに接着するが、立体的な微細溝加工を施したナノシート上では溝構造が細胞接着部位を制御する。

微細溝加工したナノシートを神経細胞の培養基材として用いた場合の成長・分化などに与える影響を調べるために、蛍光顕微鏡や次世代シークエンサー[用語5]などを活用して細胞形態の解析と遺伝子発現解析を行いました。

その結果、微細溝加工ナノシートを用いて神経細胞を培養すると、神経突起の進展方向が一定方向に制御され(図2)、シナプス形成に関わる遺伝子群の発現が早まることが示されました。

図2. 微細溝加工ナノシート培養基材は、神経突起の進展方向を制御する

図2. 微細溝加工ナノシート培養基材は、神経突起の進展方向を制御する

マウス由来大脳皮質初代神経培養細胞(培養後9日目)の神経細胞の染色像を示す。緑(Tuj-1)は神経突起、赤(MAP2)は 樹状突起、青(DAPI)は 核染色を示す。Mergeはそれらの重ね合わせた画像を示す。図中の白両矢印は微細溝加工の方向を示す。微細溝加工したナノシートを用いて神経細胞を培養すると、神経突起の進展方向が一定方向に制御されていた。
Otomo and Ueda et al., Scientific Reports, in press.

また、微細溝加工したナノシートを用いて培養した神経細胞は、平滑なナノシートと比較して、遺伝子発現パターンが均一化していました。これは、微細溝加工したナノシートが神経細胞の安定的な分化誘導に寄与する可能性があることを示唆しています。(図3)

図3. 微細溝加工ナノシート培養基材上で培養することで培養条件の均一性が高まる

図3. 微細溝加工ナノシート培養基材上で培養することで培養条件の均一性が高まる

網羅的遺伝子発現解析を用いて主成分分析を行った結果を示す。微細溝加工したナノシートを用いて培養した神経細胞は、平滑なナノシートと比較して、遺伝子発現パターンが均一化していた。
Otomo and Ueda et al., Scientific Reports, in press.

研究成果

培養基材の形態が神経細胞の形態形成や遺伝子発現パターンに影響を与えることはこれまでにわかっていましたが、神経細胞の分化に関して詳細な解析はなされていませんでした。本研究を通じて、培養基材に立体的な微細溝加工を施すことで、神経細胞の分化を促進し培養神経細胞の均一性を担保することが明らかとなりました。これにより、実験の再現性を高める効果があると考えられます。また、今回培養基材として用いたPLAナノシートは柔らかく、厚さも50-100 nm程度と薄いため、種々の加工が可能です。本研究の結果により、立体的な微細溝加工を持つPLAナノシートが、神経細胞の培養基材として優れていることが示されました。

今後の展望と課題

本研究により、立体的な微細溝加工を持つナノシートが、神経細胞の培養基材として優れていることが明らかになりました。一方、培養基材の立体的特性が培養神経細胞に与える影響や、ナノシートの物性が培養神経細胞に与える影響について明らかにすることはできませんでした。今後、培養基材の立体的特性やナノシートの物性が神経細胞の分化や成熟に与える影響について分子レベルで解析していきます。また、生体内に存在する神経細胞は、周囲を様々な細胞に取り囲まれた立体的な環境で生存しています。これらの環境をナノシートの技術やマイクロデバイス技術を組み合わせた種々の立体的な培養基材を用いることによって再現し、再生医療や移植医療に用いる神経細胞培養基材を開発することを目指します。

用語説明

[用語1] 高分子超薄膜(ナノシート) : 数十~数百ナノメートルの厚さに対して、数平方センチメートル以上の面積を有する自己支持性高分子超薄膜。基板などの支持体が無くてもピンセットなどで取り扱うことが可能である。ポリ乳酸や多糖などの生分解性高分子を用いれば、臓器や組織用の創傷保護材として利用できる。

[用語2] 培養基材 : 細胞や組織を人工的に培養・維持するために受け皿となる素材。生体組織の複雑な機能を再現するために、様々な表面機能を有する培養基材の開発が世界的に進んでいる。

[用語3] 培養神経細胞 : 神経細胞を組織から採取、もしくは多能性幹細胞から作り出して、培養皿上で培養したもの。

[用語4] 神経細胞の分化 : 神経細胞は、脳や脊髄などに存在し、細胞体から伸びる一本の軸索と複数の樹状突起を持つ。軸索を通じて送られた電気信号は、軸索と樹状突起の間つくられるシナプスという小さな構造体を介して他の細胞に伝えられる。神経細胞も、ES細胞やiPS細胞のような、多能性幹細胞から生まれる。幹細胞や幼若な神経細胞から、神経突起を進展し、シナプスをつくり、機能的な神経細胞へと変化する様を神経細胞の分化と言う。

[用語5] 次世代シークエンサー : 2000年半ばに米国で登場した、遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置であり、数千万~数億のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定することができる。高スループットで安価に配列が解析できるため、様々なアプリケーションに用いられている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Efficient differentiation and polarization of primary cultured neurons on poly (lactic acid) scaffolds with microgrooved structures
著者 :
Asako Otomo, Mahoko Takahashi Ueda, Toshinori Fujie, Arihiro Hasebe, Yoshitaka Suematsu, Yosuke Okamura, Shinji Takeoka, Shinji Hadano & So Nakagawa
DOI :
<$mt:Include module="#G-11_生命理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系

講師 藤枝俊宣

E-mail : t_fujie@bio.titech.ac.jp

東海大学 医学部 医学科 基礎医学系 分子生命科学

Tel : 0463-93-1121(代表)

大友麻子

E-mail : asako@tokai-u.jp

中川草

E-mail : so@tokai.ac.jp

早稲田大学 理工学術院

教授 武岡真司

E-mail : takeoka@waseda.jp

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東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

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Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

吉田尚弘名誉教授が三宅賞を受賞

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東京工業大学 地球生命研究所 特任教授の吉田尚弘名誉教授が2020年度日本地球惑星科学連合学術賞(三宅賞)を受賞しました。三宅賞は、1954年のビキニ事件をきっかけに、海域や大気の放射能汚染を調査し危険性を訴えた三宅泰雄博士(1908~1990年)が設立した「地球化学研究協会」が1972年に創設したものです。環境だけでなく、地学や海洋、宇宙など地球化学分野の研究で優れた研究者が毎年表彰されてきました。2018年からは公益社団法人日本地球惑星科学連合(JpGU)に移され、JpGUの年齢制限のない唯一の学術賞として、地球惑星科学に関わる物質科学の分野において、新しい発想によって優れた研究成果を挙げ、国際的に高い評価を受けている個人を隔年で原則1件、表彰しています。

JpGUは1990年に本学で開催された第1回地球惑星科学関連学会合同大会の事務局を母体として、2005年に設立されました。地球惑星科学を構成するすべての分野及び関連分野をカバーする研究者・技術者・教育関係者・科学コミュニケータ、学生や当該分野に関心を持つ一般市民の方々からなる9000人強の個人会員、地球惑星科学関連の50ほどの学協会、賛助会員から構成される、この分野最大の学術団体です。JpGUは日本の代表として米国地球物理連合(AGU)、欧州地球科学連合(EGU)、アジアオセアニア地球科学会(AOGS)など世界の関連する連合と国際連携をしています。その一環として2020年5月に幕張(千葉市)でJpGU-AGU合同大会が開催される予定でしたが、新型コロナウイルスのパンデミックの状況を受けて、2020年7月に延期してリモート会議として開催される予定です。

吉田尚弘名誉教授のコメント

吉田尚弘名誉教授

これまで様々な同位体分子の自然存在度を正確に計測する方法を開発し、その分子の起源を推定することで、地球環境、地球と生命の起源と進化の理解を深めてきたことが評価されて大変名誉な賞を受賞することになりました。三宅泰雄博士(1908~1990年)は、海洋における環境放射能の分野の世界的な創始者のお一人で、1954年の核実験による第五福竜丸の放射能汚染を発端にビキニ周辺海域・大気の放射能汚染を調査、研究し、高い評価を得た著名な研究者です。このように偉大な研究者の冠のついた賞を受けることは大変な栄誉です。今年は第30回、そして、JpGU-AGU合同大会という記念すべき学会での受賞の予定でした。コロナ禍のなか、授賞式の詳細はまだ明らかではありませんが、時期や場所、方式など、安全な状況の中で受けるものですので、どのような形態となっても大変な栄誉に変わりはありません。

もちろん、与えられましたこの大きな栄誉は私一人でのみなせるものでなく、これまでに支えてくださいました研究室の教員・スタッフ、学生の皆さん、ならびに、国内外の多数の共同研究者、そして本学の教職員の皆様のご支援があればこそです。ここに記しまして感謝申し上げます。

受賞理由と業績内容

JpGUが発表した受賞理由と業績内容は次の通りです。

受賞理由

同位体置換分子種計測法の革新による大気化学的および生物地球化学的物質循環の研究の展開

業績内容

全ての元素は同位体の集合体であるように、全ての分子は同位体置換分子種(同位体分子と略称)の集合体であるが、ほとんどの同位体分子はまだ正確に測ることができない。吉田博士の主な研究業績は、様々な同位体分子の自然存在度を正確に計測する方法を開発し、その分子の起源を推定することで、地球環境、地球と生命の起源と進化の理解を深めてきたことである。無機分子の例としては一酸化二窒素の同位体比、同位体分子比を世界に先駆けて計測し、地球温暖化とオゾン層破壊に大きく関わること、その起源と将来予測などを明らかにした。低分子有機化合物の例としては炭化水素や低分子アミノ酸などの計測法を開発し、生物の代謝、地層中の生物・非生物分解過程、無機合成などバイオマーカーの起源とプロセスについて重要な発見をしている。また、計測法の開発に当たって新規世界標準を作成し、国際校正を主導するとともに、計測法の適用に当たっては実環境の観測や模擬実験などの国際共同研究をリードしている。これらの一連の研究は地球環境化学の分野において革新的な特筆すべき優れた研究である。

お問い合わせ先

吉田尚弘

E-mail : yoshida.n.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3154

AI技術基盤の創出で「次世代のモビリティ」実現へ 東工大とデンソーITラボが連携し共同研究講座設置

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東京工業大学と株式会社デンソーアイティーラボラトリ(以下「デンソーITラボ」)は、革新的なAI技術基盤の創出に向けた連携および共同研究に関する協定書を締結し、情報理工学院に「DENSO IT LAB 認識・学習アルゴリズム共同研究講座」を4月1日に設置しました。

AI技術基盤の創出で「次世代のモビリティ」実現へ

背景とねらい

産業界においては、クルマが「自動車」から「モビリティ」へと広義の移動体として捉えられ、自動運転・電動化・MaaS(Mobility as a Service:移動のサービス化)など100年に一度の大変革期を迎えています。この変革期においては、より上流の基礎的な研究が重要となり、さらに高い目標にチャレンジする必要があります。

一方、学術界においては、画期的なブレークスルーを起こしているディープラーニングなどのAIが大きな潮流となっています。この流れをさらに拡大していくには、より深く数理・計算機科学を探究するとともに、未来社会のデザインに繋げることが必要です。

デンソーITラボはこれまで自動運転や先進安全などの車載システム・サービスなど次世代のモビリティにおいてゲームチェンジを起こす技術の研究、及びそれらを活かした製品開発に取り組んでまいりました。また東工大においては情報理工学院を中心に「社会的課題解決型データサイエンス・AI研究推進体」を設置、所属や専門分野の異なる教員が互いに協力するとともに、産業界とも密に連携して、データサイエンスとAIに関する多面的なアプローチによって社会的課題の解決に取り組んでいます。

これまで東工大およびデンソーITラボは、スーパーコンピュータを使った機械学習の高速化などの課題を共同で取り組んできました。AIがあらゆる産業の基盤技術として急速に普及しており、企業および大学ともにAI研究および技術開発の舞台で世界のライバルたちと激しい競争を繰り広げています。わたしたちは、世界に勝つためには、いま使われている技術の改良ではなく、既存モデルや手法に取って代わる「次」の革新的な技術の創出を目指した研究を強固な産学連携により取り組んでいく必要があるという認識を共有するに至りました。

そこで東工大およびデンソーITラボは組織的連携を強化することで合意、共同プロジェクトに関する協定書を締結し、若手研究者らも参画した革新的研究の場として共同研究講座「DENSO IT LAB 認識・学習アルゴリズム共同研究講座」を設置しました。東工大が持つ最先端の数理・計算機科学の技術と、デンソーITラボが持つ未来を見据えた自動運転・電動化・MaaSなどの技術を融合し、世界中の人々がワクワクする「未来のモビリティ」を実現するためのAI技術基盤を創出します。

これからも東工大およびデンソーITラボは、より一層連携を強化しオープンイノベーションを推進します。

DENSO IT LAB 認識・学習アルゴリズム共同研究講座の概要

名称 :
DENSO IT LAB 認識・学習アルゴリズム共同研究講座
研究目的 :
基礎と応用を繋ぐ技術的ブレークスルーの創出
設置期間 :
2020年4月1日 - 2023年3月31日
研究内容 :
モビリティのインテリジェント化のための情報処理技術の発展を目的に、機械学習分野・パターン認識分野・コンピュータビジョン分野に関わる基礎ならびに応用研究を実施する。
研究体制 :
数理科学と計算機科学に関する最高峰の知見を結集してデータからの知識獲得における技術的ブレークスルーを創発する。
役割
現所属・職名
氏名
大学代表者
東工大 情報理工学院 情報工学系 教授
篠田浩一
会社代表者
デンソーITラボ エグゼクティブジェネラルマネージャ
岩崎弘利
共同研究教員
東工大 情報理工学院 情報工学系 准教授
小野峻佑
東工大 情報理工学院 情報工学系 助教
井上中順
東工大 工学院 システム制御系 准教授
田中正行
東工大 学術国際情報センター 准教授
横田理央
東工大 学術国際情報センター 助教
野村哲弘
共同研究講座教員
東工大 情報理工学院 特任准教授
デンソーITラボ シニアリサーチャ
佐藤育郎
東工大 情報理工学院 特任准教授
デンソーITラボ シニアリサーチャ
川上玲
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情報理工学院
DENSO IT LAB 認識・学習アルゴリズム共同研究講座

E-mail : info.d-itlab@ks.c.titech.ac.jp

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総務部 広報・社会連携課 広報グループ

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975

研究動画「ものすごく小さな容器『超分子』の驚くべき世界」を公開

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ナノサイズの空間を持つ分子が、超分子的な力を使って他の分子を包む超分子の世界。超分子(supramolecules)という言葉は聞きなれないかもしれませんが、実は私たちの身の回りにもたくさんあります。

東京工業大学はこのほど、超分子の興味深い性質と機能を分かりやすくまとめた5分間の動画を公開しました。新しい超分子開発とその特異性を解明outerした最新の研究成果と身近な事例を合わせて、詳しく説明しています。理学院 化学系の山科雅裕助教とケンブリッジ大学ジョナサン・ニチケ教授らの研究チームによる研究成果は、2019年10月、英国の総合科学雑誌「Nature(ネイチャー)」誌で発表されました。東工大全学サイトトップページの「研究最前線」でも「ナノサイズの『異空間』をもつ新物質 反芳香族分子で構築された新しい分子ケージの開発に成功」として紹介しています。ぜひご覧ください。

英語による紹介動画ですが、日本語、もしくは、英語の字幕を選択して視聴できます。

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お問い合わせ先

研究・産学連携本部

E-mail : ru.staff@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3188

自然磁気ヘテロ構造を利用した単層磁石へのアプローチ

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要点

  • 磁性層と非磁性層からなる磁気ヘテロ構造のバルク物質(MnBi2Te4)m(Bi2Te3)nの発見と合成
  • 本結晶を用いた2次元単層磁石の提案
  • トポロジカル物性と2次元磁石を研究するためのプラットホームになるものと期待される

概要

東京工業大学 元素戦略研究センターのWu Jiazhen(鄔 家臻)特任助教と細野秀雄栄誉教授らは磁性元素Mn2+を含むMnBi2Te4層と非磁性のBi2Te3層がファンデルワールス力で結合したヘテロ構造(MnBi2Te4) (Bi2Te3)n(nは整数)をもつ物質を発見し、その単結晶合成に成功したことを昨年11月に米科学誌Science Advancesに発表している。

本研究ではその単結晶を用いて、非磁性層の厚さ(n)を調節することで、(MnBi2Te4)(Bi2Te3)nにおける磁性制御を行った。磁気的特性は交流磁化率を測定し、磁気モーメント緩和挙動を通して評価した。n=2,3の場合、外部磁場に対する明確な磁化率の緩和が観測された。これは層間距離が短いn=0,1の時には見られない現象であり、非磁性層を増やすことで層間のスピンカップリングを減らし、今まで得ることができなかったバルクの2次元磁石が実現したことが示唆される結果である。本物質は、エピタキシャル成長による薄膜を必要とせず、簡便なフラックス法により単結晶が合成できるので、トポロジカル物性と2次元磁石を研究するためのプラットホームになるものと期待できる。

本成果は独の科学誌Advanced Materialsの速報として4月24日にオンライン公開された。

背景

低次元磁石や磁気的基底状態[用語1]はL.Onsager(ラルス・オンサーガー)らによる初期の理論的研究以来、物性物理の課題の一つである。1次元物質では長距離秩序の形成は不可能である一方、2次元磁石は基礎的側面だけでなく、デジタルデータメモリや量子コンピューティングなど応用面でも関心を集めている。しかし、単原子層を有する2次元磁石は実験的に実現が難しく、今までCrI3(三ヨウ化クロム)やFe3GeTe2(Ferromagnetic metal/強磁性金属)のような2次元ファンデルワールス結晶をはく離することでしか得られなかった。

以上の観点から、磁性層と非磁性層の2次元磁気的ヘテロ構造[用語2]を自然に有する物質は理想的な2次元磁石が得られる舞台として着目されている。また、トンネル磁気抵抗や量子異常ホール効果[用語3]のようなエキゾチックな物性を示す舞台になることが期待されている。

本研究のアプローチ

Wu Jiazhen特任教授、細野栄誉教授らは(MnBi2Te4)(Bi2Te3)nという磁性層MnBi2Te4と非磁性層Bi2Te3が交互に積層された化合物が存在することを見出し、その単結晶の合成に成功していた。

バルクのMnBi2Te4(n=0)とMnBi4Te7(n=1)は反強磁性のトポロジカル絶縁体[用語4]であり、これらの層間の距離をBi2Te3層の数nの値を変えることで図1のように制御できれば磁性層間の磁気的相互作用を系統的に調べることができる。

このようなヘテロ構造は薄膜エピタキシャル法で交互に積層する方法で作製するのが一般的だが、歪みや欠陥が入りやすいという問題があった。バルクの単結晶が熱的に合成できれば、より理想的なヘテロ接合になり得る。

図1. トポロジカル絶縁体(MnBi2Te4)(Bi2Te3)nの磁気構造の発展

図1. トポロジカル絶縁体(MnBi2Te4)(Bi2Te3)nの磁気構造の発展


研究成果

自然磁気ヘテロ構造の観察

単結晶はフラックス法[用語5]で合成された。明確なファンデルワールスギャップによって分離されたヘテロ構造の形成が形成されていることは図2の原子分解能STEM(走査型透過電子顕微鏡)像から明らかである。単結晶の育成温度域は非常に狭いが、磁気的ヘテロ構造が熱力学的に安定化し、単結晶として合成することができた。

層間の磁気的デカッブリングの証拠

理論計算と実験的観察からn=2以上で層間磁性のデカッブリングが始まることが示された。デカッブリングは交流磁化測定によって調べた。図3に示すように10 K以下ではゆっくりした磁気緩和が明確に観察された。この緩和は層間のスピンの回転や層内のドメイン壁の運動によるものと考えられ、層間の磁気的カップリングが十分に弱くなる時のみ生じる。これらの結果から図4に示す磁気相図を明らかにできた。

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像)

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像)


A:Bi2Te3、B:MnBi2Te4、C:MnBi4Te7、D: MnBi6Te10
QL:5原子層からなるBi2Te3、SL:7原子層からなるMnBi2Te4

図3. Mn(BixSb1-x)6Te10単結晶の交流磁化率

図3. Mn(BixSb1-x)6Te10単結晶の交流磁化率


X’とX’’における緩和が13 K以下の温度領域でみられる。

図4. (MnBi2Te4)(Bi2Te3)nでの磁気相図

図4. (MnBi2Te4)(Bi2Te3)nでの磁気相図


今後の展開

本物質はバルクの2次元磁性の研究に適したプラットホームを提供する。また、(MnBi2Te4)m(Bi2Te3)nはトポロジカル絶縁体でもあるため、2次元磁性とトポロジカル表面状態が協奏するエキゾチックな物性の発現が期待される。

謝辞

本成果は科学研究費補助金(No. 17H06153)、文部科学省元素戦略プロジェクト「拠点形成型」(No.JPMXP0112101001)の支援を受けたものである。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
Natural van der Waals Heterostructural Single Crystals with both Magnetic and Topological Properties(磁性とトポロジカル性をあわせもつ自然ファンデルワールスヘテロ構造の単結晶)
著者 :
Jiazhen Wu, Fucai Liu, Masato Sasase, Koichiro Ienaga, Yukiko Obata, Ryu Yukawa, Koji Horiba, Hiroshi Kumigashira, Satoshi Okuma, Takeshi Inoshita, Hideo Hosono
DOI :
掲載誌 :
Advance Materials
論文タイトル :
Toward 2D magnets in the (MnBi2Te4)(Bi2Te3)n Bulk Crystal((MnBi2Te4)(Bi2Te3)nバルク結晶における2次元磁石にむけて)
著者 :
Jiazhen Wu, Fucai Liu, Can Liu, Yong Wang, Changcun Li, Yangfan Lu, Satoru Matsuishi, and Hideo Hosono
DOI :

用語説明

[用語1] 磁気的基底状態 : 磁性体が持つ最も安定な磁気構造のこと。

[用語2] ヘテロ構造 : 組成元素が異なる固体を接合することをヘテロ接合といい、この接合体からなる構造。

[用語3] 量子異常ホール効果 : 電子が磁場中を動くときローレンツ力によってその動きが曲げられる(ホール効果)。異常ホール効果では外部磁場の代わりに強磁性体のスピンモーメントによって生じる同様の効果を生じる。量子異常ホール効果ではホール抵抗値が量子化抵抗値によって関連付けられる。

[用語4] トポロジカル絶縁体 : 物質の内部(バルク)は絶縁体で、エッジ(端)や表面では金属状態になっている物質。エッジで電流を担っている電子のスピンは片方だけになっている。

[用語5] フラックス法 : SnやTeなどの融点の低い物質の融体(フラックス)中に適当な元素を入れ、再結晶によって高品質な単結晶を育成する合成技術。

お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 元素戦略研究センター長 細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

異分野融合研究支援 2019年度 3チームを支援

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東京工業大学は3月12日、2019年度の「異分野融合研究支援」に学内の3研究チームを選びました。

東工大は新しい研究分野を生み出すため、既存の研究分野にとらわれない異分野融合を推進する共同研究に取り組んでいます。異分野融合研究支援は、学内における研究分野の多様性を生かした異分野融合研究を目的とし、分野を横断した研究チームに対して研究費の支援を行うものです。研究領域が異なる場合のみではなく、「異なる技術、手法の組み合わせにより、既知の学問を超えた革新的な知見・知識の創出が期待できる場合」も、本支援の対象としています。東工大基金を活用して2018年度、創設されました。

第2回目となる2019年度は、工学院 機械系の石田忠准教授、環境・社会理工学院 融合理工系の齋藤健太郎助教、科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の野本貴大助教を研究代表者とする3チーム計8名の研究者が選ばれました。

異分野融合研究支援 2019年度 3チームを支援

「異分野融合研究支援」採択者一覧

所属
職名
氏名
* は研究代表者)
研究課題名
准教授
多種特性を有した細菌創生のためのマイクロ流路デバイスの開発
助教
助教
電波伝搬環境をアクティブ制御できるコンクリート建材の研究
准教授
助教
助教
ナノ粒子のバイオ合成制御と波動エンジニアリングの融合による腫瘍ナノバリオロジーの究明と革新的薬物送達技術の開発
助教
助教

石田忠准教授チームの研究紹介

石田忠准教授チームの研究紹介 - 多種特性を有した細菌創生のためのマイクロ流路デバイスの開発

齋藤健太郎助教チームの研究紹介

齋藤健太郎助教チームの研究紹介 - 電波伝搬環境をアクティブ制御できるコンクリート建材の研究

野本貴大助教チームの研究紹介

野本貴大助教チームの研究紹介 - ナノ粒子のバイオ合成制御と波動エンジニアリングの融合による腫瘍ナノバリオロジーの究明と革新的薬物送達技術の開発

支援決定通知書授与式について

支援決定通知書授与式は新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の観点から延期されました。

東工大基金

この取り組みは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部 研究企画課 研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2327

「STAY HOME, STAY GEEK ―お宅でいよう―」連続動画を配信 ステイ・ホームでギーク達は何を考えるか

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新型コロナウイルス感染症防止のため、東京工業大学も原則来学禁止が続きます。理工系の研究に欠かせない実験やフィールド調査もなかなか進まない状態の中、本学に所属する約1,000人の研究者はステイ・ホームで何を考えているのでしょう。未来社会DESIGN機構(DLab)は研究者による研究者へのインタビュー動画のネット配信を5月11日から始めました。

題して「STAY HOME, STAY GEEK(ステイ・ホーム、ステイ・ギーク) —お宅でいよう— 【コロナ×未来社会】」。東工大の尖った研究者たちを、敬意を込めてマニア、オタクを意味するギークと呼び、「お宅(ホーム/ギーク)でいよう」という思いを込めました。 DLabに所属する研究者が聞き手となり、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士をはじめ様々な分野の研究者に、オンラインで15分程度インタビューしています。

インタビューでは、現在の日々の暮らしから、この新型コロナウィルス感染症が拡大し共存する社会に対して研究者としてどのように向き合っていこうとしているか、また学生へのアドバイスなどを聞いています。

インタビューを行うのは、DLabメンバーでもあり、科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長の伊藤亜紗准教授、リーダーシップ教育院 中野民夫教授、科学技術創成研究院 大竹尚登教授等です。

インタビューを受けた研究者が別の研究者を紹介して次へつなげるリレー形式のインタビューとなっていて、現時点で9件が公開されています。今後も随時インタビューを掲載していきます。

第1回目
第2回目

環境・社会理工学院 土木・環境工学系 鼎信次郎教授「グローバルリスクの一つが顕在化した」 × リーダーシップ教育院 中野民夫教授

第3回目

生命理工学院 生命理工学系 山口雄輝教授 「創薬は複雑系の生命との長期戦」 × 未来の人類研究センター長 伊藤亜紗准教授

第4回目

情報理工学院 情報工学系 石田貴士准教授 「計算機で有望な化合物を探していく」 × 未来の人類研究センター長 伊藤亜紗准教授

第5回目
第6回目

科学技術創成研究院 伊藤浩之准教授「データの意味を理解して働きかけて行きたい」 × 伊藤亜紗准教授

第7回目

環境・社会理工学院 土木・環境工学系 千々和伸浩准教授「社会も学問も垣根があるからこそ面白い」 × リーダーシップ教育院 中野民夫教授

第8回目

リベラルアーツ研究教育院 柳瀬博一教授「オンライン授業はメディアの実験」 × 未来の人類研究センター長 伊藤亜紗准教授

第9回目

環境・社会理工学院 建築学系 村田涼准教授「五感を通してしなやかに周りと付き合える建物を」 × リーダーシップ教育院 中野民夫教授

コロナ禍のなか、にわかに現れたこの時間を、研究のあり方や目指すべき社会のあり方を考え直すきっかけにすることもできます。お宅にいながら、ネット通信で研究仲間や学生、そして社会とつながる研究者の対話に、未来社会をデザインするヒントが見つかるかもしれません。

未来社会DESIGN機構(DLab)は、これからの科学・技術の発展などから予測可能な未来とはちがう「人々が望む未来社会とは何か」を、社会と一緒になって考えデザインするための組織です。2018年9月に発足し、学内外の参加者と議論した成果を2020年1月、「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」として発表しました。

「STAY HOME, STAY GEEK ―お宅でいよう―」連続動画を配信 チラシ

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お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3619


東工大DLabがJST主催の科学イベント「サイエンスアゴラ2019」にて高校生を中心としたワークショップを開催

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東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、人々が望む未来社会とは何かを、社会の一員として、学内外の様々な方と広く議論しながらデザインしていくための組織です。2020年1月20日、DLabのおよそ1年半にわたる活動から生まれた「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」を発表しました。

2020年度はこれまでの活動をさらに推進するとともに、「ありたい未来」の実現に向けて取り組んでいきます。

DLabニュース

DLabは、2019年11月16日にテレコムセンタービルで行われた科学イベント「サイエンスアゴラ2019」に出展し、高校生が中心となって未来社会を考えるワークショップを実施しました。参加した高校生からは「未来や技術と社会の関わりについて考える良い機会になった」などの感想が寄せられました。

ワークショップの詳細については、以下の記事をご覧ください。

DLab構成員に聞く「DLabってどんなところ?」

人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)

議論の先へいく設計を

DLab Team Create(チーム クリエイト)所属 桑田薫
東京工業大学 副学長(研究企画担当)・学長特別補佐

1981年日本女子大学 家政学部 家政理学科一部卒業、1994年法政大学 大学院社会科学研究科 修士課程 修了、1998年法政大学 大学院社会科学研究科 経営学専攻 博士後期課程 単位取得退学、1981年日本電気株式会社、2003年NECエレクトロニクス株式会社、2008年技術研究組合 超先端電子技術開発機構(ASET) 研究員、2010年ルネサス エレクトロニクス株式会社、2011年一般社団法人 半導体産業研究所 客員研究員、2016年東京工業大学 フロンティア研究機構 特任教授(URA)、東京工業大学 科学技術創成研究院 特任教授(URA)、2018年より現職。

桑田副学長は、エレクトロニクス関連企業、シンクタンクを経て、URA(リサーチ・アドミニストレーター)として本学に着任しました。エンジニアとしての経験やマーケティング・マネジメントの経験を活かし、大学の研究を社会実装に結び付けることで、未来の社会を創造する活動を推進しています。

DLab Team Create所属 桑田薫さん
DLab Team Create所属 桑田薫さん

DLabに関しては、副学長として立ち上げ当初からイベントに関わり、強い興味を持って見守っていました。そんな中で折良くバックキャスティングのフェーズに入ってくると、URAの視点で貢献したいという気持ちが湧いてきて、DLab構成員に立候補しました。東工大においてURAが目指す役割とは、単なる研究支援だけでなく、研究成果の市場性や経済効果などを含めて貢献シナリオを書き、教員の研究を世に送り出す全体をプロデュースすること。戦略的な志向で、研究構想時からいろいろな情報を提供する研究のパートナーであることが理想です。ではDLabにおいてのURAはどうでしょうか。私が以前、普及学を研究していた際に、社会とどう繋がるのか、市場をつくっていくためにはどうするのかということを追求していたのですが、その視点がまさにDLabにおいてのURAの役割だと思いました。せっかく描いた未来を塩漬けにしないためには、構成する未来の市場を設計し、実現の活動に繋げなければなりません。バックキャスティングするにあたって、今までTeam Imagineが描き出した宝の山である未来像を科学技術的な構成で分解しているだけでは、ありたい未来が単なる技術的なロードマップになってしまいます。DLabの活動が技術ロードマップを作ることに留まらないよう、バックキャスティングをもっと人文・社会科学的な視点でアプローチできればと思っています。例えば、社会のシステムができあがるためには、技術的システム基盤の様な視点だけでなく、社会規範を考え、同時に、社会のみなさんがワクワクしながら新たなシステムを受け入れるような仕掛けが必要です。そこを解き明かしてバックキャスティングしていきたいと考えています。実際にDLabに参加した今、私の立場から積極的に取り組みたいことは、未来社会の構成を科学技術、人文・社会科学の視点でバックキャスティングし、その構成ピースを埋める未来社会創造の活動に繋げるフレームワークを作ることです。カリスマリーダーがやるから成功するのではなく、誰がやっても同じ様に良いものが作れるフレームワークにし、それを東工大メソッドとしてプロモーションしていきたいと考えています。バックキャスティングの手法を確立し、事例をつみあげ、アクティビティへ。その中で未達なものを研究要素にフィードバックすれば、未来創りに足りないものをまた生み出すことができる。DLab発のメソッドで、私たちが描く豊かな未来社会へ、一歩ずつ近づいていけると考えています。

技術の積み上げだけでは到達できない未来へ

DLab Team Create所属 新田元
東京工業大学 研究・産学連携本部 本部長付 (兼)地球インクルーシブセンシング研究機構 リサーチ・アドミニストレーター(URA)

1988年東京工業大学 電気電子工学科卒業、1990年東京工業大学 大学院理工学研究科修了、ソニー株式会社勤務、慶應義塾大学産学連携コーディネーターを経て2017年より現職

新田URAは、電気機器企業にて民生用ビデオ機器を中心に商品開発に従事してきました。電子回路工学、システム設計を専門としています。産学連携コーディネーターの経験を生かし、DLabと企業とを繋ぐ立場から未来社会への想いを語ります。

DLab Team Create所属 新田元さん
DLab Team Create所属 新田元さん

私が企業にいた時代は、電気機器がアナログからデジタルへと移行していく時期でした。映像がデジタル化するイノベーティブな瞬間に立ち会うことができ、DVD、ハードディスク、ブルーレイと何をやっても新しく、本当に多くの貴重な経験をしてきました。最先端の技術と向き合いながら同時にお客様の顔も見える。自分たちの生み出したものが世の中にどのように伝わっていくかを肌で感じることができたのです。それは同時に競争の最前線にいることでもあり、みんなが同じものを目指す中でいかに独自の工夫を凝らすか、魅力的な付加価値をつけていくかを追求する日々でもありました。世の中にないものを送り出し、真っさらな所で競争していくためには、最先端の技術を開発しながらマーケットも創造していかねばならないのです。理想のユーザーエクスペリエンスというものがまずあって、そこに到達するための技術をどうやって開発するかということを、日々考えて過ごしていました。思い返せば今から20年以上前に、既にバックキャスティングを実践していたのです。

その後、慶應義塾大学での産学連携コーディネーターを経て、よりテクロジーに近い環境で様々なミッションに挑みたいと思い、東工大へ移りました。昔からゼロから何かを作り出すことが好きだったので、未来をデザインするという活動は面白そうだと思い、DLab立ち上げ時からメンバーに加わりました。DLabの活動には多様な人々が参加しており、「そんな考え方もあるんだ」といった普段は思いもよらない意見を聞ける場となっています。異なるバックグラウンドを持つ人たちが集まり、それぞれの立場から様々な意見を交わし合い、そこから何かを創り出していくということにとてもやりがいを感じます。DLabにおいて、私がいちばん注力しているのは、描いた未来社会像をどうやって研究に落とし込んでいくかという点です。まさにバックキャスティングにあたる部分ですが、そこから更に社会そのものや社会システムにどのようにアプローチをするかというのは、私にとって本当に未知なところです。企業では数年後の未来を予測して商品を開発しますが、実現まで何十年もかかることに対して、企業と同じやり方では思うようには進まないという壁に今、直面しています。しかし、だからこそそこにチャンスがあると私は思っています。何十年も先の未来を考えて、その実現に向けて活動を続けていくというアプローチは大学にしかできないことです。バックキャスティングの精度を上げることや、技術をとことん分析・分解して潮流をつかむといったアプローチだけではダメで、リベラルアーツであったり、アートであったり、異なった視点の人たちと一緒になって考えていく場をどう作っていくか。それを考えることが真の文理融合であり、未来のビジョンを共有することに繋がると思います。そして、そこにこそDLabの醍醐味があります。対話があってこそ気づきがあり、ギャップを埋めていくヒントがある。単なる技術の積み上げでは到達できない未来を期待しています。

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お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3619

独自の新型コロナウイルス感染症対策「Team 東工大・学生支援プログラム」を創設 新たな貸与型奨学金の募集を開始

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独自の新型コロナウイルス感染症対策「Team 東工大・学生支援プログラム」を創設

東京工業大学ではこのほど、学生向けの独自支援策として「Team 東工大・学生支援プログラム」を創設しました。

新型コロナウイルス感染症拡大は未曾有の危機的状況を生み、その対策は持久戦となりつつあります。特に、さまざまな経済活動の停滞の影響を受け、学資や生活費の支弁に困窮する、更には大学生活の維持そのものが厳しい学生が増えていることが懸念されます。

こうした学生が、修学を諦めず継続して東工大で学び続けることができるよう、特別奨学金制度の設立、授業料納付期限の延長、在学期間の延長に伴う授業料免除等を実施いたします。

「Team 東工大・学生支援プログラム」の概要

東工大は5月8日、以下3つの支援策の方針を公表しました。

その後具体的な応募条件などを策定し、各支援策の詳細について順次「新型コロナウイルス新入生・在学生向け情報のページ」に掲載しています。

東工大独自の貸与型奨学金を新設

新型コロナウイルス感染症の影響により収入等が減少し、緊急に経済的支援が必要である全ての学生を対象に、本学独自の貸与型奨学金「新型コロナウイルス感染症対応緊急貸与型奨学金」を新設しました。現在、第一弾の貸与希望学生を募っています。応募条件や手続等詳細は東工大独自の貸与型奨学金のページで案内しています。

なお、奨学金貸与者の中で、後日行う審査に基づき困窮度が著しく高いと判定された学生に対しては、給付型奨学金に切り替え、貸与した奨学金の一部もしくは全部の返還を免除します。

貸与金額
一人あたり月5万円×6ヵ月間を上限に、無利子で貸与します。
返還方法
貸与期間の最終月から2年経過後の翌月末まで※1に、大学が指定する銀行口座に返還となります。
対象者
<第一弾>
授業料等免除制度への申請者※2を対象に、希望学生を募ります。
<第二弾>
6月を目途に、対象を広げた第二弾支援への希望学生を改めて募集予定です。
※1
退学したとき、懲戒等の処分を受けたときなどには、直ちに返還が必要です。
※2
学士課程学生については、高等教育の修学支援新制度特別授業料減免制度または優秀学士留学生修学支援奨学金を申請している者を対象とします。

授業料納付期限の延長

2020年度前学期分の授業料納付期限を2020年9月28日(月)注3に延長します。

学士課程、修士課程・博士後期課程、専門職学位課程の課程を問わず、科目等履修生、研究生(日本人・私費留学生)、海外交流学生・海外訪問学生を含む全ての学生が対象となります。

※3
2020年6月修了予定者は6月15日(月)まで、同9月卒業・修了予定者は8月27日(木)まで、同9月までに在学期間が終了する海外交流学生・海外訪問学生は在学期間終了の1週間前までの延長となります。

在学期間延長中の授業料を免除

大学の研究活動の停止等の影響により、大学院課程学生は学位論文、学士課程学生は特定課題研究の進捗が滞り、在学期間を延長せざるを得ないことが起こりえます。この間の学生の経済的負担を軽減するため、標準修業年限を超えて在学期間を延長する場合に限り、大学院課程学生は延長期間当初3ヵ月間、学士課程学生は6ヵ月間の授業料を免除します。

また、大学院課程学生には、学修の遅延への対応として、学位論文審査日程の柔軟化も行います。

未来を創る学生へ一層の修学支援・経済支援のために

「Team 東工大・学生支援プログラム」は東工大基金「修学支援基金」を原資としています。未来を創る学生への支援をさらに充実させるため、東工大基金では皆様からの寄附を承っています。

本プログラムの趣旨にご賛同いただき、非常に厳しい状況の学生たちをご支援くださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

東工大基金

このプログラムは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東工大独自の貸与型奨学金について

緊急学生支援推進室

E-mail : seso-apply@jim.titech.ac.jp

東工大基金について

東京工業大学 基金室

E-mail : bokin@jim.titech.ac.jp

東工大学生チームがICTトラブルシューティングコンテスト 2019で優勝

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ICT(情報通信技術)を競う日本最大級のトラブルシューティングコンテスト「ICT トラブルシューティングコンテスト 2019」が2月29日と3月1日、コロナウイルス感染拡大の影響によりオンラインで行われ、東京工業大学の学生サークル「デジタル創作同好会traP(トラップ)」に所属する学生4人と、環境・社会理工学院の学生1人からなるチーム「:thonk_spin.ex-large.rotate.parrot:」(ソンクスピン エクストララージ ローテイト パロット)が優勝しました。チームのうちの4人は2018年にも優勝しており、2連覇となります。

コンテストに取り組むチームメンバー

コンテストに取り組むチームメンバー

ICT トラブルシューティングコンテストはウェブサービスを運用する際に、実際に発生しうるトラブルが問題として出題され、それを解決するコンテストです。オンラインで実施された一次予選で選ばれたシードチーム2チームと、同じくオンラインで実施された二次予選の上位8チームとICTSC実行委員推薦5チームの計15チームが本選に出場しました。:thonk_spin.ex-large.rotate.parrot:は一次予選を1位で通過、二次予選に参加せず本選に進むことが可能でしたが、力試しやチームワーク向上のため二次予選にも参加し、やはり1位となりました。本選にはシードチームとして参加し、優勝しました。

チーム名 :thonk_spin.ex-large.rotate.parrot:は チーム結成当時、サークル内SNSではやっていたスタンプの名前です。

出場メンバー

* は2018年のICT トラブルシューティングコンテストの優勝メンバー)

チーム代表、岸本崇志さんのコメント

昨年に引き続き優勝することができて、大変嬉しく思います。
一次・二次予選ではどちらも1位で通過しましたが、本戦では前半結果がトップではなく、大会2連覇もかかっていたということもあり、チームが非常に緊迫したムードでした。後半で巻き返すことが出来てとても良かったです。
大学でのネットワーク系の講義や、サークル内でのWebサービス開発や運用の経験を大いに活かすことができた結果だと思います。
しかしながら、完答することができず部分点が付けられた問題がいくつかあったため、今後もより一層精進し、次回大会でも更に良い結果を残したいと思っています。

デジタル創作同好会traPとは

ゲーム制作を中心に、プログラミング、DTM(音楽制作)、2Dイラスト、3Dモデル、ドット絵、競技プログラミング、CTF(コンピュータセキュリティ技術を競う競技)など幅広く取り組んでいます。デジタルコンテンツのチーム制作や技術共有を目的として、2015年4月に設立した東工大公認の技術(ものつくり)系サークルです。また、ゲーム制作者交流イベントや中高生向けのプログラミング教室を主催するなど外部との交流も積極的に行っています。

東工大基金

デジタル創作同好会traPの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 デジタル創作同好会traP

E-mail : info@trap.jp

ナノ材料と色素分子の融合で人工光合成を実現 水と太陽光から水素を製造する光触媒の開発を加速

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要点

  • 酸化物ナノシートと色素分子を融合した可視光駆動型水分解光触媒を開発
  • 太陽光に多く含まれる可視光をエネルギー源に水から水素を製造
  • 色素増感型水分解光触媒における世界最高効率を達成

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、大島崇義大学院生、西岡駿太大学院生(2018年度博士後期課程修了)らは、酸化物ナノシートと色素分子からなる複合材料が、可視光照射下で水から水素を効率良く生成する光触媒として働き、いわゆる「人工光合成」を実現できることを発見した。実験条件を最適化した結果、触媒性能を示すターンオーバー頻度は、従来の245倍の1,960(毎時)にまで向上し、外部量子収率は2.4 %に達した。

この光触媒の高い性能は、優れた可視光吸収能をもつルテニウム系色素の担体として、表面積が高く、電子伝達に有利な酸化物ナノシートを用い、電子移動を促進する工夫を施すことで実現した。前田准教授らの発見により、精密設計されたナノ材料を活用して太陽光エネルギーをクリーンな水素へ変換する、革新的な光触媒材料を創出できる可能性が見えてきた。さらに本研究で得られた材料設計指針は、色素増感型光触媒の開発を大きく促進すると期待される。

研究成果は4月14日、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

ルテニウム錯体吸着HCa2Nb3O10ナノシート上での水素生成のデザインイラスト。掲載誌のグラフィカルアブストラクトに使用されている。Adapted with permission. Copyright 2020, American Chemical Society.

ルテニウム錯体吸着HCa2Nb3O10ナノシート上での水素生成のデザインイラスト。掲載誌のグラフィカルアブストラクトに使用されている。Adapted with permission. Copyright 2020, American Chemical Society.

背景

水を水素と酸素に分解する光触媒の開発は、太陽光に多く含まれる可視光を化学エネルギーへと変換する「人工光合成」実現の観点から重要な課題である。酸化チタンに代表されるある種の金属酸化物は、合成が比較的容易で、化学的にも安定であることから、水分解の光触媒材料として広く研究されてきた。だが、そうした金属酸化物のほとんどでは、バンドギャップ[用語1]が大きいため、紫外光しか吸収できないことが大きな問題となっていた。

この問題の解決法として、可視光の吸収が可能な色素分子を金属酸化物上に吸着させ、可視光吸収により励起状態[用語2]となった色素からの電子(e-)移動を利用して、水から水素を製造するシステムが提案されてきた(図1)。このシステムは色素増感太陽電池と同じ原理で駆動することから、色素増感型光触媒と呼ばれ、半世紀に渡って世界中で研究されてきたが、効率の向上が課題となっていた。

図1. 酸化物と色素分子を組み合わせた可視光駆動型水分解光触媒。

図1. 酸化物と色素分子を組み合わせた可視光駆動型水分解光触媒。

研究成果

前田准教授らはこれまでの研究で、酸化物ナノシート[用語3]KCa2Nb3O10の積層空間に白金(Pt)ナノ粒子[用語4]を内包したナノ構造体を開発し、これが紫外光照射下で効率良く働く水分解光触媒となることを明らかにしていた(参考文献1)。今回、類似組成の酸化物ナノシートHCa2Nb3O10に色素分子としてルテニウム錯体を吸着させたものを水素生成光触媒に用いたところ、酸化タングステン系の酸素生成光触媒とヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)の存在下において、可視光により、水を水素と酸素に完全分解できることを発見した(図2)。さらに、アモルファス[用語5]状の酸化アルミニウムをあらかじめ付着させた、酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートを使用することで、水分解反応が大幅に促進されることを突き止めた。この反応機構をレーザー分光で調べたところ、酸化アルミニウムの存在によって、ヨウ化物イオン(I-)からルテニウム錯体の電子供給過程が高速化されていることが確認され、このことが高活性化に寄与していることが明らかとなった。

最終的な触媒性能を示すターンオーバー頻度[用語6]は1,960(毎時)に、外部量子収率[用語7]は2.4 %(420 nmでの値)に達した。これらの値は、これまでに報告されてきた類似の光触媒系を大きく超え、世界最高値となった。類似の層状HCa2Nb3O10を用いて同様の操作を行っても高活性には至らず、ナノシートの活用が高活性化において不可欠であることもわかった。

図2. 酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートとルテニウム色素を組み合わせた複合材料を水素生成光触媒とした、水の可視光完全分解システム。酸化タングステン系光触媒を酸素生成系に用い、ヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)で水素/酸素生成系間の電子伝達を行っている。

図2.
酸化アルミニウム修飾Pt/HCa2Nb3O10ナノシートとルテニウム色素を組み合わせた複合材料を水素生成光触媒とした、水の可視光完全分解システム。酸化タングステン系光触媒を酸素生成系に用い、ヨウ素系電子伝達剤(I3-/I-)で水素/酸素生成系間の電子伝達を行っている。

今後の展開

これまで、色素増感型光触媒では、色素分子の耐久性や担体酸化物の制約があることから、水の水素と酸素への完全分解が可能な高性能の光触媒を創出することは困難と考えられてきた。今回の前田准教授らの発見により、精密設計されたナノ材料を色素増感型光触媒の部材として活用することで、太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的な機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

今後、可視光吸収を担う色素の分子設計や類似ナノシート材料を検討することで、色素増感型光触媒のさらなる性能向上が見込まれる。本研究成果が、太陽光エネルギー変換を指向した色素増感型光触媒の開発を大きく促進すると期待される。

付記

本研究は米国ペンシルベニア大学のThomas E. Mallouk教授、産業技術総合研究所の佐山和弘博士、三石雄悟博士、物質・材料研究機構の木本浩司博士、柳澤圭一博士、江口美陽博士、新潟大学の由井樹人准教授、本学の石谷治教授、横井俊之准教授のグループとの共同で行った。

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究B「金属酸化物ナノシートと第一遷移金属酸化物ナノ粒子からなる可視光水分解光触媒」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、同 新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、公益信託ENEOS水素基金「エネルギー構造を制御したナノ構造金属酸化物/金属錯体ハイブリッド光触媒による高効率な可視光水素生成」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)等の助成を受けて行った。

参考文献

1.
Takayoshi Oshima, Daling Lu, Osamu Ishitani, Kazuhiko Maeda, Angew. Chem., Int. Ed., 2015, 54, 2698-2702.

用語説明

[用語1] バンドギャップ : 半導体において、電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。電子は伝導帯の下端を、正孔は価電子帯の上端を動く。

[用語2] 励起状態 : 光エネルギー(光子)を吸収した後の分子の状態のこと。光子を吸収する前の状態を基底状態という。

[用語3] ナノシート : ナノメートルオーダーの厚みとマイクロメートルオーダー以上の平面サイズをもった二次元材料の総称。一般的な三次元性の固体とは異なり、柔軟な構造と高い表面積を有するため、複合系の機能材料への応用研究が進められている。

[用語4] ナノ粒子 : ナノメートルオーダーのサイズをもった粒子の総称。一般的なマクロサイズの固体微粒子と比べて大きな表面積をもち、これに起因した特異な物性・機能性を示す。

[用語5] アモルファス : 原子やイオンが不規則に配列している固体。反対に、原子やイオンが三次元的な長距離秩序をもって配列している固体を結晶という。

[用語6] ターンオーバー頻度 : 触媒反応において、単位時間あたりに1個の触媒分子(あるいは活性点)が与える生成物数の最大値のこと。

[用語7] 量子収率 : ある反応系が吸収した光子数に対して、生成物を与えるのに使用された電子数の割合のこと。反射等の理由で反応系が吸収した光子数を厳密に計数できない場合、入射光子の全吸収を仮定して、外部量子収率、またはみかけの量子収率として表される。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society
論文タイトル :
An Artificial Z-Scheme Constructed from Dye-Sensitized Metal Oxide Nanosheets for Visible Light-Driven Overall Water Splitting
著者 :
Takayoshi Oshima, Shunta Nishioka, Yuka Kikuchi, Shota Hirai, Kei-ichi Yanagisawa, Miharu Eguchi, Yugo Miseki, Toshiyuki Yokoi, Tatsuto Yui, Koji Kimoto, Kazuhiro Sayama, Osamu Ishitani, Thomas E. Mallouk*, Kazuhiko Maeda*
DOI :
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東工大DLabが「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」の発表イベントを開催

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東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、人々が望む未来社会とは何かを、社会の一員として、学内外のさまざまな方と広く議論しながらデザインしていくための組織です。2020年1月20日、DLabは「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」を発表しました。

2020年度はこれまでの活動をさらに推進するとともに、「ありたい未来」の実現に向けて取り組んでいきます。

DLabニュース

2020年1月20日、DLabのおよそ1年半にわたる活動から生まれた「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」の発表イベントが、東京・渋谷スクランブルスクエアの「渋谷キューズ」で開催されました。当日は、高校生、大学生、企業・官公庁の方々など100名を超える参加者が集まり、トークセッションやワークショップも行われました。

発表イベントの詳細については、以下の記事をご覧ください。

DLab構成員に聞く「DLabってどんなところ?」

人々が望む未来社会像を多様な視点で議論していくため、DLabには学内外から様々な経歴を持つ構成員が集まっています。なぜDLabの活動に参加することになったのか、今後の活動にどのような期待を持っているのかインタビューしました。構成員の紹介とともに、それぞれが思い描くDLabの姿をご紹介します。(肩書はインタビュー当時のもの)

未来社会DESIGNからACTIONへ:東工大の「行動力」でDLabの活動を一巡させたい

梶川裕矢

DLab Team Imagine(チーム イマジン)所属 梶川裕矢outer
東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系/技術経営専門職学位課程outer 教授

1999年東京大学 工学部 化学システム工学科卒業、2001年東京大学 大学院工学系研究科 修士課程修了、2004年東京大学 大学院工学系研究科 博士後期課程修了。2007年東京大学 大学院工学系研究科 特任講師などを経て、2012年東京工業大学 大学院イノベーションマネジメント研究科 准教授。2016年 東京工業大学 環境・社会理工学院 准教授、2017年より現職。

梶川教授の専門は技術経営学や科学技術政策などで、データ分析や知識工学を用いてイノベーションを創出するための方法論などを研究しています。東工大では主に技術経営専門職学位課程の講義を担当し、研究室に在籍する大学院生のほとんどが、企業での研究開発や事業企画の第一線を担う社会人です。DLabでは創設メンバーとして組織の立ち上げから関わってきました。そんなDLabの生みの親の一人とも言える梶川教授に、DLabの創設や今後の活動への思いについて聞きました。

私はDLabの立ち上げ当初からメンバーとして活動に関わらせてもらってきました。東工大の組織であるDLabが未来社会のあり方を世に提示していくのであれば、学術機関としての知見と洞察に裏づけられた、魅力的かつ説得力のあるものにする必要があります。そのような未来社会像を世に問うていく一方で、東工大は理工系総合大学として全学の方向性が比較的揃いやすく、何より提示した未来社会像を実現するのに欠かせない技術力もある。そうした強みをDLabの活動のなかでも生かしていければと考えてきました。

ここ20年来、世界の学術界では「社会に貢献することは大学の責務」という考え方が強くなっています。もちろん、「自分の選んだ専門分野をとことん突き詰めるなかで、新たな知を発見する」という従来型の研究も重要であることに変わりはないのですが、1割くらいは「人々が望む未来社会をつくるには、どんな技術が必要か」という発想で、新分野を切り開いていく研究があってもいい。そうした研究を大学発で生み出していくことは大学の社会的使命であり、東工大のプレゼンスをグローバルに高めることにもつながっていくはずです。

私は、DLabの活動は、「社会とともに人々が望む未来社会を考え、そこで必要となる技術や政策を検討し、それらを具現化して社会に貢献する」というところまでがワンセットだと考えています。DLabは2020年1月、およそ1年半にわたる活動を経て、未来社会を俯瞰するためのツールとなる「東工大未来年表」と最初の「未来社会像」を発表しました。これは大きな区切りの一つではありますが、社会に貢献するという意味合いでは、本当のチャレンジはむしろここからだと言えるでしょう。

未来社会像の実現や社会への波及効果を考えれば、企業との協力関係もより深めていく必要がありますし、同様の活動を行っている外部組織と連携してもいい。もちろん、東工大内部でも関連した研究開発や実証を進めていくことが大切で、この2020年度からは、未来社会像の実現に繋がる研究などを公募して支援するプロジェクトが開始されます。社会の皆さんとありたい未来を考え、それを具現化して社会に貢献し、さらに多くの方に参加してもらい、大学自身もコミットしてプロジェクト化し、DLabの活動を推進することで、未来社会像の実現に向けて小さくとも確かな一歩を踏み出す。未来社会像を実現する中で社会的評価を受けたり、活動の輪が広がったり、そういったサイクルをどんどん回すためにも、まずはDLabの活動をDESIGNからACTION、REALIZATIONへと一巡させられればと思います。

発想法の探究―未来社会のデザインのために―

鈴木悠太

DLab Buzz Session(バズ セッション)所属 鈴木悠太outer
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院outer 准教授

東京大学 教育学部卒業、東京大学 大学院教育学研究科 修士課程修了、東京大学 大学院教育学研究科 博士課程修了 博士(教育学)。東京大学 特任講師を経て、2017年より現職。主著に『教師の「専門家共同体」の形成と展開―アメリカ学校改革研究の系譜―』(2018年、勁草書房)(2019年日本学校教育学会賞)。

鈴木准教授は、教育学、学校改革研究を専門とし、「学校現場の声を聴き、学校現場から学ぶ」ことを大切にしながら、学校の内側からの改革の発展と支援について研究を進めています。担当する講義は、教職課程の授業や大学院の授業のほかに、東工大の教養教育のコア科目である、「東工大立志プロジェクト」や「教養卒論」の実施にも責任をもって取り組んでいる鈴木准教授に、DLabへの参加のきっかけや活動についての抱負を聞きました。

私がDlabに加わったのは、2017年度に学内で行われた2つの大規模なワークショップへの参加がきっかけとなりました。一つは、学内の理工系・人文社会科学系の研究者が集まって次世代の研究のあり方について話し合うものでした。もう一つは、学生、職員、教員、卒業生の方々が一堂に会して、東工大のより良い未来について話し合うものでした。これらは私にとって東工大の未来を考える上でとても良い機会となりました。特に、大学を、それを取り巻く外側の社会に向けて開くことと、大学の内側を開いていくことの双方の意義を感じました。大学を外側にも内側にも開く、こうした地道な取り組みを継続していくことが、10年、20年先のより良い東工大を準備することだと思いました。そこで、ワークショップの最後の発表の際に、参加者全員に向けて「こうした開かれた対話の機会を継続的に作っていきましょう」と率直な感想を述べたところ、それがきっかけとなり翌年に発足するDLabのメンバーとして声をかけて頂くことになりました。

未来社会をデザインするという営みを東工大がリードして、高校生、学生、職員、教員、そして市民の方々と幅広く対話を重ねながら実行していくというプロセスは、DLabの特徴の一つだと思います。私はDLabの中のBuzz Sessionというチームに所属し、そうした対話の機会をさざ波のように継続して作り出していくことに関わっています。

私がDLabに関わるにあたって着想したことは、かつて東工大の文化人類学の教員であった川喜田二郎先生が開発された「発想法」のアイディアを生かしたいというものでした。川喜田先生はその名が由来の「KJ法」がよく知られており、ワークショップが発展している現代においてKJ法は再び脚光を浴びていると思います。ただし、KJ法は、単に情報を整理したり、ワークショップを進めたりするための手段などではなく、その本質は、川喜田先生も繰り返し述べていた通り「発想法」にあります。つまり、今までに考えついたことのない新しいアイディアを「発想」するのがKJ法なのであり、それはとても困難な作業である、ということです。東工大のDLabにおいて未来社会をデザインする営みにおいて、川喜田先生の「発想法」から今一度私たちが学ぶことは多いと思っています。

私の専門である教育学という学問は、学校のことだけを考えているのではなく、より良い未来の社会を建設するために、学校や教育という営みがあるという視点を大切にしていると思います。その社会のデザインにおいて、「民主主義」は大切な概念であると思います。すべての人々がその社会の主人公である、という社会の在り方を示す概念です。このことについてもDLabの活動の中で考えていきたいことです。

現在、DLabの理念や活動は、東工大の教育においても生かされ始めています。直接的には、DLabのメンバーが担当する学士課程向け授業「未来社会デザイン実践」や大学院課程向け授業「未来社会デザイン論」があります。また、今後は、東工大の教育の伝統でもある教養教育においてもDLabの理念や活動が生かされていくと思います。全東工大生の必修授業である学士課程1年目の「東工大立志プロジェクト」は、まさに自身の志を、実現したい未来社会において構想する授業ですし、5000字から10000字の論文を執筆する学士課程3年目の「教養卒論」では、自らの探究したい主題を未来社会の構想の中で設定し論じるからです。今後も、未来の社会をデザインするという発想が、東工大の研究や教育をより良くし、社会の発展につながっていく道を探っていきたいと思います。

未来を担う当事者とともに未来社会を考える

栁瀬博一

DLab Team Create(チーム クリエイト)所属 栁瀬博一outer
東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院outer 教授

1988年慶應義塾大学 経済学部卒業。日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し、雑誌「日経ビジネス」編集部などで記者や編集者として活動した後、出版局で書籍編集に従事。 日経ビジネスオンラインの事業構築にも参画し、2008年より同媒体のプロデューサー、2012年より「日経ビジネス」「日経ビジネス オンライン」双方のチーフ企画プロデューサーを務める。2018年より現職。

栁瀬教授はメディアの第一線での30年近いキャリアをもとに、メディア論を研究しています。大学では「メディア論」のほか、「教養特論:未来社会デザイン入門」や、社会貢献の視点から東工大での学びを見つめ直す「教養卒論」などの科目も担当し、DLabでは未来社会像を強い説得力を持つように仕上げるTeam Createに所属しながら、社会と広く対話を行うBuzz Sessionの活動にも関わってきました。そんな栁瀬教授に、DLabの特色などを聞きました。

私は2018年4月に東工大に着任するまでは、ずっとメディアの世界で仕事をしてきました。大学ではその経験をもとにメディア論を教えながら、各種対外コミュニケーション活動にも関わっており、DLabにもその一環で参加することになりました。

現在、政府、シンクタンク、企業など、さまざまな組織で未来社会について考える取り組みが進められています。そのなかで、大学の組織であるDLabならではの特徴を挙げるとすれば、「“未来社会”をつくる当事者が関わっている」ことだと言えるでしょう。つまり、高度な科学技術力をもって次世代の社会づくりを担っていこうとする学生が、未来の社会を考える場に加わっているということです。

DLabではワークショップやイベントを通じ、学内外の幅広い方と未来社会のあり方を考えています。理系の学生に対しては、一般に「口下手」や「内気」というイメージを持つ人が少なくないように思うのですが、東工大生は実際に対話の場を用意するとよく話す人が多い。しかも高校生、OB・OG、メディアの人など自分とは異なる立場の人がグループにいると、同世代だけの時より話が盛り上がります。これは新しい発見でした。

科学技術の話を無視して説得力のある未来社会像を描こうとするのが難しい一方で、社会、経済、人々の意識などへの視点が欠けたまま未来社会像を描いても、それは危ういものになってしまいます。ですからDLabでも、多様なバックグラウンドを持つ人々が対話しながら検討を進めることが非常に大切。東工大生にはそうした場を経験しながら、技術と見識をもって未来を築いていく力を高めていってもらえたら嬉しいですね。

ITツールやSNSの普及によって、メディア以外の人も発信手段を手にするようになった今は、あらゆる個人・組織がメディア化した時代だと言えるでしょう。なかでも多くの研究者が新発見に向けて努力を重ね、多彩な一次情報が集積している大学には、メディアとしての大きな可能性と責任があると考えています。DLabでもその自覚を持って、自分たちに何ができて、どんな潜在能力があり、どうすれば社会により貢献できるかをしっかり考え、責任をもって発信し、実行していくことが大切だと考えています。

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お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3619

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