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令和元年度 東京工業大学 学位記授与式挙行 学士課程1,023名、大学院課程1,803名が卒業・修了 式典規模を縮小

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東京工業大学は3月26日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館にて、2019年度(令和元年度)学位記授与式を執り行いました。

令和元年度 東京工業大学 学位記授与式挙行

学位記授与式は卒業生、修了生並びにご家族にとって大切な門出であり、例年通り挙行できるよう検討しましたが、新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の観点からやむを得ず、大幅に規模を縮小しました。

今回の式典は学長式辞のみとし、学士課程は11時から、大学院課程は14時から行いました。また、出席がかなわなかった卒業生、修了生並びにご家族の方にもご覧いただけるよう、式典の様子はYouTube本学公式チャンネルにてライブ配信しました。

学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長

学長式辞でメッセージを贈る益一哉学長

式典では、益一哉学長が英語で式辞を述べ、学士課程の卒業生と大学院課程の修了生、またご家族へのお祝いの言葉とともに、門出のメッセージを贈りました。益学長は、同窓生の例を挙げて、本学で得た知識や技術に加えて、起業家精神を持って新しい道に進むよう、卒業生・修了生に呼びかけました。

2019年度は、学士課程では1,023名(うち留学生49名)が卒業し、大学院課程では修士課程1,591名(うち留学生150名)、専門職学位課程28名、博士後期課程184名(うち留学生50名)の計1,803名が修了し、総計2,826名(うち留学生249名)の卒業生・修了生を送りました。

式典の規模を大幅に縮小したことに伴い、来賓の祝辞や卒業生及び修了生総代の謝辞、在学生の送辞も見送られました。来賓の代表として当日、祝辞を述べる予定だった本学同窓会である一般社団法人 蔵前工業会の石田義雄理事長(1967年理工学部機械工学科卒)から寄せられた、卒業生、修了生のみなさんへのお祝いの言葉を紹介します。

石田義雄理事長

ご卒業おめでとうございます。本来ならばご家族をはじめ、学生生活に縁のあった方々と共に、皆様の門出を盛大にお祝いするところですが、新型コロナウイルスの感染拡大という予期せぬ事態が発生したため、記念すべき学位記授与式が学長式辞のみという形でとり行われることは誠に残念です。皆様は、これから先の人生においても様々な困難に遭遇されるでしょうが、それらに臆することなく希望を持って乗り切っていただきたいと思います。

皆様は、東工大に入学以来充実した学生生活を過ごされたことと思います。

大学時代にご指導いただいた先生方、共に学び、遊んだ同期の仲間、先輩・後輩など同じ大学に籍を置いた方々との人間関係というのは、社会に出てから形成される人間関係とはまた違って、時間が経ってみると大変貴重なものだと感じられます。今後とも同窓の方々との交流を絶やすことなく、人生の有意義な糧とされることをお勧めします。

これから先の進路は、それぞれに違いますが、自らの未来を切り拓き、実りある人生に向けてご活躍されることを祈念いたします。

2020年3月26日
蔵前工業会理事長 石田義雄

今回は例年通りの挙行がかないませんでしたが、本学一同、卒業生、修了生のみなさん並びにご家族のご健康とご活躍を心よりお祈りします。

なお、益学長が述べた式辞は下記のページからご覧いただけます。

お問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp


放送大学『特別講義』に吉田尚弘教授が出演

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系教授で地球生命研究所(ELSI)主任研究者の吉田尚弘教授が、4月10日放送予定の放送大学『特別講義』に出演します。

「分子の履歴を読み解く~地球環境の指標・アイソトポマー~」と題し、アイソトポマーと呼ばれる同位体分子種を計測・解析することで、地球環境のさまざまな物質の起源を探る吉田教授の研究が紹介されます。

吉田教授(左)と聞き手の岩田まこ都さん(右)

吉田教授(左)と聞き手の岩田まこ都さん(右)

計測方法が新たに開発されて、環境中の分子・化合物は「履歴書を持っている」ということが明らかになりました。その履歴書は、アイソトポマーと呼ばれる、一つの化学種を構成する多数の同位体分子種にあります。
例えば、二酸化炭素(CO2)には、2種類の炭素の安定同位体(12C、13C)と3種類の酸素の安定同位体(16O、17O、18O)の組み合わせにより、12種類のアイソトポマーが存在します。そして、その自然存在比は起源を基にして循環経路によって変化するため、これを観測してCO2の起源や履歴を特定することが可能です。
番組では、この原理を使って、温室効果ガスや環境汚染物質の起源や挙動を追跡することの重要性や、地球や生命の起源の解明を目指した研究などについて解説します。

『特別講義』は、学術、文化、芸能、スポーツなど、各界の第一人者を取材し、多彩な専門の世界を紹介する特別番組です。今回の撮影は大岡山キャンパスで行われ、地球生命研究所(ELSI)や、吉田教授の学生時代にまつわる場所が登場します。

現在日本で唯一ELSIに設置されているアイソトポマー計測装置

現在日本で唯一ELSIに設置されているアイソトポマー計測装置

吉田教授のコメント

吉田尚弘教授

全ての元素が同位体の集合体であるように、全ての分子はアイソトポマーの集合体ですが、アイソトポマーはまだ正確に測ることができません。本特別講義は、本学学生当時から挑戦することを夢見てきた、このフロンティア領域の入り口に視聴者の皆様をお連れし、分子の起源から地球環境、地球・生命の起源への応用に誘う「予告編」です。全編キャンパス内の取材で、本学の紹介にもなっています。

番組情報

  • 番組名
    放送大学BS231チャンネル
  •  
    「特別講義 分子の履歴を読み解く~地球環境の指標・アイソトポマー~」
  • 放送予定日
    2020年4月10日(金)20:15 - 21:00(随時再放送予定)

関連リンク

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お問い合わせ先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

出光興産次世代材料創成協働研究拠点を設置 産学融合で新たな価値創造へ

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東京工業大学と出光興産株式会社(トレードネーム:出光昭和シェル、以下「出光」)は、次世代材料の創成を目的として、2020年4月1日(水)に「出光興産次世代材料創成協働研究拠点」(以下「出光協働研究拠点」)を東工大すずかけ台キャンパス内に設置します。

出光興産次世代材料創成協働研究拠点を設置する東工大すずかけ台キャンパス

東工大と出光は、2000年代初頭より高分子材料分野を中心に幅広い領域で共同研究に取り組み、新規繊維・フィルム材料開発をはじめとした優れた成果を上げてきました。今回新設する「出光協働研究拠点」は、これまでの個別共同研究の枠を超え、「組織」対「組織」の連携により大型で総合的な研究開発を推進し、新たな価値創造を目指した次世代材料の創成と人材育成に取り組みます。

「出光協働研究拠点」は、「東京工業大学オープンイノベーション機構」の研究企画から事業化までの支援のもと、高分子分野の基盤技術の強化・拡充と、次世代モビリティ・高速通信などの領域で社会変革を実現する革新的な技術開発に関する研究活動を行います。また、高分子以外の幅広い分野を含むテーマ探索も推進します。なお、高分子関連分野では、高分子構造・物性、成形加工を専門とする東工大物質理工学院の鞠谷雄士教授と出光の代表共同研究員である末次義幸Ph.D. が組織を共同運営します。

東工大と出光は、幅広い分野で高機能材料事業(潤滑油・機能化学品・電子材料・アグリバイオ等)を展開する出光の強みと、物質・材料をはじめとする広い領域にわたり、高度な学術的知見と最先端の科学・工学技術を保有する東工大の強みを融合し、新たな価値創造に挑戦し続けます。

出光興産次世代材料創成協働研究拠点の概要

名称 :
国立大学法人東京工業大学 オープンイノベーション機構協働研究拠点
出光興産次世代材料創成協働研究拠点
場所 :
神奈川県横浜市緑区長津田町4259
東京工業大学 すずかけ台キャンパス
設置時期 :
2020年4月1日(水)
研究題目 :
次世代材料の創出と基盤技術の強化・拡充
拠点長 :
扇澤敏明 物質理工学院 材料系 教授(4月1日より物質理工学院 副学院長・教授)
副拠点長 :
後藤浩樹 出光興産株式会社 次世代技術研究所 所長
研究責任者 :
鞠谷雄士 物質理工学院 材料系 教授(4月1日より物質理工学院 特任教授)
代表共同研究員 :
末次義幸 出光興産株式会社 次世代技術研究所 上席主任研究員

出光興産次世代材料創成協働研究拠点の体制 イメージ図

出光興産次世代材料創成協働研究拠点の体制 イメージ図

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取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

ジェイテクトと革新的基盤技術共同研究講座を開設

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東京工業大学と株式会社ジェイテクトは4月1日、「ジェイテクト革新的基盤技術共同研究講座」を開設しました。

この講座では、高度機構研究及びメカニズム解析とモノづくり工場の根幹を担うスマートモニタリング技術の開発を行います。

(左から)東工大:岩附工学院長、益学長、株式会社ジェイテクト:林田執行役員研究開発本部長、小林R&Dフェロー
(左から)東工大:岩附工学院長、益学長
株式会社ジェイテクト:林田執行役員研究開発本部長、小林R&Dフェロー

東工大工学院の複数の教員とジェイテクトは、複数テーマの共同研究を2年2ヵ月行ってきており、本講座の開設はこの共同研究を発展させたものです。

本講座では、教員、所属学生、共同研究担当教員が人材育成も図りながら、ジェイテクトが自動車部品・軸受・工作機械で培った基盤技術に東工大の叡智を加味し、日本のものづくりを支える根幹技術の革新に貢献します。

本講座の概要

  • 名称
    ジェイテクト 革新的基盤技術共同研究講座
  • 研究実施場所
    工学院
  • 設置期間
    2020年4月1日(水)~2023年3月31日(金)(3年間)
  • 大学代表者
    岩附信行工学院長
  • 共同研究担当教員
    工学院 機械系 岩附信行教授、武田行生教授、情報通信系 篠崎隆宏准教授
  • 共同研究講座教員
    小林恒特任教授、松浦大輔特任准教授
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お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 岩附研究室

E-mail : nob@mep.titech.ac.jp

理論計算による新設計法で凝集誘起発光色素の開発に成功 見たい対象だけ光らせる分子イメージング蛍光色素の自在設計

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要点

  • 化学反応経路を予測する理論計算により、新規な凝集誘起発光色素を開発
  • 光る分子の設計ではなく、光らない反応経路を持つ分子の探索という逆転の発想
  • 理論計算と情報科学の融合による機能性蛍光色素の設計に期待

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の岩井梨輝大学院生、小西玄一准教授、京都大学 福井謙一記念センターの鈴木聡博士、九州大学、大阪大学、仏ナント大学の研究グループは、化学反応の経路を予測する理論計算の方法を用いて、凝集誘起発光色素(以下、AIE色素)を設計・合成することで、溶液中では消光し、固体状態で100%に近い発光量子収率[用語1]を示す色素の開発に成功しました。

AIE色素は、一般的な蛍光色素と逆に、希薄溶液状態では発光せず、固体・凝集状態で強発光する蛍光色素です。この性質を利用して、センサーや分子イメージングなどへの応用が期待されています。研究グループは、励起状態において大きな構造変化を起こすことが知られている蛍光色素スチルベン[用語2]の二重結合のまわりを炭化水素鎖で縛った橋かけスチルベン[用語3]をモデルにして、溶液中で消光する化学反応経路を持つ分子構造を理論計算により探索しました。見つかった色素分子を実際に合成すると、理論計算の予測通りの機能を示しました。

この理論計算による方法は、従来の経験的な構造設計に代わる、AIE色素の簡便かつ強力な設計法であり、今後、情報科学との融合などにより、目的に適合した機能を持つ色素の開発への応用が期待されます。

本研究成果は、ドイツ化学会とWiley-VCHの総合化学雑誌『Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)』Web版に3月26日付で公開されました。

研究成果

溶液中で消光し、固体状態で強く発光する凝集誘起発光(AIE)色素は、分子イメージングや固体発光材料への多彩な応用への期待から、その分子設計法の確立が求められてきました。その中でも理論計算を用いる方法は、もっとも簡便かつ迅速ですが、実在系で計算から合成・物性検討まで行った例はほとんど知られていませんでした。

研究グループは、光を照射すると二重結合のまわりで大きな構造変化を起こすことが知られているスチルベン類に注目し、二重結合のまわりを炭化水素鎖で縛った「橋かけスチルベン」をモデルとしました(図1)。橋かけしていないフェニルスチルベンは、溶液中でも固体中でも強く発光します。この分子骨格をAIE色素にするには、励起された分子が溶液中で失活する(蛍光を放射せずに基底状態に戻る)ようにしなければなりません。

図1. 橋かけスチルベンとその蛍光特性

図1. 橋かけスチルベンとその蛍光特性

この橋かけスチルベンについて、量子化学をベースに化学反応の経路を計算する方法により、ポテンシャルエネルギー曲面[用語4]を算出しました。その曲面の中で、円錐交差(CI)と呼ばれるポテンシャル面の交差点の近くでは失活が起こりやすく、消光の原因となります。そこで、橋かけ部位の長さを変えたスチルベン誘導体について、励起状態の溶液中での性質を計算したところ、橋かけ部位が5および6員環構造の場合(二重結合を強く縛った場合)には、CIが高いため、化学反応は蛍光発光する経路を通るのに対し、7員環構造の場合(二重結合をゆるやかに縛った場合)にはCIが低いため、化学反応の経路がCI付近を経由することから(その付近にねじれた構造の中間体が観察される)分子が失活し、蛍光を放射しないことが予測されました。この結果をエネルギーダイヤグラムで示したものが図2です。

図2. 反応のエネルギーダイヤグラム

図2. 反応のエネルギーダイヤグラム

実際にそれぞれの構造の分子を合成し、光物理的性質を検討したところ、図1に示すように、7員環化合物(n=7)のみが、AIE特性を示しました。またエネルギーダイヤグラムの各状態と、分子分光法から得られたデータがよく一致したことから、理論計算による光物理過程の予測精度が高いことがわかりました。

さらに、橋かけスチルベン(n=7)は、その量子収率が溶液中で0.4%、固体状態で95%以上と、発光のオン・オフをほぼ完璧に行うことができ、サイズが小さく分析対象の形状や物性に大きな影響を与えない非侵襲性があります。

背景

一般的に、蛍光色素は希薄溶液中で強発光し、固体状態になると蛍光が弱くなるか、消光します。しかし、2001年に香港科技大のタン教授(B. Z. Tang)らが発見し、凝集誘起発光(AIE)色素と名付けた色素は、それと正反対の挙動を示します。このAIE色素は分子イメージングや固体発光材料への応用が期待されています。たとえば、癌細胞に吸着した時のみ発光すれば、バックグラウンドなしで癌細胞の位置を蛍光で示すことができます。この20年間で、様々な種類のAIE色素が開発されてきましたが、サイズが大きくかつ構造が複雑なものが多く、合理的な分子設計法も確立されていませんでした。したがって、求める物性を実現するためには、実際に色素を合成して検討するという試行錯誤の繰り返しが必要でした。

研究の経緯

研究グループはこれまで、様々な機能を有する蛍光色素の開発とその応用を行ってきました[文献1]。2015年に色素の原料合成の副産物として、9,10-ビス(ジメチルアミノ)アントラセンがAIE挙動を示すことを発見しました[文献2]。これは発見当初、1段階で合成可能な高性能色素として注目されました。

その後、この蛍光色素のAIE挙動のメカニズムを、実験と理論計算を用いて調べたところ、従来知られていたAIE色素の分子の作動原理である「回転運動の抑制」ではなく、分子が溶液中において、励起状態で劇的な構造変化を起こして失活し、基底状態に戻ることを発見しました。具体的には、ポテンシャルエネルギー曲面の円錐交差(CI)が安定化されるため、反応経路がその近傍を経由して、分子が失活します[文献3]。研究グループでは、この化学反応経路を探索する理論計算によって、分子の発光・消光を予測できるはずだと考えました。本研究では、この理論計算によってAIE色素を設計して、分子を合成し、機能の検証を行いました。

今後の展開

今回の研究では、化学反応経路を探索する方法による、AIE色素の合理的な設計が可能なことを実証しました。反応経路自動探索手法や、情報科学の手法(AIも含む)と融合することにより、求める機能を発揮するAIE色素の開発が迅速に行える時代が到来すると期待されます。また本研究は、反応速度が速く、分光学的に追跡することが難しい内部転換(内部変換)[用語5]における分子の挙動を、理論計算によって解明したものであり、基礎研究の観点からも興味深いものです。さらに、AIEの性質には、励起された分子が溶液中で失活する反応経路が重要な役割を果たしていることが確認できました。

今回用いた設計手法は、AIE色素だけでなく、様々な発光材料の設計や光物理過程の予測・解析に役立ちます。今後の研究では、AIE色素の発光原理の確立を目指しています。同時に、国際共同研究を通して、AIE色素を応用した材料開発を展開していく予定です。

用語説明

[用語1] 発光量子収率 : 分子が1個の光子を吸収した時、光子が蛍光として放出される確率。

[用語2] スチルベン : ベンゼン環が二重結合で連結された分子。Stilbeneの名は、ギリシャ語のstilbein(光ること)に由来する。ここでは、トランス型のスチルベンを扱っている。

スチルベン

[用語3] 橋かけスチルベン : 図1に示すように、二重結合まわりを炭化水素鎖でしばった構造を「橋かけ」と名付けた。

[用語4] ポテンシャルエネルギー曲面 : ある特定のパラメータに対して系のエネルギーを表したもの。分子構造と化学反応のダイナミクスの解析を行うことができる。

[用語5] 内部転換(内部変換) : 分子や原子の高エネルギー準位から低エネルギー準位への遷移のことであり、本研究では励起1重項から基底1重項への遷移を扱っている。

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(研究領域提案型)「π造形科学」「ソフトクリスタル」および日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(さきがけ)などの支援により行われました。

論文情報

掲載誌 :
Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル :
Bridged Stilbenes: AIEgens Designed via a Simple Strategy to Control the Non-radiative Decay Pathway(橋かけスチルベン:無輻射失活経路の制御に着目した凝集誘起発光色素のシンプルな設計戦略)
著者 :
Riki Iwai, Satoshi Suzuki, Shunsuke Sasaki, Amir Sharidan Sairi, Kazunobu Igawa, Tomoyoshi Suenobu, Keiji Morokuma, Gen-ichi Konishi
DOI :

参考文献

[文献1] S. Sasaki, G. P. C. Drummen, G. Konishi, J. Mater. Chem. C 2016, 4, 2731. Open Access [DOI: 10.1039/C5TC03933A outer]

[文献2] S. Sasaki, K. Igawa, G. Konishi, J. Mater. Chem. C 2015, 3, 5940. Open Access [DOI: 10.1039/C5TC00946D outer]

[文献3] S. Sasaki, S. Suzuki, S. W. C. Sameera, K. Igawa, K. Morokuma, G. Konishi, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8194. [DOI: 10.1021/jacs.6b03749 outer]

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お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

准教授 小西玄一

E-mail : konishi.g.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2321 / Fax : 03-5734-2888

京都大学 福井謙一記念研究センター

博士 鈴木聡

E-mail : suzuki.satoshi.8v@kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-711-7708 / Fax : 075-781-4757

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

E-mail : comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-5729 / Fax : 075-753-2094

コバルト酸鉛のスピン状態転移、電荷移動転移を発見 負熱膨張材料などへの応用に期待

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要点

  • 特異な電荷分布を持つペロブスカイト型酸化物コバルト酸鉛
  • 圧力の印加でスピン状態転移と電荷移動転移が生じることを発見
  • 同時に体積収縮を観測、新規負熱膨張材料への期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所の酒井雄樹特定助教(神奈川県立産業技術総合研究所常勤研究員)、東正樹教授、Zhao Pan(ザオ パン)研究員らの研究グループは、「Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3」という他に例のない電荷分布[用語1]を持つペロブスカイト型[用語2]酸化物コバルト酸鉛(PbCoO3)に圧力を印加すると、スピン状態転移[用語3]電荷移動転移[用語4]を生じることを発見した。

この際に体積の連続な収縮も観測されており、実用面では新しい負熱膨張材料[用語5]につながることが期待される。

東教授らは2017年に世界で初めてPbCoO3の合成に成功している。今回の研究成果により、学術はもとより、産業分野でも負熱膨張材料だけでなく新素材として、さまざまな分野での活用につながるものとみられる。

研究成果は2月21日付で米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society(ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー)」オンライン版に掲載された。

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。同図はJournal of the American Chemical Societyの「Supplementary Cover Art」に選出された。

本研究成果をもとに作成されたデザインイラスト。
同図はJournal of the American Chemical Societyの「Supplementary Cover Art」に選出された。

研究グループには東工大の西久保匠、石崎颯人、山本樹、福田真幸、大橋孔太郎、松野夏奈各大学院生、量子科学技術研究開発機構の綿貫徹次長、町田晃彦上席研究員、高輝度光科学研究センターの河口沙織研究員、台湾國家同歩輻射研究中心の石井啓文助理研究員、陳錦明研究員、何樹智助理研究員、に加え、中国科学院物理研究所、独国マックスプランク研究所、仏国放射光施設SOLEIL、英国エジンバラ大学が参画した。

背景

ペロブスカイト型酸化物は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など、多彩な機能を持つため、盛んに研究されている。こうした機能は、3d遷移金属[用語6]が担っており、その価数やスピン状態によって変化する。しかしながら、スピン状態と価数の両方が変化する物質は非常に希(まれ)である。

東教授らは2017年にPbCoO3が図1のPb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3(平均価数はPb3.5+Co2.5+O3)という特殊な電荷分布を持つ新しい化合物であることを発見している。

Co2+d軌道[用語7]の7つの電子が持つスピンのうち、5つが平行、2つがそれらに反平行に揃った、高スピンという状態を持っているため、差し引き電子3つ分の磁化を持つ。それに対し、Co3+は6つの電子のスピンが3つずつ上向き、下向きになっているため、磁化を持たない。

図1. PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の結晶構造

図1. PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の結晶構造

研究成果

今回の研究では、Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3の電荷分布と高スピンのCo2+を持つPbCoO3の圧力下の振る舞いを、大型放射光施設SPring-8[用語8]のビームラインBL12XUでのX線発光分光実験[用語9]高分解能X線吸収分光実験[用語10]、そしてBL22XUでの放射光X線粉末回折実験[用語11]によって詳細に調べた。

その結果、15GPa(ギガパスカル)までの圧力で、高スピン状態のCo2+が、上向きスピン4つ、下向きスピン3つの低スピン状態へと変化し、さらに30GPaまでの間にPb4+とCo2+の間で電荷の移動が起こり、Pb2+0.5Pb4+0.5Co3+O3の電荷分布へと変化することがわかった。高スピン状態から低スピン状態への変化でも、Co2+からCo3+への変化でも、イオン半径が収縮するため、体積の減少が起こる(図2)。

図2. PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の単位格子体積の印加圧力による変化。スピン状態変化、電荷移動転移に伴って、不連続な収縮が観測される。

図2.
PbCoO3(Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3)の単位格子体積の印加圧力による変化。スピン状態変化、電荷移動転移に伴って、不連続な収縮が観測される。

今後の展開

PbCoO3では、圧力を印加することにより、いずれも体積の減少に繋がるCo2+の高スピン状態から低スピン状態への転移と、Pb4+とCo2+の間の電荷移動が起こることが確認できた。今後、PbCoO3に化学置換を施すことで、こうした変化を温度の上昇によって引き起こすことができれば、半導体製造装置のような高精度な位置決めが求められる場面において、熱膨張によるずれを抑制できる負熱膨張の発現も期待される。

用語説明

[用語1] 電荷分布 : 鉛は2価と4価、コバルトは2価、3価、4価を取ることができる。それらの価数の組み合わせ。

[用語2] ペロブスカイト型 : 一般式ABO3で表される元素組成を持つ、金属酸化物の代表的な結晶構造。

[用語3] スピン状態転移 : イオンが持つ電子の総数は変わらないが、上向きの電子スピン(電子が持つ小さな磁石)と下向きの電子スピンの数が変化することで、磁気モーメントやイオン半径が変化すること。

[用語4] 電荷移動転移 : 二つのイオンの間で電子の受け渡しが生じ、それぞれの価数が増減すること。

[用語5] 負熱膨張材料 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する、正の熱膨張を示す。しかし、一部の物質は温めることで可逆的に収縮する。こうした性質を負熱膨張と呼び、熱膨張の効果を打ち消すことができる(ゼロ熱膨張)材料を開発する上で重要である。

[用語6] 3d遷移金属 : 元素周期表の第4周期、スカンジウム(Sc)から銅(Cu)までの金属元素。複数の価数のイオンになることができ、磁性や電気伝導などの機能をもたらす。

[用語7] d軌道 : 内側から3番目の電子軌道。遷移金属元素はs軌道、p軌道がそれぞれ2つ、6つの電子で埋まっており、d軌道を占有する電子の数で性質が変化する。

[用語8] 大型放射光施設SPring-8 : 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
BL12XUは固体の電子状態を10~1,000 meVのエネルギー分解能のX線非弾性散乱により研究、BL22XUは硬X線アンジュレータビームライン。

[用語9] X線発光分光実験 : 物質の電子状態を調べる方法。放射光X線を試料に照射して内殻電子を外核状態に励起し、その励起状態が緩和する際に放射されるX線を分光することで、結合状態やスピン状態に関する情報を得る。

[用語10] 高分解能X線吸収分光実験 : X線発光分光とX線吸収実験を組み合わせて行うことにより従来の一般的に行われているX線吸収実験よりも高エネルギー分解能なX線吸収スペクトルを得る実験手法。高分解のスペクトルを測定することで、より詳細に物質のイオンの価数や配位状態等の電子状態に関する情報を調べることが可能。

[用語11] 放射光X線粉末回折実験 : 物質の構造を調べる方法。放射光X線を試料に照射し、回折X線の角度と強度を調べることで結晶構造(原子の並び方や原子間の距離)を決定する。

付記

本研究は中国科学院物理研究所のZhehong Liu(ゼホン リウ)、Wenmin Li(ウエンミン リー)、Ying Liu(イン リウ)、Xubin Ye(ゾクヒン イエ)、Shijun Qin(シジュン チン)大学院生、Changqing Jin(チャンチン ジン)教授、Youwen Long(ユーエン ロン)教授、独国マックスプランク研究所のStefano Agrestini(ステファノ アグレスティーニ)博士、Kai Chen(カイ チェン)博士、仏国放射光施設SOLEILのFrancois Baudelet(フランソワ ボーデ)博士、英国エジンバラ大学のAngel M. Arevalo-Lopez(エンジェル アルベロ ロペス)博士、J. Paul Attfield(ポール アットフィールド)教授との共同で行われた。

本研究の一部は、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所・有望シーズ展開事業「次世代機能性酸化物材料プロジェクト」(リーダー・東正樹)との共同研究であり、文部科学省・科学研究費助成事業・基盤研究(S)「革新的負熱膨張材料を用いた熱膨張制御」(代表・東正樹東京工業大学教授)、特別推進研究「光と物質の一体的量子動力学が生み出す新しい光誘起協同現象物質開拓への挑戦」(代表・腰原伸也東京工業大学教授)、東京工業大学科学技術創成研究院World Research Hub Initiative(WRHI)プログラムの助成を受けて行った。

論文情報

掲載誌 :
Journal of the American Chemical Society, 139 (2020)
論文タイトル :
Sequential Spin State Transition and Intermetallic Charge Transfer in PbCoO3
著者 :
Zhehong Liu, Yuki Sakai, Junye Yang, Wenmin Li, Ying Liu, Xubin Ye, Shijun Qin, Jinming Chen, Stefano Agrestini, Kai Chen, Sheng-Chieh Liao, Shu-Chih Haw, Francois Baudelet, Hirofumi Ishii, Takumi Nishikubo, Hayato Ishizaki, Tatsuru Yamamoto, Zhao Pan, Masayuki Fukuda, Kotaro Ohashi, Kana Matsuno, Akihiko Machida, Tetsu Watanuki, Saori I. Kawaguchi, Angel M. Arevalo-Lopez, Changqing Jin, Zhiwei Hu, J. Paul Attfield, Masaki Azuma & Youwen Long.
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 東正樹

E-mail : mazuma@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5315、080-4402-5315/Fax : 045-924-5318

神奈川県立産業技術総合研究所 有望シーズ展開事業

常勤研究員 酒井雄樹

E-mail : yukisakai@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5342/Fax : 045-924-5318

高輝度光科学研究センター

研究員 河口沙織

E-mail : sao.kawaguchi@spring8.or.jp
Tel : 0791-58-0802(内線3849)/Fax : 0791-58-0830

量子科学技術研究開発機構
量子ビーム科学部門 放射光科学研究センター

次長 綿貫徹

E-mail : watanuki.tetsu@qst.go.jp
Tel : 0791-58-2629/Fax : 0791-58-0311

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助理研究員 石井啓文

E-mail : h_ishii@spring8.or.jp
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取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975/Fax : 03-5734-3661

量子科学技術研究開発機構 経営企画部 広報課

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Tel : 043-206-3026/Fax : 043-206-4062

有望シーズ展開事業に関すること

神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部

E-mail : aoki@newkast.or.jp
Tel : 044-819-2034/Fax : 044-819-2026

SPring-8/SACLAに関すること

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酵母プリオンタンパク質のアミロイド線維形成を直接観察 関連する病態の解明など多様な波及効果に期待

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要点

  • タンパク質異常のアミロイド線維は多くの病気に関係するが、仕組みが不明
  • 出芽酵母のアミロイドタンパク質のアミロイド線維形成の観察に成功
  • アミロイド線維が関わる病態の解明などさまざまな展開が期待される

概要

東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の奥田桃子大学院生(研究当時博士後期課程3年)、田口英樹教授および金沢大学ナノ生命科学研究所の紺野宏記准教授、中山隆宏准教授、安藤敏夫特任教授らの研究グループは、出芽酵母のプリオン[用語1]タンパク質が多量体やアミロイド線維[用語2]を形成する状況の観察に成功し、今まで不明だったアミロイド線維形成メカニズムの一端を解明することに成功した。

生命活動はタンパク質の機能によって成り立っている。タンパク質は特定の形を形成して働くのが基本だが、老化などの原因で異常な立体構造になることがある。異常構造の一つは「アミロイド」という線維状のタンパク質で多くの病気に関係することが分かっているが、どのような仕組みで線維ができていくのかについて、これまではよく分かっていなかった。

同グループは高速原子間力顕微鏡(高速AFM)[用語3]を用いて、出芽酵母のプリオンタンパク質がアミロイド線維を形成する状況を直接観察した結果、プリオンタンパク質の単量体が立体構造を取らない状態でアミロイド線維末端に結合してからアミロイド線維が伸びることを示唆する結果を得た。

この成果はアミロイド線維というタンパク質の異常状態ができるメカニズムの解明に貢献するとともに、クロイツフェルト・ヤコブ病[用語4]や狂牛病といったプリオン病、アルツハイマー病などアミロイド線維が関わる病気に関する病態解明などさまざまな波及効果が期待できる。

研究成果は3月23日付の「米国科学アカデミー紀要」電子版に掲載された。

背景

生命現象を担うタンパク質はアミノ酸が数珠状につながった鎖である。鎖が特定の形(立体構造)を形成して機能を発揮するのがタンパク質の基本だが、近年、立体構造を形成しない状態(天然変性状態[用語5])のままでも機能する場合があること、いったん形成したタンパク質の立体構造がアミロイドという線維状の異常な凝集状態に変化する場合があることが分かってきた。

アミロイド線維はアルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病などで知られるプリオンなどに代表される多くの神経変性疾患から見つかってきたが、病気に関係しないアミロイド線維も知られている。その一例が、酵母プリオンタンパク質が形成するアミロイド線維である。

パンやビールなどを作る際に使われる出芽酵母は生命科学研究のモデル生物の一つで多くの研究がなされている。出芽酵母の中にアミロイドを形成するタンパク質が10種類以上見つかっており、酵母プリオンタンパク質と呼ばれている。哺乳類よりも単純な単細胞生物でのプリオン研究はアミロイドやプリオンのよいモデルとしてこれまで多くの研究が進められてきたが、アミロイド線維がどのように伸びていくのかに関して詳細な分子機構は不明のままだった。

研究成果

同研究グループは酵母プリオンタンパク質がどのようにアミロイド線維を形成するかを、代表的な酵母プリオンタンパク質である「Sup35」で研究した。線維形成の観察は高速原子間力顕微鏡(高速AFM)というタンパク質一個一個の動きを直接捉えることが可能な装置で行った。その結果、酵母プリオンタンパク質が形成する多量体の動態やアミロイド線維の伸長の様子を、0.05秒程度の時間分解能かつ0.1 nm(ナノメートル)程度の空間分解能で観察することに成功した(図1)。

図1.酵母プリオンタンパク質が形成するアミロイド線維が伸びる様子の高速AFM観察

図1.酵母プリオンタンパク質が形成するアミロイド線維が伸びる様子の高速AFM観察


A. 高速AFMで観察した酵母プリオンタンパク質Sup35のアミロイド伸長の様子。600秒おきに観察。
B. Aの点線で囲った1の領域のみを抜き出して、より高い時間分解能で観察したスナップショット。白色の矢頭は線維が分断した部分を示す。
C. Aの点線で囲った2の領域を抜き出して、時間ごとに並べた図。黒色の矢頭は線維が分断した部分を示す。

さらに、アミロイド線維が伸びる際に、立体構造を形成していない天然変性状態のタンパク質が線維末端に結合してからアミロイドになることを示唆する結果を得た。これらを総合して、酵母プリオンタンパク質がどのようなメカニズムで多量体やアミロイド線維を形成するのかについての新たなモデルを提案した(図2)。

図2.酵母プリオンタンパク質が作る多量体とアミロイド線維の形成機構のモデル

図2.酵母プリオンタンパク質が作る多量体とアミロイド線維の形成機構のモデル


単量体(赤)は直径約1.7 nmの多量体を経て直径約3~4 nmの多量体になる。その一方、単量体は天然変性状態でアミロイド線維(青)の末端に結合したのちに構造変換して線維の一部となり、線維が伸長する(オレンジ)。

今後の展開

アミロイド線維が関わる病気は先に挙げたアルツハイマー病やクロイツフェルト・ヤコブ病以外にも多岐にわたる。これらアミロイド線維が関わる病気についてこれまで多くの研究がなされてきたが、現状では根本的な治療薬がなかった。その理由の一つとして、アミロイド線維の形成機構がいまだに十分分かっていないことが挙げられる。

今回の研究は、アミロイド線維になる前のタンパク質がどのような状態にあるのかについての新たな知見を含んでいる。このため、アミロイド線維というタンパク質の異常状態が形成されるメカニズムの解明に貢献するとともに、クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病といったプリオン病やアルツハイマー病などアミロイドが関わる病気に関する病態解明、さらには創薬などへの波及効果が期待できる。

論文情報

掲載誌 :
Proceedings of the National Academy of Sciences of United States of America(米国科学アカデミー紀要)
論文タイトル :
Dynamics of oligomer and amyloid fibril formation by yeast  prion Sup35 observed by high-speed atomic force microscopy(高速原子間力顕微鏡による酵母プリオンSup35が形成する多量体、アミロイド線維形成の動態)
著者 :
Hiroki Konno*, Takahiro Watanabe-Nakayama*,Takayuki Uchihashi, Momoko Okuda, Liwen Zhu, Noriyuki Kodera, Yousuke Kikuchi, Toshio Ando and Hideki Taguchi(*は共筆頭著者)
DOI :

用語説明

[用語1] プリオン : タンパク質性の感染因子のことで、クロイツフェルト・ヤコブ病や狂牛病など哺乳類の神経変性疾患研究から見つかってきた。プリオンでは何らかの原因で生じた異常型構造(アミロイド線維)のタンパク質が自己触媒的に正常型を異常型に変換しながら増殖する。この増殖サイクルを起こすタンパク質は哺乳類ではPrPとして知られているが、出芽酵母にはPrPと関係のない10種類以上のタンパク質が「プリオン」になることが分かっており、その代表例がSup35という今回の研究で用いているタンパク質である。
哺乳類のプリオンは重篤な病気として知られているが、酵母のプリオンではアミロイド線維ができた細胞は、必ずしも病気になって死ぬわけではなく、生育環境によってはアミロイドを持たない細胞より生育が有利になる場合がある。そのため、酵母プリオンは遺伝子型によらない多様性獲得に役立っていると考えられている。

[用語2] アミロイド線維 : アミロイドとは分子間でβシートが規則正しく重合したタンパク質の線維構造のこと。通常タンパク質はある特定の立体構造を形成して機能を発揮するが、アミロイド線維では、その立体構造とは全く異なる構造状態となる。

[用語3] 高速原子間力顕微鏡(高速AFM) : 原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy: AFM)は探針と試料の間に働く原子間力を元に分子の形状をナノメートル(10-9 m)程度の高い空間分解能で可視化する顕微鏡。高速AFMは金沢大学の安藤敏夫特任教授のグループによって開発された超高速で観察できるAFMで、サブ秒(~0.1秒)という時間分解能でタンパク質などの生体分子の形状や動態を観察することできる。

[用語4] クロイツフェルト・ヤコブ病 : ヒトの脳内にプリオンタンパク質のアミロイド構造が沈着し、脳の機能に障害が起こる致死性の病気。どのような作用機序でアミロイドが増殖して発症に至るのかよく分かっておらず、治療法はまだない。

[用語5] 天然変性状態 : 従来、タンパク質はαヘリックスやβシートなどの2次構造を単位とした特定の立体構造を形成して機能を発揮するのが原則と考えられていた。しかし、近年ではタンパク質によっては、自身のアミノ酸配列では特定の立体構造を取ることができず、フラフラとした変性状態で機能を発揮する例が多数知られるようになっている。このように、タンパク質のそもそもの性質として立体構造を取ることができずに変性している状態を天然変性状態と呼ぶ。生物情報学的解析からは真核生物に存在するタンパク質の約3割は天然変性状態を有する領域を持つことから、天然変性状態は決して例外ではない。また、天然変性状態になるタンパク質の一部はアミロイドを形成することも知られている。

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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター

教授 田口英樹

E-mail : taguchi@bio.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5785

金沢大学 ナノ生命科学研究所 准教授

准教授 紺野宏記

E-mail : hkonno@se.kanazawa-u.ac.jp
Tel、Fax : 076-264-6275 / 076-264-5739

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

金沢大学 総務部 広報室

E-mail : koho@adm.kanazawa-u.ac.jp
Tel : 076-264-5024 / Fax : 076-234-4015

大蒸発の果てに小さな衛星群が残る 天王星の衛星形成を再現する理論モデルを構築

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要点

  • 天王星が軌道面から98度傾いて自転、衛星の軌道面も同様に傾いて回る謎。
  • 天王星への巨大衝突で大蒸発がおこることに注目し、質量、軌道分布を説明する衛星形成の新モデルを構築。
  • モデルは海王星や太陽系外の氷を多く含む惑星の新たな標準モデルとなり得る。

概要

東京工業大学 地球生命研究所の井田茂教授は、京都大学の上田翔士研究員(現・神戸大学 大学院理学研究科 学術研究員)、佐々木貴教助教、大学院理学研究科の石澤祐弥大学院生(博士後期課程2年)と共同で、天王星[用語1]の衛星の起源を理論的に研究し、新たな衛星形成モデルを作成することに成功した。

研究チームは、天王星への巨大衝突で大蒸発がおこって水蒸気円盤が形成され、その円盤が衛星の材料になる氷が再凝縮するまで冷却される過程を精密に調べることで、現在の天王星の衛星群の分布が見事に再現される理論モデルを構築した。これは、これまで議論されてきた地球型惑星や木星型惑星の衛星形成とは全く異なり、天王星のような氷惑星に対する新しい理論モデルである。

巨大衝突を考えると天王星の衛星の傾いた軌道は説明可能だが、これらが天王星から遠くまで分布し、総質量が天王星の1万分の1しかなく、大きい衛星が外側に偏っていることは、今までは全く説明できず、天王星衛星の起源は大きな謎とされていた。

研究成果は2020年3月30日付(英国時間)の国際学術誌「Nature Astronomy(ネイチャー・アストロノミー)」に掲載された。

背景

太陽系の多くの惑星では自転軸が軌道面にほぼ直立している。ところが、天王星は自転軸が98度傾いて、ほぼ横倒しである。天王星は5つの主要衛星を持っているが、これら衛星の軌道面も天王星の自転軸に垂直に傾いていて、天王星の自転と同じ方向(順行)に回っている。

大蒸発の果てに小さな衛星群が残る―天王星の衛星形成を再現する理論モデルを構築―

天王星は地球の15倍の重さで氷を主成分にした惑星だが、そこに地球質量の1~3倍の惑星が衝突すると、天王星を98度傾けることが可能である。その衝突の破片が再集積して衛星が形成するのが巨大衝突説である。一方で、天王星はその質量の10 %くらいの水素・ヘリウムのガスを纏(まと)っており、そのガスを取り込むときに一時的に形成されたガス円盤の中で氷が凝縮して衛星が集積するとする円盤説もある。巨大衝突説は地球の月形成、円盤説は木星のガリレオ衛星(ガリレオ・ガリレイによって発見された木星の4つの衛星)形成の標準モデルになっている。

巨大衝突説では、自然に98度傾いた軌道の衛星が形成される利点があるが、自身の10~20 %もの質量の原始惑星の巨大衝突では、地球の月の場合と同じように、本体の1 %程度の比較的大きな質量の衛星が形成可能な破片円盤が生まれる。ところが、天王星の衛星の総質量は天王星質量の0.01 %しかない。一方、円盤説では小さい衛星の形成が可能である。実際、木星のガリレオ衛星の総質量は木星質量の0.01 %で、その点は有利だが、98度傾いた順行軌道の衛星が作れない。

このように天王星の衛星たちがどのようにしてできたのかは大きな謎だった。

研究成果

研究チームは、天王星の主成分が氷であるため、衝突で作られるのは固体の破片円盤ではなく、完全に蒸発した水蒸気円盤であることに気づいた。この円盤は拡散して、広がりながら内側の水蒸気は天王星に落ち込んでいくが、水蒸気は熱がこもるので、その円盤で衛星の材料になる氷が再凝縮するには、円盤の半径が10倍も広がり、もとの円盤の99 %もの質量が天王星に落ち込まければならないことを精密な計算により発見した。

巨大衝突では惑星のすぐ近傍に円盤ができる。地球の月は重いので、地球のすぐそばで集積しても、その後の45億年で地球との重力相互作用でだんだん遠ざかっていくが、天王星の衛星は軽いのでほとんど遠ざからない。つまり、衝突直後の円盤から衛星ができると、実際の衛星軌道より遥かに内側の天王星半径の数倍のところに衛星ができることになるので、これも大きな謎だった(下図参照)。特に天王星では重い衛星が外側(天王星半径の15~25倍)に偏っている。

大蒸発の果てに小さな衛星群が残る―天王星の衛星形成を再現する理論モデルを構築―

これに対し、研究チームは、円盤が薄く広がったあとに氷が再凝縮するので、氷の分布は現在の衛星軌道に一致することを発見した。円盤がある一定の薄さになったら氷が凝縮するので、最初にどのような蒸気円盤ができるのかにはあまり依存しないで、氷の分布が決まる。

予測した分布から微小氷天体群の衝突合体のコンピュータ・シミュレーションを行うと、実際の天王星衛星の分布に極めて近い衛星群ができることも示された。大蒸発の果てに残った1 %の物質から小さな衛星群が残るのである。

この理論モデルは、巨大衝突をもとにするのだが、地球の月形成とは全く異なる。地球は岩石を主成分とし、破片円盤は蒸発してもすぐに岩石は再凝縮し、月は最初の破片円盤の分布、つまり、どのような巨大衝突が起こるのかで決まる。しかし、氷衛星ではそうではなく、蒸発円盤がどのように冷えていって、どのように薄く広がるのかで決まることがわかった。これは地球型惑星や木星型惑星の衛星形成とは全く異なる、天王星のような氷惑星に対する全く新しい理論モデルで、海王星、太陽系外の氷を多く含むスーパーアース[用語2]など、氷を主成分とする惑星に一般的に適用できる衛星形成の新たな標準モデルとなり得るのである。

用語説明

[用語1] 天王星 : 太陽系の内側から7番目の惑星。内部は主に氷で構成され、中心に岩石のコアを持つ。惑星全体質量は地球の15倍程度。大気はそのうちの10 %くらいで、主成分は水素である。大気に少量含まれるメタンが赤色光を吸収するため、天王星は青色に見える。太陽系惑星の中で唯一横倒しで自転している。

[用語2] スーパーアース : 太陽系外惑星のうち地球の数倍程度の質量を持ち、かつ主成分が岩石、金属、氷などの固体成分と推定された惑星のこと。

論文情報

掲載誌 :
Nature Astronomy(ネイチャー・アストロノミー)
論文タイトル :
Uranian Satellite Formation by Evolution of a Water Vapor Disk Generated by a Giant Impact
著者 :
Shigeru Ida, Shoji Ueta, Takanori Sasaki and Yuya Ishizawa
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)

教授 井田茂

E-mail : ida@elsi.jp
Tel : 03-5734-2620

京都大学 大学院理学研究科

助教 佐々木貴教

E-mail : takanori@kusastro.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-3892

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

京都大学 総務部 広報課 国際広報室

E-mail : comms@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp
Tel : 075-753-5729 / Fax : 075-753-2094


高分子電解質のシャボン玉を使ってEUV(極端紫外線)発生に成功 コンパクトな量子線源となることを期待

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要点

  • 高分子電解質の「シャボン玉」を鋳型にしてスズ薄膜球を作成、レーザーを照射してEUV発生に成功
  • EUV発生高効率化に不可欠な極低密度スズを信頼性高く、安価に合成
  • 現在の13.5 nm光だけでなく、次世代の6.x nm光や他の量子線発生にも適用可能なレーザー用ターゲット

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の長井圭治准教授、クリストファー マスグレイブ特任助教(現 ユニバーシティ カレッジ ダブリン)、庄司俊太郎大学院生の研究グループは、高分子電解質[用語1]を界面活性剤として用いたシャボン玉を鋳型として、レーザーの低密度ターゲットとなるスズ薄膜球を作成することに成功した。使用したスズの量は、シャボン玉1個あたり4.2 ナノグラムと少なく、原子数、サイズの制御性も高い。実際にレーザーを照射すると、金属スズと変わらない13.5 ナノメートル(nm)の極端紫外線の発光を確認できた。

高分子電解質の泡は、いわば極めて安定なシャボン玉であり、大量の製造に適している。今回開発した手法は、原理的にはスズだけでなく、他の元素にも適用できるため、レーザー式では開発が困難と考えられている6.x nmの光源や、がん治療などに用いられている炭素イオンビーム用のターゲットなどにも展開が可能である。

近年、高強度レーザー[用語2]の開発が進む一方で、レーザーの標的(ターゲット)の開発が遅れており、特に極低密度で、大量製造が可能な、安価なターゲットが求められている。本手法はこれらの条件を満たすものであり、その発展が見込まれる。

本成果は2020年4月3日付の『Scientific Reports』電子版に掲載された。

背景

今世紀に入って、高強度レーザーの高出力化、高繰り返し化、低価格化が急速に進んでいる。こうした高強度レーザー技術を応用した量子線源の研究開発も盛んになり、EUでは大型レーザー施設の建設ラッシュが続いている。こうした高強度レーザーを集光して物質に照射すると、高温高密度状態を作ることが可能であり、この状態からは電子、イオン、X線などの量子線が高輝度に発生する。こうした方法は、レーザープラズマ方式と呼ばれる。レーザーのターゲットとしては、低密度材料の方が吸収の効率が良いため、軽石のように穴の多い多孔質材料がしばしば用いられる。

このような大型加速器のコンパクト化を目標とした研究開発の一方で、レーザープラズマ方式の初の社会実装として、これよりも出力が弱いレーザーを用いた、13.5 nmの光源による半導体集積回路の製造が始まった。13.5 nmという波長は、X線よりもやや長波長の極端紫外線(Extreme Ultraviolet)[用語3]の範囲にあり、昨年のSamsungのEUVリソグラフィーへのレジスト供給の問題でも記憶に新しい。

現在実用化されているEUV光源では、液体金属スズにプレパルスを照射して低密度化させている。開発段階では、この低密度化のプロセスで確実性の問題が生じ、光源開発が大幅に遅れた経緯がある。また次世代の6.x nm光源で用いられるガドリニウムは、高融点で液体金属化が困難であり、大型加速器によるリソグラフィーが提案されている。

こうした背景から、研究グループでは長年にわたり、レーザーターゲット用の低密度材料を開発してきたが、その製造コストや大量生産性に課題があった。

研究成果

本研究では、シャボン玉という、容易かつ大量に製造できる低密度構造に着目した。シャボン玉の界面活性剤として高分子電解質を用いることで、安定性を向上させ、これを鋳型とすれば、レーザーターゲットとなる極低密度材料の大量生産を低コストで実現できることを示した。

このシャボン玉にスズナノ粒子を被覆して低密度スズ膜を形成させ、さらに重ね塗りしてスズの被覆量を増やした。こうして作成したスズ薄膜球を乾燥させたのちに、ネオジムヤグレーザーを照射した。その結果、最新の半導体リソグラフィーに用いられている13.5 nmの発光を確認することができ、発光量についても、金属スズにレーザーを照射した場合と同レベルを達成できた。

図1.

図1. ダブルパルス法(左)と今回用いたシャボン玉ターゲット(右)

今後の展開

今回新たにシャボン玉を鋳型として作成された低密度スズ薄膜球のターゲットと、レーザーを組み合わせれば、コンパクトな13. 5 nmの光源ができる(ただし、リソグラフィーに用いるほどの高繰り返しには、デブリ除去などが技術的な課題である)。 さらに次世代の6.x nm光源の実現、さらに短い波長であるX線の高輝度化、がん治療用の炭素イオンビーム発生装置のコンパクト化も期待される。国内外の大型レーザー施設と共同研究も進めたい。

付記

本研究は、文部科学省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス事業」等の助成を受けて実施した。

用語説明

[用語1] 高分子電解質 : 塩水や石けん水は電解質であり、電気を通す。これをプラスチック材料のような高分子にすると、薄膜化や固体化が容易となるため、多くの分野で応用されている。本研究では、シャボン玉の安定化のために高分子電解質を用いるため、LbLという技術を応用した。

[用語2] 高強度レーザー : レーザーはその原理上、無限小に集光することができる。世界的に進められている、レーザーの高強度化に向けた挑戦は、高強度に耐える材料が開発できるかどうかにかかっている。2018年には、パルス圧縮技術を発明したムル教授らにノーベル賞が授与された。またこれらの技術によって、レーザーの高出力化のみならず低コスト化も急速に進んでいる。THALESouter

[用語3] 極端紫外線(EUV) : 紫外線の中でもX線に近い短波長の光である。空気を含むほとんどの物質に吸収されるため、かつてはごく一部の研究者しか用いることがなかった。集積回路の微小化にともない、EUV光源の開発が久しく求められ、低密度のスズにレーザーを照射すれば良いことが、2003年ごろに明らかになったが、実用化するにはスズの低密度化とそのデブリ回収技術を成熟させる必要があった。昨年来、この低密度のスズターゲットが実用化され、半導体生産に本格的に用いられている。EE Times Japanouter

13.5 nm光源の次は6.x nm光源の開発が期待されているが、レーザープラズマ方式による6.x nm光の発生は原理実証段階にとどまっている。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Easy-handling minimum mass laser target scaffold based on sub-millimeter air bubble ―An example of laser plasma extreme ultraviolet generation―
著者 :
Christopher S. A. Musgrave, Shuntaro Shoji, and Keiji Nagai
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

准教授 長井圭治

E-mail : nagai.k.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5266

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

学士課程新入生特別チームを結成~新入生Welcome相談窓口を開設~

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東京工業大学は4月1日、学士課程新入生を様々な面からサポートするために「学士課程新入生特別チーム」を結成しました。そしてこのほど、「新入生Welcome(ウェルカム)相談窓口」を開設しました。

学士課程新入生特別チームを結成~新入生Welcome相談窓口を開設~

新入生の気持ちに寄り添ったサポートを提供

新型コロナウイルスの感染拡大にともなう社会状況の急激な変化の中で、4月に入学した新入生、特に学士課程の新入生は、大学という新しい学びの場(世界)に入ってきました。平常時であっても、新入生は高校から大学という環境の変化に大きな戸惑いや不安を抱えています。

そこで、大学における学修や学生生活に関わるサポートのみならず、精神的なケアまでも含めて、様々な面で新入生のサポートを行うために、「学士課程新入生特別チーム」を結成しました。また、特別チームのもとに「新入生Welcome相談窓口」を開設し、次の7つのサポートチームで相談を受け付けています。

  • 情報サポートデスク
  • Zoomサポートデスク
  • 教務サポートデスク
  • 生活サポートデスク
  • 文系教養サポートデスク
  • 理工系教養サポートデスク
  • 学院別サポートデスク

各チームの連絡先や利用方法などの詳細は以下のページをご覧ください。

東工大では、特別チームのもとで新入生がスムーズに大学生活をスタートできるように、また、入学時に抱く希望を失うことなく、将来、その希望を花開かせることができるように、新入生の気持ちに寄り添ったサポートを提供します。

お問い合わせ先

学務部 学生支援課

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp

加藤雅治名誉教授が日本鉄鋼協会西山賞、中田伸生准教授が西山記念賞を受賞

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一般社団法人日本鉄鋼協会は1月21日、東京工業大学の加藤雅治名誉教授に2020年の学会賞(西山賞)を、また物質理工学院 材料系の中田伸生准教授に2020年の学術記念賞(西山記念賞)を授与すると発表しました。授賞式および記念講演は、3月17日、日本鉄鋼協会第179回春季講演大会で行われる予定でしたが、新型コロナウイルス感染症対策のため中止となりました。

日本鉄鋼協会は1915年に設立された鉄鋼に関する学会です。学会賞(西山賞)は「鉄鋼に関する学術,技術の研究に卓越した功績のあった会員」を、また、学術記念賞(西山記念賞)は「鉄鋼に関する学術、技術の研究に多大の功績のあった会員」を毎年、表彰しています。ともに西山彌太郎氏(1893-1966、元川崎製鉄株式会社社長)の功績を記念した表彰であり、賞状およびメダルが贈呈されます。

学会賞(西山賞)加藤雅治名誉教授の受賞題目

金属材料の組織と力学特性の基礎研究

学術記念賞(西山記念賞)中田伸生准教授の受賞題目

鉄鋼組織の内部応力に関する研究

今回の受賞について中田伸生准教授は次のようにコメントしています。

学術記念賞(西山記念賞)を受賞した中田准教授
学術記念賞(西山記念賞)を受賞した中田准教授

この度、日本鉄鋼協会の学術記念賞(西山記念賞)を受賞させていただき、大変光栄に存じます。受賞題目である「鉄鋼組織の内部応力に関する研究」は東京工業大学に着任してから大きく前進した研究です。研究をご指導いただいた先生方ならびに一緒に実験に携わってくれた同僚、共同研究者、学生諸君に心から感謝申し上げます。

アイザック・ニュートンが、ペストの大流行から逃れるため、故郷への避難を余儀なくされましたが、そこで過ごした約20カ月の間に彼の偉業の大半を生みだしたことは「創造的休暇」として非常に有名な話です。

新型コロナウイルスの影響で学内外ともに「大変」な状況ですが、「大きく変える」チャンスと捉え、一層、教育・研究活動に邁進します。

鉄の中にナノスケールで微細に分散する炭化物の内部応力状態を示す実験結果とこれを模擬する原子シミュレーション

鉄の中にナノスケールで微細に分散する炭化物の内部応力状態を示す実験結果とこれを模擬する原子シミュレーション

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お問い合わせ先

物質理工学院 材料系 准教授 中田伸生

E-mail : nakada.n.aa@m.titech.ac.jp

伊藤亜紗准教授が「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞 「真摯な探究心とやわらかく開かれた文章」に期待して

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東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター長でリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が、2020年の第13回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞したと、賞を主催する特定非営利活動法人(NPO法人)「わたくし、つまりNobody」が1月31日、発表しました。表彰式と記念講演会は3月3日、出版クラブ(東京都千代田区)で行われ、記念メダル「メビウスの輪」と副賞100万円が伊藤准教授に贈られました。

表彰式で「言葉と体」と題した記念講演を行った伊藤准教授 ©吉永陽一

表彰式で「言葉と体」と題した記念講演を行った伊藤准教授 ©吉永陽一

「わたくし、つまりNobody」によると、この賞は、日本語による「哲学エッセイ」を確立し、2007年に亡くなった文筆家、池田晶子さんの意思と業績を記念し、2008年に創設されました。賞の趣旨は「ジャンルを問わず、ひたすら考えること、それを言葉で表わし、結果として新たな表現形式を獲得しようとする人間の営みに至上の価値を置くものです。考える日本語の美しさ、その表現者としての姿勢と可能性を顕彰し、応援してゆこうとするものです」と説明されています。

NPO法人の会員が推薦した候補者や、自薦の応募者から、会員の選考メンバーが賞にふさわしい人物を毎年1人、選びます。

伊藤准教授の受賞理由(NPO法人「わたくし、つまりNobody」による)

「体」という「内なる他者」と、どう向き合うか。

肥大する情報空間の中で身体性が希薄化していく現在、ますます重要度が高まる問いです。

伊藤亜紗氏が近年取り組んでいるのは、障害ゆえに自らの「体」と独自の関係を作り上げてきた人たちの「言葉」を手掛かりに、私たちが自明と思いなしている「自分」とは何か、「世界」とは何かを、根源から問い直す試みです。

未知なる世界認識の可能性に向けて、真摯な探究心とやわらかく開かれた文章で迫る伊藤氏のさらなる展開に期待し、当賞を贈ります。

伊藤准教授のコメント

伊藤准教授
伊藤准教授

敬愛する文筆家、池田晶子さんを記念した賞をいただけたことは、これ以上ない光栄です。これまで一緒に研究をしてくれた障害のある方々や共同研究者、編集者のみなさんに、心からのお礼を言いたいです。体について研究をしてきた私なので、「わたくし、つまりNobody」ではなく、「わたくし、そしてEverybody」のつもりで、世界中のすべての人が当事者である体をめぐる問いに、少しでも貢献していきたいと思います。

賞の名前について

賞の名前について「わたくし、つまりNobody」は次のように説明しています。

この風変わりな賞の創設と名前は、2007年春にこの世を去った、文筆家・池田晶子とその一作品名「わたくし、つまりNobody」に由来します。

彼女は、いつも次のような考え方を示唆しています。

考えているその時の精神は、誰のものでもなくNobody。

言葉は誰のものでもないけれども、それが表現されるためには、誰かの肉体を借りるしかない、そうして現われてくる言葉こそが、人の心を捉え、伝わってゆく……。

大事なのは「誰が」ではなく、誰かによって発せられた「言葉」が、次の時代の人々に引き受けられて、我々の「精神のリレー」が連綿と続いてゆくことである、と。

この賞は、自身もそのように仕事を続けたひとりの文筆家の発想に始まっています

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お問い合わせ先

科学技術創成研究院 未来の人類研究センター

E-mail : fhrc@ila.titech.ac.jp

学院長、研究院長 就任挨拶

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4月1日付で就任した学院長、科学技術創成研究院長からの挨拶をご紹介します。

工学院長 植松友彦

工学院長 植松友彦

工学は、ものづくりによって文明に貢献する学問です。ものづくりといっても、小さなトランジスタから、大規模集積回路、携帯電話、自動車、ロボット、製造機械、そして航空機や宇宙船まで、更にはネットワーク管理や生産管理などのマネジメントも工学院の範疇です。自由な発想によって頭の中に浮かんだアイデアを実現することがものづくりの本質であり、アイデアを実現するための方法論である技術を体系化し、次世代に教授することが工学院の目指すところです。工学院は、世の中を便利にし、資源を有効に活用し、人々のくらしや社会を豊かにする技術を探求することで、持続可能な社会に貢献していきます。

物質理工学院長 須佐匡裕

物質理工学院長 須佐匡裕

物質理工学院では、化学変化を操り、物質や材料にさまざまな新たな機能を与える原理や手法について研究しています。本学院には、材料系および応用化学系という2つの系があり、多様な研究分野において、世界を先導する研究を行っています。そのような研究を通して、将来の物質・材料開発を主導できる研究者・技術者の育成を目指しています。

人類はこれまで、実に多くの物質や材料をつくってきました。その中には、毒ガス兵器としても使われる悪もありました。私たちはそういうものをつくってはいけません。また、ある物質は有用な材料として開発されましたが、後に人々や自然界にとって非常に有害であることが分かったものもあります。PCBやフロンガスなどはその例です。私たちは同じ過ちを繰り返してはなりません。

物質理工学院では、新しい物質と材料とそれらの製造プロセスを創りだす研究を行っていますが、高い倫理観をもって臨まなければなりません。私たちは、地球環境と調和する、新しい物質文明の創造を目指します。

生命理工学院長 近藤科江

生命理工学院長 近藤科江

生命理工学院では、130人に及ぶ教授、准教授、講師、助教の教員陣が生命理工学に関連した約70の研究分野を構築し、フロンティア研究を展開しています。本学院では、ライフサイエンスとテクノロジーに関する幅広い専門的知識を学び、世界最高レベルの研究や開発を推進し、新たな科学技術を創造する能力を発揮できる生命系理工学人材の育成を目指します。

科学技術創成研究院長 久堀徹

科学技術創成研究院長 久堀徹

今、東工大と言わず、世界に新型コロナウイルスによるパンデミックという大波が押し寄せています。この先、世界は、日本はどうなるのか、という大きな心配を抱えてしまった年に、科学技術創成研究院長を拝命致しました。まさに身の引き締まる思いです。

今回の新型コロナウイルスは、順調に成長してきたグローバル社会の在り方を一変させ、これから、経済や社会全体にこれまで私たちが経験したことのない大きな変革をもたらすものと思います。そのような極めて困難な時代に直面している私たちは、新規の研究分野の開拓や融合分野研究の促進が極めて重要なミッションと謳われている科学技術創成研究院において、今後変革していく社会にどんな貢献ができるかを真剣に考えなくてはなりません。

それは、病気の治癒を目的とした医学研究ではなくて、今後も必ず我々人類を攻撃してくるであろう新たなウイルスの脅威への対抗措置であったり、簡便な検査技術の開発であったり、あるいは、感染拡大を防ぐ様々なシステムの開発かもしれません。科学技術創成研究院には、基礎科学研究から応用研究まで、幅広い分野で活躍する人材が集まっています。難しい時だからこそ、我々は必ず多方面に大きな力を発揮できるものと思います。どうぞご期待ください。

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4月15日 17:00 本文を一部訂正しました。

グローバル理工人育成コース シンポジウム2020 開催

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東京工業大学は「科学・技術の力で世界に貢献する人材」を育成する教育カリキュラム「グローバル理工人育成コース」を2013年度に開設し、世界に羽ばたく学生を育成しています。このコースに所属しさまざまな留学を経験した学生が、自らの体験を後輩の学生に伝えるシンポジウム「理工人の未来設計―コース所属生たちのグローバルな活躍」を1月15日、大岡山キャンパス70周年記念講堂で開催しました。

先輩の留学経験を聞く満員の学生

先輩の留学経験を聞く満員の学生

コース所属生と修了生計3名が、グローバル理工人育成コースでの履修や海外での経験が、どのように将来計画に繋がっているのか、また現在の活躍にどう活かされたのか、を発表しました。

学士課程1年次の学生を中心に、200名以上が参加しました。パネルディスカッションでも、学生から質問が活発に行われ、盛況なシンポジウムとなりました。

3名の留学経験

福田萌斐さん(情報理工学院 数理・計算科学系 修士課程1年)

夢以上の未来へ 海外経験や国際交流が与えてくれたもの

シンガポール・マレーシアやインドへの超短期海外派遣に参加後、学内国際交流やアメリカ・ライス大学での研究インターンなどを経験。

福田萌斐さん
福田萌斐さん

中畑育歩さん(物質理工学院 材料系 修士課程2年)

意識低い系の僕がMITに留学するまで ~一歩踏み出した先に広がる世界~

フィリピン超短期派遣に参加した後、学士課程を早期卒業し、マサチューセッツ工科大学で長期研究留学を経験。

中畑育歩さん
中畑育歩さん

徳永唯希さん (理学院 化学系 2018年卒業・現在、アマゾンジャパン合同会社 勤務)

学生特権を使い倒そう!

東工大入学後に初めて留学を経験。理学院地球惑星科学系が学士課程学生を主な対象として実施しているハワイでの海外地質観察旅行「地惑巡検」、語学留学、アメリカ超短期派遣、アジアやスウェーデンでのサマースクールを体験し、グローバル企業に就職。

徳永唯希さん
徳永唯希さん

パネルディスカッションで質問に答える左から福田さん、中畑さん、徳永さん

パネルディスカッションで質問に答える左から福田さん、中畑さん、徳永さん

「英語を」ではなく「英語で」勉強する意識

3名の発表に先立ち、髙田潤一副学長(国際連携担当)がグローバル理工人育成コースについて、次のように紹介しました。

「グローバル理工人育成コースには、学士課程、修士課程学生を合わせて現在約2200名が所属しており、今年度入学の学士課程1年次の学生においては学年全体の約4割にあたる430名程が所属しています。これは、東工大に入学する多くの学生が、国際的な経験をしてグローバルで活躍できる能力を身につけたいという意欲の表れであると感じます。いま1年目の皆さんは、国際経験がどういうものなのか、そして「国際化」や「グローバル化」の中で何をすべきか、現時点で具体的な目標がなくとも、本コースの活動や他の所属生、留学生との交流を通じて、少しずつ将来計画やいま取り組むべきことが明確になることを期待しています。」

また、閉会の挨拶をした須佐匡裕グローバル人材育成推進支援室長は、「先輩たちの話に圧倒されずに、地道に頑張ってほしい」と激励しました。さらに、「留学に関することも含め情報収集に努めてほしい。『英語を』勉強するのではなく、『英語で』勉強する意識、つまり自分の将来に役立つことを英語で勉強する姿勢が大切です。将来、自分が何をやりたいのかを考えた上でグローバルな環境で活躍するイメージをつかんでほしい」と呼びかけました。

髙田潤一副学長
髙田潤一副学長

須佐匡裕グローバル人材育成推進支援室長
須佐匡裕グローバル人材育成推進支援室長

参加者の声 行動が大事

シンポジウム後のアンケートでは、以下のような感想が寄せられました。

  • 留学をするメリットより、留学をしないデメリットの方が大きいとわかりました。
  • 語学力だけでなく専門科目の力も鍛えないといけないと思いました。
  • 自分の英語力を思うと、なかなか一歩が踏み出せないとためらいがちでしたが、大事なことは行動であるとわかりました。
  • 留学は、準備が多く大変なイメージだったが、それ以上に得られるものが多くあると実感できました。
  • 東工大は留学支援が豊富なので、そのような支援をより有効に活用していこうと考えました。
  • 発表を聞くと「英語を勉強する」というよりは、「自分の専門分野を世界で勉強する」ことに魅力を感じ、そこに向けて英語力を鍛えてきたように感じました。

グローバル理工人育成コースとは

グローバル理工人育成コースは、東京工業大学の学士課程・修士課程において「国際基礎力」、「国際実践力」、「国際協働力」を段階的に発展させる国際性涵養に特化した教育カリキュラムです。専門性を基礎としたアイデンティティー・知識・経験・技術力を基軸とし、多様性を理解し、倫理観を持って、グローバル社会の未知な課題に対応できる「科学・技術の力で世界に貢献する人材」を育成することを目的とします。

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

E-mail : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

NHK Eテレ『SWITCHインタビュー』に伊藤亜紗准教授が出演

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東京工業大学 科学技術創成研究院 未来の人類研究センター センター長でリベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授が、4月25日にNHK Eテレで放送予定の対談番組『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』に出演します。

落語家の柳家喬太郎さん(左)と伊藤亜紗准教授(右)

落語家の柳家喬太郎さん(左)と伊藤亜紗准教授(右)

伊藤准教授の対談相手は、若者にも大人気の落語家・柳家喬太郎さん。新作落語、古典落語のどちらも巧みに演じ、落語界きってのウルトラマン好きで知られる柳家喬太郎さんを、大岡山キャンパスに招きました。

『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』は、異なる分野で活躍する2人の“達人”がクロストークを行う番組です。前半と後半でゲストとインタビュアーを「スイッチ(切り替え)」しながら、それぞれの仕事現場(こだわりの場所、ゆかりの地など)を訪問し、「仕事の極意」について語り合います。

伊藤准教授のコメント

喬太郎師匠とは完全に初対面で、始まる前はどきどきしました。でもひとつ接点が見つかるとぐんぐん話がつながって、とても楽しい対談になりました。スライドなどの視覚資料に頼りがちな時代に、「プレゼン」とは違う「語り」のライブ感の中に日々身を投じていらっしゃる師匠。情報化の時代に忘れがちな、大切なものを教えていただいた気がします。格好よかった!

番組情報

  • 番組名
    NHK Eテレ『SWITCHインタビュー 達人達(たち)』
  • タイトル
    落語家 柳家喬太郎 × 美学者・東京工業大学准教授 伊藤亜紗
  • 放送予定日
    2020年4月25日(土)22:00 - 22:49
  • 再放送予定日
    2020年5月2日(土)00:00 - 00:49(金曜深夜)

関連リンク

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お問い合わせ先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

Email : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975


CASE時代に向けて「デンソーモビリティ協働研究拠点」を設置し先端研究を加速

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東京工業大学と株式会社デンソー(以下「デンソー」)は、「デンソーモビリティ協働研究拠点」(以下「協働研究拠点」)を4月1日に設置しました。

CASE時代に向けて「デンソーモビリティ協働研究拠点」を設置し先端研究を加速

東工大とデンソーは、これまでも車載コンピュータにおける熱マネジメント技術や実装技術など多くの領域で共同研究を進め成果を創出してきました。CASE(※)時代に向けた共同研究をさらに加速させるため、東工大とデンソーは組織的連携協定を締結し、幅広い分野において組織対組織の総合的な研究開発を協働研究拠点にて行います。

CASE:自動車をはじめとしたモビリティの次世代技術や新たなサービスの潮流を表す「Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)」の頭文字をとった造語。

具体的には、東工大大岡山キャンパス内に専用スペースを設置し、車両用部品の放熱技術に関する応用研究を深化させるとともに、機械・半導体・電子・電気・通信・IT・情報など専門分野が異なる研究者と、新たな研究テーマの創出や共同研究を推進します。また、東工大とデンソー双方の人材で構成された共同研究の企画機能を担うチームを発足させ、東京工業大学オープンイノベーション機構の研究企画から事業化までの支援のもと、研究成果の社会への実装や、他社とのオープンイノベーションによる事業開発を目指します。

東工大に集積されている先端研究を通じた学術的知見と、デンソーが車載分野の製品開発で培ってきた技術やノウハウを活用し、研究分野に取り組みます。

デンソーモビリティ協働研究拠点の概要

名称 :
デンソーモビリティ協働研究拠点
場所 :
東京都目黒区大岡山2丁目12-1 大岡山キャンパス 石川台1号館
設置期間 :
2020年4月1日 - 2025年3月31日
大学代表者 :
渡辺治(東京工業大学 理事・副学長(研究担当))
研究題目 :
モビリティ関連先端技術に関する研究
拠点長 :
井上剛良(東京工業大学 工学院機械系主任・教授)
副拠点長 :
光行恵司(株式会社デンソー 東京支社 支社長)
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取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課 広報グループ

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

東工大と東邦大学が包括協定を締結

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東京工業大学は3月13日、学校法人東邦大学と連携・協力推進にかかわる包括協定を締結しました。「医工連携」を進めるなど、大学間連携を強化する教育・研究や人材交流に取り組み、両大学の更なる発展と一層の社会貢献をめざします。

包括協定に調印した益一哉東工大学長(右)と高松研東邦大学長

包括協定に調印した益一哉東工大学長(右)と高松研東邦大学長

東工大大岡山キャンパスで開かれた包括協定調印式には益一哉東工大学長と高松研東邦大学長が出席し、包括協定に署名しました。両学長は、連携と協力の進め方について話し合いました。

本学と東邦大学は、教育・研究のそれぞれの分野において交流を重ね、更に両大学の「強み」を活かした連携を発展させることができないか意見交換を行ってまいりました。包括協定を締結することにより、以下のような効果が産まれることが期待されます。

東邦大学の医療センターは大森病院、大橋病院、佐倉病院を運営しています。東邦大学が、医療現場で生じたニーズを本学に提示し、本学が工学の観点でその解決策を示す医工連携を進めて、メディカルイノベーションの創出を目指します。

また、本学の理工系学生が東邦大学の医療センターにおいて、病院実習カリキュラムを行って医療現場を体験することにより、新たな発見や研究のヒントを得るといった教育効果が期待されます。

今後、この包括協定に基づき、連携・協力の施策について具体的な取組みを進めてまいります。

調印式で話し合う両大学の学長ら

調印式で話し合う両大学の学長ら

お問い合わせ先

東京工業大学 研究協力部 研究企画課
研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7688

超希薄燃焼と水噴射でガソリンエンジン熱効率52 %を達成 温度成層化によるノッキング抑制と冷却損失低減効果

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要点

  • 空気過剰率を上げた超希薄燃焼ガソリンエンジンに筒内水噴射を適用
  • ピストン上に低温水蒸気層を形成し、ノッキングと冷却損失を効果的に低減
  • 乗用車用ガソリンエンジンとして世界最高水準の図示熱効率52.6 %を達成

概要

東京工業大学 工学院 システム制御系の小酒英範教授、長澤剛助教、佐藤進准教授らは、慶應義塾大学の飯田訓正名誉教授、横森剛准教授らとともに、空気過剰率[用語1]を2程度まで上げた超希薄燃焼ガソリンエンジンに筒内水噴射[用語2]を適用し、これまで40 %程度だった乗用車用エンジンの正味熱効率を51.5 %、図示熱効率[用語3]を52.6 %に向上させることに成功した。

高い熱効率が期待される超希薄燃焼ガソリンエンジンだが、さらなる熱効率向上を目指すには高負荷領域におけるノッキング[用語4]抑制と冷却損失[用語5]低減が欠かせない。同グループは燃焼室内のピストン表面近くに水を噴射して低温水蒸気層を形成することにより、超希薄燃焼においても燃焼を悪化させることなくノッキング抑制と冷却損失低減を実現することを目指した。

各種の条件を最適化し、最終的には圧縮比[用語6]を17まで上げることで乗用車用ガソリンエンジンとしては世界最高水準の熱効率を達成した。これらに加え、水噴霧の可視化と熱流束[用語7]の計測により当初の狙い通りピストン表面近くに低温水蒸気層が形成されていることを示唆する結果を得た。

本研究成果は、英国機械学会の国際学術誌「International Journal of Engine Research」オンライン版に4月6日付で掲載された。

研究の背景

超希薄燃焼ガソリンエンジンでは低温燃焼による冷却損失の低下に伴って熱効率の大幅な向上が期待されるものの[参考文献1]、さらなる熱効率向上を目指す上では高負荷領域におけるノッキング抑制と冷却損失低減が欠かせない。ガソリンエンジンの効果的なノッキング抑制・冷却損失低減手法として、水噴射が以前より研究されている。これは水の蒸発によって筒内ガス温度を低下させ、ノッキングと冷却損失の低減を図るものであり、主に理論空燃比[用語8]を対象として行われてきた。本研究では水噴射を超希薄燃焼に適用することで、熱効率のさらなる向上を図った。

本研究のアプローチ

従来の理論空燃比におけるガソリンエンジン水噴射の多くは水を吸気ポートより噴射する形式であり[参考文献2]、この場合、空気・燃料の混合気は比較的均一に冷却される。しかし混合気への水の均一添加によって燃焼速度は大きく低下するため、超希薄燃焼においては燃焼不安定性の増加が懸念される。

そこで本研究では図1に示すように、水を筒内に直接噴射し、点火プラグ近傍を避けてピストン表面付近に水蒸気を集中的に分布させる「層状水蒸気遮熱」を提案した。これにより超希薄燃焼でも燃焼を悪化させることなく水の冷却効果が得られ、またピストン近くの未燃領域で多く発生するノッキングとピストン表面から外部への大きな冷却損失を効果的に低減できると期待される。

図1. 本研究におけるガソリンエンジン筒内水噴射の概略図

図1. 本研究におけるガソリンエンジン筒内水噴射の概略図

研究成果

本研究では筒内水分布が熱効率向上の大きな鍵を握るため、石英ガラス製の可視化エンジンを用いて水噴射時期が水噴霧分布に与える影響を調査した。その結果、図2に示すように上死点[用語9]前150°に水噴射した場合、水は時計回りの流れに乗って吸気側からピストン表面近くに輸送され、層状に分布する様子が確認された。

実機エンジン試験においても、圧縮行程前半(上死点前150°~120°)に水噴射することで燃焼安定性を保ちつつノック・冷却損失低減効果が得られ、熱効率が上昇することが確認できた。

また図3には、ピストン表面およびエンジンヘッドの熱流束計測から得られた水噴射による平均気体温度低下率と壁面熱流束低下率の関係を示したものである。これより同一の平均気体温度の低下に対して、ピストン側の熱流束低減割合はヘッド側より大きいことから、ピストン表面近くに水蒸気層が形成されて低温となる温度成層化[用語10]が起きていることが示唆された。

図2. 上死点前150°に水噴射した際の筒内水噴霧の可視化結果

図2. 上死点前150°に水噴射した際の筒内水噴霧の可視化結果

図3. 水噴射による平均気体温度低下率と壁面熱流束低下率の関係

図3. 水噴射による平均気体温度低下率と壁面熱流束低下率の関係

以上の結果をもとに0.5 L(リットル)クラスの単気筒エンジンで、さらに水噴射条件および運転条件の最適化を行うことで熱効率の向上を図った。その結果を熱バランスの形で示したものが図4である。

圧縮比15、空気過剰率1.9にて水噴射を行うことにより、ノッキングと燃焼変動を抑えた状態でグロス図示熱効率(機械損失やポンプ損失を含まない効率)が48.7から50.2 %まで上昇した。ここで、さらに圧縮比を17まで増加させたところ、ノッキングと燃焼変動を十分低く抑えたうえで排気損失、未燃損失、冷却損失が低減されることにより、グロス図示熱効率は最大52.6% まで上昇した。

これは0.5 Lクラスのガソリンエンジンとしては世界最高水準の熱効率であり、次世代の超高熱効率ガソリンエンジンの1つの可能性を示したといえる。今後は水蒸気分布と熱流束の同時計測などによって熱効率向上の機構解明を進めるとともに、水噴射インジェクタの形状や設置位置を含めた最適化を行うことにより、さらなる熱効率の向上につながると期待される。

図4. 高圧縮比+超希薄燃焼+水噴射による熱効率の向上と各種損失の内訳

図4. 高圧縮比+超希薄燃焼+水噴射による熱効率の向上と各種損失の内訳

付記

本研究は総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「革新的燃焼技術」(管理法人:JST)、および自動車用内燃機関技術研究組合の委託事業の成果である。

参考文献

1.
Jung, D. et al., SAE Technical Paper 2017-01-0677 (2017)
2.
Bellis, V. D. et al., SAE Int. J. Engines 10(2), 550-561 (2017)

論文情報

掲載誌 :
International Journal of Engine Research
論文タイトル :
Thermal efficiency improvement of super-lean burn spark ignition engine by stratified water insulation on piston top surface
著者 :
Tsuyoshi Nagasawa, Yuichi Okura, Ryota Yamada, Susumu Sato, Hidenori Kosaka, Takeshi Yokomori, Norimasa Iida
DOI :

用語説明

[用語1] 空気過剰率 : 実際に供給された空気の質量を、燃料を燃やし切るために理論上必要な最小空気質量で除した値。1の場合が理論空燃比であり、1より大きい場合は希薄燃焼となる。

[用語2] 筒内水噴射 : 水をエンジンシリンダ内に直接噴射する技術。

[用語3] 図示(ずし)熱効率 : 燃焼室圧力履歴から計算される燃焼ガスがシリンダ内でピストン上面にする仕事(図示仕事)を、投入熱量で除した値。実際に熱機関から得られる有効仕事は図示仕事から機械摩擦損失やポンプ損失を差し引いた値となる。

[用語4] ノッキング : ガソリンエンジンにおいて、通常は点火プラグを中心に火炎が燃え広がるのに対し、燃焼ガスによってピストンやシリンダ壁面に押し付けられた未燃ガスが高温・高圧となって自己着火する現象。強い衝撃波を伴い、場合によってはエンジンが破損することもある。

[用語5] 冷却損失 : 燃焼室内において仕事には変換されず、壁面を通して外部へ熱として捨てられる損失。

[用語6] 圧縮比 : 内燃機関において圧縮前の燃焼室体積を圧縮後の体積で除した値。圧縮比が高いほど理論的には熱効率は向上するが、同時にノッキングも発生しやすくなる。

[用語7] 熱流束 : 単位時間に単位面積を通過する熱量。

[用語8] 理論空燃比 : 空気と燃料が過不足なく燃焼する時の空気と燃料の質量比。通常のガソリンエンジンでは空気14.7に燃料1の割合となる。

[用語9] 上死点 : ピストンの往復運動において、ピストンが最上端となる点。

[用語10] 温度成層化 : 領域内において温度が低い冷却材が片側に、温度が高い冷却材がもう片側に、層状に分かれて分布する状態。

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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 工学院 システム制御系

教授 小酒英範

E-mail : kosaka.h.aa@m.titech.ac.jp
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50 ℃で水素と窒素からアンモニアを合成する新触媒 「CO2排出ゼロ」のアンモニア生産へブレークスルー

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要点

  • 50 ℃未満で水素と窒素からアンモニアを合成できる触媒の開発に初めて成功
  • 今回、開発した触媒は既存の触媒を凌駕する性能で、CO2排出ゼロを実現
  • 開発した触媒によって自然エネルギーからのアンモニア生産へ道が開かれた

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の原亨和教授、元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授らは、50 ℃未満の温度で水素と窒素からアンモニアを合成する新触媒の開発に成功した。この触媒は豊富なカルシウムに水素とフッ素が結合した物質「水素化フッ素化カルシウム(CaFH)[用語1]」とルテニウム(Ru)ナノ粒子の複合材料「Ru/CaFH」で、室温で水素と窒素からアンモニアを合成できる。

原教授らはCaFHが低い温度で電子を与える力が強いことに着目し、その学理を低温でアンモニアを合成する触媒の開発に繋げた。アンモニア生産の大幅な効率化だけでなく、自然エネルギーを使った温室効果ガスのCO2排出ゼロにつながることが期待される。

アンモニアは肥料として世界人口の70 %の命を支える人類に必須の化学物質で、水素と空気中の窒素から触媒を介して生産する。しかし原料の水素はメタンなどの化石資源から作られるため、CO2排出は総排出量の3 %を越えている。

水から水素を作ればCO2排出問題は解決するかのようにみえるが、従来の触媒で水素と窒素からアンモニアを合成するには400 ℃近くの高温が不可欠。従来のアンモニア生産を自然エネルギー発電と繋げても発電量の大半はアンモニア生産に費やされ、十分な水素を作れない。水素と窒素からのアンモニア合成の温度を大幅に下げる触媒の開発はCO2排出ゼロのアンモニア生産への道を開く成果である。

本研究成果はネイチャーコミュニケーションズ(nature communications)オンライン速報版に4月24日に掲載された。

背景

アンモニア(NH3)は触媒を介して水素(H2)と空気中の窒素(N2)から生産される化学物質であり、肥料として人口の70 %の生命を支えている。人類が最も多く生産する化学物質で、年間1億7千万トンに達する。このように、人類にとって重要なアンモニアだが、地球温暖化とともにその生産が大きな問題となっている。

それは、どこから水素を得るかということである。現在、アンモニアの原料となる水素は天然ガス、石炭、石油といった化石資源を燃やして生産している。その結果、膨大な量のCO2が排出され、総排出量の3 %を越えている。人口が増え続ける限り、化石資源が枯渇するまで、アンモニア生産に伴うCO2排出は増え続けることになる(図1)。

図1. 人類社会を支えるアンモニア生産と問題

図1. 人類社会を支えるアンモニア生産と問題

CO2の排出なしに、アンモニアを生産する方法として、自然エネルギー発電の利用が考えられてきた(図2)。風力や太陽光発電によって水を電気分解すれば、CO2排出なしにクリーンな水素を得られる。この水素を原料にすればCO2排出なしに、そして化石資源の枯渇に怯えることなく、人類はアンモニアを手に入れることができる。

しかし、この手法には大きな問題がある。それは水素と窒素からアンモニアを合成する既存触媒は400 ℃程度の高温を必要とすることだ。電力で高温を生み出すには、かなりのエネルギーが必要になる。これは、自然エネルギーの発電量の大半を水素と窒素からのアンモニア生産に消費され、水の電気分解による水素生産に回せる電力が足りなくなるという本末転倒の結果になりかねない。自然エネルギー利用のアンモニア生産のシナリオを可能にするには、水素と窒素からアンモニアを合成する触媒の作動温度を大幅に低下させることが求められている。

図2. 自然エネルギーによるアンモニア生産

図2. 自然エネルギーによるアンモニア生産

研究成果

新しいアプローチ

図3. アンモニア合成速度―反応温度曲線
図3. アンモニア合成速度―反応温度曲線

このような背景の中、アンモニア合成触媒が大幅に低温で作動する新たなアプローチを原教授らが着想した。図3にアンモニア合成触媒の温度とアンモニア合成速度の関係を示す。砂糖を水に入れるより、お湯に入れた方が早く溶けるように、アンモニア合成速度も温度と共に速くなってくる。これまで、高い温度で高い性能を発揮する触媒は、低い温度でも、相応の高い性能を発揮すると考えられていた。しかし、原教授らの研究によって、これまで開発されてきたいずれの触媒も、100~200 ℃の間で作動しなくなることが明らかになった。

すなわち、従来のアプローチは、作動の起点を100~200 ℃とする傾きの異なる触媒を開発する取り組みで、傾きの大きな触媒が高性能な触媒とされてきた(図3赤線部分)。しかし、これでは高温での合成速度は速くなるが、低温での合成速度は速くはならず、大幅な低温化は実現できない。

本研究では、触媒の作動温度を50 ℃未満にスライドさせ、温度-アンモニア合成速度曲線自体を低温側に引き下げるアプローチを試みた(図3青線)。こうすれば、低温領域のアンモニア合成が著しく高くなるはずだが、これまで成功した事例はなかった。

古典的学理に学ぶ新たな電子供与材CaFH

上述のアプローチはこれまで試されたことがないため、何がこのアプローチに繋がるかは手探りの状態だった。原教授らは、まず低温で強く電子を与えることができる材料(電子供与材)の開発に着手した。アンモニア合成の最大の難関は窒素分子N2の窒素原子にまで分解する過程である。窒素分子は強固な結合によって結ばれた2つの窒素原子から成る安定な分子。この分子を原子にまで分解するには鉄などの遷移金属から窒素分子へ電子を一時的に与える必要がある(図4)。

図4. 金属への電子供与による窒素分子の分解加速
図4. 金属への電子供与による窒素分子の分解加速

しかし、遷移金属だけの電子供与は不十分であり、この電子供与をブーストするため、アンモニア合成触媒には金属に電子を与える物質、すなわち、電子供与材料が組み込まれている。100年以上も前から現在までアンモニアの大量生産に使われている鉄触媒では酸化カリウム(K2O)がこの電子供与材料に当たる。これまで様々な電子供与材がアンモニア合成触媒に組み込まれてきたが、既存の触媒では100~200 ℃で電子を与える力が弱まり、この温度領域で作動しなくなると原教授らは予想した。

そこで、ありふれた脱水材「水素化カルシウムCaH2」に着目した(図5)。CaH2はCa2+の陽イオンと水素の陰イオンH–(ヒドリドイオン)が結合したイオン性固体であり、200 ℃より高い温度にすると一部のH–が水素分子として抜け、電子をCa2+イオンの周りに残す(2H–→H2↑+ 2e–)。この状態の電子はアルカリ金属並みの電子供与能(大きなイオン化傾向)をもつため、この電子で遷移金属の電子供与をブーストすればN2分子は窒素原子まで分解できる。しかし、Ca2+—H–のイオン結合エネルギーが強いため、低温で使うことができない。

そこで、原教授らは大学の1年次で基礎として学ぶ古典的な学理を利用することにした。それはCa2+とより強い結合をつくる陰イオンを入れ、Ca2+—H–の結合エネルギーを弱めてしまうということである。Ca2+—F–の結合エネルギーはCa2+—H–のそれの2倍の強度をもつため、CaH2のヒドリドイオンの一部をF–で置き換え、水素化フッ素化カルシウムCaFHをつくれば、そのヒドリドイオンは低温で水素分子として脱離し、低温で強い電子供与能を発揮するはずである(図5)。実際に合成したCaFHでは室温程度からヒドリドイオンが水素分子として抜けることが確認された。

図5. CaH2、CaFHでの結合強度、水素引き抜き温度、電子供与

図5. CaH2、CaFHでの結合強度、水素引き抜き温度、電子供与

ルテニウムナノ粒子-CaFH複合材触媒(Ru/CaFH)のアンモニア合成能

図6. Ru/CaFHの電子顕微鏡写真
図6. Ru/CaFHの電子顕微鏡写真

図6はルテニウム(Ru)ナノ粒子-CaFH複合材触媒(Ru/CaFH)の電子顕微鏡写真である。この触媒はCaFHの下地(灰色)に直径数ナノメートルのRuナノ粒子(白色)が接合した固体材料である。この触媒は100 ℃以下でもアンモニアを合成し、50 ℃でさえ作動していることがわかった(表1)。これは50 ℃未満の温度でもアンモニアを合成できることを示唆している。実際、室温でもこの触媒は窒素分子からアンモニアを合成していることが分光法によって確認された。一方、現在のアンモニア生産に使われている商用の鉄触媒、そして、つい最近発表された最高性能の触媒、第2位の触媒は100 ℃以下の温度では全く作動しない。100 ℃以下の温度でRu/CaFHと比較するのは他の触媒にとって不公平なので、表2に200 ℃での結果を示す。200 ℃でのRu/CaFHは最高性能触媒の2倍を越えており、高い温度でも既存触媒を凌駕している。

図6はルテニウム(Ru)ナノ粒子-CaFH複合材触媒(Ru/CaFH)の電子顕微鏡写真である。この触媒はCaFHの下地(灰色)に直径数ナノメートルのRuナノ粒子(白色)が接合した固体材料である。この触媒は100 ℃以下でもアンモニアを合成し、50 ℃でさえ作動していることがわかった(表1)。これは50 ℃未満の温度でもアンモニアを合成できることを示唆している。実際、室温でもこの触媒は窒素分子からアンモニアを合成していることが分光法によって確認された。一方、現在のアンモニア生産に使われている商用の鉄触媒、そして、つい最近発表された最高性能の触媒、第2位の触媒は100 ℃以下の温度では全く作動しない。100 ℃以下の温度でRu/CaFHと比較するのは他の触媒にとって不公平なので、表2に200 ℃での結果を示す。200 ℃でのRu/CaFHは最高性能触媒の2倍を越えており、高い温度でも既存触媒を凌駕している。

なお、Ru/CaFHの活性化エネルギー[用語2]は20 kJ mol-1であり(表1)、これまで報告され現在のアンモニア生産にてできたアンモニア合成触媒の1/2程度にしか過ぎない。また、Ru/CaFHは安定な触媒であり、300 ℃を越える反応温度でも900時間以上アンモニア合成速度の低下なく、作動し続ける。

表1 Ru/CaFHの触媒性能(100 ℃以下)

表1 Ru/CaFHの触媒性能(100 ℃以下)

表2 Ru/CaFHの触媒性能(200 ℃)

表2 Ru/CaFHの触媒性能(200 ℃)

Ru/CaFHのメカニズム

図7. Ru/CaFHの予想メカニズム
図7. Ru/CaFHの予想メカニズム

図7は様々な解析によって明らかにされたRu/CaFHのメカニズムである。まず、室温程度でCaFHから水素原子が抜け、電子を残していく。この状態でCaFHは金属カリウムと同等の強い電子供与力をもち、Ruへ強く電子を与える(図7下)。この状態のRuに窒素分子N2が接触すると、N2は直ちにN原子まで分解する。Ru表面には水素分子H2の分解によってH原子が生成しているので、窒素原子と水素原子は直ちに反応して、アンモニアNH3が生成する。この過程は室温でも進行することが明らかになった。

今後の展開

今回開発したRu/CaFHに2つの意味がある。

第一に、触媒の最低作動温度を引き下げるという新しいアプローチと、それを可能にする新たな触媒材料の開発によって300 ℃以下の低温領域のアンモニア合成触媒性能を著しく上げたこと。

第二に、100 ℃以下でも作動する触媒を生み出したこと。これまでの触媒は100 ℃以下では作動しない。従って、いかなる改良を施しても、100 ℃以下でアンモニアを合成することはできない。「0に何をかけても0にしかならない」からだ。一方、Ru/CaFHは室温程度でもアンモニアを合成できる。これまでの触媒がこれまでのアプローチによってその性能を向上してきたように、Ru/CaFH、あるいはその概念に基づく触媒の性能はまだまだ押し上がる余地が十分に残っている。

今後の展開

原教授のコメント

今回の研究に対する私たちの感想は、「社会が求めるアンモニア生産のきっかけを見つけた」に過ぎません。しかし、化石資源を使わずに肥料を生産し、人々に食糧を届けることが単なる夢想ではなくなり、現実味を帯びてきました。従来の触媒開発がしてきた性能向上をたどることによって、私達のアプローチ・触媒は真に地球・社会・人が求めるアンモニア生産に繋がると考えています。

論文情報

掲載誌 :
nature communications
論文タイトル :
Solid solution for catalytic ammonia synthesis from nitrogen and hydrogen gases at 50 ℃
著者 :
Masashi Hattori, Shinya Iijima, Takuya Nakao, Hideo Hosono, Michikazu Hara
DOI :

用語説明

[用語1] 水素化フッ素化カルシウム(CaFH) : 融雪剤である塩化カルシウムCaCl2はCa2+陽イオンに2つのCl–陰イオンが結合した固体のイオン化合物。CaFHは物質として既に知られていたが、材料として使われたことはない。なお、CaFHはフッ化カルシウムCaF2と水素化カルシウムCaH2の混合物を500 ℃以上で十数時間以上加熱することによって得られる。しかし、このようなCaFHを触媒に使っても、そのアンモニア合成速度は低い。高温で長時間の加熱がCaFHの焼結を進め、表面積が小さくなってしまうためだ(1 gのCaFHの面積は1 平方メートル未満)。そこで本研究では大きな表面積をもつCaFHを低い温度(200 ℃)・短い時間(3時間)で合成する全く新しい方法を開発した。この方法で合成した1 gのCaFHの面積は30平方メートルに達する。

活性化エネルギー

[用語2] 活性化エネルギー : 反応を進めるために必要なエネルギー。水素と窒素からアンモニアが生成する反応は発熱反応であり、丘の頂上から平地に下る反応である。しかし、丘の頂上は目に見えない塀で囲まれており、この塀を乗り越えないと丘を下ることはできない。この塀の高さが活性化エネルギーである。当然、塀の高さ、即ち活性化エネルギーが低い触媒ほど、反応が進みやすい。

[用語2] 活性化エネルギー : 反応を進めるために必要なエネルギー。水素と窒素からアンモニアが生成する反応は発熱反応であり、丘の頂上から平地に下る反応である。しかし、丘の頂上は目に見えない塀で囲まれており、この塀を乗り越えないと丘を下ることはできない。この塀の高さが活性化エネルギーである。当然、塀の高さ、即ち活性化エネルギーが低い触媒ほど、反応が進みやすい。

謝辞

本成果は、以下の事業・研究開発課題によって得られました。

日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(S)

研究開発課題名:
「電子供与の増幅による低温作動アンモニア合成触媒の開発」
研究代表者:
東京工業大学科学技術創成研究院 原亨和
研究開発実施場所:
東京工業大学
研究開発期間:
2018年6月~2023年3月

資料

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お問い合わせ先

研究に関すること

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

教授 原亨和

E-mail : hara.m.ae@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5311 / Fax : 045-924-5381

取材申し込み先

東京工業大学 総務部 広報・社会連携課

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大学生サークルが附属図書館で第5回作品展を開催

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東京工業大学の公認学生サークルである鉄道研究部、写真研究部、美術部の第5回作品展が2019年11月から2020年2月にかけて、本学附属図書館との協働により、附属図書館大岡山本館で行われました。

美術部の展示準備

作品展の日程と概要は以下のとおりです。

鉄道研究部写真展

展示期間:2019年11月21日(木)~12月3日(火)

部員が全国各地で撮影した鉄道の写真計122点を展示しました。

鉄道研究部写真展 ポスター
鉄道研究部写真展 ポスター

鉄道研究部の展示風景
鉄道研究部の展示風景

鉄道研究部のコメント:
今年度も図書館展示を行うことができありがとうございました。今年度は工大祭が中止になったことで私たちが準備してきた写真を展示する機会を1つ失ってしまいました。しかし図書館での展示ができ、多くの方からの感想をいただけたことは来年度へのモチベーションにもなりました。来年度へ向けて部員全員でこれからも勉学と両立しながら、さまざまな鉄道に関する写真を撮っていきたいと思います。

写真研究部作品展「一月展」

展示期間:2020年1月16日(木)~1月28日(火)

館内4ヵ所に展示スペースを設け、作品27点を展示しました。

写真研究部作品展「一月展」 ポスター
写真研究部作品展「一月展」 ポスター

写真研究部の展示風景
写真研究部の展示風景

写真研究部のコメント:
毎年附属図書館で開催している写真展も今年で5回目を迎えました。雪景色のキャンパスなど冬らしい写真もあり、今年は全部で27作品展示しました。勉強の合間などに少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。新型コロナウイルスの感染拡大でなかなか活動ができませんが、活動再開までの期間を学びの多いものにしたいです。

美術部作品展「図展(とてん)」

展示期間:2020年1月31日(金)~2月4日(火)

学外の方もご覧いただける1階ロビーに、作品6点を展示しました。

美術部作品展「図展(とてん)」ポスター
美術部作品展「図展(とてん)」ポスター

美術部の展示風景
美術部の展示風景

美術部のコメント:
ペンや水彩やアクリル、コピックといった様々な画材による絵画が6点展示されました。試験期間中の展示ということもあり、試験勉強のために図書館をおとずれた多くの方々に観賞いただきました。作品の内容も写実的なものから抽象的なものと幅広く、「個性豊かな作品」など個々の作品に関して様々な感想が寄せられました。年度内の展示は図展が最後となりましたが、来年度以降も各自の学業と並行しながら次の展覧会に向けて作品の制作を行っていきます。

作品展のポスターもそれぞれのサークルの学生が作成しています。附属図書館は、学生の学びを支えると共に、親しみや安らぎのある場の提供を目指し、今後も学生と共にさまざまな企画を実施していく予定です。

東工大基金

公認サークルの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部 情報図書館課 利用支援グループ

Tel : 03-5734-2097

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