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2019年度 留学報告会 開催報告

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東京工業大学は海外への留学を希望する学生のために、さまざまな留学プログラムを用意しています。その一つである「派遣交換留学」は海外の協定校に1学期から1年間、留学するプログラムです。帰国した学生が体験と現地情報をほかの学生に伝えるのが「My Study Abroad 留学報告会」です。2019年度は計6回開催し、11名の学生が報告しました。昼休みに開き、のべ約130名の学生、スタッフが参加しました。現地の学修面、生活面での最新情報だけでなく、留学を通じて得られたことや感じたことなどをたくさんの写真や思い出と共に話しました。2019年度の報告会で発表した学生を紹介します。

2020年1月の留学報告会開催時の様子

2020年1月の留学報告会開催時の様子

アメリカ・ジョージア工科大学へ留学 紀春志さん(工学院 機械系 修士課程2年)

留学期間:2018年8月~2019年5月

紀さんは、今回発表したアメリカ留学だけでなく、学士課程在籍時にも派遣交換留学プログラムでオーストラリアのメルボルン大学に留学しました。留学実現に向けた入念な計画と事前準備を重ね、卒業延長をしなくても留学できたことを説明しました。さらに、就職活動との兼ね合い、かかる費用など、留学を実現に移すときに誰しもが悩むポイントを自身の経験から丁寧にアドバイスしました。

留学にむけた計画とステップ

留学にむけた計画とステップ

アメリカでの生活の様子

アメリカでの生活の様子

台湾・国立台湾大学へ留学 玉井正朗さん(情報理工学院 数理・計算科学系 修士課程2年)

留学期間:2019年2月~2020年1月

派遣交換留学生の多くはヨーロッパ留学を選ぶなか、玉井さんは台湾に留学しました。英語圏でない国への留学に不安もありましたが、トライリンガルになる楽しさ、親日社会ゆえの難しさなど、実際に住んでわかることを最新の台湾情報と共に話しました。

国立台湾大学の学内マップと正門

国立台湾大学の学内マップと正門

国立台湾大学でのアクティビティの様子

国立台湾大学でのアクティビティの様子

他にも、ベルギーにあるゲント大学に留学した生命理工学院 生命理工学系所属の学生は、大学内の医学部で解剖の授業に参加した体験やベルギービールについて振り返りました。また、フィンランドに留学した環境・社会理工学院 建築学系所属の学生はサウナをテーマとした研究活動を取り上げました。いずれもそれぞれの土地で、その留学先でしか経験できないことでした。また今回新たに、インド工科大学マドラス校へ留学中で環境・社会理工学院 土木・環境工学系所属の学生が現地の様子を紹介するムービーを作成し、上映しました。

大学構内に生息するシカ
大学構内に生息するシカ

チェンナイの街
チェンナイの街

どの学生も楽しい思い出ばかりだけでなく、辛く悔しい経験や苦労話もあります。しかし、「自立できるいいチャンス」と前向きにとらえ、振り返った時に自分の成長を感じ、「留学してよかった」、「迷っているなら留学してみるべき」と話していました。

留学報告会は2020年度も引き続き開催します。また、4月15日(水)に年に一度の留学イベント「東工大留学フェア」を開催します。

2020年度は「一寸先は、世界」をテーマに、留学をより身近に感じていただける企画を行います。本学の留学プログラム担当者や留学経験者だけでなく、大使館や外部団体が一同に集結するイベントです。東工大生だけでなく学外の方も参加可能ですので、ご来場をお待ちしています。

お問い合わせ先

東京工業大学 留学生交流課

E-mail : hakenryugaku@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7645


第1回国際オープンイノベーションシンポジウム 2020 開催報告

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東京工業大学が産学連携の促進を目的として新たに設立したオープンイノベーション機構(以下、OI機構)は、2月10日、第1回「東京工業大学 国際オープンイノベーションシンポジウム 2020」を東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催しました。OI機構のキックオフシンポジウムとして開かれ、企業の経営者、企画・戦略担当者等を中心に、300名を超える参加者が集まりました。

協働研究拠点の活動を報告するパネルディスカッション

協働研究拠点の活動を報告するパネルディスカッション

OI機構の概要を説明する益学長
OI機構の概要を説明する益学長

渡辺治理事・副学長・OI機構長の挨拶に続き、益一哉学長が本機構の概要を説明しました。続いて、大嶋 洋一OI機構副機構長・統括クリエイティブマネージャー・教授が、本学が推進するコンシェルジェ型オープンイノベーションを紹介しました。コンシェルジェ型オープンイノベーションは企業のニーズに応えるため学内外のリソースを活用しサービスを提供する仕組みです。

開催挨拶をする渡辺理事・副学長OI機構長
開催挨拶をする渡辺理事・副学長OI機構長

OI機構の取組みを紹介する大嶋OI機構副機構長
OI機構の取組みを紹介する大嶋OI機構副機構長

シンポジウム第1部の「グローバルなオープンイノベーションのトレンド」では澤井智毅・世界知的所有権機関日本事務所長ら4名が基調講演を行いました。

第2部は「大学が提供するオープンイノベーション環境に対する企業経営者の期待」というテーマでパネルディスカッションを行いました。OI機構で活動している3つの協働研究拠点(AGCマテリアル協働研究拠点、コマツ革新技術共創研究所、aiwell AIプロテオミクス協働研究拠点)の企業と教員が話し合いました。

第3部は、量子コンピューティング研究ユニットの西森秀稔教授ら東工大科学技術創成研究院の12ユニットouterの教員が最先端研究の内容を紹介しました。

会場では、各研究ユニットが紹介ポスターの展示やビデオ上映を行いました。終了後は交流会も開催され、参加者のネットワーキングの機会となりました。

今回のシンポジウムを通し、多くの方々に本学が目指すオープンイノベーションの形や企業との関わりをご理解いただくことが出来ました。今後も、個別の共同研究の枠を超えた「組織と組織」としての大型の産学連携を使命に邁進していきます。

オープンイノベーション機構(OI機構)

東京工業大学は、共同研究を本格的にマネージしていく組織としてオープンイノベーション機構を創設しました。

産業界と密接に連携しつつ、新規事業開拓から社会実装までを目指した共同研究を進める協働研究拠点制度を中心に大型の共同研究を推進していきます。共同研究開発の研究企画から事業化までの各プロセスにおいて本学に求められる事業化支援活動(研究マネジメント、知財戦略支援、研究企画支援、出口戦略支援等)を実行します。

本学に強みのあるエネルギー分野、材料分野、及び注力して取り組む機械分野、バイオ分野を中心に大型の共同研究活動として、3つの協働研究拠点が活動を開始しました。

今後、協働研究拠点の研究領域の拡大、研究拠点数の増加を図り、大型共同研究の活性化に取り組んでまいります。

お問い合わせ先

東京工業大学 オープンイノベーション機構

E mail : oi-p@sangaku.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5171

繊細な操作性と術者の負担軽減を両立させた手術支援ロボットのマニピュレータを開発 より微細なスケールの手術支援ロボットへの応用に期待

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要点

  • 繊細な操作性と術者の負担軽減を両立させた手術支援ロボットのマスタマニピュレータを開発した。
  • 開発したマスタマニピュレータは現在の主流であるピンチグリップ式とパワーグリップ式を組み合わせたもので、従来のタイプよりも高いパフォーマンスを示した。
  • より微細な位置制御が必要な手術支援ロボットへの応用が期待される。

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の只野耕太郎准教授と工学院 機械系のSolmon Jeong(ソルモン・ジョン)大学院生(博士後期課程2年)は、手術の精度と術者の負担軽減を両立する新たな手術支援ロボットシステムを開発した。

手術支援ロボットは、術者が自分の手元のマスタマニピュレータを動かすことで、患者の体内に挿入されたスレーブマニピュレータを操作するマスタ・スレーブ式が一般的である。マスタ・スレーブ式手術支援ロボットの手元の操作は、親指と人差し指で摘まむピンチグリップ式と、手のひら全体でマスタマニピュレータを握るパワーグリップ式がある。ピンチグリップ式は繊細な作業に適しているが術者への負担が大きく、パワーグリップ式は繊細な作業ではピンチグリップ式に劣るが、術者への負担は小さい。そこで研究グループは、ピンチグリップとパワーグリップを組み合わせることによって、繊細かつ負担の小さいマスタマニピュレータを新たに開発した。

研究成果は2019年12月12日に「The International Journal of Medical Robotics and Computer Assisted Surgery」のオンライン版に掲載された。

手術支援ロボットのための新たなマニピュレータを開発

背景と経緯

近年、内視鏡下手術において手術支援ロボットの使用が増加しており、さまざまな医療分野での活用が広がっている。手術支援ロボットでは、術者が自分の手元のマニピュレータを操作することで、患者の体内に挿入されたマニピュレータを操作する「マスタ・スレーブ」と呼ばれる操作方式が一般的である。マスタ・スレーブシステムでは、操作者の動きを入力する機器を「マスタ機」、マスタ機の制御下で動作する機器を「スレーブ機」と呼び、手術支援ロボットの場合は、術者の手元のマニピュレータがマスタ機、患者の体内に挿入されたマニピュレータがスレーブ機にあたる。

手術支援ロボットによる手術では、実際に手で執刀するよりも小さなスケールで手術を行うことから、スレーブ機の位置制御の高精度化は非常に重要である。スレーブ機は微細な手術操作を行うことから、マスタ機の動作はスレーブ機に縮小して伝えられる。そのため、マスタ機の操作においては余分に大きな動きが必要であり、手術中にはマスタ機とスレーブ機の可動範囲や位置関係の調整が必要という問題がある。

手術支援ロボットにおけるマスタ機の操作は、親指と人差し指で摘まむピンチグリップ式と、手のひら全体で握るパワーグリップ式がある。ピンチグリップ式は繊細な作業に適しているが手指への負担が大きく、逆にパワーグリップ式は繊細な作業ではピンチグリップ式に劣るが、術者に対する負担は小さい。そこで研究グループは、位置決めの正確さに加え、快適な操作性を実現するために、ピンチグリップとパワーグリップの相対位置を可変に組み合わせた新たなグリップ方式を提案し、これを実装したマスタマニピュレータの開発を行った。

研究成果

本研究では、ピンチグリップとパワーグリップの「組み合わせ式グリップ」の設計に向け、まず、親指と人差し指の指先でピンセット状になっている部分を摘まみ、残りの指と手のひら全体でパワーグリップ部分を握って操作する検証モデルを試作した(図1)。検証モデルは、指先の方向と手のひらで握り込むグリップの距離や角度が可変であるものと固定のものなど4種類作成し、糸を結ぶタスクにかかる時間および必要とされる動作を調べた。その結果、可変機構を持つモデルでは、固定の場合に比べタスクに要する時間も動作も少ないことがわかった。

図1.ピンチグリップとパワーグリップの組み合わせ検証モデル

図1.ピンチグリップとパワーグリップの組み合わせ検証モデル

図1. ピンチグリップとパワーグリップの組み合わせ検証モデル

そこで研究グループは、検証モデルで得られた予備的な結果に基づいて、ピンチグリップとパワーグリップを組み合わせ、指先とパワーグリップ部の角度と距離を可変としたグリップ機構を開発した(図2、3)。このグリップ機構は、パワーグリップ部から30~50 mmの範囲であれば、腕そのものを動かすことなく、前後左右に指先を動かすことができる。

図2. 本研究で開発したピンチグリップとパワーグリップの組み合わせによるグリップ機構

図2. 本研究で開発したピンチグリップとパワーグリップの組み合わせによるグリップ機構

図3. 同平面図。グリップ部分から30~50 mmの範囲であれば、腕そのものを動かすことなく、指先を動かすことができる。

図3. 同平面図。グリップ部分から30~50 mmの範囲であれば、腕そのものを動かすことなく、指先を動かすことができる。

実際の外科手術においては高い位置決め精度が重要であるため、開発した組み合わせ式グリップを採用したマスタマニピュレータと、従来のパワーグリップ式およびピンチグリップ式のマスタマニピュレータのそれぞれを用いてポインティング実験[用語1]を行い、位置制御操作性能を比較した。また、マスタ機の動作をスレーブ機の動作に縮小して変換する比率(スケールファクタ[用語2] )がスレーブ機の位置制御に与える影響についても検討した。

その結果、失敗の頻度、所要時間、手の移動距離による操作性評価が、パワーグリップ式ではスケールファクタが大きい(マスタ機からスレーブ機への動きの縮小度合いが大きい)場合に、ピンチグリップ式ではスケールファクタが小さい場合に比較的優れる傾向であったのに対し、提案する組み合わせ式では、いずれの場合においてもより優れたパフォーマンスを示した。このことは、提案する組み合わせ式グリップ機構が、パワーグリップとピンチグリップ両者の長所を兼ね備えているとともに、スケーリングファクタを大きくせずとも、人の手が本来有している器用さを活かすことで微細なスケールにおける作業を可能とするものであることを示唆している。

今後の展開

本研究で開発した組み合わせ式のマスタマニピュレータは、微細なスケールにおいて従来の方式よりも優れたパフォーマンスを示したことから、より微細な位置制御が必要となる手術支援ロボットへの応用が期待される。

用語説明

[用語1] ポインティング実験 : マニピュレータの先端などを操作し、事前に指定した位置に対してどの程度正確に向かうことができるかを調べることで、位置制御の性能を評価する実験。

[用語2] スケールファクタ : ある対象から異なる対象に大きさを縮小して変換する際の比を表す量。

論文情報

掲載誌 :
The International Journal of Medical Robotics and Computer Assisted Surgery
論文タイトル :
Manipulation of a master manipulator with a combined-grip-handle of pinch and power grips
著者 :
Solmon Jeong and Kotaro Tadano
DOI :
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所

准教授 只野耕太郎

E-mail : tadano.k.aa@m.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5032

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

スライムの化学でがん治療の幅をひろげる ホウ素中性子捕捉療法の効果アップ 記者説明会を開催

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「スライムの化学」西山教授と野本助教が記者説明会を開催

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の西山伸宏教授と野本貴大助教による記者説明会を1月22日、大岡山キャンパスで開催しました。記者説明会には9名の記者が参加しました。

今回の記者説明会では、第5のがん治療法として期待されているホウ素中性子捕捉療法(BNCT)※1に、ポリビニルアルコール※2(PVA)を組み合わせることで、従来の方法よりも劇的な効果が得られたという研究成果について説明がありました。革新的ながん治療法につながる研究とあって、メディアの皆さんの興味も高く、説明後には活発な質疑応答が行われました。

記者説明会の様子

記者説明会の様子

研究の背景

BNCTは、ホウ素をがん細胞に取り込ませて熱中性子を照射することで、ホウ素を取り込んだがん細胞のみを殺傷する治療法です。がん細胞に特異的にホウ素を取り込ませ、熱中性子を照射する部位を限局することで、全身への影響はほとんどない安全性、効果ともに良好な治療法になると考えられています。BNCTは1968年に悪性脳腫瘍に対して日本で実施されて以来、日本がリードしている領域です。臨床研究の症例数は他国を圧倒しています。現在は、ステラファーマ株式会社が、BNCT用の化合物ボロノフェニルアラニン(BPA)※3について、再発頭頚部がんの適応で承認申請を行っています。

BPAは、がん細胞で過剰に発現しているLAT1※4というアミノ酸トランスポーターを介して細胞内に取り込まれます。しかし、細胞外の濃度が低くなると細胞内から外に出ていってしまうため、細胞内の濃度を長時間高く保つことができません。臨床現場では、BPAを患者さんに投与した後、中性子を照射する設備まで移動したり照射部位を固定したりする必要があるため、照射するまで2時間程度かかります。そのため、細胞内に長時間薬剤が保持できる技術が求められています。

研究概要を説明する西山教授

研究概要を説明する西山教授

研究のポイント

昨今の医薬品は高価な材料を用いて複雑なプロセスで製造されています。そのため、製造コストの増大、品質保証の難しさといった課題が生じており、シンプルかつ高機能な医薬品の開発が求められています。このような社会的要請に答えながらBPAの課題も解決するのがPVAでした。

西山教授、野本助教は、スライムの化学※5にヒントを得て、PVAとBPAを水中で混ぜ、高分子の薬剤(PVA-BPA)を作成しました。すると、BPAとは異なり、LAT1を介したエンドサイトーシス※6でエンドソーム・リソソームに取り込まれ、細胞内に長時間保持できることがわかりました。マウスの腫瘍モデルに投与した実験では、BPAは6時間後にはかなりの量が腫瘍から消失し、BNCTを行える量を下回るのに対し、PVA-BPAは6時間後でも十分BNCTを行うことができる量を維持していました。

マウスの大腸がんをマウスの皮下に移植したモデルで抗腫瘍効果を調べました。がん細胞を移植して約2週間後に化合物を投与し、熱中性子線を照射しました。熱中性子の照射のみでは、腫瘍はどんどん大きくなり、照射25日後には100倍近くになりました。従来のBPAの場合は15日後ぐらいから腫瘍の増殖がみられるようになりました。一方、PVA-BPAの場合は、25日後も腫瘍の増殖は見られず、根治に近い結果が得られました。

PVA-BPAについて説明する野本助教

PVA-BPAについて説明する野本助教

今後の展望

熱中性子線はこれまで原子炉で作られていました。しかし、原子炉を病院に併設するのは困難です。今後は、加速器型中性子線源が主流になると考えられます。加速器BNCTでも日本は世界をリードしていて、既に南東北病院や国立がんセンターなどいくつかの病院で導入されています。日本が世界に輸出できる革新的な医療技術として期待されます。

PVA-BPAに関しては、ステラファーマ株式会社の協力を得て、非臨床試験の実施に向けて研究を推進していきます。

資料

※1 ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron capture therapy: BNCT )

ホウ素原子(10B)と熱中性子の核反応により生じるアルファ粒子とリチウム反跳核を利用してがんを治療する放射線療法の一種。従来の放射線療法では治療することが困難な再発性のがんや多発性のがんに対しても有効な治療法であるとされている。楽天メディカルが開発している光免疫療法と並び、BNCTは第5のがん治療法としても注目を集めている。BNCTの研究は50年以上前から日本を中心に進められてきた歴史があり、現在でも日本が最先端の研究をリードしている。最近、熱中性子源として、加速器型中性子線源の開発が活発に進められ、新たなホウ素薬剤の開発が求められていた。

※2 ポリビニルアルコール

水溶性の高分子で洗濯のりや液体のりの主成分として日常に幅広く浸透している材料。生体適合性の高い材料としても知られており、医用材料として既にさまざまな形で利用されている。最近では東京大学のグループがポリビニルアルコールを用いることで造血幹細胞を増幅することに成功したとして広く報道された。

※3 ボロノフェニルアラニン=BPA:

必須アミノ酸のフェニルアラニンと類似した構造を持ちながら、ホウ素原子を含有した化合物。がん細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることが知られている。熱中性子を当てると化合物中のホウ素原子が核反応を起こしてがん細胞を殺傷する。

※4 LAT1:

細胞がアミノ酸を取り込むためのタンパク質の一つ。正常な細胞にはほとんど発現していないが、がん細胞では細胞膜上に多く発現していることが知られている。

※5 スライムの化学

洗濯のりとホウ砂を混ぜるとスライムができる。これはホウ砂から生じるホウ酸イオンが化学反応により複数のポリビニルアルコールをつなぐからである。本研究ではこの化学反応を応用している。

※6 LAT1介在型エンドサイトーシス

エンドサイトーシスとは、細胞が細胞外の物質を細胞内へ取り込む方法の一つである。今回開発した物質は、最初に細胞膜上のLAT1にくっつき、その後にエンドサイトーシスで細胞に取り込まれる。この過程をLAT1介在型エンドサイトーシスと呼んでいる。

お問い合わせ先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第12回高校生バイオコン&第13回バイオものコン2020 同時開催

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東京工業大学 生命理工学院は、1月15日、「第12回高校生バイオコン&第13回東工大バイオものコン2020」をすずかけ台キャンパス内すずかけホールで開催しました。

「高校生バイオコン」は、全国から応募した高校生チームが小中学生向けバイオ系教材を開発、その成果をコンテストとして競い合います。「バイオものコン」とは学士課程2年目・3年目の選択科目「先端バイオものつくり」を受講した学生がチームを組み、バイオに関する自由な発想の「ものつくり」に取り組んできた成果をコンテストとして競い合います。「バイオものコン」は「バイオに関するものつくり」と「コンテスト」をかけ合わせた名前です。

「第12回高校生バイオコン」は昨年10月に開催予定でしたが、台風19号のために延期となり、今年度は「第13回バイオものコン」との同日開催になりました。高校生は7高校の11チーム、大学生は7チームの全18チームが参加し、同じ舞台で発表し成果を問いました。

緊張しながら発表する高校生チーム
緊張しながら発表する高校生チーム

海外へサンプリングに行った様子を紹介
海外へサンプリングに行った様子を紹介

発表

今回出場したチームと題目は次のとおりです(プログラム順)。

順番
チーム名
題目
1
iGEMers(アイジェマー)
大腸菌による浸透圧および血糖値測定を介した脱水検知技術の開発
2
神奈川県立相模原中等教育学校 ビオえもん
回る回る生態系
3
札幌日本大学高等学校 おがフレ
おうちで簡単!森林浴
4
竜宮太郎
寄生虫カードゲーム
5
麻布大学附属高等学校 分解者
ミミズの分解速度について
6
栃木県立大田原女子高等学校 なでしこチャネル
はたらく神経
7
神奈川県立厚木高等学校 うるとら ばいおれっと
植物の力でUVカット!!
8
清真学園高等学校 Stanley-stanley(スタンリースタンリー)
スタンリー博士とゆかいな仲間たち
9
Luminescent(ルミネッセント)
発光?蛍光?光る生物
10
神奈川県立相模原中等教育学校 チームかきぴーず
マメから学ぼう!~メンデルの法則~
11
東京都立新宿高等学校 オレンジ戦隊リモネンジャー
リモネンの不思議
12
Alumar(アルマー)
Alumar島水質調査
13
Creature(クリーチャー)
ねんたろうとワクワク粘菌生活
14
清真学園高等学校 EYE(アイ)してる!
色々な動物の目の仕組み
15
シーシェパードから国民を守る会
ねえ知ってる?クジラのうんちってオレンジ色なんだって
16
麻布大学附属高等学校 pond skater(ポンドスケーター)
アメンボの生態
17
Vang Vieng(ヴァンヴィエン)
爽快な春を目指して
18
東京都立新宿高等学校 細菌バスターズ
抗生物質の働かせ方改革

発表は質疑応答も含めて1チーム11分でした。

今回は、テーマが多岐にわたり、聞いていて飽きない内容でした。

審査・表彰

外部からお招きした審査員の評価や一般の来場者の投票で順位が決定しました。

審査は、高校生バイオコンが「教育性・独創性・実現可能性・プレゼンテーション」の4項目、バイオものコンが「科学性・独創性・社会貢献度・表現性・完成度」の5項目を総合的に評価します。

「高校生バイオコン」は高校生チームを対象とし、「バイオものコン」は高校生チーム、大学生チームを合わせた全18チームを対象として評価しました。

「バイオものコン」は「花粉症」をテーマにしたカードゲームを作成した大学生チーム「Vang Vieng」チームが優勝しました。自分自身の経験からテーマを考え、新しい発想での測定技術を開発し、更なる応用性を感じさせる内容が審査員や来場者から高い評価を得ました。

審査結果は以下のとおりです。

高校生バイオコン受賞チーム

賞等
チーム名
題目
優勝
神奈川県立相模原中等教育学校 チームかきぴーず
マメから学ぼう!~メンデルの法則~
第2位
清真学園高等学校 EYEしてる!
色々な動物の目の仕組み
第3位
麻布大学附属高等学校 pond skater
アメンボの生態
横浜市教育委員会賞
東京都立新宿高等学校 オレンジ戦隊リモネンジャー
リモネンの不思議

バイオものコン受賞チーム

賞等
チーム名
題目
優勝
Vang Vieng
爽快な春を目指して
審査員特別賞
札幌日本大学高等学校 おがフレ
おうちで簡単!森林浴
竜宮太郎
寄生虫カードゲーム
栃木県立大田原女子高等学校 なでしこチャネル
はたらく神経
会場賞
Vang Vieng
爽快な春を目指して
実験賞
Creature
ねんたろうとワクワク粘菌生活
麻布大学附属高等学校 pond skater
アメンボの生態
社会貢献賞
iGEMers
大腸菌による浸透圧および血糖値測定を介した脱水検知技術の開発

コンテスト終了後の懇親会では参加学生と高校生たちが審査員の方々と楽しい時間を過ごしました。

審査員のアドバイスを参考に、テーマをさらに深めることを期待しています。

力作揃いの教材で遊べる「お試しタイム」も盛況
力作揃いの教材で遊べる「お試しタイム」も盛況

来場者に粘菌の実物を見せながら説明する様子
来場者に粘菌の実物を見せながら説明する様子

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東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

生命理工学院 バイオ創造設計室

E-mail : biocreat@bio.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2487

令和元年度学位記授与式及び令和2年度入学式の挙行について

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令和元年度学位記授与式及び令和2年度入学式の挙行については、3月6日(金)17時頃に決定しお知らせいたします。

詳細は各イベントページをご覧ください。

新型コロナウイルス感染症にかかる今後の状況により変更が生じる場合には、各イベントページにてお知らせします。

お問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp

東工大DLabが「TRANSCHALLENGE社会」と「東工大未来年表」を発表 人々とともに考えた“ありたい”未来社会の姿を発信

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東京工業大学未来社会DESIGN機構(以下、DLab)は、人々が望む未来社会とは何かを、社会の一員として、学内外のさまざまな方と広く議論しながらデザインしていくための組織です。2020年1月20日、DLabのおよそ1年半にわたる活動から生まれた「未来社会像」と「東京工業大学未来年表」の発表イベントが、東京・渋谷スクランブルスクエアの「渋谷キューズ」で開催されました。高校生、大学生、企業・官公庁の方々など100名を超える参加者が集まり、トークセッションやワークショップも行われた当日の模様を紹介します。

DLabの活動とその成果を多様な形で伝える

DLabでは2018年9月の発足以来、学内外の幅広い方々と未来社会の姿の追求を続けてきました。未来の“あるべき”姿ではなく、社会の人々に望まれる“ありたい”姿を探るため、ワークショップなどの参加型イベントを各所で開催しています。これまでのイベントを通して参加者の皆さんから得られた“ありたい未来”は100以上にもなり、DLabはこれらの“ありたい未来”をもとに24の「未来シナリオ」を作成しました。

今回のイベント「こんな“未来”ってどう思う?」では、この「未来シナリオ」を年代順に並べた「東京工業大学未来年表」と、DLabが考える一つの「未来社会像」として「TRANSCHALLENGE社会outer」が発表されました。

会場には「未来を担う立場としてさまざまな方と話をすることで、これからの社会を考えるヒントにしたい」という高校生や、「理工系の大学でありながら、リベラルアーツ教育にも力を注ぐ東工大が描いた未来像を見てみたいと思った」と話す若手社会人、「先の見えない時代に、未来のあり方を考えていこうとする試みに興味があった」と語る企業役員、さらに研究者やマスコミなど、100名を超える参加者が集まりました。

イベントでは上記発表に加え、DLabのメンバーである研究者や経営者が未来社会について語るトークセッションや、参加者全員が4名ずつのチームになって取り組むワークショップなども行われ、DLabの活動とその成果をさまざまな形で体験していくイベントになりました。

イベントの模様(動画)

来場者の様子

来場者の様子

来場者の様子

未来社会像「TRANSCHALLENGE社会」を動画で紹介

DLabの大きな特徴の一つは、“ありたい”未来の姿を、広く社会の人々とともに考えていくことです。イベントは、益一哉学長からの「未来を考えるといっても一人では限界があります。そこで社会の多くの方とともに考えることにしました。本日のイベントを、ぜひ皆さんが未来を考えるきっかけにしてもらえればと思います」という開会宣言で始まりました。

益学長の開会宣言

益学長の開会宣言

開会宣言の後、DLabの提示する一つの「未来社会像」である「TRANSCHALLENGE社会」を描いたメッセージ動画の紹介が行われました。

「TRANSCHALLENGE社会」は、24の「未来シナリオ」のなかの四つのシナリオをもとに創られており、動画では「困難への挑戦が科学・技術を進化させ、人類を成長させる原動力となってきた」という前提を踏まえ、「場所や身体、距離などの制約に縛られることなく、誰もが、いつでも、年齢などを問わず挑戦する機会が与えられる」ことを目指すというその概要が紹介されました。

動画にはDLabのメンバーであるリベラルアーツ研究教育院の川名晋史准教授も登場。「社会や自分の人生を前に進めていくためには、思い切ってチャレンジすることも必要です。『覆水盆に返らず』といいますが、失敗を別の『盆』で受け止め、生かしていけるような寛容な社会づくりを技術や法制度で助けていきたいと考えています」と、今後の活動への期待を語りました。

また、DLab副機構長を務める科学技術創成研究院 副研究院長の大竹尚登教授も動画に登場し、DLabの狙いについて説明。大学の役割として「喫緊の課題に対応する」「次の次の科学と技術を創る基礎研究を進展させる」ことに加え、「未来が見えにくくなるなかでポジティブな未来像を描き、科学技術の力に人文社会の知見を交えて、そこに向かっていく方法についても考える」ことも重要だとし、DLabがその役割を担う一組織であると説明しました。

DLabメンバーが幅広い分野の知見を踏まえたトークを展開

プログラムはさらに、DLabメンバーによるトークセッションへと続いていきます。リベラルアーツ研究教育院の伊藤亜紗准教授の進行により、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の蟹江憲史教授、株式会社トレイル 副代表 マネージングディレクターの杢野純子氏、リベラルアーツ研究教育院長の上田紀行教授とDLab副機構長の大竹教授がそれぞれの立場から意見を交わしました。

トークセッションの様子

トークセッションの様子

トークセッションの様子

セッションでは導入として、大竹教授が、DLabの設立経緯、チーム編成、活動プロセスなどを簡単に説明した後、「新たな科学技術や社会制度によって挑戦する人を応援したい」という「TRANSCHALLENGE社会」の狙いを語りました。

トークはさらに話し手を替え、DLabでの議論のあり方などに展開していきます。東工大卒業後、エンターテイメント業界などで活躍を続けてきた杢野氏は、「ありたい未来の姿を考え、それを実現していくには、さまざまな利害関係や今ある社会的・技術的制約にも目を向ける必要がある。DLabでの議論が、そうした課題を解決する技術や社会制度を生むきっかけになれば嬉しい」と思いを語りました。

「癒やし」という概念の提唱者としても知られる上田教授は、「ありたい未来を考えるプロセスは、人間の欲望と向き合うプロセスでもあります。その過程では、“科学技術で実現はできるけれど、実現すべきでないこと”についても考える必要があるでしょう」と、別の視点から問題提起を行いました。

SDGsなどサステナビリティ関連の研究を続ける蟹江教授は、個人の欲望が周囲を省みないまま実行された際の社会への負荷などに触れながら「個人の欲望や人間の本質、倫理的問題も考慮しながら未来社会のあり方を考えることが、DLabの正式名称にも入っている“未来社会デザイン”なのだと思う」と意見を述べました。

さらに議論の締めくくりでは、大竹教授が未来社会実現に向けた研究が大学で実際に進められていくことの重要性を語るなど、幅広い分野の知見を踏まえた議論が展開されました。

「ロボットと恋に落ちたら…」来場者が気になるテーマを選んで語り合うワークショップ

トークセッションの後は、イベントのもう一つの主要プログラムである来場者全員が参加するワークショップが行われました。まず、「1. 宇宙で暮らせるようになったら」「2. ある日、ロボットと恋に落ちたら」「3. 永遠の命を得られたら」という三つのテーマが発表され、来場者はそれぞれ興味のあるテーマを選びます。そして同じテーマを選んだ人同士が即席で4名のチームを結成。その際の条件は「自分と異なるバックグラウンドを持つ人とチームを組む」ことです。

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

異なるバックグラウンドを持つメンバー同士の対話

熱心に議論する参加者たち

熱心に議論する参加者たち

熱心に議論する参加者たち

盛況なグループワーク

盛況なグループワーク

盛況なグループワーク

ワークショップの様子

ワークショップの様子

進行役を務める株式会社ロフトワーク 代表取締役の林千晶氏により、「相手の話をよく聴く」「短く話す」「(対話を)見える化する」という“対話の心得”が紹介された後、会場の各所で来場者によるグループワークが始まりました。グループワークでは「各テーマで表現された未来が実現されたら、自分たちの生活はどう変わるか」「その未来を実現するために、自分たちは何ができるか」について、メンバーで話し合いながら考えをまとめていきます。会場からは「ロボットと恋ができるようになったら、恋愛ベタの人にもチャンスが増える」「永遠の命を実現するには、健康医療技術の進化と社会制度の整備が不可欠」などさまざまな意見が上がり、最後には希望者による発表も行われました。

ワークショップ参加者による意見発表

ワークショップ参加者による意見発表

ワークショップ参加者による意見発表

今後も社会とともに未来社会像の追求を続ける

佐藤機構長
佐藤機構長

イベントの締めくくりには、未来社会DESIGN機構長を務める佐藤勲総括理事・副学長が、「社会とともに大学としての学術的合理性をもって“ありたい”未来社会の姿を追求していきたい」と今後の抱負を述べ、来場者にDLabの活動への参加を呼びかけました。

すべてのプログラムが終了した後も、多くの人が会場内に掲示された「東京工業大学未来年表」(縮小版)に見入っていました。さまざまなバックグラウンドを持つ人が、未来の社会のあり方についての発信や意見交換を行った本イベントは、多様な方々との対話の中から新たな気づきを生みだしていくDLabの活動スタイルを体感する場ともなりました。DLabでは今後もこうした参加型イベントを行い、未来社会のあり方を追求していきます。

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者表

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者

イベント終了後、東京工業大学未来年表(縮小版)を見ながら歓談する来場者

会場内で掲示したものは持ち運びのできる縮小版であり、大岡山キャンパス百年記念館1階には高さ6メートル×幅9.1メートルの「東京工業大学未来年表」が掲示されています。
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お問い合わせ先

未来社会DESIGN機構事務局

E-mail : lab4design@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3619

シリコン内電子スピンの量子非破壊測定に成功 シリコン量子コンピュータの量子誤り訂正に向け大きく前進

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理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの米田淳研究員(研究当時)、樽茶清悟グループディレクター、東京工業大学 工学院 電気電子系の小寺哲夫准教授らの共同研究チームは、シリコン中の単一電子スピン[用語1]の「量子非破壊測定[用語2]」に成功しました。

本研究成果により、シリコン中の単一電子スピンを用いた量子コンピュータ[用語3]に不可欠である「量子誤り訂正[用語4]」の実現が大きく近づくと期待できます。

シリコン中の単一電子スピンは、半導体プロセス技術の応用による集積実用化が見込まれる、量子コンピュータの有力候補です。しかし、単一電子スピンを読み出す際にスピン状態が必要以上に破壊され、量子誤り訂正をはじめとした多くの有用なプロトコルの実行が困難でした。

今回、共同研究チームは、イジング型の相互作用[用語5] を利用し、隣接電子スピンに情報をうまく転写することで、量子非破壊測定を初めて実証しました。

本研究は、オンライン科学雑誌『Nature Communications』(3月2日付)に掲載されました。

電子スピンの量子非破壊測定実験のイメージ

電子スピンの量子非破壊測定実験のイメージ

共同研究チーム

理化学研究所 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ

  • 研究員(研究当時)
    米田淳(よねだ じゅん)
  • 研究員
    武田健太(たけだ けんた)
  • 特別研究員
    野入亮人(のいり あきと)
  • 研究員
    中島峻(なかじま たかし)
  • グループディレクター
    樽茶清悟(たるちゃ せいご)

東京工業大学 工学院 電気電子系

  • 准教授
    小寺哲夫(こでら てつお)

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出(研究総括:荒川泰彦)」の研究課題「スピン量子計算の基盤技術開発(研究代表者:樽茶清悟)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究S「量子対の空間制御による新規固体電子物性の研究(研究代表者:樽茶清悟)」、文部科学省光量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)基礎基盤研究「シリコン量子ビットによる量子計算機向け大規模集積回路の実現(研究代表者:森貴洋)」による支援を受けて行われました。

背景

半導体デバイスの微細化による性能向上が限界を迎えつつあるなか、量子コンピュータは新しい動作原理に基づく次世代コンピュータとして注目され、世界的に開発競争が活発化しています。とりわけ、シリコン中の単一電子スピンを利用した量子コンピュータは、現行の集積エレクトロニクス技術の応用が見込めるため、大規模化による計算能力向上の観点から注目を集めています。

量子コンピュータ内の情報は、量子力学的な重ね合わせ状態[用語6]を用いて符号化されます。一般に量子力学的な状態は、「観測」によって影響を受けることが知られています。このため、量子コンピュータの誤りを検出・訂正する際には、観測による変化が測定される量に及ばない「量子非破壊測定」が用いられます。

シリコン中の単一電子スピンは、長い量子情報保持時間と超高精度の量子演算が実証された一方で、「量子誤り訂正」など、測定結果に基づく量子情報処理に必要となる量子非破壊測定は実現していませんでした。

研究手法と成果

シリコン中の単一電子スピンを読み出す手法として、これまでは主に、電子スピンを高速に検出可能な電荷へと変換する方法が用いられてきました。しかしこの方法では、電荷の検出過程で電子スピンが必然的に影響を受けてしまいます。量子非破壊測定は、この問題を解消できる有力な方法ですが、その実現には、スピン状態の自然な緩和を克服する「高速性」と、スピン状態の緩和を誘起しない「非破壊性」の両立が求められます。

そこで共同研究チームは、電子スピンの情報を、電荷としてではなく、いったん別の電子スピンに転写してから読み出すことを試みました(図1)。測定されるスピン量(上向きか下向きか)が転写の際に影響を受けないよう、局所的な磁場を加えることで、電子スピン間にイジング型の相互作用が働くように試料を設計しました(図2)。転写した後に、転写先の電子スピンの向きを従来通り電荷へ変換する方法で読み出すことで、検出速度の高速性と非破壊性を両立させ、シリコン中の単一電子スピンの量子非破壊測定に成功しました。さらに、この手法は補助に同種の量子系を用いているため、拡張性への技術的制約が最小限に抑えられます。

図1. 従来方法との比較

図1. 従来方法との比較


単一の電子スピンを読み出す従来の方法(左)では、読み出しの際に電子スピンが破壊されていた。今回の実験で用いた方法(右)では、イジング型の相互作用を利用して電子スピン(青)の情報を別の電子スピン(赤)へと転写してから読み出すことで、測定の影響が及びにくくしている。

図2. 本研究で設計した試料の構造

図2. 本研究で設計した試料の構造


実験には、シリコン中に電子スピンを二つ隣り合わせて、閉じ込められるようにした試料を用いた。電極に電気信号を加えることで、電子スピンを自在に制御できる構造になっている。イジング型の相互作用に必要となる局所的な磁場は、試料上部に微小な磁石を取り付けることで実現している。近傍に配置したトランジスタ構造を電荷検出器として用いることで、補助電子の電荷を高速に読み出すことが可能になっている。

量子非破壊測定には、測定される電子スピンの向きが変わらないという「非破壊性」と、電子スピンの向きの「読み出し」の機能が備わっています。これらを組み合わせることで、電子スピンの向きを確定させる「初期化」を実装することができます(図3)。これら量子非破壊測定の三つの機能が実際にどれくらいの精度で実行できているかを調べたところ、非破壊性が99%、読み出しと初期化が80%であることが分かりました。

図3. 量子非破壊測定の3機能

図3. 量子非破壊測定の3機能


理想的な量子非破壊測定では、電子スピンが上向きか下向きかを、測定の前後で変えることなく(非破壊性)、知ることができる(読み出し)。このことは、測定結果から測定後の電子スピンの向きを確定できることを意味している(初期化)。

量子非破壊測定は通常の破壊測定と異なり、単一電子スピンを繰り返し測定することが可能です。この性質を利用することで、読み出しの精度は最大で95%に達することが分かりました(図4)。さらに、観測結果から精度の高い事象を予測する手法を開発し、下向きスピン状態への初期化(向きの確定)の精度を最大99.6%程度まで高められることを示しました。

図4. 量子非破壊測定の性能評価

図4. 量子非破壊測定の性能評価


量子非破壊測定の3機能がどれくらいの精度で実行できているかを評価したもの。非破壊測定を繰り返すことで、読み出しと初期化の精度を高められる。

今後の期待

シリコン中の単一電子スピンは、既に長い量子情報保持時間と超高精度の量子演算が実証されています。本研究で、拡張性への制約が少なく、量子非破壊性をもつ測定が実証されたことで、シリコン量子コンピュータの開発は、量子誤り訂正などの測定結果に基づく量子情報処理を実証する、新たな段階へと進むと期待できます。

用語説明

[用語1] 電子スピン : 電子の自転に相当する内部自由度。その自転方向に応じて、上向きあるいは下向きの電子スピンと呼ぶ。

[用語2] 量子非破壊測定 : 量子力学的な状態に対する測定で、例外的に、測定される物理量に擾乱を及ぼさないもの。理想的な量子射影測定。

[用語3] 量子コンピュータ : 重ね合わせおよび量子もつれといった量子力学的状態を利用して情報を符合化し、超高速計算を実現するコンピュータ。ここでは特に、任意の量子アルゴリズムを実装できるゲートモデルによる量子計算を行うものを指す。

[用語4] 量子誤り訂正 : 量子コンピュータに生じた誤りを、検出し訂正すること。観測によって量子状態が必ず影響を受けることを考慮した特殊な情報の符合化と、量子非破壊測定を組み合わせることで実現できる。実用的な大規模量子コンピュータを実現するためには、必要不可欠な要素技術と考えられている。

[用語5] イジング型の相互作用 : 電子スピンが互いに逆向きになろうとする力が、特定方向の成分にのみ働く場合をイジング型、全成分に対して働く場合をハイゼンベルグ型の相互作用と呼ぶ。

[用語6] 量子力学的な重ね合わせ状態 : 量子力学の法則に従う系は、異なる物理量に対応する状態を同時にとることができる。そのような状態を、重ね合わせ状態と呼ぶ。例えば電子スピンの場合、上向きと下向きのどちらでもあるような重ね合わせ状態をとることができる。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Quantum non-demolition readout of an electron spin in silicon
著者 :
J. Yoneda, K. Takeda, A. Noiri, T. Nakajima, S. Li, J. Kamioka, T. Kodera, S. Tarucha
DOI :
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お問い合わせ先

理化学研究所 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ

研究員(研究当時) 米田淳

グループディレクター 樽茶清悟

東京工業大学 工学院 電気電子系
准教授 小寺哲夫

E-mail : kodera.t.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3421

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


令和元年度手島精一記念研究賞 授与式を挙行

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2月27日、大岡山キャンパス東工大蔵前会館くらまえホールにおいて、令和元年度手島精一記念研究賞の授与式が行われました。授与式には各賞受賞者のほか、本学関係者、本学同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会の事務局長、元手島工業教育資金団役員が出席しました。

手島精一校長は、東京工業大学の前身である東京工業学校及び東京高等工業学校の校長として25年有余にわたり工業教育に努め、日本の工業教育の進展のために多大な貢献を果たしました。手島校長が1917年に退官した際、その功績を称えるため、当時の政界、財界、教育界の諸名士が発起人となって募金が行われ、「手島精一記念研究賞」が設けられました。創設以来、本学関係者及び本学大学院課程学生の研究を奨励し、多くの優れた業績の栄誉を称えています。

今年度は、研究論文賞、博士論文賞、留学生研究賞、発明賞、若手研究賞(藤野・中村賞)及び著述賞の6つの賞を受賞した29件・計59名に対し、益一哉学長から賞状と副賞が授与されました。

記念撮影

記念撮影

令和元年度受賞者

今年度の受賞者は、以下のとおりです。(敬称略)

研究論文賞(3件)

  • 原田哲仁(九州大学 生体防御医学研究所 助教)
  • 前原一満(九州大学 生体防御医学研究所 助教)
  • 半田哲也(科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 特任助教)
  • 有村泰宏(ロックフェラー大学 研究員)
  • 野上順平(九州大学 生体防御医学研究所 研究員)
  • 林‐高中陽子(大阪大学 大学院生命機能研究科 特任研究員)
  • 白髭克彦(東京大学 定量生命科学研究所 教授)
  • 胡桃坂仁志(東京大学 定量生命科学研究所 教授)
  • 木村宏 (科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター 教授)
  • 大川恭行(九州大学 生体防御医学研究所 教授)
  • "A chromatin integration labelling method enables epigenomic profiling with lower input"
    Nature Cell Biology 21,287-296(2019))

  • 岩﨑孝之(工学院 電気電子系 准教授)
  • 宮本良之(産業技術総合研究所 チーム長)
  • 谷口尚 (物質材料研究機構 フェロー)
  • Petr Siyushev(ウルム大学 博士研究員)
  • Mathias H. Metsch(ウルム大学 博士課程学生)
  • Fedor Jelezko(ウルム大学 教授)
  • 波多野睦子(工学院 電気電子系 教授)
  • "Tin-Vacancy Quantum Emitters in Diamond"
    Physical Review Letters 119,253601-22 December 2017)

  • 梶谷孝 (技術部 すずかけ台分析部門 技術職員)
  • 本川究理(総合理工学研究科 物質電子化学専攻 修士課程(平成27年度修了生))
  • 小阪敦子(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 技術限定職員)
  • 庄子良晃(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授)
  • 春木理恵(高エネルギー加速器研究機構 研究員)
  • 橋爪大輔(理化学研究所 創発物性科学研究センター チームリーダー)
  • 引間孝明(理化学研究所 研究員)
  • 高田昌樹(東北大学 多元物質化学研究所 教授)
  • 矢澤宏次(株式会社JEOL RESONANCE)
  • 守島健 (京都大学 大学院理学研究科 助教)
  • 柴山充弘(東京大学 物性研究所 教授)
  • 福島孝典(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授)
  • "Chiral crystal-like droplets displaying unidirectional rotational sliding"
    Nature Materials 18,266-272(2019))

博士論文賞(16名)

数学関係部門

  • 奥村喜晶(理学院 数学系 特別研究員)

"A Drinfeld module analogue of the Rasmussen-Tamagawa conjecture"

物理学関係部門

  • 橘優太朗(野村総合研究所 コンサルタント)

"Deep Autoencoder Applied for Feature Extraction of Temporal Variation in Quasar Optical Flux"

  • 濵田真人(理学院 物理学系 研究員)

"Theory of Generation and Conversion of Phonon Angular Momentum"

化学関係部門

  • 大島崇義(Max Planck Institute for Solid State Research)

「層状化合物を中核とした可視光応答型光触媒系の開発」

  • 半沢幸太(科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 博士研究員)

"Study on Transition Metal-Based Chalcogenide Superconductors and Semiconductors"

生命理工学関係部門

  • 見原翔子(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 研究員)

「窒素固定型シアノバクテリアAnabaena sp.PCC 7120のレドックス制御システム」

材料工学関係部門

  • 味戸沙耶(東北大学 金属材料研究所 学術研究員)

"Electrochemical Study on Hydrogen Absorption of Steel in Atmospheric Corrosion"

  • 津之浦徹(株式会社IHI)

「ケイ素合金を用いた溶融含浸法による炭化ケイ素複合材料の開発」

応用化学関係部門

  • 秦裕樹(物質理工学院 応用化学系 博士研究員)

「高分子クラウディングによる結晶性セルロースオリゴマーの自己集合化制御と機能性材料への展開」

機械工学関係部門

  • 舩田陸(The University of Texas at Austin, Postdoctral researcher)

「設置式視覚センサネットワークを用いた分散最適化に基づく協調環境モニタリング」

情報学関係部門

  • 北川冬航(日本電信電話株式会社 研究員)

"Cryptographic Obfuscation Based on Secret-Key Primitives"

  • 黒田大貴(産業技術総合研究所 特別研究員)

"A Study of Sparsity-Aware Estimation of Piecewise Continuous Signals and Systems"

エネルギー関係部門

  • 池田翔太(理化学研究所 光量子工学研究センター 特別研究員)

「低エネルギー大強度重イオンビーム加速のための4ビームIH-RFQ線形加速器の開発」

  • 西岡駿太(理学院 化学系 日本学術振興会特別研究員)

「異元素及びキャリアドーピングを基盤とした水分解光触媒の開発」

その他境界領域的な研究部門

  • 田岡祐樹(環境・社会理工学院 融合理工学系 助教)

"Development of co-design tools for collective ideation under a power asymmetry context due to differences in expertise"

  • 柳澤渓甫(東京大学大学院 農学生命科学研究科 日本学術振興会特別研究員PD)

"Fast structure-based virtual screening with commonality of compound substructure"

留学生研究賞(4名)

  • CHIU WAN-TING(東京大学 生産技術研究所 日本学術振興会外国人特別研究員)

「超臨界二酸化炭素を用いた電気化学方法によるシルク繊維の金属化と機能化」

  • NGUYEN HUYNH DUY KHANG(工学院 電気電子系 研究員)

"Development of BiSb topological insulator for ultralow power spin-orbit torque magnetoresistive random access memory"

  • NGUYEN KHANH TIEN(生命理工学院 生命理工学系 博士後期課程)

"Construction of supramolecular nanotubes from protein crystals"

  • PANG JIAN(工学院 電気電子系 研究員)

"Area-Efficient High-Data-Rate Millimeter-Wave Transceivers Using CMOS Bi-Directional Amplifiers for Next-Generation Wireless Communications"

発明賞(1件)

  • 岩井雅子(生命理工学院 生命理工学系 特任助教)
  • 太田啓之(生命理工学院 生命理工学系 教授)
  • 下嶋美恵(生命理工学院 生命理工学系 准教授)

「トリアシルグリセロール高生産性藻類の作製法」

若手研究賞(藤野・中村賞)(2件)

  • 合田義弘(物質理工学院 材料系 准教授)

「低次元構造を活用した第一原理電子論による磁性金属材料の設計」

  • 吉沢道人(科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 准教授)

「芳香環ナノ空間の合理構築と機能開拓」

著述賞(3件)

  • 稲木信介(物質理工学院 応用化学系 准教授)
  • 淵上寿雄(東京工業大学 名誉教授)
  • 跡部真人(横浜国立大学 大学院工学研究科 教授)

『Fundamentals and Applications of Organic Electrochemistry :Synthesis,Materials,Devices』(Wiley)

  • 川名晋史(リベラルアーツ研究教育院 准教授)

『共振する国際政治学と地域研究』(勁草書房)

  • 中島淳一(理学院 地球惑星科学系 教授)

『日本列島の下では何が起きているのか』(講談社 ブルーバックス)

賞状授与
受賞状授与

受賞者を代表して挨拶する半田特任助教(研究論文賞)
受賞者を代表して挨拶する半田特任助教(研究論文賞)

お問い合わせ先

研究推進部 研究企画課 手島記念担当

E-mail : tokodai.tejima@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3805

「鉄を守る錆」誕生の観察に成功 従来の1,000倍高速の放射光計測が、錆の形成過程を解き明かす

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発表のポイント

  • 化学反応の時間発展を実時間計測。
  • 鉄の不動態化の初期過程を、最新の放射光技術と解析技術で観測。
  • 赤錆を食い止める黒錆が形成される過程を解明。黒錆の膜が形成される初期は欠陥が多いが、後からその欠陥が埋められる。

概要

東北大学 大学院理学研究科 若林裕助教授(東京工業大学 元素戦略研究センター 特定教授)の研究グループは、これまで明らかにされていなかった鉄の不動態被膜形成初期過程を、高速X線反射率測定[用語1]によって解明しました。X線反射率法は表面分析に広く用いられる手法ですが、数分から数十分の時間がかかります。これを、情報科学も活用することで20ミリ秒まで高速化し、被膜形成過程の実時間観測を実現しました。観測された酸化の初期過程は、最初に欠陥の多い厚い膜を形成し、次に膜内部の原子配列を整える順番で起こっていました。膜成長の速度を決める因子が最初の1秒と後の時間で異なることも判明しました。この知見は固液界面での典型的な化学反応の理解を、従来とは異なる角度で深めるものです。今後、物理的な理解が難しい固液界面の化学反応に関する研究に新しい情報が加わる事が期待されます。

「鉄を守る錆」誕生の観察に成功

背景

水中に置いた鉄は徐々に錆びますが、条件によっては表面に黒錆の被膜が形成され、それ以上錆が進行しなくなります。このような黒錆による不動態の形成がどのように進行するのか、特にその初期過程については、明らかにされていない部分が多くあります。ことに1秒より早い過程では測定手段が無く、被膜の成長過程は多く仮説に基づいていました。

研究の内容

東北大学大学院理学研究科物理学専攻 若林裕助教授(東京工業大学元素戦略研究センター特定教授)と藤井宏昌特別研究学生らの研究グループは、大型放射光施設SPring-8の表面X線回折ビームラインBL13XUを用いたX線反射率法により酸化被膜の密度と厚さを25ミリ秒の時間分解能で測定しました。通常のX線反射率法は数分以上の時間がかかる手法ですが、試料の特性に合わせた測定法の工夫で1,000倍の高速化を達成しました。得られた実験結果をベイズ推定の手法で解析する事で、信号強度の弱い一枚一枚の写真から実際の界面構造を取り出すことができました(図)。

図1.

図:(左)20ミリ秒の露光時間で撮影したX線反射率と、ベイズ推定によるフィット。横軸は反射角、縦軸は散乱X線の強度。
(右)得られた界面付近の電子密度。横軸は鉄表面からの距離。

できあがった不動態は、従来から考えられていた通り密度の高い内層と密度の低い外層の二層構造でした。内層の形成過程は、被膜形成開始から2秒後以降は従来から提唱されていた理論で完全に説明できましたが、最初の2秒間はこの理論から外れた振る舞いをしました。最初期の0.4秒間は内層の密度が低く、まずは膜の厚さを増加することを優先した成長過程を示すことが明らかになりました。研究グループではこの結果をもとに、金属鉄から黒錆ができる原子スケールのメカニズムを提案しました。

本研究では、鉄や多くの金属材料の表面を保護している不動態被膜の形成過程を実験的に観測し、その原子レベルでの成長過程を解明しました。従来の理論は確かに殆どの「遅い」過程を説明しますが、被膜が成長し始める最初期の状況を説明できない事を明らかにしました。また、固体と液体の界面で進行する化学反応を、生成物の空間分布から実時間観測する手法を提示しました。今後、物理的な理解が難しい固液界面の化学反応に関する研究に新しい情報が加わる事が期待されます。
本研究の一部は、東京工業大学が受託する文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>(課題番号 JPMXP0112101001)で行われました。

用語解説

[用語1] 高速X線反射率測定 : 通常のX線反射率測定では装置が機械的に動く必要があるため、どれほど強いX線を用いても数分以上の時間が必要であった。表面の実時間観測のために機械的な動作なしに反射率を測定できる手法が何種類か提案されており、これらの手法では用いるX線の強度を増やす事で高速測定が可能になる。今回はさらに、弱い信号からも情報を取り出せるように解析法にベイズ推定を用いた。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Materials
論文タイトル :
Early stages of iron anodic oxidation: defective growth and density increase of oxide layer
著者 :
Hiromasa Fujii, Yusuke Wakabayashi, and Takashi Doi
DOI :

お問い合わせ先

東北大学 大学院理学研究科 物理学専攻

教授 若林裕助

E-mail : wakabayashi@tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-7750

報道に関すること

東北大学 大学院理学研究科 広報・アウトリーチ支援室

E-mail : sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp
Tel : 022-795-6708

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

第13回学生応援フォーラム 開催 学生の多彩な活動を発信

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東京工業大学学生支援センターの自律支援部門は12月25日、「第13回学生応援フォーラム」を大岡山キャンパス百年記念館で開催しました。

益一哉学長(前列中央)と参加者の集合写真

益一哉学長(前列中央)と参加者の集合写真

自律支援部門は、学生間・大学・地域にとって有益で公的な性格をもつ様々な学生活動を支援しています。これらの活動に関わる本学学生の活躍を学内外の方々に広く知っていただくことを目的として、学生応援フォーラムを毎年開催しています。

今回のフォーラムには、本学の学生・教職員、招待講演に招いた三重大学の学生・教職員に加え、千葉大学、東京大学、亜細亜大学、多摩大学、法政大学の学生・教職員や一般の方も含め、計86名が参加しました。

フォーラムの開会

司会進行は、後藤美奈さん(生命理工学院 生命理工学系 学士課程3年)が務めました。
水本哲弥理事・副学長(教育担当)の開会挨拶、益一哉学長の挨拶に続き、自律支援部門長の長谷川純准教授(科学技術創成研究院)が自律支援部門及びフォーラムの趣旨について説明しました。

司会の後藤さん
司会の後藤さん

水本理事・副学長による開会挨拶
水本理事・副学長による開会挨拶

益学長から一言
益学長から一言

長谷川自律支援部門長による趣旨説明
長谷川自律支援部門長による趣旨説明

「ピアサポーター学生委員会」 三重大学

他の大学の優れた活動から学ぶため、三重大学からゲストスピーカーを招きました。

三重大学学生総合支援センターの鈴木英一郎講師、鈴木翔也さん(同大 人文学部 文化学科3年)、豊西遥奈さん(同大 人文学部 法律経済学科2年)が「ピアサポーター学生委員会」の活動について話しました。

ピアサポーター学生委員会は、同じ大学内の学生、つまり仲間(ピア)をサポートするために活動している団体です。活動拠点となる学内のピアサポートルームには、犬をモチーフにしたマスコットキャラクター「サポ太」が4匹います。具体的な活動としては、相談活動、新入生オリエンテーション(演劇風に三重大学の学生支援を紹介)、プレゼン練習会、就活支援イベント、他大学との交流会などを実施し、学内における様々な「つながり」作りに貢献しています。教職員もピアサポート活動が「楽しい活動」であることを重視しながら、「大人の手先」にしないことに留意し、学生だからこそ発想できるアイディアを大切にしているそうです。

発表を聞いた参加者からは、「学生たちが楽しみながら活動していることが伝わってきた」「アットホームな発表でわくわくした。実際の現場に足を運んでみたくなった」「何をやるか、を学生が決め、自由に行っていることと、大人が学生を利用してはいけないという方針に感銘を受けた」といった感想がありました。

三重大学による講演(左から 鈴木講師、豊西さん、鈴木さん)
三重大学による講演(左から 鈴木講師、豊西さん、鈴木さん)

口頭発表での活発な質疑応答
口頭発表での活発な質疑応答

口頭発表を熱心に聞く参加者

口頭発表を熱心に聞く参加者

口頭発表を熱心に聞く参加者

東工大の6つの学生活動

自律支援部門が支援する学生プロジェクトである「学勢調査」、「東工大学生ボランティアグループ(東工大VG)」、「理工系学生能力発見開発プロジェクト(リプロ)」、「ピアサポーター」、「Hult Prize(ハルトプライズ)東京工業大学」、「ACTION(アクション、東工大語学パートナー制度)」の6団体に参加している学生が、活動の内容や意義について紹介しました。

学勢調査

吉田拓暉さん(理学院 物理学系 学士課程2年)

吉田拓暉さん(理学院 物理学系 学士課程2年)

本学の全学生を対象にアンケート調査を実施し、その結果を提言書としてまとめ、学長に提出しています。
学生応援フォーラムは普段、他活動や他大学とのかかわりを持つことが難しい学勢調査にとって、新鮮な刺激を得るとともに私達の活動を周知する絶好の機会であると捉えています。私が学勢調査の学生スタッフになってから二年、学業と並行して活動をするのは大変忙しかったですが、自分自身の力になる経験だったとも思います。本フォーラムでは、自分の経験を交えて学勢調査の意義を広く発信できたのではないかと思います。フォーラムで得た新たなアイデアや人脈を活用して、多くの学生に認めてもらえるようなより良い活動を目指します。

東工大学生ボランティアグループ(東工大VG)

渡邉正理さん(理学院 物理学系 博士課程1年)

渡邉正理さん(理学院 物理学系 博士課程1年)

東工大VGは、復興支援・防災・地域連携を基軸とし、様々な活動を展開しています。今回の発表では、東工大生・教職員を対象とする「被災地スタディツアー」と、大岡山地区で実施している「子ども食堂」の活動報告を行い、有意義な議論を行うことが出来ました。いづれの活動も企画立案・運営に係る全てを学生が主体的に行っており、座学では学ぶことの出来ない「実践力」を身につけることが出来たと感じています。これらの経験を糧とし、今後も自己研鑽に励みます。さらには、東工大VGの活動全体をより良いものにしたいと考えます。

理工系学生能力発見開発プロジェクト(リプロ)

秋澤優希さん(工学院 システム制御系 学士課程2年)

秋澤優希さん(工学院 システム制御系 学士課程2年)

私たちは、学外から講師を招いての講義やシンポジウムの企画、中高生向けに科学の面白さを伝える企画、学士課程学生の積極的な学会参加を活動としておこなっています。
自分はただ受け身的に学習するのではなく、能動的に学習し行動することの素晴らしさを日頃の学生生活から学んでいます。それを伝えるべくこの団体での活動を行っています。
今回のフォーラムでは、他団体の発表から多くの事を学ぶことが出来ましたし、自分達の目的が何であり、どのような活動をしているかを広く周知することが出来たと思っています。またありがたいことに様々な方から応援の言葉や共同企画など、声をかけていただきました。今後は覚えてもらいやすくするために団体名を変えることも視野に入れ、一層影響力を持って学外学内問わず変革できる団体になれるよう、精進してまいります。

ピアサポーター

井澤和也さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程3年)

井澤さん(左)と池田千尋さん(理学院 地球惑星科学系 修士課程1年)
井澤さん(左)と池田千尋さん(理学院 地球惑星科学系
修士課程1年)

東工大ピアサポーターでは学生との相談活動を軸として学生同士のサポートをしています。毎年、4月は新一年生からの履修相談や学生生活に関する相談が特に多く、ピアサポーターはそれぞれの授業の合間を縫って相談を受けています。自分にとってピアサポーターの学生相談や研修は、人とのコミュニケーションの仕方を考えるきっかけになりました。その経験は今後の授業でのグループワークなどでも生かしたいと思います。学生応援フォーラムでは、学内外の学生がそれぞれの学生活動を通して感じたことや考えたことが伝わってきたので、とても良い刺激になりました。ピアサポーターの活動がより良いものになるよう、今後も充実したサポート活動をしていきたいと思います。

Hult Prize 東京工業大学

鳥飼龍太郎さん(工学院 機械系 学士課程2年)

鳥飼龍太郎さん(工学院 機械系 学士課程2年)

東工大ハルトプライズは学内で起業家精神を促進する学生主体の団体です。今回の学生応援フォーラムで発表したことは学内外の方々に私たちの活動を広く知ってもらう大変良い機会だったと思います。また他の団体の活動を聞くことによって私たちの抱える問題の解決に活かせると感じました。学業とハルトプライズとを両立させながら今回得られた気付きを生かして活動を続けていきたいと思います。

ACTION(東工大語学パートナー制度)

松尾博史さん(工学院 機械系 博士後期課程2年)

松尾博史さん(工学院 機械系 博士後期課程2年)

ACTIONは東工大で語学パートナー制度(Language Exchange Partner Program)を運営している団体です。私自身は、研究留学や国際学会で頻繁に海外に行く生活を送っています。私をはじめとして、海外留学中に現地で同様の語学交流(Tandem)を経験した学生が中心となり2018年10月に本制度を立ち上げました。2019年6月から自律支援部門の支援を受けています。制度開始から一年少ししか経っておらずまだまだ知名度が低い中、本フォーラムでの発表は対外的に活動を報告できる貴重な機会になりました。他団体とお互いに良い影響を与え合いながら、今後も制度充実に努めていきます。

パネル発表

フォーラムの後半では「図書館サポーター」「図書館サポーター謎班」「教育革新センターOEDO(Online Education Development Office、オンライン教育開発室)学生スタッフ」「SAGE(セージ、東京工業大学国際交流学生会)」「TISA(ティサ、東京工業大学留学生会)」「EPATS(イーパッツ、東工大海外研修企画団体)」「iGEM(アイジェム)東京工業大学チーム」「立志会」の8活動も、ショートプレゼンテーションを行ったのち、パネル発表に参加しました。

パネル発表の会場は、活発で積極的な意見交換を通じて学生の多彩な活動の輪を広げることができました。

パネル発表での活気に満ちた意見交換

パネル発表での活気に満ちた意見交換

パネル発表での活気に満ちた意見交換

フォーラムは、井村順一副学長の閉会挨拶をもって終了しました。

参加者の声

本学学生の発表に対して「自発的に考えている学生が多くて感銘を受けた」「学生ともっと連携を深め、より影響力の強い活動をしたい」「もっとこういった活動を周知する必要がある」「ユニークな取り組みと自主的な活動であり、学生の勉強以外でのパワーもたいへん強く感じた」「毎年参加しているが、今年はクリスマスということもあってか、とても和やかなムードで楽しかった。発表団体も増えていて、活動が盛り上がっているのがうらやましく思った」といった声が寄せられました。

懇親会

フォーラムのパネル発表で使用したポスターを懇親会場に展示し、学生活動についての紹介と情報交換を行いました。
水本理事・副学長による開会の挨拶で始まり、益学長から学生たちに向けたメッセージがありました。懇親会場でも互いの活動について活発な意見交換が続き、クリスマスらしいにぎやかで楽しい場となりました。学生支援センター副センター長の岡村哲至教授(工学院 機械系)による閉会挨拶で終了しました。

東工大基金

サークル等学生団体の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

学生支援センター自律支援部門

E-mail : siengp@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-7629

新型コロナウイルス:卒業・入学・受験予定、保護者、イベント参加予定の方々へ重要なお知らせ(随時更新)

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新型コロナウイルス流行により、例年とは異なる対応をせざるを得ない大学の活動で、一般の方にも関連する全学的な活動について、お知らせいたします。

なお、以下の対応につきましても、状況によりましては急遽変更することがありえますことを、ご了承いただけますようお願い申し上げます。

式典

東京工業大学は新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の観点から、学位記授与式については規模を大幅に縮小して挙行することとしました。また、入学式については中止することを決定しました。

詳しくは各イベントカレンダーをご覧ください。

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部総務課

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp

学外向けイベント

3月中の開催を予定しているイベントは中止・延期となる場合がございます。イベントカレンダーよりご確認ください。

本年の桜花開花時期のキャンパス開放は実施いたしません。お花見のための飲食を伴う集団での入構はご遠慮願います。

お問い合わせ先

東京工業大学 総務部広報・社会連携課

E-mail : koh.koh@jim.titech.ac.jp

学士課程入試・入学手続き・説明会

一般選抜(前期日程・後期日程)合格発表のキャンパス内掲示は実施しません。

大学構内での入学手続きを中止します。

詳細は下記ページをご覧ください。

お問い合わせ先

学士課程入試

東京工業大学 学務部入試課

E-mail : nyu.gak@jim.titech.ac.jp

学士課程入学手続き

東京工業大学 学務部教務課

E-mail : gak.nyutetsu@jim.titech.ac.jp

学士課程入試説明会

東京工業大学アドミッション部門

E-mail : opencampus@jim.titech.ac.jp

大学院入試・入学手続き・説明会

現在募集している2020年9月入学のIGP(B)およびIGP(C)の入試に係る留意事項については下記ページをご覧ください。

大学構内での入学手続きは中止します。詳細は下記ページをご覧ください。

IGP以外の入学予定者:

IGPの入学予定者:

3月中の開催を予定している大学院説明会は中止・延期となる場合がございます。最新の情報については下記ページにてご確認ください。

お問い合わせ先

大学院入試

東京工業大学 学務部入試課

E-mail : nyushi.daigakuin@jim.titech.ac.jp

大学院入学手続き

東京工業大学 学務部教務課(大岡山)

E-mail : kyo.dai@jim.titech.ac.jp

東京工業大学 学務部教務課(すずかけ台)

E-mail : suz.kyo@jim.titech.ac.jp

大学院説明会

説明会ページにてご確認の上、各学院・系コース担当者にお問い合せください。

施設利用

東京工業大学附属図書館につきましては、3月5日から当面の間、学外の方の大岡山本館、すずかけ台分館への入館をご遠慮願います。

お問い合わせ先

東京工業大学 研究推進部情報図書館課

E-mail : tos.som@jim.titech.ac.jp

在学生向け案内

学生向けお知らせメールニュース(一部、学内限定)にて本学の対応を掲載していますのでご覧ください。

教職員向け案内

教職員向けのお知らせを関連情報ページ(学内限定)にまとめていますのでご覧ください。

キラル結晶の右手系・左手系で反転する放射状スピン構造を発見

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要点

  • キラルな結晶構造が発現するスピン特性を、テルル単体に着目した実験から解明しました。
  • 鏡映しの関係にある右手系・左手系結晶では、放射状構造を持つスピンの向きが逆転することを見出しました。
  • 電流印加や光照射でスピン流を原理的に生成可能なことから、スピントロニクスの応用に繋がることが期待されます。

概要

東京大学大学院工学系研究科の坂野昌人助教、理化学研究所創発物性科学研究センターの平山元昭研究員、東京工業大学科学技術創成研究院の笹川崇男准教授、東京大学物性研究所の近藤猛准教授らの研究グループは、東京工業大学理学院の村上修一教授、産業技術総合研究所の三宅隆研究チーム長、広島大学放射光科学研究センターの奥田太一教授らの研究グループ、高エネルギー加速器研究機構の組頭広志教授らの研究グループ、東京大学大学院工学系研究科の岩佐義宏教授らおよび石坂香子教授らの研究グループと共同で、キラルな結晶構造[用語1]に由来して発現する固体内スピンの特性を、テルル単体を用いた実験から明らかにしました。

キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を伴う物質では、電子の磁石としての性質であるスピンに由来した磁気的性質が、非磁性材料にも関わらず発現し得ることが、20世紀の半ばから知られていました。ところが、その物性を司るスピン偏極した電子構造の直接的な観察は、これまで成功していませんでした。本研究では、最も単純なキラル結晶構造を有し、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つテルル単体(図1)に着目し、スピン分解・角度分解光電子分光[用語2]実験を行いました。その結果、キラルな結晶構造を持つ物質に対して初めて、スピン偏極した電子構造の観察に成功しました。さらに、キラルな結晶の特徴として、スピン構造が放射状となること、また、それらのスピンの向きが "右手系結晶" と "左手系結晶" で反転することを実験的に示しました。今回の結果は、強いスピン軌道相互作用を有するキラルな結晶が、有望なスピントロニクス[用語3]材料であることを示しており、今後、電子・スピン変換デバイスの研究開発への進展が期待されます。

図1. テルル単体の結晶構造。鏡写しの関係にある左手系結晶(左上)と右手系結晶(右上)が存在する。それらは、熱濃硫酸による腐食孔の形(下段の赤枠)で判別することができる。

図1.
テルル単体の結晶構造。鏡写しの関係にある左手系結晶(左上)と右手系結晶(右上)が存在する。それらは、熱濃硫酸による腐食孔の形(下段の赤枠)で判別することができる。

本研究成果は、米国物理学会学術誌「Physical Review Letters」に米国東部時間3月10日に掲載予定、特に重要な論文としてEditors' Suggestionに選出されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST 「トポロジカル量子計算の基盤技術構築」 (No. JPMJCR16F2) 、「カルコゲン化合物・超格子のトポロジカル相転移を利用した二次元マルチフェロイック機能デバイスの創製」(No. JPMJCR14F1)、日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)(No. JP18H03678, No. JP19H00651)、基盤研究(B) (No. JP18H01165, JP18H01954)の支援を受けて行われました。

発表者

坂野昌人(研究当時:東京大学物性研究所 特別研究員、現:東京大学 大学院工学系研究科 助教)

平山元昭(研究当時:東京工業大学 元素戦略研究センター 特任助教、現:理化学研究所 創発物性科学研究センター 研究員)

笹川崇男(東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 准教授)

近藤猛(東京大学物性研究所 准教授)

研究の背景

自然界には、右手と左手、あるいは右ネジと左ネジのように、鏡に映した姿がもとの姿と重ならないものがあり、これらの性質をキラルであるといいます。2つの非等価なキラルな結晶、いわゆる右手系と左手系の結晶は、自然界において、生物学的、化学的、物理的にそれぞれ異なる反応を示します。また、キラルな結晶構造の内部では、電気と磁気がお互いに関係しあうことが知られています。一方、固体内電子の電気的・磁気的関係を結びつけるためには、スピン軌道相互作用[用語4]が必要であり、原子番号の大きな重い元素を持つ化合物で特にその作用が強くなります。

キラルな結晶構造を持ち、かつ強いスピン軌道相互作用を合わせ持つ物質は、非磁性であっても、スピン流などの磁気的性質を引き出し得ることから、スピントロニクス分野で特に注目されています。しかしながら、その特異な電気磁気特性の起源となるスピン偏極した電子構造を直接的に観測した例がこれまでになく、キラル結晶内の電子とスピンの結合状態は未解明でした。

研究内容と成果

本研究では、キラルな結晶構造を有するテルル単体を研究対象とし、スピン分解・角度分解光電子分光を用いて、スピン構造の直接観測を行いました。重元素であるテルル原子は強いスピン軌道相互作用を有しているため、電子とスピンが強く結合した状態が期待されます。本研究では、熱濃硫酸で表面処理した際にできる腐食孔の形によって右手系結晶と左手系結晶を判別し、それぞれの試料に対して、詳細な電子構造およびそれに付随するスピン偏極構造を観察しました。

まず、左手系結晶に対してスピン分解・角度分解光電子分光実験を行い、スピン構造を調べました(図2)。その結果、電子のz方向の運動量が、z方向のスピンのみと結合していることがわかりました。通常、スピン軌道相互作用は、電子の運動量と垂直な向きにスピンを結合させたがる性質があります。しかし、今回の結果は、それに反して、運動量と平行方向にスピンが結合していることを示しています。つまり、スピンが運動量空間において放射状に広がる特異な振る舞いを同定したことになります。さらに、右手系結晶の測定も行うことで、左手系結晶とはスピン構造が反対向きになることを見出しました。スピン構造に見られるこれらの特異性は、キラルな結晶構造に特有の電子状態に由来するものであるといえ、第一原理電子構造計算[用語5]によって再現されることを確認しています(図3)。

図2. 左手系結晶におけるスピン分解・角度分解光電子分光スペクトル。z方向の運動量を持つ電子のスピンが、z方向に向いていることが観測されている (左)。左手系結晶と右手系結晶でスピンの向きが反転する様子を示している(右)。

図2.
左手系結晶におけるスピン分解・角度分解光電子分光スペクトル。z方向の運動量を持つ電子のスピンが、z方向に向いていることが観測されている (左)。左手系結晶と右手系結晶でスピンの向きが反転する様子を示している(右)。

図3. 実験結果と第一原理電子状態計算によって得られたテルル単体の運動量空間で描くスピン構造の概略図。矢印はスピンの向きを表している。左手系結晶(左)と右手系結晶(右)で、外向き・内向きの放射状スピン構造が反転している。

図3.
実験結果と第一原理電子状態計算によって得られたテルル単体の運動量空間で描くスピン構造の概略図。矢印はスピンの向きを表している。左手系結晶(左)と右手系結晶(右)で、外向き・内向きの放射状スピン構造が反転している。

今後の展開

今回、最も単純なキラル結晶であるテルル単体において、キラルな結晶構造特有のスピン状態を実験的に解明しました。本結果を起点として、さまざまなキラル結晶におけるスピン状態の解明が進むものと考えられます。また、スピンが電子の運動量と平行に向き放射状となる特異なスピン構造からは、非従来型のスピントロニクス機能が創発できる可能性があるため、キラル構造を有する物質をデバイス応用させる発展研究が今後期待されます。

用語説明

[用語1] キラルな結晶構造 : 右手と左手の関係のように、一方を鏡映しにしたときには他方と重なるが、平行移動では互いに重ならない2つの非等価な結晶構造を持つもの。

[用語2] スピン分解・角度分解光電子分光 : 物質に光を照射すると、電子(光電子)が試料から真空中へ放出されます。その光電子の運動エネルギー、および脱出角度を調べることによって、物質中の電子のエネルギーと運動量を直接観測できる実験手法です。さらに、スピン検出器を用いて光電子のスピンを測定することにより、物質中の電子スピンの向きを調べることもできます。物質中の電子が有する運動量、エネルギーおよびスピンが分かると、(スピン状態までを含めた)電子構造を完全に理解することができます。

[用語3] スピントロニクス : 電子の電荷を基にした現代社会を支えるエレクトロニクスを超えて、電荷だけでなく磁石的性質であるスピンをも利用して応用する分野のことです。

[用語4] スピン軌道相互作用 : 電子自身が持つ磁気的性質(スピン角運動量)と電子の軌道によって発生する磁気的性質(軌道角運動量)との相互作用のことです。

[用語5] 第一原理電子構造計算 : 量子力学の基礎的な方程式を用いて、物質を構成する原子の種類と位置の情報から電子構造を計算する手法です。結晶構造さえ決まれば非経験的に電子構造を得ることができるため、性質の不明な新物質に対しても威力を発揮します。

論文情報

掲載誌 :
Physical Review Letters(オンライン版米国東部時間 3月10日掲載予定)
論文タイトル :
Radial spin texture in elemental tellurium with chiral crystal structure
著者 :
M. Sakano, M. Hirayama, T. Takahashi, S. Akebi, M. Nakayama, K. Kuroda, K. Taguchi, T. Yoshikawa, K. Miyamoto, T. Okuda, K. Ono, H. Kumigashira, T. Ideue, Y. Iwasa, N. Mitsuishi, K. Ishizaka, S. Shin, T. Miyake, S. Murakami, T. Sasagawa, and Takeshi Kondo

お問い合わせ先

東京大学 大学院工学系研究科附属 量子相エレクトロニクス研究センター

助教 坂野昌人

E-mail : sakano@ap.t.u-tokyo.ac.jp
Tel : 03-5841-7903 / Fax : 03-5841-7903

東京工業大学 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所

准教授 笹川崇男

E-mail : sasagawa@msl.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5366

東京大学 物性研究所

准教授 近藤猛

E-mail : kondo1215@issp.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-3370

JSTの事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

中村幹

E-mail : crest@jst.go.jp
Tel : 03-3512-3531 / Fax : 03-3222-2066

取材申し込み先

東京大学 物性研究所 広報室

E-mail : press@issp.u-tokyo.ac.jp
Tel : 04-7136-3207

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

研究力強化と研究成果の社会実装促進を目指して情報発信を強化 「東工大 研究・産学連携本部ウェブサイト」リニューアル

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東京工業大学は2月3日、研究・産学連携本部のオフィシャルウェブサイトを全面リニューアルしました。情報を集約し、企業の皆様や研究者が必要とする情報に短時間でアクセスできるようユーザビリティを向上することで、東工大の産学連携に関する情報発信を強化します。

ナビゲーション機能の配置

ナビゲーション

本学では、企業の方が、本学の研究者と共同研究などを実施する際に、活動を促進するための各種支援サービスを行っています。また、本学の研究者向けに、研究活動を支援するサービスを提供しています。これらのサービス情報を新サイトに集約して、目的やニーズに応じて素早くアクセスできるよう、カテゴリーナビゲーションとターゲットナビゲーションを配置しました。

カテゴリーナビゲーションでは、特に企業の方が本学の「産学連携」「ベンチャー企業」に関する情報にアクセスしやすくなるよう設計しました。

カテゴリーナビゲーションでは、本学が提供するサービスを「産学連携」「起業・ベンチャー」「研究資金」「研究活動支援」の4つの分類で案内しています。「産学連携」では、主に企業の方向けに、本学と共同研究や受託研究を行う際の手続きや、知的財産の取り扱い等について紹介しています。「起業・ベンチャー」は、企業の方向けに東工大発ベンチャーの一覧を掲載しているほか、学内の教員・学生向けに、ベンチャー企業の創業に係る支援を紹介しています。「研究資金」は、主に学内の教員向けに科研費や政府系プロジェクトを申請する際に、研究・産学連携本部から受けられる支援の紹介や、研究助成金の公募情報を掲載しています。「研究活動支援」では、主に学内の教員向けに、本学が行っている研究助成の取り組みや、英語論文執筆のための支援、共用研究設備の利用法や異分野融合研究促進の取り組みなどを紹介しています。

さらに、カテゴリーナビゲーションでは、すでに共同研究を実施したことがある企業の方や、学内の研究支援サービスを受けたことのある方向けに、サービス名称から支援内容を容易に調べられるよう、トップページから各サービスを一覧するインターフェイスを設け、ワンクリックで該当ページにたどり着ける設計にしました。

メニュー一覧をマウスオーバーで確認し、指定メニューにワンクリックで移動可能

ターゲットナビゲーションにおいては、企業の方が利用しやすい目線を意識したメニュー設計としました。本学との産学連携を希望する方のために「産学連携を始めてご利用になる方へ」を特設し、本学教員への技術相談の流れについて案内しています。また、「企業・地方自治体の方へ」「教職員の方へ」「学生・卒業生の方へ」というメニューを設置し、対象者ごとに目的別に情報を探すことができる設計となっています。これにより、企業の方だけではなく学内の教員や学生にとっても伝わりやすい設計としました。

東工大は新ウェブサイトを活用し、質の高い情報を発信します。

研究・産学連携本部とは

研究・産学連携本部は、東京工業大学において独創的な基礎研究を推進するとともに、産学連携により応用的・開発的研究成果を創出して社会と本学に還元することにより、次世代の基礎研究分野を生み出す好循環を形成し、もって世界最高の理工系総合大学の実現という本学の長期目標の達成に資することを目的として2017年4月に設置された組織です。

研究・産学連携本部イメージ

お問い合わせ先

東京工業大学 研究産学連携本部

E-mail : ori_web@ori.titech.ac.jp

世界最高クラスの新型電解質材料を発見 燃料電池・センサー・電子材料等の開発を加速

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要点

  • 新設計法により、層状ペロブスカイトの一種であるDion-Jacobson相で世界初の酸素イオン伝導体を発見し、世界最高クラスの酸素イオン伝導度を実現
  • 結晶構造とイオン拡散経路の解析から、高い酸素イオン伝導度の原因を解明
  • 革新的な燃料電池、酸素分離膜、触媒、センサー、電子材料等の開発を促進してエネルギー・環境分野に貢献すると期待

概要

東京工業大学 理学院 化学系の八島正知 教授、張文鋭 大学院生(博士後期課程3年)らの研究グループは、Dion-Jacobson相では初めての酸化物イオン伝導体(酸素イオン伝導体、あるいはO2−伝導体ともいう)CsBi2Ti2NbO10−δを発見した。さらに酸化物イオン伝導度(酸素イオン伝導度ともいう)が高くなる高温での結晶構造や、酸化物イオンの拡散経路の解明により、この新しい酸化物イオン伝導体が示す高いイオン伝導度の発現機構を明らかにした。

高温かつ広い酸素分圧範囲で、この新型イオン伝導体は安定であることがわかった。この新材料の発見は、結晶構造データベースにおける83個のデータのスクリーニング、ならびに「陽イオンCs+のサイズが大きいこととBi3+の変位によるイオン伝導度の向上」という新概念の導入によって実現した。こうした新設計法による高イオン伝導体の発見は、固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器の高性能化や、新しい酸化物イオン伝導体や電子材料の開発を促進すると期待される。

なお本研究は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所/J-PARCの神山崇 教授らとの共同研究である。CsBi2Ti2NbO10−δの結晶構造解析には、J-PARCに設置された超高分解能中性子粉末回折装置SuperHRPD、ならびに高輝度光科学研究センターSPring-8に設置された放射光X線回折計を用いた。

本研究成果は、2020年3月6日に英国の科学雑誌Nature Communicationsに電子版として掲載され、注目論文(Editors' Highlight)に選出された。また、2020年3月の日本セラミックス協会の年会でトピックス講演に選出された。

背景

酸化物イオン伝導体[用語1]は、固体酸化物形燃料電池[用語2]、酸素分離膜、触媒およびガスセンサーなどに幅広く応用できる材料である。高い酸化物イオン伝導度は、特定の結晶構造[用語3]においてのみ発現するので、今まで酸化物イオン伝導体の報告がない新しい結晶構造グループに属する高酸化物イオン伝導体を発見すれば、酸化物イオン伝導体の革新的な応用につながると期待される。

Dion-Jacobson相[用語4]は、層状ペロブスカイト[用語4]の一種であり、様々な電気的特性、物理的特性、化学的特性を示すことが報告されている。ペロブスカイト[用語4]および層状ペロブスカイトには多くの酸化物イオン伝導体の報告があるので、Dion-Jacobson相も酸化物イオン伝導性を示すと期待されるが、Dion-Jacobson相の酸化物イオン伝導体はこれまで知られていなかった。

研究成果

研究グループは今回、Dion-Jacobson相としては初めての酸化物イオン(O2−)伝導体CsBi2Ti2NbO10−δを発見した(図1a)。ここでδは酸素欠損量であり、定比組成CsBi2Ti2NbO10の酸素量は10であるのに対し、酸素が欠損したCsBi2Ti2NbO10−δの酸素量は10−δである。この新型高酸化物イオン伝導体の発見にあたっては、結晶構造データベースと結合原子価法[用語5]を用いた高速スクリーニングと、「Cs+のサイズが大きいこととBi3+の変位によるイオン伝導度の向上」という新概念からなる、新型高イオン伝導体の新設計法を適用した(図1b)。さらに、結晶構造解析から示された、酸素原子の大きな異方性熱振動、酸素空孔[用語6]および酸化物イオン伝導層の存在が、高イオン伝導度発現の原因であることを明らかにした(図1c)。

図1. (a)新型酸化物イオン伝導体CsBi2Ti2NbO10−δ(CBTN)のイオン伝導度(赤線と赤い■が本研究で発見した酸化物イオン伝導体)。世界最高レベルの酸化物イオン伝導度を実現した。(b)本研究で提案した新設計法。(c)酸化物イオン伝導度が高くなる高温領域でのCsBi2Ti2NbO10−δの結晶構造と酸化物イオンの拡散経路から、高イオン伝導度の発現機構を明らかにした。

図1.
(a)新型酸化物イオン伝導体CsBi2Ti2NbO10−δ(CBTN)のイオン伝導度(赤線と赤いが本研究で発見した酸化物イオン伝導体)。世界最高レベルの酸化物イオン伝導度を実現した。(b)本研究で提案した新設計法。(c)酸化物イオン伝導度が高くなる高温領域でのCsBi2Ti2NbO10−δの結晶構造と酸化物イオンの拡散経路から、高イオン伝導度の発現機構を明らかにした。

(1)新設計法による候補物質CsBi2Ti2NbO10−δの選定

無機結晶構造データベース(Inorganic Crystal Structure Database: ICSD)に登録されている69種類のDion-Jacobson相に関する、83個の結晶学データに対して、結合原子価法によるスクリーニングを実施した。結合原子価法は、第一原理計算や分子動力学計算に比べて、高速でのスクリーニングが可能である。具体的には、各データについて単位胞における結合原子価に基づいた酸化物イオンのエネルギー図を計算し、酸化物イオンの移動のエネルギー障壁Ebを見積もった。その結果から、83個のデータの中で比較的Ebが低いDion-Jacobson相CsBi2Ti2NbO10−δを候補材料として選択した(図2)。

このCsBi2Ti2NbO10−δの構成成分であるCs+は、利用できる元素種の中で最も大きなサイズの陽イオンである。CsBi2Ti2NbO10−δでは、Cs+のサイズが大きいために格子が広がって、Cs+層によって挟まれたペロブスカイト層における酸化物イオン移動のボトルネック(酸化物イオンが移動する際、最も狭くなりエネルギーが高くなるところ)が広がって、酸化物イオン伝導度が高くなる。

図2. 酸化物イオンの移動のエネルギー障壁Ebのヒストグラム。無機結晶構造データベース(ICSD)に登録されている69種類のDion-Jacobson相の83個の結晶学データに対して、結合原子価法により計算。

©Masatomo Yashima and Nature Publishing Group.

図2.
酸化物イオンの移動のエネルギー障壁Ebのヒストグラム。無機結晶構造データベース(ICSD)に登録されている69種類のDion-Jacobson相の83個の結晶学データに対して、結合原子価法により計算。

(2)CsBi2Ti2NbO10−δの高温での相転移とイオン伝導

1173 Kにおいて、固相反応法によりCsBi2Ti2NbO10−δを合成した。その後、高温放射光X線と中性子回折実験[用語7]を行い、リートベルト法[用語8]により結晶構造を精密化した。中性子回折実験を大強度陽子加速器施設J-PARC[用語9]に設置された超高分解能中性子回折装置を用いて実施した。CsBi2Ti2NbO10−δの結晶構造は、293~813 Kでは直方晶系、空間群Ima2のDion-Jacobson型構造であり、833~1173 Kでは正方晶系、空間群P4/mmmのDion-Jacobson型構造であった(図3a)。この直方-正方相転移は可逆で1次であり(図3b)、加熱時の直方-正方相転移に伴って酸素空孔量が増加することがわかった(図3c)。さらに、粒内の伝導度を測定した結果、直方→正方相転移に伴って粒内の伝導度が不連続的に増加することが明らかになった(図3d)。

図3. CsBi2Ti2NbO10−δの(a)格子定数、(b)格子体積、(c)酸素量、および(d)粒内の伝導度σbと粒界の伝導度σgbの温度依存性。多結晶試料は多数の粒子の集合体であり、粒内の伝導度σbと粒子と粒子の境界である粒界の伝導度σgbは異なる。

©Masatomo Yashima and Nature Publishing Group.

図3.
CsBi2Ti2NbO10−δの(a)格子定数、(b)格子体積、(c)酸素量、および(d)粒内の伝導度σbと粒界の伝導度σgbの温度依存性。多結晶試料は多数の粒子の集合体であり、粒内の伝導度σbと粒子と粒子の境界である粒界の伝導度σgbは異なる。

(3)高い酸化物イオン伝導度の実証

<1>酸素濃淡電池[用語10]で測定したCsBi2Ti2NbO10−δにおけるO2−輸率[用語10]が1に近く(図4a)、<2>973 KにおけるCsBi2Ti2NbO10−δの全電気伝導度は酸素分圧10−22P(O2) / atm ≤ 1の領域で一定であり(図4b)、<3>有意なプロトン伝導がない(図4c)。<1>~<3>の実験結果から、O2−が支配的なキャリア(電荷担体)であることがわかった。1073 Kにおける粒内の伝導度は8.9 × 10−2 S cm−1であり、これは実用化されているYSZ[用語3]より高く、LSGM[用語3]などの最も良いO2−伝導体に匹敵するレベルである(図4d)。高温かつ広い酸素分圧の範囲での酸素濃淡電池による測定および伝導度の測定前後でCsBi2Ti2NbO10−δの劣化や結晶相の変化は見られず、相安定性が高いこともわかった。

図4. CsBi2Ti2NbO10−δの高い酸化物イオン伝導度の実証。(a)酸素濃淡電池により調べた種々の雰囲気での酸化物イオン輸率。(b)全電気伝導度σtotの酸素分圧P(O2)依存性。縦軸は対数Log(σtot)であり、横軸は酸素分圧P(O2)の対数Log(P(O2))である。(c)乾燥空気(赤い△と破線)および湿潤空気(青い□と点線)中での全電気伝導度の温度依存性。縦軸は対数Log(σtot)であり、横軸は絶対温度Tの逆数1000/Tである。(d)最も良い(ベスト)伝導体の粒内の伝導度(σb)との比較。縦軸は粒内の伝導度σbの対数Log(σb)であり、横軸は絶対温度Tの逆数1000/Tである。CsBi2Ti2NbO10−δ焼結体のようなセラミック多結晶体は粒と粒界からなるが、σbは粒内での電気伝導度である。

©Masatomo Yashima and Nature Publishing Group.

図4.
CsBi2Ti2NbO10−δの高い酸化物イオン伝導度の実証。(a)酸素濃淡電池により調べた種々の雰囲気での酸化物イオン輸率。(b)全電気伝導度σtotの酸素分圧P(O2)依存性。縦軸は対数Log(σtot)であり、横軸は酸素分圧P(O2)の対数Log(P(O2))である。(c)乾燥空気(赤いと破線)および湿潤空気(青いと点線)中での全電気伝導度の温度依存性。縦軸は対数Log(σtot)であり、横軸は絶対温度Tの逆数1000/Tである。(d)最も良い(ベスト)伝導体の粒内の伝導度(σb)との比較。縦軸は粒内の伝導度σbの対数Log(σb)であり、横軸は絶対温度Tの逆数1000/Tである。CsBi2Ti2NbO10−δ焼結体のようなセラミック多結晶体は粒と粒界からなるが、σbは粒内での電気伝導度である。

(4)伝導メカニズムの解明

973 Kでその場測定した中性子回折データを用いて精密化したCsBi2Ti2NbO9.8の結晶構造(図5a,d)と、最大エントロピー法[用語11]により得られた中性子散乱長密度分布[用語11](図5b,e)は、O2−の大きな非等方性熱振動を示している。例えば図5a,bに示すように、O2席のO2−の熱振動は、c軸方向に比べてab面内で大きい。この非等方性熱振動と、結合原子価法により得られたテスト酸化物イオンのエネルギー図(図5c,f)から、酸化物イオンは、O2−伝導性内側のペロブスカイト層の八面体の稜に沿って、ab面内を2次元的に移動すると考えられる(O1−O1経路とO1−O2経路,図5の矢印)。大きなサイズのCs+により、またBi3+のc軸に沿った変位により、O2−移動のボトルネックが広がることが、高いO2−の伝導度の原因であると考えられる。

図5. (a,d)973 KにおけるCsBi2Ti2NbO9.8の結晶構造。高温973 Kでその場測定した中性子回折データのリートベルト解析により得られた。(b,e)中性子回折データと最大エントロピー法により得られた中性子散乱長密度が1.0 fm Å−3 の黄色い等値面(973 K)。(c,f)973 K における0.6 eVでの酸化物イオンのエネルギーの等値面。

©Masatomo Yashima and Nature Publishing Group.

図5.
(a,d)973 KにおけるCsBi2Ti2NbO9.8の結晶構造。高温973 Kでその場測定した中性子回折データのリートベルト解析により得られた。(b,e)中性子回折データと最大エントロピー法により得られた中性子散乱長密度が1.0 fm Å−3の黄色い等値面(973 K)。(c,f)973 K における0.6 eVでの酸化物イオンのエネルギーの等値面。

今後の展開

高い酸化物イオン伝導度を示す新型酸化物イオン伝導体CsBi2Ti2NbO10−δの発見により、Dion-Jacobson型酸化物イオン伝導体という研究分野が生まれると考えられる。また、新たな応用に向けた道を切り開くと期待される。具体的には、固体酸化物形燃料電池や酸素濃縮器の高性能化や、新しい酸化物イオン伝導体や電子材料の開発を促進すると考えられる。また、本研究で提案した新概念「大きなサイズのイオンとイオンの変位によりボトルネックが広がり、高い酸化物イオン伝導度を実現する」および結合原子価法によるスクリーニングという新手法により、今後他の新酸化物イオン伝導体が発見されると期待される。

付記

本研究は、科学研究費助成事業基盤研究(A)「新構造型イオン伝導体の創製と構造物性」、日本学術振興会拠点形成事業(A.先端拠点形成型)「高速イオン輸送のための固体界面科学に関する国際連携拠点形成」、科学研究費助成事業新学術領域研究(研究領域提案型)「複合アニオン化合物の理解:化学・構造・電子状態解析」、科学研究費助成事業挑戦的研究(開拓)「多様な配位多面体による新型イオン伝導体の創製」、科学研究費助成事業特別推進研究「化学機械応力に立脚する革新的な高性能触媒の創生」等の一環として、実施されたものである。

用語説明

[用語1] 酸化物イオン伝導体 : 外部電場を印加したとき酸化物イオンが伝導する物質を酸化物イオン伝導体という。酸化物イオン伝導体を酸素イオン伝導体とも呼ぶ。酸化物イオン伝導体には純酸化物イオン伝導体や酸化物イオン-電子混合伝導体などがある。

[用語2] 固体酸化物形燃料電池 : 固体酸化物形燃料電池(SOFC、Solid Oxide Fuel Cell)は電解質に固体を用いた燃料電池。電極、電解質含め発電素子中に液体を使用せず、全て固体で構成される。高温で動作するため、白金などの高価な触媒が不要である。現在知られている燃料電池の形態では最も高い温度で稼働し、単独の発電装置としては最も発電効率が高い。SOFCには固体電解質に酸化物イオン伝導体を用いる酸化物イオン伝導型とプロトン伝導体を用いるプロトン伝導型の2種類が存在する。

[用語3] 結晶構造、YSZ、LSGM : 原子の配列が並進周期性を持つ物質が狭義の結晶であり、シャープな回折ピークを示す物質として広義の結晶が定義される。結晶中の原子配列を結晶構造という。結晶構造は空間群(原子配列の対称性)、格子定数(単位胞の大きさと形)、原子座標(単位胞における原子の位置)などによって記述される。高い酸化物イオン伝導度は、蛍石型構造やペロブスカイト型構造など、特定の結晶構造を持つ物質で発現する。例えばYSZは蛍石型構造を、LSGMはペロブスカイト型構造(用語4)を有する。YSZはイットリア安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia)の略語で、Zr1−xYxO2−x/2固溶体(xは0.14~0.24)である。SOFCの固体電解質、酸素センサーなどとして利用されている。 また、LSGMはSrとMgを添加したガリウム酸ランタンLaGaO3である。
LSGMの化学式はLa1-xSrxGa1−yMgyO3−x/2−y/2である。YSZよりLSGMの酸化物イオン伝導度が高い。

[用語4] Dion-Jacobson相、層状ペロブスカイト、ペロブスカイト : A'An−lMnX3n+1で表され、CsCl型のA'Xとペロブスカイト類似An−lMnX3n層が積層した構造を有する物質をDion-Jacobson相という。ここで、A'はCs+やLi+のようなアルカリ金属イオンであり、AはCa2+、La3+、Bi3+などの2価もしくは3価の陽イオンである。MはTi4+、Nb5+、Ta5+などの遷移金属陽イオンであり、Xは陰イオンである。nは積層するペロブスカイト層の数を意味する。Dion-Jacobson相は多彩な物性を示すことから、幅広い応用が期待される。理想的な立方AMX3ペロブスカイトの結晶構造では、例えば、A陽イオンが立方の単位胞の隅にあり、M陽イオンが単位胞の中心にあり、陰イオンXが単位胞の面心にある(図6a)。

図6. (a)立方ペロブスカイト型AMX3および(b)n=3のDion-Jacobson相A'An−lMnX3n+1=A'A2M3X10の一例A'A2M1(M2)2X10の結晶構造。

図6.
(a)立方ペロブスカイト型AMX3および(b)n=3のDion-Jacobson相A'An−lMnX3n+1=A'A2M3X10の一例
A'A2M1(M2)2X10の結晶構造。

ペロブスカイト層あるいはペロブスカイト類似層を含む積層した構造を持つ物質を層状ペロブスカイトという。Dion-Jacobson相は層状ペロブスカイトの一種である。図6bにn=3のDion-Jacobson相A'An−lMnX3n+1=A'A2M3X10の一例A'A2M1 (M2) 2X10の結晶構造を示す。CsCl型A'X層とペロブスカイト類似A2 (M1) (M2) 2X9層が積層した構造を有する。ペロブスカイト類似A2 (M1) (M2) 2X10層がA'層により区切られているというのが、もう一つの見方である。本研究で優れた酸化物イオン伝導体であることがわかったCsBi2Ti2NbO10−δn=3,A'=Cs,A=Bi,M1=Ti0.804Nb0.196M2=Ti0.598Nb0.402X=OのDion-Jacobson相であり、結晶構造を図6bに示す。

[用語5] 結合原子価法 : 物質中の原子間距離と経験的なパラメーターを使い、対象イオンの価数(酸化数)、構造の安定性やテストイオンのエネルギーを計算する方法。イオンが単位胞を横切って移動するときのエネルギー障壁も見積もることができる。単純な式で計算するため、数多くの化合物や組成に対するエネルギー障壁を計算し、新型イオン伝導体の候補をスクリーニングすることにも利用できる。

[用語6] 酸素空孔 : 結晶中の原子が存在する席(サイト)で原子が欠けているところを空孔と呼ぶ。酸化物イオンの拡散は、酸素空孔により起こる場合が多い。例えばYSZ、Zr1−xYxO2−x/2固溶体では酸素空孔□がx/2存在しており、化学式をZr1−xYxO2−x/2x/2のように書くことができる。

[用語7] 中性子回折実験 : 数~数十Åの周期で原子が規則的に配列する結晶は、X線や中性子によって回折現象を起こす。得られる回折データは、結晶構造の情報を含んでおり、解析することで結晶内の原子配列などを明らかにすることができる。X線は電子により散乱されるので、重元素のコントラストが高い。中性子では重元素と酸素などの軽元素の両方を含む物質における軽元素のコントラストが相対的に高いので、軽元素の原子の原子座標、占有率と原子変位パラメータを正確に決めることができる。CsBi2Ti2NbO10−δでは酸素原子の占有率、位置と熱振動を正確に調べるのに威力を発揮した。

[用語8] リートベルト法 : 粉末回折データを用いて、結晶学パラメータ(格子定数、原子座標、占有率、原子変位パラメータ等)を精密化する手法。

[用語9] 大強度陽子加速器施設J-PARC : J-PARCは、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。SuperHRPDが設置されているJ-PARCの物質・生命科学実験施設MLFでは、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

[用語10] 酸素濃淡電池 : 酸素分圧の差によって生じる起電力を用いて、全電気伝導度σtotのうち酸化物イオン伝導度σO2−の割合(輸率)σO2−/σtotを見積もる手法の一つである。

[用語11] 最大エントロピー法(Maximum-Entropy Method、MEM)、中性子散乱長密度分布 : MEMは情報理論の一つで、MEMを使うと、信号のノイズを低減させ、より鮮明な信号にすることができる。計測データの不確かさ(情報エントロピー)が統計的に尤もらしく(最大に)なるように推定する方法である。リートベルト解析により得られた構造因子に対してMEMを適用すると、中性子散乱長密度分布が得られる。中性子散乱長密度分布とは原子核の密度分布に中性子の原子散乱能(中性子散乱長)を掛けたものである。本研究では、高温973Kにおける中性子散乱長密度分布をMEMで調べ、酸化物イオンの熱振動と拡散を研究した。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications(IF = 11.880, Nature Publishing Group)11巻、論文番号1224、2020年。
論文タイトル :
Oxide-Ion Conduction in the Dion-Jacobson Phase CsBi2Ti2NbO10−δ(Dion-Jacobson相CsBi2Ti2NbO10−δの酸化物イオン伝導)
著者 :
Wenrui Zhang(張文鋭 博士後期課程3年、東工大)、Kotaro Fujii(藤井孝太郎 助教、東工大)、Eiki Niwa(丹羽栄貴 特任助教、東工大[研究を実施した当時の所属])、Masato Hagihala(萩原雅人 特別助教、KEK)、Takashi Kamiyama(神山崇 教授、KEK)、Masatomo Yashima(八島正知 教授、東工大、論文問い合わせ先・責任著者)
DOI :
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J-PARCセンター

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相川清隆准教授と宮島晋介准教授が2019年度「東工大の星」支援【STAR】に決定

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東京工業大学は、2019年度「東工大の星」支援【STAR】(英語名称:Support for Tokyo Tech Advanced Reserchers【STAR】)の採択者に理学院 物理学系 相川清隆准教授と工学院 電気電子系 宮島晋介准教授の2名を決定し、3月6日発表しました。

「東工大の星」支援【STAR】とは、東工大基金を活用し、将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者や、基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者へ大型研究費の支援を通じて、次世代を担う本学の輝く「星」を支援するものです。

第7回目の今回は、2名の「星」が学長及び研究・産学連携本部長の協議により選考されました。

なお、支援決定通知書授与式は新型コロナウイルス感染症の感染予防対策の観点から延期されました。

所属部局
担当系
職名
氏名
准教授
准教授

受賞者の研究概要とコメント

相川清隆 理学院 物理学系 准教授

相川清隆 理学院 物理学系 准教授

研究概要:真空中の単一ナノ粒子系による巨視的量子力学の探究

20世紀初頭に生み出された量子力学は、現代社会においてエレクトロニクスや計測、材料開発を始めとした様々な分野で活用されてきました。粒子が同時に波動性をも示すことが量子力学の本質であり、そうした振る舞いは電子、原子、光子といった微視的な粒子でよく成り立つことが実証されてきました。一方、我々の身近にある巨視的物体が量子的な振る舞いを示すことはなく、その理由は自明ではありません。私たちは、真空中に浮揚させた微粒子の運動に着目し、運動に関する量子力学の追究を通じて、巨視的な物体に関する量子力学が、微視的な粒子に対する量子力学とどのように違うのか、明らかにしていきます。さらに、浮揚微粒子という新しい系を、高感度センシングなどの形で社会に役立てていくことも重要な目標です。

受賞のコメント

この度は、「東工大の星」支援に採択頂き、とても光栄に感じると共に、選んで頂いた方々および東工大基金の寄付者の皆様には大変感謝しております。最近大きな潮流となりつつある量子力学の分野の中でも、より基礎的かつ挑戦的なテーマではありますが、長い目で見れば、単に基礎科学としてだけでなく、応用面においても重要となっていく課題だと考えています。今回の支援を活用し、新しい流れを生み出していければ、と考えています。

宮島晋介 工学院 電気電子系 准教授

宮島晋介 工学院 電気電子系 准教授

研究概要:低コスト・高効率太陽電池および光無線給電用受光器の開発

太陽光発電に用いる太陽電池の更なる低コスト化に向けた研究を行っています。超高効率なシリコン太陽電池の製造には爆発性・毒性ガスを使用していますが、これらを使用しない低コストプロセスの確立を目指しています。また、更なる高効率化を目指して、シリコン太陽電池とワイドギャップペロブスカイト太陽電池を組み合わせたハイブリッド型の太陽電池についても研究を進めています。さらに、太陽電池の研究での経験を生かして、新しいワイヤレス給電技術である光無線給電の実現のため、高効率光電変換デバイスの実現を目指しています。

受賞のコメント

「東工大の星」支援の対象にご選出頂き誠にありがとうございます。研究室に所属した多くの学生や共同研究者の方々と進めてきた研究が評価されたものと存じます。この度のご支援をもとに、新たな学生たちとともに、より一層挑戦的な研究を推進していきたいと考えております。

「東工大の星」支援【STAR】の概要

目的

東工大基金を活用し、本学における優秀な若手研究者への大型支援を実施することにより、本学の中期目標である基礎的・基盤的領域の多様で独創的な研究成果に基づいた新しい価値の創造を促進し、もって、学長の方針に基づく本学の研究力強化に資することを目的とします。

支援対象者

公募によらず、様々な業績を勘案し、学長及び研究・産学連携本部長の協議により決定します。

観点

  • 将来、国家プロジェクトのテーマとなりうる研究を推進している若手研究者
  • 基礎的・基盤的領域で顕著な業績をあげている若手研究者

役職等

若手研究者を准教授以下(原則40歳以下)とします。

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東工大基金

この支援事業は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

研究推進部研究企画課研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7688

伊藤繁和准教授が2019年度日本中間子科学会奨励賞を受賞

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の伊藤繁和准教授が2019年度の日本中間子科学会奨励賞を受賞したと日本中間子科学会が3月9日、発表しました。同学会によると、奨励賞は「中間子科学の発展に貢献しうる優秀な論文を発表した会員」に対して授与し、その功績を称えることを目的としています。

授賞式および記念講演は、3月16日、日本中間子科学会総会で行われる予定でしたが、新型コロナウイルスのため延期になりました。

同学会によると、受賞テーマと受賞理由は次の通りです。

受賞テーマ

ジホスファシクロブタンビラジカルへのミュオニウム付加反応の解明

受賞理由

リン複素環とミュオンの相互作用を示すスペクトルとそのモデル
リン複素環とミュオンの相互作用を示すスペクトルと
そのモデル

μSR(ミューエスアール)法は物性物理の分野では標準的な磁気測定法と認知されているが、化学分野において化学反応の詳細を知るためのプローブとして使う研究例は未だに非常に限られている。伊藤氏は物性有機化学、有機合成化学を専門とし、高周期典型元素(P、Si、Sなど)の特性を活かした有機化合物の合成、および、機能性物質の開発研究を進めてきた。その中で、リン複素環一重項ビラジカルは、p型有機電界効果トランジスタを作成できるなどの機能を持つことを見出した。その起源はリン複素環(4員環)部位に存在する2つのラジカル電子に由来しており、その性質の解明にはラジカル反応の利用が有効と考えられるが、複雑な後続反応が起こるために解析が困難であった。そこで、伊藤氏はμSR法に注目し、室温で安定であり半導体特性を示すジホスファアシクロブタジエン誘導体ビラジカルへのミュオニウム付加反応の解析に取り組んだ。ミュオン準位交差共鳴法(μLCR)実験により、2 kG 付近にμLCR 信号を見出し、第一原理(DFT)計算を併用することにより、リン複素環部位のリン原子へのミュオニウム付加が起こることを明らかにした。その後も、類縁化合物への展開を進めている。本研究は、有機合成化学分野の研究者が始めたミュオン科学への独自の取り組みであり、新しいラジカル反応を同定するなどの成果を上げていることから、2019年度の奨励賞にふさわしい業績として認められる。また、有機合成化学の研究者向けに執筆された総説記事もミュオン科学の普及のための活動として評価される。

伊藤繁和准教授のコメント

伊藤繁和准教授
伊藤繁和准教授

加速器から産み出されるミュオンは、スピンの向きが揃った軽い陽子に相当する素粒子で、通常は観測が極めて難しい有機分子へのラジカル付加反応をみることができます。6年ほど前に私は、今回の研究対象であるリン複素環ビラジカルの特殊な分子構造とそれに由来する省電力半導体特性を解析するためのツールとして、このミュオンをつかう分光法が有効であると考え、門外漢とも言える有機化学の研究者でありながら、ミュオンをつかった研究に挑もうと決意しました。優秀な共同研究者と加速器施設スタッフの多大なサポート、そしてたくさんの先生方から激励をいただき、研究の過程で遭遇した困難にも打ち勝って、着手してから4年目に無事論文発表をすることができました。今回、大変光栄なことに日本中間子科学会奨励賞をいただけることになりましたが、これまでお世話になった方々のおかげであり、厚く御礼申し上げます。今回の受賞を励みとして、今後、有機化学と素粒子科学を組みあわせて新しい物質創成研究を進めていきたいと考えています。

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お問い合わせ先

伊藤繁和

Tel : 03-5734-2143

E-mail : ito.s.ao@m.titech.ac.jp

「第2回留学生による日本語スピーチコンテスト」を開催

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東京工業大学の学生サークル、国際交流学生会SAGE(Student Association for Global Exchange、セージ 以下SAGE)が主催する「第2回留学生による日本語スピーチコンテスト」が12月21日、東工大大岡山キャンパスで開かれました。

東工大に在学する韓国、中国、ベトナム、インド、モンゴルなどの留学生10名が原稿選考を通過し、スピーチコンテストに出場しました。

日本語スピーチコンテストに参加した留学生ら

日本語スピーチコンテストに参加した留学生ら

本コンテストは留学生による日本語のスピーチを通じて、「国際交流=英語」というイメージを払拭し、国際交流の本質である「様々な文化・考え方に触れられる」ことを東工大生に再認識してもらうことを目的として企画されました。留学生は日本語力とスピーチの独創性を競います。本学の同窓会組織である一般社団法人蔵前工業会が後援しました。2018年度に初開催し、今回で2回目の開催です。

今回のテーマ「あなたはなぜ日本語を学ぶのか」に沿って、留学生たちが日本語を学び始めたきっかけや日本語を学ぶ原動力になっているものについてスピーチをしました。

日本語でスピーチする留学生
日本語でスピーチする留学生

審査員による審査
審査員による審査

審査員は水本哲弥理事・副学長(教育担当)、リベラルアーツ研究教育院の中野民生教授、坪山由美子非常勤講師、森田淳子准教授、蔵前工業会の加藤廣理事の計5名で、内容、構成、態度、言葉遣い、質疑応答などの項目を基準に採点しました。

また、当日スピーチを聞きに来た参加者からのスピーチ投票もありました。

審査員と観客の投票から最優秀賞1名、優秀賞2名が決まりました。さらに急遽、審査員特別賞も作られるほど日本語レベルの高い大会となりました。

水本理事・副学長はスピーチ後の総評でスピーカー1人1人にコメントを伝え、称えました。コンテスト後は懇親会も開催され、スピーカー、審査員、観客の枠を越えて交流を深めました。

受賞者

 
氏名
所属
出身国
最優秀賞
Nivetha Thyagarajan(ニベータ・ティヤカラージャン)さん
環境社会理工学院 融合理工学系 研究生
インド
優秀賞
于佳彤(ウ・カトウ)さん
物質理工学院 応用化学系 学士課程2年
中国
Uran-Ulzii Batbayar(バトバヤル・ウランウルジ)さん
物質理工学院 材料系 学士課程4年
モンゴル
審査員特別賞
Haruyama Matthew(春山マシュー)さん
環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程1年
オーストラリア・日本

最優秀賞 ニベータ・ティヤカラージャンさん

最優秀賞 ニベータ・ティヤカラージャンさんのコメント

2020年4月から環境・社会理工学院 融合理工学系の地球環境共創コースで博士後期課程を開始する予定です。

私はインドで日本語スピーチコンテストに参加したことがありますが、そこではインドの学生としか競争しませんでした。これは、世界中のスピーカーと競う初めての経験でした。スピーチを書き、翻訳し、修正し、最終的にコンテストで話すことから、それは素晴らしい学習体験でした。受賞者になれたことに感謝し、嬉しく思います。この経験は、日本語能力を向上させ、より良くなるように私を動機付けました。この素晴らしい機会を与えてくれたSAGEに感謝します。

優秀賞 バトバヤル・ウランウルジさん

優秀賞 バトバヤル・ウランウルジさんのコメント

現在、物質理工学院の材料系で無機材料をフォーカスに勉強しています。この4月からエネルギーや光触媒などの研究に取り組む予定です。

私は本スピーチコンテストにチャレンジして本当に良かったと思っています。今までの日本語の学習を振り返り、色々なことを考え、学んだことをスピーチにして自分からのメッセージを他者に伝えることができました。それに他の国々の参加者の素晴らしいスピーチを聞けて、英語ではなく日本語で通じている皆を見て感動していました。このイベント中に日本人と留学生が何も問題なく日本語で交流していました。

本スピーチを開催してくださったSAGEの皆様に感謝しております。私はこれからも色々なことに挑戦し続けていきます。

優秀賞 于佳彤さんのコメント

優秀賞 于佳彤さん

物質理工学院で応用化学系を専攻しています。

私のスピーチのテーマは「外国語は世界への鍵」でした。外国語を学ぶことや留学の意味についてもう一度考える良いきっかけとなりました。

私はコンテストに参加するからには、最善を尽くそうという思いでスピーチを準備しました。

原稿の作成から、イントネーションやジェスチャーなどのスピーチ表現力の練習に至るまで、多くの方々から助けを得ました。みんな親切で、熱心に日本語を教えてくれて本当に感謝しています。

このスピーチコンテストで素晴らしい仲間に出会えて嬉しいです。とても良い経験でした。

今後も引き続き日本語が上達するように頑張っていきたいと思います。

SAGEプロジェクトリーダー、伊藤龍寿さん

SAGEプロジェクトリーダー、伊藤龍寿さん(物質理工学院 材料系 学士課程2年)のコメント

現在、材料系に所属していて、将来は無機材料の研究を行いたいと考えています。

まず第2回留学生による日本語スピーチコンテストが無事開催できたこと、協力していただいたすべての方々にお礼申し上げます。この大会のコンセプト「国際交流は英語だけでするものではない」を含め多くの人に大会のことを知ってもらい、第3回、第4回とこのスピーチコンテストができることを願っています。

SAGEとは

東工大公認のサークルです。東工大生の国際交流の機会を増やすことや、海外学生へ東工大を知ってもらうことなどを目的とし、様々なイベントの企画・運営を行っています。東工大を訪問する海外学生のキャンパスツアーを案内したり、留学生との交流、東南アジアの理工系学生を日本に招くプログラムなどに取り組んでいます。

東工大基金

国際交流学生会SAGEの活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

東京工業大学 国際交流学生会SAGE

E-mail : sage.tokyo.tech@gmail.com

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マイクロ波を効果的に利用できる薄膜構造を発見 酸化鉄電極による水の酸化反応促進機構を解明

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要点

  • 高効率・省エネルギーのマイクロ波で酸化鉄電極による水の電気分解を促進
  • 反応性の高い酸化鉄の粒子間にマイクロ波が集中すること発見
  • 酸化鉄粒子の間に蓄積した正孔[用語1]とマイクロ波の相互作用で反応促進

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の松久将之大学院生、岸本史直氏(現東京大学・日本学術振興会特別研究員SPD)、椿俊太郎助教、和田雄二教授らのグループは、同大学同系の清水亮太助教、一杉太郎教授、産業技術総合研究所物理計測標準研究部門の堀部雅弘研究グループ長らとともに、身近な電子レンジに用いられるマイクロ波[用語2]を用いて酸化鉄(α-Fe2O3)電極による水の酸化反応が促進する機構を明らかにした。

電着法[用語3]パルスレーザー堆積法(PLD)[用語4]という異なる二つの手法で作製した酸化鉄薄膜を電極に使用することにより、マイクロ波による水の酸化反応促進を最適化する酸化鉄薄膜の構造を明らかにした。

さらに走査型マイクロ波顕微鏡(SMM)[用語5]を用いることにより、電着法で作製した薄膜において、酸化鉄粒子の間の空隙・接触部分にマイクロ波が集中し、反応促進効果がより大きくなることも発見した。

遠隔で直接、物質と相互作用するマイクロ波のエネルギーを触媒反応に効果的に利用できる指針が得られたことにより、今後の触媒反応の省エネルギー化が期待できる。

研究成果は3月2日付けで米国化学会の「The Journal of Physical Chemistry C(ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー)」に掲載された。

背景

マイクロ波は電磁波の一種である。電子レンジに用いられるように、物質に直接作用し、様々なものを短時間で温めることができる。マイクロ波を固体触媒反応に応用することで、触媒に効率的にエネルギーが投入され、その結果、触媒反応の促進効果が現れる。

これまでの様々な論文で、マイクロ波による触媒反応の促進効果が報告されているが、なぜマイクロ波によって反応促進が生じるのか、そのメカニズムはよくわかっていなかった。

たとえば、同じ化合物を用いて反応をしても、サンプルの形状や酸化状態の微妙な違いによって加熱特性や反応促進の程度、また反応生成物が変化してしまい、反応の精密な制御が困難だった。マイクロ波照射下で反応促進を能動的に操作するためには、精密な材料設計に基づいた触媒による反応促進機構の解明が求められる。

和田教授らの研究グループは触媒反応素過程として重要な電子移動過程[用語6]について、マイクロ波による加速効果が生じることを見出した。たとえば、硫化カドミウムから電子受容体[用語7]への光誘起電子移動反応[用語8]では、硫化カドミウムの蛍光光度測定により、マイクロ波によって電子移動過程が加速されていることを証明した[参考文献1]

また、ニッケル粒子による有機分子の還元反応においても、反応生成物の分光測定から、マイクロ波照射によって電子移動過程が加速していることがわかった[参考文献2]。しかしながら、生成物の定量による間接的な測定ではなく、直接的に電子移動を定量できる系が必要だった。

研究のアプローチ

今回の研究では、電着法とパルスレーザー堆積(PLD)法によりTiO2(二酸化チタン)基板上に堆積状態の異なる酸化鉄(α-Fe2O3)薄膜を作製(図1左)し、薄膜の性状の違いがマイクロ波の応答性に及ぼす影響を検証した。マイクロ波照射下で電子移動を直接観測することができるin situ(その場で)[用語9]電気化学測定システムを用いて、酸化鉄電極を用いた水の電気化学的酸化反応を観察した。

研究成果

酸化鉄電極による水の酸化反応中に、マイクロ波をパルス照射したところ、2種の電極でマイクロ波照射直後に電流値が急峻に増大した(図1右)。これは、マイクロ波によって、水の酸化反応が瞬間的に加速されていることを示している。さらに、電着法による酸化鉄微粒子が堆積された薄膜は、PLD法で作製した表面が平滑な薄膜と比較して、マイクロ波を照射した場合に1.89倍の大きな反応加速が生じた。

図1. モデル反応(マイクロ波照射下における酸化鉄電極による水の酸化反応)と電着法(上)、PLD法(下)で作製した酸化鉄電極の水の酸化電流プロファイル

図1. モデル反応(マイクロ波照射下における酸化鉄電極による水の酸化反応)と電着法(上)、PLD法(下)で作製した酸化鉄電極の水の酸化電流プロファイル

そこで、電着法で作製した薄膜とPLD法で作製した薄膜において、マイクロ波による反応促進の程度が異なる要因を調べるため、走査型マイクロ波顕微鏡(SMM)を用いて、サブミクロンスケールの局所領域のマイクロ波吸収特性を評価した(図2)。電着法で作製した酸化鉄微粒子の多い薄膜では、形状像で粒子間において、大きなマイクロ波吸収が生じていることが分かった。一方で、PLD法で作製した平坦な薄膜では、局所的なマイクロ波吸収は見られなかった。これらの結果より、マイクロ波促進効果は、反応場となる固体表面の酸化鉄粒子の空隙・接触部分におけるマイクロ波吸収の増大によって引き起こされると結論した。

図2. 走査型マイクロ波顕微鏡(SMM)法による局所領域のマイクロ波吸収特性の評価

図2. 走査型マイクロ波顕微鏡(SMM)法による局所領域のマイクロ波吸収特性の評価

今後の展開

今後は、固体触媒の性状・材料を変えて探索することで、より効果的にマイクロ波エネルギーを利用できる触媒構造を体系的に理解できると考えられる。今回の研究成果により、機構の理解が進めば、マイクロ波のエネルギーを有効に利用できる触媒設計の指針が得られ、あらゆる触媒反応を簡便に遠隔で促進できると期待される。

付記

今回の研究は、科学研究費補助金 基盤研究(S)17H06156「マイクロ波誘起非平衡状態の学理とその固体・界面化学反応制御法への応用展開」の成果である。

参考文献

[参考文献1] Kishimoto, F. et. al., Scientific Reports, 2015, 5, 11308

[参考文献2] Kishimoto, F. et. al., The Journal of Physical Chemistry Letters, 2019, 10, 12, 3390-3394

用語説明

[用語1] 正孔 : 半導体において、電子で満たされているべき部分の電子が不足している状態。相対的に正の電荷をもっているように見え、電子が移動することで、電子と逆方向に移動できる。

[用語2] マイクロ波 : 周波数が300 MHz~300 GHzの帯域の電磁波の一種。2.45 GHzは電子レンジやWi-Fiで利用される。

[用語3] 電着法 : 電極に+もしくは-の電圧をかけることで、電極表面に目的物質を簡便に析出させる手法。

[用語4] パルスレーザー堆積法(PLD) : 物理気相蒸着法の一種であり、高エネルギー密度のレーザーをターゲットにあて、物質を蒸発させて基板まで飛ばし、薄膜を堆積させる手法。

[用語5] 走査型マイクロ波顕微鏡(SMM) : 試料表面を走査する探針からマイクロ波を局所領域に照射して、その反射応答を計測することで、特に半導体の場合にはキャリア濃度に相関した信号を得る手法。

[用語6] 電子移動過程 : 酸化・還元反応中で電子が分子間もしくは分子内を移動する最も基本的な過程。酸化・還元反応は工業的に重要であり、電子移動はその根幹を成す素反応過程である。

[用語7] 電子受容体 : 酸化・還元反応において、電子をもらう分子。

[用語8] 光誘起電子移動反応 : 熱力学的に電子移動が起こらず、光エネルギーを用いることによって電子移動が起こる反応。

[用語9] in situ : ラテン語で「その場で」という意味。マイクロ波照射下での化学反応中に、各種分析を行うことをin situ分析と記載している。

論文情報

掲載誌 :
The Journal of Physical Chemistry C
論文タイトル :
Hole Accumulation at the Grain Boundary Enhances Water Oxidation at α-Fe2O3 Electrodes under Microwave Electric Field
著者 :
Masayuki Matsuhisa, Shuntaro Tsubaki, Fuminao Kishimoto, Satoshi Fujii, Iku Hirano, Masahiro Horibe, Eiichi Suzuki, Ryota Shimizu, Taro Hitosugi, Yuji Wada
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

教授 和田雄二

E-mail : yuji-w@apc.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

エネルギー産業の技術力向上へ「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」を設置

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東京工業大学と東京電力ホールディングス株式会社福島第一廃炉推進カンパニー(以下「東京電力HD」)は、「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」を2020年4月1日(水)に発足します。「協働研究拠点」は、企業の研究所機能の一部を東工大内に設置し共同研究を推進する、東工大の産学連携プログラムです。

エネルギー産業の技術力向上へ「TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点」を設置

東京電力HDが進める福島第一原子力発電所(以下、「福島第一」)の廃炉は、燃料デブリの取り出し・保管・処分や、これまでに取り扱った経験のない多種多様な放射性廃棄物の保管・処分など、世界でも類を見ない困難な課題があります。それら課題の解決には、原子力技術に留まらない極めて広範な領域の技術を組み合わせた、前例のないいわば「フロンティア技術」の開発が必要です。東工大は、これまでも科学技術創成研究院 先導原子力研究所outerを中心に原子力の基礎基盤に関する共同研究に取り組んできた実績があり、2011年の福島原発事故以降は、福島復興に向けた取り組みに務めています。特に、「廃止措置工学高度人材育成と基盤研究の深化」(文部科学省 英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業)では、福島第一の廃止措置に必要不可欠な最新技術と原子核工学の専門知識を有する人材を継続的に育成し、沸騰水型軽水炉過酷事故後の燃料デブリ取り出しアクセス性に関する研究等、多くの成果を残してきた点を踏まえ、今回両者は連携するに至りました。

このたび発足する協働研究拠点では、「東京工業大学オープンイノベーション機構outer」の研究企画から事業化までの支援のもと、これまでの両者の関係をさらに発展・充実させるべく、東京電力HDが廃炉現場で求めるニーズと東工大が持つ全学のシーズ技術をより積極的にマッチングし、東工大の持つ広範かつ豊富な研究リソースと東京電力HDの持つ廃炉現場でのノウハウを両者の緊密な連携下で融合した研究で「フロンティア技術」を開発し、福島第一の廃炉における技術的な各課題の克服を図ります。

さらには、協働研究拠点の設置により、独創的な廃炉技術に関する研究活動を通じて、今後30~40年継続する廃炉に関する産業のみならず、エネルギー産業、ひいては日本の幅広い産業の技術力の維持・向上を担う能力を持つ「人財」を育成・輩出する場としての役割を果たせるものと期待しています。

TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点の概要

  • 名称:
    TEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点
  • 場所:
    東京都目黒区大岡山2-12-1 東京工業大学 大岡山キャンパス 北1号館 4階410室
  • 設置期間:
    2020年4月1日~2025年3月31日
  • 研究内容:
    汚染水の発生防止・処理・処分等に係る技術、事故を経験したプラントに保管されていた使用済燃料等の保管・処分等に係る技術、燃料デブリの取り出し・性状把握・保管・処分等に係る技術、福島第一における廃炉作業に伴い発生する廃棄物の保管・処理・処分等に係る技術、福島第一における労働環境の維持・改善等に係る技術、福島第一の設備の安全かつ効率的な維持・運用等に係る技術、その他福島第一の廃炉に係る技術
  • 大学代表者:
    渡辺治(東京工業大学 理事・副学長(研究担当))
  • 会社代表者:
    小野明(東京電力ホールディングス株式会社 常務執行役 福島第一廃炉推進カンパニープレジデント兼廃炉・汚染水対策最高責任者)
  • 拠点長:
    竹下健二(東京工業大学 教授 科学技術創成研究院 先導原子力研究所所長)
  • 副拠点長:
    松本純一(東京電力ホールディングス株式会社 執行役員 福島第一廃炉推進カンパニー 廃炉推進室長)

取材申し込み先

広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

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