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全固体電池技術共創コンソーシアム 創立シンポジウム開催報告

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電池の研究開発で世界をリードする東京工業大学 科学技術創成研究院の菅野了次教授が統括する「全固体電池技術共創コンソーシアム」が活動を開始し、1月23日、創立シンポジウムを東工大大岡山キャンパス蔵前会館で開きました。

全固体電池を話し合った創立シンポジウム

全固体電池を話し合った創立シンポジウム

同コンソーシアムは2019年9月、国立研究開発法人・科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)に研究領域「目的指向型材料科学による全固体電池技術の創出」プロジェクトとして採択されました。東工大が幹事機関となり、民間企業6社が参画機関として加わり、全固体電池の実用化を促進する研究を行います。

コンソーシアムのキックオフとなる創立シンポジウムは、本学と共同研究を行う企業研究者を中心に100名近くが参加しました。

益一哉学長の開催挨拶に続いて、来賓の真先正人文部科学省大臣官房文部科学戦略官と白木澤佳子JST理事が、祝辞とともに本プロジェクトの意義とプロジェクトへの大きな期待を述べました。

挨拶する益学長
挨拶する益学長

来賓の真先文部科学戦略官
来賓の真先文部科学戦略官

続いて、領域統括の菅野教授がコンソーシアムで取り組む課題について説明しました。全固体電池の実用化に向けてのさまざまな課題と、それを解決するためのコンソーシアムとしての取り組みを紹介しました。

来賓の白木理事(JST)
来賓の白木理事(JST)

取り組みを紹介する菅野教授
取り組みを紹介する菅野教授

さらに、科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニットの研究者4名が、超イオン導電体であるLGPS結晶構造を探索する取り組みや、全固体電池の実用化に求められる要素性能を定量的に把握する基盤技術の構築といった最先端の技術を紹介しました。

  • 物質理工学院 応用化学系 鈴木耕太助教
    研究課題「革新的材料研究」

  • 科学技術創成研究院 堀智特任助教
    研究課題「次世代型への飛躍研究」

  • 物質理工学院 応用化学系 平山雅章准教授
    研究課題「用途多様化研究」

  • 科学技術創成研究院 池松正樹特任教授
    研究課題「社会実装のための技術課題検討」

謝辞を述べる渡辺理事・副学長(研究担当)
謝辞を述べる渡辺理事・副学長(研究担当)

最後に渡辺治理事・副学長(研究担当)が、登壇者と参加者に謝辞を述べ、閉会しました。

終了後は交流会も行われ、研究者の意見交換が盛んに行われました。益学長も参加し、本学のプロジェクトへの支援を力強く語りました。

研究領域「目的指向型材料科学による全固体電池技術の創出」の概要

情報化社会が進展してスマートフォンやタブレットなどの携帯情報端末が日常生活に不可欠なものになり、また電気自動車(EV)へのパラダイムシフトがグローバルに加速している。これらには現在、液体の電解質を持つリチウムイオン電池などが利用されているが、さらに安全性が高く、コンパクトで高性能な電池の開発が期待されている。菅野教授らが創り出した超イオン導電体(固体電解質)は、固体中を高速でイオンが選択的に動き回り、かつ低温から高温まで幅広い温度領域で作動する新しい材料であり、液漏れもなく安全性や安定性にも優れ、重量あたりのエネルギー密度も高い、全固体電池のキーテクノロジーである。本共同研究では、超イオン導電体の開発を世界的にリードしている技術優位性を活用し、全固体電池の実用化を促進するための研究を行う。 (JSTサイトによる)

お問い合わせ先

科学技術創成研究院 全固体電池研究ユニット OPERA事務室

E-mail : office@opera.iir.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5555


貴金属に匹敵する触媒活性を示す安価な錆びた銅 極小サイズが引き起こす高活性化

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要点

  • 1ナノメートルサイズ酸化銅粒子のアモルファス構造解析に成功
  • 安価な酸化銅が貴金属にも匹敵する高効率触媒活性を達成
  • 高難度炭化水素の酸化反応に対応できる新触媒技術への期待

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所の田邊真特任准教授と山元公寿教授らの研究グループは、1ナノメートル(nm)程度の酸化銅サブナノ粒子[用語1]が、炭化水素[用語2]酸化反応[用語3]において高効率触媒活性を示す要因を明らかにした。

酸化銅は銅と酸素が安定な化学結合を形成した化合物だが (錆びた銅の成分)、その酸化銅粉末を1 nmサイズまで極小化すると、結晶構造としての安定性が失われると同時にアモルファス構造[用語4]による反応性が向上する。サブナノ酸化銅粒子の構造解析と触媒活性の評価から、既存の貴金属触媒にも匹敵する高効率な触媒活性を示すことを見いだした。

研究成果は、既成概念にとらわれないサブナノ酸化物粒子の精密な構造解析や化学特性に関する実験結果をもとに、安価な銅触媒でも高難度炭化水素の酸化反応を引き起こす触媒技術開発に貢献できると期待される。

研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「山元アトムハイブリッドプロジェクト(山元公寿研究総括)」で実施した。研究成果は2月6日発行の米国化学会誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。

研究成果の概念図:サブナノ酸化銅触媒による炭化水素の酸素酸化反応

研究成果の概念図:サブナノ酸化銅触媒による炭化水素の酸素酸化反応

背景と経緯

酸素親和性の高い遷移金属 (チタン、鉄、銅など) を含む酸化物は遷移金属と酸素原子から安定な結晶構造を形成するため、そのバルク材料やナノ粒子が顕著な触媒活性を示すことはほとんどない。これに対して、1 nmサイズの物質は規則的な原子配列を持たないアモルファス構造が支配的であり、従来のナノ粒子より触媒活性が向上することが期待されている (図1)。

サブナノ酸化銅粒子の概念図

図1. サブナノ酸化銅粒子の概念図

しかしながら、サブナノ酸化物粒子を合成する手法は限られているため、その粒子構造や触媒機能はほとんど理解されていなかった。今回の研究では、樹状型高分子デンドリマー[用語5]を鋳型として用いることで、原子数が規定されたサブナノ酸化銅粒子の合成および構造解析をおこない、炭化水素の酸化反応において高い触媒活性を示す要因を探究した。

研究成果

サブナノ酸化銅粒子の合成には樹状型の規則構造をもつデンドリマーをテンプレートとして利用する。デンドリマー構造中に銅イオンを取り込み、化学還元により銅粒子が形成された後、大気下で晒(さら)して酸化銅粒子を合成した (図2)。

 (a) デンドリマーを鋳型とするサブナノ酸化銅粒子(CunOx@DPA)の合成スキームと電子顕微鏡像 (b)Cu12Ox、(c)Cu28Ox、(d) Cu60Ox.
図2.
(a)デンドリマーを鋳型とするサブナノ酸化銅粒子(CunOx@DPA)の合成スキームと電子顕微鏡像 (b)Cu12Ox、(c)Cu28Ox、(d)Cu60Ox.

X線光電子分光法[用語6]赤外分光法[用語7]による構造解析の結果、サブナノ酸化銅粒子に含まれる銅-酸素(Cu-O)結合は、酸化銅粉末の結晶性Cu-O結合とは全く異なっていた。その特徴は (1)極小粒子の歪み構造が影響してCu-O結合が伸長すること、(2)Cu-O結合間にイオン性[用語8]が増大して分極が生じることである。

理論計算から再現化したサブナノ酸化銅粒子はアモルファス構造を形成し(図1右)、かつ、そのCu–O結合間に電荷の偏りが増大したことから、各種分析結果を合理的に説明することができた。さらに、これらの結合状態は空気中の水分子が作用して粒子表面に多くの水酸基が吸着するという化学特性も観測された。言い換えれば、従来のナノサイズと比較して「サブナノ酸化銅粒子は反応性が高い状態を保持している」とみなすことができる。

実際に炭化水素(トルエン)の酸化反応において、ジルコニア(ZrO2)に担持したサブナノ酸化銅粒子は市販ナノ粒子より高い触媒活性を示すだけでなく、粒子サイズの減少に伴って触媒活性が向上する実験結果を得た (図3)。サブナノ酸化銅粒子の精密な構造解析から触媒活性が向上する関連性を明らかにした。その結果、安価な銅を含むサブナノ酸化物が酸化反応において貴金属ナノ粒子にも匹敵できる触媒活性に至ったことを実証できた。

(a)サブナノ酸化銅触媒(CunOx: n = 12、28、60)によるトルエン酸化反応、(b)原子数に依存した触媒活性
図3.
(a)サブナノ酸化銅触媒(CunOx: n = 12、28、60)によるトルエン酸化反応、(b)原子数に依存した触媒活性

今後の展開

サブナノ粒子の触媒開発にはナノ粒子の既存概念の延長ではなく、粒子自身の構造解析及び反応特性などの分析結果を正確に理解することが不可欠である。今後、さらなる高機能触媒の開発に向けて複数元素で構成される多元合金ナノ粒子 [用語9] [参考文献1] が注目されており、高効率高選択率を可能とする革新的酸化触媒の開発に貢献できると期待される。

謝辞

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、および第一稀元素化学工業株式会社の支援・協力を受けて実施された。

用語説明

[用語1] サブナノ粒子 : 粒径1ナノメートル程度の極小なナノ粒子。構成するほぼすべての原子が表面に露出するため、ナノ粒子より高い触媒活性を示すことが期待される。

[用語2] 炭化水素 : 反応性の極性官能基を持たない炭素と水素で構成された有機分子。メタン分子を代表として非常に安定なC-H結合を持つため、一般的には有害な重金属や爆発性の過酸化物などの強力な酸化剤を使わずに化学変換できない。

[用語3] 酸化反応 : 最も身近な化学反応であり、炭化水素と酸素との反応により炭素-酸素(C-O)結合を形成する反応。炭化水素から水と二酸化炭素を生成する完全酸化を抑え、選択的に部分酸化を起こせば有用な酸化物を合成できる。

[用語4] アモルファス構造 : 物質の原子配列において、結晶で見られる周期的構造が存在せず乱れた構造。非晶構造ともいう。構成原子数が少ないサブナノ粒子は周期的構造が形成できず、反応基質が吸着できる活性サイトを多く持つ。

[用語5] デンドリマー : コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に枝分かれした構造をもつ特殊な高分子。本研究で用いるデンドリマーはその構造中に多数の金属イオンを取り込めるように設計されており、サブナノ粒子を合成する鋳型として機能する。

[用語6] X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS) : 試料にX線を照射して、放出される光電子の運動エネルギーを測定する。放出される光電子は原子の内殻電子に起因するものであり、本論文では銅の酸化状態や化学結合状態に関する情報を得た。

[用語7] 赤外分光法 (Infrared Spectroscopy: IR) : 試料に赤外線を照射して、これを構成している分子が吸収したエネルギーを測定する。この吸収は化学結合の振動・回転の励起に必要なエネルギーであり、本論文では酸化銅粒子に水酸基が存在することを確認した。

[用語8] イオン性 : 化学結合における電荷の偏りを表す用語。本論文ではXPS測定によりCu 3p 軌道測定で観測された強度比を用いてCu-O結合のイオン性を算出した[参考文献2]

[用語9] 多元合金ナノ粒子: : 多種の金属元素が混合した金属ナノ粒子で、特異な電子状態に基づく触媒機能が期待される。デンドリマー(用語5)を鋳型として利用すると、1ナノメートル程度にサイズ制御された合金サブナノ粒子が合成できる。

参考文献

[1] T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka, K. Yamamoto, Nat. Commun. 2018, 9, 3873.

多元合金ナノ粒子の新たな合成手法を開発|東工大ニュース

[2] K. Borgohain, J. B. Singh, M. V. R. Rao, T. Shripathi, S. Mahamuni, Phys. Rev. B 2000, 61, 11093.

論文情報

掲載誌 :
ACS Nano
論文タイトル :
Enhanced Catalytic Performance of Subnano Copper Oxide Particles
著者 :
Kazutaka Sonobe, Makoto Tanabe and Kimihisa Yamamoto
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

屋外壁画「水底」 大岡山キャンパスに出現 Hisao & Hiroko Taki Plaza 建設現場アートプロジェクト

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東京工業大学大岡山キャンパスに横20メートルの大きな屋外壁画が2月3日、完成しました。タイトルは「水底(みなそこ)」。東工大生や教職員だけでなく、ご近所の皆さんも力を合わせて色を塗り、カラフルに仕上げた大作をどうぞご覧ください。

壁画写真

場所は正門を入ってすぐ、附属図書館向かいの工事現場。2020年12月のオープンを目指して建設が進む学生向け国際交流施設「Hisao & Hiroko Taki Plaza(ヒサオ アンド ヒロコ タキ プラザ、以下、Taki Plaza)」の白い仮囲いです。仮囲いが撤去されるまで期間限定の「Taki Plaza仮囲いアートプロジェクト」となります。「水底」にはTaki Plazaを舞台に実現するであろう学生のつながり、交流、海と陸を超えた世界への飛躍がイメージされています。左から右に向かって成長していく様子を描いています。

Taki Plazaの建設は2019年5月に始まり、工事作業は仮囲いで見えなくなりました。「Taki Plaza仮囲いアートプロジェクト」は、真っ白に広がる仮囲いそのものを活用し、Taki Plazaについて広く知ってもらう企画です。

7月、参加者を学内公募で募ったところ、15名(うち6名は留学生)の学生が集まりました。参加学生は、Taki Plaza の企画運営を担当する「Taki Plaza 学生ワーキンググループ」から、Taki Plazaのコンセプトと各フロアの構成について説明を聞きました。各々がTaki Plazaをテーマにスケッチを描き、思い思いのアイデアを元にディスカッションを行いました。東工大のシンボルであるツバメをモチーフにした案。フォトスポットを意識したアイデア。Taki Plazaでの学生の交流活動を切り取った構想。さまざまな提案を討論しながら、方向をしぼります。下絵は、人を惹きつけるスケッチを描いた工学院 機械系 学士課程3年の神田海都さんが担当することになりました。

Taki Plazaをテーマにアイデアをスケッチ
Taki Plazaをテーマにアイデアをスケッチ

スケッチを並べてアイデアを共有
スケッチを並べてアイデアを共有

壁画の全体像イラスト

壁画の全体像イラスト

ツバメの眼に色を入れる井村副学長と神田さん
ツバメの眼に色を入れる井村副学長と神田さん

縦2.6メートル、横20メートルの紙に下書きをした後、環境・社会理工学院 建築系 学士課程3年の戸邉尭暉さんが「色塗りプロジェクト」広報用のポスターを作成しました。現場での色塗りは、誰でも参加できる形で広く参加者を募りました。色塗りの初日は10月30日でした。井村順一副学長(教育運営担当)と神田さんがツバメの眼に色を入れるところから始まりました。東工大生、教員、職員から通りかかった近所の方々、子どもまで、様々な人の手が加わります。下絵に沿って、指定した色を顔や波、鳥に塗っていきます。何もなかった白い仮囲いは色鮮やかな巨大キャンバスに変身します。70人以上の手作業で1つの作品「水底」が完成しました。

協力し楽しそうに色塗りをする参加者達

協力し楽しそうに色塗りをする参加者達

協力し楽しそうに色塗りをする参加者達

最初は真っ白だった壁画が参加者達の手によってカラフルに変化

最初は真っ白だった壁画が参加者達の手によってカラフルに変化

最初は真っ白だった壁画が参加者達の手によってカラフルに変化

神田さんが考案した「水底」のコンセプトは以下の通りです。

タイトル「水底」

学生間での密な交流、そこで生まれる繋がり
ふざけながらも信頼し合う様子を思い浮かべました。

身体が触れ合い、お互いに与える影響が青色に浮かんでいます。

日本は島国ですから、海外に出るには海を超えなくてはいけません。

なので、最初に海。次に陸を配置しています。

鳥は東工大のシンボルでもある燕です。

世界へ進出する、これから成長していく学生を意識しました。

右側に連なる未知なるものは、自分の可能性を磨いて、成長する過程です。

勉強を続けると、目標に近づき、おのずと目標が具体的かつ明確に見えてきます。

その様子を生物が人型に近づく様子と重ねています。

目の数が4→3→2と変化するのは、能力が研ぎ澄まされていく様を示します。

Taki Plaza

Taki Plazaは学生のための国際交流拠点として建設を進めています。本学の卒業生である株式会社ぐるなびの滝久雄取締役会長からの寄附金をもとに、留学生と日本人学生が出会い、つながる場として構想されました。地上2階・地下2階、延床面積約4,800平方メートル、設計は隈研吾建築都市設計事務所。

本学のランドマークとして、大岡山キャンパス正門入口付近に2020年12月、オープンします。

東工大基金

このイベントは東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 > 東京工業大学基金

お問い合わせ先

学務部 学生支援課 支援企画グループ

E-mail : gak.sie@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3011

学生支援センター修学支援部門

E-mail : concierge.info@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2760

東工大・チュラロンコン大学合同の2019年度異文化課題解決型学習 第5回のテーマはAI

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タイのチュラロンコン大学から計18名の学生と教員が1月8日から17日までの10日間、東京工業大学を訪問し、東工大グローバル理工人育成コースの学生とともに「AI」をテーマに、サイトビジットと合同プレゼンテーションを行いました。

グローバル理工人育成コースでは、東工大とチュラロンコン大学の合同で、異文化課題解決型学習 GATI(Global Awareness for Technology Implementation in the Solving of Social Issues)プログラムを、毎年実施しています。2019年度は第5回目(GATI 5)となります。同コースの東工大生が超短期海外派遣プログラムにより8月末にタイ・バンコクを訪問、第3・第4クォーターに両大学をポリコムシステムで繋いだ遠隔授業を行い、その後、1月にチュラロンコン大生が来日してサイトビジット及び最終発表と、約半年にわたって行われました。

2019年度のテーマは「AI」

GATIでは、両大学合同のグループを作り、その年度のテーマに関連するトピックを各グループで決定し、グループワークを行います。2019年度のテーマは「AI」です。東工大から9名、チュラロンコン大から18名の学生達が参加し、6グループに分かれて活動しました。8月末に東工大生がタイに滞在した期間に、AIについて専門家による講義を聞き、AIを活用している企業を訪問しました。6つのグループは、「自動運転車」「AIを活用した農業」「個人情報への意識」「AI活用による失職」「自律型兵器」「災害後の支援」のトピックをそれぞれ取り上げることを決定しました。東工大生が日本に帰国した後は、週1回の遠隔授業に加え、授業時間以外にグループごとで調査・共同研究を重ね、最終発表で提案するプレゼンテーションの準備を進めました。

遠隔学習の様子(東工大にて)
遠隔学習の様子(東工大にて)

スクリーンに映るチュラロンコン大生
スクリーンに映るチュラロンコン大生

1月にチュラロンコン大生が来日し、東京工業大学 工学院 機械系の葭田貴子准教授が、AIテクノロジーにおける倫理面での課題について講義しました。葭田准教授は人工知能を有するロボットが起こした事故に対して、誰が責任を負うべきか、ユーザーなのか、メーカーなのか、それともロボットなのか、といった責任の所在について、ディスカッション形式で学生からの意見を聞き取りながら、講義を進めました。学生達の関心はこれまで最新の技術に対して向かっていましたが、想像を超えたAIの発達により生じるELSI(倫理的・法的・社会的な課題)について新たな視点を与えられました。将来的に世界の技術革新に携わることになる両大学の学生にとって、有意義な時間となったようです。

人工知能を有するロボットが起こした事故を想定したビデオを観る学生
人工知能を有するロボットが起こした事故を
想定したビデオを観る学生

葭田貴子准教授(1列目左)と学生たち
葭田貴子准教授(1列目左)と学生たち

NEC サイバーダイン 企業訪問

来日したチュラロンコン大生と東工大生は、AI分野での世界のトップ企業の一つであるNECouter(東京都港区)を訪問し、NEC AI・アナリティクス事業部シニアマネージャーの秋元一郎氏・同主任の茂刈春華氏より「NECのAI事業への取組」について、NECクロスインダストリー事業開発本部主任の片岡宏輔氏より「データ流通」、長谷川明彦氏より「自動運転」について説明を受けました。その後、学生が進めているグループごとのトピックを発表し、アドバイスや意見を伺いました。さらに、NEC Future Creation Hubouterを英語で案内され、AIを使用した日本の最先端技術について学びを深めました。

NECでのトピック発表
NECでのトピック発表

NEC Future Creation Hubを見学する学生たち
NEC Future Creation Hubを見学する学生たち

最終日には、大型バスで茨城県つくば市へ行きました。まず産業技術総合研究所のショールーム「サイエンス・スクエアつくば」を訪問しました。最新の日本の科学技術の研究展示について、英語で詳細な解説があり、学生たちは熱心に聞き入っていました。

その後、同市内のCYBERDYNE(サイバーダイン)株式会社本社を訪問しました。同社のCEO(最高経営責任者)であり、筑波大学大学院の教授でもある山海嘉之氏から、世界各国の医療関連機関などで導入されている装着型サイボーグHAL®(Hybrid Assistive Limb®)製品の開発過程や、医療分野へのAIの適用で未来を変える構想など、貴重な講義を聞きました。穏やかで明快でユニークな山海教授の語り口に、両大学の一同はすっかり魅了されてしまいました。

サイエンス・スクエアつくばで解説を聞く学生たち
サイエンス・スクエアつくばで解説を聞く学生たち

チュラロンコン大・プロードプラン教授と山海教授
チュラロンコン大・プロードプラン教授と山海教授

腕タイプのHAL®の体験をするタイの学生
腕タイプのHAL®の体験をするタイの学生

最後にCYBERDYNEスタジオで、HAL®やCYBERDYNE製品について紹介するツアーに参加しました。装着型サイボーグの展示には、参加者全員が胸を躍らせました。人が体を動かそうとすると、運動意思は、脳から神経を通じて筋肉に信号が伝わり、その際、微弱な生体電位信号が体表に漏れ出してきます。HAL®は、装着者の生体電位信号を皮膚に貼付したセンサーで検出し、意思に従った動作をサポートするので、装着者は体を動かす意思をもつことによってHAL®を動かすことができます。参加者全員が、腕タイプのモデルを操作して感覚を体験することができ、味わったことのない感覚に驚きの声を上げていました。

グループの最終発表

1月16日には東工大大岡山キャンパスレクチャーシアターで最終発表を行い、6グループが遠隔ワーク及びタイ・日本滞在中に進めてきたグループワークの成果を発表しました。

「農業」グループの発表の様子
「農業」グループの発表の様子

「データプライバシー」グループの発表
「データプライバシー」グループの発表

各グループともタイと日本の文化による意識の違いをふまえ、Webでのアンケート調査や、自ら開発したアプリを提案するなど、それぞれが課題に対する取り組みを英語で発表しました。

発表終了後には、東工大グローバル人材育成推進支援室長の須佐匡裕教授が双方の学生代表に修了証を授与しました。

学生たちは半年近く密接に交流し文化の違いを意識しながらも、共同で共通の課題に取り組んできました。2019年度も英語でのコミュニケーション力向上にとどまらず、異文化を理解し、友情を育みながら自分の強みをアピールしつつ同じ目的に邁進する、という実践的な意味でのグローバルな能力を大きく向上させることができました。

グローバル人材育成推進支援室長 須佐匡裕教授から修了証を授与される本学とチュラロンコン大学の学生代表
グローバル人材育成推進支援室長 須佐匡裕教授から
修了証を授与される本学とチュラロンコン大学の学生代表

すべてのプログラムを終えて集合写真(担当教員:国際教育推進機構 村上理映特任准教授=前列左から2番目)
すべてのプログラムを終えて集合写真
(担当教員:国際教育推進機構
村上理映特任准教授=前列左から2番目)

お問い合わせ先

グローバル人材育成推進支援室

E-mail : ghrd.info@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3520

世界最小のクロック回路を5 nm CMOSで開発

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要点

  • 世界初5 nm CMOSプロセスを用いた分数分周型クロック回路を実現
  • 世界最小・最高性能のスペクトル拡散クロック回路の開発に成功
  • デジタル回路のみで構成でき、自動合成による超短期間設計が可能

概要

東京工業大学 工学院 電気電子系の岡田健一教授らと株式会社ソシオネクストの研究グループは、最先端の5 nm FinFET CMOSプロセス[用語1]で世界初となる世界最小の高性能分数分周型クロック回路[用語2]の開発に成功した。この回路はプロセッサーやメモリー、通信用のクロック用途として必須の電子回路であり、開発したクロック回路は小型ながらも優れたジッタ特性[用語3]を持つ。また、細かい周波数調整が可能な分数分周型PLL[用語5]で構成されており、スペクトル拡散クロック[用語6]の生成が可能である。

一般にクロック回路は典型的なアナログ回路であり、従来はアナログ回路設計者が時間をかけて設計・チューニングする必要があったが、本技術ではクロック回路をデジタル回路として構成することを可能とした。通常のデジタル回路と同様に自動配置配線が可能となり、非常に短時間で必要なプロセスやクロック周波数に合わせて最適に設計することができる。また、製造プロセスの微細化にあわせてスケーラブルに回路面積を小型化することが可能であり、幅広い用途のSoC[用語7]の小型化・低コスト化を実現できる。

研究の背景・意義

携帯電話、パソコン、テレビなどを含むほとんどの電子機器に搭載されているLSI(大規模集積回路)は、デジタル信号処理を行うデジタル回路部と、外部からのアナログ信号を扱うアナログ回路部から構成される。LSIを製造する半導体製造プロセスの微細化にあわせてデジタル回路は小型化・高性能化が可能であるが、アナログ回路は小型化が困難であり、また、微細な製造プロセスほど設計が困難になることが大きな問題となっている(図1)。

図1. 半導体プロセスのスケーリング(左)とPLL回路設計の難易度(右)

図1. 半導体プロセスのスケーリング(左)とPLL回路設計の難易度(右)

LSIには、所望の周波数のクロック信号や通信用搬送波信号を生成するクロック回路が搭載されている。LSIに内蔵されるクロック回路は通常PLL方式のクロック回路が用いられる。PLLは典型的なアナログ回路の一種であり、FinFETのような最先端の半導体製造プロセスを用いる場合に、従来に比べて、設計がより困難となり、また、デジタル回路部分に比べて相対的に回路面積が大きくなる問題がある。

一般にアナログ型のPLLは優れたジッタ特性を持つことができる一方で、キャパシターやインダクターなどの回路面積の大きいアナログ素子を用いることになり、特に20 nm以下の先端プロセスでは微細プロセスの利点を失わせかねない課題を抱えている。また、通常アナログ回路は手作業で設計・レイアウトが行われるが、先端プロセスではアナログ回路の設計ルールが複雑化し、設計・検証の反復のコストが増大してしまう問題がある(図1)。さらに、高周波回路は回路寸法が大きくなればなるほど意図しない抵抗や容量による寄生成分が増え、アナログ素子による面積増大が性能劣化につながる。また、従来からデジタル型のPLLについて検討は行われていたが(図2)、回路ブロックの一部にアナログ回路が含まれており、依然としてアナログ回路の手設計が必要であった。本提案技術であるシンセサイザブルPLLでは、構成する回路ブロックをすべてデジタル回路構成とすることができ、あたかもデジタル回路のように自動設計を可能とすることに成功した(図2)。これにより、半導体製造プロセスの微細化にあわせて回路面積の縮小が可能となり、低消費電力化が期待できる。従来方式と比較すると、最先端の微細なプロセスを使うほどに性能の向上が期待できる。

図2. PLL回路の発展

図2. PLL回路の発展

PLLには生成できる周波数が基準信号に対して整数倍の周波数のみか、あるいは非整数倍(分数倍)の周波数を出力可能かで、それぞれ整数分周型(インテジャーN型)PLLと分数分周型(フラクショナルN型)PLLの二つの種類がある。無線機やSoCなどでは、任意の周波数の発生が可能な分数分周型PLLが必要である。分数分周型PLLは汎用性が高く、様々な用途での利用が可能であるが、一方で設計の難易度が高いことが問題であった。

研究成果

今回の成果は、従来のデジタルPLLにおいて、アナログ回路構成で実現されていたデジタル制御発振器(DCO)[用語8]および時間差デジタル変換器(TDC)[用語9]をデジタル回路構成により実現できたことによる(図2)。従来のデジタルPLLでは、TDC回路で長い時間差の変換が必要であったため、アナログ回路設計による高線形なTDCが必要であった。本研究成果では、タイミングをデジタル的に制御するデジタル時間変換器(DTC)[用語10]とTDC回路とを組み合わせることで、TDC回路に必要な時間差範囲を狭めることに成功し、そのデジタル回路化に成功した。一方で、DTC回路には長い時間差での変換が必要になるが、デジタル補正を組み合わせることでこの問題を解決した。DCO回路においても、同様にデジタル補正を駆使することでデジタル回路化を実現した。以上により、PLL回路全体をデジタル回路として構成することが可能となり、デジタル回路開発で使用されている回路合成・タイミング設計や自動配置配線ツールを活用できるようになり、通常のデジタル回路同様に、PLLをスタンダードセルによって自動設計できるようになった。これは異なるプロセス間での移植性を高め、新たに開発された最先端製造プロセスにおいても迅速な回路設計を可能とする。

図3は作製したチップ写真である。実現した回路は、分数分周型(フラクショナルN型)のPLLで、わずかな面積で高周波信号の生成が可能なリングオシレータ[用語11]型の発振器を用いた。回路面積は世界最小の0.0036mm2であり(図4)、消費電力とジッタ特性に関する性能指標であるFoM[用語12]が-235 dB(デシベル)と、極めて優れた性能を達成した(表1)。わずか0.95mWの消費電力で動作し、スプリアスレベル[用語13]は低く-44 dBcであった。さらにスペクトル拡散クロック機能を有し、低電磁妨害特性を実現した。

本研究成果は、1月27日に集積回路設計技術において権威のあるジャーナルのひとつである「IEEE Solid-State Circuit Letters(米国電気電子学会 固体素子回路レター誌)」に掲載された。

なお本研究は株式会社テラピクセル・テクノロジーズの協力により実現した。

図3. 提案回路を搭載したチップ写真

図3. 提案回路を搭載したチップ写真

表1 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL性能比較

 
本研究
TCAS-I’18
RFIC’18
ISSCC’15
ISSCC’15
発表組織
東工大
& ソシオネクスト
インテル
サムスン
TSMC
サムスン
自動合成可能か?
(Synthesizable)
Yes
No
No
No
No
製造CMOS
プロセスノード
5 nm
14 nm
14 nm
16 nm
14 nm
面積 [mm2]
0.0036
0.021
0.1
0.029
0.009
消費電力[mW]
0.95
2.6
36.3
3.9
2.06
ジッタ[ps]
1.90
15.1
0.982
3.48
18.8
性能指標FOM*[dB]
-235
-212
-225
-223
-211

FoM

図4. 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL回路面積およびFOM比較

図4. 20 nmノード以降の先端CMOSプロセスにおけるPLL回路面積およびFOM比較

今後の展開

本提案技術である高性能クロック回路により、世界最先端の5 nmプロセスによる高性能、低消費電力、小面積のSoCを短期間で設計することが可能になった。また、クロック回路のデジタル化により、将来のSoCの全自動設計への道が拓かれた。ソシオネクストは今回の成果をもとにAIやIoTなど今後も継続して市場の成長が予想される分野で商品やサービスの差異化に寄与するSoCを供給していく。また東工大とソシオネクストは今後も、アナログデジタル変換器などの他の種類のアナログ回路の自動合成を始めとするCMOSミックストシグナル設計の基礎技術開発の分野で協力していく。

用語説明

[用語1] 5 nm FinFET CMOSプロセス : CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。nm(ナノメートル)は10億分の1 m。Finはシリコン基板を短冊状に成形した魚の背びれ状の構造。

[用語2] 分数分周型クロック回路 : 分数分周型(フラクショナルN型)PLL
PLL[用語5]にはインテジャーN型(整数分周型)とフラクショナルN型(分数分周型)がある。インテジャーN型PLLでは基準信号に対して整数倍の周波数を出力するが、フラクショナルN型では分数倍の任意の周波数の出力が可能である。例えば、水晶発振器から入力される基準クロック周波数が26 MHzの場合、インテジャーN 型PLLでは2,418 MHz(93倍)、2,444 MHz(94倍)、2,470 MHz(95倍)の生成が可能であるが、フラクショナルN型PLLでは2,442 MHz(93.923倍)のような任意の小数精度の逓倍動作が可能である。BLE等の無線通信用には、インテジャー型ではなくフラクショナル型のPLLが必要である。アナログPLLではフラクショナル型を比較的容易に実現できるが、小面積低消費電力で有利なデジタルPLLにおいてフラクショナル型のものはジッタ特性が劣化しやすく実現が難しい。

[用語3] ジッタ特性 : クロックの重要な特性の一つで、クロック信号の立ち上がりまたは立ち下りタイミングが揺らぐ現象で、本来のタイミングからのずれが統計的にどれぐらいの幅を持つかで評価する。ジッタが小さいほど、クロックの揺らぎが小さい状況を示す。クロックを生成している発振器の位相雑音[用語4]特性に大きく依存し、位相雑音が低いほど、ジッタも小さくなる。

[用語4] 位相雑音 : 発振器の重要な特性の一つ。必要な周波数の信号に対し、どれだけ不要な周波数のスペクトルを持つかを表す。一般に、位相雑音特性は電力や発振周波数帯に依存する。

[用語5] PLL(Phase-Locked Loop) : 集積回路中では正確な周波数基準が作れないため、水晶発振器による基準周波数frefを用い、それをN逓倍して所望周波数N・frefの周波数の信号を得る。PLLには、位相周波数比較器、チャージポンプ、ローパスフィルタを用いるアナログPLLと、時間差デジタル変換器(TDC)とデジタルローパスフィルタを用いるデジタルPLL(オールデジタルPLLとも呼ばれる)が知られている。

[用語6] スペクトル拡散クロック : デバイスのクロック信号によって生じる外部への電磁妨害を抑えるための技術。デジタル回路は通常クロック信号を基準に動作するため、それに同期したタイミングで配線に電流が流れ、特定のクロックの周波数に集中した電磁妨害を発生してしまう。電磁妨害の対策として金属のシールド等も用いられるが、物理的な実装が必要なためサイズやコストが増大してしまう。一方でスペクトル拡散クロックは、クロックの周波数を意図的に変化させることで、使用する周波数帯域を広げながらエネルギーを拡散させ、電気的に電磁妨害が発生しにくい状態を作り出すことができる。

[用語7] SoC(System on Chip) : プロセッサーやメモリー、その他システムを実現するために必要となるすべての回路が集積された集積回路。特に用途にあわせて設計したSoCをカスタムSoCと呼ぶ。

[用語8] デジタル制御発振器(DCO :Digitally Controlled Oscillator) : デジタル制御値により発振周波数が変化する発振回路。PLLの発振周波数とリファレンス周波数の偏差に応じてDCOに与えるデジタル制御値が決まり、偏差を低下させるようにDCOの発振周波数は変化する。PLLの出力周波数はDCOの発振周波数と一致する。

[用語9] 時間差デジタル変換器(TDC : Time-to-Digital Converter) : 二つの入力信号の時間差をデジタル値に変換して出力する回路。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語10] デジタル時間変換器(DTC : Digital-to-Time Converter) : デジタル制御値により、遅延時間が変化する可変遅延回路。デジタル制御遅延回路(DCDL, Digitally-Controlled Delay Line)とも呼ばれる。PLLなどの幅広い回路で利用されている。

[用語11] リングオシレータ : 遅延素子を環状に接続して構成する発振器。可変遅延機構を加えることで周波数を可変とし、デジタル制御発振器を構成することができる。

[用語12] FoM : Figure of Meritの略で、消費電力で規格化したジッタ性能を示す。ジッタと消費電力はトレードオフの関係にあり、発振器の消費電力を増やすとジッタが減少し、消費電力を減らすとジッタが増加する。FoMは、ジッタの標準偏差(σt)と消費電力PDCを用いて、以下の式で定義される。

FoMの式

ジッタ特性が同じでFoMが10dB小さければ、消費電力が10分の1であることに相当する。

[用語13] スプリアスレベル : スプリアスとは必要な信号以外の信号(ここではクロック周波数以外の不要な信号)のことであり、スプリアスレベルはこの不要な信号の強度を表す。スプリアスレベルが高いことは不要な信号が強いことを示し、その場合デジタル回路の誤動作や通信の品質低下、妨害波の発生に影響を与える。デシベル表現で示されることが多く、例えば-44 dBcは必要な信号の電力に対して不要な信号がおよそ25,000分の1に抑えられていることを表す。

論文情報

掲載誌 :
IEEE Solid-State Circuits Letters
論文タイトル :
A Fully-Synthesizable Fractional-N Injection-Locked PLL for Digital Clocking with Triangle/Sawtooth Spread-Spectrum Modulation Capability in 5 nm CMOS
著者 :
Bangan Liu(東工大 研究員)、Yuncheng Zhang(東工大 博士後期課程学生)、 Junjun Qiu(東工大 博士後期課程学生)、Hongye Huang(東工大博士後期課程学生)、 Zheng Sun(東工大博士後期課程学生)、Dingxin Xu(東工大 修士課程学生)、 Haosheng Zhang(東工大 博士後期課程学生)、Yun Wang(東工大 研究員)、Jian Pang(東工大 研究員)、Zheng Li(東工大 修士課程学生)、Xi Fu(東工大 修士課程学生)、白根篤史(東工大 助教)、黒須一司(ソシオネクスト)、中根美徳(ソシオネクスト)、正木俊一郎(ソシオネクスト)、岡田健一(東工大 教授)
DOI :
<$mt:Include module="#G-05_工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 工学院 電気電子系

教授 岡田健一

E-mail : okada@ee.e.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3764 / FAX : 03-5734-3764

株式会社ソシオネクスト

正木俊一郎

E-mail : masaki.shunichiro@socionext.com

取材申し込み先

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

株式会社ソシオネクスト 経営企画室

Tel : 045-568-1006

製品に関するお問い合わせouter

2019年度「大隅良典基礎研究支援」授与式を開催 若手研究者4名に研究資金を支援

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東京工業大学の40歳未満の若手研究者に対し基礎研究の資金を支援する2019年度「大隅良典基礎研究支援」授与式が1月24日、東工大すずかけ台キャンパスで行われました。

支援採択者との記念撮影(1月25日)

支援採択者との記念撮影
(前列左から長澤竜樹助教、塚本孝政助教、大隅良典栄誉教授、益一哉学長、山科雅裕助教、佐藤浩平助教、後列左から藤澤亘研究推進部長、大竹尚登教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)、桑田薫副学長(研究企画担当)、原亨和教授)

「大隅良典基礎研究支援」は2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典栄誉教授からの寄附をもとに東工大が設立した「大隅良典記念基金」を原資にしています。本支援は、長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援を目的として研究費の支援を行います。40歳未満の本学教員による基礎研究を対象に、1件あたり250万円までを支援します。2019年度に初めて6名を選びました。2回目の今回は42名の応募があり、4名が採択されました。

大隅良典基礎研究支援の概要

対象

以下の1、2の条件を両方満たす研究提案であること。

1.
本学に雇用されている教員、特任教員、研究員で、2019年4月1日現在に40歳未満で、以下の要件を満たす者が原則として単独で行う研究であること(予算措置を伴わない研究協力者との共同研究は可とする。その他条件あり)。
2.
研究の性格が基礎研究であること。
研究支援期間
原則支援開始日より1年間。
ただし、研究計画によっては2年間の計画申請まで可能。
支援申請額
1件あたり250万円まで。
ただし、支援金額は審査により決定し、また提案内容に応じて別途考慮することがある。

2019年度「大隅良典基礎研究支援」採択者一覧

所属
職名
氏名
研究課題
理学院
化学系
助教
山科雅裕
ヤヌス型の分子ピンセットを活用した多色蛍光性超分子ポリマーの合成
生命理工学院
生命理工学系
助教
佐藤浩平
“閉じたミクロ空間”におけるペプチド自己集合化現象の解明
生命理工学院
生命理工学系
助教
長澤竜樹
孵化腺細胞の進化発生学的解析
―新しい進化モデルの提唱を目指して―
科学技術創成研究院
化学生命科学研究所
助教
塚本孝政
球を超える対称性を持つ「超縮退物質」の実験的実証

授与式では、4名の支援採択者に対して益一哉学長から支援決定通知書が手交されました。益学長より本学の基礎研究支援の取り組みについて説明があった後、大隅栄誉教授より祝辞がありました。次いで支援採択者と益学長、大隅栄誉教授、渡辺治理事・副学長(研究担当)ら審査員を交えた懇談が行なわれ、採択者の研究紹介や、活発な意見交換がなされました。

大隅良典栄誉教授
大隅良典栄誉教授

懇談の様子
懇談の様子

懇談の様子
懇談の様子

採択者4名
採択者4名

東京工業大学は、今後も日本の礎となる基礎研究に対する支援を続けていきます。

大隅良典記念基金

大隅良典栄誉教授が2016年、「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞したことを機に、将来の日本を支える優秀な人材を育成するため、経済的支援が必要な学生が本学で学ぶための修学支援(奨学金)並びに長期的な視点が必要な基礎研究分野における若手研究者支援の推進など、研究分野の裾野の拡大を目的として設立しました。

「基礎研究支援」は大隅栄誉教授が、若い人がチャレンジングな課題に取り組める環境整備や次世代を担う研究者の育成支援について要望されたことに基づき、発足しました。

東工大は大隅良典記念基金をさらに充実させるため、寄附を受け付けています。

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お問い合わせ先

研究企画第1グループ

E-mail : kenkik.kik1@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2327

新しい原理で駆動する可視光水分解電極を開発 ありふれた物質に眠る有用な新機能を発見

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要点

  • 酸化チタンと水酸化コバルトを組み合わせた可視光駆動型水分解電極を開発
  • 太陽光に多く含まれる可視光をエネルギー源に水から水素を製造
  • 水分解光電極を駆動する新しい原理を発見

概要

東京工業大学 理学院 化学系の前田和彦准教授、田中秀幸大学院生(2017年度修士課程修了)、岡崎めぐみ大学院生・日本学術振興会特別研究員らは、酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料が可視光照射下で水を分解する光電極[用語1]として機能することを発見した。

紫外光を吸収して水を光分解できる酸化チタンと、水の酸化の優れた触媒となる水酸化コバルトを組み合わせると、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移[用語2]に基づく可視光吸収が生じ、これを水の光酸化に利用して実現した。水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素光還元[用語3]への応用も期待される。

前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士の単純な組み合わせだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

研究成果は1月31日、米国の科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces(米国化学会・アプライド マテリアルズ アンド インターフェース)」オンライン版に掲載された。

研究の背景

水を水素と酸素に分解する光電極の開発は太陽光に多く含まれる可視光を化学エネルギーへ変換する“人工光合成”実現の観点から重要な課題である。酸化チタンに代表されるある種の金属酸化物は合成が比較的容易で、化学的にも安定であることから、水分解の光電極材料として広く研究されてきた。だが、それらのほとんどはバンドギャップ[用語4]が大きいため、紫外光しか吸収できないことが大きな問題となっていた。

研究成果

前田准教授らは透明導電性ガラス上に積層した酸化チタン薄膜に水酸化コバルトを析出させた電極が可視光照射下で水を分解する新たな光電極となることを見出した(図1)。酸化チタンや水酸化コバルト単独では同様の機能は得られず、両者を組み合わせることで生まれる可視光吸収能が機能発現の起源となっていることが明らかとなった。

酸化チタンや水酸化コバルトといったありふれた物質のみを用いて、実現困難な可視光水分解をはじめて実現した。この複合光電極は簡便かつ低コストな手法で作成できるという特徴もあわせもっている。

酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。
図1.
酸化チタンと水酸化コバルトからなる複合材料を用いた可視光照射下での光電気化学的水分解。酸化チタンのバンドギャップ(=伝導帯と価電子帯のエネルギー差)は大きいため400 nm以上の可視光を吸収できないが、水酸化コバルトから酸化チタンへの電子遷移が生じることで幅広い可視光の利用が可能となった。

今後の展開

これまで、可視光で水を分解する光電極の開発には、新材料の探索や既知物質の高性能化など多大な努力がなされてきた。今回の前田准教授らの発見により、ありふれた物質同士を簡便な操作で組み合わせるだけで太陽光エネルギーを化学エネルギーへ変換する革新的機能材料を創出できる可能性が見えてきた。

今後、光電極構造・電解条件の最適化を行うことや類似物質の組み合わせを検討することでさらなる性能向上が見込まれる。加えて今回の複合光電極は水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素還元のための光電極部材としての応用も期待される。

また、これまでにない新しい動作原理で働く光電極であることから、その学術的な意義は大きく、詳細な機構解明も今後の重要な課題となる。

付記

本研究は京都大学の内本喜晴教授、内山智貴助教のグループとの共同で行った。

本研究は日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)、基盤研究B「金属酸化物ナノシートと第一遷移金属酸化物ナノ粒子からなる可視光水分解光触媒」(代表:前田和彦 東京工業大学 准教授)等の助成を受けて行った。

用語説明

[用語1] 光電極 : 半導体からなり、光エネルギーを吸収してキャリア(電子と正孔)を生み出すことのできる電極。同じ粒子上で酸化と還元が起こる光触媒に対して、光電極では酸化と還元の反応場を物理的に分離構築できるため、高効率な太陽光エネルギー変換に有利とされる。

[用語2] 電子遷移 : 物質中のあるエネルギー準位に存在する電子がより高いエネルギーの別の準位へと移動すること。電子の“行き先”は同じ物質内に限らず、それと接している別の物質でも良い。

[用語3] 二酸化炭素(CO2)還元 : 地球温暖化の原因物質であるCO2を、ギ酸や一酸化炭素などの高エネルギー物質に変換すること。特に光エネルギーを利用する場合を二酸化炭素光還元と呼ぶ。効率的な触媒、あるいは光触媒を作り出す研究に、学術面のみならず環境面での関心も高まっている。

[用語4] バンドギャップ : 半導体において電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。電子は伝導帯の下端を、正孔は価電子帯の上端を動く。

論文情報

掲載誌 :
ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル :
Water Oxidation through Interfacial Electron Transfer by Visible Light Using Cobalt-Modified Rutile Titania Thin Film Photoanode
著者 :
Hideyuki Tanaka, Tomoki Uchiyama, Nozomi Kawakami, Megumi Okazaki, Yoshiharu Uchimoto, Kazuhiko Maeda
DOI :
<$mt:Include module="#G-03_理学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 理学院 化学系

准教授 前田和彦

E-mail : maedak@chem.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2239 / Fax : 03-5734-2284

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

シリコンスピン量子ビットの高速読み出しに成功 シリコンスピン量子コンピュータの試料設計に指針

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理化学研究所(理研) 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループの野入亮人特別研究員、武田健太研究員、樽茶清悟グループディレクター、東京工業大学 工学院 電気電子系の小寺哲夫准教授の共同研究チームは、シリコン量子ドット[用語1]デバイス中の電子スピン[用語2]の高速読み出しに成功しました。

本研究成果は、高精度制御と将来的な集積性の観点から近年注目を集めている「シリコンスピン量子コンピュータ[用語3]」の実現において、重要な課題となっている、「高速量子ビット[用語4]読み出しが可能な試料設計」に指針を与えるもので、今後の研究開発をより一層加速させると期待できます。

通常、シリコンスピン量子コンピュータでは、スピンの情報を電荷状態の情報に変換し、電荷検出測定を行うことで量子ビットを読み出しています。この際重要となる電荷検出の性能は、「高周波反射測定法[用語5]」の適用によって向上できると考えられます。しかしながら、従来、シリコン量子ドットと高周波反射測定法には互換性がなく、試料設計において重要な問題となっていました。

今回、共同研究チームは、高周波反射測定法が適用可能なシリコン量子ドット試料の設計を明らかにし、この技術を用いて電子スピン量子ビットの読み出し時間を従来の10分の1に低減することに成功しました。

本研究は、科学雑誌『Nano Letters』オンライン版(1月16日付:日本時間1月17日)に掲載されました。

シリコン量子ドット試料と高周波反射測定セットアップ

図. シリコン量子ドット試料と高周波反射測定セットアップ

研究支援

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出(研究総括:荒川泰彦)」の研究課題「スピン量子計算の基盤技術開発(研究代表者:樽茶清悟)」、文部科学省光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)技術領域「量子情報処理(主に量子シミュレータ・量子コンピュータ)(研究総括:伊藤公平)」の研究課題「シリコン量子ビットによる量子計算機向け大規模集積回路の実現(研究代表者:森貴洋)」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究「シリコン量子ドット中の電子スピンを用いた量子計算基盤技術の高性能化に関する研究(研究代表者:野入亮人)」による支援を受けて行われました。

背景

近年、半導体デバイスの微細化による情報処理能力の向上が限界を迎えつつあり、新しい動作原理に基づく次世代型コンピュータの実現が切望されています。特に有望視されているのが、量子力学の原理に基づき、複数の情報を同時に符号化することで超並列計算を実行する量子コンピュータであり、その実用化に向けた研究開発が世界的に活発化しています。

さまざまな物理系を用いた研究が進められていますが、なかでもシリコン量子ドット中の電子スピンを用いた「シリコンスピン量子コンピュータ」は、高精度制御に優れることに加えて注)、既存産業の集積回路技術と相性が良いことから、大規模量子コンピュータの実装に適していると考えられています。

シリコンスピン量子コンピュータ実現に向けて解決すべき課題の一つとして、量子ビットの高速かつ高精度な読み出しが挙げられます。通常、単一電子スピンの向きの直接的な測定は困難なため、量子ビットの読み出しは、量子ビットの情報をスピン電荷変換[用語6]によって測定が容易な電荷状態に変換し、電荷検出することで達成しています。これまでの研究により、スピン電荷変換を高速かつ高精度に実行する技術は確立しており、高性能な電荷検出技術の開発が急務となっていました。

量子ドット中の電子の電荷検出は、一般に量子ドット近傍に配置した電荷計[用語7]の伝導度測定により行われます。この電荷計の性能は、電荷計を高周波共振回路に組み込み、「高周波反射測定」を行うことで向上できることが知られています。高周波共振回路は、インダクタ[用語8]、電荷計による伝導度、配線や試料上で生じる寄生容量[用語9]で構成されています(図1右)。この回路に、50オームの特性インピーダンス[用語10]を持つ同軸線を介して高周波信号を入射させると、高周波共振回路のインピーダンス[用語10]に応じて反射が起こります(図1左の青赤矢印)。高周波共振回路のインピーダンスは電荷計の伝導度に強く依存するため、高周波反射信号の測定により、電荷計の伝導度、すなわち量子ドットの電荷状態を高速かつ高精度に測定することができます。

この技術は、以前から研究の進んでいた砒化ガリウム量子ドット試料においては確立されていましたが、スピン量子コンピュータにより適するシリコン量子ドット試料に適用するのは困難でした。

図1. 高周波反射測定セットアップと等価回路

図1. 高周波反射測定セットアップと等価回路

左:
シリコン量子ドット試料と測定セットアップ。半導体基板(シリコン/シリコンゲルマニウム)上に作製した金属ゲート電極構造(黄色、赤色の領域/線)に、電圧をかけ、真ん中の黄色の丸矢印のスピンで示した部分(量子ドット)に電子を一つずつ閉じ込める。右のオレンジ色の丸で示した部分は電荷計として動作する。白のスケールバーは0.2マイクロメートル(µm、1 µmは100万分の1メートル)を表す。
右:
高周波共振回路の回路図。インダクタと寄生容量は固定値となっており、電荷計の伝導度に応じて全体のインピーダンス(赤枠内)が変化する。このインピーダンスと同軸線の特性インピーダンスの差が小さいほど反射も小さくなる。
注)
2017年12月19日プレスリリースシリコン量子ドット構造で超高精度量子ビットを実現|国立研究開発法人 科学技術振興機構outer

研究手法と成果

共同研究チームは、高周波反射測定法が適用可能なシリコン量子ドット試料の設計を明らかにしました。量子ドット構造は、シリコンスピン量子コンピュータで一般的に用いられている、シリコン/シリコンゲルマニウム量子井戸[用語11]基板上に金属微細加工を施すことで作製しました(図2下)。量子ドットは、絶縁層を挟んで作製したトップゲート電極に正電圧を加えることで量子井戸中に電子を誘起し、さらに微細ゲート電極に適切な電圧を加えると形成できます。

トップゲート電極で電子を誘起すると、量子井戸とトップゲート電極の間で静電容量が生じます。この誘起された静電容量はトップゲート電極の大きさに比例し、高周波共振回路の寄生容量に加算されるため、高周波反射測定法の動作に影響を及ぼします。そこで、トップゲート電極の大きさが異なる二つの試料を作製し(図2上)、比較することで高周波反射測定に適するトップゲートの設計を明らかにしました。

図2. 高周波反射測定が可能な試料設計と試料構造

図2. 高周波反射測定が可能な試料設計と試料構造

上:
従来の形状のトップゲート電極試料(左)と新しく設計したトップゲート電極試料(右)の光学顕微鏡写真。青枠で囲った部分にはリンイオンを注入しており、電極として動作する。緑の部分は、下図の緑枠の構造となっており、この領域分だけ寄生容量が増加する。新しく設計した試料では、従来試料と比べて緑の部分の面積が100分の1程度となっている。
下:
試料構造の断面。トップゲート電極に正電圧を加えることで、リンイオン注入領域から量子井戸に電子を誘起することができる。

一般に電荷計が量子ドットの電荷状態に対して感度を持つのは、伝導度がe2/heは電荷素量、hはプランク定数)以下程度であることが知られています。さらに、高周波反射測定を適用するには、反射率が伝導度に高い感度を持つという条件を満たす必要があります。反射率が感度を持つ伝導度はインダクタと寄生容量の大きさで決まるので、上記の条件を満たすためには、寄生容量を1ピコファラド(pF、1 pFは1兆分の1ファラド)以下程度に抑える必要があります。

従来の設計の試料(図2左上)では、トップゲート電極により誘起される寄生容量が数pFにもなり、これが高周波反射測定を適用できない理由であると考えられます。実際にこの試料で高周波反射測定を行ったところ、トップゲート電極により量子井戸に電子を誘起すると、2.7 pFの寄生容量が生じることが分かりました(図3左上)。またこの試料では、高周波の反射率は、電荷計の伝導度の変化に対して感度がないことも分かりました(図3左下)。一方で、新しく設計した試料(図2右上)で同様の測定を行ったところ、トップゲート電極により生じる寄生容量を0.01 pFに低減することができ、また反射信号は伝導度に対して高い感度を持つことが分かりました(図3右)。

これらの結果から、従来のシリコン試料で高周波反射測定が適用できない理由と、この問題を解決する試料設計を明らかにしました。

図3. 従来および新しく設計した試料における高周波反射測定結果の比較

図3. 従来および新しく設計した試料における高周波反射測定結果の比較

左:
従来の設計の試料における高周波反射測定結果。上図は量子井戸に電子を誘起していない状態(青)と誘起した状態(赤)における反射信号の周波数特性。それぞれの色の矢印で示した反射信号の谷が共振条件となっており、この条件から寄生容量を計算できる。トップゲート電極により誘起した寄生容量は2.7 pFであった。下図は電荷計の伝導度(青)と同時に測定した反射信号(赤)。周波数は共振条件に固定してある。電荷計として動作するe2/h以下の伝導度において、反射信号が伝導度の変化に感度を持っていないことが分かる。
右:
左図と同様の測定を新しく設計した試料で行った結果。上図から、トップゲート電極により誘起した寄生容量は0.01 pFであった。下図では、センサーゲート電圧 -0.55 V付近で、反射信号が伝導度の変化に高い感度を持つことが分かる。

最後に、高周波反射測定法を用いて、スピン量子ビットの読み出しが高速かつ高精度であるかを調べました。今回新しく設計した試料を用いてランダムな状態に用意した量子ビットの読み出しを多数回繰り返し、ヒストグラムにすると、量子ビットの状態に応じた二つのピークが観測されました(図4左)。この測定では積算時間が0.8マイクロ秒(µs、1 µsは100万分の1秒)であり、従来(12.5 µs)の10分の1以下の時間で量子ビットの読み出しを実証しました。また、この測定における二つのピークの間隔(信号:約210 mV)とピークの広がり(雑音:約35 mV)の比である信号雑音比は6.0となっており、99%以上の精度で読み出しが可能であることが分かりました。

さらに、信号雑音比は測定の積算時間が長くなるほど良くなり(図4右)、1.8 µsでは信号雑音比が7.9となり、99.99%以上の精度で読み出しが可能であることを実証しました。

図4. 高速スピン量子ビット読み出しと性能評価

図4. 高速スピン量子ビット読み出しと性能評価

左:
ランダムな状態に用意した量子ビットの読み出し結果。二つのピークは、それぞれ量子ビットが0(左)と1(右)の状態に対応する。黒い点線で示した値(-586 mV)に対して、高周波反射信号が小さいか大きいかで量子ビットの状態が0か1か判別できる。二つのピークの間隔(信号)は約210 mV、ピークを正規分布とした場合の標準偏差にあたる広がり(雑音)は約35 mVである。それらの比である信号雑音比は6.0となり、99%以上の精度で読み出しが可能である。
右:
信号雑音比が積算時間に対して増大する様子。1.8 µsでは、信号雑音比が7.9となり、99.99%の読み出しが可能である。

今後の期待

本研究では、シリコンスピン量子コンピュータの主要な課題の一つとなっている高速量子ビット読み出しが可能な試料設計を明らかにし、実際に99%以上の精度を維持したうえで読み出し時間を10分の1に改善することに成功しました。

この成果は、近年進展が著しいシリコンスピン量子コンピュータの今後の試料設計に指針を与え、基本原理検証を超えた大規模化に向けた研究開発をより一層加速させるものと期待できます。

用語説明

[用語1] 量子ドット : 電子を空間的に3次元全ての方向に閉じ込めることで運動を制限し、0次元構造としたもの。その性質から人工原子とも呼ばれ、電子を一つずつ出し入れすることができる。

[用語2] 電子スピン : 電子が右回りまたは左回りに自転する回転の内部自由度のこと。この回転の向きに応じて、通常上向きまたは下向きの矢印で表される。

[用語3] 量子コンピュータ : 量子力学における重ね合わせを利用して、超並列計算を実現するコンピュータ。従来のコンピュータでは天文学的な時間のかかる因数分解の問題などを、数時間で解くことができる量子アルゴリズムが開発されており、超高速計算が可能になると考えられている。

[用語4] 量子ビット : 電子スピンの向きなどに符号化された量子情報の最小単位のこと。通常のデジタル回路では「0もしくは1」の2状態に情報が保持されるのに対し、量子ビットでは「0でありかつ1でもある」状態を任意の割合で組み合わせて表現することができ、これを量子力学的な重ね合わせ状態と呼ぶ。このことを表現するために、通常量子ビットの状態は任意の向きの矢印によって表される。

[用語5] 高周波反射測定法 : ある系に高周波を加え、その反射信号を測定することで、対象の系のインピーダンスを測定する方法。本研究では、高周波共振回路のインピーダンスを測定することで、電荷計の伝導度を高速かつ高精度に測定できる。

[用語6] スピン電荷変換 : スピン状態に応じて電荷遷移の有無が生じる現象を利用して、スピンの情報を電荷状態に変換する方法。例えば、二重量子ドットにおいて各ドットに一つずつ電子が入っている場合、これらのスピンが反並行であれば、一つのドットにもう片方のドットから電子が移れるものの、並行の場合はパウリの排他律によって電子の移動が抑制される現象などがある。

[用語7] 電荷計 : 電荷状態を測定したい対象の量子ドットの近傍に配置した、量子ドットもしくは量子ポイントコンタクトと呼ばれる一次元伝導チャネルなどのこと。電荷計は対象の量子ドットと静電結合しており、その伝導度は周囲の静電環境に敏感となっている。電荷計の伝導度測定によって、対象の量子ドットの単一電子レベルの電荷状態の変化を検出可能。

[用語8] インダクタ : 一般に電線を巻いたコイルによってできており、流れる電流によって形成される磁場にエネルギーを蓄えることができる素子のこと。インダクタのインピーダンスは周波数に比例して大きくなり、静電容量と共に電子回路の基本構成要素となっている。

[用語9] 寄生容量 : 電子回路において、配線など向かい合う導体に電位差が生じた場合などに発生する、設計者が意図しない静電容量のこと。

[用語10] インピーダンス、特性インピーダンス : 交流回路の電圧と電流の比のことをインピーダンスと呼ぶ。直流回路の場合の抵抗に対応し、単位もオームである。交流回路の基本構成要素である、インダクタや静電容量のインピーダンスは周波数に対して依存性を持つ。また、交流信号を伝送する配線のインピーダンスは50オームに設計されていることが多く、このインピーダンスを特性インピーダンスと呼ぶ。

[用語11] 量子井戸構造 : ある方向の電子の運動を束縛した構造のこと。電子は束縛されていない2次元方向にのみ運動が可能。通常数ナノメートル程度の薄膜を異なる材料で挟むことで構成する。

論文情報

掲載誌 :
Nano Letters
論文タイトル :
Radio-Frequency-Detected Fast Charge Sensing in Undoped Silicon Quantum Dots
著者 :
Akito Noiri, Kenta Takeda, Jun Yoneda, Takashi Nakajima, Tetsuo Kodera, and Seigo Tarucha
DOI :
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お問い合わせ先

理化学研究所 創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ

特別研究員 野入亮人

研究員 武田健太

グループディレクター 樽茶清悟

東京工業大学 工学院 電気電子系
准教授 小寺哲夫

E-mail : kodera.t.ac@m.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-3421

取材申し込み先

理化学研究所 広報室 報道担当

E-mail : ex-press@riken.jp
Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


基礎研究機構 2019年度成果報告会・交流会 開催

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最先端科学技術を担う若手研究者を育成するために東京工業大学が設立した基礎研究機構(小山二三夫機構長)の2019年度成果報告会・交流会が、1月24日、東工大すずかけ台キャンパスS8棟レクチャーホールで開催されました。来賓として文部科学省研究振興局から村田善則局長、金子忠利基礎研究推進室長らが出席し、益一哉学長ら本学関係者を合わせて、出席者総数は110名を超える催しとなりました。

基礎研究機構は、本学が世界をリードする最先端研究分野である「細胞科学分野」(大隅良典塾長)と「量子コンピューティング分野」(西森秀稔塾長)の2つの「専門基礎研究塾」と、本学のすべての新任助教が塾生として3ヵ月間研さんする「広域基礎研究塾」(大竹尚登塾長)から構成されます。

成果報告会の会場

成果報告会の会場

成果報告会は、小山機構長の挨拶で始まり、次いで益学長から塾生への激励がありました。

益一哉学長

益一哉学長

我々が若い頃とは研究環境が大きく異なり、研究に時間を割くことが難しくなっている。本学の経営戦略の1つとして、若手研究者にたくさんの研究時間を与えることができるよう環境を整える。その時間を有効活用して、色々な方々とインタラクションしてコミュニケーションの機会を沢山持って欲しい。我が国の基礎研究を支える人材になるよう、塾生の皆さんには頑張って頂きたい。

来賓の挨拶として文部科学省の村田局長から祝辞を頂きました。

村田善則 文科省研究振興局長

村田善則 文科省研究振興局長

基礎研究機構は、2016年に大隅良典先生のノーベル賞受賞を契機に若手研究者を育成し続けるには何ができるのかを熟考され、新たな課題に挑戦する場として創設されたと聞いている。世界の最先端を突き進む大隅先生と西森秀稔先生が率いる専門基礎研究塾は、若手研究者にとって、非常に恵まれた研究環境だと思う。また、大竹尚登先生が塾長の広域基礎研究塾では、様々な専門分野の研究者がお互い切磋琢磨することで、思いがけないシナジー効果が生まれることが期待される。

「塾」という言葉は、緒方洪庵が開いた「適塾」、適塾を卒業した福沢諭吉が創立した「慶應義塾」、また、吉田松陰が指導した「松下村塾」を想起させる。いずれも卓越した人材を残したことから、東京工業大学の本機構への意気込みが伝わって来る。若手研究者の育成については、政府としても非常に重要な課題と考えており、文部科学省においては2019年度補正予算により「創発的研究支援事業」を新設した。本機構の取り組みが将来のイノベーション創出を担う若手研究人材の輩出に繋がることを祈念している。

続いて、大隅良典塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)、西森秀稔塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)、大竹尚登塾長(広域基礎研究塾)から、それぞれの塾の活動について紹介がありました。

大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)

大隅塾長(専門基礎研究塾 細胞科学分野)

現在の日本では、2つのことがまだ十分に理解されていないと感じる。ユニバーシティというのが広く対話・活動することができる環境であるべきということと、研究者が楽しく研究できる環境が重要だということだ。

当専門塾の活動は以下の4つ。来年度も本年度と同様に4つの活動を継続していきたい。

1.
談話会:シニア教員から若手にメッセージを提供。本年度は5回開催。
2.
コロキウム:国内外の講師を招き、最先端の研究成果を紹介頂く。本年度は11回開催。
3.
塾生研究費:海外での活動を経済的に支援。
4.
共同実験室・共同利用機器:共用実験室の整備・拡大。

西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)

西森塾長(専門基礎研究塾 量子コンピューティング分野)

量子アニーリングは、我々の研究室で22年前の学位論文から始まり、北米でのイノベーションを経て、産業化への大きな流れができた。Googleは量子アニーリングの自社マシーンを作成し、徹底的に使い倒して、量子ゲート方式の実装に成功した。

当専門塾では理論が中心で実験機器はない。専門塾の活動は以下の2つ。来年度も活動を継続する。

1.
セミナ-:国内外の企業人も含めた幅広い研究者を招き、基礎から産業応用までの話題を提供頂く。本年度は11回開催。
2.
塾生研究費:海外での研究成果を報告。本年度は2件。

大竹塾長(広域基礎研究塾)

大竹塾長(広域基礎研究塾)

文部科学省に初めて陳情した時は専門基礎研究塾だけの構想だった。その際、「東工大の若手全員を対象にした塾もあれば面白い」とのご意見を頂いたことから、広域基礎研究塾が生まれた。若手全員を対象としては教育・研究に重大な支障が出るため、新任助教に限定した。本年度は29名の塾生を選抜し、3ヵ月の期間に限定して研究エフォートを上げることにした。広域塾のゴールは「自分のテーマを深く考える」ことをオリエンテーションで徹底し、異分野融合を前提とした自己紹介の「研究分野紹介発表会」、自分の研究から身を引いて社会との関わりを俯瞰する「ワークショップ」、深掘りした研究テーマを発表する場の「研究テーマ設定発表会」をそれぞれ開催した。また、個別面接により、入塾前後での研究エフォートや研究環境をヒアリング調査した。更に、「大隅先生を囲む会」を開催した。大隅先生の半生を伺った後に、ざっくばらんな話を先生と、或いは塾生同士でできる機会は大変好評だった。良い研究テーマが多数輩出されたことを契機に、「新研究挑戦奨励金」を大学から拠出し、広域塾生が応募した。また、塾における事後の塾生アンケート(匿名)では、様々な意見が出た。概ねポジティブな意見だったが、一部ネガティブな意見もあり、いろいろな意見があってよいと捉えている。今後の重要課題は、養成する能力の明確化、長期的視点での予算獲得、他組織との連携。本年度の塾生29名は誇るべき人材であったというのがもっとも伝えたいことである。

交流会の会場
交流会の会場

伊能教夫副機構長の挨拶により成果報告会は終了し、その後、別会場で交流会が開催されました。80名近い参加者が和やかな雰囲気の中で、今後の基礎研究機構の運営や本学の将来について意見を交わしました。また、専門基礎研究塾と広域基礎研究塾の全塾生のポスター47件を掲示し、熱心な学術的な討論を繰り広げました。

交流会でのポスター発表で議論する参加者と大隅塾長(左から2人目)
交流会でのポスター発表で議論する
参加者と大隅塾長(左から2人目)

交流会で参加者と議論する益学長(左から2人目)と村田局長(中央)
交流会で参加者と議論する益学長(左から2人目)と村田局長(中央)

基礎研究機構とは

本学は、最先端研究領域を開拓し、世界の研究ハブの地位を継続的に維持・発展させるために必須な基礎研究者を育成する場として、2018年7月、基礎研究機構を科学技術創成研究院に設置しました。本機構は、2つの専門基礎研究塾と広域基礎研究塾からなります。

専門基礎研究塾では、基礎研究で顕著な業績を有する本学の研究者を専門基礎研究塾の塾長に据えるとともに、若手研究者の研究エフォート(職務時間のうち研究に集中できる時間の割合)を現在の6割(平成26年度文科省調査より推計)から9割に増加させるために、人、資金、スペース等のリソースを投入し、5年程度研究に集中できる環境を整備することで、卓越した研究者を養成します。2019年4月現在、細胞科学分野には14名、量子コンピューティング分野には2名の塾生がいます。

広域基礎研究塾では、本学の全ての分野の若手研究者を対象として3ヵ月間研究エフォートを9割に増加させ、研究テーマを落ち着いて考えるなど研究に集中する機会を設けます。2019年6月現在、29名の研究者が塾生として所属しています。

その結果として、基礎研究が実る節目と言われている10年程度を経た2030年以降に卓越した研究成果を継続的に生むことを目指しています。

お問い合わせ先

基礎研究機構事務局

E-mail : ofr@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3702

組合せ最適化問題を高速に解く新しいアニーリングマシンを開発 世界初の全結合型アニーリングプロセッサLSIで高いエネルギー効率を実現

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要点

  • 組合せ最適化問題を高速に解く新たなアニーリング処理モデルを構築
  • このモデルにより全結合型アニーリングプロセッサLSIを世界で初めて開発
  • 実応用性に優れ、従来比2桁以上のエネルギー効率改善を実現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の本村真人教授らは、北海道大学、日立北大ラボ、東京大学と共同で、スマート社会においてますます重要となる組合せ最適化問題を高速に解くことができる新しいアニーリング処理方式と、それを利用した新しいプロセッサLSIの開発に成功した。

アニーリング処理は「局所型」よりも「全結合型」の方が応用範囲は格段に広い反面、高速に解くのが難しく、これまで全結合型のアニーリングプロセッサLSIは発表されていなかった。本研究では、全結合型のアニーリング処理を高速に解く新たなモデル「ストカスティック・セルラー・オートマタ(SCA)」を提案するとともに、このモデルを全並列・高速に実行するプロセッサアーキテクチャを開発し、世界初の全結合型アニーリングプロセッサLSI「STATICA」を実現した。STATICAは既存の手法に比べて、少なくともアニーリング処理の性能を数倍、エネルギー効率を2桁以上向上させることができる。

研究成果の詳細は2月17日から米国サンフランシスコで開催された「ISSCC2020(国際固体素子回路会議)」で発表された。

本研究開発は、

科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域:
「Society5.0を支える革新的コンピューティング技術」
研究総括:
坂井修一(東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)
研究課題:
「学習/数理モデルに基づく時空間展開型アーキテクチャの創出と応用」
研究代表者:
本村真人(東京工業大学 科学技術創成研究院 教授/AIコンピューティング研究ユニット ユニット長)

により推進されたものである。

また、日立北大ラボは、日立製作所と北海道大学が2016年6月に開設したオープンラボであり、北海道における少子高齢化や人口減少などの社会課題を解決し、地域創生につながる共同研究を推進している。

背景

組合せ最適化問題とは、さまざまなパラメータ(選び得る変数)の組合せの中からベストな解を選択する問題である[解説1]。交通、金融、製造・流通、化学・創薬・医療など、さまざまな分野の重要な問題が組合せ最適化問題に帰着することが知られているが、変数の数が多くなるにつれて、その組合せが爆発的に増大するため、従来型の計算機では効率的に解くことが難しい。

組合せ最適化問題の近似的な計算技法として、従来「アニーリング処理方式」[解説2]が用いられており、これを実現する計算システムはアニーリングマシンと呼ばれている。アニーリング処理には「局所型」と「全結合型」の二つのカテゴリー[解説3]があり、後者の方が応用範囲は格段に広い反面、高速に解くのが難しいことが知られている。このため、これまで全結合型のアニーリング処理を行うプロセッサLSIは存在していなかった[解説4]

研究成果

本研究ではまず、組合せ最適化問題を高速に解くことができる新しいアニーリング処理モデル「ストカスティック(確率的)・セルラー・オートマタ」(Stochastic Cellular Automata:SCA)を構築した。従来のアニーリングマシンは基本的には「シミュレーテッド・アニーリング」(Simulated Annealing:SA)か、SAに類似する計算手法をベースにしていた。SAでは原理的に、ある疑似スピンの値が変わると、これとつながる全ての疑似スピンに与える影響を改めて計算する必要があった。このため、疑似スピンの値の更新は逐次的にならざるを得なかった(図1左)。これに対し、SCAでは全疑似スピンの値を並列に更新することができる(図1右)。

図1. SAとSCAの比較

図1. SAとSCAの比較

研究チームは、このSCAによって、SAと同じ最適解を探せることを数学的に証明し、SCAを用いたアニーリングプロセッサLSIが実現可能であることを明らかにした。SCAにおける並列な疑似スピン更新は、更新したい疑似スピンにかかる相互作用係数を読み出し、現在の疑似スピンの値と演算することで行われる。この理解をもとに、相互作用係数をメモリに記憶させ、そのメモリから並列に相互作用係数を読み出し、メモリに付随したロジック回路で並列演算することで、SCAの計算を効率よく実行できることを発見した。このニアメモリ(メモリのすぐ近くで演算を行うことを指す言葉)型のアーキテクチャ(図2)を、「STATICA」(Stochastic Cellular Automata Annealer)と名付けた。

図2. STATICAアーキテクチャ

図2. STATICAアーキテクチャ

このアーキテクチャに基づいて、512疑似スピンの並列更新ができるように構成したアニーリングプロセッサLSI「STATICA」(図3)を開発した。これはTSMC社の65 nmプロセスで試作したチップであり、わずか3 mm×4 mmの大きさで512疑似スピンからなるイジングモデルのアニーリング処理を並列に実行できる。消費電力はわずか600 mW程度である。

図3. アニーリングプロセッサLSI:STATICA

図3. アニーリングプロセッサLSI:STATICA

近年、全並列型のアニーリングマシンが徐々に注目されるようになり、いくつかのマシンが提案されている。しかしSTATICA技術は図4のように、そうした既存技術と比べて、アニーリング速度、消費電力、答えの精度のいずれにおいても、非常に高い指標を達成することができる(少なくともアニーリング速度では数倍、エネルギー効率では2桁以上の向上)。

図4. STATICAと既存の全並列型アニーリングマシンの比較(512疑似スピン対応のSTATICA試作チップから2000疑似スピン搭載STATICAチップの性能を外挿)

図4. STATICAと既存の全並列型アニーリングマシンの比較
(512疑似スピン対応のSTATICA試作チップから2000疑似スピン搭載STATICAチップの性能を外挿)

今後の展開

今回開発したSTATICA試作チップでは、オンチップの疑似スピン数が512個となっているが、STATICAのアーキテクチャ自体は疑似スピン数をスケーラブルに拡大し、より大規模な疑似スピンシステムでも並列更新を実現できることを特徴としている。今後は、社会に存在するさらに複雑で大規模な組合せ最適化問題を高速に解くトータルソリューションの実現を目指して、今回開発したチップのキャパシティ強化を進めていく。さらに、ディープラーニング・機械学習技術等を含む知識情報処理システム全体へのインテグレーションに取り組むことにより、このチップの早期の実用化を目指す。

解説

[解説1] 組合せ最適化問題の有名な例として、複数の都市をどの順番に回れば一番効率が良いかを決める「巡回セールスマン問題」がある。変数の数(都市の数)が多くなるとともに、その組合せが爆発的に増大するため、従来型の計算機では効率的に解くことが難しい。

[解説2] アニーリングとは、金属工学焼きなまし法(=時間をかけて冷却することで、金属原子の並び方を最適にする)に着想を得た組合せ最適化問題の近似的な計算技法。近年注目されている量子アニーリングは、極低温に冷却した際に現れる量子効果を用いてこのアニーリングを実現する方法である。本研究の成果は、量子効果に頼らずに、室温の一般的な集積回路の並列演算で、量子アニーリングを凌駕するアニーリング能力を実現できることを示唆している。

[解説3] アニーリング処理においては、まず、解くべき本来の組合せ最適化問題を、1または-1を取る二値の変数(疑似スピンと呼ばれる)の集合体とそれら疑似スピン間の相互作用群(イジングモデルと呼ばれる)に変換する。この際相互作用が、近接する疑似スピン間に限られているものを「局所型」、疑似スピンの集合全体の中に制限なく自由に相互作用を許すものを「全結合型」と呼ぶ。組合せ最適化問題をイジングモデルに変換する際に、局所型では十分な表現能力がないため、現実社会の複雑な問題に対応するのが難しいことが知られている。このため、全結合型のアニーリング処理を効率よく実行できるソリューションが求められている。

[解説4] 量子アニーリング分野でよく知られたD-Wave社のシステムは局所型であり、[解説3]で述べたように応用の難しさがあると言われている。一方、全結合型を狙った研究が主に日本の企業で活発に進められているが、FPGA(Field Programable Gate Array)やGPU(Graphics Processing Unit)をプログラムして実現するタイプの物である。CMOS集積回路を用いて作成された全結合型アニーリングを処理するプロセッサLSI(Large Scale Integrated Circuits)は、本発表が世界で初めてである。

発表情報

会議情報 :
International Solid-State Circuits Conference (ISSCC) 2020, Feb., 17-19, San Francisco.
論文タイトル :
STATICA : A 512-Spin 0.25M-Weight Full-Digital Annealing Processor with a Near-Memory All-Spin-Update-at-Once Architecture for Combinatorial Optimization with Complete Spin-Spin Interactions
発表責任者 :
本村真人

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院
AIコンピューティング研究ユニット

教授 本村真人

E-mail : motomura@artic.iir.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5654 / Fax : 045-924-5654

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

令和元年度名誉教授懇談会及び職員等の栄誉の祝賀会 開催報告

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栄誉の祝賀を受ける方を代表して挨拶する小門宏 名誉教授
栄誉の祝賀を受ける方を代表して挨拶する小門宏 名誉教授

東京工業大学の名誉教授の方々が毎年、本学に集まり、また叙勲など表彰を受けた方々を祝う「名誉教授懇談会及び職員等の栄誉の祝賀会」が11月27日、本学大岡山キャンパス蔵前会館で行われました。名誉教授およそ90名と栄誉の祝賀を受ける8名が出席しました。

2019年、新たに名誉教授に選ばれた方は計20名、栄誉の祝賀を受けた方は計11名です。

名誉教授とは、本学を退職した教授のうち、本学の教育上又は学術上の功績があった方に与えられる称号です。2020年1月27日現在、507人の名誉教授がいます。また、名誉教授及び本学教員の中から、過去1年間にノーベル賞や文化勲章、叙勲、褒章など教育研究活動の功績をたたえる賞もしくは顕彰を受けた方が、栄誉の祝賀を受ける方となります。

祝賀会は、祝賀を受ける方の紹介と記念品贈呈に始まり、代表して11月3日に瑞宝中綬章を受賞された小門宏名誉教授が挨拶しました。また、新しい名誉教授が紹介され、代表して河内宣之名誉教授が挨拶しました。続いて、益一哉学長が挨拶と近況報告を行い、懇談会が和やかな雰囲気で行われました。

新名誉教授を代表して挨拶する河内宣之 名誉教授
新名誉教授を代表して挨拶する河内宣之 名誉教授

近況報告を行う益学長
近況報告を行う益学長

栄誉の祝賀を受けた方、新たに名誉教授に選ばれた方は以下のとおりです。

令和元年度東京工業大学職員等の栄誉の祝賀該当者

栄誉の名称
在職時・現職所属等
氏名
瑞宝中緩章
大学院総合理工学研究科 名誉教授
石原宏
工学部像情報工学研究施設 名誉教授
小門宏
瑞宝小緩章
資源化学研究所 名誉教授
田中正人
日本学士院会員
理学院 教授
鈴木啓介
科学技術創成研究院 特任教授、栄誉教授
大隅良典
文部科学大臣表彰 科学技術賞
大学院理工学研究科 名誉教授
萩原一郎
科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授
西山伸宏
文部科学大臣表彰 若手科学者賞
理学院 准教授
平原徹
工学院 准教授
岩﨑孝之
物質理工学院 准教授
本倉健
情報理工学院 助教
大上雅史

新名誉教授

在職時所属
氏名(50音順)
科学技術創成研究院
荒井滋久
工学院
伊能教夫
工学院
上野修一
科学技術創成研究院
大山永昭
博物館
亀井宏行
工学院
京極啓史
理学院
河内宣之
情報理工学院
小長谷明彦
生命理工学院
小林雄一
工学院
笹島和幸
理学院
志賀啓成
物質理工学院
高田十志和
理学院
綱川秀夫
物質理工学院
手塚育志
情報理工学院
中村清彦
環境・社会理工学院
灘岡和夫
科学技術創成研究院
細野秀雄
物質理工学院
三上幸一
環境・社会理工学院
吉川邦夫
理学院
吉野淳二

問い合わせ先

総務部 総務課 総務グループ

E-mail : som.som@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2036

第57回外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会 開催報告

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東京工業大学は2月7日、第57回外国人研究者へのオリエンテーション及び外国人研究者等との懇談会をすずかけ台キャンパス大学会館で開催しました。本イベントには、外国人研究者とそのご家族や受入れ教員等を含め、13ヵ国から38名が参加しました。

外国人研究者との懇談会は、学長主催により本学で教育・研究に従事している外国人研究者を招き、本学の教員及び各国の研究者の親睦を深めることを目的として、1991年から例年2回開催されているイベントです。また2010年1月からは、本学に関する理解を深める機会としてオリエンテーションも併せて実施しています。

オリエンテーションでは、益一哉学長による大学紹介があり、その後のQ&Aセッションでは、益学長と佐藤勲理事・副学長(企画担当)、水本哲弥理事・副学長(教育担当)、渡辺治理事・副学長(研究担当)、藤野公之理事・副学長(財務担当)・事務局長の5名が回答者として登壇しました。参加者からは、産学連携や財務に関する質問や意見があり、学長をはじめとする執行部が大学の現状や今後の課題について回答しました。

オリエンテーションでの益学長による大学紹介
オリエンテーションでの益学長による大学紹介

Q&Aセッションで参加者からの質問に答える執行部
Q&Aセッションで参加者からの質問に答える執行部

懇談する学長(中央)
懇談する学長(中央)

懇談する水本理事・副学長(右)と外国人研究者
懇談する水本理事・副学長(右)と外国人研究者

懇談会の様子
懇談会の様子

続いて場所を移して行われた懇談会では、水本理事・副学長の開会の辞、渡辺理事・副学長の乾杯挨拶に始まり、外国人研究者2名によるスピーチでは、自身の研究の概要や東工大での研究活動が語られました。終始和やかな雰囲気の中で交流が深められ、最後はリベラルアーツ研究教育院の上田紀行研究教育院長による閉会の辞をもって終了しました。

集合写真
集合写真

お問い合わせ先

国際部 国際事業課 国際基盤グループ

E-mail : iad.events@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-7690

令和2年度前期日程試験を受験される方へ

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令和2年度前期日程試験

令和2年2月25日(火) ~ 2月26日(水)

期間中は、キャンパス内への関係者以外の立ち入りを制限しています。

注意事項

所定の試験日程による試験実施が困難になるような不測の事態が発生した場合、「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報で情報発信しますので、定期的に確認をお願いします

試験場へのアクセス

試験場は以下の2つの会場があります。先に公表している「(前期日程)試験場、受験上の注意等PDF」にあるとおり、受験番号によって試験場が異なりますので、お間違えのないように今一度ご確認ください。

受験番号 10001 ~ 13100 :東京工業大学 大岡山キャンパス

東急大井町線・目黒線 「大岡山駅」下車 徒歩1分
中央改札を出て左手に進み、マクドナルド前の横断歩道を渡るとすぐに正門があります。

受験番号 13101 ~ 13642 :東京工業大学 田町キャンパス(附属科学技術高等学校)

JR山手線・京浜東北線「田町駅」下車 徒歩2分
芝浦口(東口)方面に進み、右手エスカレーターを降りてすぐ右手に正門があります。

地下鉄都営三田線「三田駅」下車 徒歩5分
A4口を出て、JR田町駅方面へ。以下同上。

なお、試験室等の詳細を記載した試験場案内については、2月21日(金)に「高校生・受験生向けサイト」の新着入試情報に掲載しますので、確認をお願いします。

令和2年度前期日程試験を受験される方へ

東工大弓道部が東京都学生弓道連盟リーグ戦3部で優勝 2部に昇格

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東京工業大学の弓道部男子が東京都学生弓道連盟の2019年リーグ戦3部で優勝し、2部との入れ替え戦にも勝利して、2020年リーグ戦2部への昇格を果たしました。弓道部主将の磯部凌さん(情報理工学院 情報工学系 学士課程2年)らが1月20日、益一哉学長に成績を報告しました。リーグ戦で1試合20射すべてを的中させ「皆中賞」を受賞した會田雄大さん(物質理工学院 材料系 学士課程4年)と女子リーグ戦で的中率10位となり表彰された竹内瑞希さん(工学院 電気電子系 学士課程3年)、およびリーグ戦当時の主将だった樫村耕佑さん(理学院 数学系 学士課程3年)も表彰状を手に、一緒に益学長に報告しました。

益学長に男子2部昇格などを報告した弓道部員

益学長に男子2部昇格などを報告した弓道部員

東京都学生弓道連盟によると、東工大弓道部男子は10月19日、リーグ戦3部Aブロックの順位決定戦で優勝をかけて東洋大学と対戦しました。各校8人ずつ各自20射し計160射の合計的中数を競い、121中対108中で勝ち、優勝しました。翌10月20日、リーグ戦入れ替え戦で2部の立教大学と対戦し、126中対114中で勝ち、2部への昇格が決定しました。

個人成績では會田さんがリーグ戦の対東京理科大学戦で20射すべてを的中させたほか、竹内さんがリーグ戦全体の的中率0.813で女子10位の好成績をあげました。

2部昇格 主将 磯部凌さんのコメント

この度は3部優勝、そして2部昇格を果たし、大変嬉しく思います。僕自身出場は少なかったのですが、長い間目標としていた2部昇格の瞬間を一番近くで見ることができ、とても感慨深いです。そんな念願の2部で、今年度は自分が主将として戦っていくこととなり、大変身の引き締まる思いでいっぱいです。お世話になってきた先輩方は引退されましたが、東工大弓道部がさらに飛躍していけるよう、学業と並行しつつ、部員全員で一丸となって全力で一年間頑張りたいと思います。

引き続き応援のほどよろしくお願いします。

2部昇格 前主将 樫村耕佑さんのコメント

昨年のリーグ戦に引き続き3部Aブロック優勝、そして念願の2部昇格を果たすことができ、とても嬉しく思います。リーグ戦が始まる前から「今年こそ2部昇格ができる」という、これまでの今年の戦績からくる自信があり、それが自分たちを2部昇格まで押し上げてくれました。私は主将でありながらも全試合において足を引っ張ってしまっていた印象がありますが、周りで戦ってくれていた選手や試合に出ずとも応援してくれる部員のみんなのおかげで勝つべき試合を勝っていくことができたのだと思います。

このリーグ戦をもって、私たち3年生は引退となりました。これからは勉強に専念できる時間が増えると思うので、より一層勉学に励んでいきたいと思います。また、現役で活動している部員の活躍と、東工大弓道部のさらなる発展を願っています。

男子3部優勝の賞状を手にする主将の磯部さん(左)と樫村さん

男子3部優勝の賞状を手にする主将の磯部さん(左)と樫村さん

皆中賞を受賞した會田さん
皆中賞を受賞した會田さん

皆中賞 會田雄大さんのコメント

4年生ということで、今年が学生弓道最期の年でした。4年生からは材料系の研究室に所属するため、1年前に引退したのですが、研究生活と並行して復帰という形で選手としてさらに1年弓道に励みました。その集大成としてこの様な結果を残すことができ、大変嬉しく思っております。部としましても、リーグ戦で2部に昇格と大きな目標を達成し、それに貢献できたことに満足しております。

この様に弓道生活を締めることができたのも、指導を賜った先生、先輩方や、競い合った同期や後輩達のおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

的中率10位の賞状を手にする竹内さん
的中率10位の賞状を手にする竹内さん

的中率10位 竹内瑞希さんのコメント

4今年度のリーグ戦では、女子個人的中率第10位という成績を残すことができました。直前の練習試合は上手くいかず不安があったのですが、本番で成績が残せたのは一緒に戦ってくれた女子部員や指導してくれた同期など様々な人に支えていただいたからです。この結果は1人では出すことの出来なかった結果だと思います。

もう弓道部は引退し、今後は研究室での生活が始まります。今後は後輩の活躍を見守りつつ、今まで弓道に割いてきた時間を使って研究を頑張っていきたいです。

東工大弓道部とは

弓道場での練習
弓道場での練習

東京工業大学弓道部は東工大公認の体育系サークルです。日置流印西派として、浦上博子先生、礒部孝先生のもと、現在は男子15名、女子5名で活動しています。大岡山キャンパスの一角にある弓道場で週に3回練習しています。部員の3分の2以上が大学から弓道を始めており、誰にでも試合に出るチャンスがあります。また、週3回の練習以外では好きな時間に練習ができるので勉強との両立も可能です。

弓道部男子の集合写真

弓道部男子の集合写真

東工大基金

弓道部の活動は東工大基金によりサポートされています。

東工大への寄附 & 東京工業大学基金

お問い合わせ先

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E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975

ガリウムが別元素の性質に変化 超原子と呼ばれる特殊な粒子を作り出すことに成功

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要点

  • ガリウムの金属クラスターによる「超原子」の合成に成功
  • 13原子クラスターが特異な硬さと化学特性を示すことを解明
  • ガリウムクラスターの原子数を規定することで、ハロゲンに似た性質が発現

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の神戸徹也助教、山元公寿教授らの研究グループは、数原子からなるガリウム[用語1]金属クラスター[用語2]を有機高分子であるデンドリマー[用語3]を用いて合成し、それが超原子[用語4]と呼ばれる特殊なクラスターになることを見出した。

ガリウムは融点が約30度と異常に低い金属として有名であり、低融点合金材料や水銀の代替金属として利用されている。こうしたガリウムの性質が1ナノメートル(nm)程度のクラスターにすることで劇的に変化することが分かった。なかでも13個のガリウム原子からなるクラスターはハロゲン[用語5]に似た物理的・化学的性質を有していることが明らかとなった。今回の研究で実証した超原子を合成する手法は材料を構成単位から新たに生み出す手法であり、これまでにない様々な新素材の開拓に繋がるものと期待される。

研究成果は2月21日(ドイツ時間)発行の『Advanced Materials(アドバンスド・マテリアルズ)』オンライン版に掲載された。

背景

物質の新しい構成単位として「超原子」が注目されている。超原子は元素に似た電子軌道[用語6]を作り出せる金属クラスターである。この超原子は構成する原子の種類や組成により性質が変化するため、構造をデザインすることで様々な元素の性質を人工的に作り出すことができるとされている。このような元素を設計できる超原子は、レアメタル[用語7]の代替のみならず、現在の周期表では表せない新元素も作り出せる可能性があるとして期待されている新しい物質群である。

しかしながら、こうした超原子の合成はこれまで気相系での極微量合成が主であった。そのため、素材として利用するには量合成やクラスターの組成を制御した手法が必要とされていた。

研究成果

神戸助教、山元教授らは樹状高分子であるデンドリマーを用いてガリウムクラスターを合成することで、ハロゲン超原子の液相での合成に成功した。

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

図1. ガリウムによるハロゲン超原子の合成

樹状高分子であるフェニルアゾメチンデンドリマー[用語8]に塩化ガリウムを集積し、これを還元することで13個や3個などガリウムの原子数を精密に規定した金属クラスターを合成した。得られたクラスターの特性を調べ、13個のガリウム原子からなる金属クラスター[Ga13]がハロゲンに似た性質を持つことを酸化還元特性やクラスターの硬さから実証した。

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

図2. 合成したガリウムクラスター。(A、B)[Ga13]クラスターのSTEM像 (C)ガリウムクラスターの構成原子数と観測サイズ

研究の経緯

神戸助教、山元教授らはこれまでに、アルミニウムクラスターの超原子を合成し、その物性について明らかにしてきた。今回はガリウムを用いることで新たな超原子への展開に成功した。

今後の展開

超原子は設計次第で、安価な元素から希少元素の特性を生み出せるとされている。それを実現していくには数個の金属元素を精密に組み上げる必要がある。今回の研究ではガリウムを用いたが、別の元素でも超原子を作ることは可能であり、また合金化することでその可能性はさらに広がると期待される。

用語説明

[用語1] ガリウム : 原子番号31の元素で、元素記号は Ga。ヒ素との化合物のガリウムヒ素(GaAs)は化合物半導体に、窒化ガリウム(GaN)は発光ダイオードに使われている。

[用語2] 金属クラスター : 金属原子が数個から十数個集まって、一つの化合物のような特定の構造単位をもった物質。原子同士が直接結合するものや配位子によって結合するものなどがある。

[用語3] デンドリマー : 樹状高分子。コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に延びる側鎖構造から構成される特殊な高分子。

[用語4] 超原子 : 構成する元素とは異なる別の元素に似た電子状態を有するクラスター。構成する元素の種類や組成により特性が変化し、構造をデザインして周期律に従った元素の性質を模倣できるため、元素を代替できる手法として注目されている。

[用語5] ハロゲン : 周期表の17 族元素の総称。具体的にはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素・アスタチンが相当する。一般的に電気陰性度が高く1価のアニオンになりやすい性質がある。

[用語6] 電子軌道 : 電子の分布や振る舞いを表すもの。原子に対する原子軌道にはs・p・d・fなどの種類が存在する。

[用語7] レアメタル : 産業に広く利用されているが、流通量・存在量が少なく希少な金属。

[用語8] フェニルアゾメチンデンドリマー : 金属に配位できるフェニルアゾメチンを側鎖部位に持つ樹状高分子。金属を中心部から段階的に集積することができるため、望みの金属数を集めることができる。

付記

本研究は日本学術振興会(JSPS)、科学技術振興機構(JST-ERATO)、東京工業大学技術部すずかけ台分析部門、東京大学微細構造解析プラットフォーム、およびダイナミック・アライアンスの支援・協力を受けて行なわれた。

論文情報

掲載誌 :
Advanced Materials
論文タイトル :
Superatomic Gallium Clusters in Dendrimers: Unique Rigidity and Reactivity Depending on their Atomicity
著者 :
Tetsuya Kambe, Aiko Watanabe, Meijia Li, Takamasa Tsukamoto, Takane Imaoka, and Kimihisa Yamamoto*
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所

教授 山元公寿

E-mail : yamamoto@res.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5260 / Fax : 045-924-5260

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661


安定で高活性な白金の単原子触媒を実現

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要点

  • 白金原子を担持体表面のケージ構造の破れ部分に入れ込むことで安定に固定した、新たな単原子触媒の開発に成功
  • 従来の単原子触媒で問題とされていた、高温で原子が凝集してしまうという欠点を克服
  • 担持体として12CaO・7Al2O3を用いることで、CaOやAl2O3より桁違いに高い活性と安定性を実現

概要

東京工業大学 元素戦略研究センター長の細野秀雄栄誉教授、同センターの叶天南特任助教、北野政明准教授らは、カルシウムとアルミニウムの酸化物C12A7(12CaO・7Al2O3)がサブナノサイズのケージから構成されていて、その最表面ではケージ構造が破れていることに着目し、その部分に白金原子を入れ込んで安定的に固定した単原子触媒の開発に成功した。

遷移金属の単原子触媒は、原子の周りの結合が不飽和なために、バルクの金属に比べて圧倒的に触媒活性が高いことや、金属原子の利用効率が極めて高いことから、活発な研究がおこなわれている。しかし、高温にすると担持された単原子金属が凝集してしまい、活性が低下することが問題であった。本研究成果は、この課題を克服するものである。

本研究成果は、担持体のC12A7が石灰とアルミナのみから構成される安価な物質であること、また高価な触媒である白金を単一原子として安定に担持できることから、ありふれた元素の活用と希少金属の使用量の低減を目指す「元素戦略」に資するものといえる。

この成果は英国科学誌Nature Communicationsにて2月24日にオンライン公開された。

背景

触媒として有効に機能する物質には、白金やロジウムなど高価な貴金属が多い。そうした金属の使用量を大幅に減少させる方法として、単原子として固体表面に固定(担持)する単原子触媒が熱心に研究されている。この単原子触媒は、バルクの金属と比べて原子の周りの結合が不飽和なので、高い活性が得られる。しかしほとんどの場合、担持された単原子は温度をあげると凝集し、通常の金属ナノ粒子触媒と同じになってしまうという欠点がある。いかにして単原子金属を固体表面に安定的に固定するかが技術的課題となっていた。

本研究のアプローチ

この課題に対して本研究では、単原子がちょうど収まる大きさの極小のケージに、目的とする金属の単原子を入れ込むことを目指した。対象とする金属には、最も代表的な貴金属触媒である白金を、そして触媒性能を左右する、白金を担持する固体(担持体)には、12CaO・7Al2O3(以下「C12A7」)を選択した。C12A7は、直径がサブナノメートルサイズの正に帯電したケージが3次元的に繋がった結晶構造をしており、これまでの基礎的研究によって、その最表面はゲージが破れた構造をしていることがわかっている。今回の研究の鍵となったのは、この破れたケージに白金原子を入れ込むことであった。そこで、[PtCl4]2-というアニオンの大きさが、図1のように、破れたケージの入り口の大きさよりも少し小さいことに注目し、まずこのアニオンをケージの入口に入れ込んで、その後熱還元によってPt原子にして、単原子触媒を調製する方法を考えた。

図1. 白金の単一原子をC12A7結晶の最表面の破れたケージで担持する方法

図1. 白金の単一原子をC12A7結晶の最表面の破れたケージで担持する方法

単原子白金触媒の確認

調製した触媒について、高分解能電子顕微鏡(STEM、図2)と広域X線吸収微細構造(EXAFS)[用語1](図3)によって、目指した通りに白金原子がC12A7表面に担持されていることが確認された。ケージのサイズより大きなPt錯体分子アニオンを用いた場合には、このような単原子構造は確認できなかった。また、通常の単原子触媒では金属の凝集が生じてしまう600 ℃という高温で加熱処理を行っても、単原子構造が保持されていることがわかった。

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像、用語2)

図2. 高分解能電子顕微鏡像(HAADF-STEM像[用語2]

図3. 白金のEXFASスペクトル(K-吸収端)。C12A7表面に担持した試料には、Pt-Ptの距離に相当する位置にピークがみられない。

図3. 白金のEXFASスペクトル(K-吸収端)。
C12A7表面に担持した試料には、Pt-Ptの距離に相当する位置にピークがみられない。

触媒性能

触媒反応としては、工業的に重要な様々な置換基を有するニトロベンゼン分子のNO2基の選択的還元を検討した(図4)。この水素化反応では、水素分子の開裂が律速段階となるが、C12A7骨格の酸素イオンによって配位された白金原子の環境は、水素が2つの水素原子になるよりも、H+とH-にヘテロリティックに解離するのに有利であると考えられる。実験では予想通り、分極したNO2基が H+とH-によって選択的に水素化され、目的分子が高収率で得られた。また、触媒の活性サイトの性能を示す指標であるTOF(Turnover Frequency)[用語3]は、C12A7の構成成分であるCaOやAl2O3の上に担持した場合よりも桁違いに高い活性を示し、さらにこの触媒が熱的にも格段に安定なことがわかった(図5)。

図4. 検討した触媒反応。R=Cl、OH、CN、CH=CH2、CHO、NH2CO

図4. 検討した触媒反応。R=Cl、OH、CN、CH=CH2、CHO、NH2CO

図5. 白金を担持した触媒の水素化反応における活性の比較

図5. 白金を担持した触媒の水素化反応における活性の比較

今後の展開

C12A7は、市販のアルミナセメントの主な構成成分の一つで、安価でしかも環境調和性に優れている。これまでの走査トンネル顕微鏡観察による表面構造に関する研究で、ケージの破れを修復する処理方法も確立されている。また、表面再構成を伴う電子状態の変化についても研究が既に終了している。よって今後は、用途に応じた単原子触媒の設計が可能になる段階に進んでいけると期待している。本研究は、ありふれた元素からなる安価な物質と高価な貴金属の効率的利用を可能にしたものであり、「元素戦略」に対応した成果だといえる。

支援事業

本成果は科学研究費補助金(No. 17H06153、19H05051、19H02512)、文部科学省元素戦略プロジェクト<拠点形成型>(No.JPMXP0112101001)、日本学術振興会 海外特別研究員(No.P18361)の支援によって実施された。

用語説明

[用語1] 広域X線吸収微細構造(EXAFS) : 原子によるX線の吸収端から50 eV~1,000 eV程度までの範囲に観測される振動のこと。吸収端を与える原子から飛び出した電子(光電子)があちこちに衝突した結果、電子の波が重なりあって生じる。これを解析することで、どんな元素が、どのくらいの距離に、どのくらい存在するかなどの情報を得ることができる。

[用語2] HAADF-STEM像 : 細く絞った電子線を試料に走査させながら当て、透過した電子のうち、大きな角度で散乱したものを環状の検出器で検出した像。原子番号に比例したコントラストが得られる。この試料ではカルシウム、酸素、アルミニウムに比べ、白金の像が強調されて観測される。

[用語3] TOF(Turnover Frequency、触媒回転数) : 1つの触媒サイトにおいて、単位時間あたりに生成物に変換できる分子数の最大値を表す。活性サイト当たりの触媒の活性の大きさの指標。

論文情報

掲載誌 :
Nature Communications
論文タイトル :
Stable single platinum atoms trapped in sub-nanometer cavities in 12CaO・7Al2O3 for chemoselective hydrogenation of nitroarenes
(ニトロアレン類の選択的還元のための12CaO・7Al2O3のサブナノメートルのキャビティーに捕捉された安定な単原子白金原子)
著者 :
叶天南(Tian-Nan Ye)、肖泽文(Zewen Xiao)、李江(Jiang Li)、巩玉(Yutong Gong)、阿部仁、丹羽尉博、笹瀬雅人、北野政明、細野秀雄
(※高エネルギー加速器研究機構、それ以外は東京工業大学 元素戦略研究センター)
DOI :

お問い合わせ先

東京工業大学 元素戦略研究センター長

細野秀雄

E-mail : hosono@mces.titech.ac.jp
Tel : 045-924-5009

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp
Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

NHK Eテレ「サイエンスZERO」に瀧ノ上正浩准教授と小長谷明彦名誉教授が出演

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東京工業大学 情報理工学院 情報工学系の瀧ノ上正浩准教授と小長谷明彦名誉教授(同学院 特任教授)が、NHK Eテレ「サイエンスZERO」に出演します。

「サイエンスZERO」は、私たちの未来を変えるかもしれない最先端の科学と技術を紹介する番組です。今回は、DNAを「材料」に、ナノサイズの極小ロボットを作る新技術「DNAオリガミ」の研究が紹介されます。

取材内容に関する図.

取材内容に関する図.

取材内容に関する図

瀧ノ上准教授のコメント

瀧ノ上准教授

近年、DNAは、ナノサイズの分子コンピュータ、大容量データストレージ、分子ロボット、人工細胞、核酸医薬、ゲノム編集、ゲノム合成など多岐にわたる分野で注目を集めています。そこでは、DNAの物理学と情報科学に基づく、DNAナノテクノロジーが重要な役割を果たしています。今回は、当研究室の最新の研究成果である、DNAオリガミによる細胞サイズの微小カプセルについて紹介していただくことになりました。

小長谷名誉教授のコメント

小長谷名誉教授

DNAナノ技術や分子ロボットのような最先端技術の研究開発においては、お手本となるような先行研究がないため、何はして良くて、何はしていけないのかを研究者自身が判断するための「倫理」が必要となります。本放送では、ナノサイズの構造体を作れるDNAオリガミ技術と分子ロボットを研究する上で、研究者が守らなくてはならない原則を定めた「分子ロボティクス倫理綱領」について紹介します。

  • 番組名
    NHK Eテレ サイエンスZERO
  • タイトル
    極小スケールの“ものづくり大革命”DNAオリガミ
  • 放送予定日
    2020年3月1日(日) 23:30 - 24:00
  • 再放送予定日
    2020年3月7日(土) 11:00 - 11:30
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お問い合わせ先

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Tel : 03-5734-2975

吉田尚弘教授がクレア・パターソン・メダルおよび地球化学フェローを受賞

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東京工業大学 物質理工学院 応用化学系教授で地球生命研究所主任研究者の吉田尚弘教授が、国際的な地球化学の学会GS(国際地球化学会、The Geochemical Society)の2020年クレア・パターソン・メダル(Clair C. Patterson Medal)を受賞することが決まり、GSが1月21日、発表しました。さらに、GSおよびEAG(欧州地球化学協会、European Association of Geochemistry)の地球化学フェロー(Geochemistry Fellow)に選出されることが決定しました。日本人がクレア・パターソン・メダルを受賞するのは初めてです。

GSは1955年創立で、米国ワシントンD.C.に本部を持ち、70を超える国と地域からの4,000名強の会員で構成されています。EAGは1985年創立で、フランスに本部があり、GSとともに地球・宇宙化学の分野で最も権威のある国際会議であるゴールドシュミット会議(Goldschmidt Conference)を1988年より毎年、欧・米持ち回りで開催しています。クレア・パターソン博士は地球・宇宙化学の創始者の一人で、GSは氏の功績を称え、1998年から環境地球化学の基礎に革新的なブレイクスルーをもたらした研究者を毎年1名選び、クレア・パターソン・メダルを与えています。

また、GSとEAGは1996年より地球・宇宙化学の分野で科学的に大きな貢献のあった研究者を毎年10名程度、地球化学フェローに選出して、その貢献を称えています。パターソン・メダル受賞者は自動的に地球化学フェローに推薦されますが、吉田教授は、パターソン・メダルと地球化学フェローの両委員会から二重に推挙されました。

吉田教授は6月21日から26日まで米国ハワイ州ホノルルで開催されるゴールドシュミット会議で2つの賞を授与され、受賞記念講演を行います。

吉田尚弘教授のコメント

吉田尚弘教授

これまで取り組んできた同位体分子の計測法を開発して海洋、大気、生元素循環について生命地球化学的な研究を推進してきたこと、さらに地球環境を対象とした国際共同研究を促進してきたことが評価されて大変な栄誉を与えられました。

クレア・パターソン博士(1922-1995)は1940年代、シカゴ大学で学生当時から鉛汚染環境問題に取り組み、鉛の循環を定量的に解析して、その後のガソリンの品質向上や食品缶の鉛はんだの不使用などに大きな役割を果たしました。また、氏はカリフォルニア工科大学(Caltech)の教員としてウラン・鉛法から発展させて鉛・鉛法を開発し、キャニオンディアブロ隕石の鉛同位体比から地球の年齢を1950年代にかなりの精度で測定するなど、地球・宇宙物質の年代学の基礎を構築されました。このような偉大な研究者の冠のついた賞を受けることは大変な栄誉です。また、本賞はさらに最近10年間の業績が加速されていることも評価されるもので、我々の研究の方向性が間違っておらず、より精進するよう激励されたと感じています。

地球化学フェローは部位別同位体分布や質量非依存同位体分別、多重同位体置換などの自然存在度計測法を多岐にわたって開発し、同位体生命地球化学に新たな道を切り開いたこと、ならびにGSやEAGと日本の地球化学の協調の枠組み構築に貢献したことが評価されました。

与えられましたこの2つの栄誉は私一人でのみなせるものでなく、これまでの36名の博士、120名を超える修士、20名を超える学士など多くの学生、現在およびこれまでに支えてくださいました研究室の教員、スタッフならびに、国内外の多数の共同研究者、そして本学の教職員の皆様のご支援があればこそです。ここに記しまして感謝申し上げます。

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お問い合わせ先

吉田尚弘

E-mail : yoshida.n.aa@m.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5506

廃水中のアンモニアを資源に変える触媒を発見 有害物質処理から有用物質製造へ

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要点

  • 有機塩基触媒を用いてアンモニアの炭酸塩類から尿素を合成することに成功
  • 水質汚濁防止法の有害物質である廃水中のアンモニアを資源として再利用可能
  • 尿素は基礎化成品として活用、固体で安定な水素キャリアとしても注目される

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の眞中雄一准教授(国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度[用語1]適用)と本倉健准教授らは、有機塩基触媒[用語2]を用いることで廃水中などに含まれるアンモニア(以下アンモニウムイオン[用語3])の炭酸塩類[用語4]から尿素[用語5]を合成できることを見出した。

従来の下水処理場のアンモニウムイオンの無害化処理(窒素への分解)とは異なり、アンモニウムイオンを有用物質に変換することにより、資源として用いることができるようになる。

この研究結果は有機塩基触媒が触媒反応中にイオン交換反応を介することが特徴であり、高価な遷移金属[用語6]を含まない有機合成的なアプローチにより達成された。今後は廃水処理のプロセスとの組み合わせを検討する。合成された尿素は、様々な化成品の原料となる基礎化成品として活用可能であり、近年は固体で安定な水素キャリアとしても注目されている。

研究成果はネイチャーリサーチ社の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィックリポーツ)」に2月18日に公開された。

研究成果

眞中准教授らは有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンの炭酸塩類から尿素を合成できることを見出した。特に原料にカルバミン酸アンモニウム[用語7]を用い、有機塩基触媒として1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(ジアザビシクロウンデセン)[用語8]を用いて反応条件を最適化すると、最大35%の収率で尿素を得ることができた。

尿素は一般的には、ガス状態のアンモニアと二酸化炭素を150 ℃以上の高温・20気圧程度の高圧の条件下におくことで合成されている。今回の発見では、アンモニアよりも反応させにくいと考えられているアンモニウムイオンを用い、70~140 ℃で加圧することなく尿素の合成に成功した。

一定の強さ以上の塩基性[用語9](今回の検討ではアセトニトリル中での共役酸のpKa[用語10]が20以上)を持つ有機塩基触媒を用いることで、有機塩基触媒とアンモニウムイオンがイオン交換を起こし、反応が進みやすい中間体が生成することが効率的な反応の鍵となっていると推測される。

また、カルバミン酸アンモニウム以外の炭酸塩として、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムを用いても尿素を合成することに成功した。これらは、アンモニウムイオンの存在する水中に二酸化炭素を吹き込むことで生成される化合物群であり、アンモニウムイオンの安価な濃縮の一助になると考えられる。

図1. 有機塩基触媒によるアンモニウム塩類からの尿素合成

図1. 有機塩基触媒によるアンモニウム塩類からの尿素合成

図2. 有機塩基触媒のスクリーニング結果の例。pKaはアセトニトリル中での共役酸のpKaを示す。

図2. 有機塩基触媒のスクリーニング結果の例。
pKaはアセトニトリル中での共役酸のpKaを示す。

研究の背景

廃水処理場では、悪臭物質であり劇物でもあるアンモニア(もしくはアンモニウムイオン)を硝化・脱窒[用語11]という工程を経て無害な窒素分子に変えている。この処理方法では、無害化のためにエネルギーを多く投入しており、副生成物として温室効果ガスの亜酸化窒素が発生する可能性もある。

一方で見方を変えると、アンモニウムイオンは、窒素分子の強固な三重結合が破壊された形であり、窒素分子に戻して三重結合を復活させるよりも、アンモニウムイオンの状態で何らかの分子に変換できると、投入エネルギー的に有利になる。つまり、アンモニウムイオンを活かした有機合成が可能になると、エネルギー削減をしつつ、有害物質を減少させ、有用な物質を供給することが可能になる。

展望および意義

今回の研究では、有機塩基触媒を用いることでアンモニウムイオンからでも有用な分子が合成できることを示した。実際の廃水処理に組み込むために適した触媒の形状や反応系、反応率の向上などの検討を経て、アンモニウムイオンの活用を行う予定である。また、今回合成した尿素以外の付加価値の高い分子への転換も検討していく。

付記

本研究成果は、本学と国立研究開発法人 産業技術総合研究所とのクロス・アポイントメント制度によって着任した教員と、本学物質理工学院所属の教員との分野横断型の共同研究によって達成された。

また、本研究は「平成30年度 大阪市立大学人工光合成研究センター共同利用・共同研究」と「2018年度 東工大物質理工学院・若手研究賞」の支援を受けて行った。

用語説明

[用語1] クロス・アポイントメント制度 : 卓越した人材が複数の組織において活躍できるよう、所属機関と他機関のそれぞれで身分を保有し、研究などの業務に従事することを可能にする制度。

[用語2] 有機塩基触媒 : 触媒として働く有機塩基。触媒とは、化学反応に添加することで、反応速度を変化させる物質。その際に自身は変化しない。有機塩基とは塩基性[用語9]を示す有機化合物。

[用語3] アンモニウムイオン : NH4+で表されるイオン。アンモニア(NH3)にプロトン(H+)が付加することで生成される。アンモニアが水に溶けると一部がアンモニウムイオンになる。

[用語4] 炭酸塩類 : 本稿では炭酸塩類として炭酸イオン、重炭酸イオン、カルバミン酸イオンを含む塩と定義する。

[用語5] 尿素 : 哺乳類の尿中に含まれる窒素化合物。体内でタンパク質が分解して生成される。化学式(NH22CO 。工業的にはアンモニアと二酸化炭素とから合成される。無色の柱状結晶で、肥料・尿素樹脂・医薬・接着剤の原料となる。1828年に初めて化学的に合成された有機化合物として有名。

[用語6] 遷移金属 : 周期表で第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称。

[用語7] カルバミン酸アンモニウム : カルバミン酸イオンとアンモニウムイオンから構成される塩。アンモニアと二酸化炭素から尿素を合成する際の合成中間体と考えられている。

[用語8] 1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene : 強塩基性を示すアミジン骨格(炭素に窒素が二重結合で一つ、単結合で一つ結合した構造)を持ち、かつ環状の分子形状と大きさから求核性が低い有機塩基化合物。有機化学の反応に用いられる。

[用語9] 塩基性 : 塩基として働く性質。塩基とは、OH-を放出する物質(アレニウスの定義)、プロトンを受け取る物質(ブレンステッド-ローリーの定義)、電子対を与える物質(ルイスの定義)などにより決められる。

[用語10] pKa : 酸解離定数。酸の強さを表す値で、小さいほど強力な酸になる。共役酸のpKaが大きいほど強力な塩基になる。

[用語11] 硝化・脱窒 : 廃水中の窒素化合物を微生物の力で窒素分子に変換する過程の名称。硝化過程では、アンモニアを亜硝酸に変え、亜硝酸を硝酸に変える。脱窒過程では硝酸もしくは亜硝酸を窒素分子へ変え、2つの過程を併せて窒素化合物を無害化する。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Organic bases catalyze the synthesis of urea from ammonium salts derived from recovered environmental ammonia
著者 :
Yuichi Manaka, Yuki Nagatsuka and Ken Motokura
DOI :
<$mt:Include module="#G-07_物質理工学院モジュール" blog_id=69 $>

お問い合わせ先

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系

准教授 眞中雄一

E-mail : manaka@mac.titech.ac.jp

Tel : 045-924-5569

取材申し込み先

東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門

E-mail : media@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-2975 / Fax : 03-5734-3661

東工大 工系学生国際交流プログラム 2019年度実績および秋季派遣生の報告会

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東京工業大学の「工系学生国際交流プログラム」は工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院が海外の大学に学生を派遣する制度です。2019年度の派遣実績報告会および秋季に留学した学生による報告会を2月12日、大岡山キャンパス本館で開催しました。

工系学生国際交流プログラム

工学院、物質理工学院、環境・社会理工学院の3学院は、国際的感覚を持つ工学を専門とする高度技術者を養成するため、所属学生を海外の大学等に派遣する支援を合同で行っています。この学生国際交流プログラムは、海外で様々な国の研究者や学生と共に研究を行うことで、専門性を深め、さらにはより広範な先端科学技術と知識を学びながら異文化に触れることにより、学生自身の修学意欲の一層の向上と国際意識の涵養を図ることをねらいとして実施しています。

2019年秋季派遣生の報告会

後半には2019年度の工系留学報告会が行われました。これは当プログラムで2019年秋季に短期留学した学生が履修対象となっている講義「国際研究研修」の一環として実施されたものです。他に「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」の留学奨学金を受給し、個人留学にてマサチューセッツ工科大学で研究活動をした「グローバル理工人育成コース」上級履修学生も発表をしました。

派遣先大学と発表者(計10名)は以下の通りです。(敬称略)

派遣先大学
発表者(所属・学年は発表当時)
留学期間
ケンブリッジ大学(英国)
安宅優季(工学院 機械系 修士課程1年)
2019年9月~12月
アーヘン工科大学(ドイツ)
市川研佑(工学院 電気電子系 修士課程1年)
2019年10月~2020年1月
ソルボンヌ大学(フランス)
松本健汰(物質理工学院 材料系 修士課程1年)
2019年9月~12月
マドリード工科大学(スペイン)
河鰭康平(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程2年)
2019年9月~12月
霍明珠(工学院 経営工学系 修士課程2年)
2019年8月~12月
国立台湾大学
田川帆師(環境・社会理工学院 融合理工学系 修士課程2年)
2019年12月~2020年2月
武漢理工大学(中国)
﨑村広人(物質理工学院 材料系 博士後期課程3年)
2019年10月~12月
日立ケンブリッジ研究所(英国)
シナン・ブグ(工学院 電気電子系 博士後期課程2年)
2019年9月~11月
マサチューセッツ工科大学(米国)
中畑育歩(物質理工学院 材料系 修士課程2年)
2018年10月~2019年8月
アジア工科大学院(タイ)
タッデオ・クマウ(環境・社会理工学院 土木・環境工学系 修士課程2年)
2019年10月~11月

報告会では、留学経験者が留学生活について英語で発表を行いました。

留学経験者の報告

工学院 電気電子系の市川研佑さん(修士課程1年)/ アーヘン工科大学(ドイツ)へ留学

留学中の研究内容は、放射型の配電系統に直流系統を追加し、孤立した交流システム同士を直流で接続する際の最適な(電力損失が最小となるような)ブレーカー条件、電力指令値などの導出を目的として、そのための解析シミュレーションモデルの作成と検討を行いました。直流送電システムを用いた研究は自分にとって初めてであり、様々な論文を読んで知識を補ってから実際の研究を開始しました。東工大での研究とは別に、新しい研究をやってみたいと思っての留学でしたが、その他にも得るものが非常に多かったと思います。同じ空間をシェアしたルームメイトを始め、現地の色々な国籍の友人たちは様々な新しい考え方を教えてくれました。もし留学先としてアーヘン工科大学を選んでいなかったら、ヨーロッパの国々について、聞いて知る以上のことは経験できなかったと思います。もちろん、最初はなかなか友人もできず期間の短さから研究に焦ることもありました。それらを乗り越えることが出来た今となっては、大きな自信につながった経験です。

特に、日本語ではコミュニケーションが絶対に取れない環境において、苦労しながらも英語でやり遂げることが出来たのは将来における大きなアドバンテージとなったと思います。また、拙いながらもドイツ語で簡単なコミュニケーションを図ることが出来たのも自信になりました。ただし、自分の場合はドイツ到着後にドイツ語を勉強し始めたので、余裕があるなら出発前にドイツ語を勉強しておくことをお勧めします。

アーヘン市街地
アーヘン市街地

市川さん
市川さん

環境・社会理工学院 融合理工系の河鰭康平さん(修士課程2年)/ マドリード工科大学(スペイン)へ留学

受入大学の一機関であるitdUPM(Technology Innovation Center for Development)の活動を学び、日本国内のSDGs(Sustainable Development Goal:持続可能な開発目標)活動を調べて比較を行い、考察と提案をすることを研究として行いました。itdUPMはSDGsを目標とし、ファシリテーターとして活動する研究機関です。主な研究として持続可能な開発の実施と、パートナーシップを築きながら持続的な開発を行う手法があります。それらを滞在中に学びつつ、itdUPMと日本のSDGs研究組織の違いを抽出し、itdへの提言を行いました。提言内容としては、開発のインパクトを示す際に、インジケーターとしてSDGsのターゲットシンボルを活用して表すことで、より広範な人々に理解可能な形でインパクトを与えることが出来る可能性があると示しました。

今回の留学の目的は、海外で主体的に研究を行い、不自由な環境においても物事を遂行して成果を出す経験をして、成長することでした。結果として、専攻とは異なる分野の研究を、スペイン語圏の国でやりきることが出来、成功の体験とそのプロセスを学んだと思います。大袈裟な表現を用いましたが、社会で活躍するために必要な地道な努力、真摯な取組み、人に好かれる力等の基本的なことが大切であると改めて学びました。itdUPMは様々なステークホルダーと協業しており、彼らと行動を共にすることで頭でっかちにならず、他者との協業を行い、柔軟な行動の重要性を学ぶことが出来ました。また、英語に関しては不安があったものの、研究をやり遂げ自信がつきました。非ネイティブの会話では、相手を理解しようという姿勢が何より大切であると学びました。留学に行きたいと感じる方がいるなら、とりあえず応募してみることをおすすめします。留学に行って後悔したという人を見たことがありません。

河鰭さんが在籍したitdUPM
河鰭さんが在籍したitdUPM

研究室の仲間とサッカー(上列左から2番目が河鰭さん)
研究室の仲間とサッカー(上列左から2番目が河鰭さん)

環境・社会理工学院 融合理工系の田川帆師さん(修士課程2年)/ 国立台湾大学へ留学

国立台湾大学の前身は、1928年に当時植民地支配を行っていた日本によって設立された台北帝国大学です。1945年に当時の中華民国が接収、国立台湾大学と改称し、現在に至っています。設立当初は文政学部と理農学部のみでしたが、現在では11学院、54学部、3万人を超える学生を有するマンモス校です。立地としては、都市部に近く、MRTが台北全体に広まっていることもあり、台北101を中心とした繁華街へアクセスできます。キャンパスには研究の最新設備だけでなく、銀行や理髪店などもあり生活環境も整っていました。初日に現地のコーディネーターと待ち合わせたのですが、広大なキャンパスで迷子になり遅刻してしまったのは良い思い出です。受入指導教員の張學孔教授は、公共交通の中でもグリーン・モビリティに関わる研究をしており、様々な政策に携わってきました。研究グループには、博士学生を含む13名の学生が所属しており、毎週月曜日にはセミナーが開かれ様々な議論を行いました。研究室内に一つのデスクが与えられそこで研究を行いました。研究施設として申し分なかったと言えます。

今回の留学で触れ合った台湾人はみな親切でとても温かい性格の持ち主でした。どこへ行っても、分からないことがあれば丁寧に優しく教えてくれ、大学内でもすごく親切にしてくれました。台湾は環境も整っており、気軽に留学に行ける地域です。一人でも多くの人が、台湾に興味を持ち留学に前向きになることを願っています。

指導教員の張學孔教授と研究室の仲間と(左端が田川さん)
指導教員の張學孔教授と研究室の仲間と(左端が田川さん)

台湾の春節
台湾の春節

派遣実績報告会

前半に行われた実績報告会では、工系国際交流委員会主査の竹村次朗准教授(環境・社会理工学院 土木・環境工学系)がプログラムの概要ならびに本年度の派遣実績について説明を行いました。また、グローバル人材育成推進支援室 太田絵里特任教授からは、当プログラムによる留学は、科学・技術の力で世界に貢献する人材の育成を目的とする教育カリキュラムである「グローバル理工人育成コース」上級の修了要件の一部を満たすとの説明がありました。

工系国際交流委員会主査の竹村准教授による実績報告
工系国際交流委員会主査の竹村准教授による実績報告

グローバル人材育成推進支援室の太田特任教授による「グローバル理工人育成コース」上級の説明
グローバル人材育成推進支援室の太田特任教授による
「グローバル理工人育成コース」上級の説明

本イベントは、帰国して間もない留学経験者からの新鮮な現地情報や感想に触れることができる機会です。2020年夏季派遣が決定している学生も参加し、情報を収集したり、発表学生と交流したりする機会にもなりました。また、本プログラムは受入・派遣の双方向でもあり、夏季には協定大学より来日する留学生との交流イベントも企画・運営されています。

学生国際交流プログラムは年3回募集があり、次回の公募開始は4月を予定しております。

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お問い合わせ先

工系国際連携室

E-mail : ko.intl@jim.titech.ac.jp

Tel : 03-5734-3969

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